説明

インフルエンザ標的

本発明は、インフルエンザウイルス複製阻害剤を含む医薬組成物に関する。さらに別の態様は、インフルエンザの予防、軽減または/および治療のための新しい標的を同定するためのスクリーニング方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルス複製阻害剤を含む医薬組成物に関する。さらに別の態様は、インフルエンザの予防、軽減または/および治療のための新しい標的を同定するためのスクリーニング方法である。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザパンデミックの脅威を考慮すると、長期に有効な薬物を開発し、提供することが緊急に求められている。ドイツ国内だけでも、例年、インフルエンザの発生により、5,000〜20,000例の死亡/年が引き起こされる(情報源:Robert-Koch Institute)。大型のインフルエンザパンデミックの再発がとりわけ心配されている。最初の大型のパンデミック、いわゆる「スペイン風邪」では、1918年〜1919年の間に約4000万人が犠牲になり、これらの中には、健常な中高年者が大きな割合で含まれた。H5N1インフルエンザウイルスは、現在のところ主としてトリで複製するが、このウイルスが、後天性の突然変異により人から人へ伝染することが可能になれば、類似のパンデミックを引き起こす恐れがあるであろう。ヒトパンデミックの確率は、鳥インフルエンザ(H5N1)が世界全体に拡散し、家畜動物に感染が生じていることから、最近になってより緊急に高まっている。高病原性のヒトインフルエンザ組換え体が出現するのは、時間の問題に過ぎない。より最近になって、新規のインフルエンザウイルス変異体、すなわち、インフルエンザA(H1N1)「ブタインフルエンザ」株が出現するに至り、予測不可能なパンデミックの脅威をもたらしている。インフルエンザ感染の予防または療法のために現在のところ利用可能な方法、例として、ウイルス表面タンパク質を用いるワクチン接種または抗ウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害剤もしくはイオンチャネル遮断薬)の使用は、種々の欠点を有する。この早期にすでに、我々の最も有効な調製物のうちの1つ(タミフル)に対して耐性が出現しつつあり、このことから、タミフルはパンデミックを封じ込めるには適さない恐れがある。インフルエンザに対するワクチンおよび薬物の使用における中心的な問題は、病原体の変動性である。今までは、有効なワクチンの開発には、病原体の変異体の正確な予測が必要であった。ウイルス構成成分に対して作られた薬物は、有効性を、病原体の突然変異のために急速に喪失する恐れがある。
【0003】
今まで注意がほとんど払われることがなかった研究領域に、宿主細胞中の重要な意味をもつ標的構造の同定がある。ウイルスは、特定の細胞タンパク質に依存して、宿主内で複製することができる。ウイルスの複製にとっては不可欠であるが、ヒトにとっては(少なくとも一時的に)欠失可能である、そのような細胞因子を知ることによって、新規の薬物の開発に至ることができるであろう。概算すると、ヒトゲノム中にウイルスの増殖に不可欠である約500個の遺伝子があることが予測される。これらのうち、10%は少なくとも、人体にとって一時的にまたは恒久的にさえ恐らく欠失可能である。これらの遺伝子およびそれらの産物は、ウイルス標的とは対照的に構造が一定しており、そうした遺伝子および産物を阻害することによって、新しい世代の抗ウイルス薬を最も短い時間で開発することが可能になるであろう。そのような遺伝子産物の阻害は、最早抗ウイルス薬に対して感受性を示さないウイルスエスケープ突然変異体の発生を克服することができるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO02/44321
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bartel D(Cell 136:215〜233頁、2009年)
【非特許文献2】Kohlerら、1975年、Nature 256:495〜497頁
【非特許文献3】Kozborら、1985年、J. Immunol. Methods 81、31〜42頁
【非特許文献4】Coteら、PNAS、80:2026〜2030頁
【非特許文献5】Coleら、1984年、Mol. Cell Biol. 62:109〜120頁
【非特許文献6】Morrisonら(1984年、PNAS、81:6851〜6855頁)
【非特許文献7】Neubergerら(1984年、312:604〜608頁)
【非特許文献8】Takedaら(1985年、Nature 314:452〜454頁)
【非特許文献9】Orlandiら、1989年、PNAS 86:3833〜3837頁
【非特許文献10】Winterら、1991年、Nature 349:293〜299頁
【非特許文献11】Burton、1991年、PNAS、88:11120〜11123頁
【非特許文献12】Huseら、1989年、Science 254:1275〜1281頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療に適している化合物を求めるスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の文脈において、驚くべきことに、特定の遺伝子の調節(活性化または阻害)により、インフルエンザウイルス複製の低下が生じることが見出された。表1、2、3および4に、インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療のための標的を記載する。
【0008】
下方制御すると、インフルエンザウイルス複製を増加させる遺伝子の例を、表1、2、3および4に記載する。したがって、これらの遺伝子または/および遺伝子産物の発現または/および活性を増加させることによって、インフルエンザウイルス複製を低下させることができる。
【0009】
また、下方制御すると、インフルエンザウイルス複製を減少させる遺伝子の例も、表1、2、3および4に記載する。したがって、これらの遺伝子または/および遺伝子産物の発現または/および活性を減少させることによって、インフルエンザウイルス複製を低下させることができる。
【0010】
したがって、本発明の対象は、インフルエンザウイルス感染、特に、インフルエンザウイルス複製に関連した異なる態様を網羅するスクリーニング方法である。本発明の第1の態様は、インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療に適している化合物を同定するためのスクリーニング方法であり、この方法は、
(a)インフルエンザウイルスに感染することが可能であり、遺伝子を発現することが可能である細胞または/および非ヒト生物を提供するステップであって、遺伝子または/およびその遺伝子産物が、インフルエンザウイルス複製を調節することが可能であるステップと、
(b)(a)の細胞または/および生物を、インフルエンザウイルス、ならびに(a)の遺伝子または/およびその遺伝子産物の発現または/および活性を調節することが可能であることが既知の化合物と接触させるステップと、
(c)細胞または/および生物が産生したインフルエンザウイルスの量を決定するステップと、
(d)細胞または/および生物が産生したインフルエンザウイルスの量を低下させる化合物を選択するステップと
を含む。
【0011】
(a)の遺伝子は、表1、表2、表3および表4から選択することができる。好ましくは、(a)の遺伝子は、表4から選択される。
【0012】
本発明の方法は、細胞スクリーニングアッセイを含むことができる。細胞スクリーニングアッセイは、(a)の遺伝子または/およびその遺伝子産物の活性または/および発現の決定を包含する。スクリーニングアッセイは、in vivoまたは/およびin vitroにおいて実施することができる。
【0013】
本発明の別の態様は、インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療に適している化合物を同定するためのスクリーニング方法であり、この方法は、
(i)遺伝子を発現することが可能である細胞または/および非ヒト生物を提供するステップであって、遺伝子または/およびその遺伝子産物が、インフルエンザウイルス複製を調節することが可能であるステップと、
(ii)化合物を、(i)の細胞または/および生物と接触させるステップと、
(iii)(i)の遺伝子の遺伝子産物の量または/および活性を決定するステップと、
(iv)(i)の遺伝子産物の量または/および活性を調節する化合物を選択するステップと
を含む。
【0014】
(i)の遺伝子を、表1、表2、表3および表4から選択することができる。好ましくは、(i)の遺伝子は、表4から選択される。
【0015】
(iv)の化合物は、細胞または/および生物が生産したインフルエンザウイルスの量を低下させることができる。
【0016】
「調節」は、本発明の文脈においては、「活性化」または「阻害」であり得る。遺伝子発現の調節は、特に、転写または/および翻訳の下方制御または上方制御であり得る。遺伝子が上方制御されているかまたは下方制御されているかどうかは、当業者であれば容易に決定することができる。本発明の文脈において、遺伝子発現の上方制御(活性化)は、少なくとも2倍、好ましくは、少なくとも4倍の上方制御であり得る。本発明の文脈において、下方制御(阻害)は、遺伝子発現の、少なくとも2倍、好ましくは、少なくとも4倍の低下であり得る。例えば、RNA干渉による遺伝子発現の本質的に完全な阻害が最も好ましい。
【0017】
遺伝子活性の調節は、活性の減少または増加であり得る。本発明の文脈において、遺伝子または/および遺伝子産物の「活性」は、転写、翻訳、翻訳後修飾、遺伝子または/および遺伝子産物の活性の調節を包含する。活性は、リガンド結合により調節することができ、このリガンドは、活性化剤または阻害剤であり得る。「活性の阻害」は、遺伝子または遺伝子産物の活性の、少なくとも2倍、好ましくは、少なくとも4倍の減少であり得る。「活性の阻害」は、活性の本質的に完全な阻害を包含する。「活性の活性化」は、遺伝子または遺伝子産物の活性の、少なくとも2倍、好ましくは、少なくとも4倍の増加であり得る。
【0018】
また、本明細書に記載するように、活性は、miRNA分子、shRNA分子、siRNA分子、アンチセンス核酸、デコイ核酸または/および任意のその他の核酸によっても調節することができる。また、調節は、小型分子、抗体、アプタマーまたは/およびスピーゲルマー(鏡像アプタマー)によっても実施することができる。
【0019】
本発明の方法により同定した遺伝子の活性化剤は、細胞または/および生物が産生するインフルエンザウイルスの量を低下させるのに適し得る。表1、2、3および4には、(例えば、siRNAにより)阻害すると、ウイルス複製を増加させる遺伝子を記載する。したがって、これらの遺伝子を活性化させると、ウイルス複製を低下させることができる。表では、そのような遺伝子を、正のz-スコアまたは/および正規化したパーセント阻害(NPI)の負の値により特徴付ける。
【0020】
本発明の方法により同定した遺伝子の阻害剤は、細胞または/および生物が産生するインフルエンザウイルスの量を低下させるのに適している。表1、2、3および4には、(例えば、siRNAにより)阻害すると、ウイルス複製を減少させる遺伝子を記載する。表では、そのような遺伝子を、負のz-スコアまたは/および正規化したパーセント阻害(NPI)の正の値により特徴付ける。
【0021】
調節は、単一の核酸種、または2、3、4、5もしくは6つ以上の異なる核酸種を含む核酸の組合せにより実施することができ、核酸種は、表1、2、3および4の配列ならびにそれらの断片から選択することができる。好ましい組合せを、表4に記載する。また、組合せは、例えば、表1、2、3および4から選択される1つの遺伝子を調節することが好ましい。2つの核酸種の組合せが好ましい。
【0022】
調節は、RNA干渉により実施するノックダウンであり得る。核酸または核酸種の組合せは、siRNAであり得、これは、表1、2、3および4の配列ならびにそれらの断片から選択された配列を含むことができる。組合せは、例えば、表1、2、3および4から選択される1つの遺伝子をノックダウンすることが好ましい。2つのsiRNA種の組合せが好ましい。
【0023】
本発明の文脈において、「標的」は、宿主細胞中でインフルエンザウイルス複製の制御に関与する、遺伝子もしくは/およびゲノム、核酸、または/ならびにポリペプチド中のヌクレオチド配列を包含する。標的は、インフルエンザウイルス複製の制御に直接的または間接的に関与することができる。特に、標的は、標的の活性化または標的の阻害のいずれかによるインフルエンザウイルス複製の低下に適している。
【0024】
標的の例は、遺伝子、および遺伝子の部分的な配列、例として、制御配列である。また、用語「標的」は、遺伝子産物、例として、RNA、特に、mRNA、tRNA、rRNA、miRNA、piRNAも包含する。また、標的は、標的遺伝子がコードするポリペプチドまたは/およびタンパク質も含むことができる。標的遺伝子の好ましい遺伝子産物は、mRNA、miRNA、標的遺伝子がコードするポリペプチドおよびタンパク質から選択される。最も好ましい遺伝子産物は、標的遺伝子がコードするポリペプチドまたはタンパク質である。標的タンパク質または標的ポリペプチドは翻訳後に、修飾されてもまたは修飾されなくてもよい。
【0025】
遺伝子の「遺伝子産物」は、本明細書で使用する場合、RNA(特に、mRNA、tRNA、rRNA、miRNAおよびpiRNA)、前記遺伝子がコードするポリペプチドまたは/およびタンパク質を包含する。
【0026】
ステップ(a)で利用する細胞は、インフルエンザウイルスに感染することが可能である任意の細胞であり得る。インフルエンザウイルスの産生に適している細胞株は既知である。好ましくは、細胞は、哺乳動物細胞またはトリ細胞である。また、ヒト細胞も好ましい。また、上皮細胞、例として、肺の上皮細胞も好ましい。細胞は、細胞株であり得る。適切な肺の上皮細胞株は、A594である。別の適切な細胞は、ヒト胚性腎臓細胞株293Tである。本発明の一実施形態では、本発明の方法は、本明細書に記載するように、細胞を利用する。
【0027】
ステップ(a)で利用する非ヒト生物は、インフルエンザウイルスに感染することが可能である任意の生物であり得る。
【0028】
本発明の方法で利用するインフルエンザウイルスは、インフルエンザAウイルスであり得る。インフルエンザAウイルスは、鳥類および哺乳類の生物から今までに単離されたインフルエンザAウイルスから選択することができる。特に、インフルエンザAウイルスは、H1N1、H1N2、H1N3、H1N4、H1N5、H1N6、H1N7、H1N9、H2N1、H2N2、H2N3、H2N4、H2N5、H2N7、H2N8、H2N9、H3N1、H3N2、H3N3、H3N4、H3N5、H3N6、H3N8、H4N1、H4N2、H4N3、H4N4、H4N5、H4N6、H4N8、H4N9、H5N1、H5N2、H5N3、H5N6、H5N7、H5N8、H5N9、H6N1、H6N2、H6N3、H6N4、H6N5、H6N6、H6N7、H6N8、H6N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N5、H7N7、H7N8、H7N9、H9N1、H9N2、H9N3、H9N5、H9N6、H9N7、H9N8、H10N1、H10N3、H10N4、H10N6、H10N7、H10N8、H10N9、H11N2、H11N3、H11N6、H11N9、H12N1、H12N4、H12N5、H12N9、H13N2、H13N6、H13N8、H13N9、H14N5、H15N2、H15N8、H15N9およびH16N3から選択することができる。より具体的には、インフルエンザAウイルスは、H1N1、H3N2、H7N7、H5N1から選択される。さらにより具体的には、インフルエンザAウイルスは、Puerto Rico/8/34株、トリインフルエンザウイルス単離株H5N1、トリインフルエンザA/FPV/Bratislava/79株(H7N7)、A/WSN/33株(H1N1)、A/Panama/99株(H3N2)、またはブタインフルエンザ株H1N1、例として、A/HH/04/2009である。
