説明

ウキクサ葉緑体の形質転換

本発明は、ウキクサの色素体を形質転換するための方法及び組成物を提供する。本発明の組成物及び方法は、ウキクサ発現系の組換タンパク質産生能力を増大させるのに有用である。本発明の組成物には、形質転換されたウキクサの色素体、トランスプラストミックなウキクサ細胞及びウキクサ植物、並びにウキクサの色素体を形質転換するのに有用な核酸構築物が含まれる。本発明はまた、ウキクサのプラストム中に1種又は複数の非相同なヌクレオチド配列を導入するための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウキクサの色素体を形質転換するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウキクサ類は、単子葉植物ウキクサ科に属する唯一の類である。5つの属及び38の種は、すべて小型で浮遊性の淡水植物であり、その地理的範囲は全世界に及んでいる(Landolt (1986) Biosystematic Investigation on the Family of Duckweeds: The Family of Lemnaceae-A Monograph Study Geobatanischen Institut ETH, Stiftung Rubel, Zurich)。形態が最も縮小植物として知られているが、大半のウキクサ種は、根、茎、花、種子、及び葉状体を含めて、はるかに大型の植物の組織及び器官のすべてを有している。ウキクサ種は、広く研究されており、その生態学、分類学、生活環、代謝、病害及び害虫に対する脆弱性、生殖生物学、遺伝子構造、並びに細胞生物学を詳説した本質的な文献が存在している(Hillman (1961) Bot. Review 27: 221; Landolt (1986) Biosystematic Investigation on the Family of Duckweeds: The Family of Lemnaceae-A Monograph Study Geobatanischen Institut ETH, Stiftung Rubel, Zurich)。
【0003】
ウキクサの成長習性は、微生物培養法にとって理想的である。この植物は、酵母の無性増殖に類似した巨視的な方法で、新しい葉状体の無性出芽によって急速に増殖する。この増殖は、分裂組織細胞からの無性出芽によって起こる。分裂組織部分は小さく、葉状体の腹面側表面に存在している。分裂組織細胞は、2箇所の窪みに、即ち葉状体の中央脈の両側に各1つある。小さな中央脈部分は、根が生え、また、各葉状体をその母葉状体に連結する茎が生じる部位でもある。分裂組織の窪みは、蓋状の組織によって保護されている。葉状体は、これらの窪みから交互に出芽する。倍加時間は、種によって異なり、20〜24時間くらいの短さである(Landolt (1957) Ber. Schweiz. Bot. Ges. 67: 271; Chang et al. (1977) Bull, Inst. Chem. Acad. Sin. 24:19; Datko and Mudd (1970) Plant Physiol. 65:16; Venkataraman et al. (1970) Z. Pflanzenphysiol. 62: 316)。
【0004】
ウキクサを集約栽培することにより、単位時間当たりのバイオマス蓄積が最も高速度になり(Landolt and Kandeler (1987) The Family of Lemnaceae-A Monographic Study Vol. 2: Phytochemistry, Physiology, Application, Bibliography, Veroffentlichungen des Geobotanischen Institutes ETH, Stiftung Rubel, Zurich)、このとき、乾燥重量の蓄積量は新鮮重の6〜15%の範囲であった(Tillberg et al. (1979) Physiol. Plant. 46:5; Landolt (1957) Ber. Schweiz. Bot. Ges. 67:271; Stomp,未発表データ)。様々な条件下で栽培されたいくつかのウキクサ種のタンパク質含有量が、乾燥重量の15〜45%の範囲であることが報告されている(Chang et al (1977) Bull. Inst. Chem. Acad. Sin. 24:19; Chang and Chui (1978) Z. Pflanzenphysiol. 89:91; Porath et al. (1979) Aquatic Botany 7:272; Appenroth et al. (1982) Biochem. Physiol. Pflanz. 177:251)。これらの値を使用すると、ウキクサの培地1リットル当たりのタンパク質産生レベルは、酵母遺伝子の発現系と同程度の大きさである。
【0005】
したがって、ウキクサで組換型タンパク質を発現させる方法は、いくつかの研究及び商業への応用に有用である。総じて植物分子生物学の研究に対して、酵母のように研究室で好都合に扱うことができる分化した植物系は、単離した遺伝子の発育上の役割及び生理的役割を分析するための非常に迅速な系を提供する。価値あるポリペプチドの商業生産に関して、ウキクサに基づく系は、既存の微生物培養系又は細胞培養系より優れたいくつかの利点を有する。植物は、哺乳動物細胞と同様の翻訳後処理を示すため、生体活性のある哺乳動物由来ポリペプチドの微生物細胞産生に関連する1つの主要な問題を克服している。また、他の研究者によって(Hiatt (1990) Nature 334:469)、植物系は、微生物系ではしばしば欠如している能力である、マルチサブユニット型タンパク質の集成能力を有することが示されている。ウキクサのバイオマスを組換型タンパク質の商業生産に必要なレベルにスケールアップする方が、哺乳動物細胞を同様にスケールアップするより、より迅速で且つ費用効率が高い。また、他の提案されている植物生産系、例えば、ダイズ及びタバコと違って、ウキクサは完全に封じ込め且つ制御したバイオマス生産槽で栽培することができるため、この系を既存のタンパク質生産の産業基盤に統合することが極めて容易になっている。
【0006】
ウキクサの核ゲノムを形質転換する方法は文献に記載されている。例えば、米国特許第6040498号を参照のこと。ウキクサ植物又はウキクサ小塊(duckweed nodule)の培養物は、アグロバクテリウムを媒介とした遺伝子導入、遺伝子銃、又はエレクトロポレーションを含むいくつかの方法のうちのいずれか1つにより、目的ヌクレオチド配列を含有している発現カセットを用いて効率的に形質転換することができる。しかし、ウキクサの色素体ゲノムの安定な形質転換は記載されていない。各葉緑体中にはプラストム(plastome)の多数のコピーがあり、各細胞中には多数の葉緑体があり、したがってプラストムを形質転換する方法を用いて各植物細胞中で多数の組み込まれた導入遺伝子を得ることができるため、ウキクサの色素体の形質転換は有利なはずである。
【0007】
ウキクサ系にはこれらの特質があるため、組換型タンパク質を生産するための、効率的な植物に基づく系として開発することが理想的な選択となる。したがって、本発明は、ウキクサの色素体を形質転換するための方法及び組成物を提供する。
【特許文献1】米国特許第6040498号
【非特許文献1】Landolt (1986) Biosystematic Investigation on the Family of Duckweeds: The Family of Lemnaceae-A Monograph Study Geobatanischen Institut ETH, Stiftung Rubel, Zurich
【非特許文献2】Hillman (1961) Bot. Review 27: 221
【非特許文献3】Landolt (1957) Ber. Schweiz. Bot. Ges. 67: 271
【非特許文献4】Chang et al. (1977) Bull, Inst. Chem. Acad. Sin. 24:19
【非特許文献5】Datko and Mudd (1970) Plant Physiol. 65:16
【非特許文献6】Venkataraman et al. (1970) Z. Pflanzenphysiol. 62: 316
【非特許文献7】Landolt and Kandeler (1987) The Family of Lemnaceae-A Monographic Study Vol. 2: Phytochemistry, Physiology, Application, Bibliography, Veroffentlichungen des Geobotanischen Institutes ETH, Stiftung Rubel, Zurich
【非特許文献8】Tillberg et al. (1979) Physiol. Plant. 46:5
【非特許文献9】Chang and Chui (1978) Z. Pflanzenphysiol. 89:91
【非特許文献10】Porath et al. (1979) Aquatic Botany 7:272
【非特許文献11】Appenroth et al. (1982) Biochem. Physiol. Pflanz. 177:251
【非特許文献12】Hiatt (1990) Nature 334:469
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、1種又は複数の非相同なヌクレオチド配列及び核酸構築物によって形質転換された色素体を有するウキクサ植物、並びにこれらのトランスプラストミックなウキクサ植物を作製するのに有用な方法を提供する。形質転換されたウキクサの色素体、及びこれらの形質転換された色素体を含有しているウキクサ細胞も提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
いくつかの実施形態では、このウキクサ植物は、目的ポリペプチドをコードしている非相同な(heterologous)ヌクレオチド配列によって形質転換された色素体を有する。別の実施形態では、複数の目的ポリペプチドが、非相同なヌクレオチド配列によってコードされている。これらの非相同なヌクレオチド配列は、形質転換されたウキクサ細胞の選択に有用なマーカー(maker)ポリペプチドのコード配列を含んでよい。
【0010】
非相同なヌクレオチド配列によって形質転換されるウキクサ植物の色素体は、原色素体、アミロプラスト、有色体、葉緑体、黄色体、又は白色体であってもよい。
