説明

インピーダンス測定装置

【課題】燃料電池に高周波の交流信号を重畳した際の誘導起電圧の影響による燃料電池のセルの局所部位を流れる電流の測定精度の低下を抑制する。
【解決手段】電位差検出用電圧検出部103を、第1電位差検出用配線104を介して第1電極111と第1抵抗部131とを接続する第1ビアホール101bに接続すると共に、第2電位差検出用配線105を介して第2電極121と第2抵抗部141とを接続する第2ビアホール101cに電気的に接続する。そして、第1電位差検出用配線104および第2電位差検出用配線105それぞれを、少なくともセル10aの積層方向から測定部集合板100aを見たときに各抵抗部131、141と重合する部位が、各抵抗部131、141を流れる電流の流れ方向に対して直交する形状とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流インピーダンス法を用いて燃料電池のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子型の燃料電池の内部状態(内部水分量等)を把握するために、燃料電池のセルの局所部位を流れる電流を測定すると共に、交流インピーダンス法を用いて燃料電池のインピーダンスを測定する構成(インピーダンス測定装置)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1では、電流検出手段および電圧検出手段の出力信号に高周波の交流信号を重畳した際に、インピーダンス測定装置にて測定した燃料電池のインピーダンスから電解質膜の膜抵抗を推定することで、燃料電池の内部水分量を把握するようにしている。
【0004】
より具体的には、インピーダンス測定装置は、燃料電池のセルの局所部位を流れる電流を検出するために、一対の電極、および一対の電極それぞれを接続する抵抗体を有する電流測定部と、一対の電極間の電位差を検出する電圧検出部と、電圧検出部の検出値および抵抗体の抵抗値を用いて電流測定部を流れる電流を測定する信号処理回路とを備えている。なお、電流測定部は、セルの局所部位に隣接して配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−252706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが特許文献1に記載のインピーダンス測定装置の如く、燃料電池に高周波(例えば、400Hz以上)の交流信号を重畳した際の燃料電池のインピーダンスを測定し、電解質膜の膜抵抗を推定したところ、当該膜抵抗の推定値と実際の電解質膜における膜抵抗の値とがずれてしまうことが分かった。
【0007】
そこで、本発明者らが原因を調査したところ、燃料電池に高周波の交流信号を重畳した際に電流測定部の抵抗体を流れる電流により発生する誘導起電圧が、一対の電極間の電位差を検出する電圧検出部の信号線等に悪影響を及ぼしていることが判明した。つまり、燃料電池に高周波の交流信号を重畳した際に電流測定部の抵抗体を流れる電流により発生する誘導起電圧の影響によって、燃料電池のセルの局所部位を流れる電流の正確な測定ができなくなることが分かった。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、燃料電池に高周波の交流信号を重畳した際の誘導起電圧の影響による燃料電池のセルの局所部位を流れる電流の測定精度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学反応させて電気エネルギを出力する複数のセル(10a)を積層配置して構成された燃料電池(10)のセル(10a)におけるインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置であって、セル(10a)に隣接して配置された板状部材(100a)と、板状部材(100a)の両面に配置された一対の電極(111、121)、予め定めた電気抵抗値を有し一対の電極(111、121)を電気的に接続する抵抗体(131、141)を有する電流測定部(101)と、一対の電極(111、121)における第1電極(111)と抵抗体(131、141)とを接続する第1接続部(101b)、および抵抗体(131、141)と第2電極(121)とを接続する第2接続部(101c)間の電位差を検出する電位差検出手段(103)と、所定周波数の正弦波が重畳された電位差検出手段(103)の出力信号、および抵抗体(131、141)の電気抵抗値を用いて、電流測定部(101)を流れる電流値を検出する電流値検出手段(51)と、備え、電位差検出手段(103)は、第1電位差検出用配線(104)を介して第1接続部(101b)に電気的に接続されると共に、第2電位差検出用配線(105)を介して第2接続部(101c)に電気的に接続されており、第1電位差検出用配線(104)および第2電位差検出用配線(105)それぞれは、少なくともセル(10a)の積層方向から板状部材(100a)を見たときに抵抗体(131、141)と重合する部位が、抵抗体(131、141)を流れる電流の流れ方向に対して直交する形状とされていることを特徴とする。
