説明

エアバッグ用織物

【課題】細く、高強度の糸からなり、軽量で耐衝撃性の高いエアバッグを得ることのできる織物を提供する。
【解決手段】少なくとも1枚の織物を接合してなるエアバッグに用いられる織物であって、該織物が、総繊度250〜350dtex、強度9cN/dtex以上である繊維糸条からなり、目付け190g/m以下、引張強力700N/cm以上の織物であり、該織物から得られる内径600mmの運転席用エアバッグの25℃における展開試験において、エアバッグ内の最大内圧が25kPa以上であるエアバッグ用織物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車衝突時の乗員保護装置として実用されているエアバッグに用いられる織物に関し、更に詳しくは、細く、高強度の糸からなり、軽量で耐衝撃性の高いエアバッグを得ることのできる織物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の乗員安全保護装置としてエアバッグの装着が急速に進み、自動車の前部衝突時の運転者保護用、助手席者保護用、側部衝突時の座席シートに内蔵された胸部および大腿部保護用、または側部窓に沿って展開するよう窓上部の天井内に装着された頭部保護用など、その装着数も増えてきている。
【0003】
これらの安全装置(以下、モジュールと記す)は、エアバッグを展開、膨張させるガス発生器(以下、インフレーターと記す)、乗員と当接して乗員の衝突エネルギーを吸収、緩和する袋体のエアバッグ、これらを連結する金属などの部品、電気信号伝達用の配線、車内に装着し易いように装置上部を被覆し意匠性も考慮された樹脂成型品など、多くの構成部品からなり、車内各部に搭載された各モジュールの重量合計は少なくない。
【0004】
そこで、モジュールを構成する部品を、軽く、コンパクトにする努力がなされている。この内、エアバッグの軽量化を図るため、エアバッグ本体を構成する織物に細い糸を用いて織物の目付けを少なくすることが検討されてきた。
【0005】
一方、エアバッグ搭載車の衝突事故が増えると、小柄の女性や乳幼児など、ハンドルや前面パネルに近く着座している場合が多いなかで、エアバッグが展開したことにより負傷する事例が増えてきた。そのため、北米においては、乗員がエアバッグに近接した位置に着座している場合でも、エアバッグ展開時にエアバッグにより乗員が負傷することなく、且つ乗員の衝突エネルギーを緩和することのできるエアバッグモジュールの装備を義務付けている。
【0006】
このようなエアバッグモジュールには、近接して着座している乗員とハンドルや全面パネルとの隙間に、乗員への加害性を低くして衝撃を与えないように素早くエアバッグを展開し、それと同時に衝撃吸収体としての袋体容量および内圧を確保することが求められる。
【0007】
そのため、エアバッグ自体にも、従来、エアバッグに求められている軽さに加え、小さく、高内圧に耐えることができて、衝撃にも強いという性能が求められる。
【0008】
これらの複雑な要求項目に対し、多くの検討がなされている。例えば、従来使用されていた940dtexや700dtexより細い470dtexや350dtex、235dtexを用いた織物から作成されたエアバッグが実用化されている。しかしながら、細い糸を用いた織物は目付けが軽くはなるものの、エアバッグ用基布として要求される引張強力、引裂き強力などの物理的特性が不足する傾向にある。
【0009】
たとえば、特許文献1には、繊度210d(235dtex)以下で、糸強度が10g/d(8.85cN/dtex)以上の高強度糸を用いたオックスフォード織のエアバッグ用基布が提案されている。実施例によれば、軽量で高強力な織物が得られている。糸を2本以上並べて織るオックスフォード織は、平織に比較して引張強力や引裂き強力が高くなる傾向にあるが、糸の交差点が少なく柔軟である半面、織物自体の組織ずれや縫製部の縫い目開きが大きくなり、エアバッグの耐衝撃性を満足させることが難しい。さらに、オックスフォード織は、基布通気度が大きくなりノンコートエアバッグ用の基布としては使用できないと推定される。
【0010】
また、特許文献2および3には、高い引張強力を有するエアバッグ用基布が開示されているが、実施例から推定すると、基布の目付けは215g/m以上であり、軽量であるとは言えない。
【0011】
また、糸の滑脱を抑制し、エアバッグの耐圧性を向上させる方法も、いくつか提案されている。