【0011】
本発明の核酸構築物は、ウキクサプラストムの配列に相同な第1の標的ヌクレオチド配列、ウキクサのプラストムに非相同な、1種又は複数の目的ポリペプチドをコードしている少なくとも1種のヌクレオチド配列、及びウキクサプラストムの配列に相同な第2の標的配列を有する。いくつかの実施形態では、この核酸構築物は、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列に作動可能に連結した発現制御配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、葉緑体を形質転換するための核酸構築物は、ウキクサにおいて目的ポリペプチドの翻訳効率を高めるヌクレオチド配列を有する。この核酸構築物は、目的ポリペプチドをコードしている配列に作動可能に連結した1種又は複数の転写終結配列を含んでもよい。
【0013】
本発明は、1種又は複数の非相同なヌクレオチド配列をウキクサのプラストム中に導入するための方法を提供する。この方法は、葉緑体を形質転換するための核酸構築物をウキクサ組織に撃ち込むステップであって、この核酸構築物を微小発射体(microprojectile)に吸着させ、色素体ゲノム中への核酸構築物の導入を促進する条件下で撃ち込みを行うステップを含む。いくつかの実施形態では、非相同なヌクレオチド配列が、ウキクサの葉緑体ゲノム中に導入される。
【0014】
トランスプラストミックなウキクサ植物を得るための方法が提供される。この方法は、微小発射体に吸着させた、葉緑体を形質転換するための核酸構築物を、ウキクサ組織の少なくとも1つの色素体中に葉緑体を形質転換するためのその核酸構築物が導入されるような条件下でウキクサ組織に撃ち込むステップと、ウキクサ組織からウキクサ植物を再生させるステップとを含む。いくつかの実施形態では、この核酸構築物は、ウキクサ組織に選択可能な表現型を与える選択マーカー配列を含み、ウキクサ組織は、形質転換後、選択マーカー配列により形質転換された色素体を有するウキクサ細胞の生存を選択的に促進する選択培地中で維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
色素体は、光合成を行い、また、アミノ酸、複合糖質、脂肪酸、及び色素の生合成において主要な役割を果たしている、植物細胞中に存在する細胞小器官である。アミロプラスト、有色体、葉緑体、黄色体、及び白色体を含めて、いくつかのタイプの分化した植物色素体がある。これらの色素体はすべて、原色素体と呼ばれる未分化の色素体前駆体に由来する。葉緑体は最も一般的な色素体であり、植物細胞中の光合成部位である。光合成植物の各細胞は、多数の葉緑体、通常細胞1個当たり50〜100個の葉緑体を含有している。葉緑体には、独自のゲノム、即ちプラストムと呼ばれる環状のDNA分子がある。各葉緑体は、プラストムの多数のコピー、通常50〜100個のコピーを含有している。
【0016】
形質転換されたプラストム(トランスプラストムと呼ばれる)から導入遺伝子を発現することは、植物核を形質転換することと比べていくつか利点があるため、植物プラストムは、外来の導入遺伝子を導入するための標的となっている。特に、各葉緑体中にプラストムの多数のコピーがあり、各細胞中に多数の葉緑体が存在するため、プラストムを形質転換する方法によって、各植物細胞中で多数の組み込まれた導入遺伝子を得ることができる。これにより、同じ導入遺伝子を植物核ゲノム中に組み込んだ際の発現レベルと比べて、より高いレベルで導入遺伝子を発現することができる。
【0017】
植物色素体は、遺伝子工学の魅力的な標的であるため、本発明は、ウキクサ色素体を形質転換するための方法及び組成物を提供する。本発明の組成物及び方法は、ウキクサ発現系の組換型タンパク質産生能力を高めるのに有用である。本発明の組成物には、形質転換されたウキクサの色素体、トランスプラストミックなウキクサ細胞及びウキクサ植物、並びにウキクサの色素体を形質転換するのに有用な核酸構築物が含まれる。本発明はまた、ウキクサのプラストム中に1種又は複数の非相同なヌクレオチド配列を導入するための方法も提供する。本発明の組成物及び方法を、以下に詳細に説明する。
【0018】
定義
「発現」又は「産生」という用語は、遺伝子産物の転写、翻訳、及び集成を含めて、遺伝子産物の生合成を意味する。「ウキクサ」という用語は、ウキクサ科に属するものを意味する。現在、この科は以下の5属及び38種のウキクサに分類されている。即ち、アオウキクサ(Lemna)属(ナンゴクアオウキクサ(L. aequinoctialis)、L.ジスペルマ(L.disperma)、L.エクアドリエンシス(L.ecuadoriensis)、イボウキクサ(L. gibba)、ムラサキコウキクサ(L. japonica)、コウキクサ(L. minor)、ヒナウキクサ(L.miniscula)、L.オブスキュラ(L.obscura)、L.ペルプシラ(L. perpusilla)、L.テネラ(L.tenera)、ヒンジモ(L. trisulca)、エゾコウキクサ(L. turionifera)、チリウキクサ(L. valdiviana));ウキクサ(Spirodela)属(S.インターメディア(S.intermedia)、ウキクサ(S. polyrrhiza));ミジンコウキクサ(Wolffia)属(Wa.アングスタ(angusta)、ミジンコウキクサ(Wa. arrhiza)、Wa.オーストラリナ(Wa.australina)、Wa.ボレアリス(Wa.borealis)、Wa.ブラジリエンシス(Wa.brasiliensis)、Wa.コロンビアナ(Wa.columbiana)、Wa.エロンガタ(Wa.elongata)、ミジンコウキクサ(Wa.globosa)、ミジンコウキクサ(Wa.microscopica)、Wa.ネグレクタ(Wa.neglecta));ウォルフィエラ(Wolfiella)属(Wl.コーダータ(Wl.caudata)、Wl.デンティクラタ(Wl.denticulata)、Wl.グラディアータ(Wl.gladiata)、Wl.ヒアリナ(Wl.hyalina)、Wl.リングラータ(Wl.lingulata)、Wl.レプンダ(Wl.repunda)、Wl.ロツンダ(Wl.rotunda)、及びWl.ネオトロピカ(Wl.neotropica));並びにランドルティア(Landoltia)属(L.プンクタータ(L.punctata))である。ウキクサ科の他の任意の属又は種も、それらが存在する場合は、本発明の態様である。アオウキクサ属の種は、Les et al. (2002) Systematic Botany 27:221-40に記載されている分類図を用いて分類することができる。
【0019】
本明細書では、「ウキクサ小塊(nodule)」という用語は、細胞の少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%が分化細胞であるウキクサ細胞を含むウキクサ組織を意味する。本明細書では、「分化細胞」とは、未分化細胞又は別の組織型に存在する細胞から識別する根拠となる少なくとも1種の表現型の特徴(例えば、特有の細胞形態又はマーカー核酸若しくはタンパク質の発現)を有する細胞である。本明細書で記述するウキクサ小塊培養物の分化細胞は、隣接した細胞壁部分で融合した互いに連結した細胞からなるタイル状の滑らかな表面を形成し、葉状体原基へと組織化を始めた小塊が組織全体に散在している。小塊培養物の組織表面は、原形質連絡によって互いにつながった表皮細胞を有する。
【0020】
本明細書では、ヌクレオチド配列に関する「作動可能に連結した」という用語は、互いにとって機能的な関係で配置された複数のヌクレオチド配列を意味する。通常、作動可能に連結したDNA配列はリーディングフレーム中で近接しており、2つのタンパク質コード領域を結合するのに必要な場所にある。例えば、発現制御配列が目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列の転写を調節する位置にあるとき、この発現制御配列は、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列に作動可能に連結している。別の例では、標的ヌクレオチド配列が、標的ゲノム配列中の標的部位と相同的に再結合でき、その結果、発現カセットが標的ゲノム配列に導入されるように配置されているとき、この標的ヌクレオチド配列は、発現カセットに作動可能に連結している。
【0021】
本明細書では、「ウキクサのプラストムに対して非相同」とは、組み込み先の受容プラストムにとって本来のものではないヌクレオチド配列を意味する。
【0022】
A 色素体
本発明で形質転換するウキクサの色素体は、どんな細胞型に由来するものでもよく、また、分化した状態であっても未分化の状態であってもよい。使用してよいウキクサの色素体の例としては、未分化の原色素体、アミロプラスト、有色体、葉緑体、黄色体、及び白色体が挙げられる。
【0023】
色素体は、プラストムと呼ばれる独自のゲノムを含む。一般に、個々の色素体は多数のプラストム、最も一般的には色素体1個当たり50〜100個のプラストムを含む。本発明の核酸分子を用いて形質転換できるプラストムを「受容プラストム」と呼び、非相同なヌクレオチド配列によって形質転換された受容プラストムを「トランスプラストミックな」と呼ぶ。いくつかの実施形態では、トランスプラストミックな色素体のプラストムのすべては実質的に同一である。即ち、それらはすべて、形質転換を起こす核酸分子のコード領域を含み、好ましくは関連した任意の発現制御配列、又はコード配列の発現を促進する任意の発現制御配列の少なくとも十分な量を含む。このようなトランスプラストミックな色素体、並びにこのような色素体を含有する細胞及び植物を、「ホモトランスプラストミックな」と呼ぶ。
【0024】
いくつかの実施形態では、トランスプラストミックな色素体は、非相同なヌクレオチド配列によって安定に形質転換される。非相同なヌクレオチド配列が一定の期間検出可能であるとき、ウキクサの色素体の安定な形質転換が示されており、このことは、非相同なヌクレオチド配列がプラストムによって保持されていることを示唆している。組換えを検出する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、非相同なヌクレオチド配列を検出できるプローブを用いるサザン分析、又はPCRによる導入遺伝子の増幅が挙げられる。
【0025】
B 色素体形質転換ベクター
1 発現カセット
