インボリュート歯車対
【課題】インボリュート歯車の大型化を招くことなく低振動化と高強度化を両立させる。
【解決手段】インボリュート歯車10,30の基礎円半径の比Rb2/Rb1が歯幅方向において一定となるように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させる。インボリュート歯車10,30の圧力角αを歯幅方向において変化させると、歯12,32同士の接触点24における接触法線の方向が歯幅方向において変化し、基礎円半径一定の従来歯車と比較して噛み合い率が増加する。
【解決手段】インボリュート歯車10,30の基礎円半径の比Rb2/Rb1が歯幅方向において一定となるように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させる。インボリュート歯車10,30の圧力角αを歯幅方向において変化させると、歯12,32同士の接触点24における接触法線の方向が歯幅方向において変化し、基礎円半径一定の従来歯車と比較して噛み合い率が増加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インボリュート歯形の歯を有するインボリュート歯車対に関する。
【背景技術】
【0002】
インボリュート歯形の歯を有するインボリュート歯車の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1のインボリュート歯車では、小歯車の歯末の圧力角を歯元の圧力角より小さくし(大歯車はこの逆)、大歯車の歯末の圧力角と小歯車の歯元の圧力角を等しくするとともに、大歯車の歯元の圧力角と小歯車の歯末の圧力角を等しくしている。これによって、小歯車の歯元の強度を増すとともに、歯末のたけを長くして、噛み合い率を向上させている。
【0003】
また、下記特許文献2のねじれ角可変型歯車では、円筒歯車の基礎円筒上の歯筋転がり曲線を2次関数で構成することにより、歯の法線ピッチや歯筋ねじれ角を歯筋方向に変化させている。法線ピッチが回転角に伴って変化することにより、歯車ポンプの圧力負荷変動を抑制して、圧縮効率を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−271889号公報
【特許文献2】特開平8−61466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基礎円半径(圧力角)一定のインボリュート歯車では、基礎円半径を大きく(圧力角を小さく)設計すると、噛み合い率を大きくすることが可能となるものの、歯元の曲げ応力が大きくなって強度的に不利になる。そのため、低振動化と高強度化を両立させることは困難である。また、特許文献1のインボリュート歯車では、噛み合い率を増加させるために、歯たけを長くする必要がある。そのため、インボリュート歯車の大型化、重量増を招くことになる。
【0006】
また、特許文献2では、法線ピッチが回転角に伴って変化することで、歯車ポンプの圧縮効率を高める効果はあるが、ねじれ角可変による噛み合い率や強度の向上策は確立されていない。また、ねじれ角を可変にすると、歯車のスラスト力も変動し、軸受損失や振動・騒音の増加に繋がる。
【0007】
本発明は、インボリュート歯車の大型化を招くことなく低振動化と高強度化を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインボリュート歯車対は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明に係るインボリュート歯車対は、インボリュート歯形の第1歯車の歯とインボリュート歯形の第2歯車の歯が噛み合うインボリュート歯車対であって、第1歯車と第2歯車の基礎円半径の比が歯幅方向において一定となるように、第1歯車と第2歯車の基礎円半径を歯幅方向において変化させたことで、第1歯車と第2歯車の圧力角を歯幅方向において変化させたことを要旨とする。
【0010】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車がはすば歯車であることが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車が平歯車であることが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において一方側が他方側より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において一方側が他方側より大きいことが好適である。
【0013】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において中央部が両端部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において中央部が両端部より大きいことが好適である。
【0014】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において両端部が中央部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において両端部が中央部より大きいことが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インボリュート歯車の基礎円半径を歯幅方向において変化させて圧力角を歯幅方向において変化させることで、インボリュート歯車の歯たけを長くすることなく噛み合い率と歯元曲げ応力の性能を両立させることができる。その結果、インボリュート歯車の大型化を招くことなく低振動化と高強度化を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図7】インボリュート歯形の設計方法を説明する図である。
【図8】インボリュート歯車の基礎円半径の変化に伴う圧力角の変化を示す図である。
【図9A】基礎円半径が歯幅方向において一定の場合について、噛み合いの同時接触線を歯車の0.1角ピッチ毎に求めた結果を示す図である。
【図9B】基礎円半径を歯幅方向において±2.8%変化させた場合について、噛み合いの同時接触線を歯車の0.1角ピッチ毎に求めた結果を示す図である。
【図10】インボリュート歯車の基礎円半径と噛み合い率との関係を示す図である。
【図11】インボリュート歯車の歯元曲げ応力と全噛み合い率との関係を計算した結果を示す図である。
【図12】インボリュート歯車対の回転軸間の平行度誤差による歯当たり位置の変化を説明する図である。
【図13】インボリュート歯車の歯元曲げ応力と噛み合い率との関係を計算した結果を示す図である。
【図14】はすば歯車において同時に噛み合う歯の枚数が回転角に応じて変化する様子を説明する図である。
【図15】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の他の概略構成を示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の作用長さが歯幅方向において変化する例を示す図である。
【図17】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の作用長さが歯幅方向において変化する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0018】
図1〜6は、本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。図1は回転軸方向に垂直な方向から見た図を示し、図2は回転軸方向に平行な方向から見た図を示し、図3,4は図1のA−A断面における概略構成を示し、図5,6は図1のB−B断面における概略構成を示す。本実施形態に係るインボリュート歯車対は、インボリュート歯形の歯12を有し、回転軸10aまわりに回転可能に支持されたインボリュート歯車10と、インボリュート歯形の歯32を有し、回転軸30aまわりに回転可能に支持されたインボリュート歯車30とを含んで構成される。インボリュート歯車10の回転軸10aとインボリュート歯車30の回転軸30aは、互いに平行であり、互いに所定距離をおいて配置されている。インボリュート歯車10の歯12とインボリュート歯車30の歯32は所定の歯幅2Lを有し、インボリュート歯車10の歯12とインボリュート歯車30の歯32が噛み合うことで、インボリュート歯車10とインボリュート歯車30との間でトルクを伝達することが可能であり、本実施形態に係るインボリュート歯車対は歯車伝動装置として機能することが可能である。