たとえば、特許文献4には、補強布を縫製することが開示されているが、やはり、軽量化を同時に満足させることができない。また、特許文献5、6および7には、縫合部の縫い方、使用する糸および位置を特定のものとすることにより、耐圧性を向上させる方法が開示されている。しかし、縫製糸は、実際にはインフレーターからの高温ガスにさらされるため、糸の溶融よる破断などについても考慮することが必要であり、また、基布そのものの物性については、言及されていない。
【0012】
さらに、特許文献8には、基布の滑脱抵抗力を3〜8mmとすることにより、膨張展開時の局所破裂を回避することが開示されている。しかし、コート基布の場合には
縫製部の滑脱抵抗力、すなわち縫い目ズレが3〜8mm程度の大きさでも展開試験には耐え得るが、ノンコート基布の場合には、この程度の縫い目ズレがあると縫製部での破断や、バッグ内圧の不足が起こり易いものと考えられる。
【0013】
【特許文献1】特開平6−33336号公報
【特許文献2】特開平6−306728号公報
【特許文献3】特開2005−281933号公報
【特許文献4】特開平07−186855号公報
【特許文献5】特開平11−245750号公報
【特許文献6】特開2001−301557号公報
【特許文献7】特開2006−232177号公報
【特許文献8】特開2006−063491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、細く、高強度の糸からなり、軽量で耐衝撃性の高いエアバッグを得ることのできる織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、少なくとも1枚の織物を接合してなるエアバッグに用いられる織物であって、該織物が、総繊度250〜350dtex、強度9cN/dtex以上である繊維糸条からなり、目付け190g/m以下、引張強力700N/cm以上の織物であり、該織物から得られる内径600mmの運転席用エアバッグの25℃における展開試験において、エアバッグ内の最大内圧が25kPa以上であるエアバッグ用織物に関する。
【0016】
前記最大内圧が、30kPa以上であることが好ましい。
【0017】
前記織物が、少なくとも片面に不通気性材料を有していることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記エアバッグ用織物からなるエアバッグに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非常に軽量で、耐衝撃性に優れたエアバッグを得ることのできる織物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のエアバッグ用織物は、総繊度250〜350dtex、強度9cN/dtex以上である繊維糸条からなり、目付け190g/m以下、引張強力700N/cm以上であり、これにより得られる内径が600mmである運転席用エアバッグの常温時の展開試験において、エアバッグ内の最大内圧が25kPa以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明の織物を構成する繊維糸条について、その総繊度は、250〜350dtexである。糸の総繊度が250dtexより小さいと、糸強度を高めても糸強力の絶対値が高くなりにくく、エアバッグの耐圧性が向上しない。また、350dtexをこえると、糸強力は高くなるが、織物の目付けも高くなるため、軽いエアバッグを得ることができない。総繊度は、265〜335dtexであることが好ましい。
【0022】
また、その強度は、9.0cN/dtex以上である。糸の強度が、9.0cN/dtexより小さいと、高い糸強力が得られない。好ましくは、9.5cN/dtex以上である。また、糸強度は高い方が好ましいが、13cN/dtex以下であることが好ましい。13cN/dtexをこえると、紡糸の延伸工程で著しく毛羽が発生し易く、延伸工程および糸巻き工程や製織工程でのトラブル原因となり易く、良好な品質の織物が得られにくい傾向にある。
【0023】
繊維糸条の単糸繊度は、0.5〜6dtexであることが好ましく、0.5〜4dtexであることがより好ましい。単糸繊度をこの範囲とすることにより、織物の通気性が小さくなり、柔軟性も向上しエアバッグの折畳み性が改良される。
【0024】
また、単糸の断面形状は、円形、楕円、扁平、多角形、中空、その他の異型など、織物の製造、得られた織物の物性に支障のない範囲で適宜選定すればよい。
【0025】