【0029】
インフルエンザウイルスは、インフルエンザBウイルスであり得る。特に、インフルエンザBウイルスは、代表的なビクトリア系統および代表的な山形系統から選択することができる。
【0030】
本発明の方法において利用するインフルエンザウイルス複製の調節物質は少なくとも、核酸、リボザイム等の核酸類似体、ペプチド、ポリペプチド、抗体、アプタマー、スピーゲルマー、小型分子、およびデコイ核酸からなる群から選択することができる。
【0031】
インフルエンザウイルス複製の調節物質は、1000ダルトン未満または500ダルトン未満の分子量を有する化合物であり得る。本発明の文脈において、「小型分子」は、1000ダルトン未満または500ダルトン未満の分子量を有する化合物を指す。
【0032】
本発明において利用する核酸は、アンチセンス核酸またはアンチセンス核酸をコードするDNAであり得る。
【0033】
本発明において利用する核酸または/および核酸断片は、少なくとも15ヌクレオチド長、好ましくは、少なくとも17ヌクレオチド長、より好ましくは、少なくとも19ヌクレオチド長、最も好ましくは、少なくとも21ヌクレオチド長を有することができる。核酸または/および核酸断片は、最大29ヌクレオチド長、好ましくは、最大27ヌクレオチド長、より好ましくは、最大25ヌクレオチド長、とりわけより好ましくは、最大23ヌクレオチド長、最も好ましくは、最大22ヌクレオチド長を有することができる。
【0034】
本発明において利用する核酸は、マイクロRNA(miRNA)、その前駆体、断片または誘導体であり得る。miRNAは、本明細書に記載する核酸の長さを有することができる。miRNAは、特に、約22ヌクレオチド長、より好ましくは、22ヌクレオチド長を有することができる。
【0035】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つのインフルエンザウイルス複製阻害剤を、場合により、薬学的に許容できる担体、アジュバント、希釈剤または/および添加剤と一緒に含む、インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療のための医薬組成物である。
【0036】
本発明の医薬組成物においては、少なくとも1つの阻害剤を、核酸、リボザイム等の核酸類似体、ペプチド、ポリペプチドおよび抗体、ならびに1000ダルトンを下回る分子量を有する化合物からなる群から選択することができる。
【0037】
インフルエンザウイルス感染は、本明細書に記載するように、インフルエンザAウイルス感染またはインフルエンザBウイルス感染であり得る。
【0038】
本発明の医薬組成物中の少なくとも1つの阻害剤は、遺伝子発現または/および遺伝子産物の活性を調節することが可能であり得る。発現または/および遺伝子産物の活性の調節は、本明細書に記載するように、活性化であり得る。発現または/および遺伝子産物の活性の調節は、本明細書に記載するように、阻害であり得る。
【0039】
阻害剤は、本明細書に記載する調節物質であり得る。
【0040】
医薬組成物は、RNAまたはDNAである核酸を含むことができる。好ましくは、医薬組成物中の核酸は、
(a)RNA、その類似体および誘導体、
(b)DNA、その類似体および誘導体、ならびに
(c)(a)と(b)との組合せ
から選択される。
【0041】
本発明の医薬組成物においては、少なくとも1つの阻害剤は、
(a)表1、表2、表3および表4の配列から選択されるヌクレオチド配列を含む核酸、
(b)(a)の配列の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の長さを有する、(a)の配列の断片、
(c)(a)もしくは/および(b)の配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%同一である配列を含む核酸、または/ならびに
(d)(a)、(b)もしくは/および(c)の配列に相補的な配列
を含むことができる。
【0042】
医薬組成物においては、(a)の核酸は、好ましくは、表4の配列から選択されるヌクレオチド配列およびその断片を含む。
【0043】
本発明の医薬組成物中のインフルエンザウイルス複製の適切な阻害剤は、RNA干渉が可能であるRNA分子である。本発明の医薬組成物中の核酸は、
(i)RNA干渉が可能であるRNA分子、例として、siRNAもしくは/およびshRNA、
(ii)miRNA、
(iii)(i)もしくは/および(ii)のRNA分子の前駆体、
(iv)(i)、(ii)もしくは/および(iii)のRNA分子の断片、
(v)(i)、(ii)、(iii)もしくは/および(iv)のRNA分子の誘導体、または/ならびに
(vi)(i)、(ii)、(iii)もしくは/および(iv)のRNA分子をコードするDNA分子
を含むことができる。
【0044】
好ましい核酸は、
(i)miRNA、
(ii)(i)のRNA分子の前駆体、または/ならびに
(iii)(i)のRNA分子もしくは/および(ii)の前駆体をコードするDNA分子
である。
【0045】
さらに別の好ましい核酸は、
(i)RNA干渉が可能であるRNA分子、例として、siRNAもしくは/およびshRNA、
(ii)(i)のRNA分子の前駆体、または/ならびに
(iii)(i)のRNA分子もしくは/および(ii)の前駆体をコードするDNA分子
である。
【0046】
RNA干渉が可能であるRNA分子は、その開示が参照により本明細書に含まれているWO02/44321に記載されている。マイクロRNAは、その開示が参照により本明細書に含まれているBartel D(Cell 136:215〜233頁、2009年)に記載されている。
【0047】
本発明のRNA分子は、二本鎖RNA分子、好ましくは、一本鎖オーバーハングが、単独で1つの末端にまたは両方の末端にある場合またはない場合の二本鎖siRNA分子であり得る。siRNA分子は、少なくとも1つのヌクレオチド類似体または/およびデオキシリボヌクレオチドを含むことができる。
【0048】
本発明のRNA分子は、shRNA分子であり得る。shRNA分子は、少なくとも1つのヌクレオチド類似体または/およびデオキシリボヌクレオチドを含むことができる。
【0049】
本発明の医薬組成物においては、核酸は、アンチセンス核酸またはアンチセンス核酸をコードするDNAであり得る。
【0050】
本発明の医薬組成物においては、核酸は、少なくとも15ヌクレオチド長、好ましくは、少なくとも17ヌクレオチド長、より好ましくは、少なくとも19ヌクレオチド長、最も好ましくは、少なくとも21ヌクレオチド長を有することができる。本発明の医薬組成物においては、核酸は、最大29ヌクレオチド長、好ましくは、最大27ヌクレオチド長、より好ましくは、最大25ヌクレオチド長、とりわけより好ましくは、最大23ヌクレオチド長、最も好ましくは、最大21ヌクレオチド長を有することができる。
【0051】
本発明の医薬組成物は、抗体を含むことができる。好ましくは、抗体は、
(a)表1、表2、表3および表4の配列ならびにそれらの相補配列から選択される核酸もしくは/および遺伝子がコードするアミノ酸配列、
(b)(a)の配列の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の長さを有する、(a)の配列の断片、または/ならびに
(c)(a)もしくは/および(b)の配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%同一である配列を含むアミノ酸配列
を含むポリペプチドに対して作られる。
【0052】
好ましくは、医薬組成物は、表4から選択される核酸または/および遺伝子がコードするアミノ酸配列を含む(a)のポリペプチドを含む。
【0053】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体、キメラ抗体、キメラの単鎖抗体、Fab断片、またはFab発現ライブラリーにより産生された断片であり得る。
【0054】
本発明の抗体を調製する技法は、当業者に既知である。モノクローナル抗体は、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法またはEBV-ハイブリドーマ技法により調製することができる(Kohlerら、1975年、Nature 256:495〜497頁、Kozborら、1985年、J. Immunol. Methods 81、31〜42頁、Coteら、PNAS、80:2026〜2030頁、Coleら、1984年、Mol. Cell Biol. 62:109〜120頁)。キメラ抗体(マウス/ヒト)は、Morrisonら(1984年、PNAS、81:6851〜6855頁)、Neubergerら(1984年、312:604〜608頁)、およびTakedaら(1985年、Nature 314:452〜454頁)の方法を実施することによって調製することができる。単鎖抗体は、当業者に既知の技法により調製することができる。
【0055】
組換え免疫グロブリンライブラリー(Orlandiら、1989年、PNAS 86:3833〜3837頁、Winterら、1991年、Nature 349:293〜299頁)をスクリーニングして、本発明の抗体を得ることができる。ランダムコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(Burton、1991年、PNAS、88:11120〜11123頁)を使用して、異なるイディオタイプ組成を有する関連の特異性を示す抗体を生成することができる。
【0056】
抗体産生のための別の戦略は、in vivoにおけるリンパ球集団の刺激である。
【0057】
さらに、本発明の(F(ab')2断片を含有する)抗体断片を、例えば、ペプシンによる、抗体のプロテアーゼ消化によって調製することもできる。そのようなF(ab')2断片のジスルフィド結合を還元すると、Fab断片が生じる。別のアプローチでは、Fab断片を、Fab発現ライブラリーから直接得ることができる(Huseら、1989年、Science 254:1275〜1281頁)。
【0058】
本発明のポリクローナル抗体は、表1、表2、表3および表4から選択される核酸もしくは/および遺伝子がコードするアミノ酸配列またはその免疫原性断片を抗原として利用して、宿主、例えば、ウマ、ヤギ、ウサギ、ヒト等の標準的な免疫化プロトコールにより調製することができ、これらの標準的な免疫化プロトコールは、当業者に既知である。
【0059】
抗体は、標的遺伝子の遺伝子産物に特異的な抗体、特に、標的遺伝子がコードするポリペプチドまたはタンパク質に特異的な抗体であり得る。
【0060】
アプタマーおよびスピーゲルマーは、抗体と結合特性を共有する。アプタマーおよびスピーゲルマーは、標的分子に特異的に結合するように設計される。
【0061】
本発明の核酸は、(a)アプタマー、(b)アプタマーをコードするDNA分子、および(c)スピーゲルマーから選択することができる。
【0062】
アプタマーは、当業者に既知である。本発明において、「アプタマー」は、標的分子に結合することができる核酸であり得る。アプタマーを、(例えば、>1015個の異なる核酸配列を含む)コンビナトリアル核酸ライブラリーにおいて、固定化された標的分子に結合させ、それに続き、核酸配列を同定することによって同定することができる。特異性を改善するために、この選択手順を1回または複数回繰り返すことができる。当業者には、所定の分子に特異的に結合するアプタマーを産生するのに適切な方法が既知である。アプタマーは、本明細書に記載する核酸の長さを有することができる。アプタマーは、300ヌクレオチド長まで、200ヌクレオチド長まで、100ヌクレオチド長まで、または50ヌクレオチド長まで有することができる。アプタマーは、少なくとも10ヌクレオチド長、少なくとも15ヌクレオチド長、または少なくとも20ヌクレオチド長を有することができる。アプタマーは、DNA分子によりコードされ得る。アプタマーは、本明細書に記載するように、少なくとも1つのヌクレオチド類似体または/および少なくとも1つのヌクレオチド誘導体を含むことができる。
【0063】
スピーゲルマーは、当業者に既知である。本発明において、「スピーゲルマー」は、標的分子に結合することができる核酸であり得る。当業者には、所定の分子に特異的に結合するスピーゲルマーを産生するのに適切な方法が既知である。スピーゲルマーは、ヌクレアーゼ耐性である結合を形成することが可能であるヌクレオチドを含む。好ましくは、スピーゲルマーは、Lヌクレオチドを含む。より好ましくは、スピーゲルマーは、L-オリゴヌクレオチドである。スピーゲルマーは、本明細書に記載する核酸の長さを有することができる。スピーゲルマーは、300ヌクレオチド長まで、200ヌクレオチド長まで、100ヌクレオチド長まで、または50ヌクレオチド長まで有することができる。スピーゲルマーは、少なくとも10ヌクレオチド長、少なくとも15ヌクレオチド長、または少なくとも20ヌクレオチド長を有することができる。スピーゲルマーは、本明細書に記載するように、少なくとも1つのヌクレオチド類似体または/および少なくとも1つのヌクレオチド誘導体を含むことができる。
【0064】
デコイ核酸は、当業者に既知である。本発明において、「デコイ」または「デコイ核酸」は、核酸結合性タンパク質、例として、DNA結合性タンパク質に特異的に結合することが可能である核酸であり得る。デコイ核酸は、DNA分子、好ましくは、二本鎖DNA分子であり得る。デコイ核酸は、核酸結合性タンパク質によって認識され得る、「認識配列」と呼ばれる配列を含む。認識配列は、好ましくは、少なくとも3ヌクレオチド長、少なくとも5ヌクレオチド長、または少なくとも10ヌクレオチド長を有する。認識配列は、好ましくは、15ヌクレオチド長まで、20ヌクレオチド長まで、または25ヌクレオチド長までを有する。核酸結合性タンパク質の例は、転写因子であり、これらは、好ましくは、二本鎖DNA分子に結合する。本明細書に記載するように、細胞、胚発育卵または/および非ヒト動物へのデコイ核酸のトランスフェクションにより、デコイ核酸が結合する核酸結合性タンパク質の活性の低下が生じ得る。本明細書に記載するデコイ核酸は、本明細書に記載する核酸分子の長さを有することができる。デコイ核酸分子は、300ヌクレオチド長まで、200ヌクレオチド長まで、100ヌクレオチド長まで、50ヌクレオチド長まで、40ヌクレオチド長まで、または30ヌクレオチド長までを有することができる。デコイ核酸は、少なくとも3ヌクレオチド長、少なくとも5ヌクレオチド長、少なくとも10ヌクレオチド長、少なくとも15ヌクレオチド長、または少なくとも20ヌクレオチド長を有することができる。デコイ核酸は、DNA分子によりコードされ得る。デコイ核酸は、本明細書に記載するように、少なくとも1つのヌクレオチド類似体または/および少なくとも1つのヌクレオチド誘導体を含むことができる。
【0065】
本明細書に記載する医薬組成物は、好ましくは、ヒトまたは動物の医療において使用するためのものである。
【0066】
前記主張のいずれかに記載の医薬組成物は、少なくともインフルエンザウイルス感染の阻害剤を、細胞内、特に、肺の上皮細胞内に輸送するのに適した薬剤をさらに含む。
【0067】
医薬組成物における担体は、送達システムを含むことができる。当業者には、本発明の医薬組成物に適している送達システムが既知である。医薬組成物を、裸の核酸の形態で、ウイルスベクターと組み合わせて、リポソーム、ナノ粒子または/および高分子を含めた、非ウイルスベクターと組み合わせて送達することができる。医薬組成物または/および核酸を、エレクトロポレーションにより送達することができる。
