説明

インフレータ及び車両用エアバッグ装置

【課題】インフレータにおける濾過用のフィルタを廃止して該インフレータの小型軽量化を可能にすると共に、作動時におけるガス温度の冷却性能を向上させる。
【解決手段】燃焼室42で発生したガスは、冷却用の空間44に入り、アッパケース26(インフレータケース12)の底壁部26Dに当たってからガス流路48へ流れ、ガス噴出孔26Cから外部へ噴出する。このとき、アッパケース26及びロアケース28のうち、冷却用の空間44に面した底壁部26Dを有する側の例えばアッパケース26に、所定部位に対する取付けフランジ26F(フランジ)が一体的に設けられているので、該取付けフランジ26F(フランジ)から所定部位に熱を効率的に逃がすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレータ及び車両用エアバッグ装置に係り、特にディスクタイプでかつフィルタレスのインフレータ及び該インフレータを備えた車両用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス発生剤が充填された燃焼室の外周部に、縦断面視でL字状となるガス流路を形成するための流路形成部材を同心円状に配設し、ガスの流れ方向が変更される度に燃焼残渣を壁面に付着させて除去するようにして、燃焼残渣濾過用のフィルタを廃止したフィルタレスインフレータが開示されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】実用新案登録第3122258号公報
【特許文献2】実用新案登録第3122259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来例のように、濾過用のフィルタを廃止した場合、インフレータケースが高温のガスによって直接的に加熱されることとなるため、フィルタを備えたインフレータ以上に、ガス温度の低減が必要である。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、インフレータにおける濾過用のフィルタを廃止して該インフレータの小型軽量化を可能にすると共に、作動時におけるガス温度の冷却性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明(インフレータ)は、有底円筒状のアッパケース、及び該アッパケースの端部の開口を閉塞する有底円筒状のロアケースから構成され、前記アッパケース側の周壁部に複数のガス噴出孔が形成されたインフレータケースと、前記インフレータケースの内部に配設され、伝火薬を収容しかつ保持する内筒部材と、該内筒部材の内部に配設され前記伝火薬に着火するための点火装置と、前記インフレータケースの内部において、一端が前記インフレータケースの軸方向の一方側に配置されて閉塞され、他端が前記インフレータケースの軸方向の他方側に配置され、前記伝火薬の燃焼が伝播することで燃焼しガスを発生させるガス発生剤を、前記内筒部材の周囲に収容しかつ保持する外筒部材と、前記外筒部材と前記内筒部材との間に設けられ、該外筒部材の前記一端側に位置し前記ガス発生剤が収容される燃焼室と、前記外筒部材の前記他端側に位置する冷却用の空間とを区画し、かつ前記燃焼室側から該冷却用の空間側への前記ガスの流れを許容する複数の連通孔が設けられた隔壁と、を有し、前記インフレータケースの内側でかつ前記外筒部材の外側に、前記外筒部材の前記他端側において前記冷却用の空間と連通すると共に、前記アッパケースの前記ガス噴出孔に連通するガス流路が形成され、前記燃焼室で発生したガスが、前記隔壁の前記連通孔を通って前記冷却用の空間に流入し、該冷却用の空間に面した前記インフレータケースの底壁部に直接当たってから、前記ガス流路に流入するようにすることで、該ガスの冷却及び濾過用のフィルタを使用しない構成とされ、更に、前記アッパケース及び前記ロアケースのうち、前記冷却用の空間に面した前記底壁部を有する側のケースに、所定部位に対する取付け用のフランジが一体的に設けられている。
【0006】
請求項1に記載のインフレータでは、点火装置が作動して内筒部材内の伝火薬が着火され、該伝火薬の燃焼が外筒部材の燃焼室内に伝播すると、該燃焼室内に収容及び保持されているガス発生剤が燃焼し、高温高圧のガスが発生する。このガスは、隔壁に形成されている連通孔を通って冷却用の空間に入り、インフレータケースの底壁部に当たってからガス流路へ流れ、アッパケース側の周壁部に形成されているガス噴出孔から、インフレータの外部へ噴出する。
【0007】
この際、アッパケース及びロアケースのうち、冷却用の空間に面した底壁部を有する側のケース、即ち該冷却用の空間で高温のガスと直接接触する側のケースには、熱交換によって、より多くの熱が蓄積される傾向にある。請求項1に記載のインフレータでは、該ケースに、所定部位に対する取付け用のフランジが一体的に設けられているので、該フランジから所定部位に熱を効率的に逃がすことができ、作動時におけるガス温度の冷却性能を向上させることができる。
【0008】
燃焼室で発生したガスに含まれているミストは、冷却用の空間及びガス流路を通過する際の流動抵抗によって、インフレータケースの底壁部や周壁部の内面等に付着するので、ガス噴出孔に至る前に効率的に除去される。これにより、従来のような冷却及び濾過用のフィルタを廃止して、インフレータの小型軽量化が可能となる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のインフレータにおいて、前記内筒部材の軸方向における前記燃焼室側の端部に、該燃焼室と、該内筒部材の内側とに連通する通気部が設けられている。
【0010】
請求項2に記載のインフレータでは、内筒部材内の伝火薬の燃焼が、該内筒部材の通気部を通じて、燃焼室内のガス発生剤に伝播する。該通気部は、内筒部材の軸方向における燃焼室側の端部に設けられており、冷却用の空間は、隔壁により区画されて、インフレータケースの軸方向において該燃焼室の反対側に位置しているので、該燃焼室内のガス発生剤を効率的に燃焼させることができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のインフレータにおいて、前記外筒部材は、前記ロアケースの内側に嵌合し、該ロアケースは、開口側端部が前記アッパケースの前記周壁部の内側に嵌合した状態で該アッパケースに対して固定され、前記ロアケースの前記開口側端部と前記アッパケースの前記周壁部とで段差部が形成され、前記ガス流路は、該段差部、前記外筒部材、及び前記アッパケースの前記周壁部により区画されて形成されている。
【0012】