【0010】
これによれば、第1電位差検出用配線(104)および第2電位差検出用配線(105)における少なくとも抵抗体(131、141)と重合する部位を、抵抗体(131、141)を流れる電流の流れ方向と直交する形状としているので、抵抗体(131、141)を流れる電流による誘導起電圧が第1電位差検出用配線(104)および第2電位差検出用配線(105)に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。この結果、燃料電池(10)に高周波の交流信号を重畳した際の誘導起電圧の影響による燃料電池(10)のセル(10a)の局所部位を流れる電流の測定精度の低下を抑制することができる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のインピーダンス測定装置において、抵抗体(131、141)は、第1接続部(101b)を介して第1電極(111)に電気的に接続された第1抵抗部(131)、および第2接続部(101c)を介して第2電極(121)に電気的に接続された第2抵抗部(141)を有し、第1抵抗部(131)および第2抵抗部(141)は、セル(10a)の積層方向から板状部材(100a)を見たときに互いに重合するように配置されると共に、第1抵抗部(131)を流れる電流の流れ方向と第2抵抗部(141)を流れる電流の流れ方向とが反対方向となるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
これによれば、第1抵抗部(131)を流れる電流の流れ方向と第2抵抗部(141)を流れる電流の流れ方向とが反対方向となるように構成しているので、第1抵抗部(131)を流れる電流により生ずる磁界と第2抵抗部(141)を流れる電流により生ずる磁界とを打ち消すことが可能となる。これにより、燃料電池(10)に高周波の交流信号を重畳した際の誘導起電圧の発生を抑制することができるので、燃料電池(10)のセル(10a)の局所部位を流れる電流の測定精度の低下を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のインピーダンス測定装置において、板状部材(100a)は、複数の基板(110〜160)が積層された積層基板で構成され、第1電位差検出用配線(104)および第2電位差検出用配線(105)は、少なくとも一部が同一の基板上に形成されていることを特徴とする。
【0014】
このように、各電位差検出用配線(104、105)の少なくとも一部を同一の基板に集積化させる構成としてもよい。
【0015】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1または2に記載のインピーダンス測定装置において、板状部材(100a)は、複数の基板(110〜160)が積層された積層基板で構成され、第1電位差検出用配線(104)および第2電位差検出用配線(105)は、複数の基板(110〜160)のうち、異なる基板上に形成されていることを特徴とする。
【0016】
これによれば、各電位差検出用配線(104、105)同士が基板上で干渉しないので、基板における配線の設計自由度を向上させることができる。
【0017】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係る燃料電池の斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る電流測定部集合板の分解図である。
【図4】第1実施形態に係る電流測定部の概略構成を示す模式図である。
【図5】第2実施形態に係る電流測定部の概略構成を示す模式図である。
【図6】第3実施形態に係る電流測定部の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1〜図4に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図であり、この燃料電池システムは電気自動車の一種である、いわゆる燃料電池車両に適用されており、図示しない電気負荷や2次電池等の電気機器に電力を供給するものである。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システムは、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池10を備えている。この燃料電池10は、図示しない電気負荷や2次電池等の電気機器に電力を供給するものである。因みに、電気自動車の場合、車両走行駆動源としての電動モータが電気負荷に相当している。
【0022】
本実施形態では燃料電池10として固体高分子電解質型燃料電池を用いており、基本単位となる燃料電池セル10a(以下、単にセル10aと略称する。)が複数個積層配置され、且つ電気的に直列接続されている。各セル10aでは、以下に示すように、水素と酸素とを電気化学反応させて、電気エネルギを出力する。
【0023】
(負極側)H→2H+2e
(正極側)2H+1/2O+2e→H
