説明

ウィルス浮遊液の採取方法

【課題】糞便中のウィルス検出を行う場合における、糞便検体の効率的かつ安全な処理手段を提供すること。
【解決手段】糞便を溶解する溶解液を収容する溶解収容室が内部に設けられ、一端部に糞便を採取する採便棒が挿着されるとともに、他端部に懸濁液を濾過するフィルターが備えられた筒状の採便チューブと、当該採便チューブの他端部に装着される濾液チューブとからなることを特徴とする採便容器を用いたウィルス浮遊液の採取方法であって、糞便が付着した採便棒を前記採便容器に挿着した後、当該採便棒に付着した糞便を前記溶解液中に溶解し、前記採便容器に遠心力を加え、前記フィルターを通過した前記濾液チューブ内の液層のみを捕集することを特徴とするウィルス浮遊液の採取方法を提供することにより、糞便の採取からウィルス浮遊液の採取までを、同一の採便容器にて行うことが可能とすることにより、上記の課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィルス浮遊液の採取方法、より具体的には、特定の採便容器による、糞便からの効率的なウィルス浮遊液の採取方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
下痢や嘔吐等を伴う消化器系のウィルス、例えば、ノロウィルス、サポウィルス、ロタウィルス、アデノウィルス等は、当該ウィルス感染者の糞便中に存在し、これらの感染症の診断には糞便検体が用いられている。これらのウィルスのPCR法(RNAウィルスの場合には、RT−PCR法)等の遺伝子増幅法を用いたウィルス核酸検査には、糞便検体の約10%懸濁液の遠心上清を調製し、当該上清のウィルス核酸を含み得る層を必要量だけ分散し、それに対してウィルス核酸の調製工程を行っている。現状では、糞便検体の前処理工程は、糞便検体ごと凍結された採便容器を融解し、ディスポーザルのループ(白金耳)で当該融解液の適量を採取し、蒸留水入りのマイクロチューブに懸濁するという煩雑な手作業を強いられてきた。寄せられる糞便検体は、多くが下痢症患者のものであるため、水様便から0.1ml前後の少量を分取するという操作も頻回強いられ、場合によってはディスポーザルスポイトも用いられていた。検出対象となるウィルスの感染力は強い場合が多く、例えば、ノロウィルスではエアロゾル中に数十個のウィルス粒子が含まれ、それを吸い込んだだけで感染することがある。エアロゾルによる飛沫感染だけでなく、不用意な糞便懸濁作業時の液滴漏出や付着等の汚染により、それが作業者の手を介して口に持ち込まれる接触感染事故も、多数の受託検体を前処理していく過程において危険因子として認識されている。このような事情から、糞便の懸濁作業は、全てP3実験室内の安全キャビネット内で行わなければならない。
【特許文献1】特開平8−292189号公報
【特許文献2】特許第2668815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の背景技術を鑑み、本発明は、ウィルス検出を行う場合における、糞便検体の効率的かつ安全な処理手段を提供することを課題とする発明である。本発明者らは、かかる課題を解決するために、一旦、採便から糞便検体の検出作業までの工程を、同一の採便容器において、安全かつ効率的に行うことが可能な採便容器の、ウィルス検出を目的とした使用方法について鋭意検討を行った。
【0004】
かかる課題を解決するためには、例えば、下記の条件(1)〜(4)を満たすことが可能な、新規の採便容器を提供して、この採便容器を用いたウィルスの糞便検体からの分離方法を提供することが必要である。
【0005】
(1)検査ラボに到着してから、糞便懸濁サンプルを再度調製しなくても済むように、採便時に、既に適度な濃度の糞便の懸濁液を調製することが可能な採便容器であること。
【0006】
(2)糞便検体の提供者の多くは、すでに下痢状態であるため、水様便であっても、検体提供者本人が、便器内から無理なく必要量の糞便を採取することが可能であること。そのためには、以下のような具体的な要求1)〜2)を満たすことが好適である。
1)糞便採取に用いる器具(採便棒)は、固形便と水様便双方について、規定量が無理なく取れるような構造をしていること。
2)糞便検体が過剰量懸濁されることがないように、過剰量の糞便の採取を阻止できる構造を備えていることと共に、糞便検体が容器外面にあふれ出て、当該容器表面や周囲を汚染することを未然に防げるような構造を備えていること。
【0007】
(3)採便後の容器を凍結保存したとき、破損することのない材質からなる容器であり、また、内液の凍結に伴う体積の膨張による容器の破損や、ジョイント部からの内液の漏出が抑止されていること。