ここで、エアバッグ用織物に用いられている汎用合成繊維、なかでもナイロン繊維の強度は、通常8.0〜8.5cN/dtexのレベルにある。一方、とくに高い強力が必要とされる特殊用途、例えば、タイヤの補強材となるタイヤコード用の糸には、糸強度が8.8〜9.7cN/dtexである超高強力糸と言われる繊維が使用される。
【0026】
この超高強力糸は、通常の強度をもつ糸(以下、通常糸と称する場合がある)とは異なり、重合度の高いポリマーを用いて、糸の強力が発現する延伸工程において通常より5〜15%ほど高い延伸率で延伸されている。そのため、糸を構成する単繊維が均一に延伸を受けにくくなり、不均一に高倍率の延伸が作用した部分で破断し易くなる。その結果、単糸切れの多い糸が生産されることになる。この単糸切れは、毛羽とも呼ばれ、通常糸の10〜100倍も多いのが現状である。
【0027】
その結果、超高強度糸を用いて、通常糸と同じ仕様のエアバッグ用織物を製造しようとすると、経糸の整経工程や製織時の経糸の開口運動などにより、隣接する経糸が相互に接触し、毛羽などの突出部に互いが絡み合ってさらに毛羽を増長し、経糸の破断につながり易く、織機の停台を招くこともある。また、このようなトラブルの多い条件で製造された織物は、安定した品質が得られ難く、エアバッグの耐衝撃性にも影響する可能性がある。
【0028】
本発明で使用される繊維糸条も、この超高強度糸に相当する強度を有している。そのため、前記のような製織時の経糸の損傷を抑える手段として、物理的あるいは化学的な被覆加工を施して、毛羽の突出および増長を抑えることが好ましい。前記被覆加工としては、たとえば、甘撚りと呼ばれる50〜150回/m程度の加撚、細い糸を繊維糸条の周囲に巻き付ける捲回加工およびカバリング加工などの物理的な方法、アクリル系、セルロース系、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類などの加工剤による糊付け加工と呼ぶ化学的な方法、あるいは両法の混用などがあげられる。
【0029】
また、前記繊維糸条は、天然繊維、化学繊維、無機繊維など、とくに限定されるものではない。なかでも、汎用性があり、織物の製造工程、織物物性などの点において、合成繊維フィラメントが好ましい。合成繊維としては、たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612などの単独またはこれらの共重合、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸の共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合によって得られるポリエステル繊維、超高分子量ポリオレフィン系繊維、ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの含塩素系繊維、ポリテトラフルオロエチレンを含む含フッ素系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリサルフォン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン系繊維(PEEK)、全芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール系繊維(PBO)、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、綿、麻、ケナフ繊維などのセルロース系繊維、ポリ乳酸、琥珀酸に代表される生分解性繊維、炭化珪素系繊維、アルミナ系繊維、ガラス系繊維、カーボン系繊維、スチール系繊維などがあげられる。これらから適宜、1種または2種以上を選定すればよい。なかでも、物理特性、耐久性、耐熱性などの点から、ナイロン66繊維が好ましく、リサイクルの観点からは、ポリエステル系繊維およびナイロン6繊維が好ましい。
【0030】
これらの繊維糸条には、紡糸性、加工性および耐久性などを改善するために、通常使用されている各種の添加剤、たとえば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を使用してもよい。
【0031】
本発明の織物は、前記繊維糸条により得られ、目付けが190g/m以下である。目付けが、190g/mをこえると、軽量化という本発明の目的を達成することができない。好ましくは、185g/m以下である。
【0032】
また、その引張強力は、700N/cm以上である。引張強力が、700N/cmより小さいと、エアバッグの種類や展開条件によっては、展開時の衝撃、バッグ内圧に耐えられず、破損してしまう。好ましくは、715N/cm以上である。
