説明

ウエルド外観及びフローマーク外観に優れる射出成形体を与えるポリプロピレン樹脂組成物

【課題】多点ゲートで成形される成形体において、ウエルドやフローマーク外観に優れ、かつ機械物性や流動性が良好なポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)結晶性ポリプロピレン成分40〜98重量%、(B)エラストマー成分1〜30重量%、(C)無機充填剤成分1〜30重量%、からなる樹脂組成物であり、クロスフラクショネーションクロマトグラフィー(CFC;昇温溶出分別)0℃溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万〜70万であり、かつ、ゲート数が3点以上である金型で射出成形することによりウエルド外観及びフローマーク外観に優れる射出成形体を与える、ポリプロピレン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多点ゲートで射出成形することにより得られる、ウエルド及びフローマーク外観に優れた成形体を与えるポリプロピレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂組成物を射出成形することにより得られる成形体は自動車部品や家電部品など種々の分野で利用されている。とりわけ自動車部品に利用される成形体は比較的大型で、かつ形状も複雑な部品が多い。このような大型で形状が複雑な成形体を射出成形する際、ゲート数が少ないとゲートから末端までの流動長が長くなり、流動末端付近ではフローマークと呼ばれる縞模様の外観不具合が発生しやすくなる。一方、多点ゲートを有する金型を用いて射出成形する場合は、一つのゲートからの流動長は短くなるため、フローマークは軽減されるが、ウエルドと呼ばれる樹脂流動の境界線が多数発生し、これもまた成形体の外観不具合になる。
【0003】
ウエルドやフローマークは成形体の大きさや形状あるいはゲート数だけでなく、ポリプロピレン樹脂組成物の特性とも関係が深い現象である。特開平2003−041088では大型成形品に対応するという観点からウエルド及びフローマーク等の外観性能に優れた材料が開発されているが、一つのゲートからの流動長が短く、ウエルドが多数発生する多点ゲートで成形される成形体においては、十分にウエルド性能が確保できているとは言えない。
【0004】
本発明者らは上記の課題を検討した結果、特定のポリプロピレン樹脂組成物において、多点ゲートで成形する際にウエルドとフローマークがともに良好である成形体が得られ、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【特許文献1】特開平2003−041088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、多点ゲートで成形される成形体において、ウエルドやフローマーク外観に優れ、かつ機械物性や流動性が良好なポリプロピレン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)(A)結晶性ポリプロピレン成分40〜98重量%、(B)エラストマー成分1〜30重量%、(C)無機充填剤成分1〜30重量%、からなる樹脂組成物であり、
クロスフラクショネーションクロマトグラフィー(CFC;昇温溶出分別)0℃溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万〜70万であり、かつ、ゲート数が3点以上である金型で射出成形することによりウエルド外観及びフローマーク外観に優れる射出成形体を与える、ポリプロピレン樹脂組成物。
(2)前記ゲート数が3〜10点である、(1)に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
(3)(1)に記載の(A)結晶性ポリプロピレン成分が、メルトフローレート(MFR;230℃、荷重2.16kg)10〜200g/10分、極限粘度([η];135℃、デカリン中)1〜5dl/gのn−デカン可溶分を結晶性ポリプロピレン成分100重量%に対して1〜30重量%含有する結晶性プロピレンブロック共重合体であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
多点ゲートの金型による射出成形において、本発明のポリプロピレン樹脂組成物を用いることにより、ウエルドやフローマーク外観に優れ、かつ機械物性の良好な射出成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物について具体的に説明する。本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、
(A)結晶性ポリプロピレン成分
(B)エラストマー成分
(C)無機充填剤成分
の各成分で構成される。上記の各成分についてそれぞれ説明する。
【0009】
(A)結晶性ポリプロピレン成分
本発明で用いられる(A)結晶性ポリプロピレン成分は、好ましくは結晶性プロピレンブロック共重合体である。結晶性プロピレンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部とプロピレン・エチレンランダム共重合体部とを有し、プロピレン・エチレンランダム共重合体部は、結晶性プロピレンブロック共重合体に対して1〜30重量%の割合で含有しており、メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が10〜200g/10分である。また、プロピレン・エチレンランダム共重合体部中のエチレン含量が35〜55モル%、極限粘度[η](230℃、デカヒドロナフタレン中にて測定)が1〜5dl/gであることが好ましい。
