説明

インフレータ

【課題】保管及び運搬時にも安全性の高い、軽量かつコンパクトな構造のインフレータを提供する。
【解決手段】高圧ガスが内部に充填され、ガス放出口2aを軸線上に有するボンベ2とガス放出口を閉塞するラプチャーディスク3と点火器4と高圧ガスの経路を形成する流出通路5と該流出通路5の先端に着脱可能に取り付けられるアダプター9とをそなえるインフレータ1において、前記流出通路5は、前記ボンベ2に対して軸方向に延設され、かつ軸方向に開口し、凹部および凸部のいずれか一方または両方を有する筒体であって、さらに先端部に、前記筒体の最大外径よりも外径の小さいおねじ部8を有し、前記アダプター9は、内側にめねじ部を有するナット部9aおよび中空のドーム部9bを有し、該ドーム部9bに、その軸線と直交する向きに貫通する、複数の孔9cを相互対称に有し、前記流出通路の先端部の前記おねじ部に、前記アダプターのめねじ部が係合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエアバッグを膨張展開させるインフレータ、特にエアカーテン式のエアバッグに好適なインフレータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突時に生じる衝撃から乗員を保護するための安全装置として、エアバッグが知られている。このエアバッグは、インフレータから供給される高圧ガスにて膨張、展開するものである。
近年、乗員の安全性を更なる向上を目指して、例えば図1に示すような、車両のサイドドア上方から展開する、エアカーテン式のエアバッグ100が装着され始めている。この種のエアバッグは、通常、自動車の屋根部分に折り畳まれて収納されていて、車両が衝撃を受けた際に作動して膨張し、乗員の特に頭部をドアや窓ガラスと衝突を緩衝するよう働くものである。このエアバッグを膨張、展開させるための高圧ガスを供給するインフレータは、自動車のサイドドア側の各ピラー101および103やルーフサイドレール102の内側に適宜選択して設置され、折り畳まれたエアバッグ100に連結されている。
【0003】
上記したエアカーテン式のエアバッグを瞬時に膨張、展開させるための高圧ガスの供給を可能にするインフレータは種々知られている。いずれも、例えば、特許文献1および2に開示されるように、高圧ガスを充填したボンベと、このボンベからの高圧ガスをエアバッグ側に導く流出経路と、ボンベのガス放出口を閉塞するラプチャーディスクをエアバッグ作動時に破壊するための、破壊圧を発生させる点火器とを有することが、基本構造である。
【0004】
特に、エアカーテン式のエアバッグでは展開までの時間を短くすることが重要であり、インフレータからの高圧ガスがエアバッグに効率良く流出することが好ましい。このような観点から、特許文献1では、高圧ガスを充填したボンベからエアバッグへのガス流出経路がボンベの軸線に沿う向きにある、インフレータが提案されている。
【特許文献1】特開2002−172995号公報
【特許文献2】特表2005−517569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かように、ガス流出経路をボンベの軸線に沿って設けることによって、ガス供給の効率は上がるが、一方で、当該インフレータの保管及び運搬時には注意を要することになる。すなわち、車両搭載前の保管時や運搬時等に、例えば火災のような不測の事態が起きた際に、インフレータの点火器が誤作動したり、ボンベ内圧が上昇することによって、ラプチャーディスクが破裂してしまった場合、高圧ガスがボンベから流出し、この流出ガスがボンベの軸線方向に沿って外部へと噴出することになる結果、このガスの流出を推進力としてインフレータが所謂ロケットのように飛び出し、非常に危険な状態になる。
【0006】
また、インフレータは、上述のとおり、自動車のエアバッグに用いるものであり、近年の自動車の燃費向上を所期した車体の軽量化要請に伴い、インフレータについてもコンパクト化および軽量化が要求されている。
【0007】
そこで、本発明は、上記した問題を解消し、保管及び運搬時にも安全性の高い、軽量かつコンパクトな構造のインフレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)高圧ガスが内部に充填され、該高圧ガスのガス放出口を軸線上に有するボンベと、
該ガス放出口を閉塞するラプチャーディスクと、
該ラプチャーディスクを破裂させる点火器と、
前記ボンベのガス放出口から外部へ流出する高圧ガスの経路を形成する流出通路と、
該流出通路の先端に着脱可能に取り付けられるアダプターと、
をそなえるインフレータにおいて、
前記流出通路は、前記ボンベに対して軸方向に延設され、かつ軸方向に開口し、凹部および凸部のいずれか一方または両方を有する筒体であって、さらに先端部に、前記筒体の最大外径よりも外径の小さいおねじ部を有し、
前記アダプターは、内側にめねじ部を有するナット部および中空のドーム部を有し、該ドーム部に、その軸線と直交する向きに貫通する、複数の孔を相互対称に有し、
前記流出通路の先端部の前記おねじ部に、前記アダプターのめねじ部が係合されてなることを特徴とするインフレータ。
【0009】
