説明

インプリント装置、インプリント方法及び物品の製造方法

【課題】モールドを樹脂に押し付けたときの圧力によって凝縮する気体の樹脂に対する溶解量の不均一性を低減し、転写されるパターンの均一性の向上に有利な技術を提供する。
【解決手段】基板の上にモールドのパターンを転写するインプリント装置であって、前記基板の上に供給された樹脂に前記モールドを押し付けた状態で当該樹脂を硬化させ、硬化した樹脂から前記モールドを剥離することで前記基板の上に前記モールドのパターンを転写するインプリント処理を行う処理部を有し、前記樹脂には、フッ素化合物を含む気体又は液体が溶解されていることを特徴とするインプリント装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、インプリント方法及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスなどの製造プロセスにおいて、ステッパーやスキャナーなどの露光装置に代わるリソグラフィ装置として、インプリント技術を用いたインプリント装置が注目されている。インプリント装置は、微細パターンが形成されたモールド(原版)と基板に供給(塗布)された樹脂とを接触させた状態で樹脂を硬化させ、硬化した樹脂からモールドを剥離することでモールドのパターンを転写する。また、モールドのパターン(凹部)に充填された樹脂(未硬化樹脂)を硬化させる樹脂硬化法としては、例えば、光硬化法や熱硬化法などが知られている。
【0003】
インプリント装置では、モールドのパターンに樹脂を充填する際に、モールドのパターンに空気などが残存している(閉じ込められる)と、未充填欠陥(樹脂が充填されないこと)が発生してしまう。このような未充填欠陥の発生を防止するために、モールドと基板との間の空間に、モールドを樹脂に押し付けたときの圧力によって凝縮する気体(凝縮性ガス)を供給する技術が提案されている(特許文献1参照)。また、凝縮性ガスとしては、例えば、ハイドロフルオロカーボン(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン)などがある(非特許文献1参照)。
【0004】
また、ペンタフルオロプロパンを供給しながらモールドを樹脂に押し付けて、硬化、離型させた場合に、離型力(剥離力)が小さくなることが知られている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3700001号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics 49(2010) 06GL04
【非特許文献2】J.Vac.Sci.Technol.B,Vol.27,No.6,p2862−p2865
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術のように、凝縮性ガスの雰囲気下でインプリント処理を行うと、インプリント処理中に凝縮性ガスが樹脂に溶解してしまうため、インプリント処理後に、凝縮性ガスが硬化した樹脂から抜けることでパターンの収縮が生じてしまう。特に、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量が部分的に異なる(即ち、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量が不均一な分布となる)と、パターンの収縮量に分布が生じ、転写されるパターンが不均一なパターンとなってしまう。なお、非特許文献1には、凝縮性ガスの雰囲気下でインプリント処理を行った場合には、通常の空気の雰囲気下でインプリント処理を行った場合と比較して、転写されるパターン(の高さ)が20%程度収縮することが報告されている。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、モールドを樹脂に押し付けたときの圧力によって凝縮する気体の樹脂に対する溶解量の不均一性を低減し、転写されるパターンの均一性の向上に有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント装置は、基板の上にモールドのパターンを転写するインプリント装置であって、前記基板の上に供給された樹脂に前記モールドを押し付けた状態で当該樹脂を硬化させ、硬化した樹脂から前記モールドを剥離することで前記基板の上に前記モールドのパターンを転写するインプリント処理を行う処理部を有し、前記樹脂には、フッ素化合物を含む気体又は液体が溶解されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、モールドを樹脂に押し付けたときの圧力によって凝縮する気体の樹脂に対する溶解量の不均一性を低減し、転写されるパターンの均一性の向上に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一側面としてのインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】混合機構の構成の一例を示す図である。