本発明によれば、発現カセットの内部に含まれた目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含む色素体形質転換ベクターを用いて形質転換することによって、形質転換されたウキクサの色素体を得ることができる。この発現カセットは、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列に作動可能に連結した発現制御配列を含む。本発明のいくつかの実施形態では、ウキクサの色素体中に導入される核酸分子は、2種以上の発現カセットを含み、各発現カセットが、少なくとも1種の目的ポリペプチドをコードしている。
【0026】
発現制御配列は、1種又は複数のプロモーター配列、1種又は複数のエンハンサー配列、或いはプロモーター配列及びエンハンサー配列の双方を含んでもよい。発現制御配列は、目的のヌクレオチド配列に対して本来のものでも、外来のものでもよい。「本来の」とは、その発現制御配列が、野生型ゲノムにおいて、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列に作動可能に連結していることを意味する。「外来の」とは、その発現制御配列が、野生型ゲノムにおいては、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列に作動可能に連結していないことを意味する。
【0027】
発現制御配列は、ウキクサの色素体において配列の転写を促進できるものである限り、どんな生物に由来するものでもよい。植物色素体プロモーターの例としては、それだけには限らないが、psbA遺伝子、rbcL遺伝子、又はatpB rRNA由来のプロモーター、並びにタバコ由来の16S rRNAプロモーター配列などのrRNAプロモーターが挙げられる。Boyton et al. (1988) Nature 240:1534-1538、Daniell et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:88-92、及びSriramn et al. (1998) Plant Physiol.117:1495-1499を参照のこと。これらの文献はすべて、その全体を本明細書に参照により組み込む。例示的なプロモーターとして、それだけには限らないが、Zurawski et al. (1981) Nucleic Acids Res. 9:3251-3270、Zurawski et al. (1982) 79:7699-7703、Krebbers et al. (1982) Nucleic Acids Res. 10:4985-5002、Mullet et al. (1985) Plant Molec. Biol. 4:39-54、Hanley-Bowdoin and Chua (1989), Mol. Gen. Genet. 215:217-24、 Svab et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8526-8530、及びSvab and Maliga (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:913-17で記載されているものも挙げられる。これらの文献は、その全体を参照により本明細書に組み込む。本発明の発現制御配列は、組換え技術又は他の合成手段によって作製してもよい。例えば、本明細書に参照により組み込むNCBIアクセッション番号AJ276677及びABA276676を参照のこと。
【0028】
発現制御配列は、所望のレベルの調節を行うように選択してよい。例えば、一部の場合では、特定の環境刺激に応答して活性化される発現制御配列(例えば、熱ショック遺伝子のプロモーター、乾燥誘導性遺伝子のプロモーター、病原体誘導性遺伝子のプロモーター、傷害誘導性遺伝子のプロモーター、及び光誘導性遺伝子/暗所誘導性遺伝子のプロモーター)、或いは植物の成長調節因子(例えば、アブシジン酸、オーキシン、サイトカイニン、及びジベレリン酸によって誘導される遺伝子に由来するプロモーター)を使用することが有利なことがある。例えば、光によってその発現が調節される遺伝子の発現制御配列を使用して、光によって調節される発現を実現することができる。このような遺伝子の例としては、SSU又はクロロフィルA/B結合タンパク質遺伝子が挙げられる。例えば、Shiina et al (1997) Plant Physiol. 115:477-483、及びEilenberg et al. (1998) Planta 206:204-14を参照のこと。これらの文献は、その全体を本明細書に参照により組み込む。
【0029】
他の誘導性プロモーターも、本発明で使用してよい。例えば、その全体を参照により本明細書に組み込む米国特許第5925806号を参照のこと。この特許は、色素体ゲノム内部に組み込まれた導入遺伝子の発現を誘導するための系を記載している。この方法は、構成的プロモーター又は誘導性プロモーターの制御下で、ウイルスのRNAポリメラーゼをコードする配列を用いて植物の核を形質転換するステップと、そのウイルスのRNAポリメラーゼに特異的なプロモーターに作動可能に連結した導入遺伝子をこの植物の色素体に導入するステップとを含む。次いで、植物の核中のウイルスRNAポリメラーゼ遺伝子の発現を誘導することにより、色素体導入遺伝子の発現を誘導することができる。
【0030】
ウキクサの色素体において転写を指示する他のプロモーターを、当技術分野で既知の技術によって特定することができる。例えば、候補のプロモーター配列を、発現制御配列を欠いたマーカー配列の隣に挿入し、次にこの発現カセットを用いてウキクサの色素体を形質転換させてよい。次に、マーカー配列の発現レベルを用いて、ウキクサの色素体中のプロモーターの強度を決定することができる。ヌクレオチド配列の転写効率を高める方法は、当技術分野で既知である。このような方法には、例えば、発現カセット中に並べて挿入した複数のプロモーターの使用及び発現カセットへのエンハンサー配列の追加が含まれる。
【0031】
発現カセットは、転写終結配列を含んでもよい。本発明によれば、当技術分野で既知の任意の適切な終結配列を使用してよい。終結領域は、転写開始領域にとって本来のものでも、目的ヌクレオチド配列にとって本来のものでも、別の供給源に由来するものでもよい。例示的な転写終結配列として、psbA終結配列及びrps16終結配列が挙げられる。他の適切な終結配列は、当業者には明らかであろう。
【0032】
発現カセットは、プラストム中に組み込むために標的とされる複数のコード配列を含んでよい。いくつかの実施形態では、各核酸配列は、1種又は複数の発現制御配列及び転写終結配列に作動可能に連結されることになる。別法として、複数の発現カセットを提供してもよい。
【0033】
色素体形質転換ベクターは、通常、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含む発現カセットを含んでいる。この目的ポリペプチドは、任意のポリペプチド、例えばインスリン、成長ホルモン、α−インターフェロン、β−インターフェロン、β−グルコセレブロシダーゼ、β−グルコロニダーゼ、網膜芽細胞腫タンパク質、p53タンパク質、アンギオスタチン、レプチン、エリスロポエチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、プラスミノーゲン、モノクローナル抗体、抗原結合性(Fab)フラグメント、サイトカイン、レセプター、ヒトワクチン、動物ワクチン、植物ポリペプチド、ペプチド、及び血清アルブミンでよい。本発明は、どの特定の目的ポリペプチドの発現にも限定されない。
【0034】
いくつかの実施形態では、多量体タンパク質(例えば、モノクローナル抗体、ヘモグロビン、P450オキシダーゼ、及びコラーゲンなど)が産生されるように、ウキクサのプラストムを操作する。ウキクサで生体活性のある多量体タンパク質を生成するための1つの例示的な方法では、ポリペプチドサブユニットのすべてをコードする遺伝子を含む葉緑体形質転換ベクターを使用する。例えば、During et al. (1990) Plant Mol. Biol. 15:281及びvan Engelen et al. (1994) Plant Mol. Biol. 26:1701を参照のこと。次に、本明細書の他の場所で記述する方法を用いて、ウキクサのプラストム中にこのベクターを導入する。この方法により、多量体タンパク質を組み立てるのに必要なポリペプチドのすべてを発現する、クローン性のウキクサ細胞系統又は植物系統が得られる。一部の場合では、例えば、工業的又は化学的方法にとって、或いは診断、治療、又はワクチン接種の各目的のために、形質転換したウキクサ植物又はウキクサ小塊培養物中に、多量体タンパク質の全サブユニットの一部、又は1つのタンパク質サブユニットだけを生成することが望ましいこともある。
【0035】
いくつかの実施形態では、色素体形質転換ベクターは、形質転換された細胞又は組織を選択するのに使用できる選択マーカーポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含む発現カセットを含む。マーカーポリペプチドには、抗生物質抵抗性を与えるポリペプチド、並びに除草性化合物に対する抵抗性を与えるポリペプチドが含まれる。除草剤抵抗性遺伝子は、一般に、除草剤に非感受性な改変された標的タンパク質、或いは植物中で除草剤が作用可能になる前にそれを分解又は解毒する酵素をコードしている。DeBlock et al. (1987) EMBO J.6:2513、DeBlock et al.(1989) Plant Physiol. 91:691、Fromm et al. (1990) BioTechnology 8:833、及びGordon-Kamm et al. (1990) Plant Cell 2:603を参照のこと。例えば、グリホスファート又はスルホニル尿素系除草剤に対する抵抗性は、突然変異標的酵素、即ち5−エノールピルビルシキミ酸−3−リン酸シンターゼ(EPSPS)及びアセト乳酸シンターゼ(ALS)をコードする遺伝子を用いることによって得られた。グルホシナートアンモニウム、ボロモキシニル、及び2,4−ジクロロフェノキシ酢酸塩(2,4−D)に対する抵抗性は、それぞれの除草剤を解毒するホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ、ニトリラーゼ、又は2,4−ジクロロフェノキシ酢酸モノオキシゲナーゼをコードする細菌遺伝子を用いることによって得られた。
【0036】