【0068】
裸の核酸は、RNA、改変されたRNA、DNA、改変されたDNA、RNA-DNAのハイブリッド、アプタマー融合物、プラスミドDNA、ミニサークル、トランスポゾンを含む。
【0069】
ウイルスベクターは、ポックスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、アルファウイルス、麻疹ウイルス、ポリオウイルス、B型肝炎ウイルス、レトロウイルスおよびレンチウイルスを含む。
【0070】
リポソームは、安定な核酸-脂質の粒子(stable nucleic acid-lipid particle)(SNALP)、カチオン性リポソーム、カチオン性カルジオリピン類似体に基づいたリポソーム、中性リポソーム、リポソーム-ポリカチオン-DNA、カチオン性イムノリポソーム、イムノリポソーム、コレステロールの親油性誘導体を含有するリポソーム、ラウリン酸およびリトコール酸を含む。リポソームの形成に適している化合物の例は、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DLPE);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS);コレステロール(CHOL);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)である。
【0071】
ナノ粒子は、CaCO3ナノ粒子、キトサンコートナノ粒子、葉酸化脂質ナノ粒子(folated lipid nanoparticle)、ナノサイズの核酸担体を含む。
【0072】
高分子は、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリエステルアミン(PEA)、ポリエチレングリコール(PEG)-オリゴコンジュゲート、PEGリポソーム、高分子ナノ球体を含む。
【0073】
医薬組成物は、アテロコラーゲン、カーボンナノチューブ、シクロデキストリン含有ポリカチオン、融合タンパク質(例えば、プロタミン-抗体のコンジュゲート)と組み合わせて送達することができる。
【0074】
本明細書に記載するRNA分子または/およびDNA分子は、少なくとも1つのヌクレオチド類似体を含むことができる。本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド類似体」は、核酸中の骨格、少なくとも1つのリボース、少なくとも1つの塩基、3'末端または/および5'末端における改変に適している構成ブロックを指すことができる。骨格の改変は、ホスホロチオエート連結(PT);ペプチド核酸(PNA);モルホリノ核酸;骨格窒素を含有するホスホロアミデート連結DNA(PAS)を含む。リボースの改変は、ロックド核酸(LNA)、例えば、リボースの2'酸素と4'炭素とをつなぐメチレン架橋を有するもの;2'-デオキシ-2'-フルオロウリジン;2'-フルオロ(2'-F);2'-O-アルキル-RNA(2-O-RNA)、例えば、2'-O-メチル(2'-O-Me)、2'-O-メトキシエチル(2'-O-MOE)を含む。改変された塩基は、2'-フルオロピリミジンであり得る。5'の改変は、5'-TAMRA-ヘキシルリンカー、5'-リン酸、5'-アミノ、5'-アミノ-C6リンカー、5'-ビオチン、5'-フルオレセイン、5'-テトラクロロ-フルオレセイン、5'-ピレン、5'-チオール、5'-アミノ、(12炭素)リンカー、5'-ダブシル、5'-コレステロール、5'-DY547(Cy3(商標)代替)を含む。3'末端の改変は、3'-反転デオキシチミジン、3'-ピューロマイシン、3'-ジデオキシ-シチジン、3'-コレステロール、3'-アミノ修飾物質(6原子)、3'-DY547(Cy3(商標)代替)を含む。
【0075】
特に、本明細書に記載するヌクレオチド類似体は、siRNA、アンチセンスRNAおよびアプタマーにおいて適した構成ブロックである。
【0076】
本明細書で使用する場合、「核酸類似体」は、少なくとも1つの本明細書に記載するヌクレオチド類似体を含む核酸を指す。さらに、本明細書に記載する核酸分子は、少なくとも1つのデオキシリボヌクレオチドおよび少なくとも1つのリボヌクレオチドを含むこともできる。
【0077】
本発明のRNA分子は、少なくとも1つのデオキシリボヌクレオチドまたは/および少なくとも1つのヌクレオチド類似体を含むことができる。本発明のDNA分子は、少なくとも1つのリボヌクレオチドまたは/および少なくとも1つのヌクレオチド類似体を含むことができる。
【0078】
本明細書に記載する誘導体は、化学的に改変された化合物を指す。本明細書に記載する核酸分子の誘導体は、化学的に改変されている核酸分子を指す。改変は、核酸分子中または/および核酸の産生において利用する少なくとも1つの核酸の構成ブロック中に導入することができる。
【0079】
本発明において、用語「断片」は、核酸、ポリペプチドおよびタンパク質の断片を指す。また、「断片」は、核酸、ポリペプチドおよびタンパク質の部分的な配列も指す。
【0080】
本発明において利用するポリペプチドまたは/およびペプチドの断片、特に、表1、表2、表3および表4から選択される核酸または/および遺伝子がコードするアミノ酸配列の断片は、少なくとも5アミノ酸残基長、少なくとも10アミノ酸残基長、または少なくとも20アミノ酸残基長を有することができる。前記断片は、最大200アミノ酸残基長、最大100アミノ酸残基長、最大60アミノ酸残基長、または最大40アミノ酸残基長であり得る。
【0081】
本明細書に記載するアミノ酸配列の断片は、配列の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%の長さを有することができる。
【0082】
本明細書に記載するヌクレオチド配列の断片は、配列の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%の長さを有することができる。
【0083】
表1、2、3および4に示す核酸分子の断片は、1000ヌクレオチド長まで、2000ヌクレオチド長まで、または3000ヌクレオチド長まで有することができる。核酸断片は、本明細書に記載するsiRNA分子、miRNA分子、アプタマー、スピーゲルマーまたは/およびデコイの長さを有することができる。また、核酸断片は、300ヌクレオチド長まで、200ヌクレオチド長まで、100ヌクレオチド長まで、または50ヌクレオチド長まで有することもできる。また、核酸断片は、少なくとも3ヌクレオチド長、少なくとも5ヌクレオチド長、少なくとも10ヌクレオチド長、少なくとも15ヌクレオチド長、または少なくとも20ヌクレオチド長を有することもできる。
【0084】
本発明において、特定の実施形態は、任意の個々の本出願に記載する遺伝子、核酸配列または/および遺伝子産物を指す。特定の実施形態では、個々の遺伝子は、表1、表2、表3および表4に記載する遺伝子から選択される。別の特定の実施形態では、個々の遺伝子産物は、表1、表2、表3および表4に記載する遺伝子により産生される遺伝子産物から選択される。さらに別の特定の実施形態では、個々の核酸配列は、表1、2、3および4に記載する核酸分子から選択される。さらなる特定の実施形態は、表1、2、3および4に記載する遺伝子、遺伝子産物および核酸分子の任意の組合せを指す。
【0085】
本発明において、表4という場合、ACTN1、ATP6AP2、ATP6V1B2、BNIP3L、BRUNOL6、CUEDC2、CYC1、FNTB、GCLC、GNRH2、GRIN2C、GRP、HARBI1、HSPD1、ICAM2、KCNJ12、KPNB1、LAMC2、LOC440733、MKL1、MRPS12、MYEF2、NDUFV3、NECAP2、ODZ4、PIK3R6、PPARA、RAB4A、SCAF1、SCARB1、SERPINA6、SERPINB2、SERPINE2、SEZ6L2、TBL3、TRERF1、TRIM60およびTUBB4から選択される標的、遺伝子または/およびヌクレオチド配列について言及する。
【0086】
また、本発明において、表4という場合、ACTN1、BNIP3L、BRUNOL6、CUEDC2、CYC1、GCLC、GNRH2、GRIN2C、GRP、HARBI1、HSPD1、ICAM2、KCNJ12、LAMC2、LOC440733、MKL1、MRPS12、MYEF2、NDUFV3、NECAP2、ODZ4、PIK3R6、PPARA、RAB4A、SCAF1、SCARB1、SERPINA6、SERPINB2、SERPINE2、SEZ6L2、TBL3、TRERF1、TRIM60およびTUBB4から選択される標的遺伝子または/およびヌクレオチド配列についても言及することができる。
【0087】
本発明のさらに別の態様は、インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療のための医薬または/およびワクチンを製造するための、表1、表2、表3および表4から選択される遺伝子の発現を阻害もしくは活性化することまたは/ならびにその遺伝子産物を阻害もしくは活性化することが可能であるインフルエンザウイルス複製阻害剤の使用である。好ましくは、遺伝子は、表4から選択される。好ましくは、例えば、siRNAにより、阻害すると、本明細書に開示するように、ウイルスの産生を減少させる遺伝子は活性化され、例えば、siRNAにより、阻害すると、本明細書に開示するように、ウイルスの産生を増加させる遺伝子は阻害される。
【0088】
本発明の文脈において、「医薬または/およびワクチンの製造」は、インフルエンザウイルスの産生を包み、インフルエンザウイルスの量を、表1、2、3および4、好ましくは、表4から選択される遺伝子を活性化するかまたは阻害することによって増加させる。医薬または/およびワクチンの生成において、好ましくは、例えば、siRNAにより、阻害すると、本明細書に開示するように、ウイルスの産生を減少させる遺伝子は活性化され、例えば、siRNAにより、阻害すると、本明細書に開示するように、ウイルスの産生を増加させる遺伝子は阻害される。
【0089】
本発明のさらに別の態様は、インフルエンザウイルスの産生ための方法であり、インフルエンザウイルスの量を、表1、2、3および4、好ましくは、表4から選択される遺伝子を活性化するかまたは阻害することによって増加させる。インフルエンザウイルスの産生において、好ましくは、例えば、siRNAにより、阻害すると、本明細書に開示するように、ウイルスの産生を減少させる遺伝子は活性化され、例えば、siRNAにより、阻害すると、本明細書に開示するように、ウイルスの産生を増加させる遺伝子は阻害される。インフルエンザウイルスの産生ための方法において、活性化により、ウイルスの産生の増加が生じる場合には、表1、2、3および4、好ましくは、表4から選択される少なくとも1つの遺伝子を過剰発現させることができる。
【0090】
インフルエンザウイルスを、例えば、胚発育卵または/および細胞培養物中で産生するための適切な方法は、現況技術において既知である。
【0091】
本発明のさらに別の態様は、インフルエンザウイルス感染を予防、軽減または/および治療する方法であり、この方法は、本明細書に記載するように、治療有効量のインフルエンザウイルス複製阻害剤を、それを必要とする対象に投与するステップを含む。インフルエンザウイルス感染を予防、軽減または/および治療する方法において、本明細書に記載する送達システムおよび送達方法を使用することができる。
【0092】
本発明のさらに別の態様は、インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療に適している化合物または/および標的についてスクリーニングするための方法における、表1、表2、表3および表4から選択される遺伝子配列または/およびヌクレオチド配列を含む核酸ならびにその断片の使用である。好ましくは、少なくとも2つの核酸の組合せを使用する。また、核酸または組合せが表4から選択されるのも好ましい。組合せは、好ましくは、表1、2、3および4から選択される、より好ましくは、表4から選択される遺伝子の発現または/および活性を阻害することができる。
【0093】
本発明を、以下の図、表および実施例によりさらに例証する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】ゲノム全域にわたるRNAiスクリーニングが、インフルエンザの感染サイクルにとって必要な宿主の因子を明らかにすることを示す図である。a:スクリーニングの手順の概要。b:細胞コンパートメントのGOに従って濃縮された用語の負の対数(p値)。オントロジー当たりの同定された因子の数、GO用語と関連がある遺伝子の数、および濃縮係数を示す。c:STRING相互作用データベースを使用して評価した場合の、RNAスプライシングと関連があるヒットの間における相互作用。緑色の円:一次ヒット;白色の円:非ヒット。リボゾームおよびスプライソゾームの多タンパク質複合体のメンバーを、より大きな円の中に囲い込む。太い灰色の境界は、Reactome解析において同定したヒットを示す(図10を参照されたい)。
【図2a】宿主細胞の因子が、広い範囲のインフルエンザウイルス変異体の複製に影響を及ぼすことを示す図である。4つの独立した実験において、A549細胞に、1つの遺伝子当たり4つのsiRNAを個々にトランスフェクトし、続いて、インフルエンザA/WSN/33ウイルスまたはインフルエンザA/Hamburg/04/2009ウイルスを(いずれも、0.001のMOIで)感染させた。感染性ウイルス粒子(IVP)を、複製アッセイを使用して、48h p.i.に定量化し、阻害の正規化パーセントを計算することによって解析した。プラーク形成単位(PFU)を、複製アッセイを使用して、20h p.i.に定量化した。データは、二つ組の試料の平均+平均の標準誤差(S.E.M)を示す。
【図2b】宿主細胞の因子が、広い範囲のインフルエンザウイルス変異体の複製に影響を及ぼすことを示す図である。aにおいて妥当性が確認されたヒットのベン図である。プラーク形成単位(PFU)を、複製アッセイを使用して、20h p.i.に定量化した。データは、二つ組の試料の平均+平均の標準誤差(S.E.M)を示す。
【図2c】宿主細胞の因子が、広い範囲のインフルエンザウイルス変異体の複製に影響を及ぼすことを示す図である。A549細胞に、(指定する)siRNAをトランスフェクトし、次いで、(48時間後に)トリH5N1株(A/Vietnam/1203/2004、0.1のMOI)を感染させた。プラーク形成単位(PFU)を、複製アッセイを使用して、20h p.i.に定量化した。データは、二つ組の試料の平均+平均の標準誤差(S.E.M)を示す。
【図3】宿主細胞の因子の影響を受ける感染プロセスの詳細分析を示す図である。a:トランスフェクトしたA549細胞を、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに、3時間(上部パネル)および5時間(下部パネル)感染させた(5のMOI)。試料を、核(青色)およびNP(緑色)について染色した。b:48h p.t.に、A549細胞を、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに感染させた(1のMOI)。2h p.i.に、vRNAおよびウイルスmRNAを、qRT-PCRにより定量化した。RNAのレベルを、非標的(Allstars)siRNAの対照に対して正規化した。c:トランスフェクトしたA549細胞を、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに45分間感染させた(10のMOI)。試料を、インフルエンザウイルス(緑色)およびCD63(赤色)について染色した。画像は、aおよびcにおける3つの独立した実験を代表する。