【図3】混合機構の構成の一例を示す図である。
【図4】本発明の一側面としてのインプリント装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の一側面としてのインプリント装置100の構成を示す図である。インプリント装置100は、半導体デバイスなどの製造プロセスで使用されるリソグラフィ装置であって、基板の上にモールドのパターンを転写する。インプリント装置100は、本実施形態では、樹脂硬化法として、紫外線の照射によって樹脂を硬化させる光硬化法を採用する。
【0015】
インプリント装置100は、モールド102を保持するモールドヘッド104と、基板106を保持するステージ108と、樹脂供給部110と、気体供給部120と、制御部130とを有する。
【0016】
モールド102は、基板106に対向する面に、基板106(に供給された樹脂)に転写すべきパターンが形成されたパターン部(凹部)102aを有する。モールド102は、例えば、矩形形状の外形を有し、紫外線を透過する材料(石英など)で構成される。
【0017】
モールドヘッド104は、モールド102を真空吸引力又は静電気力によって保持(固定)する。モールドヘッド104は、モールド102をz軸方向に駆動する駆動機構を含み、基板106の上の樹脂(未硬化樹脂)にモールド102を適切な力で押し付け(押印し)、基板106の上の樹脂(硬化樹脂)からモールド102を剥離(離型)する機能を有する。
【0018】
基板106は、モールド102のパターンが転写される基板であって、例えば、単結晶シリコンウエハやSOI(Silicon on Insulator)ウエハなどを含む。
【0019】
ステージ108は、基板106を保持する基板チャックと、モールド102と基板106との位置合わせ(アライメント)を行うための駆動機構とを含む。かかる駆動機構は、例えば、粗動駆動系と微動駆動系とで構成され、x軸方向及びy軸方向に基板106を駆動する。また、かかる駆動機構は、x軸方向及びy軸方向だけではなく、z軸方向及びθ(z軸周りの回転)方向に基板106を駆動する機能や基板106の傾きを補正するためのチルト機能を備えていてもよい。
【0020】
樹脂供給部110は、液体状の光硬化型の樹脂(インプリント材)を基板106の上に供給(塗布)することで、基板106の上に樹脂層RLを形成する。なお、樹脂供給部110が供給する樹脂は、樹脂の硬化に伴ってモールド102と樹脂との境界に偏析する作用により離型力を低減する。更に、樹脂供給部110が供給する樹脂には、モールド102が押し付けられたときの圧力によって凝縮する気体(凝縮性ガス)が溶解されている。ここで、凝縮性ガスとは、凝縮を利用してモールド102のパターン部102a(即ち、パターンを形成する凹部)への樹脂の充填を促進するための気体である。樹脂供給部110の具体的な構成や機能については、後で詳細に説明する。
【0021】
気体供給部120は、モールド102と基板106(樹脂層RL)との間の空間に、モールド102を基板106の上の樹脂(樹脂層RL)に押し付けたときの圧力によって凝縮する気体(凝縮性ガス)を供給する。換言すれば、気体供給部120は、モールド102と基板106との間の空間を凝縮性ガスで置換する。気体供給部120は、制御部130の制御下において、モールド102を基板106の上の樹脂に押し付けたときの圧力によって十分に凝縮される(即ち、未充填欠陥の発生を十分に防止する)ように、凝縮性ガスを供給する。気体供給部120は、本実施形態では、モールド102と基板106との間の空間の近傍に配置された供給口(を含む配管)を介して、凝縮性ガスを供給する。但し、凝縮性ガスの供給方法は、当業界で周知のいかなる方法をも適用することが可能であり、例えば、凝縮性ガスを供給するための供給口をモールド102に形成してもよい。また、気体供給部120は、モールド102と基板106との間の空間だけではなく、装置全体の雰囲気(即ち、インプリント装置100の各部を収納するチャンバ内)を凝縮性ガスで置換してもよい。
【0022】