【0033】
前記織物は、その織構造の緻密さを示す指数であるカバーファクターが、750以上であることが好ましく、800以上であることがより好ましい。経糸および緯糸にそれぞれ繊度の異なる糸を用いる場合は、経糸および緯糸それぞれの繊度毎にカバーファクターを算出し、合計することで、織物全体のカバーファクターを求めることができる。
【0034】
ここでいうカバーファクター(CF)は、織物の経糸および緯糸のそれぞれの織密度N(本/cm)と太さD(dtex)との積で求められ、下式にて表される。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df
ここで、Nw,Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/cm)
Dw,Dfは、経糸および緯糸の太さ(dtex)
【0035】
本発明の織物は、平織、斜子織(バスケット織)、格子織(リップストップ織)、綾織、畝織、絡み織、模紗織、あるいはこれらの複合組織などいずれでもよい。場合によっては、経糸、緯糸の二軸以外に、斜め60度を含む多軸設計としても良く、その場合の糸の配列は、経糸または緯糸と同じ配列に準じれば良い。なかでも、織物構造の緻密さ、物理特性や性能の均等性が確保できる点で、平織が好ましい。
【0036】
本発明の織物の製造は、通常の工業用織物を製織するのに用いられる各種織機を用いて行うことができる。例えば、織機としては、シャトル織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機などがあげられる。
【0037】
また、本発明の織物は、エアバッグとしたときの気密性が確保できる点で、不通気材料を有することが好ましい。不通気材料とは、例えば以下に示すように、実質的に空気を通さないようにする材料のことであり、不通気とは、JIS L1096「一般織物試験方法」における8.27.1 A法(フラジール形法)において、測定値0.0のことをいう。この材料を、後述する方法により、織物の片面あるいは両面から付与する。この不通気材料は、織物の表面、基布を構成する糸束の交差部、または、繊維単糸の間隙部など、いずれに介在していてもよい。
【0038】
前記材料としては、通常、エアバッグ用基布に使用されている材料であれば良く、耐熱性、摩耗性、基布との密着性、難燃性、不粘着性などを満足するものであれば良い。たとえば、シリコーン系樹脂またはゴム、ポリウレタン系樹脂またはゴム(シリコーン変性、フッ素変性も含む)、フッ素系樹脂またはゴム、塩素系樹脂またはゴム、ポリエステル系樹脂またはゴム、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、尿素系樹脂、フェノール系樹脂などの1種または2種以上を用いれば良い。なかでも、耐熱性および難燃性の点で、シリコーン系樹脂が好ましい。
【0039】
付与方法は、1)コーティング法(ナイフ、キス、リバース、コンマ、スロットダイおよびリップなど)、2)浸漬法、3)印捺法(スクリーン、ロール、ロータリーおよびグラビアなど)、4)転写法(トランスファー)、および、5)ラミネート法などがあげられる。なかでも、設定できる付与量の幅が大きい点で、コーティング法が好ましい。
【0040】
付与量としては、片面10g/m以上であることが好ましい。また、層状となる場合は、その厚さは10μm以上であることが好ましい。付与量が片面10g/mより少ない、または、層の厚さが10μmより薄いと、必要な気密性を得ることが難しい傾向にある。また、上限は、気密性が確保できる範囲で、少ない量とすることが好ましく、たとえば、80g/mまたは厚さ80μmとすればよい。
【0041】
また、前記材料には、主たる材料の他、加工性、接着性、表面特性あるいは耐久性などを改良するために通常使用される各種の添加剤、例えば、架橋剤、接着付与剤、反応促進剤、反応遅延剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、粘着防止剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を選択、混合しても良い。
【0042】
前記材料の液体としての性状は、塗布量、塗布法、材料の加工性や安定性、要求される特性などに応じて、無溶媒型、溶媒型、水分散型、水乳化型、水溶性型などから適宜選定すればよい。
【0043】
