説明

インプリント装置及び物品の製造方法

【課題】基板の上の樹脂とモールドとを接触させる際に基板とモールドとの間に取り込まれる気体の量を抑える。
【解決手段】モールド120は、前記パターンが形成されたパターン面を含むパターン部122と、前記パターン面の周囲に形成された複数の排気口123を有する基部とを含む。装置は、前記パターン面に垂直な断面における前記パターン面の形状が前記基板側に凸形状となるように前記パターン面を変形させる変形部140と、複数の排気口のそれぞれに接続され、接続された排気口を介して前記基板と前記モールドとの間の気体を排気する排気動作を行う複数の排気機構150と、基板110の上の樹脂と前記モールドとを接触させる際に、樹脂とパターン面との間に気体が取り込まれないように、複数の排気機構のそれぞれによる排気動作を個別に制御する制御部160と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント技術は、半導体デバイスや磁気記憶媒体の量産用ナノリソグラフィ技術の1つとして注目されている。インプリント技術とは、微細パターンが形成されたモールドを原版とし、基板(シリコンウエハやガラスプレート)の上の樹脂にモールドを押し付けた状態で樹脂を硬化させ、硬化した樹脂からモールドを剥離することでパターンを転写(形成)する技術である。
【0003】
インプリント技術を用いたインプリント装置には、露光装置などの他のリソグラフィ装置と同様に、高い生産性が要求される。インプリント装置の生産性を向上させるためには、基板の上の樹脂とモールドとを接触させる際に、樹脂とモールドとの間にトラップされた(取り込まれた)気体を短時間で消滅させることが重要となる。
【0004】
そこで、基板とモールドとの間の空間を減圧し、樹脂とモールドとを接触させる際に取り込まれる気体の量(気泡サイズ)を小さくすることで気体の消滅を促進させる技術が提案されている(特許文献1参照)。具体的には、特許文献1には、モールドのパターン面(パターンが形成された領域)の周囲にモールドを貫通する複数の排気口を形成し、かかる排気口を介して基板とモールドとの間の気体を排気する技術が開示されている。また、基板の上の樹脂とモールドとを接触させる際に、モールドのパターン面を基板に対して凸形状に変形させる(撓ませる)ことで基板とモールドとの間の気体を追い出し、取り込まれる気体の量を小さくする技術も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−532245号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0114686号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の技術では、基板上の樹脂とモールドとを接触させる際に、基板とモールドとの間に取り込まれる気体の量を十分には小さくすることができず、インプリント装置の生産性を向上させることができない。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、基板の上の樹脂とモールドとを接触させる際に基板とモールドとの間に取り込まれる気体の量を抑え、生産性の向上の点で有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント装置は、基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で当該樹脂を硬化させ、硬化した樹脂から前記モールドを剥離することで前記基板に前記モールドのパターンを転写するインプリント装置であって、前記モールドは、前記パターンが形成されたパターン面を含むパターン部と、前記パターン面の周囲に形成された複数の排気口を有する基部と、を含み、前記インプリント装置は、前記パターン面に垂直な断面における前記パターン面の形状が前記基板側に凸形状となるように前記パターン面を変形させる変形部と、前記複数の排気口のそれぞれに接続され、接続された排気口を介して前記基板と前記モールドとの間の気体を排気する排気動作を行う複数の排気機構と、前記基板の上の樹脂と前記モールドとを接触させる際に、前記樹脂と前記パターン面との間に気体が取り込まれないように、前記複数の排気機構のそれぞれによる前記排気動作を個別に制御する第1制御部と、を有することを特徴とすることを特徴とする。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、基板の上の樹脂とモールドとを接触させる際に基板とモールドとの間に取り込まれる気体の量を抑え、生産性の向上の点で有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるインプリント装置を説明するための図である。
【図2】モールドの排気口に接続する各排気機構の排気動作を個別に制御しない場合の問題を説明するための図である。
【図3】本発明の第2の実施形態におけるインプリント装置を説明するための図である。
【図4】本発明の第3の実施形態におけるインプリント装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態におけるインプリント装置1を説明するための図である。インプリント装置1は、基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で樹脂を硬化させ、硬化した樹脂からモールドを剥離(離型)することで基板にモールドのパターン(凹凸パターン)を転写(形成)するリソグラフィ装置である。