制御部130は、CPUやメモリなどを含み、インプリント装置100の全体(動作)を制御する。制御部130は、本実施形態では、インプリント装置100の各部を制御して、インプリント処理を行う処理部として機能する。インプリント処理とは、基板106に供給された樹脂(樹脂層RL)にモールド102を押し付けた状態で樹脂を硬化させ、硬化した樹脂からモールド102を剥離することで基板106の上にモールド102のパターンを転写する処理である。
【0023】
ここで、樹脂供給部110の具体的な構成や機能について説明する。樹脂供給部110は、例えば、凝縮性ガスを樹脂に溶解するための混合機構112と、混合機構112から供給される樹脂(凝縮性ガスを溶解させた樹脂)を滴下するためのディスペンサ114とを含む。樹脂供給部110から樹脂を供給しながらステージ108を移動(スキャン移動やステップ移動)させることで、基板106(のショット領域)の上に樹脂を塗布することが可能となる。
【0024】
混合機構112は、図2に示すように、凝縮性ガスを収納するガス容器(第1収納部)1121と、凝縮性ガスを溶解させる前の液体状の樹脂を収納する樹脂容器(第2収納部)1122と、混合部1123とで構成される。混合部1123には、バルブVL1の開閉により配管PP1を通じてガス容器1121に収納された凝縮性ガス、及び、バルブVL2の開閉により配管PP2を通じて樹脂容器1122に収納された液体状の樹脂が供給される。混合部1123は、ガス容器1121から供給された凝縮性ガスと樹脂容器1122から供給された液体状の樹脂とを混合して樹脂に凝縮性ガスを溶解する。また、混合部1123は、配管PP3を介して、凝縮性ガスを溶解させた樹脂をディスペンサ114に供給する。ディスペンサ114は、例えば、ノズルをライン状に配列したラインノズルを含み、ピエゾジェット方式やマイクロソレノイド方式などによって、基板106に1ピコリットル程度の樹脂を滴下する。
【0025】
本実施形態では、樹脂に溶解させる凝縮性ガスは、樹脂の硬化に伴ってモールド102と樹脂との境界に偏析する作用により離型力を低減する特性を有する。
【0026】
凝縮性ガスの溶解度パラメータと、インプリント処理後の樹脂の溶解度パラメータとの差は0.5よりも大きいことが好ましく、1よりも大きいことが更に好ましい。これは、溶解度パラメータの差を0.5よりも大きくすると、凝縮性ガスが偏析しやすく、離型力をより低減できるためである。
【0027】
溶解度パラメータの値は、硬化する樹脂の架橋度や重合度にも依存するが、目安として用いることができる。
【0028】
本実施形態では、樹脂に溶解させる凝縮性ガスは、インプリント装置100の内部の環境下(温度及び圧力)において、通常時に気体として存在し、インプリント処理時に(即ち、モールド102を樹脂に押し付けたときの圧力によって)凝縮する特性を有する。
【0029】
また、室温(23℃)における凝縮性ガスの蒸気圧が0.05MPaよりも低い場合には、例えば、配管PP1に生じる小さな圧力差によって凝縮性ガスが凝縮し、凝縮性ガスの供給量(樹脂に溶解させる凝縮性ガスの溶解量)を制御することが困難となる。一方、室温(23℃)における凝縮性ガスの蒸気圧が1MPaよりも高い場合には、室温でインプリント処理を行う際に、凝縮性ガスを凝縮させるために必要な圧力が大きくなるため、耐圧力性を有する装置が必要となり、装置が大掛かりになってしまう。従って、凝縮性ガスの蒸気圧は、インプリント処理を行う温度において、0.05MPaよりも高く、且つ、1MPaよりも低いとよい。また、凝縮性ガスの蒸気圧は、大気圧(0.1MPa)付近であると更によいため、0.1MPaよりも高く、且つ、1MPaよりも低いとよい。
【0030】
また、凝縮性ガスは、大気圧(0.1MPa)において、室温(23℃)付近で凝縮するとよい。従って、凝縮性ガスの沸点は、15℃以上30℃以下であるとよい。凝縮性ガスの沸点が15℃よりも低い場合には、インプリント装置100の内部の温度を制御する温度制御機構が大掛かりになってしまう。一方、凝縮性ガスの沸点が30℃よりも高い場合には、凝縮性ガスを凝縮させるために、インプリント装置100の内部の圧力を大気圧から減圧すること、或いは、インプリント装置100の内部の温度を上げることが必要となり、装置が大掛かりになってしまう。
【0031】
このような凝縮性ガスとしては、沸点15℃以上30℃以下のフッ素化した炭化水素やフッ素化合物を含むガスが用いられる。例えば、室温(23℃)での蒸気圧が0.1056MPaであるトリクロロフルオロメタン(沸点24℃)、室温(23℃)での蒸気圧が0.14MPaである1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(沸点15℃)が好適に用いられる。凝縮したガスの表面エネルギーが小さく、低分子の気体であれば偏析がしやすいため、凝縮性ガスとしては、炭素数6以下のフッ素化した炭化水素が好ましい。