【0019】
本実施形態では、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を歯幅方向(回転軸方向)において変化させている。これによって、インボリュート歯車10,30のインボリュート歯形を歯幅方向において変化させて、インボリュート歯車10,30の圧力角αを歯幅方向において変化させている。その際には、インボリュート歯車10,30のギヤ比を歯幅方向において一定に保つために、インボリュート歯車10,30の基礎円半径の比Rb2/Rb1が歯幅方向において一定となるように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させる。インボリュート歯車10,30の圧力角αを歯幅方向において変化させると、インボリュート歯車10,30の歯12,32同士の接触点24における接触法線の方向(作用線の方向)が歯幅方向において変化し、インボリュート歯車10,30の歯12,32同士の噛み合い長さ(作用長さ)も歯幅方向において変化する。その結果、歯12,32同士の噛み合い接触領域が曲面(基礎円半径一定の従来歯車では平面)になり、従来歯車と比較して噛み合い率が増加する。
【0020】
図1,2,3,5に示すように、z軸がインボリュート歯車10の回転軸10aに一致し、y軸がインボリュート歯車10,30の回転軸10a,30aと直交し、x軸、y軸がインボリュート歯車10,30の歯幅方向(回転軸方向)の中央位置に位置するように、xyz座標系を定義する。インボリュート歯車10の基礎円半径Rb1、インボリュート歯車30の基礎円半径Rb2をzの関数として以下の(1)、(2)式で表す。
【0021】
Rb1=Rb1(z) (1)
Rb2=Rb2(z) (2)
【0022】
ただし、インボリュート歯車10,30の回転速度比(ギヤ比i0)を一定に保つためには、以下の(3)式が成立する必要がある。
【0023】
Rb2/Rb1=i0=const.(一定) (3)
【0024】
(3)式の条件を満足する限り、関数Rb1,Rb2は任意に選ぶことができる。ここでは、関数Rb1,Rb2を最も簡単な1次関数として以下の(4)、(5)式で表す。(4)、(5)式において、aは定数、Rb10はz=0でのインボリュート歯車10の基礎円半径、Lはインボリュート歯車10,30の歯幅(回転軸方向長さ)の1/2である。
【0025】
Rb1=Rb10+a×z/L (4)
Rb2=i0×Rb1=i0×(Rb10+a×z/L) (5)
【0026】
このように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を歯幅方向において変化させると、それに伴い、インボリュート歯車10,30の圧力角αも歯幅方向において変化する。インボリュート歯車10,30の圧力角αは、以下の(6)式で決定される。(6)式において、R10はインボリュート歯車10のピッチ円16の半径(歯幅方向において一定)、R20はインボリュート歯車30のピッチ円36の半径(歯幅方向において一定)である(図1〜6に示す例では、R10<R20)。ここでの圧力角αは、歯幅方向(回転軸方向)に垂直な断面における圧力角(軸直角圧力角)として表される。
【0027】
cosα=Rb1(z)/R10=Rb2(z)/R20 (6)
【0028】
任意の軸直角断面(z=constの断面)における歯形形状は、図7のインボリュート歯車10の例に示すように、基礎円半径Rb1(z)を用いてインボリュート曲線を描くことにより決定される。この歯形形状を、基礎円半径を変化させながら、z方向に連続的に積み重ねることにより、歯幅方向(回転軸方向)において圧力角αが連続的に変化するインボリュート歯形が得られる。インボリュート歯車30の歯形形状も同様の方法で決定する。
【0029】
図1〜6に示す例では、A−A断面におけるインボリュート歯車10の基礎円14Aの半径Rb1Aは、B−B断面におけるインボリュート歯車10の基礎円14Bの半径Rb1Bより小さく、歯幅方向(回転軸方向)の一方側(A側、図1の左側)から他方側(B側、図1の右側)へ向かうにつれてインボリュート歯車10の基礎円半径Rb1が徐々に増加する。同様に、A−A断面におけるインボリュート歯車30の基礎円34Aの半径Rb2Aは、B−B断面におけるインボリュート歯車30の基礎円34Bの半径Rb2Bより小さく、歯幅方向の一方側から他方側へ向かうにつれてインボリュート歯車30の基礎円半径Rb2が徐々に増加する。これによって、A−A断面におけるインボリュート歯車10,30の圧力角αAは、B−B断面におけるインボリュート歯車10,30の圧力角αBより大きく、歯幅方向の一方側から他方側へ向かうにつれてインボリュート歯車10,30の圧力角αが徐々に減少する。
【0030】
その場合は、A−A断面におけるインボリュート歯車10,30の作用線22Aの方向は、B−B断面におけるインボリュート歯車10,30の作用線22Bの方向よりも、y軸に対する傾斜角度が小さくなり、インボリュート歯車10,30の作用線方向は、歯幅方向の一方側から他方側へ向かうにつれて、y軸に対する傾斜角度が徐々に増加する。そして、A−A断面におけるインボリュート歯車10,30の噛み合い長さKAは、B−B断面におけるインボリュート歯車10,30の噛み合い長さKBより短く、歯幅方向の一方側から他方側へ向かうにつれてインボリュート歯車10,30の噛み合い長さが徐々に増加する。A−A断面における噛み合い長さKAは、インボリュート歯車10の歯先円18(歯幅方向において半径一定)と作用線22Aとの交点からインボリュート歯車30の歯先円38(歯幅方向において半径一定)と作用線22Aとの交点までの長さで表され、B−B断面における噛み合い長さKBは、インボリュート歯車10の歯先円18と作用線22Bとの交点からインボリュート歯車30の歯先円38と作用線22Bとの交点までの長さで表される。図4,6は、インボリュート歯車10,30のピッチ円16,36上での円弧歯厚sを歯幅方向において一定とした例を示しており、この例では、インボリュート歯車10,30の歯底円15,35上での円弧歯厚は、歯幅方向においてA−A断面(一方側)がB−B断面(他方側)より厚くなり、インボリュート歯車10,30の歯先円18,38上での円弧歯厚は、歯幅方向においてA−A断面がB−B断面より薄くなる。
【0031】
このように、図1〜6に示す例では、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2は、歯幅方向(回転軸方向)において一方側(A側、図1の左側)が他方側(B側、図1の右側)より小さいことで、インボリュート歯車10,30の圧力角αは、歯幅方向において一方側が他方側より大きい。そして、インボリュート歯車10,30の作用線方向は、歯幅方向において一方側が他方側よりy軸に対する傾斜角度が小さく、インボリュート歯車10,30の噛み合い長さは、歯幅方向において一方側が他方側より短い。ただし、後述するように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させる構成は、図1〜6に示す例に限られるものではなく、インボリュート歯車10,30の基礎円半径の比Rb2/Rb1が歯幅方向において一定となる条件を満たす範囲内で、様々な構成を採用することが可能である。
【0032】
一例として、下表(表1)の基準諸元を持つヘリカルギヤ(はすば歯車)を対象とし、この基準諸元に対して、基礎円半径を歯幅方向において±2.8%変化させた場合のインボリュート歯車10,30を考える。その場合における基礎円半径の変化に伴う圧力角の変化を図8に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
設計した歯形に対して、歯対の噛み合い解析を行い、噛み合いの同時接触線を歯車の0.1角ピッチ毎に求めた結果を図9A,9Bに示す。図9A,9Bは、歯対の接触領域を歯幅中央の接触点における作用線方向の直角方向から見た図であり、図9Aは、基礎円半径が歯幅方向において一定の場合(基準諸元)の結果を示し、図9Bは、基準諸元に対して基礎円半径を歯幅方向において±2.8%変化させた場合の結果を示す。インボリュート歯車10,30の歯先境界と歯幅境界で囲まれた領域が有効な接触範囲を表す。この有効接触範囲内にある同時接触線の数が、噛み合い率に比例する。この場合、0.1角ピッチ毎の同時接触線を描いているため、図9Aに示すように、有効接触範囲内に同時接触線が34本あれば、噛み合い率は3.4となる。同様にして、基礎円半径を歯幅方向において変化させた図9Bに示す場合の噛み合い率を求めると、3.6になる。このことから、本実施形態のように基礎円半径を歯幅方向において変化させると、基礎円半径が歯幅方向において一定の従来歯車より、噛み合い率が増加する。