【0014】
インプリント装置1は、図1(a)及び図1(b)に示すように、基板110を保持して移動する基板ステージ(不図示)と、モールド120を保持して移動するモールド保持機構130と、変形部140と、複数の排気機構150と、第1制御部160とを有する。図1(a)は、インプリント装置1の構成を示す図(図1(b)のA−A’断面図)であり、図1(b)は、基板側からのモールド120を示す図である。
【0015】
モールド120は、薄板状の原版であって、基板110に転写すべきパターンが形成されたパターン面121を含むパターン部122と、パターン面121の周囲に形成された複数の排気口123を有する基部124とを含む。本実施形態では、パターン面121は、長方形形状を有し、複数の排気口123は、パターン面121の各辺に沿った矩形形状を有する4つの排気口123a、123b、123c及び123dを含む。但し、排気口123の形状は、矩形形状に限定されるものではなく、また、排気口123の数も4つに限定されるものではない。
【0016】
変形部140は、パターン面121に垂直な断面におけるパターン面121の形状が基板側に凸形状となるようにパターン面121を変形させる(撓ませる)。変形部140は、例えば、図1(a)に示すように、モールド保持機構130に設けられた圧力調整口を介して、モールド保持機構130に保持されたモールド120の背面側の圧力を調整する(具体的には、上昇させる)圧力調整機構で構成される。
【0017】
複数の排気機構150は、複数の排気口123のそれぞれに接続され、接続された排気口を介して基板110とモールド120との間の気体を排気する排気動作を行う。排気機構150は、例えば、排気口123に接続する排気管152と、排気管152に設けられ、排気口123から排気される気体の排気流量を調整するための流量調整弁154と、排気口123及び排気管152を介して気体を吸引するためのポンプとを含む。本実施形態では、複数の排気機構150は、4つの排気口123a、123b、123c及び123dのそれぞれに対応して、4つの排気機構150a、150b、150c及び150dを含む。
【0018】
第1制御部160は、CPUやメモリなどを含み、インプリント装置1の全体(インプリント処理)を制御する。第1制御部160は、基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させる際に、樹脂とパターン面121との間に気体が取り込まれないように、複数の排気機構150のそれぞれによる排気動作を個別に制御する。本実施形態では、第1制御部160は、流量調整弁154を調整することで、複数の排気機構150のそれぞれが排気口123を介して排気する気体の排気流量を個別に制御する。例えば、第1制御部160は、排気機構150aが排気口123aを介して排気する気体の排気流量を第1排気流量に、排気機構150bが排気口123bを介して排気する気体の排気流量を第1排気流量よりも小さい第2排気流量に制御することが可能である。
【0019】
インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。インプリント処理は、図1(c)に示すように、塗布処理、押印処理、硬化処理及び離型処理の4つの処理に大別される。図1(c)は、モールド120のZ軸方向の位置(高さ)と、排気機構150が排気する気体の排気流量と、モールド120の裏面側の圧力との関係を示す図である。
【0020】
塗布処理では、基板110(の対象ショット領域)が樹脂塗布機構(不図示)の下に位置するように基板ステージを移動させ、樹脂塗布機構(不図示)を介して、基板110の上に紫外線硬化型の樹脂を塗布する。なお、樹脂の塗布方法は、例えば、当業界で周知のいかなる方法も適用することができ、例えば、基板を移動させながら液滴状の樹脂を塗布するインクジェット法や基板を回転させながら樹脂を塗布するスピンコート法などを適用すればよい。押印処理では、基板ステージを介して、モールド120のパターン面121と対向する位置に基板110を位置決めし、モールド120を下降させて基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させる(樹脂にモールド120を押印する)。なお、基板110に対してモールド120を下降させるのではなく、モールド120に対して基板110を上昇させてもよい。硬化処理では、基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させた状態において、モールド120を介して樹脂に紫外線を照射し、かかる樹脂を硬化させる。離型処理では、モールド120を上昇させて基板110の上の硬化した樹脂からモールド120を引き離す(離型する)。
【0021】
インプリント処理において、第1制御部160は、複数の排気機構150が押印処理の開始前から排気動作を開始し、硬化処理が開始前に排気動作を停止するように制御する。また、モールド120の裏面側の圧力は、押印処理が開始されてから離型処理が終了するまでの間、所定の圧力に維持される(即ち、変形部140は、モールド120のパターン面121の変形量を一定に維持する)。
【0022】
