説明

ウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構

【課題】 組付け性に優れて簡素な構造で高い精度を要せず、隙間調整も安定して行え、ブレーキ力低下の虞れもなく、通常ストロークと過剰ストロークとを明確に区別する。
【解決手段】 過剰ストロークが生じる際に、カムシャフト11の先端部11Aに嵌合された調整ロッド22を静止部(スリーブ部材20)に対して軸方向の相対位置を調整してカムシャフト11の軸方向の初期位置を変更することにより、カムシャフト11自体の先端部11Aにおいて軸方向にて過剰ストローク時の隙間調整が行えるので、安定した隙間調整が単一の調整機構にてもパッド摩耗量に対して無制限で広い範囲で行うことが可能となる上、部品に破損が生じても制御が確保されブレーキ力低下の虞れもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェッジカムを形成したカムシャフトの軸動により前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部を拡開揺動するウェッジカム式ブレーキであって、カムシャフトに過剰ストロークが生じる際に前記ブレーキアームの揺動隙間を埋めるように構成したウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキを搭載する車両、特に鉄道車両用のディスクブレーキでは、一対のブレーキアームの基端部を拡開してそれらの開放端部に設けられたパッドアッセンブリをブレーキロータ(ディスクロータ)の両側から挟圧してブレーキ動作を行う梃子式のキャリパブレーキが知られている。これらの梃子式のキャリパブレーキにあって、前記パッドアッセンブリが摩耗すると、ブレーキが効き始める時期が遅れて制動距離が長くなるものであった。そこで、ブレーキアームに過剰ストロークが発生することがないように、通常、隙間調整機構であるアジャスタ機構をアクチュエータとブレーキアームの基端部との間に配設している。そのようなアジャスタ機構として、例えば、下記特許文献1に記載されたブレーキシリンダがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−164159号公報(公報要約書参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示されたブレーキシリンダは、図9に示すように、シリンダ本体102に対して相対移動するピストン103と、該ピストン103とともに移動する軸棒104と、該軸棒104に取り付けられた押棒105と、該押棒105の前記シリンダ本体102からの突出長さをブレーキ作動の際に調整する突出長さ調整手段106とを備えており、前記押棒105は前記ピストン103の移動方向と平行に延びる軸孔を有する円筒状に形成されるとともに、該軸孔の内面の少なくとも一部に雌ネジ151が螺刻され、前記軸棒104は、外面の少なくとも一部に前記雌ネジ151と螺合する雄螺子141が螺刻され前記軸孔に螺挿されるとともに、外部からの軸周りの回転力を付与する回転力付与手段と係合可能な係合部142を有するものである。
【0005】
このような突出長さ調整手段106を備えたブレーキシリンダ101において、圧力室102b内への圧力供給によって、ピストン103を図9(B)に示したように、軸棒104および105を介して連結部材107を、シリンダ本体102における第1ケーシング121に対して拡開方向に移動させる。これによって、連結部材107と第1ケーシング121とのそれぞれに接続された図示外のブレーキアームを揺動させてブレーキ動作が行われる。パッドアッセンブリに摩耗が生じた場合には、蓋部108を取り外して軸棒104における係合部142に、外部からハンドルレンチ等のソケットを係合させて回転させることで、押棒105の雌ネジ151に対する軸棒104の雄ネジ141の螺合を進行させて、軸棒104と押棒105との軸方向距離を拡大させることで、ブレーキアームの過剰ストロークを抑制する隙間調整が可能となる。
【0006】
また、ブレーキパッドの制動面が摩耗すると、ブレーキを作動させる押棒105の必要ストロークが増大し、凹凸面152を介したガイド部材161のストロークも大きくなり過剰ストロークが発生する。規制体165がストッパ166に当接するようになると、ガイド部材161に大きな戻し力が作用するので、凹凸面152を乗り越えて押棒105が突出方向に変位する。このようにして、ブレーキアームの過剰ストロークを抑制する自動隙間調整がなされる。
