説明

インドキシル硫酸の産生の阻害剤のスクリーニング方法、インドキシル硫酸代謝産生阻害剤、及び腎障害軽減剤

【課題】代表的な尿毒症物質であるインドキシル硫酸(IS)の肝臓での代謝産生を阻害する物質を迅速に探索できるスクリーニング方法、インドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤を提供すること。
【解決手段】インドール及び被験物質を肝臓S9画分の存在下でインキュベートし、インドキシル硫酸の産生を阻害する被験物質を選択することを含む、インドキシル硫酸の産生の阻害剤のスクリーニング方法。該方法により得られたインドキシル硫酸の産生を阻害する物質を含む、インドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インドキシル硫酸の産生の阻害剤のスクリーニング方法に関する。さらに本発明は、上記スクリーニング方法により得られるインドキシル硫酸の産生の阻害剤を含むインドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎臓病は、「蛋白尿などの腎障害の存在を示す所見」もしくは「腎機能低下」が3か月以上続く状態のことを言う。腎障害は心血管疾患と密接な関わりがあることがわかっており、その死亡率を合わせると、悪性新生物とほぼ同程度の死因となっている。世界的に透析患者数は増加しており、医療費の増大、QOLの低下が問題となっている。慢性腎臓病は、今後もその増悪が懸念されている。
【0003】
急性腎障害は、短期間で、腎機能に重度の障害が生じる症候群であり、例えば、腎血流量の低下(心不全、出血、低血圧、脱水(嘔吐、下痢など))、尿細管障害(腎炎、虚血、薬物・毒物 (cisplatinなど)による)、尿流障害(尿路結石、前立腺肥大)といった障害が挙げられる。急性腎不全となると、半数以上が死亡もしくは腎機能不完全回復となり予後が悪いため、早期治療及び予後の改善を図ることが望まれている。
【0004】
インドキシル硫酸(IS)は、腎機能低下時において高い血中濃度を示す尿毒症物質である。インドキシル硫酸(IS)は、腎障害の進展因子であること、腎の線維化及び糸球体硬化などに関与すること、活性酸素の誘導・ラジカルスカベンジャーの減少を引き起こすことが知られており、腎障害を悪化・進展させるリスク因子として知られている。尿毒症物質インドキシル硫酸に関連する文献としては、非特許文献1から11を挙げることができる。
【0005】
非特許文献3には、血清インドキシル硫酸濃度が、血清尿素窒素(BUN)及び血清クレアチニン値(SCr)と相関することが記載されている。また、本発明者らは、抗癌薬により誘発した腎障害モデル動物を用い、クレメジン投与により血中・腎組織中のIS蓄積が低下すること、それに伴い腎障害が顕著に低減することを見い出し、障害進展因子としてのISの病態学的役割の一端を明らかにしている(非特許文献1)。
【0006】
一方、インドキシル硫酸(IS)産生阻害化合物の探索に着目したスクリーニング方法については、これまでに報告されていない。従来、腎不全の治療剤としては、腸管内で尿毒症物質の前駆物質を吸着させることで腎臓の負担を軽減し、腎不全の発症又は進行を抑制する経口吸着剤(クレメジン(登録商標))が用いられている。しかしながら、この治療薬は大量服用する必要があるためコンプライアンスが不良である他、吸着特異性を有していないため、他の治療剤と併用する場合に注意が必要などの問題点がある。一方、吸着によらないで選択的に腸管内のインドール量を低減させるトリプトファナーゼ阻害作用を成分とする治療剤(カプセル充填化ビフィズス菌)の有用性が報告されているが実用化には至っていない。インドキシル硫酸(IS)の体内産生を抑制する治療薬や技術は未だ報告がなく確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Regulation of renal organic ion transporters in cisplatin-induced acute kidney injury and uremia in rats.Morisaki T, Matsuzaki T, Yokoo K, Kusumoto M, Iwata K, Hamada A, Saito H.Pharm Res. 2008 Nov;25(11):2526-33.
【非特許文献2】Involvement of indoxyl sulfate in renal and central nervous system toxicities during cisplatin-induced acute renal failure.Iwata K, Watanabe H, Morisaki T, Matsuzaki T, Ohmura T, Hamada A, Saito H.Pharm Res. 2007 Apr;24(4):662-71.
【非特許文献3】Downregulation of organic anion transporters in rat kidney under ischemia/reperfusion-induced acute renal failure.Matsuzaki T, Watanabe H, Yoshitome K, Morisaki T, Hamada A, Nonoguchi H, Kohda Y, Tomita K, Inui K, Saito H.Kidney Int. 2007 Mar;71(6):539-47.
【非特許文献4】Indoxyl sulphate induces oxidative stress and the expression of osteoblast-specific proteins in vascular smooth muscle cells.Muteliefu G, Enomoto A, Jiang P, Takahashi M, Niwa T.Nephrol Dial Transplant. 2009 Jul;24(7):2051-8.