本実施形態における第1制御部160による各排気機構150の排気動作の制御を説明する。まず、押印処理の開始前に、変形部140がモールド120の裏面側の圧力を上昇させ、モールド120のパターン面121を基板110に対して凸形状に変形させる。この際、第1制御部160は、図1(c)に示すように、各排気機構150の排気流量を個別に制御し、排気機構150a、150c及び150dの排気流量が高く、排気機構150bの排気流量が低くなるように、各排気機構150の排気動作を制御する。この際、各排気機構150の排気流量のうち最小の排気流量(本実施形態では、排気機構150bの排気流量)が最大の排気流量(本実施形態では、排気機構150a、150c及び150dの排気流量)の50%以下になるように制御するとよい。
【0023】
次いで、押印処理が開始され、基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させるが、基板110とモールド120との間隔が狭くなると、モールド120(パターン部122)の外側の気体(空気)の流入経路の抵抗が増加する。従って、モールド120の排気口123の周辺の圧力が急激に低下し、モールド120(特に、パターン面121)が変形する。特に、排気流量が高くなるように制御された3つの排気機構150a、150c及び150dのそれぞれに接続されている排気口123a、123c及び123dの近傍では、パターン面121の周縁部が基板110に強く押し付けられる。その結果、3つの排気機構150a、150c及び150dの排気流量が急激に低下する。一方、排気流量が低くなるように制御された排気機構150bに接続された排気口123bの近傍では、モールド120の下の圧力が比較的高いため、パターン面121の周縁部が基板110に押し付けられにくくなる。その結果、排気機構150bの排気流量も緩やかに低下する。従って、排気口123bの近傍(パターン面121が基板110に押し付けられていない領域)を介して、基板110の上の樹脂とモールド120との間の気体が除去される。換言すれば、基板110の上の樹脂とモールド120との間に気体が取り込まれることを低減しながら、樹脂とモールド120とを接触させることができる。なお、各排気機構150の排気流量のうち最小の排気流量が最大の排気流量の50%を超える場合には、パターン面121の周縁部が全周に渡って基板110に強く押し付けられる。その結果、基板110の上の樹脂とモールド120との間に気体が取り込まれてしまう。気体を取り込まないためには、最小の排気流量が最大の排気流量の50%以下になるように制御するとよい。
【0024】
ここで、モールド120の排気口123に接続する各排気機構150の排気動作を個別に制御しない場合、例えば、各排気機構150の排気流量を一定に制御する場合を考えてみる。この場合、各排気機構150の排気流量を一定に制御すると、全ての排気口123a、123b、123c及び123dの近傍で、パターン面121の周縁部が基板110に強く押し付けられることになる。その結果、図2に示すように、基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させる際に、パターン面121の中央部付近に気体(大量の気体)を取り込んでしまう。従って、モールド120のパターン面121に樹脂を充填するために必要な時間が長くなったり、パターン面121の中央部付近ではパターンを転写することができなくなったりしてしまう。
【0025】
一方、本実施形態では、モールド120の排気口123に接続する各排気機構150の排気流量を個別に制御している。これにより、基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させる際に、樹脂とパターン面121との間に気体を取り込んでしまう現象を防止することができる。従って、インプリント装置1は、パターン面121に樹脂を充填するために必要な時間を短縮することができ(即ち、モールド120のパターン面121に樹脂が短時間で充填され)、生産性を向上させることが可能となる。
【0026】
なお、基板110の端部(周辺ショット領域)に対してインプリント処理を行う場合には、基板110の端部に近い排気口に接続された排気機構の排気流量が低くなるように、排気機構の動作を制御するとよい。基板110の外側の領域では、モールド120の下の空間が広いため、基板110の端部に向けて効率的に気体を除去することができる。
【0027】
<第2の実施形態>
図3は、本発明の第2の実施形態におけるインプリント装置1Aを説明するための図である。インプリント装置1Aは、基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で樹脂を硬化させ、硬化した樹脂からモールドを剥離することで基板にモールドのパターンを転写するリソグラフィ装置である。
【0028】
インプリント装置1Aは、図3(a)に示すように、インプリント装置1と同様な構成を有する。但し、本実施形態では、図3(b)に示すように、パターン面121は、長方形形状を有する。また、複数の排気口123は、パターン面121の各辺に沿った矩形形状を有する4つの排気口123a、123c、123e及び123gと、パターン面121の各頂点に沿ったL次形状を有する4つの排気口123b、123d、123f及び123hとを含む。但し、排気口123の形状や数は、これに限定されるものではない。複数の排気機構150は、8つの排気口123a乃至123hのそれぞれに対応して、8つの排気機構150a乃至150hを含む。図3(a)は、インプリント装置1Aの構成を示す図(図3(b)のA−A’断面図)であり、図3(b)は、基板側からのモールド120を示す図である。