【0035】
図10に、基礎円半径が歯幅方向において一定の場合(従来歯車)について、基礎円半径と噛み合い率との関係を示す。図10に示すように、基礎円半径を大きくする(圧力角を小さくする)と、噛み合い率が増加する。本実施形態のように基礎円半径を歯幅方向において変化させると、図10の星印に示すように、その平均基礎円半径を持つ従来歯車より噛み合い率が大きくなる。基準諸元より2.8%大きな一定の基礎円半径を持つ従来歯車にすれば、本実施形態(図10の星印)より噛み合い率は増加するが、基礎円半径を大きくすると、圧力角が小さくなり、歯元の曲げ応力が大きくなるため、強度的に不利になる。図11に、基礎円半径が歯幅方向において一定の場合(従来歯車)について、歯元曲げ応力と全噛み合い率との関係を計算した結果を示す。歯元曲げ応力は、歯形を台形近似したモデルでルイスの式(通常使われる歯車強度計算の基本式)に基づいて計算している。この計算では、ピッチ円上の円弧歯厚は基礎円半径によらず一定としている。図11に示すように、全噛み合い率が増加すると、歯元曲げ応力が増加して強度性能が低下する。
【0036】
例えば図12に示すように、インボリュート歯車10,30の軸支持剛性の違い等により、インボリュート歯車10,30の回転軸10a,30a間に平行度誤差、あるいは食い違い誤差が発生すると、インボリュート歯車10,30の歯当たり位置が変化する。この歯当たり位置の変化は、インボリュート歯車10,30の種類(はすば歯車や平歯車等)に関係なく発生する。図12に示す例では、歯幅方向(回転軸方向)の一方側(図の左側)の回転軸10a,30a間距離が歯幅方向の他方側(図の右側)の回転軸10a,30a間距離より短くなる平行度誤差が発生することで、インボリュート歯車10,30の歯当たり位置が歯幅方向の一方側に移動している。その場合は、例えば図1〜6に示すように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において一方側を他方側より小さくすることで、インボリュート歯車10,30の圧力角αを、歯幅方向において一方側を他方側より大きくする。これによって、インボリュート歯車10,30の歯当たりが移動する側(歯幅方向の一方側)の歯元曲げ応力を低減することができる。逆に、歯幅方向の一方側の回転軸10a,30a間距離が歯幅方向の他方側の回転軸10a,30a間距離より長くなる平行度誤差が発生することで、インボリュート歯車10,30の歯当たり位置が歯幅方向の他方側に移動する場合は、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において一方側を他方側より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において一方側を他方側より大きくする)ことで、歯当たりが移動する側(歯幅方向の他方側)の歯元曲げ応力を低減することができる。なお、上記の歯当たりが移動する側の基礎円半径を小さくする(圧力角を大きくする)構成は、インボリュート歯車10,30の軸支持剛性に違いがある場合等、回転軸10a,30a間の平行度誤差、あるいは食い違い誤差によって歯当たりが移動しやすい場合について、特に効果が大きくなる。その場合におけるインボリュート歯車10,30の種類は特に限定されるものではなく、例えばはすば歯車であってもよいし、平歯車であってもよい。
【0037】
以上説明した本実施形態によれば、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させることで、インボリュート歯車10,30の噛み合い率を増加させることができる。さらに、歯当たりが移動する側の基礎円半径を小さくする(圧力角αを大きくする)ことで、歯当たりが移動する側の歯元曲げ応力を低減することができ、実際にインボリュート歯車10,30同士が噛み合う際の歯元曲げ応力の最大値を低減することができる。したがって、図11の星印に示すように、基礎円半径一定の従来歯車と同等の噛み合い率を確保しつつ、歯当たり位置での歯元曲げ応力を低減することができる。また、基礎円半径一定の従来歯車と同等の歯元曲げ応力を維持しつつ、噛み合い率を向上させることができる。その結果、インボリュート歯車10,30の歯たけを長くすることなく噛み合い率と歯元曲げ応力の性能を両立させることができ、インボリュート歯車10,30の大型化を招くことなく低振動化と高強度化の両立が可能になる。さらに、基礎円半径一定の従来歯車より小さなねじれ角で、従来歯車と同等の噛み合い率を実現することができ、ねじれ角減少によって、インボリュート歯車10,30を支持する軸受の耐久性を向上させることができる。また、歯の加工も容易になり、歯面のうねりが小さくなるとともに加工精度の向上にも繋がる。
【0038】
一例として、下表(表2)の基準諸元を持つヘリカルギヤ(はすば歯車)を対象とし、この基準諸元に対して、基礎円半径を歯幅方向において±3%変化させた場合のインボリュート歯車10,30を考える。その場合において噛み合い率と歯元曲げ応力を計算した結果を下表(表3)及び図13に示す。図13の星印に示すように、基礎円半径一定の従来歯車と同等の噛み合い率を確保しつつ、歯当たり位置での歯元曲げ応力を低減することができる。また、基礎円半径一定の従来歯車と同等の歯元曲げ応力を維持しつつ、噛み合い率を向上させることができる。
【0039】
【表2】
【表3】
【0040】
また、インボリュート歯車10,30がヘリカルギヤ(はすば歯車)である場合は、同時に噛み合う歯12,32の枚数がインボリュート歯車10,30の回転角に応じて変化する。例えば噛み合い率が2を超え3未満の場合は、同時に噛み合う歯12,32の枚数が、図14に示すように、インボリュート歯車10,30の回転に伴い、3→2→3と変化する。図14は、歯対の接触領域を歯幅中央の接触点における作用線方向の直角方向から見た図であり、噛み合いの同時接触線を歯車の0.5角ピッチ毎に示す。図14に示すように、噛み合い開始部分や噛み合い終了部分(作用長さの端部)で歯が噛み合う際には、同時に他の歯が噛み合っている。3枚噛み合い時には、作用長さの両端部且つ歯幅方向の両端部の位置で2枚の歯が噛み合って荷重が作用し、作用長さの中央部且つ歯幅方向の中央部の位置で残りの1枚の歯が噛み合って荷重が作用する。2枚噛み合い時には、作用長さの中央部付近且つ歯幅方向の中央部付近の位置で2枚の歯が噛み合って荷重が作用する。歯車の噛み合いは、一般的に、噛み合い開始部分と噛み合い終了部分(作用長さの両端部)での荷重分担が小さく、作用長さの中央部付近での荷重分担が大きくなる。はすば歯車の場合は、作用長さの両端部では、歯幅方向の両端部の位置で歯が噛み合って荷重が作用し、作用長さの中央部付近では、歯幅方向の中央部付近の位置で歯が噛み合って荷重が作用するため、歯幅方向の両端部での荷重分担が小さく、歯幅方向の中央部付近での荷重分担が大きくなる。
【0041】
そこで、本実施形態では、例えば図15に示すように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向(回転軸方向)において中央部を両端部より小さくすることで、インボリュート歯車10,30の圧力角αを、歯幅方向において中央部を両端部より大きくすることもできる。図15は、歯幅方向の中央部から両端部へ向かうにつれてインボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2が徐々に増加する(圧力角αが徐々に減少する)例を示している。これによって、例えば図16の歯対の接触領域に示すように、インボリュート歯車10,30の作用長さ(噛み合い長さ)が歯幅方向において変化し、基礎円半径一定の従来歯車と比較して、歯幅方向両端部での作用長さが長くなるとともに、歯幅方向中央部での作用長さが短くなる。そのため、荷重分担の小さい歯幅方向両端部での噛み合い長さを増加させて噛み合い率を大きくすることができるとともに、荷重分担の大きい歯幅方向中央部での歯元曲げ応力を低減して強度を向上させることができる。その結果、インボリュート歯車10,30の低振動化と高強度化の両立が可能になる。なお、歯幅方向両端部では、荷重分担が小さく、歯に作用する荷重が小さいため、圧力角αの減少により噛み合い長さが増加しても、歯元曲げ応力の増加は抑えられる。