また、前記材料には基布との密着性を向上させるための各種前処理剤、接着向上剤などを添加しても良いし、予め基布表面にプライマー処理などの前処理を施しても良い。さらに、前記材料の物理特性を向上させたり、耐熱性、老化防止性、耐酸化性などを付与するため、前記材料を織物に付与した後、乾燥、架橋、加硫などを熱風処理、加圧熱処理、高エネルギー処理(高周波、電子線、紫外線など)などにより行ってもよい。
【0044】
また、本発明の織物は、内径600mmである運転席用エアバッグを作製し、常温時(25℃)にて展開試験を行った場合の、エアバッグ内の最大内圧が25kPa以上である。
【0045】
展開試験時の最大内圧が25kPaより小さいということは、展開時に外周縫製部やエアバッグ本体基布からのガスリークが多いということであり、衝撃吸収体としての能力に劣っている。最大内圧は、30kPa以上であることが好ましい。また、最大内圧の上限は、50kPaでよい。最大内圧を50kPa以上にするには、必要以上にエアバッグに用いる織物の強力を高くする必要があり、織物目付けを軽くすることが困難となる。
【0046】
前記の通り、エアバッグの内圧低下はガスリークによるものであり、このガスリークは、ノンコート基布を用いた場合には、本体パネルからのガス抜けによっても起こるが、特に、コート基布を用いた場合には、展開の衝撃による縫製の目開き部や縫製付近の基布の目ズレ部から生じるものの影響が大きい。エアバッグ展開時には、まず、この縫製の目開き(縫製糸の滑脱)が起こり、ついで、基布の目ズレが生じる。そのため、高い内圧を保持するには、縫製部の目開きに続いて起こる基布の目ズレを少なくすることが重要である。この基布の目ズレは、織物の構成に加えて、糸の強力や織物の引張強力に影響されるが、一般的にこれらを大きくすると、基布の重量も大きくなってしまう。そのため、軽量性と高い耐衝撃性との両方を実現するには、これらを総合的に検討する必要がある。
【0047】
そして、本発明は、細い糸でありながら、強度の高い繊維糸条から得られる、軽くて高い強力を有する織物であって、これから得られるエアバッグを所定の条件下で展開試験した時の最大内圧が25kPa以上であることにより、軽い重量と、インフレーターからの熱ガスの影響を受ける展開試験における初期の急激な膨張に耐え、損傷なく展開する性能、つまり高い耐衝撃性という、相反する性能を兼ね備えたエアバッグを提供するものである。
【0048】
なお、常温時(25℃)における展開試験は、以下のようにして行われる。
【0049】
まず、試験に供する運転席用エアバッグを作製する。
エアバッグ用基布として準備した織物から、外径がφ640mmである円形の本体パネルを2枚裁断する。一方の本体パネル中央部にφ67mmのインフレーター取付け口、および、該取付け口の中心から斜め上45度の線上120mmの位置に排気孔φ30mmを2箇所(左右一対)設ける。
【0050】
また、補強布として、ナイロン66繊維の470dtexを用いて作成した織密度21本/cmであるノンコート基布と、織密度18本/cmの基布にシリコーン樹脂を35g/mを塗布して得られたコート基布とを準備する。インフレーター取付け口の補強布として、外径210mm、内径67mmの環状布Aを前記ノンコート基布から3枚、コート基布から1枚裁断する。さらに、排気孔補強布として、前記コート基布から外径90mm、内径30mmの環状布Bを2枚裁断する。3枚のノンコート環状布Aをインフレーター取付け口に重ね合わせ、内側からφ126mm、φ188mmの位置で円形に縫製し、その上から同一形状のコート環状布A1枚を重ね合わせ、φ75mmの位置で4枚の環状補強布を本体基布(コート基布の場合はコート面側)に円形に縫い合わせる。さらに、それぞれの排気孔に、環状布Bを1枚重ね合わせて本体パネルに縫い付ける。環状布A、環状布Bの各補強布は、それぞれを縫い合わせる本体パネルの糸軸と45度ずれるように重ね合わせる。
【0051】
インフレーター取付け口の周囲に、本体パネルの糸軸と平行となる位置に、穴間距離68mmにてφ5.5mmのボルト穴を4ヶ所に設ける。環状補強布A、Bの本体パネルへの縫い付けは、上糸を5番手糸(1400dtex相当)、下糸を8番手糸(940dtex相当)として、3.5針/cmの運針数で本縫いにより行う。また、2枚の本体パネルは、環状布補給布を縫い付けた面同士をパネルの糸軸を45度ずらして重ね合わせ、その外周部を、縫い目線間2.4mm、縫い代を20mm、として二重環縫い2列にて縫合し、内径φ600mmの円形エアバッグを作成する。なお、外周部縫製の縫い糸は、上記本縫いと同じ縫い糸の組み合わせを用いる。