【0008】
(4)ラボ到着後、糞便懸濁サンプル中の食物消化残渣や細菌の菌体を分離するために、糞便懸濁サンプルの遠心分離を行うが、この際、糞便懸濁サンプルを採便容器から、別のテストチューブに取り移す操作を行う必要がないように、採便容器自体に、ウィルス浮遊液層を、安全かつ効率的に分離できる構造を備えていること。
【0009】
従来より、便潜血検査や各種ウィルス検査の際に使用する採便容器として、例えば、特許文献1に示されるものが知られている。この採便容器は、両端が開口され、中間が薄膜で閉鎖された容器本体と、容器本体の一端を閉鎖するキャップ部材と、容器本体の他端に撞着される試料採取手段(採便棒)とを備え、キャップ部材と薄膜との間の溶解液収容室には糞便を溶かすための溶解液が収容されている。試料採取手段を容器本体の開放端から挿入すると、試料採取部に付着した余分な糞便が薄膜の淵で拭い取られ、一定量の糞便のみが溶解液収容室に供給されようになっている。また、検査の際には、キャップ部材の先端の閉鎖部を手でねじって開封し、容器本体の中央を手で押さえて内部を圧迫することにより、容器本体の懸濁液がフィルターで濾過され排出されるものである。
【0010】
しかし、特許文献1に代表される従来の採便容器の場合、試料採取手段を溶解液収容室に挿入する際に溶解液収容室の内圧が上昇し、溶解液がフィルターを通して下へ漏れ出てしまい、検査に支障をきたすことがある。
【0011】
そこで、特許文献2では、容器本体の内部に設けられ、採便棒を挿通させる際に余分な糞便を除去する分離壁に、採便棒の外周面に気密に係合する凸条を周設するとともに、採便棒の周面の少なくとも一部に分離壁の凸条の軸方向長よりも長い凹部を分離壁に対向して形成した採便容器が開示されている。特許文献2に記載された採便容器によれば、採便棒を容器本体へ挿入することにより上昇した容器本体の内圧を、挿入過程の完了直前に常圧に低下させることができ、滴下部を穿刺したときに懸濁液が過剰な圧力によって容器本体から噴出飛散して周囲を汚染することがない。
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載された採便容器においても、容器本体の内圧は挿入過程の完了直前まで上昇するため、その聞、溶解液がフィルターを通過して容器本体の外へ漏れ出てしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決するために、糞便を溶解する溶解液を収容する溶解収容室が内部に設けられ、一端部に糞便を採取する採便棒が挿着されるとともに、他端部に懸濁液を濾過するフィルターが備えられた筒状の採便チューブと、当該採便チューブの他端部に装着される濾液チューブとからなることを特徴とする採便容器を用いたウィルス浮遊液の採取方法であって、糞便が付着した採便棒を前記採便容器に挿着した後、当該採便棒に付着した糞便を前記溶解液中に溶解し、前記採便容器に1000G以上の遠心力を加え、前記フィルターを通過した前記濾液チューブ内の液層のみを捕集することを特徴とするウィルス浮遊液の採取方法(以下、本採取方法ともいう)を提供することに想到した。
【0014】
本採取方法において、糞便中のウィルス検出を目的として用いる採便容器(以下、本採便容器ともいう)は、糞便を溶解する溶解液を収容する溶解液収容室が内部に設けられ、当該溶解液収容室の一端部が破断可能な膜で封止された筒状の採便チューブと、棒状部材の基端側が把持部とされ、先端側に糞便を採取する採便部が設けられた採便棒とを備え、前記採便部は、軸線上に頂部を有する角錐からなる先端部と角柱からなる軸部からなり、前記角錐と前記角柱とが連続する稜線を形成していることを特徴としている。
【0015】
従来の採便棒の採便部は、先端部が円錐状とされ、軸部は円柱状とされていたため、溶解液収容室を封止する膜を採便部で突き破る際に、膜の破れ方にバラツキが生じていた。
【0016】
これに対して、本採便容器では、採便部の先端部を角錐状とするとともに軸部を角柱状としているので、角錐および角柱の稜線部分で膜を鋭利に破断することができ、膜の破れ方が一定してばらつくことがない。そして、破断して三角状となった膜片と角柱状の軸部との間に生じた隙間から空気が流通し、採便棒を溶解液収容室に挿入した時点から溶解液収容室の内圧は常圧に保たれる。
【0017】
また、本採便容器において着脱が可能な状態で装着されている濾液チューブは、糞便を溶解する溶解液を収容する溶解液収容室が内部に設けられ、一端部に糞便を採取する採便棒が挿着されるとともに、他端部に懸濁液を濾過するフィルターが備えられた筒状の採便チューブと、当該採便チューブの他端部に装着される濾液チューブとからなることを特徴としている。