請求項3に記載のインフレータでは、インフレータケースの軸方向において、ガス流路の範囲が、ロアケースの開口側端部とアッパケースの周壁部との段差部までとなっているので、冷却用の空間からガス流路に流入したガスが、ガス噴出孔まで速やかに到達する。このため、インフレータの作動時におけるガス噴出孔からのガスの噴出の迅速性を確保することができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のインフレータにおいて、前記フランジのうち少なくとも前記所定部位に当接する部位が、段付き形状とされている。
【0014】
請求項4に記載のインフレータでは、フランジが段付き形状とされているので、取付け場所となる所定部位との接触面積を増やすことができる。このため、インフレータの作動時に、フランジから所定部位へ効率的に熱を逃がして、ガス温度の冷却性能をより一層向上させることができる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のインフレータにおいて、前記フランジと、前記冷却用の空間に面した前記インフレータケースの外面とに当接する伝熱部材が設けられている。
【0016】
請求項5に記載のインフレータでは、フランジと、冷却用の空間に面したインフレータケースの外面とに当接する伝熱部材を有しているので、作動時にインフレータケースに蓄えられた熱は、該インフレータケース自体を通じてフランジまで伝えられるだけでなく、インフレータケースの外面からフランジまで、伝熱部材を介して伝えられる。即ち、インフレータケースのフランジまで、2系統で熱を伝えることができる。
【0017】
請求項6の発明(車両用エアバッグ装置)は、モジュールケースに、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載に記載のインフレータを取り付けると共に、該インフレータからのガスの供給を受けて膨張展開するエアバッグを折畳み状態で収納して構成されるエアバッグモジュールを有し、該エアバッグモジュールは、前記インフレータの前記フランジを前記所定部位としての前記モジュールケースに直接的に接触させた状態で、車両に取付け固定される。
【0018】
請求項6に記載の車両用エアバッグ装置では、インフレータのフランジが所定部位としてのモジュールケースに直接的に接触した状態で、エアバッグモジュールが車両に取付け固定されるので、インフレータの作動時に、インフレータケースからモジュールケースへ直接的に熱を逃がすと共に、該モジュールケースから所定部位へと熱を逃がすことで、ガス温度の冷却性能を向上させることができる。
【0019】
請求項7の発明は、請求項6に記載の車両用エアバッグ装置において、前記インフレータの前記フランジは、前記車両におけるインパネリインフォースメントに設けられた取付けブラケットに対して、直接的に、又は前記モジュールケースを介して、ボルト締結されている。
【0020】
請求項7に記載の車両用エアバッグ装置では、インフレータのフランジが、インパネリインフォースメントの取付けブラケットに対して直接的に、又はモジュールケースを介してボルト締結されているので、インフレータの作動時に、インフレータケースから取付けブラケットへ直接的に、又はモジュールケースを介して間接的に熱を逃がし、更に該取付けブラケット又はモジュールケースからインパネリインフォースメントへと熱を逃がすことができる。このため、作動時のガス温度の冷却性能をより一層向上させることができる。
【0021】
請求項8の発明(車両用エアバッグ装置)は、ベース部材に、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載に記載のインフレータを取り付けると共に、該インフレータからのガスの供給を受けて膨張展開するエアバッグを折畳み状態で取り付けて構成されるエアバッグモジュールを有し、該エアバッグモジュールは、前記インフレータの前記フランジを前記所定部位としての前記ベース部材に直接的に接触させた状態で、車両に取付け固定される。
【0022】
請求項8に記載の車両用エアバッグ装置では、インフレータのフランジが所定部位としてのベース部材に直接的に接触した状態で、エアバッグモジュールが車両に取付け固定されるので、インフレータの作動時に、インフレータケースからベース部材へ直接的に熱を逃がすと共に、該ベース部材から所定部位へと熱を逃がして、ガス温度の冷却性能を向上させることができる。
【0023】
請求項9の発明は、請求項8に記載の車両用エアバッグ装置において、前記ベース部材は、前記車両におけるステアリングホイールに対してボルト締結される。
【0024】
請求項9に記載の車両用エアバッグ装置では、インフレータのフランジに直接接触しているベース部材が、ステアリングホイールに対してボルト締結されるので、インフレータの作動時に、インフレータケースからベース部材へ熱を逃がし、更に該ベース部材からステアリングホイールへと熱を逃がすことができる。このため、作動時のガス温度の冷却性能をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のインフレータによれば、ンフレータにおける濾過用のフィルタを廃止して該インフレータの小型軽量化を可能にすると共に、作動時におけるガス温度の冷却性能を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0026】
請求項2に記載のインフレータによれば、燃焼室内のガス発生剤を効率的に燃焼させることができる、という優れた効果が得られる。
【0027】
請求項3に記載のインフレータによれば、インフレータの作動時におけるガス噴出孔からのガスの噴出の迅速性を確保することができる、という優れた効果が得られる。
【0028】
請求項4に記載のインフレータによれば、インフレータの作動時に、フランジから所定部位へより効率的に熱を逃がして、ガス温度の冷却性能をより一層向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0029】
請求項5に記載のインフレータによれば、インフレータケースのフランジまで、2系統で熱を伝えることができる、という優れた効果が得られる。
【0030】
請求項6に記載の車両用エアバッグ装置によれば、インフレータケースからモジュールケースへ直接的に熱を逃がすと共に、該モジュールケースから所定部位へと熱を逃がすことで、ガス温度の冷却性能を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0031】
請求項7及び請求項9に記載の車両用エアバッグ装置によれば、インフレータ作動時のガス温度の冷却性能をより一層向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0032】