【0052】
ついで、得られたエアバッグ、ダイセル社製インフレーター(型式ZA、2ステージ型、出力160kpa/220kpa)、固定金具および樹脂製ケースを用いてモジュールを組み立てる。前記モジュールについて、25℃で展開試験を行い、展開時の最大バッグ内圧を測定する。
【0053】
なお、エアバッグの内圧に影響を与えない範囲で、展開試験に供されるエアバッグの仕様を変更しても差し支えない。
【0054】
本発明のエアバッグの仕様、形状および容量は、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能、インフレーターの出力などに応じて選定すればよい。
【0055】
また、乗員が当接した際のエネルギー吸収のため、本発明のエアバッグには、一個または複数の排気穴、例えば直径10mm〜80mmの円形またはそれに相当する面積の穴、または、これらの排気性能に相当するスリット、膜または弁などを設けてもよい。さらに、この排気穴の周囲には、補強布を接合、積層しても良い。
【0056】
また、乗員側へのエアバッグの突出抑制や膨張時の厚みの制御のために、エアバッグ内側に吊り紐またはガス流調整布、エアバッグ外側にフラップと呼ばれる帯状布または抑え布などを設けても良い。
【0057】
本発明のエアバッグは、本発明の織物を所望の形状に裁断した少なくとも1枚の基布(以下、単に基布と称する)を接合することによって得られる。エアバッグを構成する基布の枚数は、1枚または2枚以上である。エアバッグを構成する基布のすべてが、前記織物からなることが好ましい。
【0058】
前記基布同士の接合(1枚の場合はその外周部の接合)は、本発明における展開試験を実施する場合は、縫合によってのみ行われるが、実際には、後述するように、接着や溶着などを併用してもよい。
【0059】
また、他の接合部、例えば、補強布や吊り紐の固定などは、縫製、接着、溶着、製織、製編あるいはこれらの併用など、いずれの方法によってもよく、エアバッグとしての堅牢性、展開時の耐衝撃性、乗員の耐衝撃性能などを満足するものであればよい。
【0060】
縫合は、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫いなどの通常のエアバッグに適用されている縫い目により行えばよい。また、縫い糸の太さは、700dtex(20番手相当)〜2800dtex(0番手相当)、運針数は2〜10針/cmとすればよい。複数列の縫い目線が必要な場合は、縫い目線間の距離は2.2mm〜8mm程度として、多針型ミシンを用いればよいが、縫製部距離が長くない場合には、1本針ミシンで複数回縫合してもよい。エアバッグ本体として複数枚の基布を用いる場合には、複数枚を重ねて縫合しても良いし、1枚ずつ縫合しても良い。
【0061】
さらに、必要に応じて、外周縫合部などの縫い目からのガス抜けを防ぐために、シール材、接着剤または粘着材などを、縫い目の上部および/または下部、縫い目の間、縫い代部などに塗布、散布または積層してもよい。
【0062】
縫合に使用する縫い糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているものの中から適宜選定すればよい。例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエステル、高分子ポリオレフィン、含フッ素、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラス、スチールなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸またはフィラメント樹脂加工糸のいずれでもよい。
【0063】
また、使用するインフレーターの特性に応じて、インフレーター噴出口周囲に熱ガスから保護するための耐熱保護布や力学的な補強布を設けても良い。これらの保護布や補強布は、布自体が耐熱性の材料、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、PBO繊維、ポリイミド繊維、含フッ素系繊維などの耐熱性繊維材料を用いても良いし、エアバッグ本体と同じか本体用基布より太い糸を用いて別途作成した織物を用いても良い。また、織物に耐熱性被覆材を施したものを用いても良い。
【0064】
エアバッグを収納する際の折畳み法も、運転席用バッグのように中心から左右、上下対称の屏風折り、あるいは中心に向かって多方位から押し縮める折り、助手席バッグのようなロール折り、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、あるいはこれらの併用や、シート内蔵型サイドバッグのようなアリゲーター折りなどにより折畳めばよい。
