説明

エアバッグ装置

【課題】エアバッグの縫合部がインフレータからの高温ガスに直接曝されることを抑制すること。
【解決手段】車両緊急時にガスを供給するインフレータと、インフレータからのガス導入によって膨張展開するカーテンエアバッグ30とを備える。カーテンエアバッグ30は、一対の基布34を縫合したエアバッグ本体32を有している。エアバッグ本体32は、インフレータからのガスが導入される部分に、基布34の端縁部を一対縫合した縫合部36aを有している。エアバッグ本体32内から前記縫合部36aを覆うように、縫合部36aに沿って前記一対の端縁部にそれぞれに縫着された保護布50をさらに有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両緊急時に作動するインフレータのガスによって膨張するエアバッグにおいて、その縫合部分を保護する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエアバッグ装置は、高温高圧のガスを噴射するインフレータと、複数の基布の外周部を縫い糸で縫合することで袋状に形成されたエアバッグとを備えている。そして、車両緊急時には、インフレータからの高温高圧ガスがエアバッグ内に導入されて、前記エアバッグが膨張展開する。
【0003】
上記インフレータからの高温高圧ガスがエアバッグ内に導入される際、インフレータのガス吐出部付近の縫合部には、インフレータからの高温ガスが直接的に作用してしまう恐れがある。
【0004】
そこで、エアバッグの縫合部を保護する技術として、特許文献1に開示のものがある。
【0005】
特許文献1では、一対の基布が、第3の基布を挟んで縫合されている。第3の基布は、縫合部の内側に突出するように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−289559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、第3の基布は、一対の基布間に挟まれるだけであるため、インフレータからのガス導入時に一対の基布の縫合部を十分に覆うことはできない。例えば、ガス導入時に、第3の基布がエアバッグ内で一対の基布のいずれか一方の側に偏った場合、第3の基布と他方の基布との間で、一対の基布同士を縫合する縫い糸がエアバッグ内に露出し、高温ガスに曝されてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、エアバッグの縫合部がインフレータからの高温ガスに直接曝されることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様に係るエアバッグ装置は、車両緊急時にガスを供給するインフレータと、前記インフレータからのガス導入によって膨張展開するエアバッグと、を備え、前記エアバッグは、前記インフレータからのガスが導入される部分に、基布の対向部分を一対縫合した縫合部を有し、前記インフレータからのガスが導入される内側から前記縫合部を覆うように、一対の前記対向部分のそれぞれに前記縫合部から離れた位置で前記縫合部に沿って縫着された保護布をさらに有するものである。
【0010】
第2の態様に係るエアバッグ装置は、第1の態様に係るエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、第1基布と第2基布とが縫合されることで袋状に膨張展開するエアバッグ本体を有し、前記エアバッグ本体に対して直接的に前記インフレータからのガスが導入され、前記第1基布と前記第2基布との縫合部のうち少なくとも一部に、前記保護布が設けられているものである。
【0011】
第3の態様に係るエアバッグ装置は、第1の態様に係るエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、袋状に膨張展開するエアバッグ本体と、前記エアバッグ本体内に設けられ、前記インフレータからのガスを前記エアバッグ本体内の複数箇所に分配するインナーチューブとを有し、前記インナーチューブは、帯状の第3基布を筒状に丸めてその両端縁部を、それらの内側面同士を対向させて縫合することにより形成されており、前記インナーチューブの両端縁部の縫合部のうち少なくとも一部に、前記保護布が設けられているものである。
【0012】
第4の態様に係るエアバッグ装置は、第3の態様に係るエアバッグ装置であって、前記保護布又は前記保護布及び前記第3基布により形成される前記インフレータ側の開口が閉鎖されたものである。
【0013】
第5の態様に係るエアバッグ装置は、第1〜第4のいずれか一つの態様に係るエアバッグ装置であって、前記保護布を基準にして、その保護布が前記一対の端縁部にそれぞれ縫着された一対の保護布縫合部間の幅が、前記基布を基準とする一対の前記保護布縫合部間の幅よりも大きいものである。