請求項8に記載の車両用エアバッグ装置によれば、インフレータ作動時のガス温度の冷却性能を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1から図4は、第1実施形態に係り、図1は、主に取付けブラケットに対するエアバッグモジュールの取付け状態を示す断面図である。
【図2】内筒部材の要部を示す斜視図である。
【図3】隔壁を示す斜視図である。
【図4】インフレータの作動時におけるガスの流れと、インフレータケースからモジュールケース及び取付けブラケットへの熱の拡散を示す要部断面図である。
【図5】第2実施形態に係るインフレータの内部構造を示す要部断面図である。
【図6】第3実施形態に係るインフレータと、ベース部材との取付け状態を示す要部断面図である。
【図7】第4実施形態に係る車両用エアバッグ装置を示す分解斜視図である。
【図8】図8及び図9は、第5実施形態に係り、図8は、モジュールケースを布製とした車両用エアバッグ装置を示す分解斜視図である。
【図9】モジュールケースを金属製とした変形例に係り、該モジュールケース、インフレータ及びナットを示す拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0035】
[第1実施形態]
図1から図4において、本実施の形態に係るインフレータ10は、エアバッグ等(図示せず)に膨張用のガスを供給するためのガス発生源であり、インフレータケース12と、内筒部材14と、点火装置16と、外筒部材18と、隔壁22とを有している。
【0036】
インフレータケース12は、有底円筒状のアッパケース26、及び該アッパケース26の下端(端部)の開口を閉塞する有底円筒状のロアケース28から構成され、アッパケース26側の周壁部26Bに複数のガス噴出孔26Cが形成されている。アッパケース26のガス噴出孔26Cは、防湿のため、内側から例えばアルミニウムテープ(図示せず)で閉塞されている。
【0037】
アッパケース26及びロアケース28は、夫々金属製であり、例えば溶接により互いに固定されている。ロアケース28の周壁部28Bの外径は、アッパケース26の周壁部26Bの内径と同等とされており、ロアケース28の周壁部28Bの一部は、アッパケース26の周壁部26Bの内側に差し込まれ嵌合した状態となっている。これによって、ロアケース28における周壁部28Bの上端の位置に、段差部32が形成されている。
【0038】
アッパケース26は、後述する冷却用の空間44に面した底壁部26Dを有するケースである。このアッパケース26の周壁部26Bの下端には、所定部位の一例たるモジュールケース52や取付けブラケット54に対する取付け用のフランジ26F(以下、「取付けフランジ26F」という。)が、径方向外側に張り出して一体的に設けられている。この取付けフランジ26Fには、インフレータ10をモジュールケース52や取付けブラケット54に取り付ける際にスタッドボルト56等を通す例えば4箇所の貫通孔26G(図7参照)が形成されている。
【0039】
ロアケース28の中央部には、アッパケース26側に突出した筒状部分28Aが、例えば一体的に形成されている。この筒状部分28Aの例えば上端には、径方向内側に向いた内向きのフランジ28Cが形成されている。筒状部分28A及びフランジ28Cは、点火装置16の取付け部となっている。
【0040】
内筒部材14は、インフレータケース12の内部に配設され、伝火薬15を収容しかつ保持する有底円筒状の部材である。内筒部材14の周壁部14Bの内径は、ロアケース28の筒状部分28Aの外径よりもわずかに小さく設定されており、該内筒部材14は、筒状部分28Aに被せられる状態で圧入されている。内筒部材14の底壁部14Dは、アッパケース26の底壁部26Dに当接又は近接している。なお、ロアケース28に対する内筒部材14の固定方法は、筒状部分28Aに対する圧入に限られず、かしめ等によるものであってもよい。
【0041】
図1,図2に示されるように、内筒部材14のうち、ロアケース28の底壁部28D側の端部には、周壁部14Bよりも外径及び内径が大きい環状拡径部14Aが、例えば全周にわたって形成されている。この環状拡径部14Aにおける周方向の複数箇所には、例えば矩形状の切欠き部14Cが形成されている。この切欠き部14Cと、ロアケース28の底壁部28Dとにより、内筒部材14の内外に唯一連通する通気部34が形成されている。
【0042】
内筒部材14のうち、少なくともロアケース28の筒状部分28Aを囲む部位には、該内筒部材14の例えば軸方向に沿って延び周壁部14Bよりも外径及び内径が大きい溝状拡径部14Eが形成されている。この溝状拡径部14Eの下端は、環状拡径部14Aに連なっている。また溝状拡径部14Eは、内筒部材14における周方向の複数箇所に、環状拡径部14Aの切欠き部14Cを避けた角度位置に形成されている。これにより、内筒部材14内の伝火薬15の燃焼が、溝状拡径部14Eの内側に沿って、ロアケース28の底壁部28D側に位置する環状拡径部14Aへ伝播し、更に該環状拡径部14Aに沿って周方向に広がりつつ、通気部34を通じて外筒部材18内に伝播するようになっている。
【0043】
図1において、点火装置16は、内筒部材14の内部に配設され、伝火薬15に着火するための装置であって、例えば合成樹脂36を介して、ロアケース28の取付け部(筒状部分28A及びフランジ28C)に取り付けられている。点火装置16の端子16Aは、合成樹脂36を貫通して、ロアケース28の筒状部分28Aの内側に露出しており、該端子16Aに図示しないワイヤハーネスが接続されるようになっている。このワイヤハーネスは、図示しないECUに接続されており、所定の場合に点火装置16に対して点火電流が流されるようになっている。
【0044】
外筒部材18は、インフレータケース12の内部において、一端18Aがロアケース28の底壁部28D側(インフレータケース12の軸方向の一方側)に配置されて閉塞され、他端18Bがアッパケース26の底壁部26D側(インフレータケース12の軸方向の他方側)に配置されている。この外筒部材18は、伝火薬15の燃焼が伝播することで燃焼しガスを発生させるガス発生剤38を、内筒部材14の周囲の燃焼室42に収容しかつ保持している。
【0045】
外筒部材18は、ロアケース28における周壁部28Bの内側に嵌合している。外筒部材18の一端18Aは、内向きのフランジ状となっており、ロアケース28に対する嵌合状態において、ロアケース28の底壁部28Dに当接している。即ち、外筒部材18の一端18Aは、ロアケース28の底壁部28Dによって閉塞されている。外筒部材18の他端18Bは、アッパケース26の底壁部26Dに当接又は近接しており、該他端18Bの周方向の複数箇所に、例えば矩形状の切欠き部18Cが形成されている。
【0046】