【0029】
本実施形態では、第1制御部160は、複数の排気機構150のそれぞれが排気口123を介して気体を排気し始める排気開始時刻を個別に制御する(即ち、各排気機構150の動作の開始タイミングに時間差を設ける)。例えば、第1制御部160は、排気機構150aが排気口123aを介して気体を排気し始める排気開始時刻を第1時刻に、排気機構150bが排気口123bを介して気体を排気し始める排気開始時刻を第1時刻よりも遅い第2時刻に制御することが可能である。
【0030】
インプリント装置1Aによるインプリント処理について説明する。インプリント処理は、図3(c)に示すように、塗布処理、押印処理、硬化処理及び離型処理の4つの処理を含む。図3(c)は、モールド120のZ軸方向の位置(高さ)と、排気機構150が排気する気体の排気流量と、モールド120の裏面側の圧力との関係を示す図である。
【0031】
インプリント処理において、第1制御部160は、複数の排気機構150が押印処理の開始前から排気動作を開始し、硬化処理が開始前に排気動作を停止するように制御する。また、モールド120の裏面側の圧力は、押印処理が開始されてから離型処理が終了するまでの間、所定の圧力に維持される(即ち、変形部140は、モールド120のパターン面121の変形量を一定に維持する)。
【0032】
本実施形態における第1制御部160による各排気機構150の排気動作の制御を説明する。まず、押印処理の開始前に、変形部140がモールド120の裏面側の圧力を上昇させ、モールド120のパターン面121を基板110に対して凸形状に変形させる。この際、第1制御部160は、図3(c)に示すように、各排気機構150の排気開始時刻を個別に制御する。例えば、第1制御部160は、基板110の上の樹脂とモールド120(パターン面121)との接触領域に近い排気口123に接続された排気機構150から動作が開始されるように、各排気機構150を制御する。これにより、基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させる際に、基板110とモールド120との間の気体を効率体に除去することができる。具体的には、第1制御部160は、最初に排気機構150a及び150eが動作し、次に排気機構150c及び150gが動作し、最後に排気機構150b、150d、150f及び150hが動作するように、各排気機構150の排気動作を制御する。
【0033】
本実施形態では、モールド120のパターン面121を基板110に対して凸形状に変形させるため、基板110の上の樹脂とモールド120との接触領域は円形形状となる。従って、接触領域(即ち、パターン面121の中心)に最も近い排気口123a及び123eのそれぞれに接続された排気機構150a及び150eを最初に動作させる。次いで、接触領域が拡大するにつれて、排気口123c及び123gのそれぞれに接続された排気機構150c及び150gを動作させる。そして、排気口123b、123d、123f及び123hのそれぞれに接続された排気機構150b、150d、150f及び150hを最後に動作させる。その結果、排気口123b、123d、123f及び123hの近傍(パターン面121が最後に基板110に押し付けられる領域)を介して、基板110の上の樹脂とモールド120との間の気体が除去される。換言すれば、基板110の上の樹脂とモールド120との間に気体が取り込まれることを低減しながら、樹脂とモールド120とを接触させることができる。
【0034】
本実施形態では、各排気機構150の排気開始時刻を個別に制御することで、基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させる際に、樹脂とパターン面121との間に気体を取り込んでしまう現象を防止することができる。従って、インプリント装置1Aは、パターン面121に樹脂を充填するために必要な時間を短縮することができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0035】
なお、本実施形態では、複数の排気口123のうちパターン面121の中心に最も近い排気口からパターン面121の中心に最も遠い排気口に向かう順で気体が排気され始めるように、各排気機構150の排気開始時刻を制御している。これにより、パターン面121の中心に対して、各排気機構150が対称的に動作を開始することになり、押印処理でのモールド120(パターン面121)の変形を対称にすることができる。従って、モールド120の変形に起因するパターン位置のずれを、高精度、且つ、容易に補正することが可能となる。但し、各排気機構150の動作を開始させる順序は、図3(c)に示す順序に限定されるものではない。例えば、後述するように、複数の排気口123のうちパターン面121の1つの頂点に最も近い排気口からかかる頂点の対角に位置する頂点に最も遠い排気口に向かう順で気体が排気され始めるように、各排気機構150の排気開始時刻を制御してもよい。
【0036】
なお、基板110の端部に対してインプリント処理を行う場合には、基板110の端部に遠い排気口に接続された排気機構から排気動作を開始するように、排気機構の動作を制御するとよい。これにより、基板110の端部に向けて効率的に気体を除去することができる。
【0037】