【0042】
本実施形態では、インボリュート歯車10,30は、はすば歯車に限られるものではなく、例えば平歯車であってもよい。基礎円半径が歯幅方向において一定である通常の平歯車では、高強度化のために基礎円半径を小さくして圧力角を大きくすると歯元曲げ応力が減少するが、その背反として噛み合い率が低下して振動・騒音が大きくなる。また、インボリュート歯車10,30が平歯車である場合も、同時に噛み合う歯12,32の枚数がインボリュート歯車10,30の回転角に応じて変化する。例えば噛み合い率が2を超え3未満の場合は、同時に噛み合う歯12,32の枚数が、インボリュート歯車10,30の回転に伴い、3→2→3と変化する。これは、噛み合い開始部分や噛み合い終了部分(作用長さの端部)で歯が噛み合う際には、同時に他の歯が噛み合っていることを意味しており、噛み合い開始部分と噛み合い終了部分(作用長さの両端部)での荷重分担が小さくなる。
【0043】
そこで、本実施形態では、インボリュート歯車10,30が平歯車である場合も、インボリュート歯車10,30の基礎円半径の比Rb2/Rb1が歯幅方向において一定となるように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させることができ、例えば、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において両端部を中央部より小さくすることで、インボリュート歯車10,30の圧力角αを、歯幅方向において両端部を中央部より大きくすることもできる。これによって、例えば図17の歯対の接触領域に示すように、インボリュート歯車10,30の作用長さ(噛み合い長さ)が歯幅方向において変化し、歯幅方向中央部での作用長さが長くなるとともに、歯幅方向両端部での作用長さが短くなる。そのため、歯幅方向中央部での噛み合い長さを増加させて噛み合い率を大きくすることができるとともに、歯幅方向両端部での歯元曲げ応力を低減して作用長さ端部の歯と同時に噛み合う他の歯の該当部位での強度を向上させることができる。さらに、作用長さ端部での基礎円半径Rb1,Rb2の大きい(圧力角αの小さい)部位での噛み合いは、その荷重分担が小さく、歯に作用する荷重が小さいため、歯元曲げ応力の増加は抑えられる。その結果、インボリュート歯車10,30の低振動化と高強度化の両立が可能になる。
【0044】
なお、インボリュート歯車10,30が平歯車である場合において、基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させる構成は、上記に説明した構成に限られるものではなく、例えば、図15に示すように、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において中央部を両端部より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において中央部を両端部より大きくする)こともできるし、図1〜6に示すように、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において一端部を他端部より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において一端部を他端部より大きくする)こともできる。これによっても、インボリュート歯車10,30の低振動化と高強度化の両立が可能になる。
【0045】
ただし、前述のように、インボリュート歯車10,30の回転軸10a,30a間に平行度誤差、あるいは食い違い誤差が発生しやすい場合は、インボリュート歯車10,30の歯当たり位置が歯幅方向の一端側または他端側へ移動しやすくなる。その場合は、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において両端部を中央部より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において両端部を中央部より大きくする)ことが好ましい。これによって、インボリュート歯車10,30の歯当たりが移動する方向(歯幅方向の一端側または他端側)に関係なく、歯当たりが移動する側の歯元曲げ応力を低減することができ、実際にインボリュート歯車10,30同士が噛み合う際の歯元曲げ応力の最大値を低減することができる。なお、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において両端部を中央部より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において両端部を中央部より大きくする)構成により、歯当たりの移動方向に関係なく歯元曲げ応力の最大値を低減できる効果は、インボリュート歯車10,30が平歯車である場合だけでなく、はすば歯車である場合も得ることができる。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
10,30 インボリュート歯車、10a,30a 回転軸、12,32 歯、14A,14B,34A,34B 基礎円、15,35 歯底円、16,36 ピッチ円、18,38 歯先円、22A,22B 作用線、24 接触点。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インボリュート歯形の歯を有するインボリュート歯車対に関する。
【背景技術】
【0002】
インボリュート歯形の歯を有するインボリュート歯車の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1のインボリュート歯車では、小歯車の歯末の圧力角を歯元の圧力角より小さくし(大歯車はこの逆)、大歯車の歯末の圧力角と小歯車の歯元の圧力角を等しくするとともに、大歯車の歯元の圧力角と小歯車の歯末の圧力角を等しくしている。これによって、小歯車の歯元の強度を増すとともに、歯末のたけを長くして、噛み合い率を向上させている。
【0003】
また、下記特許文献2のねじれ角可変型歯車では、円筒歯車の基礎円筒上の歯筋転がり曲線を2次関数で構成することにより、歯の法線ピッチや歯筋ねじれ角を歯筋方向に変化させている。法線ピッチが回転角に伴って変化することにより、歯車ポンプの圧力負荷変動を抑制して、圧縮効率を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−271889号公報
【特許文献2】特開平8−61466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基礎円半径(圧力角)一定のインボリュート歯車では、基礎円半径を大きく(圧力角を小さく)設計すると、噛み合い率を大きくすることが可能となるものの、歯元の曲げ応力が大きくなって強度的に不利になる。そのため、低振動化と高強度化を両立させることは困難である。また、特許文献1のインボリュート歯車では、噛み合い率を増加させるために、歯たけを長くする必要がある。そのため、インボリュート歯車の大型化、重量増を招くことになる。
【0006】
また、特許文献2では、法線ピッチが回転角に伴って変化することで、歯車ポンプの圧縮効率を高める効果はあるが、ねじれ角可変による噛み合い率や強度の向上策は確立されていない。また、ねじれ角を可変にすると、歯車のスラスト力も変動し、軸受損失や振動・騒音の増加に繋がる。
【0007】
本発明は、インボリュート歯車の大型化を招くことなく低振動化と高強度化を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインボリュート歯車対は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明に係るインボリュート歯車対は、インボリュート歯形の第1歯車の歯とインボリュート歯形の第2歯車の歯が噛み合うインボリュート歯車対であって、第1歯車と第2歯車の基礎円半径の比が歯幅方向において一定となるように、第1歯車と第2歯車の基礎円半径を歯幅方向において変化させたことで、第1歯車と第2歯車の圧力角を歯幅方向において変化させたことを要旨とする。