【0007】
しかしながら、このような従来のアジャスタ機構にあっては、調整作業が外部からのハンドルレンチ等を用いた手動により行われて作業が面倒である他、部品構成が複雑になりがちで誤組付けの虞れを生じ易く、外部からのハンドルレンチ等を用いた手動による調整作業が押棒105と軸棒104との間でなされることから、雌ネジ151と雄螺子141との螺合部に過大な力が作用して螺合部が破損した場合には、ブレーキ力低下の虞れも生じた。また、ブレーキアームの過剰ストロークを抑制する自動隙間調整の場合は、押棒105とガイド部材161との間の凹凸面152を乗り越えた押棒105側の進行によってなされることになるものの、規制体165やストッパ166等の余分な部材を要して複雑な構成となる上、これらの部品の損傷で隙間調整機能が低下する虞れが大きかった。
【0008】
そこで本発明では、前記従来のアジャスタ機構における諸課題を解決して、組付け性に優れて簡素な構造で高い精度を要することなく、隙間調整も安定して行え、ブレーキ力低下の虞れもなく、通常ストロークと過剰ストロークとを明確に区別することが可能なウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため本発明は、ウェッジカムを形成したカムシャフトの軸動により前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部を拡開揺動するウェッジカム式ブレーキであって、カムシャフトに過剰ストロークが生じる際に前記ブレーキアームの揺動隙間を埋めるように構成したウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構において、前記過剰ストロークが生じる際に、前記カムシャフトの先端部に嵌合された調整ロッドを静止部に対して軸方向の相対位置を調整してカムシャフトの軸方向の初期位置を変更することを特徴とする。また本発明は、前記調整ロッドが、ボディに固定されたスリーブ部材の内周にフリクション部材を介して嵌合されたことを特徴とする。また本発明は、前記過剰ストロークが生じる際に、前記ウェッジカムの前端面が調整ロッドの後端面に衝接して、調整ロッドのスリーブ部材に対する軸方向の相対位置を変更することを特徴とする。また本発明は、前記調整ロッドをリリースプラグを介して外部から押圧することにより、カムシャフトの調整ロッドを介した静止部に対する軸方向の原位置を再設定するように構成したことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、請求項1の構成要件である、ウェッジカムを形成したカムシャフトの軸動により前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部を拡開揺動するウェッジカム式ブレーキであって、カムシャフトに過剰ストロークが生じる際に前記ブレーキアームの揺動隙間を埋めるように構成したウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構において、前記過剰ストロークが生じる際に、前記カムシャフトの先端部に嵌合された調整ロッドを静止部に対して軸方向の相対位置を調整してカムシャフトの軸方向の初期位置を変更することにより、カムシャフト自体の先端部において軸方向にて過剰ストローク時の隙間調整が行えるので、安定した隙間調整が単一の調整機構にてもパッド摩耗量に対して広い範囲で行うことが可能となる上、部品に破損が生じても制御が確保される。
【0011】
また、請求項2の構成要件である、前記調整ロッドが、ボディに固定されたスリーブ部材の内周にフリクション部材を介して嵌合された場合は、通常ストローク時にはカムシャフトが調整ロッド内を摺動し、パッド摩耗による過剰ストローク時にはフリクション部材の介在というきわめて簡素な構造の組合せにより、静止部であるスリーブ部材に対する調整ロッドの軸方向位置を簡便に無段階で移動させて広い範囲でパッド摩耗に対して自動隙間調整をすることができる。
さらに、請求項3の構成要件である、前記過剰ストロークが生じる際に、前記ウェッジカムの前端面が調整ロッドの後端面に衝接して、調整ロッドのスリーブ部材に対する軸方向の相対位置を変更する場合は、ウェッジカムの前端面が調整ロッドの後端面に衝接するだけの単純な構成によって、故障や破損の虞れもなく、過剰ストローク時のカムシャフトと調整ロッドとの一体となった隙間調整が簡便かつ容易に行える。