【0018】
本採取方法では、本採便容器を用いて、糞便に含まれるウィルス浮遊液の採取を行うことを特徴とする。具体的には、糞便が付着した採便棒を採便容器本体に挿着した後、当該採便棒に付着した糞便を前記溶解液中に溶解し、容器本体を遠心分離機にかけて1000G以上(好ましくは2000〜3000G)の遠心力を加え、前記フィルターを通過した前記濾液チューブ内の液層のみを捕集し、当該液層をウィルス浮遊液として用いることを特徴とする。
【0019】
本採取方法では、密閉された本採便容器本体に対して、遠心分離機を用いて遠心力を加え、フィルターを通過した濾液チューブ内の液層(ウィルス浮遊液)のみを捕集する形態としているため、糞便懸濁サンプルの調製が不要となり、飛沫感染を防止することができる。この際、上記のように、遠心力を重力加速度の1000倍(1000G)以上とすることにより、細菌類を含む雑物はフィルターに捕捉されるか、または濾液チューブの底に沈殿し、主にウィルスが濾液チューブの液層に浮遊した状態となり、当該液層をウィルス浮遊液として用いることが可能となる。
【0020】
本採取方法の対象となるウィルスは、糞便中に存在し得るウィルスであれば特に限定されず、例えば、ノロウィルス、サポウィルス、ロタウィルス、アデノウィルス等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0021】
本発明のウィルスの浮遊液の採取方法にて用いる採便容器では、採便棒の採便部の形状を、先端部を角錐状とするとともに軸部を角柱状としているので、溶解液収容室を封止する膜を採便部で突き破る際に膜の破れ方が一定してばらつくことがない。そして、破断した膜と角柱状の軸部との間に生じた隙間から空気が流通し、採便棒を溶解液収容室に挿入した時点から溶解液収容室の内圧を常圧に保つことができる。
【0022】
そして、密閉された容器本体に遠心分離機を用いて遠心力を加え、フィルターを通過した濾液チューブ内の液層のみをウィルス浮遊液として捕集すればよいので、糞便懸濁液の飛沫感染を防ぐことができる。その結果、安全キャビネット内の作業が不要となり、作業者の安全性を向上させるとともに作業の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本採便容器は、本採取方法を行うための前提となる要件であり、本採便容器の最良の形態を本採取方法にて用いることは、本採取方法の最良の形態の一つを行うことを意味するものである。
【0024】
本採便容器は、採便棒の採便部の形状を、先端部を角錐状とするとともに軸部を角柱状とすることにより、破断した膜と角柱状の軸部との間に生じた隙間から空気が流通し、採便棒を溶解液収容室に挿入した時点から溶解液収容室の内圧を常圧に保つものであるが、実施に当たっては、さらに以下の構成を備えていることが好ましい。
【0025】
本採便容器では、前記採便部の軸部に糞便を収容する凹陥部が形成され、さらに前記凹陥部内に当該凹陥部を区画するリブが設けられていることを好適とする。
【0026】
溶解液収容室を封止する膜を採便棒で突き破った場合、破断した膜片が採便棒に密着する可能性がある。特に、採便部に糞便を収容する凹陥部を設けた場合、破れた膜片が凹陥部内に入り込んで空気の流通路が塞がれ、溶解液収容室の内圧が上昇するだけでなく、破れた膜片が凹陥部内の糞便を削り取るおそれもある。これに対して、本採便容器では、凹陥部内に当該凹陥部を区画するリブを設けることにより、破れた膜片が凹陥部内に入り込むのを防止して空気の流通路を確保するとともに、凹陥部内の糞便が削り取られないようにする。
【0027】
また、本採便容器では、前記採便部の軸部の両側部が前記凹陥部の開口側に突出していてもよい。
【0028】
本採便容器では、軸部の両側部が凹陥部の開口側に突出しているので、凹陥部の上面に空気の流通路となる空隙を確保することができる。
【0029】
また、本採便容器では、前記溶解液収容室の一端部に筒状の封止部材が挿着され、前記封止部材の一端面に前記破断可能な膜が張設され、前記封止部材の外周部には凸状のシール部が周設されるとともに、複数のフィンが前記シール部の上方に放射状に配設されていてもよい。
【0030】
本採便容器では、採便棒に付着する余分な糞便を封止部材の外周部(フィンとフィンの間)に収容するとともに、封止部材の外周部に凸状のシール部を周設して、収容した余分な糞便が封止部材の外周部から溶解液収容室内へ回り込まないようにすることができる。
【0031】