【0014】
第6の態様に係るエアバッグ装置は、第1〜第4のいずれか一つの態様に係るエアバッグ装置であって、前記保護布を基準にして、その保護布が前記一対の端縁部にそれぞれ縫着された一対の保護布縫合部間の幅が、前記基布を基準とする一対の前記保護布縫合部間の幅よりも小さく、前記一対の保護布縫合部のうちの少なくとも一方が、ガス導入によって作用する張力によって破断可能に形成されたものである。
【0015】
第7の態様に係るエアバッグ装置は、第1〜第6のいずれか一つの態様に係るエアバッグ装置であって、前記保護布は、その端縁部を前記縫合部に向けると共に、その幅方向中間部を前記インフレータからのガスが導入される内部空間側に向けるようにして、前記一対の基布の端縁部に縫着されているものである。
【0016】
第8の態様に係るエアバッグ装置は、第1〜第7のいずれか一つの態様に係るエアバッグ装置であって、前記基布の端縁部と前記保護布の端縁部とが揃えられた状態で、前記保護布が縫着されているものである。
【発明の効果】
【0017】
第1の態様に係るエアバッグ装置によると、前記エアバッグは、前記インフレータからのガスが導入される部分に縫合部を有しており、この縫合部は、基布の対向部分のそれぞれに縫合部から離れた位置で縫合部に沿って縫着された保護布によって覆われている。このため、前記縫合部がインフレータからの高温ガスに直接曝されることを抑制できる。
【0018】
第2の態様に係るエアバッグ装置によると、エアバッグ本体の縫合部が、インフレータからの高温ガスに直接曝されることを抑制できる。
【0019】
第3の態様に係るエアバッグ装置によると、インナーチューブのエアバッグ本体の縫合部が、インフレータからの高温ガスに直接曝されることを抑制できる。
【0020】
第4の態様に係るエアバッグ装置によると、インナーチューブ内にはインフレータが挿入されるところ、前記保護布又は前記保護布及び前記第3基布により形成される前記インフレータ側の開口が閉鎖されているため、誤った組付を防止することができる。
【0021】
第5の態様に係るエアバッグ装置によると、一対の保護布縫合部間の幅が、基布側よりも保護布側で大きいため、ガス導入による張力は、保護布によって保護されている縫合部に主として作用する。このため、高温ガスの作用箇所と、ガス導入による張力の作用箇所とを分散させることができ、強度的に優れる。
【0022】
第6の態様に係るエアバッグ装置によると、ガス導入による張力は、保護布に作用した後、保護布縫合部が破断すると、縫合部に作用する。このため、ガス導入による張力は、保護布、保護布縫合部、縫合部等に経時的に分散して作用するため、強度的に優れる。また、保護布縫合部が途中で分散するため、基布の破損を防止できる。
【0023】
第7の態様に係るエアバッグ装置によると、前記保護布は、その端縁部を前記縫合部に向けると共に、その幅方向中間部を前記インフレータからのガスが導入される内側に向けるようにして、前記一対の基布の端縁部に縫着されているため、ガス導入時には、保護布縫合部が保護布の幅方向中間部が覆われるようになる。このため、保護布縫合部をより確実に保護することができる。
【0024】
第8の態様に係るエアバッグ装置によると、前記基布の端縁部と前記保護布の端縁部とが揃えられた状態で、前記保護布が縫着されているため、エアバッグに対する保護布の取付位置精度を容易に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係るカーテンエアバッグ装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1のII−II線概略断面図である。
【図3】保護布をエアバッグ本体に縫着する作業手順を示す説明図である。
【図4】保護布をエアバッグ本体に縫着する作業手順を示す説明図である。
【図5】保護布をエアバッグ本体に縫着する作業手順を示す説明図である。
【図6】保護布をエアバッグ本体に縫着する作業手順を示す説明図である。
【図7】保護布の動作を示す説明図である。
【図8】第1実施形態に係る変形例を示す説明図である。
【図9】第1実施形態に係る他の変形例を示す説明図である。
【図10】第1実施形態に係るさらに他の変形例を示す説明図である。
【図11】同上の変形例の動作を示す説明図である。
【図12】第2実施形態に係るカーテンエアバッグ装置の全体構成を示す概略図である。
【図13】図12のXIII−XIII線においてインナーチューブを示す概略断面図である。
【図14】インナーチューブを示す概略斜視図である。
【図15】保護布をインナーチューブに縫着する作業手順を示す説明図である。
【図16】保護布をインナーチューブに縫着する作業手順を示す説明図である。
【図17】保護布をインナーチューブに縫着する作業手順を示す説明図である。
【図18】保護布をインナーチューブに縫着する作業手順を示す説明図である。