図1,図3において、隔壁22は、外筒部材18と内筒部材14との間に、例えば圧入により設けられ、該外筒部材18の一端18A側に位置しガス発生剤38が収容される燃焼室42と、外筒部材18の他端18B側に位置する冷却用の空間44とを区画している。この隔壁22には、燃焼室42側から該冷却用の空間44側へのガスの流れを許容する複数の連通孔22Aが設けられている。
【0047】
隔壁22の内周縁には、内筒部材14の周壁部14Bの外面に嵌合する内側環状壁部22Dが形成されている。また隔壁22の外周縁には、外筒部材18の内面に嵌合する外側環状壁部22Eが形成されている。この外側環状壁部22Eの端部22Bには、外筒部材18の切欠き部18Cに対応する切欠き部22Cが形成されている。図1において、切欠き部18C,22Cは、周方向の角度位置及び大きさが同等となっており、該切欠き部18C,22Cと、アッパケース26の底壁部26Dとにより、外筒部材18の内外に連通する通気部46が形成されている。
【0048】
アッパケース26の周壁部26Bの内側で、かつ外筒部材18の外側には、該アッパケース26のガス噴出孔26Cに連通するガス流路48が形成されている。本実施形態では、ロアケース28のうちアッパケース26の周壁部26Bの内側に差し込まれた上端の位置に段差部32が形成されている。従って、ガス流路48は、アッパケース26の周壁部26Bと、外筒部材18と、段差部32との間に、環状に形成されている。更にガス流路48は、外筒部材18の他端18B側における例えば通気部46において、冷却用の空間44と連通している。
【0049】
本実施形態に係るインフレータ10は、燃焼室42で発生したガスが、隔壁22の連通孔22Aを通って冷却用の空間44に流入し、該冷却用の空間44に面したアッパケース26の底壁部26Dに直接当たってから、通気部46を通じてガス流路48に流入するようにすることで、該ガスの冷却及び濾過用のフィルタ(図示せず)を使用しない構成とされている。
【0050】
なお、伝火薬15とガス発生剤38とは、必ずしも異なるものではなく、伝火薬15としてガス発生剤38を使用することも可能である。
【0051】
図1に示されるように、インフレータ10を備えたエアバッグモジュール60は、モジュールケース52に、該インフレータ10を取り付けると共に、該インフレータ10からのガスの供給を受けて膨張展開するエアバッグ62を折畳み状態で収納して構成される。エアバッグモジュール60は、インフレータ10の取付けフランジ26Fがモジュールケース52に対して直接接触した状態で、車両の取付けブラケット54に取付け固定されている。
【0052】
一例として、モジュールケース52の底壁部52Aの上面側には、エアバッグ62及びリテーナ64が配置されている。インフレータ10のガス噴出孔26Cは、エアバッグ62の内部に位置している。またモジュールケース52の底壁部52Aの下面側には、取付けフランジ26Fが配置されている。取付けフランジ26Fは、例えばモジュールケース52と取付けブラケット54とに挟まれており、モジュールケース52だけでなく取付けブラケット54に対しても直接接触している。
【0053】
なお、インフレータ10の取付けフランジ26Fを、モジュールケース52の底壁部52Aの上面側に配置してもよい。この場合取付けフランジ26Fは、モジュールケース52に対して直接接触するが、取付けブラケット54に対しては直接接触しない状態となる。
【0054】
リテーナ64から下方側には、スタッドボルト56が延びており、該スタッドボルト56は、エアバッグ62、モジュールケース52、インフレータケース12の取付けフランジ26F、及び取付けブラケット54を貫通している。このスタッドボルト56に対して、取付けブラケット54の下側からナット58が締結されている。これにより、エアバッグモジュール60が車両の取付けブラケット54に取付け固定されている。
【0055】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図4において、本実施形態に係るインフレータ10では、ECUからの作動電流を受けた際に点火装置16が作動することで、内筒部材14内の伝火薬15が着火される。この伝火薬15の燃焼が、該内筒部材14におけるロアケース28の底壁部28D側の端部に設けられた通気部34を通じて、外筒部材18の燃焼室42内に矢印A方向に伝播すると、該燃焼室42内に収容及び保持されているガス発生剤38が燃焼し、高温高圧のガスが発生する。
【0056】
このガスは、隔壁22に形成されている連通孔22Aを通って、冷却用の空間44に入り(矢印B方向)、アッパケース26の底壁部26Dに当たってから、通気部46を通じてガス流路48へ流れ、アッパケース26側の周壁部26Bに形成されているガス噴出孔26Cから、インフレータ10の外部へ噴出する(矢印C方向)。
【0057】
ここで、本実施形態では、インフレータケース12の軸方向において、ガス流路48の範囲が、ロアケース28の開口側端部とアッパケース26の周壁部26Bとの段差部32までとなっているので、冷却用の空間44からガス流路48に流入したガスが、ガス噴出孔26Cまで速やかに到達する。このため、インフレータ10の作動時におけるガス噴出孔26Cからのガスの噴出の迅速性を確保することができる。
【0058】
また伝火薬15の燃焼をガス発生剤38に伝播させるための通気部34と、発生したガスを冷却用の空間44へ流すための連通孔22Aとが、インフレータケース12の軸方向において互いに反対側に位置しているので、ガス発生剤38を効率的に燃焼させることができる。
【0059】
ここで、アッパケース26及びロアケース28のうち、冷却用の空間44に面した底壁部26Dを有する側、即ち該冷却用の空間44で高温のガスと直接接触する側となるアッパケース26には、熱交換によって、より多くの熱が蓄積される傾向にある。その点本実施形態に係るインフレータ10では、該アッパケース26に、モジュールケース52や車両の取付けブラケット54に対する取付けフランジ26Fが一体的に設けられているので、図4において太線矢印で示されるように、該取付けフランジ26Fからモジュールケース52や取付けブラケット54に熱を効率的に逃がすことができる。
【0060】
具体的には、アッパケース26の底壁部26Dに対しては、内筒部材14の底壁部14Dを介して伝火薬15の燃焼熱が伝わると共に、冷却用の空間44においてガスの熱が伝わる。外筒部材18の他端18Bや隔壁22の端部22Bがアッパケース26の底壁部26Dに当接している場合には、該外筒部材18や隔壁22からアッパケース26にも熱が伝わる。このようにしてアッパケース26の底壁部26Dに伝わった熱は、周壁部26Bを通じて取付けフランジ26Fに至り、該取付けフランジ26Fと直接接触しているモジュールケース52や取付けブラケット54へと伝わって行く。
【0061】