【0010】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車がはすば歯車であることが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車が平歯車であることが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において一方側が他方側より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において一方側が他方側より大きいことが好適である。
【0013】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において中央部が両端部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において中央部が両端部より大きいことが好適である。
【0014】
本発明の一態様では、第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において両端部が中央部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において両端部が中央部より大きいことが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インボリュート歯車の基礎円半径を歯幅方向において変化させて圧力角を歯幅方向において変化させることで、インボリュート歯車の歯たけを長くすることなく噛み合い率と歯元曲げ応力の性能を両立させることができる。その結果、インボリュート歯車の大型化を招くことなく低振動化と高強度化を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。
【図7】インボリュート歯形の設計方法を説明する図である。
【図8】インボリュート歯車の基礎円半径の変化に伴う圧力角の変化を示す図である。
【図9A】基礎円半径が歯幅方向において一定の場合について、噛み合いの同時接触線を歯車の0.1角ピッチ毎に求めた結果を示す図である。
【図9B】基礎円半径を歯幅方向において±2.8%変化させた場合について、噛み合いの同時接触線を歯車の0.1角ピッチ毎に求めた結果を示す図である。
【図10】インボリュート歯車の基礎円半径と噛み合い率との関係を示す図である。
【図11】インボリュート歯車の歯元曲げ応力と全噛み合い率との関係を計算した結果を示す図である。
【図12】インボリュート歯車対の回転軸間の平行度誤差による歯当たり位置の変化を説明する図である。
【図13】インボリュート歯車の歯元曲げ応力と噛み合い率との関係を計算した結果を示す図である。
【図14】はすば歯車において同時に噛み合う歯の枚数が回転角に応じて変化する様子を説明する図である。
【図15】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の他の概略構成を示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の作用長さが歯幅方向において変化する例を示す図である。
【図17】本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の作用長さが歯幅方向において変化する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0018】
図1〜6は、本発明の実施形態に係るインボリュート歯車対の概略構成を示す図である。図1は回転軸方向に垂直な方向から見た図を示し、図2は回転軸方向に平行な方向から見た図を示し、図3,4は図1のA−A断面における概略構成を示し、図5,6は図1のB−B断面における概略構成を示す。本実施形態に係るインボリュート歯車対は、インボリュート歯形の歯12を有し、回転軸10aまわりに回転可能に支持されたインボリュート歯車10と、インボリュート歯形の歯32を有し、回転軸30aまわりに回転可能に支持されたインボリュート歯車30とを含んで構成される。インボリュート歯車10の回転軸10aとインボリュート歯車30の回転軸30aは、互いに平行であり、互いに所定距離をおいて配置されている。インボリュート歯車10の歯12とインボリュート歯車30の歯32は所定の歯幅2Lを有し、インボリュート歯車10の歯12とインボリュート歯車30の歯32が噛み合うことで、インボリュート歯車10とインボリュート歯車30との間でトルクを伝達することが可能であり、本実施形態に係るインボリュート歯車対は歯車伝動装置として機能することが可能である。
【0019】
本実施形態では、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を歯幅方向(回転軸方向)において変化させている。これによって、インボリュート歯車10,30のインボリュート歯形を歯幅方向において変化させて、インボリュート歯車10,30の圧力角αを歯幅方向において変化させている。その際には、インボリュート歯車10,30のギヤ比を歯幅方向において一定に保つために、インボリュート歯車10,30の基礎円半径の比Rb2/Rb1が歯幅方向において一定となるように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させる。インボリュート歯車10,30の圧力角αを歯幅方向において変化させると、インボリュート歯車10,30の歯12,32同士の接触点24における接触法線の方向(作用線の方向)が歯幅方向において変化し、インボリュート歯車10,30の歯12,32同士の噛み合い長さ(作用長さ)も歯幅方向において変化する。その結果、歯12,32同士の噛み合い接触領域が曲面(基礎円半径一定の従来歯車では平面)になり、従来歯車と比較して噛み合い率が増加する。
【0020】
図1,2,3,5に示すように、z軸がインボリュート歯車10の回転軸10aに一致し、y軸がインボリュート歯車10,30の回転軸10a,30aと直交し、x軸、y軸がインボリュート歯車10,30の歯幅方向(回転軸方向)の中央位置に位置するように、xyz座標系を定義する。インボリュート歯車10の基礎円半径Rb1、インボリュート歯車30の基礎円半径Rb2をzの関数として以下の(1)、(2)式で表す。
【0021】
Rb1=Rb1(z) (1)
Rb2=Rb2(z) (2)
【0022】
ただし、インボリュート歯車10,30の回転速度比(ギヤ比i0)を一定に保つためには、以下の(3)式が成立する必要がある。
【0023】
Rb2/Rb1=i0=const.(一定) (3)
【0024】
(3)式の条件を満足する限り、関数Rb1,Rb2は任意に選ぶことができる。ここでは、関数Rb1,Rb2を最も簡単な1次関数として以下の(4)、(5)式で表す。(4)、(5)式において、aは定数、Rb10はz=0でのインボリュート歯車10の基礎円半径、Lはインボリュート歯車10,30の歯幅(回転軸方向長さ)の1/2である。
【0025】
Rb1=Rb10+a×z/L (4)
Rb2=i0×Rb1=i0×(Rb10+a×z/L) (5)
【0026】
このように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を歯幅方向において変化させると、それに伴い、インボリュート歯車10,30の圧力角αも歯幅方向において変化する。インボリュート歯車10,30の圧力角αは、以下の(6)式で決定される。(6)式において、R10はインボリュート歯車10のピッチ円16の半径(歯幅方向において一定)、R20はインボリュート歯車30のピッチ円36の半径(歯幅方向において一定)である(図1〜6に示す例では、R10<R20)。ここでの圧力角αは、歯幅方向(回転軸方向)に垂直な断面における圧力角(軸直角圧力角)として表される。
【0027】
cosα=Rb1(z)/R10=Rb2(z)/R20 (6)
【0028】
任意の軸直角断面(z=constの断面)における歯形形状は、図7のインボリュート歯車10の例に示すように、基礎円半径Rb1(z)を用いてインボリュート曲線を描くことにより決定される。この歯形形状を、基礎円半径を変化させながら、z方向に連続的に積み重ねることにより、歯幅方向(回転軸方向)において圧力角αが連続的に変化するインボリュート歯形が得られる。インボリュート歯車30の歯形形状も同様の方法で決定する。
【0029】