このように構成することによって、流出通路とエアバッグとを連結するガス導出管をかしめにて確実かつ強固に、しかも簡便に取り付けることが可能になる。また、流出通路の先端にコンパクトなアダプターをねじ留めすることができ、保管及び運搬時にも安全性の高い軽量かつコンパクトなインフレータの提供が可能になる。
【0010】
(2)前記(1)において、前記流出通路は凹部を有することを特徴とするインフレータ。
このように構成することによって、ガス導出管をかしめ固定するのに適した構造を与えることができる。
【0011】
(3)前記(1)において、前記流出通路は凸部を有することを特徴とするインフレータ。
このように構成することによって、ガス導出管をかしめ固定するのに適した構造を与えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保管及び運搬時にも安全性の高い、軽量かつコンパクトな構造のインフレータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のインフレータについて、図面を参照して詳しく説明する。図2は本発明に従うインフレータの構成を示す断面図であり、図3はアダプターの断面図であり、図4はインフレータをエアバッグに連結した状態を示す断面図であり、図6および7は他の実施形態を示す断面図である。
【0014】
図2に示すインフレータ1は、高圧ガスが内部に充填されるボンベ2と、該ボンベ2のガス放出口2aを閉塞するラプチャーディスク3と、該ラプチャーディスク3を破裂させる点火器4と、ボンベ2のガス放出口2aからエアバッグ側へ流出させる高圧ガスの経路を形成する流出通路5とをそなえる。
【0015】
なお、ボンベ2、ラプチャーディスク3および点火器4は、インフレータの一般に従えばよく、特に図示例に限定する必要はなく、図示例では、火炎噴出口4aをラプチャーディスク3に向かって開口することによって、点火器4作動時の火炎の向きを制御しているが、点火器4自体の火炎の向きがラプチャーディスク3に向かうように、点火器4の向きを変化させる等、適宜の変更が可能である。
【0016】
ここで、流出通路5は、ボンベ2に固定され、かつ点火器4が取り付けられる基部5aと、この基部5aに接続されエアバッグ側との連結部分となる接続部5bと先端部5cとを接合してなる、筒体であり、この筒体が前記ボンベ2の軸線Lの向きに開口していることが肝要である。このように流出通路5の先端部にボンベ2の軸線Lの向きに開く開口6を設けることによって、ボンベ2からの高圧ガスを当該ガスの放出方向に向かって外部へ効率良く流出させることができる。
【0017】
さらに、流出通路5の接続部5bは、インフレータ1をエアバッグ10に連結するためのガス導出管11をかしめ固定するための、凹部および/または凸部、図示例では凹部7を有し、先端部5cは該接続部5bの外径より小径のおねじ部8を有する。該おねじ部には、図3に示すアダプター9が着脱可能に取り付けられる。
【0018】
凹部7は、図4に示すように、ガス導出管11の一端を固定するために設けられ、例えば管状のガス導出管11の一端側を、この凹部7に縮径による八方かしめ処理にて固定することによって、この縮径部11aを介して、確実かつねじ固定等に比べて低コストでガス導出管11を流出通路5に接続するのに役立てる。
【0019】
また、流出通路5の先端部5cのおねじ部8には、インフレータの保管及び運搬時に必須のアダプター9を装着する。該アダプター9は、図3に示すように、ナット部9aおよび中空のドーム部9bからなり、該ドーム部9bに、その半径方向に貫通する複数の孔9cを相互に対称に設けることが重要である。ここで、孔9cは、図示例において、ドーム部9bの基端側の円環状部分9dに設けてある。
【0020】
このアダプター9は、上述したように、ガス流出経路(流出通路5)をボンベ2の軸線上に設けるに当たり、インフレータの保管及び運搬時に極めて重要な役割を担うものであり、車両搭載前の保管時や運搬時等に、例えば火災のような不測の事態が起きた際に、インフレータの点火器が誤作動し、ラプチャーディスクが破裂してしまった場合、高圧ガスがボンベから流出し、この流出ガスがボンベの軸線方向に沿って外部へと噴出する際に、このガスの流出を推進力としてインフレータがロケット状態になるのを回避するものである。
【0021】
すなわち、アダプター9をねじ結合により流出通路5の開口部6に強固に取り付ければ、上述の不測のガス流出事態を招いたとしても、流出したガスを、ドーム部9bの軸線Aと直交する向きに貫通する複数の孔9cを介して、軸線Aと直交する向きに分散させる形で放出することができ、一方向への噴出は回避され、インフレータがロケット状態になることはない。
【0022】
ここで、複数の孔9cを相互に対称に設けること、具体的には、図3(b)に示すように、ナット部9aの中心軸線aを中心とする点対称に、複数の孔9cを配置し、かつ上記したように軸線aと直交する向きに貫通させることによって、これらの孔9cを介してボンベ2からのガスを等方的に排出することが好ましい。なお、孔9cが奇数の場合は、孔9cの周上の間隔が等しくなる配置にすればよい。
【0023】