またロアケース28の底壁部28Dは、燃焼室42に面しているので、該底壁部28Dにも該燃焼室42で発生した高温のガスの熱が伝わる。ロアケース28の底壁部28Dに伝わった熱は、該ロアケース28の周壁部28Bからアッパケース26の周壁部26Bへと伝わり、更に取付けフランジ26Fを介して、モジュールケース52や取付けブラケット54へと伝わって行く。
【0062】
従って、従来のような冷却及び濾過用のフィルタを用いない構成であっても、燃焼室42で発生した高温のガスとインフレータケース12との間で行われる熱交換を促進して、作動時におけるガス温度の冷却性能を向上させることができる。
【0063】
燃焼室42で発生したガスに含まれているミスト(図示せず)は、冷却用の空間44及びガス流路48を通過する際の流動抵抗によって、アッパケース26の底壁部26Dや周壁部26Bの内面等に付着するので、ガス噴出孔26Cに至る前に効率的に除去される。これにより、従来のような冷却及び濾過用のフィルタを廃止して、インフレータ10の小型軽量化が可能となる。
【0064】
[第2実施形態]
図5において、本実施の形態に係るインフレータ20では、燃焼室42がアッパケース26の底壁部26D側に配置される一方、冷却用の空間44がロアケース28の底壁部28D側に配置されている。これに伴い、冷却用の空間44からガス流路48へ通ずる通気部46や、該冷却用の空間44と燃焼室42とを区画する隔壁22が、ロアケース28の底壁部28D側に配置されている。またインフレータ20をモジュールケース52に取り付けるための取付けフランジ28Fも、ロアケース28側に一体的に設けられている。
【0065】
アッパケース26の下端には、周方向に沿って径方向外側に張り出した環状のフランジ26Eが形成されている。アッパケース26とロアケース28とは、該アッパケース26のフランジ26Eと、ロアケース28の取付けフランジ28Fとにおいて、例えば溶接により接合されている。
【0066】
アッパケース26及びロアケース28における周壁部26B,28Bの内径は、夫々同等となっており、外筒部材18の外径は、該周壁部26B,28Bの内径よりも小さく設定されている。これにより、ガス流路48は、ロアケース28の周壁部28Bと外筒部材18との間から、アッパケース26の周壁部26Bと外筒部材18との間まで通じ、該周壁部26Bのガス噴出孔26Cに連通している。
【0067】
他の部分については、第1実施形態と同様であるので、同一の部分には図面に同一の符号を付し、説明を省略する。モジュールケース52に対するインフレータ10の取付け状態や、エアバッグモジュール60の取付けブラケット54の取付け状態についても、第1実施形態と同様である。
【0068】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図5において、本実施形態に係るインフレータ20では、ECUからの作動電流を受けた際に点火装置16が作動することで、内筒部材14内の伝火薬15が着火される。この伝火薬15の燃焼が、該内筒部材14におけるアッパケース26の底壁部26D側に設けられた通気部34を通じて、外筒部材18の燃焼室42内に矢印A方向に伝播すると、該燃焼室42内に収容及び保持されているガス発生剤38が燃焼し、高温高圧のガスが発生する。
【0069】
このガスは、隔壁22に形成されている連通孔22Aを通って、冷却用の空間44に入り(矢印B方向)、ロアケース28の底壁部28Dに当たってから、通気部46を通じてガス流路48へ流れ、アッパケース26側の周壁部26Bに形成されているガス噴出孔26Cから、インフレータ10の外部へ噴出する(矢印C方向)。伝火薬15の燃焼をガス発生剤38に伝播させるための通気部34と、発生したガスを冷却用の空間44へ流すための連通孔22Aとが、インフレータケース12の軸方向において互いに反対側に位置しているので、ガス発生剤38を効率的に燃焼させることができる。
【0070】
ここで、アッパケース26及びロアケース28のうち、冷却用の空間44に面した底壁部28Dを有する側、即ち該冷却用の空間44で高温のガスと直接接触する側となるロアケース28には、熱交換によって、より多くの熱が蓄積される傾向にある。その点本実施形態に係るインフレータ20では、該ロアケース28に、モジュールケース52や車両の取付けブラケット54に対する取付けフランジ28Fが一体的に設けられているので、図5において太線矢印で示されるように、該取付けフランジ28Fからモジュールケース52や取付けブラケット54に熱を効率的に逃がすことができる。
【0071】
具体的には、ロアケース28の底壁部28Dに対しては、冷却用の空間44においてガスの熱が伝わる。外筒部材18の他端18Bや隔壁22の端部22Bがロアケース28の底壁部28Dに当接している場合には、該外筒部材18や隔壁22からロアケース28にも熱が伝わる。このようにしてロアケース28の底壁部28Dに伝わった熱は、周壁部28Bを通じて取付けフランジ28Fに至り、該取付けフランジ28Fと直接接触しているモジュールケース52や取付けブラケット54へと伝わって行く。
【0072】
またアッパケース26の底壁部26Dは、内筒部材14の底壁部14Dと当接すると共に、燃焼室42に面している。従って、アッパケース26の底壁部26Dに対しては、内筒部材14の底壁部14Dを介して伝火薬15の燃焼熱が伝わると共に、燃焼室42で発生した高温のガスの熱が伝わる。アッパケース26の底壁部26Dに伝わった熱は、該アッパケース26の周壁部26Bからフランジ26Eを介して、ロアケース28の取付けフランジ28Fに伝わり、更にモジュールケース52や取付けブラケット54へと伝わって行く。
【0073】
従って、従来のような冷却及び濾過用のフィルタを用いず、ロアケース28側に取付けフランジ28Fを設けた構成であっても、燃焼室42で発生した高温のガスとインフレータケース12との間で行われる熱交換を促進して、作動時におけるガス温度の冷却性能を向上させることができる。
【0074】
[第3実施形態]
図6において、本実施形態に係るインフレータ30では、取付けフランジ26Fのうち少なくとも所定部位に当接する部位が段付き形状とされ、かつ伝熱部材66が設けられている。
【0075】
取付けフランジ26Fの段付き形状は、例えば、アッパケース26の周壁部26Bの下端から径方向外側へ張り出す内側水平部26Hと、該内側水平部26Hの端部から下方側(ロアケース28側)へ延びる垂直部26Vと、該垂直部26Vの下端から径方向外側へ張り出す外側水平部26Jとにより構成されている。
【0076】