図1〜6に示す例では、A−A断面におけるインボリュート歯車10の基礎円14Aの半径Rb1Aは、B−B断面におけるインボリュート歯車10の基礎円14Bの半径Rb1Bより小さく、歯幅方向(回転軸方向)の一方側(A側、図1の左側)から他方側(B側、図1の右側)へ向かうにつれてインボリュート歯車10の基礎円半径Rb1が徐々に増加する。同様に、A−A断面におけるインボリュート歯車30の基礎円34Aの半径Rb2Aは、B−B断面におけるインボリュート歯車30の基礎円34Bの半径Rb2Bより小さく、歯幅方向の一方側から他方側へ向かうにつれてインボリュート歯車30の基礎円半径Rb2が徐々に増加する。これによって、A−A断面におけるインボリュート歯車10,30の圧力角αAは、B−B断面におけるインボリュート歯車10,30の圧力角αBより大きく、歯幅方向の一方側から他方側へ向かうにつれてインボリュート歯車10,30の圧力角αが徐々に減少する。
【0030】
その場合は、A−A断面におけるインボリュート歯車10,30の作用線22Aの方向は、B−B断面におけるインボリュート歯車10,30の作用線22Bの方向よりも、y軸に対する傾斜角度が小さくなり、インボリュート歯車10,30の作用線方向は、歯幅方向の一方側から他方側へ向かうにつれて、y軸に対する傾斜角度が徐々に増加する。そして、A−A断面におけるインボリュート歯車10,30の噛み合い長さKAは、B−B断面におけるインボリュート歯車10,30の噛み合い長さKBより短く、歯幅方向の一方側から他方側へ向かうにつれてインボリュート歯車10,30の噛み合い長さが徐々に増加する。A−A断面における噛み合い長さKAは、インボリュート歯車10の歯先円18(歯幅方向において半径一定)と作用線22Aとの交点からインボリュート歯車30の歯先円38(歯幅方向において半径一定)と作用線22Aとの交点までの長さで表され、B−B断面における噛み合い長さKBは、インボリュート歯車10の歯先円18と作用線22Bとの交点からインボリュート歯車30の歯先円38と作用線22Bとの交点までの長さで表される。図4,6は、インボリュート歯車10,30のピッチ円16,36上での円弧歯厚sを歯幅方向において一定とした例を示しており、この例では、インボリュート歯車10,30の歯底円15,35上での円弧歯厚は、歯幅方向においてA−A断面(一方側)がB−B断面(他方側)より厚くなり、インボリュート歯車10,30の歯先円18,38上での円弧歯厚は、歯幅方向においてA−A断面がB−B断面より薄くなる。
【0031】
このように、図1〜6に示す例では、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2は、歯幅方向(回転軸方向)において一方側(A側、図1の左側)が他方側(B側、図1の右側)より小さいことで、インボリュート歯車10,30の圧力角αは、歯幅方向において一方側が他方側より大きい。そして、インボリュート歯車10,30の作用線方向は、歯幅方向において一方側が他方側よりy軸に対する傾斜角度が小さく、インボリュート歯車10,30の噛み合い長さは、歯幅方向において一方側が他方側より短い。ただし、後述するように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させる構成は、図1〜6に示す例に限られるものではなく、インボリュート歯車10,30の基礎円半径の比Rb2/Rb1が歯幅方向において一定となる条件を満たす範囲内で、様々な構成を採用することが可能である。
【0032】
一例として、下表(表1)の基準諸元を持つヘリカルギヤ(はすば歯車)を対象とし、この基準諸元に対して、基礎円半径を歯幅方向において±2.8%変化させた場合のインボリュート歯車10,30を考える。その場合における基礎円半径の変化に伴う圧力角の変化を図8に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
設計した歯形に対して、歯対の噛み合い解析を行い、噛み合いの同時接触線を歯車の0.1角ピッチ毎に求めた結果を図9A,9Bに示す。図9A,9Bは、歯対の接触領域を歯幅中央の接触点における作用線方向の直角方向から見た図であり、図9Aは、基礎円半径が歯幅方向において一定の場合(基準諸元)の結果を示し、図9Bは、基準諸元に対して基礎円半径を歯幅方向において±2.8%変化させた場合の結果を示す。インボリュート歯車10,30の歯先境界と歯幅境界で囲まれた領域が有効な接触範囲を表す。この有効接触範囲内にある同時接触線の数が、噛み合い率に比例する。この場合、0.1角ピッチ毎の同時接触線を描いているため、図9Aに示すように、有効接触範囲内に同時接触線が34本あれば、噛み合い率は3.4となる。同様にして、基礎円半径を歯幅方向において変化させた図9Bに示す場合の噛み合い率を求めると、3.6になる。このことから、本実施形態のように基礎円半径を歯幅方向において変化させると、基礎円半径が歯幅方向において一定の従来歯車より、噛み合い率が増加する。
【0035】
図10に、基礎円半径が歯幅方向において一定の場合(従来歯車)について、基礎円半径と噛み合い率との関係を示す。図10に示すように、基礎円半径を大きくする(圧力角を小さくする)と、噛み合い率が増加する。本実施形態のように基礎円半径を歯幅方向において変化させると、図10の星印に示すように、その平均基礎円半径を持つ従来歯車より噛み合い率が大きくなる。基準諸元より2.8%大きな一定の基礎円半径を持つ従来歯車にすれば、本実施形態(図10の星印)より噛み合い率は増加するが、基礎円半径を大きくすると、圧力角が小さくなり、歯元の曲げ応力が大きくなるため、強度的に不利になる。図11に、基礎円半径が歯幅方向において一定の場合(従来歯車)について、歯元曲げ応力と全噛み合い率との関係を計算した結果を示す。歯元曲げ応力は、歯形を台形近似したモデルでルイスの式(通常使われる歯車強度計算の基本式)に基づいて計算している。この計算では、ピッチ円上の円弧歯厚は基礎円半径によらず一定としている。図11に示すように、全噛み合い率が増加すると、歯元曲げ応力が増加して強度性能が低下する。
【0036】
例えば図12に示すように、インボリュート歯車10,30の軸支持剛性の違い等により、インボリュート歯車10,30の回転軸10a,30a間に平行度誤差、あるいは食い違い誤差が発生すると、インボリュート歯車10,30の歯当たり位置が変化する。この歯当たり位置の変化は、インボリュート歯車10,30の種類(はすば歯車や平歯車等)に関係なく発生する。図12に示す例では、歯幅方向(回転軸方向)の一方側(図の左側)の回転軸10a,30a間距離が歯幅方向の他方側(図の右側)の回転軸10a,30a間距離より短くなる平行度誤差が発生することで、インボリュート歯車10,30の歯当たり位置が歯幅方向の一方側に移動している。その場合は、例えば図1〜6に示すように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において一方側を他方側より小さくすることで、インボリュート歯車10,30の圧力角αを、歯幅方向において一方側を他方側より大きくする。これによって、インボリュート歯車10,30の歯当たりが移動する側(歯幅方向の一方側)の歯元曲げ応力を低減することができる。逆に、歯幅方向の一方側の回転軸10a,30a間距離が歯幅方向の他方側の回転軸10a,30a間距離より長くなる平行度誤差が発生することで、インボリュート歯車10,30の歯当たり位置が歯幅方向の他方側に移動する場合は、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において一方側を他方側より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において一方側を他方側より大きくする)ことで、歯当たりが移動する側(歯幅方向の他方側)の歯元曲げ応力を低減することができる。なお、上記の歯当たりが移動する側の基礎円半径を小さくする(圧力角を大きくする)構成は、インボリュート歯車10,30の軸支持剛性に違いがある場合等、回転軸10a,30a間の平行度誤差、あるいは食い違い誤差によって歯当たりが移動しやすい場合について、特に効果が大きくなる。その場合におけるインボリュート歯車10,30の種類は特に限定されるものではなく、例えばはすば歯車であってもよいし、平歯車であってもよい。
【0037】