【0032】
また、本実施形態における光硬化型の樹脂は、凝縮性ガスが溶解する樹脂であることが必要である。凝縮性ガスの溶解度パラメータと、インプリント処理後の樹脂の溶解度パラメータとの差は5よりも小さいことが好ましく、3よりも小さいことが更に好ましい。これは、溶解度パラメータの差を5よりも小さくすると、インプリント装置100の内部の環境下(温度、圧力)において、インプリント処理前の樹脂に凝縮性ガスを溶解させやすいからである。例えば、アクリル樹脂をベースとする一般的なインプリント用の樹脂には、凝縮性ガスの一例である1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが溶解する。一般的なインプリント用のアクリル樹脂の溶解度パラメータは8.4(cal/cm)^0.5であり、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの溶解度パラメータは6.9(cal/cm)^0.5であり、両者の差は1.5である。
【0033】
インプリント装置100の動作について、特に、樹脂供給部110の動作に重点をおいて説明する。まず、樹脂容器1122に収納された樹脂(例えば、アクリル樹脂をベースとするインプリント用の樹脂)を、バルブVL2を開くことで混合部1123に供給する。また、ガス容器1121に収納された凝縮性ガス(例えば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン)を、バルブVL1を開くことで混合部1123に供給する。混合部1123は、ガス容器1121から供給された凝縮性ガスと樹脂容器1122から供給された樹脂とを混合し、凝縮性ガスを溶解させた樹脂をディスペンサ114に供給する。
【0034】
基板106に転写されるパターンの均一性(即ち、パターンの収縮量の均一化)の観点では、樹脂に溶解させる凝縮性ガスの量(溶解量)は、インプリント装置100の内部の環境下での飽和溶解量とするとよい。但し、凝縮性ガスの溶解量を飽和溶解量とすると、基板106に転写されるパターンの収縮量が大きくなり、パターンに残留応力が発生したり、パターンの形状が変化したりしてしまう可能性がある。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量が飽和溶解量の30%以上であれば、インプリント処理中における樹脂への凝縮性ガスの溶解を抑制し、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量が部分的に異なることを低減できることを見出した。なお、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量が飽和溶解量の30%未満である場合には、凝縮性ガスによる未充填欠陥の発生の防止効果を十分に得ることができない。
【0035】
また、樹脂に凝縮性ガスを溶解させると溶解量に応じて体積が増える性質を考慮すると、パターン形成能力の観点から、凝縮性ガスの溶解量は、凝縮性ガスを液化した場合の体積に換算して体積分率の30%以下であることが好ましい。離型力を低減する効果は、体積分率で飽和溶解量の1%程度の少量でも十分に得ることができる。
【0036】
次に、基板106の上の対象ショット領域(これからモールド102のパターンを転写するショット領域)がディスペンサ114の下に位置するようにステージ108を移動させ、基板106の上の対象ショット領域に樹脂を供給する。これにより、基板106の上には、凝縮性ガスを溶解させた樹脂による樹脂層RLが形成される。
【0037】
次いで、基板106の上の対象ショット領域がモールド102の下に位置するようにステージ108を移動させ、対象ショット領域に供給された樹脂にモールド102を押し付ける。この際、モールド102と基板106(樹脂層RL)との間の空間には、気体供給部120から凝縮性ガスが供給されている。従って、モールド102と基板106との間の空間が凝縮性ガスに置換された環境下において、モールド102が対象ショット領域に供給された樹脂とが押し付けられることになる。但し、かかる樹脂には、凝縮性ガスが予め溶解しているため、モールド102と基板106との間の空間に供給された凝縮性ガスが新たに溶解することが抑制され、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量が部分的に異なることを低減することができる。
【0038】