本発明の目的において、マーカー配列には、それだけには限らないが、アミノグリコシド3’−アデニリルトランスフェラーゼ(例えば、Svab and Maliga (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:913-917を参照のこと)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(Fraley et al. (1986) CRC Critical Reviews in Plant Science 4:1)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼIII、シアナミドヒドラターゼ(Maier-Greiner et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:4250)、アスパラギン酸キナーゼ、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(Perl et al. (1993) BioTechnology 11:715)、bar遺伝子(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100:1503、Meagher et al. (1996) Crop Sci. 36:1367)、トリプトファンデカルボキシラーゼ(Goddijn et al. (1993) Plant Mol. Biol. 22:907)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(NEO、Southern et al. (1982) J. Mol. Appl. Gen. 1:327)、ヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HPT又はHYG、Shimizu et al. (1986) Mol. Cell. Biol. 6:1074)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR、Kwok et al. (1986) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:4552)、ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ(DeBlock et al. (1987) EMBO J. 6:2513)、2,2−ジクロロプロピオン酸デハロゲナーゼ(Buchanan-Wollatron et al. (1989) J Cell. Biochem. 13D:330)、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(米国特許第4761373号(Anderson et al.); Haughn et al. (1988) Mol. Gen. Genet. 221:266)、5−エノールピルビルシキミ酸−リン酸シンターゼ(aroA、Comai et al. (1985) Nature 317:741)、ハロアリールニトリラーゼ(国際公開第87/04181号(Stalker et al.))、アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ(Parker et al.(1990) Plant Physiol. 92:1220)、ジヒドロプテロイン酸シンターゼ(sulI、Guerineau et al.(1990) Plant Mol. Biol. 15:127)、及び32kDaの光化学系IIポリペプチド(psbA、Hirschberg et al.(1983) Science 222:1346 (1983))をコードしているヌクレオチド配列が含まれる。
【0037】
また、ゲンタマイシン(例えばaacC1、Wohlleben et al. (1989) Mol. Gen. Genet. 217:202-208)、クロラムフェニコール(Herrera-Estrella et al. (1983) EMBO J. 2:987)、メトトレキサート(Herrera-Estrella et al. (1983) Nature 303:209; Meijer et al. (1991) Plant Mol. Biol. 16:807)、ヒグロマイシン(Waldron et al. (1985) Plant Mol. Biol. 5:103; Zhijian et al. (1995) Plant Science 108:219; Meijer et al. (1991) Plant Mol. Bio. 16:807)、ストレプトマイシン(Maliga et al. (1973) Nature 255:401-402; Etzold et al. (1987) FEBS Lett. 219:343-346、及びFromm et al. (1989) Plant Mol. Biol. 12:499-505)、スペクチノマイシン(Fromm et al. (1987) EMBO J 6:3233-3237)、リンコマイシン(Cseplo and Maliga (1984) Mol. Gen. Genet. 196:407-412; Cseplo et al. (1988) Mol. Gen. Genet. 214:295-299)、ブレオマイシン(Hille et al. (1986) Plant Mol. Biol. 7:171)、スルホンアミド(Guerineau et al. (1990) Plant Mol. Bio. 15:127)、ブロモキシニル(Stalker et al. (1988) Science 242:419)、2,4−D(Streber et al. (1989) BioTechnology 7:811)、ホスフィノトリシン(DeBlock et al. (1987) EMBO J. 6:2513)、スペクチノマイシン(Bretagne-Sagnard and Chupeau、Transgenic Research 5:131)に対する抵抗性をコードしている遺伝子も含まれる。
【0038】
bar遺伝子は、ホスフィノトリシン(PPT)やビアラホスなどのグルホシナート型除草剤に対する除草剤抵抗性を与える。上述したように、ベクター構築物で使用することができる他の選択マーカーには、それだけには限らないが、ビアラホス及びホスフィノトリシン抵抗性のためのpat、イミダゾリノン抵抗性のためのALS、ヒグロマイシン抵抗性のためのHPH又はHYG、グリホサート抵抗性のためのEPSPシンターゼ、Hc毒素に対する抵抗性のためのHm1、オキシフルオルフェンなどのジフェニルエーテル(DPE)系除草剤に対する抵抗性のためのプロトホリイノゲン(protophoryinogen)オキシダーゼ及びその変異体、並びに常法として使用され当業者には既知である他の選択剤が含まれる。Yarranton (1992) Curr. Opin. Biotech. 3:506、Chistopherson et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:6314、Yao et al. (1992) Cell 71:63、Reznikoff (1992) Mol. Microbiol. 6:2419、Barkley et al. (1980) The Operon 177-220、Hu et al. (1987) Cell 48:555、Brown et al. (1987) Cell 49:603、Figge et al. (1988) Cell 52:713、Deuschle et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:5400、Fuerst et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2549、Deuschle et al. (1990) Science 248:480、Labow et al. (1990) Mol. Cell. Biol. 10:3343、Zambretti et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3952、Baim et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:5072、Wyborski et al. (1991) Nuc. Acids Res. 19:4647、 Hillenand-Wissman (1989) Topics in Mol. And Struc. Biol. 10:143、Degenkolb et al. (1991) Antimicrob. Agents Chemother. 35:1591、 Kleinschnidt et al. (1988) Biochemistry 27:1094、Gatz et al. (1992) Plant J. 2:397、Gossen et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547、Oliva et al. (1992) Antimicrob. Agents Chemother. 36:913、Hlavka et al. (1985) Handbook of Experimental Pharmacology 78、Gill et al. (1988) Nature 334:721、米国特許第6282837号、米国特許第6288306号、米国特許第5767373号、国際公開第0112825号、及び米国特許出願公開第20010016956号を参照のこと。これらの開示は、本明細書に参照により組み込む。
【0039】
本発明で使用するためのマーカーポリペプチドの別の例は、ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ(BADH)である。この酵素は、毒性のベタインアルデヒドを浸透性保護剤である非毒性のグリシンベタインへと変換する反応を触媒する。Daniell H. et al. (2001) Current Genetics 39:109-16を参照のこと。
【0040】
選択マーカー配列の上記のリストは、これらに限定することを意図していない。任意の選択マーカー配列を本発明で使用することができる。
【0041】