燃料電池10から出力される電気エネルギは、燃料電池10全体として出力される出力電圧を検出する電圧センサ11、および燃料電池10全体として出力される出力電流を検出する電流センサ12によって計測される。これら電圧センサ11および電流センサ12の検出信号は、後述する制御部50に入力される。
【0024】
また、積層されたセル10aの間には、燃料電池10のセル面内の電流分布を測定すると共に、各セル10aのインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置100が設けられている。インピーダンス測定装置100は板状部材である測定部集合板100aを有して構成されている。本実施形態のインピーダンス測定装置100の測定部集合板100aは、隣り合うセル10aに挟まれて配置されており、隣り合うセル10aと電気的に直列接続されている。インピーダンス測定装置100の検出信号は、後述の信号処理回路51を介して制御部50に入力される。インピーダンス測定装置100の詳細については後述する。
【0025】
なお、図示しないが、燃料電池10には、燃料電池10の出力電流に所定周波数の正弦波を重畳させる正弦波重畳手段としての正弦波発振器が設けられている。これにより、電圧センサ11、インピーダンス測定装置100等の出力信号に正弦波が重畳可能とされている。
【0026】
燃料電池システムには、燃料電池10の空気極側(正極側)に酸素を主成分とする酸化剤ガス(空気)を供給するための空気流路20と、燃料電池10の水素極側(負極側)に水素を主成分とする燃料ガス(水素)を供給するための水素流路30が設けられている。ここで、空気流路20における燃料電池10より上流側を空気供給流路20aといい、下流側を空気排出流路20bという。また、水素流路30における燃料電池10より上流側を水素供給流路30aといい、下流側を水素排出流路30bという。
【0027】
空気供給流路20aの最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池10に圧送するための空気ポンプ21が設けられ、空気供給流路20aにおける空気ポンプ21と燃料電池10との間には、空気への加湿を行う加湿器22が設けられている。また、空気排出流路20bには、燃料電池10内の空気の圧力を調整するための空気調圧弁23が設けられている。
【0028】
水素供給流路30aの最上流部には、水素が充填された高圧水素タンク31が設けられ、水素供給流路30aにおける高圧水素タンク31と燃料電池10との間には、燃料電池10に供給される水素の圧力を調整するための水素調圧弁32が設けられている。
【0029】
水素排出流路30bには、水素供給流路30aにおける水素調圧弁32の下流側に接続されて閉ループを構成する水素循環流路30cが分岐して設けられており、これにより水素流路30内で水素を循環させて、未反応の水素を燃料電池10に再供給するようにしている。そして、水素循環流路30cには、水素流路30内で水素を循環させるための水素ポンプ33が設けられている。
【0030】
燃料電池10は発電効率確保のために運転中一定温度(例えば80℃程度)に維持する必要がある。このため、燃料電池10を冷却するための冷却システムが設けられている。冷却システムには、燃料電池10に冷却水(熱媒体)を循環させる冷却水経路40、冷却水を循環させるウォータポンプ41、ファン42を備えたラジエータ(放熱器)43が設けられている。
【0031】
冷却水経路40には、ラジエータ43を迂回して冷却水を流すためのバイパス経路44が設けられている。冷却水経路40とバイパス経路44との合流点には、バイパス経路44に流れる冷却水流量を調整するための流路切替弁45が設けられている。また、冷却水経路40における燃料電池10の出口側付近には、燃料電池10から流出した冷却水の温度を検出する温度検出手段としての温度センサ46が設けられている。この温度センサ46により冷却水温度を検出することで、燃料電池10の温度を間接的に検出することができる。
【0032】
燃料電池システムには、各種制御を行う制御部(ECU)50が設けられている。制御部50は、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。そして、制御部50には、電圧センサ11、電流センサ12、温度センサ46からの検出信号等の他に、後述するインピーダンス測定装置100の信号処理回路51から出力される検出信号が入力される。
【0033】
本実施形態の制御部50では、インピーダンス測定装置100の信号処理回路51からの検出信号(電流値)および電圧センサ11からの検出信号を用いて、セル10aの面内におけるインピーダンスの分布を測定する。なお、制御部50におけるセル10aのインピーダンスを算出する構成(ソフトウェアおよびハードウェア)は、インピーダンス算出手段を構成しており、インピーダンス測定装置100の一部として機能する。
【0034】
また、制御部50は、演算結果に基づいて、空気ポンプ21、加湿器22、空気調圧弁23、水素調圧弁32、水素ポンプ33、ウォータポンプ41、流路切替弁45等に制御信号を出力する。
【0035】