以上説明した本実施形態によれば、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させることで、インボリュート歯車10,30の噛み合い率を増加させることができる。さらに、歯当たりが移動する側の基礎円半径を小さくする(圧力角αを大きくする)ことで、歯当たりが移動する側の歯元曲げ応力を低減することができ、実際にインボリュート歯車10,30同士が噛み合う際の歯元曲げ応力の最大値を低減することができる。したがって、図11の星印に示すように、基礎円半径一定の従来歯車と同等の噛み合い率を確保しつつ、歯当たり位置での歯元曲げ応力を低減することができる。また、基礎円半径一定の従来歯車と同等の歯元曲げ応力を維持しつつ、噛み合い率を向上させることができる。その結果、インボリュート歯車10,30の歯たけを長くすることなく噛み合い率と歯元曲げ応力の性能を両立させることができ、インボリュート歯車10,30の大型化を招くことなく低振動化と高強度化の両立が可能になる。さらに、基礎円半径一定の従来歯車より小さなねじれ角で、従来歯車と同等の噛み合い率を実現することができ、ねじれ角減少によって、インボリュート歯車10,30を支持する軸受の耐久性を向上させることができる。また、歯の加工も容易になり、歯面のうねりが小さくなるとともに加工精度の向上にも繋がる。
【0038】
一例として、下表(表2)の基準諸元を持つヘリカルギヤ(はすば歯車)を対象とし、この基準諸元に対して、基礎円半径を歯幅方向において±3%変化させた場合のインボリュート歯車10,30を考える。その場合において噛み合い率と歯元曲げ応力を計算した結果を下表(表3)及び図13に示す。図13の星印に示すように、基礎円半径一定の従来歯車と同等の噛み合い率を確保しつつ、歯当たり位置での歯元曲げ応力を低減することができる。また、基礎円半径一定の従来歯車と同等の歯元曲げ応力を維持しつつ、噛み合い率を向上させることができる。
【0039】
【表2】
【表3】
【0040】
また、インボリュート歯車10,30がヘリカルギヤ(はすば歯車)である場合は、同時に噛み合う歯12,32の枚数がインボリュート歯車10,30の回転角に応じて変化する。例えば噛み合い率が2を超え3未満の場合は、同時に噛み合う歯12,32の枚数が、図14に示すように、インボリュート歯車10,30の回転に伴い、3→2→3と変化する。図14は、歯対の接触領域を歯幅中央の接触点における作用線方向の直角方向から見た図であり、噛み合いの同時接触線を歯車の0.5角ピッチ毎に示す。図14に示すように、噛み合い開始部分や噛み合い終了部分(作用長さの端部)で歯が噛み合う際には、同時に他の歯が噛み合っている。3枚噛み合い時には、作用長さの両端部且つ歯幅方向の両端部の位置で2枚の歯が噛み合って荷重が作用し、作用長さの中央部且つ歯幅方向の中央部の位置で残りの1枚の歯が噛み合って荷重が作用する。2枚噛み合い時には、作用長さの中央部付近且つ歯幅方向の中央部付近の位置で2枚の歯が噛み合って荷重が作用する。歯車の噛み合いは、一般的に、噛み合い開始部分と噛み合い終了部分(作用長さの両端部)での荷重分担が小さく、作用長さの中央部付近での荷重分担が大きくなる。はすば歯車の場合は、作用長さの両端部では、歯幅方向の両端部の位置で歯が噛み合って荷重が作用し、作用長さの中央部付近では、歯幅方向の中央部付近の位置で歯が噛み合って荷重が作用するため、歯幅方向の両端部での荷重分担が小さく、歯幅方向の中央部付近での荷重分担が大きくなる。
【0041】
そこで、本実施形態では、例えば図15に示すように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向(回転軸方向)において中央部を両端部より小さくすることで、インボリュート歯車10,30の圧力角αを、歯幅方向において中央部を両端部より大きくすることもできる。図15は、歯幅方向の中央部から両端部へ向かうにつれてインボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2が徐々に増加する(圧力角αが徐々に減少する)例を示している。これによって、例えば図16の歯対の接触領域に示すように、インボリュート歯車10,30の作用長さ(噛み合い長さ)が歯幅方向において変化し、基礎円半径一定の従来歯車と比較して、歯幅方向両端部での作用長さが長くなるとともに、歯幅方向中央部での作用長さが短くなる。そのため、荷重分担の小さい歯幅方向両端部での噛み合い長さを増加させて噛み合い率を大きくすることができるとともに、荷重分担の大きい歯幅方向中央部での歯元曲げ応力を低減して強度を向上させることができる。その結果、インボリュート歯車10,30の低振動化と高強度化の両立が可能になる。なお、歯幅方向両端部では、荷重分担が小さく、歯に作用する荷重が小さいため、圧力角αの減少により噛み合い長さが増加しても、歯元曲げ応力の増加は抑えられる。
【0042】
本実施形態では、インボリュート歯車10,30は、はすば歯車に限られるものではなく、例えば平歯車であってもよい。基礎円半径が歯幅方向において一定である通常の平歯車では、高強度化のために基礎円半径を小さくして圧力角を大きくすると歯元曲げ応力が減少するが、その背反として噛み合い率が低下して振動・騒音が大きくなる。また、インボリュート歯車10,30が平歯車である場合も、同時に噛み合う歯12,32の枚数がインボリュート歯車10,30の回転角に応じて変化する。例えば噛み合い率が2を超え3未満の場合は、同時に噛み合う歯12,32の枚数が、インボリュート歯車10,30の回転に伴い、3→2→3と変化する。これは、噛み合い開始部分や噛み合い終了部分(作用長さの端部)で歯が噛み合う際には、同時に他の歯が噛み合っていることを意味しており、噛み合い開始部分と噛み合い終了部分(作用長さの両端部)での荷重分担が小さくなる。
【0043】
そこで、本実施形態では、インボリュート歯車10,30が平歯車である場合も、インボリュート歯車10,30の基礎円半径の比Rb2/Rb1が歯幅方向において一定となるように、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させることができ、例えば、インボリュート歯車10,30の基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において両端部を中央部より小さくすることで、インボリュート歯車10,30の圧力角αを、歯幅方向において両端部を中央部より大きくすることもできる。これによって、例えば図17の歯対の接触領域に示すように、インボリュート歯車10,30の作用長さ(噛み合い長さ)が歯幅方向において変化し、歯幅方向中央部での作用長さが長くなるとともに、歯幅方向両端部での作用長さが短くなる。そのため、歯幅方向中央部での噛み合い長さを増加させて噛み合い率を大きくすることができるとともに、歯幅方向両端部での歯元曲げ応力を低減して作用長さ端部の歯と同時に噛み合う他の歯の該当部位での強度を向上させることができる。さらに、作用長さ端部での基礎円半径Rb1,Rb2の大きい(圧力角αの小さい)部位での噛み合いは、その荷重分担が小さく、歯に作用する荷重が小さいため、歯元曲げ応力の増加は抑えられる。その結果、インボリュート歯車10,30の低振動化と高強度化の両立が可能になる。
【0044】
なお、インボリュート歯車10,30が平歯車である場合において、基礎円半径Rb1,Rb2(圧力角α)を歯幅方向において変化させる構成は、上記に説明した構成に限られるものではなく、例えば、図15に示すように、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において中央部を両端部より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において中央部を両端部より大きくする)こともできるし、図1〜6に示すように、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において一端部を他端部より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において一端部を他端部より大きくする)こともできる。これによっても、インボリュート歯車10,30の低振動化と高強度化の両立が可能になる。
【0045】