このように、本採取方法を行うための採便容器である本採便容器は、糞便検体を、効率よく、かつ、安全に、同一の採便容器にてウィルス浮遊液を採取可能な構成を有することを特徴としている。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例について、図面に基いて説明する。
本実施例において例示する本採便容器は、糞便を溶解する溶解液を収容する溶解液収容室11が内部に設けられた筒状の採便チューブ10と、当該採便チューブ10の一方の端部に装着される筒状容器からなる濾液チューブ20とからなる容器本体40と、棒状部材の基端側が把持部37とされ、先端側に糞便を採取する採便部31が設けられた採便棒30とから構成されている。容器本体40の形状を図1に、採便棒30の形状を図2および図3にそれぞれ示す。以下の説明では、採便チューブ10に採便棒30を挿入する方向を「下」、その反対方向を「上」と便宜上、呼ぶことにする。
【0033】
溶解液収容室11は採便チューブ10の中間部に設けられており、溶解液収容室11には溶解液として緩衝液が収容されている。ここで、溶解液は、滅菌蒸留水や生理食塩水やリン酸バッファー等である。
【0034】
溶解液収容室11の上端部はストッカー12(封止部材)で封止されるとともに、溶解液収容室11の下端部は懸濁液を濾過するフィルター13によって仕切られ、負荷のかからない状態では、溶解液がフィルター13を通して溶解液収容室11から漏れ出ないようになっている。
【0035】
また、フィルター13に隣接する採便チューブ10の下端部外周面には、雄ねじ部15が形成されており、濾液チューブ20の開口部内周面に形成された雌ねじ部21に螺合するようになっている。一方、ストッカー12に隣接する採便チューブ10の上端部内周面には雌ねじ部14が形成されており、後述する採便棒30の雄ねじ部36が螺合するようになっている。
【0036】
ストッカー12は、採便チューブ10の内周面に内接する円筒状の底部12dと、底部12dより小径の円筒部12bと、円筒部12bの外周面に放射状に形成され、円筒部12bより長尺の複数のフィン12cとが一体的に形成されたものである。円筒部12bの上端面には、ポリエチレン、エラストマー、アルミニウム等からなる破断可能な膜12aが張設され、底部12dの外周面には凸状のシール部12eが周設されている。
【0037】
採便棒30に付着した余分な糞便は、破れた膜12aおよび複数のフィン12cで拭い取られ、ストッカー12上に蓄積するが、採便容器を遠心分離機にかけると、これら余分な糞便はフィン12cとフィン12cの間に移動する。この際、底部12dの外周面にシール部12eが周設されているので、収容した余分な糞便がストッカー12の外周部から溶解液収容室11内へ回り込むことはない。なお、本実施例のように、採便棒30と容器本体40を使用前は別個とすることも可能であるが、使用前において、採便棒30の雄ねじ部36が螺合した形態を選択することも可能である。この場合は、膜12aは設けずに、かつ、円筒部12bの断面形状が円形であり、当該円筒部の形状が採便棒30における円柱状の拡径部35が嵌合することができる形状であることが好適である。
【0038】
採便棒30の採便部31は、軸線上に頂部を有する四角錐からなる先端部32と四角柱からなる軸部33から構成されており、四角錐と四角柱は連続する稜線を形成している。
【0039】
採便棒30の場合、採便部31の稜線部分でストッカー12の膜12aを十字状に破断し、膜12aの破れ方が一定してばらつくことがない。そして、破断して三角状となった膜片と四角柱からなる軸部33との間に生じた隙間から空気が流通し、採便棒30を溶解液収容室11に挿入した時点から溶解液収容室11の内圧は常圧に保たれる。
【0040】
軸部33の上半部および下半部には、対向する面にそれぞれ軸方向に長い凹陥部33aが形成されており、各凹陥部33a内に糞便が収容される。
【0041】
採便部31は、糞便を掬い取らずに、糞便に押し付けながら掻き取って凹陥部33a内に収容するのに適した形状になっており、規定量以上の糞便を採取することを未然に防止しつつ、従来のサジ状の採便部のように糞便を山盛りに採取することがないように誘導することが可能となる。
【0042】
また、各凹陥部33a内は軸方向に配設されたリブ33bで二列に仕切られており、破れた膜12aが凹陥部33a内に入り込むのを防止して空気の流通路を確保するとともに、凹陥部33a内の糞便が削り取られないようにしている。しかも、図3に示すように、リブ33bを挟んで軸方向に配設された両側部33c、33cが凹陥部33aの開口側に突出しており、凹陥部33aの上面に空気の流通路となる空隙を確保することができる。加えて、凹陥部33aがリブ33bで仕切られてスリット状とされ、凹陥部33aの幅が適度な狭さとなっているため、水様便を採取する際に、液体の表面張力を利用して凹陥部33a内に水様便を満たした状態で採便棒30を取り上げることができる。