【図19】第2実施形態に係る変形例を示す説明図である。
【図20】第2実施形態に係る他の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
第1実施形態に係るカーテンエアバッグ装置について説明する。図1はカーテンエアバッグ装置20の全体構成を示す概略図であり、図2は図1のII−II線概略断面図である。
【0027】
このカーテンエアバッグ装置20は、車室内側方部位に設けられ、車両の緊急時に展開動作可能に構成されるものであり、インフレータ22と、カーテンエアバッグ30とを備えている。
【0028】
上記インフレータ22は、棒状に形成されており、車両の衝突時の検知信号に応じて、上記カーテンエアバッグ30内に高温高圧ガスを供給するようになっている。
【0029】
上記カーテンエアバッグ30は、通常状態では、サイドウインドウ16上方にあるルーフサイドレール12に沿って折畳んで収容されている。カーテンエアバッグ30の折畳み形態は、例えば、ロール状の折畳み、或は、蛇腹状の折畳み等である。そして、車両の側面衝突時等の車両緊急時には、インフレータ22から供給されるガスがカーテンエアバッグ30内に導入され、これにより、カーテンエアバッグ30は車両のサイドウインドウ13と車両の乗員の頭部との間で扁平な袋状に膨張展開するようになっている。
【0030】
より具体的には、カーテンエアバッグ30は、袋状に膨張展開可能なエアバッグ本体32を有している。ここでは、エアバッグ本体32は、車両の前後のサイドウインドウ13に沿って延びる長尺帯状の基布34を一対有している。そして、一対の基布34の外周縁部を一対の対向部分として縫い糸等で縫合して縫合部36を形成することで、エアバッグ本体32は、車両のサイドウインドウ13と車両の乗員の頭部との間で扁平な袋状に膨張展開可能な構成とされている。
【0031】
なお、各基布34は、複数の布を重ね合せることで形成されていてもよい。また、一対の基布34は、所望の展開形状を得ることができるように、その周縁部以外の適宜箇所で縫合等されていてもよい。なお、区別等の必要に応じて、一対の基布34のうち一方側を第1基布34aといい、他方側を第2基布34bという場合がある。
【0032】
また、エアバッグ本体32の一端部の一側部(ここでは、エアバッグ本体32のうち車両に取付けた状態で後ろ側部分の上部分)には、エアバッグ本体32の内外を貫通する開口を有するインフレータ導入部35が形成されている。そして、インフレータ22のうちガスを供給する側の一端部は、上記インフレータ導入部35内に挿入されている。本実施形態では、インフレータ22の一端部は、エアバッグ本体32内に配設されており、インフレータ22の一端部から供給されるガスが、エアバッグ本体32内に導入されるようになっている。
【0033】
また、上記エアバッグ本体32の縫合部36のうち、インフレータ22からのガスが導入される一部分の縫合部36aを覆うようにして、保護布50が設けられている。
【0034】
保護布50は、帯状の布であり、上記縫合部36aを覆うことが可能な程度の長さ寸法を有している。この保護布50の両側縁部は、前記縫合部36aからエアバッグ本体32の内側に離れた位置で前記縫合部36aに沿って、換言すれば、前記縫合部36aを挟む位置で、一対の基布34のそれぞれに縫い糸を介して縫合されている。なお、この保護布50も、複数の布が重ね合されたものであってもよい。
【0035】
保護布50が一対の基布34に縫着された状態では、保護布50の幅方向両側の端縁部は一対の基布34の縫合部36aに向うと共に、保護布50の幅方向中間部はインフレータ22からのガスが導入される内部空間側(つまり、カーテンエアバッグ30の内部空間側)に向いた姿勢とされている。これにより、後述するように、保護布50を一対の基布34に縫合した保護布縫合部54が保護布50によって覆われるようになっている。
【0036】
また、上記保護布50の幅方向両側の端縁部は、一対の基布34のうち縫合部36aの外側の端縁部に対して揃えられている。これにより、後述するように、一対の基布34に対する保護布50の縫着位置を正確に位置決めできるようになっている。
【0037】
また、上記保護布50を基準にして、前記一対の保護布縫合部54間の長さ寸法L1(つまり、保護布50の一対の保護布縫合部54間の長さ寸法)は、基布34を基準とする一対の保護布縫合部54間の長さ寸法M1(つまり、一方の基布34aの保護布縫合部54と縫合部36a間の長さ寸法と他方の基布34bの保護布縫合部54間と縫合部36a間の長さ寸法との和)よりも大きくなるように設定されている。これにより、後述するように、エアバッグ本体32の膨張展開時において、保護布50が保護布縫合部54をより確実に覆うことができるようになっている。
【0038】
上記保護布50は、例えば、次のようにして一対の基布34に縫着される。