【非特許文献5】Indoxyl sulfate inhibits nitric oxide production and cell viability by inducing oxidative stress in vascular endothelial cells.Tumur Z, Niwa T.Am J Nephrol. 2009;29(6):551-7.
【非特許文献6】Indoxyl sulfate promotes proliferation of human aortic smooth muscle cells by inducing oxidative stress.Muteliefu G, Enomoto A, Niwa T.J Ren Nutr. 2009 Jan;19(1):29-32.
【非特許文献7】Indoxyl sulphate promotes aortic calcification with expression of osteoblast-specific proteins in hypertensive rats.Adijiang A, Goto S, Uramoto S, Nishijima F, Niwa T.Nephrol Dial Transplant. 2008 Jun;23(6):1892-901.
【非特許文献8】Indoxyl sulfate reduces superoxide scavenging activity in the kidneys of normal and uremic rats.Owada S, Goto S, Bannai K, Hayashi H, Nishijima F, Niwa T.Am J Nephrol. 2008;28(3):446-54.
【非特許文献9】Indoxyl sulfate and atherosclerotic risk factors in hemodialysis patients.Taki K, Tsuruta Y, Niwa T.Am J Nephrol. 2007;27(1):30-5.
【非特許文献10】Role of organic anion transporters in the tubular transport of indoxyl sulfate and the induction of its nephrotoxicity.Enomoto A, Takeda M, Tojo A, Sekine T, Cha SH, Khamdang S, Takayama F, Aoyama I, Nakamura S, Endou H, Niwa T.J Am Soc Nephrol. 2002 Jul;13(7):1711-20
【非特許文献11】Serum indoxyl sulfate is associated with vascular disease and mortality in chronic kidney disease patients.Barreto FC, Barreto DV, Liabeuf S, Meert N, Glorieux G, Temmar M, Choukroun G, Vanholder R, Massy ZA; European Uremic Toxin Work Group (EUTox).Clin J Am Soc Nephrol. 2009 Oct;4(10):1551-8. Epub 2009 Aug 20.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、代表的な尿毒症物質であるインドキシル硫酸(IS)の肝臓での代謝産生を阻害する物質を迅速に探索できるスクリーニング方法を提供することを解決すべき課題とする。さらに本発明は、上記スクリーニング方法を利用することにより、腎障害や腎不全の進行と付随する心血管系疾患の進展を抑えることができる新規な薬剤を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、インドール及び被験物質を肝臓S9画分の存在下でインキュベートし、インドキシル硫酸の産生を阻害する被験物質を選択することによって、インドキシル硫酸の産生の阻害剤を迅速にスクリーニングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) インドール及び被験物質を肝臓S9画分の存在下でインキュベートし、インドキシル硫酸の産生を阻害する被験物質を選択することを含む、インドキシル硫酸の産生の阻害剤のスクリーニング方法。
(2) 肝臓S9画分が、哺乳動物の肝臓S9画分である、(1)に記載のスクリーニング方法。
(3) 肝臓S9画分が、ラット肝臓S9画分である、(1)又は(2)に記載のスクリーニング方法。
(4) インドール及び被験物質を肝臓S9画分の存在下でインキュベートする工程が、インドール、肝臓S9画分、β-NADPH、3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸(PAPS)、ウリジンニリン酸グルクロン酸(UDPGA)、及び被験物質を含む混合液をインキュベートする工程である、(1)から(3)の何れかに記載のスクリーニング方法。
(5) 肝臓S9画分、及びインドールを含む、(1)から(4)の何れかに記載のスクリーニング方法を行うためのキット。
(6) レスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンからなる群から選ばれる物質を含む、インドキシル硫酸代謝産生阻害剤。