【0012】
さらにまた、請求項4の構成要件である、前記調整ロッドをリリースプラグを介して外部から押圧することにより、カムシャフトの調整ロッドを介した静止部に対する軸方向の原位置を再設定するように構成した場合は、パッド交換等の際に、調整ロッドをリリースプラグを介して外部から押圧するだけで、静止部すなわちスリーブ部材に対する調整ロッドの軸方向位置を簡便に原位置に再設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構を備えた第1実施例の要部平断面図である。
【図2】同、自動隙間調整機構の分解斜視図である。
【図3】同、自動隙間調整機構の初期状態を示す要部平断面図である。
【図4】同、自動隙間調整機構の通常のブレーキ作動状態を示す要部平断面図である。
【図5】同、自動隙間調整機構の過剰ストロークによる隙間調整(アジャスト)直前のブレーキ作動状態を示す要部平断面図である。
【図6】同、自動隙間調整機構の隙間調整時のブレーキ作動状態を示す要部平断面図である。
【図7】同、自動隙間調整機構の隙間調整後のブレーキ非作動状態を示す要部平断面図である。
【図8】同、自動隙間調整機構とブレーキアームを介したパッドアッセンブリとの関連による隙間調整工程の模式図である。
【図9】従来の隙間調整機構を備えたブレーキシリンダの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構を実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。本発明のウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構は、図1に示すように、ウェッジカム10を形成したカムシャフト11の軸動により前記ウェッジカム10のカム作用によりブレーキアーム4、4の基端部を拡開揺動するウェッジカム式ブレーキであって、カムシャフト11に過剰ストロークが生じる際に前記ブレーキアーム4、4の揺動隙間を埋めるように構成したウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構において、前記過剰ストロークが生じる際に、前記カムシャフト11の先端部に嵌合された調整ロッド22を静止部(スリーブ部材20)に対して軸方向の相対位置を調整してカムシャフト11の軸方向の初期位置を変更することを特徴とするものである。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明のウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構の第1実施例について説明する。適宜のサポートを介してボディ1が車体静止部に固定され、図8の模式図に示すように、該ボディ1(図8では図示省略)の下部両側に一対のブレーキアーム4、4の中間部がブレーキアーム軸5、5によって軸支される。ブレーキアーム4、4の上部の各開放端にはブレーキホルダを介してパッドアッセンブリ6、6が装着される。そして、ブレーキアーム4、4の各基端部には、図1に示すような、リンク式倍力装置のローラアーム13に球面ブッシュ14により連結・支持された出力軸を構成するリンクロッド15の外側端が球面ブッシュ16により支持される。図8の例では、ローラアーム13等により構成されるリンク式倍力装置ではなく、ウェッジカム10にて押し広げられるカムローラ12がリンクロッドを介して直接にブレーキアーム4の基端部を拡開するような形式となっている。無論、図8にあっても、図1のようなローラアーム13を備えたリンク式倍力装置としてもよい。
【0016】
図1に示すように、エアーを供給口7から導入して空圧室8Aに充填させると、エアーピストン8をチャンバスプリング9の復元力に抗して軸方向他方側(図面下側)に作動させるエアーシリンダ2がカムシャフト11の一方側(図面上側)に配設される。カムシャフト11の軸方向他方側への移動に伴い、カムシャフト11にナット24により取り付けられて形成されたウェッジカム10の傾斜面に乗り上げるカムローラ12、12が配設される。カムローラ12、12は、例えば、リンク式倍力装置を構成する、ストラット19の両端部に他端部がそれぞれベアリング18、18によって軸支された一対のローラアーム13、13の一端部にそれぞれ軸支されている。ウェッジカム10の傾斜面へのカムローラ12、12の乗上げによって、ローラアーム13、13は拡開方向に揺動して、ローラアーム13、13の略中間部に球面ブッシュ14により連結・支持されたリンクロッド15、15を梃子の原理によって倍力して外方(図面左右方向)へ軸動させる。これによって、ブレーキアーム4、4の各基端部をアーム軸5を揺動中心として拡開方向に移動させて、ブレーキアーム4、4の開放端部(図1の紙背側)に配設されたパッドアッセンブリ6、6(図8参照)をディスクロータ3に挟圧させてブレーキ動作が行われる。