【0043】
採便部31と把持部37の間には、採便部31から把持部37に向けて、円柱状の縮径部34、円柱状の拡径部35、雄ねじ部36が順に形成されている。縮径部34は、空気の流通路を確保するために採便部31よりも小径とされている。一方、拡径部35の先端側はテーパー状とされ、ストッカー12の膜12aが破れた後、拡径部35でストッカー12の開口を塞いで糞便が外に漏れ出ないようにしている。
【0044】
なお、採便チューブ10は、凍結保存と遠心分離に耐えられるように、例えば、ポリプロピレン等で形成されていることが好適である。また、採便チューブ10と濾液チューブ20の密着性を高めるため、例えば、濾液チューブ20には、採便チューブ10のポリプロピレンとは異なる、低密度ポリエチレン等を使用することが好ましい。また、ストッカー12は低密度ポリエチレン等、採便棒30はABS樹脂等でそれぞれ形成されていることが好適である。
【0045】
一方、フィルター13は、ポリプロピレンやポリエチレン等の合成樹脂からなる焼結体である。孔径は、検出すべき対象によって異なるが、ウィルス粒子の直径の100〜2000倍位のポアサイズのフィルターを用いることが好適である。なお、ウィルス粒子の直径は、概ね20〜300nmである。例えば、ノロウィルスを、本採取方法における採取対象ウィルスとする場合、ウィルス粒子の直径は30nm程度であるので、それより約1000倍ポアサイズが大きい30μm程度のポアサイズのフィルターを装着すれば容易にウィルスを通過させることができる。一方、細菌類の大きさは20〜100μm程度であるので、フィルターに捕捉される。また万一、細菌類がフィルターを通過しても遠心沈渣となり、ウィルス浮遊液の回収には影響しない。
【0046】
次に、ウィルス浮遊液の分取作業における本採便容器の取り扱い方法について説明する。
【0047】
採便前は、緩衝液が詰められた採便チューブ10の下端部に空の濾液チューブ20が装着され、採便棒30は予め外された状態である。採便棒30を用いて糞便を採取する場合は、糞便が付着した採便棒30を採便チューブ10の上端開口部から挿入して、採便部31の先端部32でストッカー12の膜12aを突き破って溶解液収容室11に採便部31を挿入した後、採便棒30の雄ねじ部36を採便チューブ10の雌ねじ部14に螺合して密閉する(図4参照)。
【0048】
ウィルス浮遊液の分取は、凍結保存された採便後の採便容器を融解して適度に撹拌した後、採便容器を直接、遠心分離機(図示省酪)にかけて溶解液収容室11の下端部に設置してあるフィルター13により糞便中の食物消化残滓や細菌塊を除去し、空の濾液チューブ20内の液層のみを捕集するという手順により行われる。遠心処理において採便容器に、好適には1000G以上、さらに好適には2000〜3000Gの遠心力を加えることにより、フィルター13を通過した細菌類を含む雑物は濾液チューブ20の底に沈殿し、主にウィルスが濾液チューブ20の液層に浮遊した状態となる。また、1000G以上という大きな遠心力を採便容器に負荷しているので、採便容器を密閉状態としても、懸濁液はフィルター13を経由して採便チューブ10から濾液チューブ20に移動する。
【0049】
なお、懸濁液が採便チューブ10から濾液チューブ20にスムーズに移動するように、遠心分離機に載せる直前に、採便チューブ10と採便棒30との間のねじ(採便チューブ10の雌ねじ部14と採便棒30の雄ねじ部36の間)、および採便チューブ10と濾液チューブ20との間のねじ(採便チューブ10の雄ねじ部15と濾液チューブ20の雌ねじ部21の間)を緩めて気密を解除しておいてもよい。採便チューブ10の雄ねじ部15は濾液チューブ20内に深く螺挿されるので、フィルター13を通過した懸濁液が濾液チューブ20から外に漏れ出ることはない。
【0050】
遠心分離後、濾液チューブ20は、採便チューブ10から取り外してそのまま次の工程に移すことができるように設計されていることが好適である。例えば、本実施例では、濾液チューブ20の外形は、8行12列の96穴マイクロタイタープレートの規格サイズに合致しており、専用サイズのチューブ・ラックに整列させると、96穴マイクロタイタープレートのウェルのピッチに一致する。次工程では、標準的な8連マイクロピペットを用いて必要量のウィルス浮遊液を分取することができる。