次に、基板106の上の樹脂とモールド102とを押し付けた状態において、モールド102を介して、基板106の上の樹脂に紫外線を照射して樹脂を硬化させる。このとき、樹脂に溶解していた凝縮性ガスが、硬化に伴ってモールド102と樹脂との境界に偏析する。次いで、基板106の上の硬化した樹脂からモールド102を剥離する。これにより、基板106の上の対象ショット領域にモールド102のパターンが転写される。この際、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量が部分的に異なることが低減されているため、離型力を均一に低減する効果が得られ、転写されるパターンが不均一なパターンとなってしまうことを防止することができる。また、樹脂に溶解していた凝縮性ガスが硬化した樹脂から抜けることでパターンの収縮が生じる。但し、上述したように、本実施形態では、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量が部分的に異なることが低減されているため、転写されるパターンが不均一なパターンとなってしまうことを防止することができる。
【0039】
このように、本実施形態のインプリント装置100によれば、樹脂に対する凝縮性ガスの溶解量の不均一性を低減し、基板106の上に転写されるパターンの均一性を向上させることができる。
【0040】
また、混合機構112は、図2に示す構成に限定されるものではなく、例えば、図3に示すような構成であってもよい。図3に示す混合機構112は、図2に示す混合機構112と比較して、樹脂容器1122を有しておらず、固体状の樹脂が混合部1123に予め収納されている。混合部1123は、ガス容器1121から供給された凝縮性ガスと予め収納された固体状の樹脂とを混合して樹脂に凝縮性ガスを溶解させる。これにより、凝縮性ガスを溶解する前には固体状である樹脂をインプリント処理に使用することが可能となる。
【0041】
図3に示す混合機構112では、例えば、ArFエキシマレーザ用のフォトレジストやi線用のフォトレジストに代表される溶媒に溶かすタイプのレジストの樹脂成分をインプリント用の樹脂として使用することができる。具体的には、エッチング耐性の高いベンゼン環やアダマンチル基を含むレジストやジアゾナフトキノン・ノボラック樹脂をベースとするレジストなどを使用することができる。これらのレジストは、凝縮性ガスを溶解させることで粘性が低下するため、ディスペンサ114を介して、基板106に供給することができる。
【0042】
また、本実施形態では、インプリント装置100において、樹脂に凝縮性ガスを溶解させ、凝縮性ガスを溶解させた樹脂を基板106に供給している(即ち、樹脂供給部110を有している)。但し、図4に示すように、インプリント装置100は、樹脂供給部110を有していなくてもよい。この場合、基板106への凝縮性ガスを溶解させた樹脂の供給(即ち、凝縮性ガスを溶解させた樹脂による樹脂層RLの形成)は、スピンコーターなどによって、インプリント装置100の外部で行われる。そして、インプリント装置100は、外部から搬送される基板106(即ち、凝縮性ガスを溶解させた樹脂が供給された基板106)に対してインプリント処理を行う。なお、インプリント装置100の外部で基板106への凝縮性ガスを溶解させた樹脂の供給を行う場合には、生産性の観点から、基板106の全面に樹脂を供給(塗布)する必要がある。
【0043】
本実施形態では、好適な例として、離型力を低減し、且つ、凝縮性を有するガスを用いたが、凝縮性を有していないガスを用いてもよい。換言すれば、樹脂の硬化に伴ってモールド102と樹脂との境界に偏析する作用により離型力を低減するガスであって、凝縮性を有していないガスを用いても、離型力を均一に低減する効果が得られる。
【0044】
このようなガスとして、沸点30℃以上120℃以下のフッ素化した炭化水素やフッ素化合物を含むガスが用いられる。例えば、HFC−43−10mee、CyclicHFC、HFE−7100などが好適に用いられる。凝縮したガスの表面エネルギーが小さく、低分子の気体であれば、偏析がしやすいため、炭素数6以下のフッ素化した炭化水素を用いることが好ましい。上述のガスの溶解度パラメータは5〜7(cal/cm)^0.5付近であり、アクリル系樹脂の溶解度パラメータは8(cal/cm)^0.5付近、ノボラック樹脂の溶解度パラメータは9(cal/cm)^0.5付近である。従って、その差を0.5以上、且つ、5より小さく調整することが好ましい。
【0045】
また、上述のガスは、常温常圧で液体であってもよく、その場合には、かかる液体を樹脂に溶解させてもよい。この際、樹脂への液体の溶解量は、パターン形成能力の観点から、液体の体積分率で30%以下であることが好ましい。
【0046】