(7) レスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンからなる群から選ばれる物質を含む、腎障害軽減剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスクリーニング方法は、ラット肝臓より抽出・精製した画分を用いる反応系であり、前駆物質インドールを材料としてISの代謝産生を定量検出することができるためIS産生阻害効果を有する化合物の選別を可能とするものである。従って、本発明のスクリーニング方法は、生体に投与することによりISの体内産生を抑制し、これにより慢性腎臓病・腎不全の進展抑制並びに合併症の予防、並びに虚血・抗癌薬等による急性腎障害の軽減・改善に有効性を示す新規治療薬を創出するのに有用である。また、本発明のインドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤は、慢性腎臓病、腎不全等の腎障害、それらの合併症、虚血、抗癌薬等による急性腎障害の軽減、改善及び治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ラット肝S9画分を用いたインドキシル硫酸産生反応の定量解析の結果を示す。
【図2】図2は、ラットS9画分によるインドキシル硫酸産生に及ぼす種々の化合物の影響を示す。
【図3】図3は、インドキシル硫酸に及ぼす各被験物質の阻害効果の比較を示す。
【図4】図4は、インドキシル硫酸に及ぼす各被験物質の阻害効果の比較を示す。
【図5】Cisplatin誘発急性腎障害に対する各種IS産生阻害物質前投与による保護効果を検討するためのラットを用いた投与実験のスキームを示す。
【図6】図6は、各種IS産生阻害物質の経口投与有り、無しの生理食塩水又はシスプラチン処理ラットの体重の相対変化を示す。
【図7】図7は、各種IS産生阻害物質の経口投与有り、無しの生理食塩水又はシスプラチン処理ラットにおける血清IS濃度を示す。
【図8】図8は、各種IS産生阻害物質の経口投与有り、無しの生理食塩水又はシスプラチン処理ラットにおける各組織IS濃度及びKp値を示す。
【図9】図9は、各種IS産生阻害物質の経口投与有り、無しの生理食塩水又はシスプラチン処理ラットにおける血清及び腎臓中シスプラチン(194Pt)濃度を示す。
【図10】図10は、各種IS産生阻害物質の経口投与有り、無しの生理食塩水又はシスプラチン処理ラットにおける血清クレアチン(SCr)及びBUNの量を示す。
【図11】図11は、各種IS産生阻害物質の経口投与有り、無しの生理食塩水又はシスプラチン処理ラットの腎臓組織の変化を示す。
【図12】図12は、ケルセチン経口投与有り、無しの生理食塩水又はシスプラチン処理ラットの腎臓におけるrKim−1タンパク質発現の有無を示す。
【図13】図13は、ケルセチン経口投与有り、無しの生理食塩水又はシスプラチン処理ラットの腎臓における各種トランスポータータンパク質の発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。
慢性腎臓病(CKD)患者は年々増加しており、腎不全の進展予防対策を確立することが喫緊の課題とされている。尿毒症物質インドキシル硫酸(IS)は、腎不全進行促進のみならず透析時の心血管系合併症のリスク因子であることが解明されつつある。本発明は、ISの肝臓での代謝・産生を抑制する化合物の迅速なインビトロスクリーニング方法である。
【0014】
本発明においては、インドール及び被験物質を肝臓S9画分の存在下でインキュベートし、インドキシル硫酸の産生を阻害する被験物質を選択する。本発明で用いる肝臓S9画分としては、哺乳動物の肝臓S9画分が好ましく、例えば、ラット肝臓S9画分などを使用することができる。出発材料としては、ホモジナイズした肝組織でもよいし、肝スライスでもよい。肝臓S9画分とは、ポストミトコンドリア上清画分を示し、サイトゾルとミクロソームとを含んでいる。例えば、ホモジナイズした肝組織を9000g程度で所定の時間(例えば、20分間)遠心し、その上清をS9 画分として用いることができる。また、哺乳動物の肝臓S9画分としては、ヒトのミクロソームを用いることもできる。ミクロソーム供与物としてはES細胞、iPS細胞などを用いて発生医学的手法で作成されてもよい。
【0015】
好ましくは、インドール及び被験物質を肝臓S9画分の存在下でインキュベートする際の反応液には、上記以外の成分(例えば、β-NADPH、3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸(PAPS)、ウリジンニリン酸グルクロン酸(UDPGA)など)を含めておいてもよい。これらの成分を含めることによって、インドキシル硫酸をより効率的に産生することができる。
【0016】
本発明で用いる成分の反応液中における終濃度は、被験物質なしの場合に、肝臓S9画分の存在下でインドールからインドキシル硫酸が産生するような条件であれば特に限定されない。S9画分の濃度は一般的には0.5mg/mL〜50mg/mLであり、好ましくは1mg/mL〜10mg/mLである。Indoleの濃度は一般的には5μM〜500μMであり、好ましくは10μM〜100μM である。また、β-NADPHの濃度は一般的には0.1mM 〜10mMであり、好ましくは0.2mM〜5mMである。PAPSの濃度は一般的には1μM 〜100μM であり、好ましくは2μM 〜50μMである。UDPGAの濃度は一般的には0.1mM 〜10mMであり、好ましくは0.2mM〜5mMである。
【0017】
インドール、被験物質及び肝臓S9画分を少なくとも含む反応液を調製した後、上記反応液を、適当な温度(例えば、37℃程度)で、所定の時間インキュベートすることによって、被験物質による、インドールからのインドキシル硫酸の産生の阻害を解析すればよい。被験物質を含まない反応液を調製し、同様にインキュベートした場合と比較することによって、インドールからのインドキシル硫酸の産生の阻害を解析してもよい。
【0018】
本発明で用いる被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、個々の低分子化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。あるいは、被験化合物はまた、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。被験物質は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーでもよい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0019】