【図4】p27およびCLK1の、インフルエンザAウイルス感染に対する影響の綿密な解析を示す図である。a:初代NHBE細胞におけるsiRNA媒介性の標的のノックダウン後のウイルス複製の、複製アッセイを使用する定量化を示す図である。細胞を、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに、48h p.t.に感染させた(0.1のMOI)。b:A549細胞を、TG003(50μΜ)またはDMSOを用いて24時間かけて前処理し、それに続いて、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに感染させた(0.01のMOI)。IVPを、40h p.i.に定量化した。c、d:RNAのレベル(c)またはタンパク質のレベル(d)で示す、CLK1をTG003により阻害した後のスプライスされたM2対スプライスされていないM1の比。A549細胞を、TG003(50μΜ)またはDMSOを用いて、2時間または24時間かけて前処理し、次いで、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに5時間感染させた(4のMOI)。e:C57BL/6の野生型マウスまたはホモ接合型p27-/-マウス(n=4)を、インフルエンザA/Puerto Rico/8/34ウイルス(10×LD50)に、48h p.i.に鼻腔内から感染させた。肺内のIVPを定量化した。スチューデントのt検定を使用して、p値を決定した。*p=0.041。a、bにおけるデータは、3つの独立した実験の平均+標準偏差(SD)である。c、dにおけるブロットは、3つの独立した実験を代表する。
【図5】スクリーニングの対照を示す図である。非標的(Allstars)の対照試料および阻害性(siNP)の対照試料を、抗NP抗体を用いて染色し、自動顕微鏡法により解析した代表的な画像を示す図である。b:293Tレポーター細胞上に移した、対応する上清から出た光の単位を示すグラフである。
【図6】スクリーニングのデータの相対頻度分布を示す図である。全てのスクリーニング試料および対照についての、ルシフェラーゼレポーターアッセイ(左のパネル)、感染した細胞のパーセント(中央のパネル)、および感染した細胞の数(右のパネル)から得られたデータを示す図である。全てのデータは、プレートの中央値に対して正規化されている。
【図7】全てのsiRNAスクリーニングプレートについて計算したピアソンの相関係数のヒストグラムを示す図である。全てのsiRNAスクリーニングプレートから得られた、感染した細胞の数の正規化した値についてのペアワイズ相関の分布を示す図である。青色の線は、全てのプレートを示し、赤色の線は、反復したセットを示す。試料ウエルに由来する値のみを使用して、相関係数を計算した。対照のウエルの値は、この解析から除外した。
【図8】RNAiスクリーニングのデータ解析のワークフローを示す図である。データ解析の手順(左のパネル)および関連の適用した閾値(右のパネル)を示す。3つの読み出しパラメータ全てから得られた生のスクリーニングのデータを、各段階において統計学的閾値が組み込まれている解析のパイプラインに付した。データ解析のワークフローを別個に、3つの読み出し全てについて行い、それぞれの最終のヒットのリストを組み合わせて、287個の因子の最終的な一次ヒットのリストを得た。
【図9】遺伝子の濃縮の解析を示す図である。分子機能、生物学的プロセスおよび細胞コンパートメントの遺伝子オントロジーに従って濃縮された用語の負のLog10(p値)を示す図である。バーの値は、オントロジー当たりの同定された因子の数、用語と関連がある遺伝子の数、および濃縮係数を示す。
【図10】Reactome解析を示す図である。一次スクリーニングにおいて同定された287個の「高い信頼性の」ヒットを、ヒト細胞中の生物学的経路のデータベースであるオンラインウェブ資源のReactome(http://www.reactome.org)を使用して分析した。各経路は、事象と呼ばれる。ヒットを、遺伝子-識別子として、「sky-painter」ツールを使用してアップロードして、ある事象から少なくともN個の遺伝子を観察する確率についての片側フィッシャーの直接確率検定を計算した。104個の識別子が、4374個の事象のうちの399個とマッチし得た。いくつかのカテゴリー、例として、遺伝子発現(p=3.4e-07、29/384)、転写(p=1.1e-03、14/198)、膜移動(2.5e-03、6/50)、またはインフルエンザ感染(1.9e-04、15/187)およびHIV感染(2.5e-01、14/406)が顕著な過剰提示を示した。単一の事象を、マッチする識別子の数に従って、青色(1つのマッチする識別子)〜赤色(12個のマッチする識別子)に色分けする。ヒットの過剰提示を示す顕著なカテゴリーを色分けし、重要な事象には、矢印を使用してマークを付けた。いくつかの事象は、STRINGデータベースを使用してさらに解析した。(図11)
【図11】同定されたヒットの相互作用のネットワークを示す図である。STRING相互作用データベース(http://string.embl.de)を使用して評価した場合の、液胞型ATPアーゼ、核の輸送、被覆複合体の形成、および翻訳と関連があるヒットの間における相互作用を示す図である。緑色の円:一次ヒット;濃緑色の円:ショウジョウバエに基づいたインフルエンザのスクリーニングによってもまた同定された(13)一次ヒット。全てのヒットが、1つの大きな円内に、すなわち、1つの多タンパク質複合体、例えば、40Sリボゾームサブユニットのメンバーとして含まれる。太い灰色の境界を有するヒットはまた、Reactome経路解析(図10)にも含まれる。
【図12】WST-1アッセイにより決定した宿主細胞の生存率を示す図である。A549細胞に、指定したsiRNAをトランスフェクトし、続いて、48時間後に、WST-1試薬を添加して、siRNAのトランスフェクションに起因する最終的な毒性作用を解析した。2回の反復から得られた、バックグラウンドを減じた平均値を、ヒートマップとして示す。PLK1を標的とするsiRNAを、正の対照として使用した。siRNAの不足(1つの遺伝子当たり4つ未満)を、灰色のボックスによって示す。
【図13】宿主細胞の因子が、H1N1インフルエンザウイルス変異体の複製に影響を及ぼすことを示すグラフである。ここでも、A549細胞に、siRNAのサブセットをトランスフェクトし、(48時間後に)A/WSN/33ウイルス株(a)またはA/Hamburg/04/2009ウイルス株(b)を感染させた。ウイルスを含有する上清中のIVPを、複製アッセイを使用して決定した。感染率を、非標的(Allstars)をトランスフェクトした対照のパーセントとして表す。データは、二つ組の試料の平均+S.E.Mを示す。非標的対照(Allstars)をトランスフェクトした細胞は、A/WSN/33に感染させた上清中では、約1.8×106IVP/mlを、A/Hamburg/04/2009(A/H/04/09)ウイルスに感染させると、6.6×103IVP/mlを示した。阻害性のNPのsiRNAは、感染性粒子の量それぞれを、2.6.×104IVP/ml(A/WSN/33)および4.5×102IVP/ml(A/Hamburg/04/2009)に低下させた。
【図14】NPの発現の相対頻度分布を示す図である。3h p.i.における核のNPの平均値の相対頻度分布を示す図である。Allstars(AllstarsのW1およびW2)ならびにNP(siNPのW1およびW2)の対照の2つの別個のウエルから得られた値を示し、さらに、指定した標的遺伝子についての2つの独立したsiRNAについても示す。結果は、3つの独立した実験の代表的なプロファイルである。
【図15】NPの核からの排出の相対頻度分布を示す図である。5h p.i.における細胞質対核のNPの比の相対頻度分布を示す図である。Allstars(AllstarsのW1およびW2)ならびにNP(siNPのW1およびW2)の対照の2つの別個のウエルから得られた値を示し、さらに、指定した標的遺伝子についての2つの独立したsiRNAについても示す。結果は、3つの独立した実験の代表的なプロファイルである。
【図16】相対頻度分布間の差のp値を示すグラフである。片側コルモゴロフ-スミルノフの検定により評価した場合の、図14および15に示した試料の負のLog10(p値)を示すグラフである。
【図17】同時局在するウイルス粒子の定量化を示すグラフである。SONノックダウン細胞および対照細胞を、氷上でインキュベートした後に、インフルエンザAウイルス(A/WSN/33)に37℃で45分間感染させた。細胞を、記載に従って、固定し、インフルエンザAウイルスおよびCD63について染色した。本明細書の方法の記載に従って、共焦点写真を撮影し、同時局在化を決定した。ウイルス粒子の総数および同時局在する粒子を、ImageJの「Analyse particle」機能を使用して定量化した。全部で34個の細胞を、それぞれの状態について定量化した。図は、2つの独立した実験についての平均粒子数を示す。対照:黒色のバー;SONノックダウン:斜線のバー;**<0.005;平均の標準誤差(S.E.)を示す。
【図18】化学的CLK1阻害剤TG003の細胞生存率に対する影響を示すグラフである。A549細胞を、TG003(50μΜ、DMSO中に溶解させた)と、もしくはDMSOと共にインキュベートするか、または未処理で放置した。細胞生存率を、WST-1アッセイを製造元の指示に従って使用して、指定した時点で評価した。3回の反復から得られた平均値を示す。エラーバーは、標準偏差を示す。
【図19】化学的CLK1阻害剤TG003のVSVの複製に対する影響を示すグラフである。A549細胞を、TG003(50μΜ、DMSO中に溶解させた)またはDMSO(対照として)を用いて24時間かけて前処理し、それに続いて、VSVに感染させた(0.01のMOI)。感染後、阻害剤またはDMSOを、同一の濃度で再び添加した。処理した細胞または未処理の細胞の上清を、24h p.i.に収集し、感染性ウイルス粒子を、プラークをMDCK細胞上で検出することによって定量化した。
【発明を実施するための形態】
【0095】
表1、一次スクリーニングのデータおよびヒット。一次ヒットのリストおよびスクリーニングのデータを示す。CellHTSおよびGenedata Screener(登録商標)ソフトウエア解析から得られたz-スコア、ならびに特定のsiRNAをヒットとして分類するためのRSA解析を示す。平均細胞数を、細胞生存率についての指標として示す。750を下回る平均細胞数をもたらすsiRNAを、毒性を示すと定義した。また、マイクロアレイ解析により評価した場合の感染時の遺伝子発現の倍率変化、ならびに対応するp値および発現強度も示す。
表2、ヒットの妥当性確認のデータ。供給元が提供するsiRNA ID、WSTアッセイのデータ、および正規化したパーセント阻害のデータを、1つの遺伝子当たりの、両方の試験ウイルスについて妥当性が確認されたsiRNAの数と一緒に示す。
表3および4、実施例のsiRNAスクリーニングにおいて同定した標的。実施例1のsiRNAスクリーニングにおいて利用したオリゴヌクレオチド配列を開示する。標的遺伝子に特異的な最大4つのオリゴヌクレオチド配列(「siRNA1標的」、「siRNA2標的」、「siRNA3標的」、「siRNA4標的」)を利用した。
【実施例】
【0096】
インフルエンザウイルス複製のために極めて重要なヒト宿主細胞の因子の、ゲノム全域にわたるRNAiスクリーニングによる同定
概要
インフルエンザAウイルスは、季節性の異常発生および再発生するパンデミックの原因であり、公衆衛生に対する世界的脅威をもたらす(1)。高い突然変異率が、ウイルスがコードする標的に対して作られたワクチンおよび薬物を無効にする恐れがあるウイルスエスケープ突然変異体の発生を促進する(2)。対照的に、宿主にとっては一時的に欠失可能であるが、ウイルス複製にとっては極めて重要な宿主細胞の決定因子の標的化は、ウイルスエスケープを予防することができるであろう。
【0097】
この実施例では、ゲノム全域にわたるRNAiスクリーニングにおける、インフルエンザAウイルス複製に影響する287個のヒト宿主細胞の遺伝子の発見を記載する。我々は、独立したアッセイを使用して、地方性のH1N1のインフルエンザAウイルス株(119個のヒット)または現在の汎発性のブタ起源のインフルエンザAウイルス株(121個のヒット)のいずれかを阻害する168個のヒット(59%)を確認し、オーバーラップは60%であった。重要なことには、また、これら共通のヒットのうちのサブセットが、高病原性のトリH5N1株の複製にとっても不可欠であった。いくつかの因子の綿密な解析から、それらの感染段階の関連性についての洞察を得た。とりわけ、SON DNA結合性タンパク質(SON)(3)が、感染の早期の、インフルエンザウイルス粒子の後期エンドソームへの正常な移動にとって重要であることが見出された。また、我々は、CDC様キナーゼ1(CLK1)の小型分子の阻害剤(4)がインフルエンザウイルス複製を2桁超低下させること、すなわち、ウイルスのM2 mRNAのスプライシングの損傷と結び付く効果も示している。さらに、インフルエンザウイルス感染p27-/-(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤1B;Cdkn1b)マウスが、肺における顕著により低いウイルス力価を蓄積し、この遺伝子の重要性についてのin vivoにおける証拠を提供している。したがって、我々の結果は、ウイルス-宿主の相互作用の詳細分析および広い範囲のインフルエンザウイルスについての薬物標的の同定のための、ゲノム全域にわたるRNAiスクリーニングの効力を浮かび上がらせている。
【0098】
序論
インフルエンザウイルスは、感染の経過の間に、ウイルスの増殖にとって不可欠なまたは阻害性の宿主細胞の機能により構成される多数のボトルネックに遭遇する(5)。そのような重要な意味をもつ宿主細胞の決定因子についての包括的な知識があれば、ウイルスの複製の分子機構についての貴重な洞察が得られ、宿主細胞の因子を標的にし、したがって、耐性のウイルス突然変異体が選択される傾向を低下させる新規の世代の薬物の開発が促進され得るであろう。我々は、ヒト細胞中のウイルス感染サイクルに関与する宿主細胞の因子を同定するために、ゲノム全域にわたるRNAiスクリーニングを、二段階アプローチを使用して実施した(図1a)。すなわち、最初に、A549ヒト肺上皮細胞に、siRNAをトランスフェクトし、その48時間後に、インフルエンザA H1N1ウイルス(A/WSN/33)を感染させ、これらの細胞を、24h p.i.(感染の24時間後)に、ウイルスに特異的な抗体を用いて染色して、細胞の感染率をモニターした。次に、これらトランスフェクトしたA549細胞から得られたウイルス上清を、誘導性のインフルエンザウイルスに特異的なルシフェラーゼコンストラクト(FlaA)を含有する293Tヒト胚性腎臓レポーター細胞上に移した(6)。アッセイの信頼性を、インフルエンザウイルス核タンパク質(NP)mRNAに対して作られたsiRNAを用いて確認した(7)。NPのノックダウンは、免疫蛍光染色およびルシフェラーゼレポーターアッセイにより評価した場合、ウイルスの複製を有効に遮断した(図5)。統計学的解析により、我々のアッセイの対照(NPおよび非標的AllstarsのsiRNA)のロバスト性、ならびに結果の再現性がさらに確認された(図6および7)。我々は、この二部分からなるアッセイを使用して、約17,000個のアノテートされた遺伝子および約6,000個の予測される遺伝子を標的とする約62,000個のsiRNAからなる、ゲノム全域にわたるsiRNAライブラリーをスクリーニングした。
【0099】