本実施形態における所定部位は、例えばベース部材68である。このベース部材68におけるインフレータ30の中心側の端縁には、上方側への折曲げ部68Aが設けられている。インフレータ30をベース部材68に取り付けた際に、該ベース部材68は、取付けフランジ26Fの外側水平部26J上に直接接触すると共に、折曲げ部68Aにおいて垂直部26Vの径方向外側面に直接接触するようになっている。折曲げ部68Aの高さ寸法は、例えば、取付けフランジ26Fの垂直部26Vの高さ寸法と同等となっている。
【0077】
伝熱部材66は、取付けフランジ26Fと、冷却用の空間44に面したアッパケース26の底壁部26Dの外面(上面)とに当接する部材であり、該アッパケース26に対して、例えば溶接により固定されている。この伝熱部材66は、インフレータ30の周方向において、ガス噴出孔26Cの位置を避けるように、例えば複数設けられている。これにより、ガス噴出孔26Cからのガスの噴出が円滑に行われるようになっている。
【0078】
また伝熱部材66は、底壁部26Dと略平行に延びる水平部66Hと、インフレータケース12の径方向外側となる該水平部66Hの端部から、下方側(ロアケース28側)へ延びる垂直部66Vと、該垂直部66Vの下端から、インフレータケース12の径方向外側に折曲げ形成された当接部66Aとにより構成されている。水平部66Hは、アッパケース26における底壁部26Dの外面(上面)に当接し、当接部66Aは、取付けフランジ26Fにおける内側水平部26Hの上面に当接している。垂直部66Vは、アッパケース26の周壁部26Bとは離間している。
【0079】
他の部分については、第1実施形態と同様であるので、同一の部分には図面に同一の符号を付し、説明を省略する。またインフレータ30の内部構造は、第1実施形態と同様であるので、図示を省略している。
【0080】
(作用)
本実施形態は上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図6において太線矢印で示されるように、本実施形態に係るインフレータ30では、アッパケース26の取付けフランジ26Fと、冷却用の空間44に面した該アッパケース26の底壁部26Dの外面とに当接する伝熱部材66を有しているので、作動時にインフレータケース12に蓄えられた熱は、該インフレータケース12自体を通じて取付けフランジ26Fまで伝えられるだけでなく、アッパケース26の底壁部26Dの外面から取付けフランジ26Fまで、伝熱部材66を介して伝えられる。即ち、フランジ26Fまで2系統で熱を伝えることができる。
【0081】
更に本実施形態では、取付けフランジ26Fが段付き形状とされているので、取付け場所となるベース部材68との接触面積を増やすことができる。具体的には、インフレータ30をベース部材68に取り付けた際に、該ベース部材68は、取付けフランジ26Fの外側水平部26J上に直接接触すると共に、折曲げ部68Aにおいて垂直部26Vの径方向外側面に直接接触している。これにより、ベース部材68と取付けフランジ26Fとの接触面積が増大している。このため、インフレータ30の作動時に、取付けフランジ26Fからベース部材68へ効率的に熱を逃がして、ガス温度の冷却性能をより一層向上させることができる。
【0082】
[第4実施形態]
図7において、本実施の形態に係る車両用エアバッグ装置40は、助手席用のエアバッグ装置であって、インフレータ10のフランジ26Fが、所定部位としての取付けブラケット54に直接的に接触した状態で、エアバッグモジュール70が該取付けブラケット54に取付け固定されている。
【0083】
具体的には、例えば第1実施形態に係るインフレータ10の取付けフランジ26Fが、リテーナ64のスタッドボルト56及びナット58により、取付けブラケット54に対して直接的にボルト締結されている。この取付けブラケット54は、インストルメントパネル内(図示せず)において車幅方向に延びるインパネリインフォースメント74に、例えば一対設けられている。
【0084】
車両用エアバッグ装置40におけるエアバッグモジュール70は、例えば布製のモジュールケース72を用いた構成となっている。このモジュールケース72の底部には、インフレータ10の例えばガス噴出孔26Cの部分が差し込まれるインフレータ差込み孔72Aと、リテーナ64のスタッドボルト56が差し込まれる貫通孔72Bとが形成されている。
【0085】
モジュールケース72の上方は、エアバッグ62の膨出を可能とするために開口している。この開口縁部には、補強部72Cが、例えば全周にわたって設けられている。この補強部72Cは、モジュールケース72の布を折り返す等により一部厚手にするか、あるいは別途補強部材を用いることで構成されている。そしてこの補強部72Cにおける車両前方側の辺及び車両後方側の辺には、夫々複数の貫通孔72Dが直列に形成されている。
【0086】
補強部72Cの内側には、例えば金属製の枠体76が配設される。この枠体76における車両前方側の辺及び車両後方側の辺には、夫々複数のフック76Aが設けられている。このフック76Aは、モジュールケース72の開口側を覆うエアバッグドア78に係止される。
【0087】
具体的には、エアバッグドア78の下面側には、モジュールケース72の補強部72Cよりも一回り大きな枠状の縦壁部78Bが設けられており、該縦壁部78Bにおける車両前方側の辺及び車両後方側の辺には、夫々複数の貫通孔78Aが直列に形成されている。そして、枠体76のフック76Aは、モジュールケース72における補強部72Cの貫通孔72Dに差し込まれると共に、エアバッグドア78の貫通孔78Aに差し込まれる。
【0088】
これにより、エアバッグ62及びリテーナ64を収容したモジュールケース72が、枠体76を介してエアバッグドア78に係止されて、エアバッグモジュール70となる。
【0089】
インフレータ10の取付けフランジ26Fを取付けブラケット54に直接接触させるため、該取付けフランジ26Fはモジュールケース72と取付けブラケット54との間に配置される。エアバッグモジュール70を取付けブラケット54に取り付ける際の作業性を考慮して、インフレータ10における取付けフランジ26Fの貫通孔26Gに、リテーナ64のスタッドボルト56を通して、該インフレータ10をモジュールケース72に対して仮止めしておいてもよい。
【0090】
エアバッグドア78は、エアバッグ62の膨張圧が作用した際に、例えば所定の破断予定部が破断して開裂することで展開し、該エアバッグ62の膨出を許容するように構成されている。
【0091】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。本実施形態では、インフレータ10の取付けフランジ26Fが、インパネリインフォースメント74の取付けブラケット54に対して直接的にボルト締結されることで、エアバッグモジュール70が車両に取付け固定されているので、インフレータ10の作動時に、インフレータケース12から取付けブラケット54へ直接的に熱を逃がし、更に該取付けブラケット54からインパネリインフォースメント74へと熱を逃がすことができる。このため、作動時のガス温度の冷却性能をより一層向上させることができる。