また、図示例では、6個の孔9cを設けてあるが、複数であれば特に限定する必要はない。好ましくは、2〜8個程度である。さらに、孔の直径は、3〜6mmとする。
【0024】
なお、孔9cは、図示例において、ドーム部9bの基端側の円環状部分9dに設けてあるが、図5に示すように、ドーム部9bを円環状部分9dのない半球状にし、この半球部分に複数の孔9cを設けてもよい。さらに、図5(b)に示すように、ドーム部9bの内面が外面に沿った球面状であることが、上記ガスの排出を効率的に行う上で有利である。
【0025】
ちなみに、ナット部9aは、図示例のように、所謂六角ナットにすることによって、アダプター9の装着作業を汎用の道具にて行えるため、簡便な作業が実現される。ここで、ナット部には、JIS B1181および1183(DIN 1587)に規定のM12〜M18のものを用いることができる。
【0026】
以上述べたように、流出通路5は、インフレータ1とエアバッグ10が連結されたガス導出管11とを接続する際には、凹部および/または凸部にかしめ処理でガス導出管11を固定し、またインフレータ1を保管、運搬する際には、流出通路5を構成する筒体の最大外径よりも外径の小さいおねじ部に、軽量かつコンパクトなアダプター9をねじ留めするものである。このように固定手段を分けることによって、全体として在来に比較して軽量かつコンパクトなインフレータの提供が可能となる。
【0027】
従って、このインフレータを使用したエアバッグモジュールについても、軽量化することが可能になる。
さらに、車両の衝突に伴うインフレータ作動時には、ボンベの軸方向に開口しているため、ガスは効率良く流出されるから、エアバッグの展開を早期に行うことができる。
【0028】
また、以上の事例では、かしめ用の凹部7は、周方向に連続する一条としたが、周方向に連続した凹部ではなく周方向に凹部が断続していてもよいし、図6に示すように、凹部7を複数設けてもよい。
【0029】
さらに、かしめ処理が凹部に対してではなく、図7に示すように、凸部70に対して行われてもよい。すなわち、流出通路5の外周部に設けた凸部70に対して、ガス導出管11の端部を、例えば八方かしめ処理して縮径部11bおよび11cを設けることによって、固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用するエアカーテン式のエアバッグを説明する図である。
【図2】本発明のインフレータを示す断面図である。
【図3】アダプターの断面図である。
【図4】インフレータをエアバッグに連結した状態を示す断面図である。
【図5】アダプターの他の実施形態を示す断面図である。
【図6】インフレータにエアバッグと連結するガス導出管を固定する構造を示す断面図である。
【図7】インフレータにエアバッグと連結するガス導出管を固定する別の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 インフレータ
2 ボンベ
2a ガス放出口
3 ラプチャーディスク
4 点火器
5 流出通路
5a 通路本体
5b 接続部
5c 先端部
6 開口
7 凹部
8 おねじ部
9 アダプター
9a ナット
9b ドーム部
9c 孔
10 エアバッグ
11 ガス導出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスが内部に充填され、該高圧ガスのガス放出口を軸線上に有するボンベと、
該ガス放出口を閉塞するラプチャーディスクと、
該ラプチャーディスクを破裂させる点火器と、
前記ボンベのガス放出口から外部へ流出する高圧ガスの経路を形成する流出通路と、
該流出通路の先端に着脱可能に取り付けられるアダプターと、
をそなえるインフレータにおいて、
前記流出通路は、前記ボンベに対して軸方向に延設され、かつ軸方向に開口し、凹部および凸部のいずれか一方または両方を有する筒体であって、さらに先端部に、前記筒体の最大外径よりも外径の小さいおねじ部を有し、
前記アダプターは、内側にめねじ部を有するナット部および中空のドーム部を有し、該ドーム部に、その軸線と直交する向きに貫通する、複数の孔を相互対称に有し、
前記流出通路の先端部の前記おねじ部に、前記アダプターのめねじ部が係合されてなることを特徴とするインフレータ。
【請求項2】
請求項1において、前記流出通路は凹部を有することを特徴とするインフレータ。
【請求項3】
請求項1において、前記流出通路は凸部を有することを特徴とするインフレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−95199(P2010−95199A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269122(P2008−269122)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(508311938)アイエスアイ オートモーティヴ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (1)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】