【0039】
まず、図3に示すように、一対の基布34a,34b及び保護布50を準備する。
【0040】
そして、図4に示すように、一方の基布34aに保護布50を重ねて配設する。そして、一方の第1基布34aの一方側の端縁部と、保護布50の一方側の側縁部とを揃えるようにしつつ、第1基布34aの一方側の端縁部と保護布50との側縁部とを縫い糸で縫合して一方側の保護布縫合部54を形成する。
【0041】
次に、図5に示すように、他方側の第2基布34b上に保護布50を重ねて配設する。そして、第2基部34bの一方側の端縁部と保護布50の他方側の側縁部とを揃えるようにしつつ、第2基布34bの一方側の端縁部と保護布50の側縁部とを縫い糸で縫合して他方側の保護布縫合部54を形成する。
【0042】
この後、図6に示すように、一対の基布34a,34bの内面同士を対向させるようにすると共に、それらの間に保護布50を幅方向中間部で二つ折りにするようにして配設し、一対の基布34a、34bの端縁部同士を揃え、一方側及び他方側の保護布縫合部54と端縁部の端との間を縫合して縫合部36aを含む縫合部36を形成し、エアバッグ本体32を形成する。なお、縫合部36aは、一対の基布34aと保護布50とを一括して縫い合せることで形成されている。
【0043】
上記のように、一対の基布34a,34bの端縁部と保護布50の一方側の側縁部とを揃えて、各保護布縫合部54を形成しているため、エアバッグ本体32に対する保護布50の位置決めを容易かつ正確に行えることになる。これにより、不良品の発生等をも抑制できる。
【0044】
上記カーテンエアバッグ装置20の膨張展開動作について説明する。
【0045】
まず、上記したように、膨張展開前の初期状態では、カーテンエアバッグ30は、長尺状に折畳まれた状態で、ルーフサイドレール12に沿って収容固定されている。
【0046】
この状態で、インフレータ22からのガス導入により、カーテンエアバッグ30を構成するエアバッグ本体32が膨張展開する。この際、インフレータ22からのガス導入部分において、縫合部36aを覆うようにして保護布50が取付けられているため、図7に示すように、エアバッグ本体32がある程度膨張すると、インフレータ22からのガス圧によって保護布50は当該縫合部36aを覆うようにしてエアバッグ本体32の内面に密着するように押付けられる。つまり、インフレータ22からのガスは、保護布50に直噴され、当該保護布50により受止められる。
【0047】
この際、上記したように、保護布50の幅方向両側の端縁部は一対の基布34の縫合部36aに向うと共に、保護布50の幅方向中間部はインフレータ22からのガスが導入される内部空間側に向いた姿勢とされているため、保護布縫合部54のうち保護布50に対してエアバッグ本体32内側に露出する部分は、保護布50によって覆われた状態となっている。
【0048】
また、上記保護布50側の一対の保護布縫合部54間の長さ寸法L1は、基布34側の一対の保護布縫合部54間の長さ寸法M1よりも大きいため、エアバッグ本体32が膨張しようとすることによる張力は、主として一対の基布34同士の縫合部36に作用する。また、保護布50のうち前記長さ寸法M1よりも大きい余剰分の両側縁部は、ガス圧により保護布縫合部54を覆うようにエアバッグ本体32内に密着するように押付けられる。このため、保護布縫合部54も、保護布50によって覆われた状態となる。
【0049】
以上のように構成されたカーテンエアバッグ装置20によると、カーテンエアバッグ30は、インフレータ22からのガスが挿入される部分に縫合部36aを有しており、この縫合部36aの内面側は保護布50によって覆われている。このため、縫合部36aがインフレータ22からの高温ガスに直接曝されることを抑制でき、縫合部36aに対する熱的影響を抑制できる。これにより、インフレータ22からのガス導入によって、エアバッグ本体32をより確実に膨張させることができる。
【0050】
特に、縫合部36aを挟む位置で、保護布50を一対の基布34に縫合しているため、ガスの流れる方向或はエアバッグ本体32の折畳み方等を考慮せずとも、保護布50によって縫合部36aをより確実に覆うことができるという利点もある。
【0051】
また、上記保護布50側の一対の保護布縫合部54間の長さ寸法L1は、基布34側の一対の保護布縫合部54間の長さ寸法M1よりも大きいため、ガス導入によってエアバッグ本体32が膨張しようとする際の張力は、主として保護布50によって保護されている縫合部36aに作用する。このため、高温ガスに曝される箇所を保護布50にし、張力の作用箇所を縫合部36aにすることで、両作用箇所を分散させることができ、強度的に優れたものとすることができる。また、この結果、各基布34、縫合部36、保護布50、保護布縫合部54の強度を過剰に大きくする必要はなく、低コスト化を図ることができる。
【0052】