一次ヒットの同定のために、3つのパラメータ、すなわち、ルシフェラーゼの発現、免疫蛍光顕微鏡法により決定した場合の感染した細胞のパーセント、および感染した細胞の総数を含めた。発現しなかった遺伝子および毒性を示すsiRNAを除いた後、3つのパラメータ全てから得られた一次スクリーニングのデータを、各ステップにおいて統計学的チェックポイントを有する解析のパイプラインに別個に付し、最後に、-2を下回るz-スコアに基づいて、ヒットの選択に至った(図8および方法)。3つのパラメータのそれぞれから得られた結果を組み合わせ、総数22,843個のヒト遺伝子(アノテートされた遺伝子および予測される遺伝子)から、287個が、指定された一次ヒットとなった(表1)。
【0100】
我々は、これらの高い信頼性の候補のうち、インフルエンザウイルス複製において極めて重要な役割を果たすことが既知のいくつかの遺伝子、例えば、核外輸送因子のNXF1(8)およびXPO1(9)、ならびに液胞型ATPアーゼのATP6V0D1(10、11)を見出した。遺伝子オントロジー(GO)用語濃縮度解析(Gene ontology (GO) term enrichment analysis)から、我々のデータセットは、プロトン輸送二部構成ATPアーゼ複合体(proton-transporting two-sector ATPase complex)、スプライソゾーム、リボソーム小サブユニット、真核生物翻訳開始因子3(EIF3)、COPI被覆輸送小胞(COPI coated vesicle transport)、および核膜孔複合体と関連がある遺伝子のカテゴリーにおいて著しく濃縮されていることが明らかになった(図1bおよび図9)。これらは、ウイルスの複製とすでに関連付けられている機能のカテゴリーをなす。Reactomeを使用するさらなるバイオインフォマティクス解析(12)により、GOの結果が裏付けられた(図10)。選択された、濃縮された機能のカテゴリーの、STRINGデータベースを使用した綿密な解析から、同じGO用語と関連がある因子間の多数の相互作用が明らかになった(図11)。興味深いことに、我々は、mRNA前駆体スプライシングと結び付く複数の因子を見出した(図1c)。これらの因子は、ショウジョウバエ細胞を使用した以前のRNAiスクリーニングにおける検出からは抜け落ちた(13)。しかし、リボソーム小サブユニットおよびEIF3は、ショウジョウバエに基づいたインフルエンザのスクリーニングでは濃縮された(13)が、その他のウイルスのRNAiスクリーニングでは濃縮されず(14、15、16、17)、このことは、これらの因子はインフルエンザに特異的であり得るであろうことを示している(18)。
【0101】
次に、我々は、287個の一次ヒット全ての、インフルエンザA/WSN/33(H1N1)ウイルスおよび現在の汎発性のブタ起源インフルエンザA/Hamburg/04/2009(H1N1)ウイルスの複製のための重大さを独立に究明した。siRNAをトランスフェクトしたA549細胞から放出されたウイルスの数を、上清をMadin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞上で滴定することによって決定した。各一次ヒットについて、4つの異なるsiRNAを個々に使用して、遺伝子機能をノックダウンした。我々は、287個の一次ヒットのうち、119個(A/WSN/33)および121個(A/Hamburg/04/2009)が、少なくとも2つのsiRNAに関して(図2a)、細胞生存率を損なうことなく(図12)、ウイルスの数を対照試料と比較して5倍超減少させることを見出した。全部で168個の一次ヒットについて、妥当性が確認され、約59%の全体的な妥当性確認率を含んだ。目覚しいことに、ウイルスの複製を阻害する因子のうち、72個が、両方のインフルエンザウイルス株に共通であり、このことは、それらの広い阻害の可能性を示している(図2bおよび表2)。
【0102】
妥当性確認を、高病原性のトリ起源のインフルエンザAウイルス、H5N1サブタイプ(A/Vietnam/1203/2004)にも、共通のsiRNAのサブセットを使用して行った。ノックダウン効率を、以下の表に示す(3つの独立した実験で得られたノックダウンのパーセント±標準偏差)。
【0103】
【表A】

【0104】
目覚しいことに、H5N1ウイルスの複製が、これらのsiRNAを使用すると、2桁超減少した(図2c)。同様に、同一の標的のノックダウンが、インフルエンザA/WSN/33(H1N1)ウイルスおよび汎発性のA/Hamburg/04/2009(H1N1)株の複製も阻害した(図13)。共通の因子のサブセットがブタ起源およびトリ起源のウイルスの変異体の両方の複製を遮断したという観察結果は、これらのタンパク質は、宿主-細胞のチェックポイントから独立した極めて重要なサブタイプを構成することを裏付けている。
【0105】
多様な機能のカテゴリーを代表し、両方のH1N1インフルエンザウイルスに影響を及ぼす18個の標的の生活環の関連性を、NPをウイルスリボ核タンパク質(vRNP)の局在化のマーカーとして免疫蛍光染色することによって評価した(19)。典型的には、vRNPは、感染の早期には、核に限局されるが、感染の後期には、後代のウイルス粒子中へのパッケージングのために、細胞質に進入する(19)。ここで、全ての標的をノックダウンすると、NPは、3h p.i.には、主として核シグナルを出し(図3a、上部パネル)、2時間後には、細胞質の染色にシフトした(図3a、下部パネル)。NXF1の阻害時のNP合成の予想された封鎖に加えて(8、20)、いくつかの同定されたヒット、例として、COPG、SONおよびATP6V0Cのノックダウンが、NPの発現レベルを低下させ(図3a、上部パネル)、核からのNPの排出を遅延させる(図3a、下部パネル)ように見えた。NPの発現の相対頻度分布の解析および単一細胞内の細胞質対核のNPの比により、我々の顕微鏡観察が裏付けられた(図14〜16)。全部で11個の遺伝子のノックダウンが、NPの発現を顕著に低下させ、NPの核からの排出を妨げた。
【0106】
我々は、NPの合成および局在化に影響を及ぼすことが示された標的の、ウイルスRNAの合成に対する影響を解析するために、siRNAをトランスフェクトした細胞をインフルエンザウイルスに感染させ、2h p.i.におけるウイルスゲノムRNA(vRNA)およびウイルスmRNAのレベルをqRT-PCRにより決定した(7)。解析した標的のうちのほとんどは、ロバストなvRNAの検出によって示す場合、ウイルスの細胞への進入に対して効果を示さなかった(図3b)。しかし、同定されたATPアーゼおよびSON(B型肝炎ウイルス粒子の産生を抑制することが既知であるタンパク質)(3)を含めた、多くの標的、ならびにRNA生合成に関与するいくつかの因子、例えば、NXF1について、ウイルスmRNAの合成が実質的に低下した(図3b)。このことは、ウイルスの増殖が、ウイルスの進入とmRNA合成との間の段階で影響を受けることを実証している。また、SONのノックダウンは、vRNAのレベルも低下させた(図3b)。このことは、SONが、ウイルスmRNAの合成に先行する感染のステップにおいて機能することを示している。したがって、SONをノックダウンすると、かなりより少ないウイルス粒子が、CD63により標識した後期エンドソームと同時局在し(図3c;図17)、このことは、この因子が、感染サイクルの早期のインフルエンザウイルス粒子の移動にとって重要であることを示唆している。興味深いことに、ヌクレオポリン98kDa(NUP98)のノックダウンにより、vRNAのレベルが増加し(図3b)、これは、新規のvRNA合成の加速に起因する可能性が高いが、同時に、ウイルス子孫が劇的に減少した(図2a;図13)。NUP98の報告されている抗ウイルス性の機能(8)およびプロウイルス性の機能(13)と一致して、これらの一見したところ矛盾する結果は、NUP98は、生活環の早期には阻害作用を発揮するが、ウイルスの複製の完了のためには必須であることを示唆している。総合すると、これらのデータは、(NPの発現レベルを低下させることが同定された)11個の標的は、ウイルス複製における早期の事象を妨げることを示している。対照的に、この一連の実験で解析した残りの7つの因子、例として、CLK1またはp27(CDKN1B)のノックダウンは恐らく、後の感染段階の間に機能を発揮する。
【0107】
我々は、in vivoにおける条件をより厳密に模倣するために、初代の正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)において、標的のノックダウンの、インフルエンザウイルス複製に対する作用を試験した。最も顕著には、CLK1およびATP6V0D1のノックダウンが、これらの細胞中のウイルスの増殖を強力に低下させた(図4a)。我々は、A549細胞を、CLK1の化学阻害剤であるTG003を用いて処理することによって、CLK1の機能を独立に評価した(4)。インフルエンザウイルスの増殖は93%超阻害された(図4b)が、検出可能な毒性作用は発揮されなかった(図18)。CLK1は、哺乳動物細胞中の代替のスプライシングを、スプライシング因子SF2/ASFをリン酸化することによって制御する(21、22)。したがって、我々は、CLK1の阻害が、ウイルスRNAのスプライシングに影響を及ぼすであろうと仮定した。仮定と一致して、TG003は、スプライスされたM2ウイルスRNAのレベルを低下させ、一方、スプライスされていないM1およびNS1/NS2は影響されなかった(図4c、データ未公開)。TG003を用いた処理後に、M2タンパク質のレベルは劇的に低下し、一方、M1タンパク質のレベルは比較的一定した状態を維持したことを示す、免疫ブロット解析により、我々のqRT-PCRの結果が裏付けられた(図4d)。SF2/ASF複合体は、スプライシングおよびスプライスされたウイルスmRNAの細胞質へのシャトリングにとって重要である(23)ことから、M2タンパク質の発現の低下は、少なくとも部分的には、ウイルスmRNA転写物が核に保持されることによって引き起こされたことが考えられる。CLK1は、ウイルスのM2 mRNAのプロセシングに関与するという我々の知見は、SF2/ASFスプライシング因子の、ウイルスM2イオンチャネルタンパク質の産生における不可欠な役割と一致する(24)。興味深いことに、水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、インフルエンザとは異なり、それ自体のウイルスRNAのスプライシングには依存せず、その複製は、TG003の存在下で若干低下するに過ぎなかった(図19)。
【0108】
一次スクリーニングおよびヒットの妥当性確認の間に、細胞周期制御因子p27のノックダウンにより、インフルエンザウイルス複製の強い阻害が生じた。in vivoにおける条件下で、p27の、ウイルスの複製に対する影響を確認するために、p27-/-マウスを、インフルエンザA/Puerto Rico/8/34(H1N1)ウイルスに鼻腔内から感染させた。2d p.i.において、p27-/-マウスの肺内のウイルス量が顕著に低下した(図4e)。p27の欠如は、in vivoにおけるインフルエンザウイルス複製を低下させるが、マウスの生存率には影響を及ぼさないという観察結果は、インフルエンザウイルス複製に関与する特定の細胞タンパク質が、宿主生物にとって欠失可能であることを示している。
【0109】
したがって、インフルエンザウイルス複製に影響を及ぼす因子についての、この最初のヒト細胞におけるゲノム全域にわたるRNAiスクリーニングから、複製の、宿主細胞の決定因子に関する新しいかつ包括的な情報が得られ、新規の抗ウイルス戦略のための潜在的な標的が解明されるに至った。我々は、CLK1および腫瘍抑制因子p27の役割についてのin vitroおよびin vivoにおける証拠を、小型分子の阻害剤およびホモ接合型のノックアウトモデルをそれぞれ使用して提供している。綿密に解析したヒットの大半が、早期の感染プロセス、例として、ウイルスタンパク質の合成およびウイルスRNAの核からの排出の間に機能するように見える。重要なことには、妥当性が確認されたヒットのうちのほとんどが、汎発性のブタ起源H1N1インフルエンザウイルスを、さらには、高病原性のトリH5N1株も含めた、広域のインフルエンザウイルスにとって不可欠である。このことから、薬物耐性変異体が発生する可能性を最小限に抑えた、これらの標的の、新規に現れるインフルエンザウイルスに対する治療の可能性が期待できる。結論として、季節性および汎発性のインフルエンザウイルス感染の再発の脅威に対する戦いにおいて、感染の間に特徴的な宿主細胞の機能を一過性に干渉することによって、ワクチンおよびウイルスを標的とする薬物からなる我々の現在の備えが拡大されると思われる。
【0110】
現在のスクリーニングにおいて、インフルエンザウイルスの増殖と関連がある、様々な細胞の機能が同定された。顕著に濃縮された機能のカテゴリーには、リボソーム小サブユニットおよび翻訳開始因子EIF3、スプライシング関連遺伝子、小胞(被覆複合体の形成)および核の輸送、ならびに液胞型ATPアーゼがある。対照的に、ショウジョウバエ細胞におけるインフルエンザウイルスのスクリーニングを含めた、その他のウイルスRNAiに基づいたスクリーニングにおいては、大部分、単一の代謝機能が、ヒットのリスト中に濃縮された(13、14、15、17)。この一般的な観察結果により、相同な宿主細胞モデルにおいてRNAiスクリーニングを実施することの効果が強化される。
【0111】
主要な細胞の機能に含まれたリボソーム小サブユニットおよび翻訳開始因子EIF3の構成成分は、最近のショウジョウバエに基づいたインフルエンザウイルスのスクリーニングでは濃縮された(13)が、その他のウイルスのRNAiスクリーニング(14〜17)では濃縮されなかった。その上、リボゾーム大サブユニットの単一の構成成分のみが、以前のスクリーニングにも、我々の現在のインフルエンザのスクリーニングにも含まれた。毒性は、我々のWSTアッセイ(図11を参照)、および生存細胞数(表1を参照)により決定した場合、ノックダウン細胞に対して主要な影響を与えなかった。Kittlerらは、これらの遺伝子のうちの多くのノックダウンが、細胞の周期(停止)および分裂に影響を及ぼすが、毒性は、最低限の数の例において交絡因子であることを見出した。ショウジョウバエCウイルスのスクリーニングは、リボゾーム小サブユニット遺伝子およびリボゾーム大サブユニット遺伝子が濃縮されることを同定し、この知見は、IRES媒介性の翻訳開始に結び付けられた(18)。インフルエンザmRNAの翻訳は、Cap依存性かつ5'-UTR媒介性の様式で開始され(Garfinkelら、Kashら)、EIF4F複合体内の開始因子EIF4Eが、ウイルスのポリメラーゼにより置換される(Burguiら)。他方、EIF4F複合体の別のメンバーであるEIF4GIは、NS1により標的とされ、特に、後期のウイルスmRNAの優先的な翻訳が増強される(Aragonら)。真核生物5'-UTR標的因子(eukaryotic 5'-UTR targeting factor)のGRSF-1もまた、インフルエンザmRNAの翻訳を増強するが、この因子は、我々のスクリーニングでは、ヒットであると同定されなかった(Kashら)。これらの既知の因子に加えて、その他の宿主細胞タンパク質も、ウイルスmRNAの翻訳の開始において重要な役割を果たすことができる(Burguiら)。その他のウイルススクリーニングではなく、2つのインフルエンザウイルスRNAiスクリーニングにおいて確定した翻訳機構の構成成分の同定から、これらの因子はインフルエンザウイルスAに特異的であり得るであろうことが示唆される。我々は、リボソーム小サブユニットおよびEIF3が、前開始複合体を完成し、これが、ウイルスに特異的、選択的な翻訳を開始し、恐らく、宿主細胞遺伝子の翻訳の阻害に寄与すると憶測している。
【0112】