【0065】
本発明のエアバッグは、各種の乗員保護用バッグ、例えば、運転席および助手席の前面衝突保護用、側面衝突保護用のサイドバッグ、後部座席保護用、追突保護用のヘッドレストバッグ、脚部・足部保護用のニーバッグおよびフットバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、エアーベルト用袋体、歩行者保護用などの乗用車、商業車、バス、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車・電車、飛行機、遊園地設備など多用途に適用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例の中で行ったエアバッグ用織物およびエアバッグ特性の性能評価の方法を以下に示す。
【0067】
(1)織物の目付け
JIS L−1096の8.4.2に規定された方法により、基布の単位面積当たりの質量を求めた。
【0068】
(2)引張強力
JIS L−1096の8.12.1A法(ストリップ法)に規定された方法により、織物の経方向と緯方向の引張強力を求め、経と緯の平均値を算出した。
【0069】
(3)エアバッグの重量
得られたエアバッグを折り畳み、重量を測定し、比較例1を100として相対値で
表した。
【0070】
(4)バッグの展開試験
エアバッグの展開試験は、ダイセル社製インフレーター(型式ZA、2ステージ型、出力160kpa/220kpa)、固定金具、樹脂製ケースを用いてモジュールを組み立て実施した。モジュールは25℃で展開試験を行い、展開時の最大バッグ内圧を測定すると共に、膨張状態ならびに展開後のエアバッグ外周縫製部の状態を観察した。
【0071】
評価に使用した運転席用エアバッグの作成法を以下に示す。
(5)運転席用エアバッグの作成法
エアバッグ用基布として準備した織物から、外径がφ640mmである円形の本体パネルを2枚裁断した。一方の本体パネル中央部にφ67mmのインフレーター取付け口、および、該取付け口の中心から斜め上45度の線上120mmの位置に排気孔φ30mmを2箇所(左右一対)設けた。
【0072】
また、補強布として、ナイロン66繊維の470dtexを用いて作成した織密度21本/cmであるノンコート基布と、織密度18本/cmの基布にシリコーン樹脂を35g/mを塗布して得られたコート基布とを準備した。インフレーター取付け口の補強布として、外径210mm、内径67mmの環状布Aをノンコート基布から3枚、コート基布から1枚裁断した。さらに、排気孔補強布として、前記コート基布から外径90mm、内径30mmの環状布Bを2枚裁断した。3枚のノンコート環状布Aをインフレーター取付け口に重ね合わせ、内側からφ126mm、φ188mmの位置で円形に縫製し、その上から同一形状のコート環状布A1枚を重ね合わせ、φ75mmの位置で4枚の環状補強布を本体基布(コート基布の場合はコート面側)に円形に縫い合わせた。また、それぞれの排気孔には、環状布Bを1枚重ね合わせて本体パネルに縫い付けた。環状布A、環状布Bの各補強布は、それぞれを縫い合わせる本体パネルの糸軸と45度ずれるように重ね合わせた。
【0073】
インフレーター取付け口の周囲には、本体パネルの糸軸と平行となる位置に、穴間距離68mmにてφ5.5mmのボルト穴を4ヶ所に設けた。環状補強布A、Bの本体パネルへの縫い付けには、上糸を5番手糸(1400dtex相当)、下糸を8番手糸(940dtex相当)として、3.5針/cmの運針数で本縫いにより行った。また、2枚の本体パネルは、環状布補給布を縫い付けた面同士をパネルの糸軸を45度ずらして重ね合わせ、その外周部を、縫い目線間2.4mm、縫い代を20mm、として二重環縫い2列にて縫合し、内径φ600mmの円形エアバッグを作成した。外周部縫製の縫い糸は、上記本縫いと同じ縫い糸の組み合わせを用いた。
【0074】
実施例1
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の330dtex/96f(糸強度9.3cN/dtex、単糸繊度3.4dtex)を用いて平織物を作成し、精練、セットを行い、本発明の織物(ノンコート)を得た。この時の織密度は、経および緯いずれも25.2本/cmであった。なお、経糸には、ワーパー工程にてポリビニールアルコール樹脂(日本合成化学工業社製GL−05の4%水溶液)により糊付けした。得られた織物特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグの展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。