また、保護布50の幅方向両側の端縁部は一対の基布34の縫合部36aに向うと共に、保護布50の幅方向中間部はインフレータ22からのガスが導入される内部空間側に向いた姿勢で、保護布50が取付けられているため、保護布縫合部54のうち保護布50に対してエアバッグ本体32内側に露出する部分は、保護布50によって覆われた状態となっている。このため、保護布縫合部54についても、高温高圧ガスに直接曝されることを抑制することができ、当該保護布縫合部54の破損を有効に抑制することができる。
【0053】
しかも、保護布50のうち前記長さ寸法M1よりも大きい余剰分の両側縁部は、ガス圧により保護布縫合部54を覆うようにエアバッグ本体32内に密着するように押付けられるため、保護布縫合部54の全体について(特に、保護布縫合部54を構成する縫い糸のうち保護布50と基布34との間の部分)も、保護布50によって覆われるようになる。このため、当該保護布縫合部54の破損をより有効に抑制することができる。
【0054】
上記第1実施形態に係るカーテンエアバッグ装置20の変形例について説明する。
【0055】
図8に示す変形例では、上記保護布50に対応する保護布50Bの幅方向両側端縁部を、基布34の端縁部に揃えないで、縫合部36aの内側に配設してある。つまり、保護布の端縁部は、必ずしも基布34の端縁部に揃えて配設する必要はない。
【0056】
図9に示す変形例では、上記保護布50に対応する保護布50Cの幅方向中間部を縫合部36aに対向させると共に、保護布50Cの幅方向両側の端縁部を縫合部36aの反対側に向けた姿勢で、当該保護布50Cがエアバッグ本体32に取付けられている。この場合でも、保護布50Cによって縫合部36aを覆って保護することができ、縫合部36aが高温高圧ガスに直接曝されることを抑制することができる。
【0057】
図10に示す変形例では、上記保護布50及び保護布縫合部54に対応する保護布50D及び保護布縫合部54Dおいて、当該保護布50Dを基準にして一対の保護布縫合部54D間の長さ寸法L2(つまり、保護布50Dの一対の保護布縫合部54Dの長さ寸法)を、基布34を基準とする一対の保護布縫合部54D間の長さ寸法M2(つまり、一方の基布34aの保護布縫合部54Dと縫合部36a間の長さ寸法と他方の基布34bの保護布縫合部54Dと縫合部36a間の長さ寸法との和)よりも小さくなるように設定している。また、保護布縫合部54Dが、インフレータ22から導入されたガスがエアバッグ本体32を膨張させようとしてエアバッグ本体32に作用する張力によって、破断可能に形成されている。このような保護布縫合部54Dの破断強度(前記張力によって破断に至る強さ)は、保護布縫合部54を形成する縫い糸の強度及び縫い方等によって、設定調整することができる。
【0058】
この変形例によると、インフレータ22からガスが導入された後、エアバッグ本体32の膨張展開初期段階では、ガス導入によって基布34を引張ろうとする張力は、主として保護布50D及び保護布縫合部54Dに作用する。そして、エアバッグ本体32の膨張展開が進み、張力がある程度大きくなると、図11に示すように、縫い糸が切れる等して保護布縫合部54Dが破断に至る。そして、その後は、前記張力は、縫合部36aを含む縫合部36に作用するようになる。このように、ガス導入によって基布34を引張ろうとする張力は、膨張展開初期段階では保護布50D及び保護布縫合部54Dに作用し、その後、保護布縫合部54Dに作用するようになり、各部分に経時的に分散して作用するため、強度的に優れたものとすることができる。換言すれば、ガス導入による衝撃は、保護布50及び保護布縫合部54Dで一旦受止められ緩衝された状態で、縫合部36aに作用するようにすることができる。また、保護布縫合部54Dが途中で破断するため、基布34自体の破損を抑制することができる。
【0059】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るカーテンエアバッグ装置について説明する。図12はカーテンエアバッグ装置120の全体構成を示す概略図であり、図13は図12のXIII−XIII線においてインナーチューブ140を示す概略断面図であり、図14はインナーチューブ140を示す概略斜視図である。
【0060】
このカーテンエアバッグ装置120は、インフレータ22と、カーテンエアバッグ130とを備えている。カーテンエアバッグ130は、エアバッグ本体32と、インナーチューブ140とを有している。上記インフレータ22及びエアバッグ本体32自体については、上記第1実施形態で説明したものと同様構成であるため、ここではそれらの説明を省略する。
【0061】
インナーチューブ140は、上記エアバッグ本体32内に設けられ、インフレータ22からのガスをエアバッグ本体内の複数箇所に分配するように構成されている。
【0062】