【0017】
エアーシリンダ2に対して軸方向の反対側である、カムシャフト11の先端部11A側には1つの自動隙間調整機構が配設される。自動隙間調整機構は、静止部であるボディ1に対して支持されたスリーブ部材20と、その内周部に嵌合された調整ロッド22と、該調整ロッド22内に摺動自在に嵌合された前記カムシャフト11、さらには、過剰ストローク時に調整ロッド22の後端面に前端面が衝接することになるウェッジカム10とから構成される。前記スリーブ部材20の内周面には、調整ロッド22の外周面に作用して所定の摩擦力(その摩擦による抵抗力>チャンバスプリング9の復元力)にて互いの摺動を規制するフリクション部材21が配設され、止め輪17によって抜け止めされる。調整ロッド22の内周面とカムシャフト11の外周面との間にはブッシュ23が調整ロッド22の内周面に圧入される。図7にて明確なように、カムシャフト11の先端部11Aには径大部11Bが形成され、調整ロッド22の中間に形成された径小段部22Aに衝接して、カムシャフト11の復帰時に調整ロッド22に衝接して抜け止めされる。(図7では前記チャンバスプリング9の復元力によりカムシャフト11によって調整ロッド22が共に復帰位置に連れ戻されようとするが、フリクション部材21との摩擦力の方が大きく隙間調整後に調整ロッド22が戻ることはない)
【0018】
また、図6および図7にて後述するところの過剰ストロークにより隙間調整がなされた後に、図1に示すように、スリーブ部材20に対して他方側(ブレーキ作動方向)に突出した調整ロッド22を外部から押圧するためのリリースプラグ29がボディ1の他方側に配設される。符号25はリリースプラグ29を被覆するキャップを示す。符号27はリリースプラグ29の復帰スプリングである。パッドアッセンブリ等の新品の交換等の際に、リリースプラグ29による内方への押圧によって、カムシャフト11の軸方向の初期位置を変更して軸方向の原位置に容易に再設定できるので、パッドアッセンブリ等の新品の交換等が迅速に行える。
【0019】
図2は、本発明のウェッジカム式ブレーキに採用される自動隙間調整機構を理解し易く示した分解斜視図である。前述したように、カムシャフト11の先端部11A側には1つの自動隙間調整機構が構成されて配設される。図1を参照しつつ図2に示すように、自動隙間調整機構は、静止部であるボディ1に対して支持されたスリーブ部材20と、その内周部に嵌合された調整ロッド22と、該調整ロッド22内に摺動自在に嵌合されたカムシャフト11、さらには、過剰ストローク時に調整ロッド22の後端面に前端面が衝接することになるウェッジカム10とから構成される。スリーブ部材20のスリーブ部には、カムシャフト11の先端部11Aをガイドするブッシュ23を内周面に圧入した調整ロッド22が嵌合され、該調整ロッド22内の中間の径小段部22A(図3参照)に衝接する形態にてカムシャフト11の先端部11Aの径大部11Bがさらに嵌合される。スリーブ部材20と調整ロッド22との間にはフリクション部材21が配設され、該フリクション部材21はスリーブ部材20との間に設置される止め輪17によって抜け止めされる。スリーブ部材20およびウェッジカム10に渡って挿通されたカムシャフト11の基端部に螺合されるナット24により、カムシャフト11はウェッジカム10に緊締される。なお、スリーブ部材20のスリーブ部の内径孔を止め輪17側に行く程広いテーパ孔とすることで、アジャスタ作動時は緩く作動させてキャリパの効率ロスを抑制する構成とし、戻り側はきつく作動させることにより車両の振動等によりアジャスタが戻らない構成とすることも考慮できる。この際に、フリクション部材21の構成も対応するテーパ状としてもよい。
【0020】