次に、本実施形態のインピーダンス測定装置100の詳細について説明する。インピーダンス測定装置100は、板状部材で構成された測定部集合板100a、測定部集合板100aに設けられた複数の電流測定部101、電流測定部101の所定部位間の電位差を検出する電位差検出用電圧検出部103、およびセル10aの面内のうち電流測定部101配置箇所に対応する局所部位の電流を検出する信号処理回路51を備えている。
【0036】
まず、測定部集合板100aについて図2、図3に基づいて説明する。図2は、燃料電池10の外観斜視図であり、図3は、測定部集合板100aの斜視図である。図2に示すように、本実施形態の測定部集合板100aは、複数枚設けられており、それぞれ隣り合うセル10aの間に配置されている。
【0037】
さらに、図3に示すように、測定部集合板100aは、配線パターンが形成(プリント)された複数のプリント基板110〜140を積層した積層基板として構成されている。本実施形態のインピーダンス測定装置100は、第1〜第4プリント基板110〜140の4枚のプリント基板が積層されて構成されている。これら各プリント基板110〜140は、絶縁性接着剤(図示略)を介在させてホットプレスにより一体化されている。
【0038】
各プリント基板110〜140としては、一般的なガラスエポキシ基板を用いることができる。なお、各プリント基板110〜140には、その周縁部における対向する2辺(図3における左右両辺)付近には、それぞれ積層基板の表裏を貫通する貫通穴が3つ形成されている。これらの貫通穴は、セル10aを積層した際に、空気、水素、冷却水がそれぞれ通過させるためのマニホールドとして機能する。
【0039】
さらに、両側の各マニホールドの間には、複数の電流測定部101が直交する二方向にマトリクス状(格子状)に配置されている。より具体的には、本実施形態の測定部集合板100aには、図3に示すように、紙面上下方向に6個、紙面左右方向に7個のマトリクス状に電流測定部101が配置されている。
【0040】
つまり、本実施形態では、電流測定部101が、同一の隣り合うセル10aに複数配置されている。これにより、複数の電流測定部101が測定部集合板100aの板面の全体に渡って配置されることになるので、本実施形態のインピーダンス測定装置100では、セル10aの面内におけるインピーダンスの分布を測定することができる。
【0041】
次に、電流測定部101の詳細について図4に基づいて説明する。図4は、本実施形態に係る電流測定部101の概略構成を示す模式図である。なお、図4では、測定部集合板100aにおける1つの電流測定部101を部分的に抜き出したものを示している。
【0042】
図4に示すように、本実施形態の電流測定部101は、隣り合うセル10aのうち一方のセル10aに電気的に接触する第1電極111、隣り合うセル10aのうち他方のセル10aに電気的に接触する第2電極121、および第1電極111と第2電極121とを電気的に接続すると共に予め定められた電気抵抗値を有する抵抗体131、141を有して構成されている。なお、第1電極111、および第2電極121は、一対の電極として構成されて測定部集合板100aの両面に配置されている。
【0043】
具体的には、第1電極111は、第1プリント基板110における一方のセル10aに対向する面(図4の紙面手前側)に配置され、第2電極121は、第2プリント基板120における他方のセル10aに対向する面(図4の紙面奥側)に配置されている。
【0044】
抵抗体131、141は、後述する第1ビアホール(第1接続部)101bを介して第1電極111に電気的に接続される板状の第1抵抗部131、および後述する第2ビアホール(第2接続部)101cを介して第2電極121に電気的に接続される板状の第2抵抗部141を有して構成されている。
【0045】
具体的には、第1抵抗部131は、第3プリント基板130における第1プリント基板110に対向する面(図4の紙面手前側)に配置され、第2抵抗部141は、第4プリント基板140における第3プリント基板130に対向する面(図4の紙面手前側)に配置されている。
【0046】
一対の電極111、121、各抵抗部131、141それぞれは、金属箔にて構成されており、各抵抗部131、141は、一対の電極111、121よりも抵抗値の高い材料で構成されている。例えば、一対の電極111、121は銅箔で構成することができ、各抵抗部131、141はニッケル箔で構成することができる。
【0047】
ここで、各プリント基板110〜140には、各プリント基板110〜140を貫通する複数の丸穴形状の第1スルーホール101aが設けられている。また、第1プリント基板110には、第1プリント基板110を貫通する複数の丸穴形状の第1ビアホール101bが設けられ、第2、第4プリント基板120、140には、第2、第4プリント基板120、140を貫通する複数の丸穴形状の第2ビアホール101cが設けられている。
【0048】
これら第1スルーホール101a、第1、第2ビアホール101b、101cの内部には、銅等の導電体が設けられている。そして、第1スルーホール101aを介して、第1抵抗部131および第2抵抗部141が接続されている。なお、第1スルーホール101aには、図4に示すように、長手方向の両端面に逃がし部106が形成されており、当該逃がし部106によって、第1スルーホール101aは、第1電極111および第2電極151に対して絶縁されている。