より具体的には、インナーチューブ140は、帯状の第3基布142を筒状に丸めてその両側縁部を、それらの内側面同士を対向させて縫合することにより形成されており、両端部が開口すると共に、長手方向中間部が一側方に開口した略筒状に形成されている。このインナーチューブ140は、一端部をエアバッグ本体32のインフレータ導入部35内に配設すると共に、他端部をエアバッグ本体32内の長手方向中間部に配設した状態で、当該エアバッグ本体32内に取付けられている。エアバッグ本体32のインフレータ導入部35内に配設されたインフレータ22の一端部が、インナーチューブ140の一端部内にも挿入されている。そして、インフレータ22から供給されるガスが、インナーチューブ140内を通ってその長手方向中間部の開口及び他端部の開口を通じて、エアバッグ本体32内に導入されるようになっている。なお、第3基布142は、複数の布を重ね合せたものであってもよい。
【0063】
上記インナーチューブ140には、その両側縁部同士を縫合した縫合部146を覆うようにして保護布150が縫着されている。
【0064】
保護布150は、第3基布142よりも幅狭な帯状の布であり、ここでは、第3基布142と略長さ寸法とされている。この保護布150の両側縁部は、縫合部146を覆うように、第3基布142の一対の対向部分である両側縁部のそれぞれに、縫合部146から離れた位置で前記縫合部146に沿って、縫い糸を介して縫合されている。なお、この保護布150も、複数の布が重ね合されたものであってもよい。
【0065】
第3基布142の両側縁部に対する保護布150の縫着構成は、第1実施形態において一対の基布34に対する保護布50の縫着構成と同様である。
【0066】
つまり、保護布150の幅方向両側の端縁部は第3基布142の縫合部146に向うと共に、保護布150の幅方向中間部はインフレータ22からのガスが導入される内部空間側(つまり、インナーチューブ140の内部空間側)に向いた姿勢とされている。
【0067】
また、上記保護布150の幅方向両側の端縁部は、第3基布142の両側端縁部に対して揃えられている。
【0068】
また、上記保護布150を基準にして、保護布150を第3基布142に縫合した一対の保護布縫合部154間の長さ寸法L5(つまり、保護布150の一対の保護布縫合部154間の長さ寸法)は、第3基布142を基準とする一対の保護布縫合部154間の長さ寸法M5(つまり、第3基布142の一方側の保護布縫合部154と縫合部146間の長さ寸法と他方の保護布縫合部154間と縫合部146間の長さ寸法との和)よりも大きくなるように設定されている。
【0069】
上記保護布150は、例えば、次のようにして第3基布142に縫着される。
【0070】
まず、図15に示すように、第3基布142及び保護布150を準備する。
【0071】
そして、図16に示すように、第3基布142の一方側の側縁部と保護布150の一方側の側縁部とを揃えるようにしつつ、第3基布に保護布150を重ねて配設する。そして、第3基布142の一方側の側縁部と保護布150の一方側の側縁部とを縫い糸で縫合して一方側の保護布縫合部154を形成する。
【0072】
次に、図17に示すように、第3基布142を2つ折りにするようにして、第3基布142の他方側の側縁部と保護布150の他方側の側縁部とを揃え、それらを縫い糸で縫合して他方側の保護布縫合部154を形成する。
【0073】
この後、図18に示すように、保護布150を内側に折込むようにしつつ、2つ折りされた第3基布142の両側縁部同士を揃える。
【0074】
この後、第3基布142の両側縁部を揃え、一方側及び他方側の保護布縫合部154と両側縁部の端との間を縫合して縫合部146を形成することで、インナーチューブ140が完成する。なお、縫合部146は、第3基布142と保護布150とを一括して縫い合せることで形成されている。この縫合部146は、カーテンエアバッグ本体32を形成する際の縫合部36と共通化されていてもよい。
【0075】
上記のように、第3基布142の側縁部と保護布150の側縁部とを揃えて、各保護布縫合部154を形成しているため、インナーチューブ140に対する保護布150の位置決めを容易かつ正確に行えることになる。
【0076】
このように製造されたインナーチューブ140は、部分的に、或は、第3基布142の側縁部全体的に、エアバッグ本体32に縫合等された状態で、エアバッグ本体32に取付けられる。
【0077】
なお、かかるインナーチューブ140では、保護布150により略筒状空間が形成される。この場合、第3基布142だけによって形成される開口(つまり、インナーチューブ140としての開口)は開口させたままにしておき、その保護布150により形成される両端側開口のうちインフレータ22側の開口を別途縫い合せる等して閉鎖しておくことが好ましい。例えば、図18に示すように、第3基布142の両側縁部を縫合する前に、保護布150を縫い合せて閉鎖縫合部158を形成しておくとよい。これにより、インフレータ22を誤って保護布150内に挿入することを抑制することができる。なお、閉鎖縫合部158は、前記開口の全体を閉鎖する必要はなく、インフレータ22を挿入できない程度に前記開口を部分的に閉鎖していてもよい。