本発明によればさらに、肝臓S9画分、及びインドールを含む、上記した本発明のスクリーニング方法を行うためのキットが提供される。上記キットには、上記以外の成分、例えば、β-NADPH、3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸(PAPS)、ウリジンニリン酸グルクロン酸(UDPGA)や、緩衝液などをさらに含めることもできる。
【0020】
以下の実施例においては、スクリーニングに供した被験物質のうちレスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール(DCNP)、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンが、インドキシル硫酸の代謝産生の阻害作用を示した。即ち、レスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンは、インドキシル硫酸代謝産生阻害剤の有効成分として有用である。また、以下の実施例においては、ケルセチン、クルクミン、レスベラトロール、及び2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール(DCNP)を選択し、ラットを用いた投与実験によりシスプラチン誘発急性腎障害に対するこれらIS産生阻害物質前投与による保護効果を検討した結果、これらIS産生阻害物質による腎障害軽減効果が認められた。これらIS産生阻害物質以外の、イルガサン及び8−メトキシプソラレンについても、インドキシル硫酸の代謝産生の阻害作用を示すことから、イルガサン及び8−メトキシプソラレンも同様に腎障害軽減効果を示すものと考えられる。即ち、レスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンは、腎障害軽減剤として有用である。即ち、本発明によれば、レスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンからなる群から選ばれる物質を含む、インドキシル硫酸代謝産生阻害剤並びに腎障害軽減剤が提供される。
【0021】
本発明のインドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤は、ヒトを含む任意の哺乳動物に投与することができるが、好ましくはヒトに投与される。
【0022】
本発明のインドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤の製剤形態は、特に、限定されず、経口投与又は非経口投与用の製剤形態の中から治療の目的に最も適した適宜の形態のものを選択することが可能である。経口投与に適した製剤形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、懸濁剤、チュアブル剤などを挙げることができ、非経口投与に適する製剤形態としては、例えば、注射剤(皮下注射、筋肉内注射、又は静脈内注射など)、点滴剤、吸入剤、坐剤などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0023】
経口投与に適当な液体製剤、例えば、溶液剤、乳剤、又はシロップ剤などは、水、ソルビット、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを用いて製造することができる。また、カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤などの固体製剤の製造には、乳糖、マンニットなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いることができる。非経口投与に適当な注射用又は点滴用の製剤は、好ましくは、受容者の血液と等張な滅菌水性媒体に有効成分である上記の物質を溶解又は懸濁状態で含んでいる。例えば、注射剤の場合、塩溶液、又は塩水と他の溶液との混合物からなる水性媒体などを用いて溶液を調製することができる。
【0024】
本発明のインドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤の投与量及び投与回数は、有効成分の種類、疾患の種類や重篤度、投与形態、患者の年齢や体重などの条件などの種々の要因により適宜設定することができるが、一例としては、有効成分の投与量として一日当たり1μg/kgから10mg/kg程度とすることができる。
【0025】
本発明のインドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤の対象となる疾患は、例えば、慢性腎臓病、腎不全等の腎障害、それらの合併症、虚血、抗癌薬等による急性腎障害が挙げられる。特に、本発明のインドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤は、インドキシル硫酸代謝産生の異常により惹起される腎障害の治療に用いられることが好ましい。
【0026】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
略号等の説明
β-NADPH : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、還元型
PAPS : 3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸
UDPGA : ウリジン二リン酸グルクロン酸
DMSO : ジメチルスルホキシド
Buffer : 0.15M KCl, 50mM リン酸緩衝液
CMC:カルボキシメチルセルロース
DCNP:2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール
SCr:血清クレアチン
BUN:血中尿素窒素
AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