図3は、自動隙間調整機構の初期状態を示す要部平断面図で、ボディやエアシリンダおよびリリースプラグ等が図示省略されている。図1と同様の図で自動隙間調整機構はもとよりブレーキも非作動の初期状態を示し、図示外のエアーピストン8のチャンバスプリング9の復元力に抗してカムシャフト11を軸方向他方側(図面下側)に作動させると、通常のブレーキ作動状態を示す要部平断面図である図4に示すよう、カムシャフト11に取り付けられて形成されたウェッジカム10の傾斜面にカムローラ12、12が乗り上げる。これによって、例えば、リンク式倍力装置を構成するストラット19の両端部のベアリング18、18に軸支された一対のローラアーム13、13が、ベアリング18、18を軸支点として外側に拡開し、ローラアーム13、13の略中間部に球面ブッシュ14により連結・支持されたリンクロッド15、15を梃子の原理によって倍力されて外方(図面左右方向)へ軸動させる。かくして、図8に示すように、ブレーキアーム4、4の各基端部をアーム軸5を揺動中心として拡開方向に移動させて、ブレーキアーム4、4の開放端部に配設されたパッドアッセンブリ6、6をディスクロータ3に挟圧させてブレーキ動作が行われる。
【0021】
図4にて理解されるように、このときカムシャフト11は、自身の先端部の径大部11B、調整ロッド22内に圧入されたブッシュ23や調整ロッド22内周の径小段差部22Aの複数箇所で安定して支持されて、調整ロッド22内を軸方向に移動することができるので、ウェッジカム10の傾斜面によってローラアーム13、13を拡開してリンクロッド15、15を介してブレーキ動作を行うことになる。図4の状態からブレーキ動作が解除されると、カムシャフト11は初期位置に復帰すべく図面上方へ後退する。カムシャフト11の先端部の径大部11Bが調整ロッド22における径小段差部22Aに衝接して初期位置となる。
【0022】
図5は自動隙間調整機構の過剰ストロークによる隙間調整(アジャスト)直前のブレーキ作動状態を示す要部平断面図で、図6は自動隙間調整機構の隙間調整時のブレーキ作動状態を示す要部平断面図である。パッド等が摩耗すると、図示外のブレーキアーム4の揺動ストロークが増大し、ひいては、カムシャフト11のストロークが通常の範囲を逸脱して過剰ストロークにて軸方向の他方側(図面下方側)に移動する。これによって、図5に示すように、調整ロッド22の後端面にウェッジカム10の前端面が衝接することになる。カムシャフト11が過剰ストロークにより、図6に示すようにさらに進行すると、静止部であるスリーブ部材20と調整ロッド22との間に配設された フリクション部材21の摩擦による抵抗値を超えて、スリーブ部材20に対して調整ロッド22が相対的に進行して突出する。隙間調整が完了した状態である。
【0023】
図7は、自動隙間調整機構の隙間調整後のブレーキ非作動状態を示す要部平断面図である。隙間調整が完了すると、図6の状態から図示外のチャンバスプリング9によりカムシャフト11が調整スリーブ22内を初期位置に戻る。カムシャフト11の先端部の径大部11Bが調整ロッド22における径小段差部22Aに衝接して初期位置(図7)となる。パッド等の摩耗により起因した過剰ストロークによって生じたブレーキアームの揺動隙間を埋めべく補償された隙間調整により、調整ロッド22がスリーブ部材20から相対的に進行して突出した状態となっていることから、隙間調整後のカムシャフト11の初期位置は原位置よりも隙間調整された調整ロッド22の突出分だけウェッジカム10も進行した位置にあり、したがって、ウェッジカム10の傾斜面とカム係合するローラアーム13、13も拡開した状態となっており。つまり、パッド等の摩耗分だけ予め進行した隙間調整状態が現出される。
【0024】
図8は、自動隙間調整機構とブレーキアームを介したパッドアッセンブリとの関連による隙間調整工程の模式図である。図8では静止側であるボディに取り付けられたスリーブ部材20については図示を省略されている。図8(A)の初期状態からウェッジカム10およびカムシャフト11が進行し、カムローラ12、12を介してブレーキアーム4の基端部が拡開し、揺動支点であるアーム軸5を中心に揺動して開放端部に装着されたパッドアッセンブリ6をディスクロータ3の側面に挟持して圧接して図8(B)のブレーキ作動状態になる。このとき、カムシャフト11は調整ロッド22に対して進行する。
【0025】
図8(C)は、パッドアッセンブリ6におけるパッドが摩耗して自動隙間調整機構により隙間調整が行われて、図示省略のスリーブ部材20のフリクション部材21に対する調整ロッド22が進行した突出状態にあり、なおかつパッドアッセンブリ6がディスクロータ3に接触していないブレーキ非作動の前記図7に対応する状態が示されている。図8(D)は、ウェッジカム10およびカムシャフト11が共に進行してブレーキアーム4が作動位置に揺動し、その開放端部に装着されたパッドアッセンブリ6がディスクロータ3の側面に挟持して圧接したブレーキ作動中の状態が示されている。