mRNA前駆体スプライシングが、多様なウイルス系において、遺伝子発現に重要であることが既知の主要な細胞の機能である(例えば、Engelhardtらによる総説)ことから、我々は、この機能が我々のスクリーニングで同定されると予想した。にもかかわらず、ショウジョウバエによるインフルエンザウイルスのスクリーニングは、スプライシング因子の同じ濃縮を示さない。このことは、インフルエンザAウイルスの感染および複製についてのショウジョウバエ宿主細胞系の実験的な制限に起因し得、したがって、この実験系においては、その他のプロセスが重要であり得るであろう。このことはまた、我々が同定したその他の細胞プロセスにも当てはまり得るであろう。Konigら(17)は、多くのスプライシング因子を、彼らのHIVの早期複製のスクリーニングにおいて見出した。HIVのmRNAスプライシングは、非常に複雑なかつ高度に制御されたプロセスであり、このプロセスにより、異なるウイルスタンパク質の発現の連係およびスプライスされていないゲノムRNAの産生が確保される(例えば、Stoltzfusらによる総説)。Brassら(16)は、彼らのスクリーニングに含まれたHIV依存性の因子(HDF)から、いくつかのスプライシングに関連する因子を検出した。個々のフラビウイルスタンパク質は、スプライスされていないRNAから翻訳されたポリタンパク質から、翻訳時および翻訳後の切断により誘導される(例えば、Beasleyら)ので、スプライシング因子は、デングウイルスおよび西ナイルウイルスのヒットのリストでは、事実上欠落している(14、15)。さらに、液胞型ATPアーゼは、我々のスクリーニングおよび西ナイルウイルスのスクリーニングでは濃縮される(14)。両方のウイルスが、ファゴソームの酸性化を利用して、細胞質に進入する(例えば、Bouvierらによる総説)。単一の液胞型ATPアーゼのサブユニットはまた、ショウジョウバエに基づいたインフルエンザウイルスのスクリーニングにも含まれた(13)。
【0113】
ウイルスRNAが、細胞質へ排出されて、翻訳され、新しいウイルス粒子中に組み込まれるには、核輸送因子(nuclear transport factor)が必要である。細胞周期の制御およびその他の細胞プロセスに関与するサイクリン依存性キナーゼ阻害剤1B(p27、CDKN1Bとも)(Borrielloら)は、このネットワークと関連がある。特定のアミノ酸残基におけるリン酸化が、細胞の局在化を制御し、それによって、機能および安定性を制御する(Ishidaら、Connorら)。p27は、XPO1/RanGTPにより細胞質へ排出される。p27は、核内では、腫瘍抑制因子であり、一方、細胞質内では、転移促進能力を有する癌遺伝子として働く。この機能の多用途性(例えば、Borrielloらによる総説)のために、インフルエンザウイルス複製に関与するステップを追跡するのが困難となる。p27を多くのリボゾームサブユニットのノックダウン(上記を参照されたい)と関連がある細胞サイクルの停止に結び付けることは、今後の調査のための1つの有望な経路である。
【0114】
2つの異なるCOP小胞が、早期の分泌経路において作動する(Leeらによる総説)。COPII小胞が、小胞体(ER)からの流出および小胞体-ゴルジ中間区間(ERGIC)への輸送を媒介し、一方、COPI小胞は、ゴルジ体からERへのまたは異なるゴルジ嚢間の逆行輸送、および順行輸送に関与する。インフルエンザ糖タンパク質のHAおよびNAは、ERにおいて合成され、ゴルジ体へ輸送され、次いで、細胞膜へ移動する(Bouvierら)。したがって、宿主細胞の早期の分泌経路に関与する因子は、インフルエンザの増殖に影響を及ぼす有望な候補である。我々は、現在の研究において、COPA、COPB1、COPB2、COPD、COPEまたはCOPGのノックダウンが、感染性ウイルスの数を低下させたことを示すに至った。このことは、これらの因子は感染性インフルエンザAウイルスの産生に重要であることを実証している。具体的には、COPGのノックダウンは、3h p.i.のNPのレベルを劇的に低下させ(図3aおよび図14〜16)、このことは、早期の感染プロセスにおける役割を暗示する。これらの観察は、COPGが昆虫細胞におけるインフルエンザAウイルス複製にとって不可欠であることを同定した以前のRNAiスクリーニング(13)と一致する。インフルエンザAウイルス複製におけるCOPIの機能の根底にある機構は、依然として不明である。COPIの構成要素のノックダウンは、ウイルス糖タンパク質の細胞膜への輸送に直接影響を及ぼすことができるであろう。この仮説は、タンパク質の順行輸送が、COPB1ノックダウン細胞においては、遮断されるかまたは少なくとも低下することを実証している最近の研究(Styersら、Rennoldsら)により支持される。興味深いことに、COPI機構の構成成分のみが、現在のスクリーニングにおいて同定されている。膜タンパク質のERから細胞膜への正常な移動におけるCOPII小胞の関与は、ゴルジタンパク質の定常状態の分布の維持またはERの品質管理の機構を含めた、インフルエンザAウイルス感染の間のCOPIのその他の機能を暗示し得るであろう(Tuら、Zerangueら)。このシナリオでは、COPIタンパク質のノックダウンにより、HAおよびNAを含めたウイルスタンパク質の誤ったフォールディングまたは誤ったグリコシル化が生じるであろう。これらの誤りは、これらのタンパク質の細胞膜への輸送を低下させるか、またはこれらのタンパク質の正常な機能を妨げる。詳細な解析は、インフルエンザウイルス感染の間のCOPIタンパク質の役割を明確にすることにつながる。
【0115】
要約すると、これらの知見は、我々のスクリーニングの重大さを浮かび上がらせている。インフルエンザウイルス複製において重要な役割を果たすことが既知であるかまたは予想される宿主細胞の多くの分子機能が、我々の解析において回収された。単一の機能のカテゴリーを報告している以前のRNAiに基づいたウイルススクリーニング(13、14、16、17)の延長として、我々の知見は、様々な異なる分子ネットワークを明らかにしている。
【0116】
方法
概要:siRNAスクリーニング
siRNAは全て、384ウエルプレートのアレイ中で用いた(4μl/ウエル、200nM)。各ウエルに、0.35μlのHiperFect(Qiagen)を含有する8μlのRPMI培地(Invitrogen、Karlsruhe、ドイツ)を添加し、プレートを1分間振とうした。室温(RT)での10分間のインキュベーションの後に、500個の細胞の細胞懸濁液(28μl)を添加して、20nMの最終のsiRNA濃度を得た。細胞を、37℃および5%CO2で48時間インキュベートしてから、0.12のMOIで感染させた。感染後(p.i.)24時間経過したら、上清を、新たに播種した293Tレポーター細胞上に移し、37℃および5%CO2で16時間インキュベートし、次いで、ルシフェラーゼ活性を測定した。A549細胞を、固定し、核およびNPについて染色し、Acumen eX3 Cytometer(TTP Labtech、Royston、英国)を使用して解析した。マルチウエルピペット操作のステップは全て、Biomek(登録商標)FXP Laboratory Automation Workstation(Beckman Coulter、Krefeld、ドイツ)を使用して実施した。新薬の開発につながるようなゲノム(25)については1つの遺伝子当たり4つのsiRNAを、および新薬の開発にはつながらない(non-druggable)、予測される遺伝子については1つの遺伝子当たり2つのsiRNAを含有するsiRNAライブラリー(Qiagen Hu_Genome 1.0 and Human Druggable Genome siRNA Set V2.0:Qiagen、Hilden、ドイツ)を、独立に3回スクリーニングした。指定の標的配列を有する以下のsiRNAを、対照として、全てのスクリーニングプレート中に含めた:siNP(5'-AAGGAUCUUAUUUCUUCGGAG-3')、siPLK1(5'-CACCATATGAATTGTACAGAA-3')、およびAllstars(Qiagen、Hilden、ドイツ)。
【0117】
細胞およびウイルス
A549ヒト肺上皮細胞株(CCL-185、ATCC-LGC、Wesel、ドイツ)を、4mM L-グルタミン、4mMピルビン酸ナトリウム、100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%ウシ胎仔血清(FCS、Biochrome、Berlin、ドイツ)を補充したDMEM培地(Invitrogen、Karlsruhe、ドイツ)(DMEM完全培地)中、37℃および5%CO2で増殖した。ヒト胚性腎臓細胞株293T(CRL-11268、ATCC-LGC)およびMadin Darbyイヌ腎臓細胞(MDCK、CCL-34、ATCC-LGC)を、4mM L-グルタミン、100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FCSを補充したDMEM中で増殖した。初代の正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE、CC-2541、Lonza、Cologne、ドイツ)を、以下の増殖補充物質:BPE、ヒドロコルチゾン、hEGF、エピネフリン、トランスフェリン、インスリン、レチノイン酸、トリヨードチロニン、GA-1000を補充したClonetics(登録商標)BEGM(登録商標)BulletKit(登録商標)(CC-3170、Lonza)中で増殖した。補充物質は、BPE(2ml/500ml)を除き、0.5ml/500ml培地で添加した。細胞は、マイコプラズマによる汚染についてPCRにより定期的に調べた。インフルエンザウイルス株のA/WSN/33(H1N1)およびA/Puerto Rico/8/34(H1N1)を、11日齢の胚発育ニワトリ卵の尿膜腔中で増殖した。組換えの高病原性のインフルエンザA/Vietnam/1203/2004ウイルス(H5N1)を、以前の記載(26)に本質的に従って、逆遺伝学により産生した。汎発性のH1N1 A/Hamburg/04/2009株は、S.Becker(Philipps University、Marburg、ドイツ)から提供され、1μgトリプシン/mlを補充したDMEM中のMDCK細胞中で、FCSの非存在下で増殖した。ウイルス原液は、標準的なプラークアッセイにより、MDCK細胞上で寒天重層培地を使用して滴定した(27)。
【0118】
siRNAスクリーニング
siRNAは全て、384ウエルプレートのアレイ中で用いた(4μl/ウエル、200nM)。各ウエルに、0.35μlのHiperFect(Qiagen)を含有する8μlのRPMI培地(Invitrogen、Karlsruhe、ドイツ)を添加し、プレートを1分間振とうした。室温(RT)での10分間のインキュベーションの後に、500個の細胞を含有する細胞懸濁液(28μl)を添加して、20nMの最終のsiRNA濃度を得た。細胞を、37℃および5%CO2で48時間インキュベートしてから、0.12のMOIで感染させた(下記を参照されたい)。感染後(p.i.)24時間経過したら、上清を、新たに播種した293Tレポーター細胞上に移し、37℃および5%CO2で16時間インキュベートし、次いで、ルシフェラーゼ活性を測定した(下記を参照されたい)。A549細胞を、固定し、核およびNPについて染色し、Acumen eX3 Cytometer(TTP Labtech、Royston、英国)を使用して解析した。自動的に数えた核の数を、特定のsiRNAの細胞傷害作用を推定するためにさらに使用した。384ウエルプレートの1つのウエル内で、750個以下の核が決定された場合には、siRNAを毒性を示していると分類した。マルチウエルピペット操作のステップは全て、Biomek(登録商標)FXP Laboratory Automation Workstation(Beckman Coulter、Krefeld、ドイツ)を使用して実施した。新薬の開発につながるようなゲノム(25)については1つの遺伝子当たり4つのsiRNAを、および新薬の開発にはつながらない、予測される遺伝子については1つの遺伝子当たり2つのsiRNAを含有するsiRNAライブラリー(Qiagen Hu_Genome 1.0 and Human Druggable Genome siRNA Set V2.0:Qiagen、Hilden、ドイツ)を、独立に3回スクリーニングした。指定の標的配列を有する以下のsiRNAを、対照として、全てのスクリーニングプレート中に含めた:siNP(5'-AAGGAUCUUAUUUCUUCGGAG-3')、siPLK1(5'-CACCATATGAATTGTACAGAA-3')、およびAllstars(Qiagen、Hilden、ドイツ)。
【0119】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
我々は、一次RNAiスクリーニングの間に、siRNAをトランスフェクトしたA549細胞の上清中の感染性ウイルスを定量化するために、ルシフェラーゼに基づいたレポーター系を使用した。293T細胞に、いくつかに分けて、FluA lucプラスミド(6)をトランスフェクトし、1日後、これらの細胞を、384ウエルプレート中に、1×104/ウエルの濃度で播種し、それに続いて、12.5μlのウイルスを含有する上清を用いて感染させた。16h p.i.において、Bright-Glo(商標)ホタルルシフェラーゼ基質(Promega、Madison、WI、米国)を添加し、細胞可溶化液中のルシフェラーゼ活性を、Envision複数標識(multilabel)プレートリーダー(PerkinElmer、Rodgau、ドイツ)を使用して測定した。239T細胞に、インフルエンザウイルスに特異的なルシフェラーゼコンストラクト(FlaA)がトランスフェクトされると、インフルエンザA/WSN/33ウイルス核タンパク質(NP)セグメントの非翻訳領域が隣接するホタルルシフェラーゼ転写物の発現が誘発される。したがって、ルシフェラーゼの発現は、ウイルスのポリメラーゼの存在下でのみ検出可能であり、したがって、感染性ウイルスの定量化が可能になる。
【0120】
96ウエルプレートおよび12ウエルプレート中における、妥当性確認実験のためのsiRNAのトランスフェクション
siRNAは全て、Qiagenから購入した。96ウエルプレート中におけるA549細胞のsiRNAのトランスフェクションのために、補充物質を有さないDMEM中の100nM siRNA希釈物20μlを、1μlのHiperFect+9μlのDMEM培地と混合し、RTで10分間インキュベートした。複合体の形成を、25μlのDMEM完全培地の添加により停止した。次に、50μlのDMEM完全培地中の3000個のA549細胞を、各ウエル中に播種し、37℃および5%CO2で、指定する期間にわたりインキュベートした。96ウエルプレート中におけるNHBE細胞のsiRNAのトランスフェクションのためには、(補充物質を有する/有さない)BEGM培地を使用し、15,000個の細胞/ウエルを播種した。ウエスタンブロット実験のために、siRNAのトランスフェクションを、12ウエルプレート中で実施した。各ウエルについて、20μΜのsiRNA溶液1μlを、25mM HEPES(Invitrogen)を補充したRPMI(Invitrogen)99μl中に希釈した。ミックスを、RTで5分間インキュベートしてから、5μlのHiperFect(Qiagen)を添加し、さらに、インキュベーションをRTで15分間行った。各複合体を、900μlのDMEM完全培地中の50,000個のA549細胞に添加し、注意深く混合し、次いで、12ウエルプレートに移した。6時間の37℃および5%CO2でのインキュベーションの後に、培地を、新鮮なDMEM完全培地で交換し、細胞を、同じ増殖条件を使用して、さらに48時間インキュベートした。
【0121】
間接的な免疫蛍光標識