以下、物品としてのデバイス(半導体デバイス、液晶表示素子等)の製造方法について説明する。かかる製造方法は、インプリント装置100を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板等)にパターンを転写(形成)するステップを含む。かかる製造方法は、パターンが転写された基板をエッチングするステップを更に含む。なお、かかる製造方法は、パターンドットメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、エッチングステップの代わりに、パターンが転写された基板を加工する他の加工ステップを含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上にモールドのパターンを転写するインプリント装置であって、
前記基板の上に供給された樹脂に前記モールドを押し付けた状態で当該樹脂を硬化させ、硬化した樹脂から前記モールドを剥離することで前記基板の上に前記モールドのパターンを転写するインプリント処理を行う処理部を有し、
前記樹脂には、フッ素化合物を含む気体又は液体が溶解されていることを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記気体又は前記液体は、炭素数が6以下であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記気体又は前記液体は、前記樹脂の硬化に伴って前記樹脂と前記モールドとの境界に偏析することを特徴とする請求項1又は2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記気体又は前記液体が溶解されている前記樹脂を前記基板の上に供給する供給部を更に有することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記供給部は、
前記気体又は前記液体を収納する第1収納部と、
前記気体又は前記液体が溶解される前の液体状の樹脂を収納する第2収納部と、
前記第1収納部に収納された前記気体又は前記液体と前記第2収納部に収納された前記樹脂とを混合することで当該樹脂に前記気体又は前記液体を溶解させる混合部と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記供給部は、
前記気体又は前記液体を収納する収納部と、
前記収納部に収納された前記気体又は前記液体と前記気体又は前記液体が溶解される前の固体状の樹脂とを混合することで当該樹脂に前記気体又は前記液体を溶解させる混合部と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記樹脂に対する前記気体又は前記液体の溶解量は、前記モールドを押し付ける前の環境下における前記気体又は前記液体の飽和溶解量の30%以上であることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記樹脂には、前記液体が溶解され、
前記樹脂に溶解する前記液体の量は、前記樹脂の体積分率で30%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記樹脂には、前記気体が溶解され、
前記モールドと前記基板との間の空間に前記気体を供給する気体供給部を更に有することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項10】
基板の上にモールドのパターンを転写するインプリント方法であって、
樹脂にフッ素化合物を含む気体又は液体を溶解させるステップと、
前記気体又は前記液体が溶解された樹脂を前記基板の上に供給するステップと、
前記基板の上に供給された樹脂に前記モールドを押し付けた状態で当該樹脂を硬化させ、硬化した樹脂から前記モールドを剥離することで前記基板の上に前記モールドのパターンを転写するステップと、
を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて樹脂のパターンを基板に形成するステップと、
前記ステップで前記パターンが形成された前記基板を加工するステップと、
を有することを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−70033(P2013−70033A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172303(P2012−172303)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】