ALT:アラニン・アミノトランスフェラーゼ
rOat1:ラット有機アニオントランスポーター1
rOat3:ラット有機アニオントランスポーター3
rOct2:ラット有機カチオントランスポーター2
β-actin:β−アクチン
【0028】
実施例1:インドキシル硫酸産生阻害剤のスクリーニング
(方法)
(1)S9画分(S9 fraction)調製
ジエチルエーテル麻酔下にて、ラット大動脈より脱血後、氷冷0.15M KCl により還流した。肝臓を採取後、0.15M KCl, 50mM リン酸緩衝液にてホモジナイズした。4℃, 9000gにて20分間遠心し、上清をS9 画分とした。BCA protein assayによりタンパク定量後、分注し、液体窒素で凍結した。実験まで-80℃で保存した。
【0029】
(2)HPLC測定条件
カラム; LiChrospher 100 RP-18 (Merck KGaA, Darmstadt, Germany)
カラム温度; 40℃
注入量; 10μL
流速; 1.0mL/min
波長; 蛍光モニター(280 nmで励起, 375 nmで発光)
移動相:A; アセテート緩衝液(0.2M, pH 4.5) B; メタノール
勾配プログラム:表1の通り
【0030】
【表1】

【0031】
(3)代謝実験 (阻害剤なし)
【0032】
【表2】

【0033】
表2に記載の成分をBuffer→S9画分→β-NADPH, PAPS, UDPGA→DMSO, Indoleの順に0.6mLチューブに添加した。混合液を湯浴37℃, 80rpmで振盪しながら30分インキュベートした。氷冷MeOHを250μL添加して反応を停止した。反応液を13000rpm, 10分, 4℃で遠心後、上清をHPLC(HPLC測定条件は上記(2)に記載の通り)にて測定した。KaleidaGraph(登録商標)にてデータの解析を行った。
【0034】
代謝実験 (阻害剤あり)
【0035】
【表3】

【0036】
表3に記載の成分をBuffer→S9画分→β-NADPH, PAPS, UDPGA→阻害剤, Indoleの順に0.6mLチューブに添加した。混合液を湯浴37℃, 80rpmで振盪しながら30分インキュベートした。氷冷MeOHを250μL添加して反応を停止した。反応液を13000rpm, 10分, 4℃で遠心後、上清をHPLC(HPLC測定条件は上記(2)に記載の通り)にて測定した。KaleidaGraph(登録商標)にてデータの解析を行った。
【0037】
(結果)
代謝実験 (Inhibitor無)の結果を図1に示す。図1の結果から、ラット肝S9画分を用いることによって、インドール濃度に応じてインドキシル硫酸を産生できることが分かる。
【0038】
種々の被験物質(インドキシル硫酸の産生の阻害剤の候補物質)を用いて行った代謝実験の結果を図2に示す。試験した被験物質のうちレスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンが、インドキシル硫酸の産生に対して阻害作用を示すことが示された。
【0039】
また、インドキシル硫酸に及ぼす各被験物質の阻害効果の比較を図3及び図4に示す。
【0040】
実施例2:Cisplatin誘発急性腎障害に対するインドキシル硫酸産生阻害物質前投与による保護効果の検討
ラットを用いた投与実験によりCisplatin誘発急性腎障害に対するインドキシル硫酸産生阻害物質前投与による保護効果を検討した。
【0041】
(方法)
生理食塩水(Saline)又はシスプラチン(Cisplatin )(10mg/kg)の腹腔内を投与する時点を0時間とし、これの24時間前、1時間前、24時間後、48時間後に、0.5%CMC、又はケルセチン(50mg/kg)、クルクミン(60mg/kg)、レスベラトロール(5mg/kg)及びDCNP (10mg/kg)のいずれかをそれぞれ経口投与した(図5)。72時間後に、サンプリングを行い、以下の(1)〜(9)の実験に用いた。実験は以下の6群で実験を行った。
saline群 : Saline投与 + CMC 投与
cisplatin 群: シスプラチン投与 + CMC 投与
+ Quercetin 群: シスプラチン投与 + ケルセチン投与
+ Curcumin 群: シスプラチン投与 + クルクミン投与
+ Resveratrol 群: シスプラチン投与 + レスベラトロール投与
+ DCNP 群: シスプラチン投与 + DCNP投与
【0042】
<各種パラメータの測定>
(1)体重変化
上記6群について、生理食塩水(Saline)又はシスプラチンを腹腔内投与した時点を0 時間とし、その時の体重を基準にした体重変化の推移を調べた 。その結果を図6に示す。図6のグラフの縦軸は、各時間における体重を0時間における体重で除して得られた値を示す。
Saline群においては、ほぼ直線的に体重が増加した。一方で、シスプラチンを投与した5群においては、投与翌日から体重減少が認められ、ほぼ直線的に減衰した。また、阻害物質を経口投与することによる影響は認められなかった。
【0043】
(2)血清及び臓器中IS濃度
シスプラチン及びIS肝産生阻害物質を投与することによる血清及び臓器中IS濃度への影響を調べた。
【0044】