また、本実施形態では、第1制御部160は、各排気機構150の排気流量を個別に制御していない(即ち、各排気機構150の排気流量を一定に制御している)が、第1の実施形態と同様に、各排気機構150の排気流量を個別に制御することも可能である。換言すれば、各排気機構150の排気流量の制御と各排気機構150の排気開始時刻の制御とを組み合わせてもよい。
【0038】
なお、本実施形態では、各排気機構150の動作を開始させるタイミングを制御しているが、各排気機構150の排気管152に圧力損失に差を設けることで、各排気機構150が排気口123を介して気体を排気し始める排気開始時刻を制御してもよい。排気管152に圧力損失を設ける方法としては、例えば、排気管152の長さや内径を変更する方法や圧力損失を増加させる部材(絞りなど)を排気管152に配置する方法などがある。
【0039】
<第3の実施形態>
図4は、本発明の第3の実施形態におけるインプリント装置1Bを説明するための図である。インプリント装置1Bは、基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で樹脂を硬化させ、硬化した樹脂からモールドを剥離することで基板にモールドのパターンを転写するリソグラフィ装置である。
【0040】
インプリント装置1Aは、図4(a)及び図4(b)に示すように、インプリント装置1Aの構成に加えて、第2制御部170を有する。第2制御部170は、変形部140がモールド120のパターン面121を変形させる変形量を制御する(即ち、本実施形態では、モールド120の裏面側の圧力を制御する)。また、第2制御部170は、第1制御部160と協同し、各排気機構150の排気動作に同期させてパターン面121の変形量を制御することが可能である。本実施形態では、第1制御部160と第2制御部170とを通信可能に接続することで第1制御部160と第2制御部170とを同期させている。但し、第1制御部160と第2制御部170とを接続せずに、第1制御部160と第2制御部170とを同期させる同期機構を設けてもよい。図4(a)は、インプリント装置1Bの構成を示す図(図4(b)のA−A’断面図)であり、図4(b)は、基板側からのモールド120を示す図である。
【0041】
本実施形態では、第1制御部160は、複数の排気機構150のそれぞれが排気口123を介して排気する気体の排気流量を個別に制御すると共に、複数の排気機構150のそれぞれが排気口123を介して気体を排気し始める排気開始時刻を個別に制御する。
【0042】
インプリント装置1Bによるインプリント処理について説明する。インプリント処理は、図4(c)に示すように、塗布処理、押印処理、硬化処理及び離型処理の4つの処理を含む。図4(c)は、モールド120のZ軸方向の位置(高さ)と、排気機構150が排気する気体の排気流量と、モールド120の裏面側の圧力との関係を示す図である。
【0043】
インプリント処理において、第1制御部160は、複数の排気機構150が押印処理の開始前から排気動作を開始し、硬化処理が開始前に排気動作を停止するように制御する。また、第2制御部160は、各排気機構150の排気動作に同期させて、モールド120のパターン面121を変形させる変形量を第1変形量から第1変形量よりも大きい第2変形量に制御する(即ち、変形部140は、パターン面121の変形量を変更する)。
【0044】
本実施形態における第1制御部160による各排気機構150の排気動作の制御及び第2制御部170によるモールド120のパターン面121の変形量(モールド120の裏面側の圧力)の制御を説明する。まず、押印処理の開始前に、第2制御部170の制御下において、モールド120のパターン面121の変形量が第1変形量となるように、変形部140がモールド120の裏面側の圧力を上昇させ、パターン面121を基板110に対して凸形状に変形させる。この際、第1制御部160は、図4(c)に示すように、各排気機構150の排気開始時刻を個別に制御する。具体的には、第1制御部160は、最初に排気機構150hが動作し、次いで排気機構150a及び150gが動作し、次に排気機構150b及び150fが動作し、次に排気機構150c及び150eが動作するように、各排気機構150の排気動作を制御する。排気機構150c及び150eが動作するときには、基板110の上の樹脂とモールド120との接触領域は、パターン面121の中央部まで拡大している。このタイミングにおいて、第2制御部170は、排気機構150c及び150eの動作の開始と同期させて、モールド120のパターン面121の変形量が第1変形量よりも大きい第2変形量となるように、変形部140を制御する。そして、第1制御部160は、最後に排気機構150dが動作するように、各排気機構150の排気動作を制御する。その結果、排気口123dの近傍(パターン面121が最後に基板110に押し付けられる領域)を介して、基板110の上の樹脂とモールド120との間の気体が除去される。なお、基板110の上の樹脂とモールド120との接触領域がパターン面121の中央部まで拡大する前に、モールド120のパターン面121の変形量を第2変形量とした場合には、問題が生じる可能性がある。パターン面121を基板110に対して凸形状に大きく変形させると、パターン面121の凸形状の頂点部が基板110に接触し、かかる頂点部と他の接触領域の間に気体を取り込んでしまうことがある。本実施形態では、各排気機構150dの排気動作に同期してモールド120のパターン面121の変形量も制御されるため、このような気体の取り込みを防止し、効率的に気体を除去することができる。
【0045】