【0092】
なお、エアバッグモジュール70におけるモジュールケース72を布製としたが、これに限られず、モジュールケース72を金属製としてもよい。この場合、インフレータ10の取付けフランジ26Fをモジュールケース72の下面側に配置して、該モジュールケース72と取付けブラケット54との間に挟み、該取付けフランジ26Fを該モジュールケース72及び取付けブラケット54に直接接触させることができる。これにより、インフレータ10の作動時に、インフレータケース12からモジュールケース72へ直接的に熱を逃がすと共に、該モジュールケース72から取付けブラケット54へ、更にはインパネリインフォースメント74へと熱を逃がすことができる。
【0093】
また、インフレータ10の取付けフランジ26Fをモジュールケース72の底壁部の上面側に配置して該モジュールケース72に直接接触させ、該モジュールケース72を介して取付けブラケット54にボルト締結することもできる。この場合、インフレータ10の作動時に、インフレータケース12からモジュールケース72へ直接的に熱を逃がし、更に該モジュールケース72から取付けブラケット54へ、更にはインパネリインフォースメント74へと熱を逃がすことができる。
【0094】
何れにしても、インフレータ10の作動時におけるガス温度の冷却性能を向上させることが可能である。なお、車両用エアバッグ装置40に用いるインフレータは、第1実施形態に係るインフレータ10に限られるものではなく、第2実施形態に係るインフレータ20や、第3実施形態に係るインフレータ30を適用することも可能である。
【0095】
[第5実施形態]
図8において、本実施の形態に係る車両用エアバッグ装置50は、運転席用のエアバッグ装置であって、インフレータ10のフランジ26Fが所定部位としてのベース部材82に直接的に接触した状態で、エアバッグモジュール80が、車両におけるステアリングホイール84に取付け固定されている。
【0096】
具体的には、例えば第1実施形態に係るインフレータ10の取付けフランジ26Fが、リテーナ64のスタッドボルト56及びナット58により、ベース部材82に対して直接的にボルト締結されている。このベース部材82は、ステアリングホイール84に対して例えばボルト締結される取付けブラケットを兼ねており、例えば円環状の中央部82Cと、該中央部84Cから径方向外側に延びる一対の腕部82Dとを有して構成されている。
【0097】
ベース部材82の中央部82Cには、インフレータ10の例えばガス噴出孔26Cの部分が差し込まれるインフレータ差込み孔82Aと、リテーナ64のスタッドボルト56が差し込まれる貫通孔82Bとが形成されている。また両方の腕部82Dの端部には、夫々取付け部82Eが折曲げ形成されている。この取付け部82Eには、ベース部材82をステアリングホイール84の取付け部84Aに締結固定する際のボルト(図示せず)を差し込むための貫通孔82Fが形成されている。
【0098】
ステアリングホイール84の取付け部84Aには、該ステアリングホイール84の骨格をなす金属部が露出しており、インフレータ10の作動時に、ベース部材82からステアリングホイール84へ効率的に熱が伝わるようになっている。また取付け部84Aに対しては、例えばステアリングホイール84の側方から締結用のボルト(図示せず)を挿入するための挿入孔84Bが設けられている。
【0099】
車両用エアバッグ装置50におけるエアバッグモジュール80は、例えば布製のモジュールケース72を用いた構成となっている。このモジュールケース72の底部には、インフレータ10の例えばガス噴出孔26Cの部分が差し込まれるインフレータ差込み孔72Aと、リテーナ64のスタッドボルト56が差し込まれる貫通孔72Bとが形成されている。
【0100】
モジュールケース72の車両前方側の辺及び車両後方側の辺には、夫々複数のフック72Eが設けられている。このフック72Eは、モジュールケース72の開口側を覆うエアバッグドア78の貫通孔78Aに係止される。エアバッグドア78の構成は、第4実施形態(図7)と同様であるが、本実施形態に係るエアバッグドア78は、ステアリングホイール84におけるステアリングパッドを兼ねている。これにより、エアバッグ62及びリテーナ64を収容したモジュールケース72が、エアバッグドア78に係止されて、エアバッグモジュール80となる。
【0101】
インフレータ10の取付けフランジ26Fをベース部材82に直接接触させるため、該取付けフランジ26Fは、例えばモジュールケース72とステアリングホイール84との間に配置される。この他、取付けフランジ26Fを、モジュールケース72とベース部材82との間に配置してもよい。ベース部材82及びエアバッグモジュール80をステアリングホイール84に取り付ける際の作業性を考慮して、インフレータ10における取付けフランジ26Fの貫通孔26Gに、リテーナ64のスタッドボルト56を通して、該インフレータ10をモジュールケース72及びベース部材82に対して仮止めしておいてもよい。
【0102】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。本実施形態では、インフレータ10の取付けフランジ26Fがベース部材82に対して直接的に接触した状態で、エアバッグモジュール80がステアリングホイール84にボルト締結されているので、インフレータ10の作動時に、インフレータケース12からベース部材82へ直接的に熱を逃がし、更に該ベース部材82からステアリングホイール84へと熱を逃がすことができる。このため、作動時のガス温度の冷却性能をより一層向上させることができる。
【0103】
なお、エアバッグモジュール80におけるモジュールケース72を布製としたが、これに限られず、図9に示されるように、モジュールケース72を金属製としてもよい。この場合、伝熱性が布製の場合よりも良好なため、ベース部材82(図8)を用いなくてもよい。ベース部材82を用いない場合、モジュールケース72をステアリングホイール84の取付け部84Aにボルト締結するために、該モジュールケース72には、一対の取付けブラケット86が設けられる。この取付けブラケット86は、例えば断面略U字形に形成され、モジュールケース72の側壁部72Fに例えば溶接固定されている。また取付けブラケット86には、締結用のボルト(図示せず)を通すための貫通孔86Aが夫々形成されている。
【0104】