血清サンプルの調整は、生理的食塩水又はシスプラチン投与72時間経過後、腹部大動脈より採血を行い、遠心 (3000 rpm, 10 min)し、血清を分離した。得られた血清は測定まで-80〜-30 °Cにて冷凍保存した。前処理として血清50 μLをMethanol 100 μLに加え、混和後遠心 (4 °C, 13000 rpm, 10 min)し、上清をHPLC用の試料とした。また、臓器サンプルの調製については、SalineまたはCisplatin投与72時間経過後、腹部大動脈より脱血を行い、腎臓、肝臓、小腸及び肺を摘出し、液体窒素にて凍結し、ホモジナイズまで-80〜-30 °Cにて冷凍保存した。各臓器サンプルは、PBS中でPOLYTRON PT 3000(商標)(KINEMATICA AG, Lucerne, Switzerland)を用いてホモジナイズ後、遠心 (3000 rpm, 10 min)し、ホモジネート上清を測定まで-80〜-30 °C にて冷凍保存した。前処理としてホモジネート50 μLをMethanol 100 μLに加え、混和後遠心 (4 °C, 13000 rpm, 10 min)し、上清をHPLC用の試料とした。このようにして、血清及び臓器中におけるIS濃度を、HPLC法を用いて測定した。saline群、cisplatin 群、+ Quercetin 群、+ Curcumin 群、及び+ Resveratrol 群について、血清IS濃度の測定結果を図7に、各臓器中におけるIS濃度及びKp値の測定結果を図8に示す。図8において、Aは腎臓のIS濃度を、Bは腎臓のKp値を、Cは肝臓のIS濃度を、Dは肝臓のKp値を、Eは小腸のIS濃度を、Fは小腸のKp値を、Gは肺のIS濃度を、Hは肺のKp値を、それぞれ示す。Kp値は、臓器中IS濃度を血清中IS濃度で除することによって算出したものであり、臓器移行性を示す。
【0045】
Cisplatin群においてSaline群と比較し、血清及び臓器中IS濃度が有意に上昇した(図7及び8)。血清においては約16倍の上昇が認められた。また、+ Quercetin群及び+ Resveratrol群においてCisplatin群と比較し、IS濃度が有意に減少した。一方、+ Curcumin群においては、Cisplatin群と比較し、若干の減少傾向が認められた。
【0046】
図8に示される通り、臓器中IS濃度は腎臓、肺、小腸、肝臓の順に高い値を示しており、急性腎障害においても5/6 腎摘出慢性腎不全モデルと同様の臓器分布を示した(Deguchi T, Nakamura M, Tsutsumi Y, Suenaga A, Otagiri M. Pharmacokinetics and tissue distribution of uraemic indoxyl sulphate in rats. Biopharm Drug Dispos 24: 345-355, 2003.)。シスプラチン誘発急性腎障害に伴う各組織中におけるIS蓄積の上昇が、+ Quercetin群及び+ Resveratrol群において有意に抑制された。
【0047】
また、シスプラチンを投与することでSaline群と比較し、Kp値は有意に減少した(図8)。また、Kp値については、IS肝産生阻害物質を経口投与することによる影響は認められなかった。
【0048】
(3)血清電解質濃度及び肝機能検査値への影響
シスプラチン及びIS肝産生阻害物質を投与することによる血清電解質濃度及び肝機能検査値への影響を調べた。生理的食塩水又はシスプラチン投与72時間経過後、腹部大動脈より採血を行い、遠心 (3000 rpm, 10 min)することにより得られた血清について分析を行った。Na、K及びClは電極法により、AST及びALTはJSCC標準化対応法により測定した。
血清電解質濃度についての分析結果を表4に、肝機能検査値についての結果を表5に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
血清電解質濃度については、表4に示す通り、血清中Cl濃度が、Cisplatin群及び+ Curcumin群において、Saline群と比較して有意に減少した。しかし、絶対量としてはわずかな減少であり、検討数を重ねることでその差がなくなる可能性も考えられる。血清中Na及びK濃度は、シスプラチン及びIS肝産生阻害物質投与による影響はほとんど認められなかった。
【0052】
表5に示される通り、肝機能検査値ALTは、+ Resveratrol群を除いたシスプラチンを投与した3群においてSaline群と比較し、有意な減少が認められた。ASTは+ Quercetin群において増加傾向があったが有意差は認められず、全ての群でほとんど影響がなかった。シスプラチン及びIS肝産生阻害物質投与による肝障害は認められなかった。
【0053】
(4)血清及び腎臓中の194Pt濃度
血清及び腎臓中194Pt濃度を測定することで、IS肝産生阻害物質を経口投与することによるシスプラチンの体内動態に与える影響を調べた。すなわち、血清及び腎臓中におけるシスプラチン濃度を194Pt濃度として、ICP−MS〔測定機器:ELEMENT (Thermo Fisher scientific)〕により測定を行った。測定結果を図9に示す。
図9に示す通り、血清及び腎臓中194Ptは両者ともに、IS肝産生阻害物質を経口投与することによる影響は認められなかった。
【0054】
(5)腎機能検査値及び血清IS濃度との相関
シスプラチン及びIS肝産生阻害物質を投与することによる腎障害発現の変化を腎機能検査値において調べた。血清クレアチン(SCr)は酵素法により、BUNはウレアーゼUV法により測定した。その結果を図10のA及びBに示す。
Cisplatin群においてSaline群と比較し、血清クレアチン及びBUNが有意に上昇した。これは、シスプラチン誘発急性腎障害の惹起を示している。また、+ Quercetin群においてCisplatin群と比較し、血清クレアチン及びBUNが有意に減少した。+ Resveratrol群はCisplatin群と比較し、有意差は認められないものの減少傾向を示した。一方、+ Curcumin群においてはCisplatin群とほとんど変化が認められなかった。
【0055】
次に、SCr及びBUNと血清IS濃度との相関を確認した (図10C及びD)。SCrと血清IS濃度は、相関係数r=0.91と極めて強い相関が認められ、P<0.01と相関が有意であった。また、BUNと血清IS濃度は、相関係数r=0.87と強い相関が認められ、P<0.01と相関が有意であった。
【0056】
(6)腎尿細管細胞の組織学的検査
Cisplatin及びIS肝産生阻害物質を投与することによる腎障害発現の変化を腎尿細管細胞の組織学的検査において調べた。
サリンまたはシスプラチン投与72時間経過後、腹部大動脈より脱血を行い、腎臓を摘出し、リン酸緩衝ホルマリンを用いて固定を行った。パラフィン包理、切片の作成、PAS染色を定常の方法により行った。近位尿細管S3セグメント部位のPAS染色を図11に示す。図11において、AはSaline群、BはCisplatin群、Cは+ Quercetin群、Dは+ Curcumin 群、Eは+ Resveratrol群、Fは+ DCNP群を示す。