【0078】
なお、後述する図19に示す例のように、保護布150Bと第3基布142とによって開口が形成されている場合には、当該保護布150Bと第3基布142とによって形成される一方側の開口の全体又は一部を閉鎖するとよい。
【0079】
このように構成されたカーテンエアバッグ装置120によると、インフレータ22からのガス導入により、カーテンエアバッグ30が膨張展開しようとする際、インフレータ22からのガスはインナーチューブ140を通ってエアバッグ本体32内に導入される。
【0080】
そして、インフレータ22からのガスがインナーチューブ140内を通る際、縫合部146を覆うようにして保護布150が取付けられているため、上記第1実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0081】
つまり、インフレータ22からのガスは、保護布150に直噴され、当該保護布150により受止められるため、縫合部146がインフレータ22からの高温ガスに直接曝されることを抑制でき、縫合部146に対する熱的影響を抑制できる。これにより、インフレータ22からのガスを、インナーチューブ140によってより確実に分配して、エアバッグ本体32をより確実に膨張させることができる。この際、保護布150は、インナーチューブ140の内周面に密着するので、インナーチューブ140内におけるガスの流れは妨げられにくい。
【0082】
また、保護布150側の一対の保護布縫合部154間の長さ寸法L5は、第3基布142側の一対の保護布縫合部154間の長さ寸法M5よりも大きいため、上記と同様に、高温ガスに曝される箇所を保護布150にし、張力の作用箇所を縫合部146にすることで、両作用箇所を分散させることができ、インナーチューブ140を強度的に優れたものとすることができる。
【0083】
また、保護布150の幅方向両側の端縁部は縫合部146に向うと共に、保護布150の幅方向中間部はインフレータ22からのガスが導入される内部空間側に向いた姿勢で、保護布150が取付けられているため、保護布縫合部154についても、高温高圧ガスに直接曝されることを抑制することができ、当該保護布縫合部154の破損を有効に抑制することができる。
【0084】
しかも、保護布150の余剰分の両側縁部は、ガス圧により保護布縫合部154を覆うようにインナーチューブ140内に密着するように押付けられるため、保護布縫合部154の全体についても、保護布150によって覆われるようになる。このため、当該保護布縫合部154の破損をより有効に抑制することができる。
【0085】
なお、本実施形態についても、上記第1実施形態に係る変形例と同様各種変形例を考えることができる。
【0086】
例えば、図19に示すように、保護布150に対応する保護布150Bの幅方向両側端縁部は、必ずしも、第3基布142の両側端縁部に揃えて配設されている必要はない(第1実施形態に関し図8に示す変形例参照)。
【0087】
また、例えば、図20に示すように、保護布150に対応する保護布150Cの幅方向中間部を縫合部146に向けると共に、保護布150Cの幅方向両側の端縁部を縫合部146の反対側に向けた姿勢で、当該保護布150Cがインナーチューブ140に取付けられていてもよい(第1実施形態8に関し図9に示す変形例参照)。
【0088】
また、本第2実施形態についても、上記第1実施形態に関して図10及び図11に示す変形例と同様に、保護布側の一対の保護布縫合部間の長さ寸法が、第3基布側の一対の保護布縫合部間の長さ寸法方よりも小さくなるように設定され、保護布縫合部がインフレータからガス導入によってエアバッグの膨張途中で破断可能に形成されていてもよい。
【0089】
<変形例>
なお、上記第1実施形態及び第2実施形態の例に拘らず、保護布は、インフレータからのガスが導入される一部に設けてあればよい。例えば、第1実施形態において、保護布50は、縫合部36aよりもさらに拡がった部分に設けられていてもよい。また、第2実施形態において、保護布150は、インナーチューブ140のうちインフレータ22により近い部分だけに設けられていてもよい。また、保護布が設けられる縫合部は、基布の端縁部に形成されたものである必要はない。例えば、一枚の基布又は一対の基布が端縁部以外の箇所で、所定の膨張展開形態(例えば、扁平な形状)を得るために縫合されている場合に、当該縫合部に対して上記と同様構成にて保護布が設けられていてもよい。つまり、基布の対向部分が縫合されている場合に、当該縫合部を覆うように、一対の基布の対向部分のそれぞれに縫合部から離れた位置で縫合部に沿って保護布が縫着されていればよい。