細胞を、3.7%ホルムアルデヒドを用いて固定し、PBS中で、0.3%Triton X-100、10%FCSを用いて透過処理した。試料を順次、10%FCS、0.1%Tween 20を有するPBS中で1:10000に希釈した、ウイルス核タンパク質(NP、クローンAA5H、AbD Serotec、英国)に対する一次抗体と共に、RTで1時間インキュベートし、続いて、マウスIgGに対して作られた二次のCy3コンジュゲート化抗体(10%FCS、0.1%Tween 20、および細胞のDNAを染色するために使用する0.1%Hoechst色素を有するPBS中、1:100)と共にインキュベートした。感染細胞の数対非感染細胞の数を、自動化顕微鏡法(Olympus、Soft Imaging Solutions、Munchen、ドイツ)を、または一次のsiRNAスクリーニングためには、Acumen eX3マイクロプレート血球計数器(TTP Labtech、Melbourn、英国)を使用して決定した。
【0122】
自動化顕微鏡法および画像解析
インフルエンザ感染細胞および宿主細胞の数を、自動化顕微鏡(Olympus Soft Imaging Solutions)を使用して決定した。画像を、DAPIおよびCy3のフィルターのセット(AHF-Analysetechnik、Tubingen、ドイツ)を用いて撮影した。ScanR解析ソフトウエア(Olympus Soft Imaging Solutions)を使用して、インフルエンザの核タンパク質(NP)および細胞核を自動的に同定および定量化した。NPの局在化を決定するために、NPの平均のおよび総合的な強度を解析した。NPは、Hoechst染色が核のNPであると定義した領域と同じ領域内に位置した。核周囲の5ピクセルの幅の環内に位置するNPを、細胞質のNPと定義した。環の内縁と核との間の距離を、1ピクセルに設定した。各実験について、同一のカメラ設定を使用した。
【0123】
WST-1アッセイにより決定した宿主細胞の生存率
siRNAトランスフェクション時の宿主細胞の生存率の決定を、細胞増殖アッセイWST-1(Roche、Mannheim、ドイツ)を使用して実施した。WST-1試薬を、siRNAのトランスフェクションの48時間後に、細胞に添加し、37℃で1.5時間インキュベートした。吸光度を、460nmおよび参照波長590nmで測定した。非標的siRNAのAllstarsおよびsiPLK1をそれぞれ、正および負の対照として使用した。
【0124】
ウイルス感染
細胞を、PBSを用いて洗浄し、次いで、感染用緩衝液(0.2%ウシ血清アルブミンを補充したPBS)中、指定したMOIのインフルエンザにRTで60分間感染させた。別段の記載がない限り、細胞を、(感染用緩衝液中で)再び洗浄し、0.2%ウシ血清アルブミン、4mM L-グルタミンおよび抗生物質を補充したDMEM(A549)または補充物質を有するBEGM(NHBE)中、37℃で指定する期間にわたりインキュベートした。A/WSN/33ウイルス、A/Puerto Rico/8/34ウイルス、およびA/Hamburg/04/2009 H1N1ウイルスを用いた感染実験は全て、バイオセイフティーレベル(BSL)2の条件下で実施し、一方、BSL3の条件を、A/Vietnam/1203/2004(HN51)を用いた実験のために使用した。
【0125】
複製アッセイ
感染させた細胞培養物の上清中の感染性ウイルス粒子を定量化するために、5,000または12,000個のMDCK細胞をそれぞれ、384ウエルプレートまたは96ウエルプレート中に播種した。1日後、細胞を、2回洗浄し、細胞培養物の上清の希釈系列を用いて感染させ、RTで1時間インキュベートした。感染用緩衝液(上記)を添加し(40μlまたは100μl/ウエル)、プレートを、37℃、5%CO2で6時間インキュベートし、続いて、3.7%ホルムアルデヒドを用いて固定し、抗体染色を行い、「間接的な免疫蛍光標識」の記載に従って自動画像処理を行った。
【0126】
遺伝子の濃縮およびネットワークの解析
我々は、遺伝子の濃縮の解析のために、Gaggleウェブサイト(http://gaggle.systemsbiology.net/svn/gaggle/PIPE2.0/trunk/PIPEletResourceDir/GOTableEnrichment/GOEnrichmentScript.R)から入手可能なR-スクリプトを改変した。このスクリプトは、Falcon, S.およびGentleman, R.が開発したR-package GOstatsに適用され(28)、Bioconductorウェブサイト(http://www.bioconductor.org)において入手可能である。手短に述べると、我々は、ゲノム全域にわたるライブラリー中に、含有され、アノテートされた22843個の遺伝子からなる遺伝子の母集団を定義し、ヒットのリストを、この母集団に対して、分子機能(MF)、細胞の構成成分(CC)、および生物学的プロセス(BP)に関して処理した。それぞれの遺伝子オントロジーの用語は、X個の遺伝子と関連があり、相対頻度Aをもたらす。ヒットのリストにおいて、同じ用語は、Y個の遺伝子に結び付けられ、相対頻度Bをもたらす。BをAで割ると、濃縮係数が得られる。
【0127】
また、287個の「高い信頼性の」ヒットは、Reactomeウェブサイト(www.reactome.org)のSky-Painterツールを使用して、遺伝子-識別子としてもアップロードした。アプリケーションのフィッシャーの直接確率検定によって計算された顕著な事象を、それに準じて同定および色分けした。ネットワークの解析を、STRINGデータベース(http://string.embl.de/)を使用して実施した。
【0128】
共焦点顕微鏡法
インフルエンザウイルスと細胞のエンドソームとの間の融合を、共焦点顕微鏡法を使用して検出した。A549細胞を、12ウエルプレート中、カバーガラス上に、5×104細胞/ウエルの密度で蒔き、懸濁液中で、指定したsiRNAを直接トランスフェクトさせ、続いて、トランスフェクションの48時間後に、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに感染させた(10のMOI)。感染プロセスの間、細胞を、氷上に45分間保ち、冷感染用緩衝液(上記を参照されたい)を用いて2回洗浄し、それに続いて、あらかじめ温めた感染用培地(0.2%ウシ血清アルブミン、4mM L-グルタミンおよび抗生物質を補充したDMEM)と共にインキュベートした。15、45および90分後に、細胞を、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、PBS中の0.2%BSA、および0.2%Triton X-100を用いて20分間透過処理した。次いで、細胞を、1:70の希釈度のCD63を標的とする抗体(Millipore)およびインフルエンザに対するポリクローナル血清(1:1000)と共に1時間インキュベートし、続いて、蛍光標識した二次抗体(希釈度1:100)と共にインキュベートした。試料を、MOWIOL中にマウントした。画像を、Leica TCS-SP共焦点顕微鏡を用いて撮影し、Adobe Photoshop 11.0を使用して処理した。
【0129】
免疫ブロット
免疫ブロットのために、細胞を、PBSを用いて洗浄し、75mM Tris HCl(pH6.8)、25%グリセロール、0.6%SDS、7.5%β-メルカプトエタノールおよび0.001%ブロモフェノールブルーを含有する、1×SDS試料用緩衝液中に溶解させた。タンパク質可溶化液(20μl)を、10%SDS-ポリアクリルアミドゲル上に充填し、分離した。分離したタンパク質を、PVDF膜に移し、ウイルスのマトリックスタンパク質(M1、AbD Serotec、英国)、ウイルスのイオンチャネルタンパク質(M2、Santa Cruz)またはβ-アクチン(Sigma、ドイツ)に対するマウスモノクローナル抗体をそれぞれ、1:100、1:1000または1:2500の希釈度で使用して検出し、続いて、二次のヒツジ抗マウスIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ(1:10000)と共にインキュベートした。染色を、ECL Western Blotting Detection Reagent(Amersham、Piscataway、NJ、米国)を用いて実施した。β-アクチンを、充填対照として使用した。バンド強度を、Aida画像解析装置(V.4.03)(2D/Densitometry)を使用して決定し、β-アクチンに対して正規化した。
【0130】
定量的RT-PCR
ウイルスRNA(vRNA)またはウイルスmRNAの検出のために、定量的RT-PCR(qRT-PCR)を、以前の記載(7)に従って実施した。手短に述べると、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに感染させた(1のMOI)A549細胞を、RLT溶解用緩衝液(Qiagen、Hilden、ドイツ)を用いて溶解させた。ウイルスmRNAの逆転写のために、オリゴ(dT)18プライマーを使用した:遺伝子セグメントPAのマイナス鎖vRNAを、PAに特異的なオリゴヌクレオチド(5'-GCTTCTTATCGTTCAGGCTCTTAGG-3')を使用して、cDNAに変換した。得られたcDNAを、qRT-PCRにより、PAに特異的なオリゴヌクレオチド(5'-GCTTCTTATCGTTCAGGCTCTTAGG-3'および5'-CCGAGAAGCATTAAGCAAAACCCAG-3')を用いて定量化した。GAPDHを、オリゴヌクレオチドを使用して増幅した。GAPDH、順:5'-GGTATCGTGGAAGGACTCATGAC-3';GAPDH、逆:5'-ATGCCAGTGAGCTTCCCGTTCAG-3'。GAPDHのレベルを、正規化のために使用した。全ての実験を、三つ組で行った。
【0131】
スプライスされたmRNAおよびスプライスされていないmRNAのレベルを定量化するために、A549細胞を、インフルエンザA/WSN/33ウイルスに、4のMOIで5時間感染させた。次いで、RNAを、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して単離し、デオキシリボヌクレアーゼ(Ambion)を用いて、製造元の指示に従って処理した。以前の記載(29)に従って、ウイルスmRNAの逆転写を、オリゴ(dT)プライマーを使用して実施し、合成したcDNAを、リアルタイムPCRに、M1に特異的なプライマー(5'-GACCAATCCTGTCACCTC-3'および5'-GATCTCCGTTCCCATTAAGAG-3')、ならびにM2に特異的なプライマー(5'-GAGGTCGAAACGCCTAT-3'および5'-CTCCAGCTCTATGTTGACAAA-3')を使用して付した。M1 mRNAおよびM2 mRNAのレベルを、GAPDHに対して正規化した。
【0132】
RNAiの定量的PCRによる妥当性確認
siRNAの妥当性確認を、以前の記載(30)に従って実施した。手短に述べると、トランスフェクションの1日前に、1ウエル当たり3,000個の細胞を、96ウエルプレート上に播種した。56nMの最終のsiRNA濃度を、0.25μlのHiperFect(Qiagen)を用いてトランスフェクトした。ノックダウンの測定を、独立に3回実施した。48時間後に、RNAを、RNeasy 96 BioRobot 8000 system(Qiagen)を使用して単離した。標的mRNAの相対的な量を、定量的PCRにより、Quantitect SYBR Green RT-PCRキットを使用して、製造元(Qiagen)の指示に従って決定した。以下にプライマーを示す:
GAPDH、順方向:5'-GGTATCGTGGAAGGACTCATGAC-3'、
GAPDH、逆方向:5'-ATGCCAGTGAGCTTCCCGTTCAG-3'、
ATP6V0D1、順方向:5'-TGTCGCAACATCGTGTGGAT-3'、
ATP6V0D1、逆方向:5'-GAGTGCAATTGAGAGCCTTGG-3'、
COPG、順方向:5'-TCCGCTATGCTGCTGTTCGTA-3'、
COPG、逆方向:5'-GCGGTTTGAATCTGTGACCAG-3'、
EIF4A3、順方向:5'-TGATCTTGGCTCCCACAAGAG-3'、
EIF4A3、逆方向:5'-ATTGGTGCCTCCAATGCAG-3'、
NUP98、順方向:5'-TTCCGGAATCCGATGTCAGA-3'、
NUP98、逆方向:5'-TGTAAAGCCTTTGGCCGGACT-3'、
NUP205、順方向:5'-ACCTTCGGAAGGATCTTCCAA-3'、
NUP205、逆方向:5'-GGAGTCCCAGAATCACCACAA-3'、
NXF1、順方向:5'-TGAGCAAACGATACGATGGC-3'、
NXF1、逆方向:5'-TCTGCGATTCAGGACAACGTC-3'、
SON、順方向:5'-CAAGCCTTAGAGCTGGCATTG-3'、
SON、逆方向: 5'-GCTTGCGTGATTTGTGTTCAG-3'。
標的mRNAの相対的な発現レベルを、対照のトランスフェクトした細胞に対して正規化した。GAPDHを、内部標準として使用した。
【0133】
化学阻害剤
キナーゼCLK1に対して作られた化学阻害剤のTG003(Sigma-Aldrich、Munich、ドイツ)をDMSO中に溶解させて10mMの濃度を得た。
【0134】
動物実験
動物を、ドイツ動物保護法(German Animal Protection Law)(Tierschutzgesetz TierSchG)に従って、病原体のない条件、バイオセイフティーレベル2の下で飼育し、繁殖させた。動物試験について、地域の機関から承認を得た(Landesamt fur Gesundheit und Soziales Berlin LAGeSo:参照番号G0217/08)。C57BL/6/Jマウスおよびp27-/-マウス(B6.129S4-Cdkn1blm1Mlf/J)はそれぞれ、Charles River(Sulzfeld、ドイツ)により提供され、もしくは社内で繁殖させた。7〜15週齢のマウスを、インフルエンザA/Puerto Rico/8/34ウイルス(10×LD50;50μlのPBS中)に鼻腔内から感染させた。2日後に、感染動物の肺を、単離し、ホモジナイズし、続いて、800×g、4℃で8分間遠心分離した。上清中の感染性ウイルスの量を、複製アッセイを使用して定量化した(上記を参照されたい)。免疫ブロット実験において使用するためのタンパク質を、残存する細胞ペレットに、TRIZOL試薬(GIBCO BRL)を製造元の指示に従って添加することによって得た。
【0135】
データ解析
一次ヒットの同定のために、3つのパラメータ、すなわち、ルシフェラーゼの発現、免疫蛍光顕微鏡法により決定した場合の感染した細胞のパーセント、および感染した細胞の総数を含めた。細胞の影響が少ない場合には、1ウエル当たりのウイルスの数は、感染した細胞の数と相関するので、後者のパラメータは有益な情報となった。ヒットの選択のロバスト性を最大化し、的外れの作用に起因する擬陽性を最小限に留めるために、3つのパラメータ全てから得られた生のスクリーニングのデータを、各ステップにおいて統計学的チェックポイントが組み込まれている解析のパイプラインに別個に付した(図8)。第1に、我々は、構成的または誘導的な発現を、非感染A549試料および感染A549試料のマイクロアレイプロファイリングを介して決定することによって、発現しなかった遺伝子を除外した(5814個の遺伝子が発現しなかった)。第2に、毒性を示す、すなわち、トランスフェクトすると総細胞数を低下させた(<750個の細胞/ウエル)siRNAも、一次スクリーニング全体を通して適用した顕微鏡アッセイを使用して除外した(1520個のsiRNA)。第3に、発現した遺伝子を標的とする、無毒性のsiRNAをさらに解析した。ゲノム全域にわたるスクリーニングから得られたルシフェラーゼアッセイのデータの統計学的解析のために、以下のプレートに関する品質管理判断基準を使用した:(i)非標的対照ウエル(Allstars)からの平均シグナルが、10,000カウント超であり、(ii)非標的対照(Allstars)と(iii)阻害性の対照(NP)との間のシグナル強度の差が、少なくとも2桁である。我々は、GenedataのScreener(登録商標)ソフトウエア(www.genedata.com)を使用して、位置効果に帰する表現型を示すウエルを除外した。修正した生データを、細胞に基づいたハイスループットRNAiスクリーニングのデータを解析するためのR実行型ソフトウエアパッケージであるcellHTS(31)を使用して、統計学的解析に付した。生データを、B-スコア法を使用して正規化して、位置効果をさらに除外した(32)。次に、プレートに関するデータについて、中央を決め、評価する(scale)ために、z-スコア変換を適用した。z-スコアは、以下の式を使用して計算した。