【0049】
また、第1ビアホール101bを介して、第1電極111、および第1抵抗部131が接続されると共に、第2ビアホール101cを介して第2電極121、および第2抵抗部141が接続されている。従って、第1、第2ビアホール101b、101cは、それぞれ本実施形態の第1、第2接続部を構成している。第1、第2ビアホール101b、101cは、測定部集合板100aの積層方向から見たときに、重合するように設けられている。なお、第1、第2ビアホール101b、101cは、第3プリント基板130によって互いが導通しないように構成されている。
【0050】
また、第1電極111は、第1ビアホール101bを介して第1抵抗部131の一端側に接続され、第2電極121は、第2ビアホール101cを介して第2抵抗部141の一端側に接続されている。また、第1抵抗部131の他端側は、第1スルーホール101aを介して第2抵抗部141の他端側に接続されている。
【0051】
このため、抵抗体131、141では、図4の白抜き矢印で示すように、第1抵抗部131の一端側から他端側(下方から上方)へ電流が流れ、逆に第2抵抗部141の他端側から一端側(上方から下方)へ電流が流れることとなる。つまり、第1抵抗部131および第2抵抗部141は、第1電極111側に配置された第1抵抗部131を流れる電流の流れ方向と、第2電極121側に配置された第2抵抗部141を流れる電流の流れ方向とが、互いに反対方向となるように構成されている。換言すれば、第1、第2抵抗部131、141、および第1スルーホール101aには、測定部集合板100aの積層方向断面から見たときに、U字状に曲折して電流が流れる。これにより、第1抵抗部131を流れる電流による磁界と第2抵抗部141を流れる電流による磁界とが打ち消される。
【0052】
また、第1ビアホール(第1接続部)101bおよび第2ビアホール(第2接続部)101cには、それぞれ第1、第2電位差検出用配線104、105等を介して、電位差検出用電圧検出部103が接続されている。
【0053】
電位差検出用電圧検出部103は、第1ビアホール101bと第2ビアホール101cとの2点間の電位差(第1接続部および第2接続部間)を検出する電位差検出手段を構成している。そして、電位差検出用電圧検出部103の検出信号は、信号処理回路51へ出力される。
【0054】
ここで、第1電位差検出用配線104は、第1ビアホール101bと電位差検出用電圧検出部103とを接続する信号線を構成し、第2電位差検出用配線105は、第2ビアホール101cと電位差検出用電圧検出部103とを接続する信号線を構成している。
【0055】
各電位差検出用配線104、105は、図4に示すように、測定部集合板100aの積層方向(セル10aの積層方向)から見たときに各抵抗部131、141と重合する部位が、各抵抗部131、141を流れる電流の流れ方向(紙面上下方向)に対して直交する方向(紙面左右方向)に延びる形状とされている。特に、各電位差検出用配線104、105は、電流測定部101におけるセル10aの発電部に対応する部位において、各抵抗部131、141を流れる電流の流れ方向(紙面上下方向)に対して直交する方向(紙面左右方向)に延びる形状とすることが好ましい。なお、各電位差検出用配線104、105は、一対の電極111、121と同様に金属箔(例えば、銅箔)で構成されている。
【0056】
具体的には、本実施形態の第1電位差検出用配線104は、第1プリント基板110における第1電極111の配置面と反対側の面に、各第1ビアホール101bを跨ぐように形成されている。
【0057】
また、本実施形態の第2電位差検出用配線105は、第2プリント基板120における第2電極121の配置面と反対側の面に、各第2ビアホール101cを跨ぐように形成されると共に、第1プリント基板110における第1電極111の配置面と反対側の面に、その一部が形成されている。第2電位差検出用配線105における第2プリント基板120に設けられた配線は、各プリント基板110〜140を貫通する第2スルーホール101dを介して第2電位差検出用配線105における第1プリント基板110に設けられた配線に接続されている。
【0058】
従って、本実施形態の第2電位差検出用配線105は、その一部が、第1電位差検出用配線104が形成された第1プリント基板110に形成されていることとなる。換言すれば、各電位差検出用配線104、105は、少なくとも一部が同一基板上に形成されている。なお、第2スルーホール101dの内部には、第1スルーホール101a、第1、第2ビアホール101b、101cと同様に、銅等の導電体が設けられている。
【0059】
また、図3に示すように、第1プリント基板110の一辺には、第1、第2電位差検出用配線104、105と電位差検出用電圧検出部103とを接続するためのコネクタ113が設けられている。
【0060】