本発明は、ウキクサでの発現を高めるために、発現されるヌクレオチド配列を改変することを提供する。このような改変の1つは、色素体優先コドンを用いた、目的ヌクレオチド配列の合成である。例えば、一部の場合では、アデニン/チミン含有率が50%を超える導入遺伝子の方が、アデニン/チミン含有率がそれより低い導入遺伝子より効率的に色素体中で発現されることが示されている。例えば、本明細書に参照により組み込む米国特許第5545817号を参照のこと。コドンの使用量を変更したヌクレオチド配列を合成するために、当技術分野の方法を利用できる。例えば、本明細書に参照により組み込む米国特許第5380831号、米国特許第5436391号、Perlak et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 15:3324、Iannacome et al. (1997) Plant Mol. Biol. 34:485、及びMurray et al., (1989) Nucleic Acids. Res. 17:477を参照のこと。さらに、遺伝子配列のすべて又は任意の一部分を最適化しても合成してもよいことが認識されている。言い換えると、完全に最適化又は部分的に最適化した配列も使用することができる。ウキクサでの発現を高めるために、目的ヌクレオチド配列に他の改変を加えることもできる。これらの改変には、それだけには限らないが、偽のポリアデニル化シグナルをコードしている配列、トランスポゾン様の繰り返し配列、及び遺伝子発現に有害な可能性がある十分に特徴が明らかな他の配列の除去が含まれる。可能なら、予測されるmRNAのヘアピン二次構造を避けるように配列を改変してよい。
【0042】
2 標的ヌクレオチド配列
本発明の色素体形質転換ベクターは、それぞれがウキクサのプラストム配列に相同である、第1及び第2の標的ヌクレオチド配列を含む。これらの標的ヌクレオチド配列は、発現カセットの両側に位置し、プラストムに導入される色素体形質転換ベクターの領域の5’末端及び3’末端の境界を定めている。標的ヌクレオチド配列により、相同組換えによる受容プラストム中への発現カセットの挿入が可能となる。
【0043】
標的配列は、受容プラストムの領域に相同である。通常、発現カセットの両側に位置する標的ヌクレオチド配列は、受容プラストムの標的領域に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%同一であり、受容プラストムと相同的に再結合することができる。
【0044】
配列の比較、並びに2種の配列間の一致率及び類似率の決定は、数学アルゴリズムを用いて行うことができる。本発明では、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムにより、BLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff et al. (1989) Proc.Natl. Acad. Sci. USA 89:10915を参照のこと)並びにギャップの重み40、50、60、70、又は80、及び長さの重み1、2、3、4、5、又は6を用いて2種のヌクレオチド配列間の一致率を決定する。
【0045】
第1及び第2の標的ヌクレオチド配列は、受容プラストムの同一領域、重複領域、隣接領域、又は異なる領域に相同でよい。標的配列は、受容プラストムの任意の領域、例えば遺伝子、偽遺伝子、又は遺伝子間配列を含む領域に相同でよい。目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列が、ウキクサプラストムにとって本来の1種又は複数の発現制御配列に作動可能に連結されるような具合にプラストムに組み込まれるように、標的配列を設計することができる。この実施形態では、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列の発現を推進するために本来の発現制御配列を使用することができる。別の実施形態では、標的ヌクレオチド配列の一方又は双方が、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列の発現を推進するのに使用できる1種又は複数の発現制御配列を含んでよい。
【0046】
標的ヌクレオチド配列は、受容プラストムとの相同組換えが可能となるのに十分であるならどんな長さでもよい。一部の場合では、ヌクレオチド長100未満のヌクレオチド配列を含む標的ヌクレオチド配列が、組換えを起こすのに十分となることがある。他の実施形態では、標的ヌクレオチド配列がより長い方が、より効率的に相同組換えを起こすことができる。このような標的ヌクレオチド配列は、長さが少なくとも200、300、400、500、600、700、800、又は900ヌクレオチドでもよく、或いは、少なくとも1000以上のヌクレオチドでもよい。
【0047】
本発明は、コウキクサの葉緑体ゲノムの16S〜23S rRNA領域の配列を提供する。このヌクレオチド配列を、SEQ ID NO:3に示す。いくつかの実施形態では、標的ヌクレオチド配列は、この配列の少なくとも200、300、400、500、600、700、800、又は900ヌクレオチド、或いは少なくとも1000、1500、2000、2500、又は3000以上のヌクレオチドに相同である。しかし、本発明の標的ヌクレオチド配列は、どのウキクサのプラストム配列に相同でもよい。標的配列として使用できる遺伝子間領域のさらなる非限定的な例には、tRNAGlu(trnE)からtRNAThr(trnT)までの領域、trnEからtRNATyr(trnY)まで、trnYからtRNAAsp(trnD)までの領域、rps8からrps14までの領域、リブロース−1,5−二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ大サブユニット(rbcL)からアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ(accD)のβサブユニットまでの領域、シトクロムb(559)の大サブユニットポリペプチド(psbE)からシトクロムf(petA)までの領域、tRNAGly(trnG)からtRNAMet(trnM)までの領域、psbAからtRNAHis(trnH)までの領域、tRNAVal(trnV)から16srRNAまでの領域、trnVからrps7/rps12までの領域、並びにウキクサプラストムの非必須遺伝子内の領域が含まれる。
【0048】
C 形質転換方法
本発明のトランスプラストミックなウキクサ細胞及び植物は、ウキクサのプラストムに非相同なヌクレオチド配列によりウキクサの色素体を形質転換することによって作製する。ランダム挿入、又は部位特異的組み込み(例えば、相同組換え)によって、非相同なヌクレオチド配列を挿入することができる。非相同なヌクレオチド配列を、単離した色素体中に挿入しても、in vivoで色素体に形質転換させてもよい。形質転換された色素体を使用して、in vivo又はex vivoで非相同なヌクレオチド配列を発現させることができる。
【0049】
色素体の形質転換は、任意の適切な形質転換法によって、例えば、植物プロトプラストのエレクトロポレーション(Taylor and Walbot (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:5824-28を参照のこと)、PEG法(Golds et al. Biotechnology 11:95-97を参照のこと)、マイクロインジェクション(Neuhas et al. (1987) Theor. Appl. Genet. 74:30-36を参照のこと)によって、又はパーティクルガン(Boynton et al. (1988) Science 240:1534-38、Svab et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. 87:8526-8530、Svab and Maliga (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. 90:913-917、及び米国特許第5451513号、米国特許第5545817号、米国特許第5545818号、米国特許第5576198号、米国特許第5866421号を参照のこと。これらの文献はすべて、その全体を参照により本明細書に組み込む)によって、実現することができる。
【0050】
パーティクルガンによるウキクサ核の形質転換は、本明細書に参照により組み込む米国特許第6040498号に記載されている。本発明の実施形態では、この撃ち込み銃による形質転換法は、(a)標的としてウキクサ組織を提供するステップと、(b)葉緑体形質転換ベクターを担持した微小発射体を、組織内の細胞壁を貫通し、組織の細胞内部にヌクレオチド配列を付着させ、それによって形質転換された組織を得るのに十分な速度でウキクサ組織に向かって撃ち込むステップとを含む。本発明の特定の実施形態では、この方法は、後述するように、形質転換された組織を選択剤とともに培養するステップをさらに含む。別の代替実施形態では、選択ステップの後に、形質転換された組織から形質転換されたウキクサ植物を再生するステップを行う。
【0051】
本発明を実施する際は、任意の撃ち込み銃による細胞形質転換装置を使用してもよい。例示的な装置は、Sanford et al. (1988) Particulate Science and Technology 5:27、Klein et al. (1987) Nature 327:70、並びに米国特許第4945050号、米国特許第5036006号、米国特許第5100792号、米国特許第5179022号、米国特許第5204253号、米国特許第5371015号、及び米国特許第5478744号で開示されている。これらの文献はすべてその全体を参照により本明細書に組み込む。このような装置は、通常、発射の際に使用する圧力をコントロールすることができる。本発明の方法で使用する圧力は、通常、約500psi〜約2500psi、例えば約1100psi〜約2200psiである。
【0052】
ヌクレオチド配列は、沈殿によって微小担体粒子表面に固定化することができる。使用する正確な沈殿パラメーターは、当技術分野で知られているように、使用する粒子加速手順などの因子に応じて変わる。担体粒子は、場合によっては、EP0270356で論じられているように、その表面に固定化されたヌクレオチド配列の安定性を良くするために、ポリリジンなどのカプセル化剤で被覆してもよい。金及びタングステンを含めて、どの微小担体を本発明で使用してもよい。微小担体のサイズは、通常約0.6μm〜約1.6μmである。
【0053】
発射の対象とする組織は、ウキクサ葉状体、ウキクサ小塊、断片化したウキクサ小塊(微細な小塊)、及び部分的に再生された小塊を含めて、どんなウキクサ細胞又は組織でもよい。ウキクサ小塊、微細な小塊、及び部分的に再生された小塊を作製する方法は、米国特許第6040498号、米国特許出願第09/915873号、及び米国特許出願第10/158243号に記載されている。これらの文献はすべて、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0054】