【0075】
表1に示すように、得られた織物を用いたエアバッグは、軽量で、エアバッグの最大内圧は31kPaと高かった。また、展開時の挙動も円滑であり、展開後のエアバッグについて、その外周部や縫い目における破損、縫い目部の目立った拡張(縫い目ずれ)は、見られなかった。
【0076】
実施例2
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の280dtex/72f(糸強度9.8cN/dtex、単糸繊度3.9dtex)を用いて平織物を作成し、精練、セットを行って本発明の織物(ノンコート)を得た。経糸には、実施例1に準じて糊付けを行った。得られた織物の織密度は、経、緯いずれも28.7本/cmであった。表1に示すように、得られた織物を用いたエアバッグは、軽量で、エアバッグの最大内圧は33kPaと高かった。また、展開時の挙動も円滑であり、展開後のエアバッグについて、その外周部や縫い目における破損、縫い目部の目立った拡張(縫い目ずれ)は、見られなかった。
【0077】
実施例3
得られた平織物の片面に無溶剤系シリコーン樹脂を12g/m塗布してコート基布としたこと以外は、実施例2に準じてエアバッグを作成した。得られた織物を用いたエアバッグは、軽量で、エアバッグの最大内圧は49kpaと高かった。また、展開時の挙動も円滑であり、展開後のエアバッグについて、その外周部や縫い目における破損、縫い目部の目立った拡張(縫い目ずれ)は、見られなかった。
【0078】
比較例1
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の470dtex/144f(糸強度8.5cN/dtex、単糸繊度3.3dtex)を用いて平織物を作成し、精練、セットを行って織物(ノンコート)を得た。得られた織物の織密度は、経、緯いずれも20.9本/cmであった。表1に示すように、得られた織物を用いたエアバッグは、最大内圧が高く耐衝撃性に優れるものの、バッグ重量が非常に重く、本発明の目的を達成することはできなかった。
【0079】
比較例2
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の235dtex/72f(糸強度9.6cN/dtex、単糸繊度3.3dtex)を用いて平織物を作成し、精練、セットを行って織物(ノンコート)を得た。得られた織物の織密度は、経、緯いずれも28.7本/cmであった。この織物を用いたエアバッグは、軽量ではあるものの、展開時に外周縫製部から破断したため最大内圧が非常に低く、エアバッグに求められる耐衝撃性が不足するものであった。
【0080】
比較例3
強度8.5cN/dtexの糸を用いた以外は、実施例1に準じて平織物を作成し、織物(ノンコート)を得た。表1に示すように、得られた織物を用いたエアバッグの重量は実施例1と同等であるが、引張強力が非常に低く、展開時に外周縫製部の一部が破損した。そのため、最大内圧が非常に低く、エアバッグに求められる耐衝撃性が不足するものであった。
【0081】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の織物を接合してなるエアバッグに用いられる織物であって、該織物が、総繊度250〜350dtex、強度9cN/dtex以上である繊維糸条からなり、目付け190g/m以下、引張強力700N/cm以上の織物であり、該織物から得られる内径600mmの運転席用エアバッグの25℃における展開試験において、エアバッグ内の最大内圧が25kPa以上であるエアバッグ用織物。
【請求項2】
前記最大内圧が、30kPa以上である請求項1記載のエアバッグ用織物。
【請求項3】
前記織物が、少なくとも片面に不通気性材料を有している請求項1または2記載のエアバッグ用織物。
【請求項4】
前記請求項1、2または3記載のエアバッグ用織物からなるエアバッグ。

【公開番号】特開2009−167551(P2009−167551A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5665(P2008−5665)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】