インピーダンス測定装置100の信号処理回路51は、電位差検出用電圧検出部103の検出信号(検出電位差)と抵抗体131、141の電気抵抗値を用いて演算処理を行うことで、セル10aの面内における各電流測定部101に対応する部位を流れる電流値を検出する。具体的には、信号処理回路51では、電位差検出用電圧検出部103の検出信号(検出電位差)と抵抗体131、141の電気抵抗値で除することによって、電流測定部101に対応する部位を流れる電流値を検出する。従って、信号処理回路51は、セル10aにおける局所部位を流れる電流値を検出する電流値検出手段を構成している。信号処理回路51にて検出された電流値は、制御部50へ出力される。
【0061】
次に、本実施形態のインピーダンス測定装置100と制御部50による電流測定方法およびインピーダンス測定方法について説明する。なお、電流測定時およびインピーダンス測定時には、正弦波発振器にて燃料電池10の出力電流に所定周波数の正弦波が重畳されているものとする。
【0062】
燃料電池10に水素および空気が供給開始されることで、燃料電池10での発電が開始される。インピーダンス測定装置100の各電流測定部101では、図4に示すように、電流流れ方向上流側のセル10aから第1電極111の板面に電流が流れる。そして、第1電極111→第1ビアホール101b→第1抵抗部131→第1スルーホール101a→第2抵抗部141→第2ビアホール101c→第2電極121の順に電流が流れ、第2電極121の板面から電流流れ方向下流側のセル10aに電流が流れる。
【0063】
このとき、電位差検出用電圧検出部103で第1抵抗部131の一端側(第1ビアホール101b)および第2抵抗部141の一端側(第2ビアホール101c)の電位差を測定する。
【0064】
そして、信号処理回路51では、電位差検出用電圧検出部103による検出電位差と抵抗体131、141の電気抵抗値を用いて、抵抗体131、141に流れた電流の大きさを算出する。これにより、信号処理回路51では、セル10aの面内におけるインピーダンス測定装置100の各電流測定部101に対応する部位の電流値、すなわちセル10aの面内におけるインピーダンスの分布を測定することができる。
【0065】
次に、制御部50では、信号処理回路51にて測定された各電流値、および電圧センサ11の検出信号を用いて、周知の交流インピーダンス法によりセル10aの局所インピーダンスを測定する。具体的には、信号処理回路51にて測定された各電流値、および電圧センサ11の検出信号から高速フーリエ変換処理等の周波数解析処理によって、正弦波発振器にて重畳した正弦波の交流成分(電流成分および電圧成分)を抽出して、抽出した交流成分を用いてセル10aの局所インピーダンスを算出する。
【0066】
以上説明した本実施形態のインピーダンス測定装置100によれば、電位差検出用電圧検出部103に接続される第1電位差検出用配線104および第2電位差検出用配線105における少なくとも抵抗体131、141と重合する部位を、抵抗体131、141を流れる電流の流れ方向と直交する形状としているので、抵抗体131、141を流れる電流による誘導起電圧が第1電位差検出用配線104、および前記第2電位差検出用配線105に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。この結果、燃料電池10に高周波の交流信号を重畳した際の誘導起電圧の影響による燃料電池10のセル10aの局所部位を流れる電流の測定精度の低下を抑制することができる。また、インピーダンス測定装置100にて測定した電流値を用いて燃料電池10のセル10aの局所インピーダンスを測定する場合には、当該局所インピーダンスを精度よく検出することができるので、燃料電池の内部水分量等を適切に把握することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態のインピーダンス測定装置100では、抵抗体131、141である第1抵抗部131および第2抵抗部141を流れる電流の流れ方向が反対方向となるように構成しているので、第1抵抗部131を流れる電流により生ずる磁界と第2抵抗部141を流れる電流により生ずる磁界とを打ち消すことが可能となる。これにより、燃料電池10に高周波の交流信号を重畳した際の誘導起電圧の発生自体を抑制することができるので、燃料電池10のセル10aの局所部位を流れる電流の測定精度の低下を効果的に抑制することができる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図5に基づいて説明する。図5は、本実施形態に係る電流測定部101の概略構成を示す模式図である。本実施形態では、第1実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
【0069】
本実施形態のインピーダンス測定装置100は、第1電位差検出用配線104が第1電極111と異なる基板上に形成され、第2電位差検出用配線105が第2電極121と異なる基板上に形成されている点が第1実施形態と相違している。
【0070】