トランスプラストミックなウキクサ細胞又は組織小塊を、トランスプラストミック又はホモトランスプラストミックな植物に再生することができる。形質転換されたウキクサ組織からウキクサ植物を再生する方法は、米国特許第6040498号、米国特許出願第09/915873号、及び米国特許出願第10/158243号に記載されている。これらの文献はすべて、その全体を参照により本明細書に組み込む。形質転換されたウキクサ葉状体を小塊培養物から再生する方法も、本明細書の別の場所で記述する。
【0055】
様々な選択プロトコールを本発明で使用してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、形質転換された葉状体又は小塊を、選択プロセスの一部では暗所で維持し、次に明所に移してもよい。他の実施形態では、選択プロセス全体を通じて、葉状体又は小塊を明所で維持する。
【0056】
いくつかの実施形態では、未分化の状態を維持する培地上で、形質転換された葉状体又は小塊の選択を行い、次にその植物を、葉状体の再生を誘導する培地へと移す。一方、他の実施形態では、葉状体の再生を誘導する培地上で、選択プロセス全体を行う。
【0057】
いくつかの実施形態では、形質転換されたウキクサの色素体、並びにトランスプラストミックなウキクサ植物及び細胞は、ホモプラストミックである。選択マーカーポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を用いてウキクサの色素体を形質転換し、次にそのマーカーポリペプチドを発現するウキクサ細胞が生き残ることができる選択培地中でそのトランスプラストミックなウキクサ植物又は細胞を維持することによって、ホモプラストミックの細胞及び植物を作製することができる。一実施形態では、選択培地は、ホモプラストミックなウキクサ細胞、或いは、実質的にすべての色素体が選択マーカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列によって形質転換されており、又は選択マーカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列についてホモプラストミックであるウキクサ細胞のみが増殖できるものである。ホモプラストミックであり、又は、実質的にすべての色素体がマーカーポリペプチドをコードする配列によって形質転換されているウキクサ植物又は細胞を作製するために、複数回の選択が必要となることがある。トランスプラストミックなウキクサ細胞又は植物がホモプラストミックであるどうか決定するために、サザン分析又はPCR分析を実施することができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、マーカーポリペプチドによって与えられるマーカー表現型について選択することによって、マーカーポリペプチドをコードする配列が結合されている第2のコード配列を有するウキクサ細胞を選択することが可能となる。この第2のコード配列は、通常、目的ポリペプチドをコードしており、この目的ポリペプチドを作製するのに、選択したウキクサ細胞を使用することができる。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、限定するためではなく、例示するために提供する。
【0060】
ウキクサの葉緑体形質転換ベクター
ウキクサの葉緑体を形質転換するためのベクターを構築した。このベクターは、ウキクサの葉緑体ゲノムの16S〜23S rRNA領域中の部位と相同組換えを起こすように設計された配列を含んだ(図1を参照のこと)。ウキクサの葉緑体ゲノムとの相同組換えを促進するのに使用する配列を、以下のようにして特定した。タバコ、トウモロコシ、コメ、シロイヌナズナ、及びホウレンソウの葉緑体ゲノムから得た16S〜23S rRNA領域を整列させ、配列同一性が高レベルである領域を決定した。整列させたときに特定した保存領域に基づき、ウキクサの葉緑体ゲノムの16S〜23S領域を増幅するためにPCRプライマーを設計した。これらのPCRプライマーの配列を以下に示す。
プライマー167:5'GCTGGTCCGAGAGGATGATC3'(SEQ ID NO:1)
プライマー166:5'GTTATAGTTACGGCCGCCGT3'(SEQ ID NO:2)
標準条件を用いて、コウキクサのゲノムDNAにPCRを実施した。得られた5.4kbのPCR生成物をpT7ブルーベクター(Novagen社製(登録商標)、マディソン、ウィスコンシン州)中にクローニングして、プラスミドpBCT00を作製した。次に、PCR生成物全体の配列を決定し、ウキクサの葉緑体ゲノムの16S〜23S領域であることを確認した。このPCR生成物の配列を、SEQ ID NO:3に示す。ウキクサゲノムのこの領域は、16S rRNA遺伝子、tRNAイソロイシン遺伝子(trnI)、tRNAアラニン遺伝子(trnA)、及び23S rRNA遺伝子を含んでいる。
【0061】
trnI遺伝子とtrnA遺伝子の間の遺伝子間領域に導入遺伝子を組み込むことを目標とするベクターを設計した。以下のようにして、ウキクサの葉緑体ゲノム中に組換えられるための相同領域が両側にある導入遺伝子と選択マーカーカセットとを含む、ウキクサの葉緑体形質転換ベクターを構築した。前述のようにして得たウキクサゲノム配列に基づき、ウキクサの16S〜23S rRNA領域に由来する2.5kbの断片を増幅するために、PCRプライマーを設計した。これらのプライマーの配列を以下に示す。
プライマー207:5'ACAAGGTAGCCGTACTGGAAGGTGCGGCTG3'(SEQ ID NO:4)
プライマー203:5'TTCAACTCCCCGAAGCATTTCGTC3'(SEQ ID NO:5)
標準条件を用いて、コウキクサのゲノムDNAにPCRを実施した。このPCR生成物を増幅させ、pT7ブルーベクター(Novagen社製(登録商標)、マディソン、ウィスコンシン州)中にクローニングした。
【0062】
ベクターpBCT01を作製するために、RbcLリボソーム結合部位(SEQ ID NO:7で示す)、アミノグリコシド3’’−アデニリルトランスフェラーゼ(aadA)遺伝子、及びタバコpsbA 3’UTR(SEQ ID NO:8で示す)と共にタバコ16S rRNAプロモーター(SEQ ID NO:6で示す)を含んでいるスペクチノマイシン/ストレプトマイシン選択マーカーカセット(NCBIアクセッション番号AF061065)を、PstI/NsiIを用いてクローニングし、ウキクサのtrnI及びtrnAの間の遺伝子間領域でpBCT00中に挿入して、プラスミドを作製した。pCBT04プラスミドの概略図を図2に示す。
【0063】
ベクターpBCT04を作製するために、RbcLリボソーム結合部位(SEQ ID NO:7で示す)、アミノグリコシド3’’−アデニリルトランスフェラーゼ(aadA)遺伝子、及びタバコpsbA 3’UTR(SEQ ID NO:8で示す)と共にタバコ16S rRNAプロモーター(SEQ ID NO:6で示す)を含んでいるカナマイシン選択マーカーカセットを、PstI/NsiIを用いてクローニングし、ウキクサのtrnI及びtrnAの間の遺伝子間領域でpBCT00中に挿入して、プラスミドを作製した。アミノグリコシド3’−ホスホトランスフェラーゼ(NCBIアクセッション番号P00554)をコードしている遺伝子をPCRで増幅し、それをRbcL結合部位を伴うタバコ16S rRNAプロモーターの下流且つタバコpsbA3’UTRの上流に結合させることによって、このカナマイシン選択マーカーカセットを作製した。このカセットをウキクサのtrnI及びtrnAの間の遺伝子間領域のPstI部位中にクローニングして、ベクターpBCT04を作製した。pBCT04プラスミドの概略図を図4に示す。
【0064】
ウキクサ小塊の調製
これらの実施例ではコウキクサの8627系統を形質転換に使用したが、任意のウキクサ系統を使用することができる。以下のようにして、形質転換用のウキクサ小塊培養物を調製した。ウキクサ葉状体を切り離し、滅菌メスで根を切除し、この葉状体を、腹側が下になるように、5μMの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、0.5μMの1−フェニル−3(1,2,3−チアジアゾール−5−イル)尿素チジアズロン(Sigma社製、P6186)、3%スクロース、0.4Difco Bacto寒天(Fisher Scientific社製)、及び0.15%ゲルライト(Gelrite)(Sigma社製)を補充したpH5.6のMurashigeとSkoogの培地(MS培地、Murashige and Skoog (1962) Physiol. Plant. 15:473)上に播いた。葉状体を5〜6週間培養した。このとき、小塊(黄色がかった小さな細胞の塊)が、通常腹側の中心部から生じた。この組織小塊の断片(平均サイズは直径3〜6mm)を母葉状体から切り離し、3%スクロース、0.4%Difco Bacto寒天、1μMの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、及び2μMのベンジルアデニンを補充したMS培地中で培養した。
【0065】
パーティクルガンによるウキクサ小塊の葉緑体形質転換
製造業者の取扱い説明書に従って、QIAGEN Maxi-Prepキット(QIAGEN社製、バレンシア、カリフォルニア州)を用いて精製pBCT01 DNA及びpBCT04 DNAを調製し、金微小担体(0.6μm、Bio-Rad Laboratories社製、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)をこの精製DNAでコーティングした。パーティクルガンを実施する前に、約50個のウキクサ小塊(直径約0.5〜10mm)を、MS培地(pBCTO1用)、又は5μMの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、0.5μMの1−フェニル−3(1,2,3−チアジアゾール−5−イル)尿素チジアズロン、3%スクロース、0.4Difco Bacto寒天、及び0.15%ゲルライトを補充したMS培地(pBCT04用)を入れたペトリ皿の中心に播いた。製造業者のプロトコールに従い、標的距離9cm、ヘリウム圧1100〜2200、真空度28インチの条件で、Bio-Rad社製のBio-Rad PDS-1000/He微粒子銃装置(PDS-1000/He、Bio-Rad社製、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を用いて、小塊に対して2回発射を行った。