本実施形態では、各排気機構150の排気動作とモールド120のパターン面121の変形量とを同期して制御する。これにより、基板110の上の樹脂とモールド120とを接触させる際に、樹脂とパターン面121との間に気体を取り込んでしまう現象を防止することができる。従って、インプリント装置1Bは、パターン面121に樹脂を充填するために必要な時間を短縮することができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0046】
<第4の実施形態>
物品としてのデバイス(半導体デバイス、液晶表示素子等)の製造方法について説明する。かかる製造方法は、インプリント装置1、1A又は1Bを用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板等)にパターンを転写(形成)するステップを含む。かかる製造方法は、パターンが転写された基板をエッチングするステップを更に含む。なお、かかる製造方法は、パターンドットメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、エッチングステップの代わりに、パターンが転写された基板を加工する他の加工ステップを含む。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で当該樹脂を硬化させ、硬化した樹脂から前記モールドを剥離することで前記基板に前記モールドのパターンを転写するインプリント装置であって、
前記モールドは、前記パターンが形成されたパターン面を含むパターン部と、前記パターン面の周囲に形成された複数の排気口を有する基部と、を含み、
前記インプリント装置は、
前記パターン面に垂直な断面における前記パターン面の形状が前記基板側に凸形状となるように前記パターン面を変形させる変形部と、
前記複数の排気口のそれぞれに接続され、接続された排気口を介して前記基板と前記モールドとの間の気体を排気する排気動作を行う複数の排気機構と、
前記基板の上の樹脂と前記モールドとを接触させる際に、前記樹脂と前記パターン面との間に気体が取り込まれないように、前記複数の排気機構のそれぞれによる前記排気動作を個別に制御する第1制御部と、
を有することを特徴とすることを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記第1制御部は、前記複数の排気機構のそれぞれが前記接続された排気口を介して排気する気体の排気流量を個別に制御することを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記第1制御部は、前記複数の排気機構のそれぞれが前記接続された排気口を介して気体を排気し始める排気開始時刻を個別に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記第1制御部は、前記複数の排気機構のそれぞれが前記接続された排気口を介して排気する気体の排気流量を、最小の排気流量が最大の排気流量の50%以下になるように制御することを特徴とする請求項2に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記パターン面は、長方形形状を有し、
前記第1制御部は、前記複数の排気口のうち前記パターン面の中心に最も近い排気口から前記パターン面の中心に最も遠い排気口に向かう順で気体が排気され始めるように、前記複数の排気機構のそれぞれが前記接続された排気口を介して気体を排気し始める排気開始時刻を制御することを特徴とする請求項3又は4に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記パターン面は、長方形形状を有し、
前記第1制御部は、前記複数の排気口のうち前記パターン面の1つの頂点に最も近い排気口から前記1つの頂点の対角に位置する頂点に最も近い排気口に向かう順で気体が排気され始めるように、前記複数の排気機構のそれぞれが前記接続された排気口を介して気体を排気し始める排気開始時刻を制御することを特徴とする請求項3又は4に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記変形部が前記パターン面を変形させる変形量を制御する第2制御部を更に有し、
前記第2制御部は、前記複数の排気機構のそれぞれによる前記排気動作に同期させて前記変形量を制御することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記第2制御部は、前記複数の排気機構のそれぞれが前記排気動作を行っている間において、前記変形量を第1変形量から前記第1変形量よりも大きい第2変形量に変更することを特徴とする請求項7に記載のインプリント装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて樹脂のパターンを基板に形成するステップと、
前記ステップで前記パターンが形成された前記基板を加工するステップと、
を有することを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−38191(P2013−38191A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172367(P2011−172367)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】