これら(A)結晶性ポリプロピレン成分は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の共重合モノマー、例えば炭素数4以上のα−オレフィンから導かれる単位を少量含んでいてもよい。
【0010】
(A)結晶性ポリプロピレン成分は、種々の方法により製造することができるが、例えばチーグラー・ナッタ系触媒あるいはメタロセン触媒などの公知のオレフィン立体規則性触媒を用いて製造することができる。チーグラー・ナッタ系触媒を使用する(A)結晶性ポリプロピレン成分の製造例として、例えば固体状チタン触媒成分、有機金属化合物触媒成分、さらに必要に応じて電子供与体とから形成された触媒の存在下にプロピレンを重合させた後、引き続いてエチレンおよびプロピレンを共重合させる方法を挙げることができる。ここでエチレンおよびプロピレンの流量比などの共重合条件を調節することにより、プロピレンブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体部の割合やエチレン含量を調節することができる。このように、公知のオレフィン立体規則性触媒と共重合条件の適切な組み合わせ、および公知のポリオレフィン分子量調節技術によって、前記(A)結晶性ポリプロピレン成分を製造することができる。
【0011】
このような(A)結晶性ポリプロピレン成分は、本発明に係る成分(A)〜(C)よりなるポリプロピレン樹脂組成物中に、40〜98重量%、好ましくは50〜90重量%の割合で存在する。
【0012】
(B)エラストマー成分
本発明で用いられる(B)エラストマー成分としては、一般にエラストマーとして常用されている、エチレン−α−オレフィン共重合体エラストマー、水素添加エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体エラストマー、水素添加スチレン−ジエン共重合体エラストマーなどが挙げられ、あるいはこれら二種類以上の混合物であってもよい。このような(B)エラストマー成分は、本発明に係る成分(A)〜(C)よりなるポリプロピレン樹脂組成物中に、1〜30重量%、好ましくは5〜25重量%の割合で存在する。
【0013】
(C)無機充填剤成分
本発明で用いられる(C)無機充填剤成分としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、マイカ、ケイ酸塩類、炭酸塩類、ガラス繊維などが挙げられる。これらの中で特にタルクが好ましい。タルクとしては、平均粒径が1〜10μm、好ましくは2〜6μmのものが望ましい。(C)無機充填剤成分は、1種単独で用いることもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。このような(C)無機充填剤成分は、本発明に係る成分(A)〜(C)よりなるポリプロピレン樹脂組成物中に、1〜30重量%、好ましくは5〜25重量%の割合で存在する。
【0014】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、クロスフラクショネーションクロマトグラフィー(CFC;昇温溶出分別)による0℃溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万〜70万である。0℃溶出成分は主としてプロピレンブロック共重合体のプロピレン・エチレンランダム共重合体部が溶出される。プロピレン・エチレンランダム共重合体部の極限粘度[η]が大きいと0℃溶出成分の分子量Mwは大きくなる。このMwが10万未満では衝撃性が不十分である。またMwが70万を超えると得られる成形品はウエルドが悪化する。ウエルド外観、衝撃性などの面から、好ましい重量平均分子量(Mw)は20万〜60万であり、特に25万〜55万が好適である。
【0015】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、前記(A)〜(C)成分の他に、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、軟化剤、分散剤、滑剤、顔料などの添加剤を配合することができる。
【0016】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、前記(A)〜(C)成分、および必要により配合する添加剤を、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機などの混合装置により混合または溶融混練することにより得ることができる。この際、(A)〜(C)の各成分、および必要により配合する添加剤などの混合順序は任意であり、同時に混合してもよいし、一部成分を混合した後に他の成分を混合するというような多段階の混合方法を採用することもできる。
【0017】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、3点以上の多点ゲート、好ましくは3〜10点の多点ゲートの金型を用いて射出成形される成形部品に好ましく使用することができる。
【0018】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物を用いて射出成形される成形品は、バンパー等の自動車用部品として好ましく用いることができる。
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
ポリプロピレン樹脂組成物の各成分および成形体の物性は以下の通りに測定した。
〔MFR〕
MFR(メルトフローレート):ASTM D1238
測定温度230℃
測定荷重2160g
〔クロスフラクショネーションクロマトグラフィー(CFC;昇温溶出分別)〕