【0051】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施例では、採便部は、先端部を四角錐とするとともに軸部を四角柱としているが、先端部を三角錐とするとともに軸部を三角柱としてもよい。また、上記の実施例では、凹陥部を採便部の対向する面に互い違いにそれぞれ設けているが、同一面側にそれぞれ設けてもよい。要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る採便容器の一実施例における容器本体の縦断面図である。
【図2】本発明に係る採便容器の一実施例における採便棒の側面図である。
【図3】(a)図2におけるA方向矢視図、(b)図2におけるB−B矢視断面図である。
【図4】本発明に係る採便容器の一実施例において、容器本体に採便棒を挿着した状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 採便チューブ
11 溶解液収容室
12 ストッカー(封止部材〉
12a 膜
12b 円筒部
12c フィン
12d 底部
12e シール部
13 フィルター
14、21 雌ねじ部
15、36 雄ねじ部
20 濾液チューブ
30 採便棒
31 採便部
32 先端部
33 軸部
33a 凹陥部
33b リブ
33c 両側部
34 縮径部
35 拡径部
37 把持部
40 容器本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糞便を溶解する溶解液を収容する溶解収容室が内部に設けられ、一端部に糞便を採取する採便棒が挿着されるとともに、他端部に懸濁液を濾過するフィルターが備えられた筒状の採便チューブと、当該採便チューブの他端部に装着される濾液チューブとからなることを特徴とする採便容器を用いたウィルス浮遊液の採取方法であって、
糞便が付着した採便棒を前記採便容器に挿着した後、当該採便棒に付着した糞便を前記溶解液中に溶解し、前記採便容器に遠心力を加え、前記フィルターを通過した前記濾液チューブ内の液層のみを捕集することを特徴とするウィルス浮遊液の採取方法。
【請求項2】
前記ウィルス浮遊液の採取方法において、採便容器に加える遠心力が1000G以上である、請求項1記載のウィルス浮遊液の採取方法。
【請求項3】
前記ウィルス浮遊液の採取方法において、採便容器に加える遠心力が2000〜3000Gである、請求項1記載のウィルス浮遊液の採取方法。
【請求項4】
前記ウィルス浮遊液の採取方法において用いる採便容器が、下記(1)及び(2)の特徴を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のウィルス浮遊液の採取方法。
(1)溶解液収容室が、その一端部が破断可能な膜で封止された筒状の採便チューブである。
(2)採便棒が、その基端側が把持部とされ、先端側に糞便を採取する採便部が設けられた棒状部材であり、当該採便部は、軸線上に頂部を有する角錐からなる先端部と角柱からなる軸部からなり、前記角錐と前記角柱とが連続する稜線を形成する。
【請求項5】
前記ウィルス浮遊液の採取方法において用いる採便容器の採便部が、その軸部に糞便を収容する凹陥部が形成され、さらに前記凹陥部内に当該凹陥部を区画するリブが設けられている採便部であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のウィルスの採取方法。
【請求項6】
前記ウィルス浮遊液の採取方法において、前記採便部の軸部の両側部が前記凹陥部の開口側に突出していることを特徴とする、請求項5記載のウィルスの採取方法。
【請求項7】
前記ウィルス浮遊液の採取方法において、前記溶解液収容室の一端部に筒状の封止部材が挿着され、前記封止部材の一端面に前記破断可能な膜が張設され、前記封止部材の外周部には凸状のシール部が周設されるとともに、複数のフィンが前記シール部の上方に放射状に配設されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のウィルス浮遊液の採取方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−170997(P2007−170997A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369256(P2005−369256)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(591083336)株式会社ビー・エム・エル (31)
【Fターム(参考)】