【0136】
【数1】

【0137】
式中、Xは、標準化しようとする生のスコアであり、σは、集団の標準偏差であり、μは、集団の平均である。少なくとも3回独立して反復して得、中央を決め、評価した値の中央値を、siRNA活性(RSA)の冗長解析のために使用し(33)、これには、ランクに基づく超幾何分布検定を適用して、ヒットを同定した。2つの対応するsiRNAのスコアがヒットであると評価された遺伝子のみを、さらに解析した。次に、GenedataのScreener(登録商標)パッケージを使用して、-2未満のロバストなz-スコアを有する遺伝子を全て選択した。
【0138】
ヒットの妥当性確認のデータの解析のためには、各siRNAについて、感染性ウイルス粒子の正規化したパーセント阻害を計算した。手短に述べると、特定のプレートの非標的対照(Allstars)の値の中央値から各試料の値を減じた差を、非標的対照の中央値と阻害性の対照(siNP)の中央値との差で割った。80%正規化阻害閾値を適用した。細胞生存率を損なわない、少なくとも2つのsiRNAが、この判断基準満たした場合、遺伝子を、妥当性が確認されたヒットであるとみなした。
【0139】
試験した試料中の5h p.i.における細胞質対核のNPの比および3h p.i.における全NPのレベルは、非正規に分布した。したがって、我々は、標的をノックダウンした試料の分布と非標的対照の参照試料(Allstars)の分布との間の差の有意性を評価するために、統計学的ソフトウエア環境R(http://www.r-project.org/)を使用する、最短距離推定コルモゴロフ-スミルノフ検定を適用した。試料のサイズを個々に、自動化画像解析パッケージScanRにより検出した1ウエル当たりの主要な対象の数と定義する。
【0140】
p27-/-マウスおよび対照マウスの肺から得られた感染性ウイルスの量の有意な差を、試料および対照について異なる標準偏差を仮定して(ウエルチ検定)、片側t検定を使用して試験した。
【0141】
【表1】





























































































【0142】
【表2】



































【0143】
【表3】



















































【0144】
【表4】












【0145】
[参考文献]






【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療のための、少なくとも1つのインフルエンザウイルス複製阻害剤を、場合により、薬学的に許容できる担体、アジュバント、希釈剤または/および添加剤と一緒に含む医薬組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの阻害剤が、核酸、リボザイム等の核酸類似体、ペプチド、ポリペプチドおよび抗体、ならびに1000ダルトンを下回る分子量を有する化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
インフルエンザウイルス感染が、インフルエンザAウイルス感染である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの阻害剤が、遺伝子発現または/および遺伝子産物の活性を調節することが可能である、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
発現または/および遺伝子産物の活性の調節が、活性化である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
発現または/および遺伝子産物の活性の調節が、阻害である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
核酸が、RNAまたはDNAである、請求項2から6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの阻害剤が、
(a)表1、表2、表3および表4の配列から選択されるヌクレオチド配列を含む核酸、
(b)(a)の配列の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の長さを有する、(a)の配列の断片、
(c)(a)もしくは/および(b)の配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%同一である配列を含む核酸、または/ならびに
(d)(a)、(b)もしくは/および(c)の配列に相補的な配列
を含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
(a)の核酸が、表4の配列から選択されるヌクレオチド配列およびその断片を含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
核酸が、
(i)RNA干渉が可能であるRNA分子、例として、siRNAもしくは/およびshRNA、
(ii)miRNA、
(iii)(i)もしくは/および(ii)のRNA分子の前駆体、
(iv)(i)、(ii)もしくは/および(iii)のRNA分子の断片、
(v)(i)、(ii)、(iii)もしくは/および(iv)のRNA分子の誘導体、または/ならびに
(vi)(i)、(ii)、(iii)もしくは/および(iv)のRNA分子をコードするDNA分子
を含む、請求項7から9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
RNA分子が、二本鎖RNA分子、好ましくは、一本鎖オーバーハングを単独で1つの末端に有する、もしくは両方の末端に有する、または有さない二本鎖siRNA分子である、請求項7から10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
RNA分子が、少なくとも1つのヌクレオチド類似体または/およびデオキシリボヌクレオチドを含む、請求項7から11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
核酸が、アンチセンス核酸またはアンチセンス核酸をコードするDNAである、請求項7から9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
核酸が、少なくとも15ヌクレオチド長、好ましくは、少なくとも17ヌクレオチド長、より好ましくは、少なくとも19ヌクレオチド長、最も好ましくは、少なくとも21ヌクレオチド長を有する、請求項7から13のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
核酸が、最大29ヌクレオチド長、好ましくは、最大27ヌクレオチド長、より好ましくは、最大25ヌクレオチド長、とりわけより好ましくは、最大23ヌクレオチド長、最も好ましくは、最大21ヌクレオチド長を有する、請求項7から14のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項16】
好ましくは、
(a)表1、表2、表3および表4の配列ならびにそれらの相補配列から選択される核酸もしくは/および遺伝子がコードするアミノ酸配列、
(b)(a)の配列の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の長さを有する、(a)の配列の断片、または/ならびに
(c)(a)もしくは/および(b)の配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%同一である配列を含むアミノ酸配列
を含むポリペプチドに対して作られている抗体を含む、請求項1から6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項17】
(a)のポリペプチドが、表4から選択される核酸または/および遺伝子がコードするアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
少なくともインフルエンザウイルス感染の阻害剤を、細胞内、特に、肺の上皮細胞内に輸送するのに適した薬剤をさらに含む、請求項1から17のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項19】
さらなる薬剤が、好ましくはナノ粒子中に製剤化されているキトサンである、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療に適している化合物を同定するためのスクリーニング方法であって、
(a)インフルエンザウイルスに感染することが可能であり、遺伝子を発現することが可能である細胞または/および非ヒト生物を提供するステップであって、遺伝子または/およびその遺伝子産物が、インフルエンザウイルス複製を調節することが可能であるステップと、
(b)(a)の細胞または/および生物を、インフルエンザウイルス、ならびに(a)の遺伝子または/およびその遺伝子産物の発現または/および活性を調節することが可能であることが既知の化合物と接触させるステップと、
(c)細胞または/および生物が産生したインフルエンザウイルスの量を決定するステップと、
(d)細胞または/および生物が産生したインフルエンザウイルスの量を低下させる化合物を選択するステップと
を含む方法。
【請求項21】
(a)の遺伝子が、表1、表2、表3および表4から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(a)の遺伝子が、表4から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
細胞スクリーニングアッセイを含む、請求項20から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療に適している化合物を同定するためのスクリーニング方法であって、
(i)遺伝子を発現することが可能である細胞または/および非ヒト生物を提供するステップであって、遺伝子または/およびその遺伝子産物が、インフルエンザウイルス複製を調節することが可能であるステップと、
(ii)化合物を、(i)の細胞または/および生物と接触させるステップと、
(iii)(i)の遺伝子の遺伝子産物の量または/および活性を決定するステップと、
(iv)(i)の遺伝子産物の量または/および活性を調節する化合物を選択するステップと
を含む方法。
【請求項25】
(i)の遺伝子が、表1、表2、表3および表4から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
(i)の遺伝子が、表4から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
(iv)の化合物が、細胞または/および生物が産生したインフルエンザウイルスの量を低下させる、請求項24から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
遺伝子の発現の調節が、下方制御または上方制御である、請求項24から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
遺伝子の活性の調節が、活性の減少または増加である、請求項24から27のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
インフルエンザが、インフルエンザAウイルスから選択される、請求項24から29のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項31】
細胞が、哺乳動物細胞、特に、ヒト細胞である、請求項24から30のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項32】
インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療のための医薬または/およびワクチンを製造するための、表1、表2、表3および表4から選択される遺伝子の発現を阻害もしくは活性化することまたは/ならびにその遺伝子産物を阻害もしくは活性化することが可能であるインフルエンザウイルス複製阻害剤の使用。
【請求項33】
遺伝子が、表4から選択される、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
インフルエンザウイルス感染の予防、軽減または/および治療に適している化合物または/および標的についてスクリーニングするための方法における、表1、表2、表3および表4から選択される遺伝子配列または/およびヌクレオチド配列を含む核酸およびその断片の使用。
【請求項35】
少なくとも2つの核酸の組合せを使用する、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
核酸または組合せが、表4から選択される、請求項34または35に記載の使用。
【請求項37】
核酸の組合せが、遺伝子の発現または/および活性を阻害する、請求項36に記載の使用。

【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図5a】
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【図5b】
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【図11】
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【図12】
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【図16a】
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【図16b】
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【図18】
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【図1】
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【図2c】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図19】
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【公表番号】特表2013−515697(P2013−515697A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545329(P2012−545329)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070548
【国際公開番号】WO2011/076873
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(509289113)
【Fターム(参考)】