【0026】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、ウェッジカムの形状、およびそのカムシャフトへの取付け形態、ウェッジカムとブレーキアーム基端部との関連構成(カムシャフトの両側に配置した実施例のような一対のリンク式倍力装置を介してリンクロッドを介在させたものや、リンク式倍力装置を介さずに、ウェッジカムがカムローラを軸支したリンクロッドを拡開させたり、さらには、ウェッジカムが直接にブレーキアーム基端部を拡開させるように構成することもできる。)、リンク式倍力装置における倍力比率、自動隙間調整機構の構造としての、過剰ストロークが生じる際に、前記ウェッジカムの前端面が調整ロッドの後端面に衝接する構造として、調整ロッドの後端面とウェッジカムの前端面殿間に制作誤差を調整するシム等を介在させるようにしてもよい。調整ロッドのスリーブ部材に対する摩擦付与部材としてのフリクション部材の材質、摩擦係数、配設形態(実施例の、スリーブ部材の内周側に配設するものに代えて、調整ロッドの外周側に配設することもできる)、カムシャフトの先端部における径大部と調整ロッドにおける径小段差部との衝接形態、リリースプラグの形状、形式およびそのボディへの配設形態等については適宜選定できる。また、実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構は、好適には鉄道車両のキャリパ型ディスクブレーキに適用されるが、自動車等の車両や産業用ディスクブレーキ等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0028】
4 ブレーキアーム
10 ウェッジカム
11 カムシャフト
11A 先端部
20 静止部(スリーブ部材)
22 調整ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェッジカムを形成したカムシャフトの軸動により前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部を拡開揺動するウェッジカム式ブレーキであって、カムシャフトに過剰ストロークが生じる際に前記ブレーキアームの揺動隙間を埋めるように構成したウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構において、前記過剰ストロークが生じる際に、前記カムシャフトの先端部に嵌合された調整ロッドを静止部に対して軸方向の相対位置を調整してカムシャフトの軸方向の初期位置を変更することを特徴とするウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構。
【請求項2】
前記調整ロッドが、ボディに固定されたスリーブ部材の内周にフリクション部材を介して嵌合されたことを特徴とする請求項1に記載のウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構。
【請求項3】
前記過剰ストロークが生じる際に、前記ウェッジカムの前端面が調整ロッドの後端面に衝接して、調整ロッドのスリーブ部材に対する軸方向の相対位置を変更することを特徴とする請求項1または2に記載のウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構。
【請求項4】
前記調整ロッドをリリースプラグを介して外部から押圧することにより、カムシャフトの調整ロッドを介した静止部に対する軸方向の原位置を再設定するように構成したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のウェッジカム式ブレーキの自動隙間調整機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−197933(P2012−197933A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−27891(P2012−27891)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】