クロスフラクショネーションクロマトグラフィは組成分別を行う温度上昇溶離分別(TREF)部と分子量分別を行うGPC部とを直接接続することにより短時間で組成分布と分子量分布の相互関係の解析が可能となる。高温に溶解したポリマーを冷却し不活性担体の充填されたTREFカラムに薄いポリマー層を生成させる。まずTREFで分けられた第1区分がオンラインでGPCに注入され、その区分の分子量が測定される。その間TREF部では次の設定温度に昇温され溶出が行なわれる。第1区分の分子量分布測定が終わると、第2区分が注入される。以下同様な操作を繰り返すことで、組成分布の各フラクションごとの分子量に関する詳細な情報が得られる。
測定機種 CFC T−150A型(三菱油化製)
【0021】
〔ウエルド評価法〕
長さ350mm、幅100mm、厚み2mmの平板が成形可能で幅100mmの中央部(50mm)にゲートを持つ射出成形用金型を用いた(図1)。ゲートから流動方向直下50mmの位置にその点を中心とする直径30mm、厚み2mmの樹脂の流動を妨げる堰を設けた。ウエルド長さは上記金型を用いて射出成形をしたとき、堰以降に発生するウエルドを目視によりウエルドが判別できなくなるまでの長さを測定し求めた。
【0022】
〔フローマーク評価法〕
長さ360mm、幅150mm、厚み3mmの平板が成形可能で長さ360mmの中央部(180mm)とその両側105mmの3点にゲートを持つ射出成形金型をもちいた(図2)。
評価1(1点ゲート成形)
中央部以外の1点ゲートを用いて射出成形しフローマークの発生状況を目視判定した。
評価2(3点ゲート成形)
3点のゲートを全て用いて射出成形しフローマークの発生状況を目視判定した。
【0023】
〔曲げ弾性率〕
曲げ弾性率:ASTM D790
試験片寸法:127mm×12.7mm×6.4mmt
スパン間距離:100mm
曲げ速度:2mm/min
【0024】
実施例に用いたポリプロピレン樹脂組成物の各成分は以下のものである。
・ 結晶性プロピレンブロック共重合体(PEBC−1)
・MFR:105g/10分
・プロピレン・エチレンランダム共重合体部:10重量%
・極限粘度[η]:3.5dl/g(135℃、デカヒドロナフタレン中で測定)
(2)結晶性プロピレンブロック共重合体(PEBC−2)
・MFR:135g/10分
・プロピレン・エチレンランダム共重合体部:7重量%
・極限粘度[η]:3.7dl/g
(3)結晶性プロピレンブロック共重合体(PEBC−3)
・MFR:75g/10分
・プロピレン・エチレンランダム共重合体部:14.5重量%
・極限粘度[η]:2.8dl/g
(4)結晶性プロピレンブロック共重合体(PEBC−4)
・MFR:95g/10分
・プロピレン・エチレンランダム共重合体部:9重量%
・極限粘度[η]:8dl/g
(5)エチレン−1−オクテン共重合体エラストマー(EOR−1)
・MFR:2g/10分(190℃、荷重2.16kg)
・ オクテン含有量:15モル%
・ 密度:0.870g/cm
(6)エチレン−1−オクテン共重合体エラストマー(EOR−2)
・MFR:2g/10分(190℃、荷重2.16kg)
・ オクテン含有量:18モル%
・ 密度:0.857g/cm
(7)エチレン−1−ブテン共重合体エラストマー(EBR−1)
・MFR:1.2g/10分(190℃、荷重2.16kg)
・ 1−ブテン含有量:21モル%
・ 密度:0.860g/cm
(8)微粉末タルク
・平均粒径:3.5μm
【実施例】
【0025】
上記成分(1)〜(8)を、表1に記載の割合にてヘンシェルミキサーで混合し、二軸押出機でペレタイズしてポリプロピレン樹脂組成物を得た。得られたポリプロピレン樹脂組成物を射出成形した成形体のウエルド及びフローマーク性能評価結果を表1に示す。
【0026】
〔比較例1〕
上記成分(4),(7),(8)を表1に記載の割合にてヘンシェルミキサーで混合し、二軸押出機でペレタイズしてポリプロピレン樹脂組成物を得た。得られたポリプロピレン樹脂組成物を射出成形した成形体のウエルド及びフローマーク性能評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ウエルド評価用金型の説明図
【図2】フローマーク評価用金型の説明図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)結晶性ポリプロピレン成分40〜98重量%、(B)エラストマー成分1〜30重量%、(C)無機充填剤成分1〜30重量%、からなる樹脂組成物であり、
クロスフラクショネーションクロマトグラフィー(CFC;昇温溶出分別)0℃溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万〜70万であり、かつ、ゲート数が3点以上である金型で射出成形することによりウエルド外観及びフローマーク外観に優れる射出成形体を与える、ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゲート数が3〜10点である、請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の(A)結晶性ポリプロピレン成分が、メルトフローレート(MFR;230℃、荷重2.16kg)10〜200g/10分、極限粘度([η];135℃、デカリン中)1〜5dl/gのn−デカン可溶分を結晶性ポリプロピレン成分100重量%に対して1〜30重量%含有する結晶性プロピレンブロック共重合体であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−124520(P2006−124520A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315123(P2004−315123)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】