ただし、前述のように、インボリュート歯車10,30の回転軸10a,30a間に平行度誤差、あるいは食い違い誤差が発生しやすい場合は、インボリュート歯車10,30の歯当たり位置が歯幅方向の一端側または他端側へ移動しやすくなる。その場合は、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において両端部を中央部より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において両端部を中央部より大きくする)ことが好ましい。これによって、インボリュート歯車10,30の歯当たりが移動する方向(歯幅方向の一端側または他端側)に関係なく、歯当たりが移動する側の歯元曲げ応力を低減することができ、実際にインボリュート歯車10,30同士が噛み合う際の歯元曲げ応力の最大値を低減することができる。なお、基礎円半径Rb1,Rb2を、歯幅方向において両端部を中央部より小さくする(圧力角αを、歯幅方向において両端部を中央部より大きくする)構成により、歯当たりの移動方向に関係なく歯元曲げ応力の最大値を低減できる効果は、インボリュート歯車10,30が平歯車である場合だけでなく、はすば歯車である場合も得ることができる。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
10,30 インボリュート歯車、10a,30a 回転軸、12,32 歯、14A,14B,34A,34B 基礎円、15,35 歯底円、16,36 ピッチ円、18,38 歯先円、22A,22B 作用線、24 接触点。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インボリュート歯形の第1歯車の歯とインボリュート歯形の第2歯車の歯が噛み合うインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径の比が歯幅方向において一定となるように、第1歯車と第2歯車の基礎円半径を歯幅方向において変化させたことで、第1歯車と第2歯車の圧力角を歯幅方向において変化させた、インボリュート歯車対。
【請求項2】
請求項1に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車がはすば歯車である、インボリュート歯車対。
【請求項3】
請求項1に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車が平歯車である、インボリュート歯車対。
【請求項4】
請求項2に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において一方側が他方側より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において一方側が他方側より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項5】
請求項2に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において中央部が両端部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において中央部が両端部より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項6】
請求項2に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において両端部が中央部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において両端部が中央部より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項7】
請求項3に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において一方側が他方側より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において一方側が他方側より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項8】
請求項3に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において中央部が両端部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において中央部が両端部より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項9】
請求項3に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において両端部が中央部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において両端部が中央部より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項1】
インボリュート歯形の第1歯車の歯とインボリュート歯形の第2歯車の歯が噛み合うインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径の比が歯幅方向において一定となるように、第1歯車と第2歯車の基礎円半径を歯幅方向において変化させたことで、第1歯車と第2歯車の圧力角を歯幅方向において変化させた、インボリュート歯車対。
【請求項2】
請求項1に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車がはすば歯車である、インボリュート歯車対。
【請求項3】
請求項1に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車が平歯車である、インボリュート歯車対。
【請求項4】
請求項2に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において一方側が他方側より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において一方側が他方側より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項5】
請求項2に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において中央部が両端部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において中央部が両端部より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項6】
請求項2に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において両端部が中央部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において両端部が中央部より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項7】
請求項3に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において一方側が他方側より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において一方側が他方側より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項8】
請求項3に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において中央部が両端部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において中央部が両端部より大きい、インボリュート歯車対。
【請求項9】
請求項3に記載のインボリュート歯車対であって、
第1歯車と第2歯車の基礎円半径は、歯幅方向において両端部が中央部より小さいことで、第1歯車と第2歯車の圧力角は、歯幅方向において両端部が中央部より大きい、インボリュート歯車対。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図8】
【図11】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図8】
【図11】
【図13】
【公開番号】特開2012−82893(P2012−82893A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229311(P2010−229311)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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