【0090】
また、保護布は、上記カーテンエアバッグ以外にも適用可能である。つまり、エアバッグは、1枚又は複数枚の基布を縫合することにより形成され、インフレータからのガスが導入される内部空間を有しており、インフレータ22からのガスが導入される部分に基布の端縁部を一対縫合した縫合部を有していれば、当該縫合部を覆うように保護布を設けた構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0091】
20 カーテンエアバッグ装置
22 インフレータ
30 カーテンエアバッグ
32 エアバッグ本体
34(34a,34b) 基布(第1基布、第2基布)
36a 縫合部
50,50B,50C,50D 保護布
54,54D 保護布縫合部
120 カーテンエアバッグ装置
130 カーテンエアバッグ
140 インナーチューブ
146 縫合部
150,150B,150C 保護布
154 保護布縫合部
158 閉鎖縫合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両緊急時にガスを供給するインフレータと、
前記インフレータからのガス導入によって膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、前記インフレータからのガスが導入される部分に、基布の対向部分を一対縫合した縫合部を有し、前記インフレータからのガスが導入される内側から前記縫合部を覆うように、一対の前記対向部分のそれぞれに前記縫合部から離れた位置で前記縫合部に沿って縫着された保護布をさらに有する、エアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、第1基布と第2基布とが縫合されることで袋状に膨張展開するエアバッグ本体を有し、前記エアバッグ本体に対して直接的に前記インフレータからのガスが導入され、
前記第1基布と前記第2基布との縫合部のうち少なくとも一部に、前記保護布が設けられている、エアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1記載のエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、袋状に膨張展開するエアバッグ本体と、前記エアバッグ本体内に設けられ、前記インフレータからのガスを前記エアバッグ本体内の複数箇所に分配するインナーチューブとを有し、
前記インナーチューブは、帯状の第3基布を筒状に丸めてその両端縁部を、それらの内側面同士を対向させて縫合することにより形成されており、
前記インナーチューブの両端縁部の縫合部のうち少なくとも一部に、前記保護布が設けられている、エアバッグ装置。
【請求項4】
請求項3記載のエアバッグ装置であって、
前記保護布又は前記保護布及び前記第3基布により形成される前記インフレータ側の開口が閉鎖された、エアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のエアバッグ装置であって、
前記保護布を基準にして、その保護布が前記一対の端縁部にそれぞれ縫着された一対の保護布縫合部間の幅が、前記基布を基準とする一対の前記保護布縫合部間の幅よりも大きい、エアバッグ装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のエアバッグ装置であって、
前記保護布を基準にして、その保護布が前記一対の端縁部にそれぞれ縫着された一対の保護布縫合部間の幅が、前記基布を基準とする一対の前記保護布縫合部間の幅よりも小さく、前記一対の保護布縫合部のうちの少なくとも一方が、ガス導入によって作用する張力によって破断可能に形成された、エアバッグ装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のエアバッグ装置であって、
前記保護布は、その端縁部を前記縫合部に向けると共に、その幅方向中間部を前記インフレータからのガスが導入される内部空間側に向けるようにして、前記一対の基布の端縁部に縫着されている、エアバッグ装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のエアバッグ装置であって、
前記基布の端縁部と前記保護布の端縁部とが揃えられた状態で、前記保護布が縫着されている、エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−254057(P2010−254057A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104708(P2009−104708)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】