図9に示される例の場合、インフレータ10の取付けフランジ26Fをモジュールケース72の下面側に配置してもよいし、上面側に配置してもよい。何れにしても、取付けフランジ26Fをモジュールケース72に直接接触させることができる。これにより、インフレータ10の作動時に、インフレータケース12からモジュールケース72へ直接的に熱を逃がし、更に該モジュールケース72からステアリングホイール84へと効率的に熱を逃がすことができる。
【0105】
このように、本実施形態では、運転席用のエアバッグ装置であっても、インフレータ10の作動時におけるガス温度の冷却性能を向上させることが可能である。なお、車両用エアバッグ装置50に用いるインフレータは、第1実施形態に係るインフレータ10に限られるものではなく、第2実施形態に係るインフレータ20や、第3実施形態に係るインフレータ30を適用することも可能である。
【0106】
なお、上記各実施形態において、取付けフランジ26Fと各所定部位との間には、熱伝導グリース等を介在させてもよい。インフレータケース12の熱を、取付けフランジ26Fから所定部位へ、より効率的に逃がすことができるからである。
【符号の説明】
【0107】
10 インフレータ
12 インフレータケース
14 内筒部材
15 伝火薬
16 点火装置
18 外筒部材
18B 他端
20 インフレータ
22 隔壁
22A 連通孔
26 アッパケース
26B 周壁部
26C ガス噴出孔
26D 底壁部
26F 取付けフランジ(フランジ)
28 ロアケース
28B 周壁部
28D 底壁部
30 インフレータ
32 段差部
34 通気部
38 ガス発生剤
40 車両用エアバッグ装置
42 燃焼室
44 冷却用の空間
48 ガス流路
50 車両用エアバッグ装置
52 モジュールケース(所定部位)
54 取付けブラケット
62 エアバッグ
66 伝熱部材
68 ベース部材
72 モジュールケース(所定部位)
74 インパネリインフォースメント
82 ベース部材(所定部位)
84 ステアリングホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状のアッパケース、及び該アッパケースの端部の開口を閉塞する有底円筒状のロアケースから構成され、前記アッパケース側の周壁部に複数のガス噴出孔が形成されたインフレータケースと、
前記インフレータケースの内部に配設され、伝火薬を収容しかつ保持する内筒部材と、
該内筒部材の内部に配設され前記伝火薬に着火するための点火装置と、
前記インフレータケースの内部において、一端が前記インフレータケースの軸方向の一方側に配置されて閉塞され、他端が前記インフレータケースの軸方向の他方側に配置され、前記伝火薬の燃焼が伝播することで燃焼しガスを発生させるガス発生剤を、前記内筒部材の周囲に収容しかつ保持する外筒部材と、
前記外筒部材と前記内筒部材との間に設けられ、該外筒部材の前記一端側に位置し前記ガス発生剤が収容される燃焼室と、前記外筒部材の前記他端側に位置する冷却用の空間とを区画し、かつ前記燃焼室側から該冷却用の空間側への前記ガスの流れを許容する複数の連通孔が設けられた隔壁と、を有し、
前記インフレータケースの内側でかつ前記外筒部材の外側に、前記外筒部材の前記他端側において前記冷却用の空間と連通すると共に、前記アッパケースの前記ガス噴出孔に連通するガス流路が形成され、
前記燃焼室で発生したガスが、前記隔壁の前記連通孔を通って前記冷却用の空間に流入し、該冷却用の空間に面した前記インフレータケースの底壁部に直接当たってから、前記ガス流路に流入するようにすることで、該ガスの冷却及び濾過用のフィルタを使用しない構成とされ、
更に、前記アッパケース及び前記ロアケースのうち、前記冷却用の空間に面した前記底壁部を有する側のケースに、所定部位に対する取付け用のフランジが一体的に設けられているインフレータ。
【請求項2】
前記内筒部材の軸方向における前記燃焼室側の端部に、該燃焼室と、該内筒部材の内側とに連通する通気部が設けられている請求項1に記載のインフレータ。
【請求項3】
前記外筒部材は、前記ロアケースの内側に嵌合し、
該ロアケースは、開口側端部が前記アッパケースの前記周壁部の内側に嵌合した状態で該アッパケースに対して固定され、
前記ロアケースの前記開口側端部と前記アッパケースの前記周壁部とで段差部が形成され、
前記ガス流路は、該段差部、前記外筒部材、及び前記アッパケースの前記周壁部により区画されて形成されている請求項1又は請求項2に記載のインフレータ。
【請求項4】
前記フランジのうち少なくとも前記所定部位に当接する部位が、段付き形状とされている請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のインフレータ。
【請求項5】
前記フランジと、前記冷却用の空間に面した前記インフレータケースの外面とに当接する伝熱部材が設けられている請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のインフレータ。
【請求項6】
モジュールケースに、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載に記載のインフレータを取り付けると共に、該インフレータからのガスの供給を受けて膨張展開するエアバッグを折畳み状態で収納して構成されるエアバッグモジュールを有し、
該エアバッグモジュールは、前記インフレータの前記フランジを前記所定部位としての前記モジュールケースに直接的に接触させた状態で、車両に取付け固定される車両用エアバッグ装置。
【請求項7】
前記インフレータの前記フランジは、前記車両におけるインパネリインフォースメントに設けられた取付けブラケットに対して、直接的に、又は前記モジュールケースを介して、ボルト締結されている請求項6に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項8】
ベース部材に、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載に記載のインフレータを取り付けると共に、該インフレータからのガスの供給を受けて膨張展開するエアバッグを折畳み状態で取り付けて構成されるエアバッグモジュールを有し、
該エアバッグモジュールは、前記インフレータの前記フランジを前記所定部位としての前記ベース部材に直接的に接触させた状態で、車両に取付け固定される車両用エアバッグ装置。
【請求項9】
前記ベース部材は、前記車両におけるステアリングホイールに対してボルト締結される請求項8に記載の車両用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−61961(P2012−61961A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207943(P2010−207943)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】