また、組織の半定量的解析は、高倍率視野にて各ラット腎髄質外層のouter stripeをランダムに選択した。尿細管障害の程度を5段階にスコア化した。全ての評価は盲見的に行った。その結果を図11のGのグラフに示す。
【0057】
図11に示される通り、Cisplatin群 (B)においてSaline群 (A)と比較し、尿細管障害が強く引き起こされ、細胞の壊死、変性、castの形成及びうっ血が強く認められた。また、+ Quercetin群 (C)において、その障害の程度が改善され、castの形成も認められなかった。+ Curcumin群 (D)及び+ Resveratrol群 (E)においてもCisplatin群と比較し、障害の程度は小さくなっていた。また、+ DCNP群 (F)において、Cisplatin群同様に細胞の壊死、変性、castの形成及びうっ血が強く認められた。
【0058】
尿細管障害の程度を5段階でスコア化した結果(図11G)については、Cisplatin群と比較し、Quercetin群において有意に障害の程度が小さかった。
【0059】
(7)腎障害マーカーrKim-1のタンパク質発現
シスプラチン及びIS肝産生阻害物質であるQuercetinを投与することによる腎障害発現の変化を、腎組織における腎障害マーカーrKim-1のタンパク質発現において調べた。該マーカータンパク質の検出は、以下に説明の通り、ウェスタンブロット法により行った。
【0060】
生理食塩水またはシスプラチン投与72時間経過後、腹部大動脈より脱血を行い、腎臓を摘出し、液体窒素にて凍結し、ホモジナイズまで-80 °Cにて冷凍保存した。腎臓サンプルを氷冷したライシス・バッファー (0.23 M sucrose, 5 mM Tris-HCl, 2 mM EDTA, 0.1 mM PMSF, 1 μg/mL leupeptin and 1 μg/mL pepstatin A, pH 7.5)中で、ホモジナイザー用撹拌機(As one)及びホモジナイザー(As one)を用いてホモジナイズし、超音波処理後、遠心 (4 °C, 2000 rpm, 5 min)し、その上清をタンパク質抽出物とした。PVDF (Immobilon-P(商標); Millipore, Bedford, USA)膜へ転写するまで-80 °Cで保存した。BCA protein Assay Reagent Kit(商標) (Thermo Fisher scientific)を用い、BSAを標準タンパク質としてタンパク定量を行った。タンパク質抽出物をローディング・バッファー (2 w/v% SDS, 125 mM Tris-HCl, 20 v/v% glycerol and 5 v/v% 2-mercaptoethanol)と混和させ、99 °Cで2分間加熱後、SDS-PAGE (7.5 w/v%)にて分離し、PVDF(Immobilon-P(商標); Millipore)膜に転写した。転写後、TBS-T (50 mM TBS and 0.3 v/v% Tween 20, pH 7.6)で洗浄し、TBS-Tに溶解した2 v/v% ECL advance blocking agent(商標)(GE Healthcare, Little Chalfont, England)を用い4 °Cで一晩ブロッキングを行った。その後、希釈した一次抗体〔抗ラットKim-1ウサギポリクローナル抗体、抗ラットβ‐アクチン(AC-15)マウス抗体(シグマ・アルドリッチ)〕と室温で1時間反応させ、TBS-TでPVDF膜を洗浄後、続いてHRP標識した二次抗体〔ホースラディッシュ・パーオキサイド標識抗ウサギIgG抗体(GE Healthcare)、ホースラディッシュ・パーオキサイド標識抗マウスIgG抗体(GE Healthcare)〕と室温で1時間反応させた。検出はECL advance western blotting detection kit(商標)(GE Healthcare)付属のプロトコルに従い、化学発光ECL基質により発光させ、X線フィルム上に各抗体に反応を示すバンドを検出した。その結果を図12に示す。
【0061】
KIM-1は、健常時にはほとんど発現していないが、シスプラチンや虚血再灌流等の急性時及び慢性時の様々な腎障害時に、近位尿細管上皮細胞において発現が増加するタンパク質である(Ichimura T, Bonventre JV, Bailly V, Wei H, Hession CA, Cate RL, Sanicola M. Kidney injury molecule-1 (KIM-1), a putative epithelial cell adhesion molecule containing a novel immunoglobulin domain, is up-regulated in renal cells after injury. J Biol Chem 273: 4135-4142, 1998;Ichimura T, Hung CC, Yang SA, Stevens JL, Bonventre JV. Kidney injury molecule-1: a tissue and urinary biomarker for nephrotoxicant-induced renal injury. Am J Physiol Renal Physiol 286: F552-563, 2004;Vaidya VS, Ramirez V, Ichimura T, Bobadilla NA, Bonventre JV. Urinary kidney injury molecule-1: a sensitive quantitative biomarker for early detection of kidney tubular injury. Am J Physiol Renal Physiol 290: F517-529, 2006;Nakagawa S, Masuda S, Nishihara K, Inui K. mTOR inhibitor everolimus ameliorates progressive tubular dysfunction in chronic renal failure rats. Biochem Pharmacol 79: 67-76, 2010.)