本実施形態のインピーダンス測定装置100は、測定部集合板100aが6枚のプリント基板110〜160を積層した積層基板で構成されている。具体的には、本実施形態の測定部集合板100aは、第1プリント基板110と第3プリント基板130との間に第5プリント基板150が追加され、第2プリント基板120と第4プリント基板140との間に第6プリント基板160が追加されている。なお、追加された第5、第6プリント基板150、160の基本構成は、第1〜第4プリント基板110〜140と同様である。
【0071】
そして、第5プリント基板150における第1プリント基板110に対向する面(紙面手前側)に第1電位差検出用配線104が形成され、第6プリント基板160における第4プリント基板140に対向する面(紙面手前側)に第2電位差検出用配線105が形成されている。
【0072】
このように、本実施形態のインピーダンス測定装置100では、測定部集合板100aの積層構造を変更しているものの、第1、第2電位差検出用配線104、105における少なくとも抵抗体131、141と重合する部位を、抵抗体131、141を流れる電流の流れ方向と直交する形状としているので、第1実施形態で説明したインピーダンス測定装置100と同様に、燃料電池10のセル10aの局所部位を流れる電流の測定精度の低下を抑制することができる。
【0073】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図6に基づいて説明する。図6は、本実施形態に係る電流測定部101の概略構成を示す模式図である。本実施形態では、第1、第2実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
【0074】
本実施形態では、第1電位差検出用配線104および第2電位差検出用配線105を複数のプリント基板110〜160のうち、異なるプリント基板上に形成している点が第2実施形態と相違している。
【0075】
具体的には、第1電位差検出用配線104は、第5プリント基板150における第1プリント基板110に対向する面(紙面手前側)に形成され、第2電位差検出用配線105は、第6プリント基板160における第4プリント基板140に対向する面(紙面手前側)に形成されている。なお、第1電位差検出用配線104および第2電位差検出用配線105は、測定部集合板100aの積層方向から見たときに、同じ形状となるように第5、第6プリント基板150、160に形成されている。
【0076】
なお、図示しないが、本実施形態の第5プリント基板150の一辺には、第1電位差検出用配線104と電位差検出用電圧検出部103とを接続するためのコネクタが設けられ、第6プリント基板160の一辺に、第2電位差検出用配線105と電位差検出用電圧検出部103とを接続するためのコネクタが設けられている。
【0077】
このように、本実施形態のインピーダンス測定装置100では、測定部集合板100aにおける各電位差検出用配線104、105の配置構造を変更しているものの、第1、第2電位差検出用配線104、105における少なくとも抵抗体131、141と重合する部位を、抵抗体131、141を流れる電流の流れ方向と直交する形状としているので、第1、第2実施形態で説明したインピーダンス測定装置100と同様に、燃料電池10のセル10aの局所部位を流れる電流の測定精度の低下を抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態のように、各電位差検出用配線104、105を異なるプリント基板上に設ける構成とする場合、プリント基板における配線の設計自由度を向上させることができる。
【0079】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0080】
(1)上述の各実施形態では、各抵抗部131、141を流れる電流の流れ方向を上下方向とする例について説明したが、これに限定されず、例えば、各抵抗部131、141を流れる電流の流れ方向を左右方向としてもよい。この場合、各電位差検出用配線104、105は、各抵抗部131、141を流れる電流の流れ方向と直交するように、上下方向に延びる形状とすればよい。
【0081】
(2)上述の各実施形態のように、抵抗体を一対の抵抗部131、141で構成することが好ましいが、これに限定されず、抵抗体を1つの抵抗部で構成してもよい。
【0082】
(3)上述の各実施形態では、測定部集合板100aを複数のプリント基板を積層した積層基板で構成する例について説明したが、プリント基板に限らず、絶縁性を有する基板であれば用いることができる。
【0083】
(4)上述の第2、第3実施形態では、第1電位差検出用配線104を第5プリント基板150における第1プリント基板110に対向する面に形成する例について説明したが、これに限定されず、例えば、第1電位差検出用配線104を第5プリント基板150における第3プリント基板130に対向する面に形成してもよい。同様に、第2電位差検出用配線104を第6プリント基板160における第2プリント基板120に対向する面に形成してもよい。
【0084】
(5)上述の各実施形態では、第1、第2スルーホール101a、101d、第1、第2ビアホール101b、101cを丸穴形状とする例について説明したが、これに限定されず、例えば長穴形状としてもよい。