【0066】
pBCT01の場合は、撃ち込み実施後、暗所で48時間、MS培地上で小塊を培養した。次に、25μg/mlの二塩酸スペクチノマイシンを含有するMS培地に小塊を移し、2週間連続光下で栽培した(pBCT01の場合)。次に、25μg/mlのスペクチノマイシンを含有する0.5×SH培地に小塊を移し、連続光下で栽培した。1週間に1度、新鮮な培地に小塊を移した。0.5×SH培地上で6〜8週間後、小塊から葉状体組織が発生し始めた。
【0067】
pBCT04の場合は、5μMの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、0.5μMの1−フェニル−3(1,2,3−チアジアゾール−5−イル)尿素チジアズロン、3%スクロース、0.4Difco Bacto寒天、及び0.15%ゲルライトを補充したMS培地上で、撃ち込み実施後48時間、暗所で小塊を培養した。次に、5μMの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、0.5μMの1−フェニル−3(1,2,3−チアジアゾール−5−イル)尿素チジアズロン、3%スクロース、0.4Difco Bacto寒天、0.15%ゲルライト、及び50μg/mlのカナマイシンを補充したMS培地に小塊を移し、4週間維持し、次いで5μMの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、0.5μMの1−フェニル−3(1,2,3−チアジアゾール−5−イル)尿素チジアズロン、3%スクロース、0.4Difco Bacto寒天、0.15%ゲルライト、及び100μg/mlのカナマイシンを補充したMS培地に移してさらに4週間維持した。次に、小塊を100μg/mlのカナマイシンを含む0.5×SH培地に播き、葉状体が再生されるまで8〜12週間培養した。
【0068】
パーティクルガンによるウキクサ葉状体の葉緑体形質転換
ウキクサ葉状体を形質転換するために、約30個のウキクサ葉状体を0.5×SH培地上の1枚の5番ワットマン紙の中心に播き、前述したようにウキクサ小塊に対して発射した。撃ち込み実施後、0.5×SH培地で48時間、葉状体を暗所培養し、次に3%スクロース、0.4%Difco Bacto寒天、0.15%ゲルライト、1μMの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、2μMのベンジルアデニン、及び50μg/mlのカナマイシンを補充したMurashigeとSkoogの培地に移した。組織小塊が得られるまで、葉状体を週に1度新鮮な培地に移して6〜8週間培養した。組織小塊を100μg/mlのカナマイシンを含む0.5×SHに移し、葉状体が再生されるまで、週に1度新鮮な培地に移して6〜10週間培養した。
【0069】
葉緑体形質転換体の分析
ウキクサの葉緑体ゲノム中にpBCT01導入遺伝子領域が組み込まれたかどうか検証するために、葉状体が発生している最中の組織小塊に対してPCRを実施した。25μg/mlのスペクチノマイシンを含むSH培地で8週間増殖させた組織を分析用に取り出した。DNA抽出キットDNeasy(QIAGEN社製、バレンシア、カリフォルニア州)を用いて組織小塊からゲノムDNAを抽出し、標準条件を用いてPCRを実施した。相同組換え部位の両側で組換えが起こっているかを検証するために、2種のプライマーセットを設計した。プライマー71及び248は、組換え部位の16S側での組換えを検証し、1796bpの生成物を増幅した。一方、プライマー210及び234は、23S側について検証し、2610bpの生成物を作製した。プライマーの位置を図3に示す。
プライマー71:5'AAAACCCGTCCTCAGTTCGGATTGC3'(SEQ ID NO:9)
プライマー248:5'CCGCGTTGTTTCATCAAGCCTTACG3'(SEQ ID NO:10)
プライマー210:5'CTGTAGAAGTCACCATTGTTGTGC3'(SEQ ID NO:11)
プライマー234:5'GGTTCGGACCTCCACTTAGT3'(SEQ ID NO:12)
【0070】
独立したウキクサ培養物の6種すべてで予想したPCR生成物が産生され、これらのサンプルのうちの2種は、特に高レベルの導入遺伝子組み込みを示していた。これらの培養物の1つから単離したPCR生成物の配列を決定し、pBCT01の導入遺伝子配列と同一であることを示した。これは、導入遺伝子とプラストムの間で相同組換えが起こったことを実証している。
【0071】
本明細書で言及したすべての刊行物及び特許出願は、本発明が関連する技術分野の技術者のレベルを示すものである。個々の刊行物又は特許出願は詳細に及び個別に参照により組み込まれることを示すのと同様に、すべての刊行物及び特許出願は、本明細書に参照により組み込まれる。
【0072】
理解を明確にするために、例示及び実施例によって、上述の発明をある程度詳しく説明してきたが、添付の特許請求の範囲内でいくらかの変更及び改変を実施してよいことは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ウキクサの葉緑体ゲノムの16S〜23S rRNA領域の概略図である。詳細については実施例の項を参照のこと。
【図2】発現ベクターpBCT01の概略図である。詳細については実施例の項を参照のこと。
【図3】pBCT01の導入遺伝子領域内のPCRプライマー71、248、210、及び234の位置を示す図である。これらのプライマーを使用して、pBCT01導入遺伝子のウキクサの葉緑体中への組み込みを確認した。詳細については実施例の項を参照のこと。
【図4】発現ベクターpBCT04の概略図である。詳細については実施例の項を参照のこと。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウキクサのプラストムに非相同な少なくとも1種のヌクレオチド配列によって形質転換された色素体を有するウキクサ植物であって、ウキクサのプラストムに非相同な前記ヌクレオチド配列が、色素体中で機能することができる発現制御配列に作動可能に連結しているウキクサ植物。
【請求項2】
ウキクサのプラストムに非相同な少なくとも1種のヌクレオチド配列が目的ポリペプチドをコードしている、請求項1に記載のウキクサ植物。
【請求項3】
目的ポリペプチドが、インスリン、成長ホルモン、α−インターフェロン、β−インターフェロン、β−グルコセレブロシダーゼ、β−グルコロニダーゼ、網膜芽細胞腫タンパク質、p53タンパク質、アンギオスタチン、レプチン、エリスロポエチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、プラスミノーゲン、モノクローナル抗体、Fabフラグメント、単鎖抗体、サイトカイン、レセプター、ヒトワクチン、動物ワクチン、植物ポリペプチド、ペプチド、及び血清アルブミンからなる群から選択される、請求項2に記載のウキクサ植物。
【請求項4】
色素体が、ウキクサのプラストムに非相同な少なくとも2種の目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列によって形質転換されている、請求項1に記載のウキクサ植物。
【請求項5】
ウキクサのプラストムに非相同なヌクレオチド配列が、植物細胞を選択するのに使用できるマーカーポリペプチドのコード配列を含む、請求項1に記載のウキクサ植物。
【請求項6】
マーカーポリペプチドが、スペクチノマイシン及びストレプトマイシンからなる群から選択される少なくとも1種の抗生物質に対する抵抗性を与える、請求項5に記載のウキクサ植物。
【請求項7】
ウキクサのプラストムに非相同な少なくとも1種のヌクレオチド配列によって形質転換されている色素体が、原色素体、アミロプラスト、有色体、葉緑体、黄色体、又は白色体からなる群から選択される、請求項1に記載のウキクサ植物。
【請求項8】
ウキクサのプラストムに非相同な少なくとも1種のヌクレオチド配列によって形質転換されている色素体が葉緑体である、請求項9に記載のウキクサ植物。
【請求項9】
色素体中で機能する発現制御配列が植物の16S rRNAプロモーター配列である、請求項1に記載のウキクサ植物。
【請求項10】
色素体中で機能する発現制御配列がタバコの16S rRNAプロモーター配列である、請求項9に記載のウキクサ植物。
【請求項11】
タバコ16S rRNAプロモーター配列が、SEQ ID NO:6で示すヌクレオチド配列である、請求項10に記載のウキクサ植物。
【請求項12】
ウキクサ植物が、ウキクサ属、ミジンコウキクサ属、ウォルフィエラ属、及びアオウキクサ属からなる群から選択される、請求項1に記載のウキクサ植物。
【請求項13】
ウキクサ植物が、コウキクサ、ヒナウキクサ、ナンゴクウキクサ、及びイボウキクサからなる群から選択される、請求項12に記載のウキクサ植物。
【請求項14】
作動可能に連結した構成要素として、以下のヌクレオチド配列、即ち
a)ウキクサのプラストム配列に相同な第1の標的ヌクレオチド配列と、
b)ウキクサのプラストムに非相同な、目的ポリペプチドをコードしている少なくとも1種のヌクレオチド配列を含む、発現カセットのヌクレオチド配列と、
c)ウキクサのプラストムの配列に相同な第2の標的ヌクレオチド配列とを
含む核酸分子。
【請求項15】
発現カセットが、目的ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列に作動可能に連結した発現制御配列をさらに含む、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
色素体中で機能する発現制御配列がタバコの16S rRNAプロモーター配列である、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項17】
タバコ16S rRNAプロモーター配列が、SEQ ID NO:6で示すヌクレオチド配列である、請求項16に記載のウキクサ植物。
【請求項18】
ウキクサ中で機能する少なくとも1種のリボソーム結合部位ヌクレオチド配列をさらに含む、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項19】
ウキクサ中で機能するリボソーム結合部位が、SEQ ID NO:7で示すタバコrbcLリボソーム結合部位ヌクレオチド配列を含む、請求項18に記載の核酸分子。
【請求項20】