。現在臨床で汎用されているSCrやBUN等よりも、早期腎障害時から検出することができるため、より鋭敏な腎障害マーカーとして考えられている(Coca SG, Yalavarthy R, Concato J, Parikh CR. Biomarkers for the diagnosis and risk stratification of acute kidney injury: a systematic review. Kidney Int 73: 1008-1016, 2008.)。
【0062】
図12に示される通り、Saline群においてrKim-1のタンパク質発現は認められず、Cisplatin群においてその発現が認められた。+ Quercetin群において、Cisplatin群と比較しrKim-1の発現量が減少することを確認した。
【0063】
(8)腎有機イオントランスポータのタンパク質発現
Cisplatin及びIS肝産生阻害物質であるQuercetinを投与することによる腎有機イオントランスポータのタンパク質発現に対する影響を調べた。各腎有機イオントランスポータのタンパク質の検出は、上記に説明のウェスタンブロット法に準じて行った。なお、一次抗体として、抗ラットOat1ウサギポリクローナル抗体、抗ラットOat3ウサギポリクローナル抗体、抗ラットOct2ウサギポリクローナル抗体をそれぞれ用い、二次抗体としてホースラディッシュ・パーオキサイド標識抗ウサギIgG抗体(GE Healthcare)を用いた。ウェスタンブロットの結果を図13に示す。
【0064】
図13に示される通り、Cisplatin群においてSaline群と比較し、rOat1、rOat3及びrOct2のタンパク質発現量が減少することを確認した。これは過去の報告と一致する(Morisaki T, Matsuzaki T, Yokoo K, Kusumoto M, Iwata K, Hamada A, Saito H. Regulation of renal organic ion transporters in cisplatin-induced acute kidney injury and uremia in rats. Pharm Res 25: 2526-2533, 2008.)。また、+ Quercetin群において、その発現量減少が回復することが認められた。
【0065】
(9)DCNP投与によるIS濃度、腎及び肝機能への影響
シスプラチン及びIS肝産生阻害物質であるDCNPを投与することによる、血清及び腎臓中IS濃度、腎及び肝機能検査値に対する影響を調べた。各種パラメータの測定は、上記に説明の方法に基づいて行った。その結果を表6に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
表6に示される通り、+ DCNP群においてCisplatin群と比較し、有意に血清及び腎臓中IS濃度を減少し、Saline群とほぼ同等まで阻害することができた。一方で、SCr及びBUNはCisplatin群と比較し、有意に上昇した。肝機能はCisplatin群と同様にALTの減少は見られたが、肝障害は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のインドキシル硫酸の産生の阻害剤のスクリーニング方法、インドキシル硫酸代謝産生阻害剤及び腎障害軽減剤は、製薬、医薬、医療等の分野において高い産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インドール及び被験物質を肝臓S9画分の存在下でインキュベートし、インドキシル硫酸の産生を阻害する被験物質を選択することを含む、インドキシル硫酸の産生の阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
肝臓S9画分が、哺乳動物の肝臓S9画分である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
肝臓S9画分が、ラット肝臓S9画分である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
インドール及び被験物質を肝臓S9画分の存在下でインキュベートする工程が、インドール、肝臓S9画分、β-NADPH、3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸(PAPS)、ウリジンニリン酸グルクロン酸(UDPGA)、及び被験物質を含む混合液をインキュベートする工程である、請求項1から3の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
肝臓S9画分、及びインドールを含む、請求項1から4の何れかに記載のスクリーニング方法を行うためのキット。
【請求項6】
レスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンからなる群から選ばれる物質を含む、インドキシル硫酸代謝産生阻害剤。
【請求項7】
レスベラトロール、イルガサン、クルクミン、2',6’−ジクロロ−4−ニトロフェノール、ケルセチン及び8−メトキシプソラレンからなる群から選ばれる物質を含む、腎障害軽減剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−107130(P2011−107130A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234185(P2010−234185)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】