【0085】
(6)上述の各実施形態では、インピーダンス測定装置100にセル10aの面内の全体に対応して複数の電流測定部101を設けたが、電流測定部101は少なくとも1個設けられていればよい。これにより、セル10aにおける電流測定部101に対応する部位の局所電流を測定することができる。
【0086】
(7)上述の各実施形態では、インピーダンス測定装置100を隣り合うセル10a間に配置する構成としたが、これに限定されず、例えば、燃料電池10におけるセル10aの積層方向端部に配置する場合、当該積層方向端部のセル10aに隣接して配置してもよい。これによれば、燃料電池10におけるセル10aの積層方向端部のセル面内の局所電流を測定することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 燃料電池
10a 燃料電池セル(セル)
100 インピーダンス測定装置
100a 測定部集合板(板状部材)
101 電流測定部
101b 第1ビアホール(第1接続部)
101c 第2ビアホール(第2接続部)
103 電位差検出用電圧検出部(電位差検出手段)
104 第1電位差検出用配線
105 第2電位差検出用配線
111 第1電極
121 第2電極
131 第1抵抗部(抵抗体)
141 第2抵抗部(抵抗体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学反応させて電気エネルギを出力する複数のセル(10a)を積層配置して構成された燃料電池(10)の前記セル(10a)のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置であって、
前記セル(10a)に隣接して配置された板状部材(100a)と、
前記板状部材(100a)の両面に配置された一対の電極(111、121)、予め定めた電気抵抗値を有し前記一対の電極(111、121)を電気的に接続する抵抗体(131、141)を有する電流測定部(101)と、
前記一対の電極(111、121)における第1電極(111)と前記抵抗体(131、141)とを接続する第1接続部(101b)、および前記抵抗体(131、141)と第2電極(121)とを接続する第2接続部(101c)間の電位差を検出する電位差検出手段(103)と、
所定周波数の正弦波が印加された前記電位差検出手段(103)の出力信号、および前記抵抗体(131、141)の電気抵抗値を用いて、前記電流測定部(101)を流れる電流値を検出する電流値検出手段(51)と、備え、
前記電位差検出手段(103)は、第1電位差検出用配線(104)を介して前記第1接続部(101b)に電気的に接続されると共に、第2電位差検出用配線(105)を介して前記第2接続部(101c)に電気的に接続されており、
前記第1電位差検出用配線(104)および前記第2電位差検出用配線(105)それぞれは、少なくとも前記セル(10a)の積層方向から前記板状部材(100a)を見たときに前記抵抗体(131、141)と重合する部位が、前記抵抗体(131、141)を流れる電流の流れ方向に対して直交する形状とされていることを特徴とするインピーダンス測定装置。
【請求項2】
前記抵抗体(131、141)は、前記第1接続部(101b)を介して前記第1電極(111)に電気的に接続された第1抵抗部(131)、および前記第2接続部(101c)を介して前記第2電極(121)に電気的に接続された第2抵抗部(141)を有し、
前記第1抵抗部(131)および前記第2抵抗部(141)は、前記セル(10a)の積層方向から前記板状部材(100a)を見たときに互いに重合するように配置されると共に、前記第1抵抗部(131)を流れる電流の流れ方向と前記第2抵抗部(141)を流れる電流の流れ方向とが反対方向となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインピーダンス測定装置。
【請求項3】
前記板状部材(100a)は、複数の基板(110〜160)が積層された積層基板で構成され、
前記第1電位差検出用配線(104)および前記第2電位差検出用配線(105)は、少なくとも一部が同一の基板上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインピーダンス測定装置。
【請求項4】
前記板状部材(100a)は、複数の基板(110〜160)が積層された積層基板で構成され、
前記第1電位差検出用配線(104)および前記第2電位差検出用配線(105)は、前記複数の基板(110〜160)のうち、異なる基板上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインピーダンス測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−248305(P2012−248305A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116761(P2011−116761)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】