転写終結配列をさらに含む、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項21】
転写終結配列が、SEQ ID NO:8で示すタバコpsbA遺伝子の3’側非翻訳領域のヌクレオチド配列である、請求項20に記載の核酸分子。
【請求項22】
少なくとも1種の目的ポリペプチドが、形質転換されたウキクサ細胞を選択するのに使用できるマーカーポリペプチドである、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項23】
マーカーポリペプチドが、ストレプトマイシン及びスペクチノマイシンから選択される抗生物質に対する抵抗性を与える、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項24】
第1及び第2の標的ヌクレオチド配列が、ウキクサのプラストム内部での相同組換えを促進することができる、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項25】
ウキクサの色素体が、ウキクサの葉緑体であり、ウキクサのプラストムが葉緑体ゲノムである、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項26】
請求項14に記載の核酸分子を含むウキクサの葉緑体。
【請求項27】
請求項26に記載の葉緑体を含むウキクサ細胞。
【請求項28】
請求項27に記載のウキクサ細胞を含むウキクサ植物。
【請求項29】
第1の標的ヌクレオチド配列及び第2の標的ヌクレオチド配列から選択される少なくとも1種のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列に相同である、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項30】
作動可能に連結した構成要素として、以下のヌクレオチド配列、即ち
a)ウキクサの葉緑体ゲノム配列に相同な第1の標的ヌクレオチド配列と、
b)ウキクサ中で機能する発現制御配列と、
c)ウキクサ中で機能するリボソーム結合部位ヌクレオチド配列と、
d)目的ポリペプチドをコードしている、ウキクサの葉緑体ゲノムに非相同なヌクレオチド配列と、
e)ウキクサ中で機能する転写終結配列と、
f)ウキクサの葉緑体ゲノム配列に相同な第2の標的ヌクレオチド配列とを
含む核酸分子。
【請求項31】
第1の標的ヌクレオチド配列及び第2の標的ヌクレオチド配列から選択される少なくとも1種のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列に相同である、請求項30に記載の核酸分子。
【請求項32】
請求項30に記載の核酸分子を含む、ウキクサの葉緑体。
【請求項33】
請求項32に記載の葉緑体を含む、ウキクサ細胞。
【請求項34】
請求項33に記載のウキクサ細胞を含む、ウキクサ植物。
【請求項35】
ウキクサのプラストムに非相同な少なくとも1種のヌクレオチド配列をウキクサの色素体中に導入する方法であって、ウキクサのプラストムに非相同な前記ヌクレオチド配列がウキクサ小塊の少なくとも1個の色素体中に導入されるような条件下で、微小発射体に吸着させた請求項14に記載の核酸分子を前記ウキクサ小塊に撃ち込むことを含む方法。
【請求項36】
ウキクサの色素体がウキクサの葉緑体である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
請求項35に記載の方法によって作製された、ウキクサのプラストムに非相同な少なくとも1種のヌクレオチド配列を含むウキクサの色素体。
【請求項38】
請求項37に記載のウキクサ色素体を含む、ウキクサ細胞。
【請求項39】
請求項38に記載のウキクサ細胞を含む、ウキクサ植物。
【請求項40】
a)ウキクサのプラストムに非相同なヌクレオチド配列がウキクサ小塊の少なくとも1個の色素体中に導入されるような条件下で、微小発射体に吸着させた請求項14に記載の核酸分子を前記ウキクサ小塊に撃ち込むステップと、
b)前記ウキクサ小塊からウキクサ植物を再生するステップとを含む、
トランスプラストミックなウキクサ植物を得るための方法。
【請求項41】
請求項40に記載の方法に従って作製されるトランスプラストミックなウキクサ植物。
【請求項42】
a)ウキクサ細胞に選択可能な表現型を与えるマーカー配列を含む、請求項14に記載の核酸分子を提供するステップと、
b)ウキクサのプラストムに非相同なヌクレオチド配列がウキクサ小塊の少なくとも1個の色素体中に導入されるような条件下で、微小発射体に吸着させた前記核酸分子を前記ウキクサ小塊に撃ち込むステップと、
c)選択可能な表現型を有するウキクサ細胞の生存を可能にする選択培地中でウキクサ小塊を維持し、それによりマーカー配列を含有しているウキクサ細胞を選択するステップと、
d)前記ウキクサ小塊からウキクサ植物を再生するステップとを含む、
安定に形質転換された色素体を含むウキクサ植物を得るための方法。
【請求項43】
選択培地が、実質的にすべての色素体が核酸分子によって形質転換されているウキクサ細胞の生存を選択的に可能にする、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
請求項42に記載の方法に従って作製されるトランスプラストミックなウキクサ植物。
【請求項45】
a)ウキクサのプラストムに非相同なヌクレオチド配列がウキクサ小塊の少なくとも1個の色素体中に導入されるような条件下で、微小発射体に吸着させた請求項14に記載の核酸分子を前記ウキクサ小塊に撃ち込むステップと、
b)目的ポリペプチドが前記核酸分子から発現されるような条件下で、ウキクサ植物を培養するステップとを含む、
目的ポリペプチドを生成するための方法。
【請求項46】
a)ウキクサのプラストムに非相同なヌクレオチド配列がウキクサ小塊の少なくとも1個の色素体中に導入されるような条件下で、微小発射体に吸着させた請求項14に記載の核酸分子を前記ウキクサ小塊に撃ち込むステップと、
b)前記ウキクサ小塊からウキクサ植物を再生するステップと、
c)目的ポリペプチドが前記核酸分子から発現されるような条件下で、前記ウキクサ植物を培養するステップとを含む、
目的ポリペプチドを生成するための方法。
【請求項47】
ウキクサのプラストムに非相同な少なくとも1種のヌクレオチド配列によって安定に形質転換された色素体を有するウキクサ細胞であって、ウキクサのプラストムに非相同な前記ヌクレオチド配列が、色素体中で機能することができる発現制御配列に作動可能に連結されている、ウキクサ細胞。
【請求項48】
a)請求項27に記載のウキクサ細胞を提供するステップであって、ウキクサのプラストムに非相同なヌクレオチド配列が、1種又は複数の目的ポリペプチドをコードしているステップと、
b)目的ポリペプチドが発現されるような条件下で、ウキクサ細胞を培養するステップとを含む、
1種又は複数の目的ポリペプチドを生成するための方法。
【請求項49】
a)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列、
b)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列のうちの少なくとも100個の連続したヌクレオチドを含む、SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列の断片のヌクレオチド配列、
c)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列のうちの少なくとも200個の連続したヌクレオチドを含む、SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列の断片のヌクレオチド配列、
d)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列のうちの少なくとも400個の連続したヌクレオチドを含む、SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列の断片のヌクレオチド配列、
e)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列のうちの少なくとも600個の連続したヌクレオチドを含む、SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列の断片のヌクレオチド配列、
f)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列のうちの少なくとも800個の連続したヌクレオチドを含む、SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列の断片のヌクレオチド配列、
g)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列のうちの少なくとも1000個の連続したヌクレオチドを含む、SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列の断片のヌクレオチド配列、
h)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列との配列一致率が少なくとも90%である前記ヌクレオチド配列であって、SEQ ID NO:3との配列一致率が少なくとも99%である前記ヌクレオチド配列が、ウキクサの葉緑体ゲノムと相同組換えを起こすことができるヌクレオチド配列、及び
i)SEQ ID NO:3で示すヌクレオチド配列との配列一致率が少なくとも95%であるヌクレオチド配列であって、SEQ ID NO:3との配列一致率が少なくとも95%である前記ヌクレオチド配列が、ウキクサの葉緑体ゲノムと相同組換えを起こすことができるヌクレオチド配列、
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する核酸分子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−527218(P2007−527218A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518748(P2006−518748)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/021106
【国際公開番号】WO2005/005643
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(506005466)バイオレックス インク (5)
【Fターム(参考)】