説明

エアフィルタ濾材

【課題】上下流側の見分けを容易に確認できるエアフィルタ濾材、捕集された粉塵による見た目の不衛生感を排除できるエアフィルタ濾材を提供する。
【解決手段】少なくとも1層のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜1と、少なくとも1層の通気性繊維材料2a,2b,3とを含み、最外層に配置される2層の少なくとも一方が着色処理されたエアフィルタ濾材とする。この濾材は、断面方向について構造が非対称である場合であっても上(下)流側に配置すべき面を容易に判別できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エアフィルタ濾材およびこれを用いたフィルタユニットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
タービンの吸気側には、ガラス繊維にバインダーを加えて抄紙したフィルタ濾材が多く用いられている。しかし、この濾材には、微細な小繊維が付着しており、折り曲げの際には自己発塵する。このため、濾材が脱落した微細な繊維がタービンに付着する。これに対し、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」を略す)は、クリーンな材料であり、耐薬品性にも優れている。PTFE多孔質膜と、これを補強する通気性支持材との積層体であるエアフィルタ濾材は、例えば、半導体産業におけるクリーンルームなどで使用されている。通気性支持材は、PTFE多孔質膜を挟持するように配置される。特許文献1に記載されているエアフィルタ濾材は、その一例である。
【0003】
PTFE多孔質膜を含むフィルタ濾材の用途は、掃除機のファイナルフィルタなど民生機器にも広がりつつある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−61280号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
PTFE多孔質膜を含むフィルタ濾材は、ガラス繊維製の濾材に比べ、同じ圧力損失で比較する限りにおいて、捕集効率が高い。したがって、タービンの吸気側などに用いると、運転中の圧力損失が大きくなるという問題がある。この問題を解決する方法の一つは、上流側に配置される通気性支持材の捕集効率をある程度高めてプレフィルタとして作用させることである。通気性支持材が不織布などの通気性繊維材料である場合、一般に、繊維を細くすれば捕集効率は高くなる。この場合、下流側に配置する通気性支持材は、補強材としての役割を十分に果たせるように、上流側よりも繊維径が大きい通気性繊維材料から構成される。
【0006】
上下流側で径が異なる繊維材料を通気性支持材として用いた場合のように、断面方向について構造が非対称となっているエアフィルタ濾材は、気流の上下流側に沿って適切に配置する必要がある。しかし、エアフィルタ濾材では、表裏面を判別しがたい、あるいは間違えやすいことがあった。また、掃除機のファイナルフィルタなど民生用のエアフィルタ濾材では、捕集された粉塵が人の目に不衛生に映る場合がある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明は、少なくとも1層のPTFE多孔質膜と、少なくとも1層の通気性繊維材料とを含み、最外層に配置される2層の少なくとも一方が着色処理され、最外層の色が互いに相違するエアフィルタ濾材を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のエアフィルタ濾材は、少なくとも1層の通気性繊維材料として、着色処理された2層の通気性繊維材料を含み、この2層の通気性繊維材料がそれぞれ最外層に配置されていてもよい。ともに着色処理された最外層を用いると、粉塵による不衛生感を低減できる。
【0009】
本発明のエアフィルタ濾材は、断面方向について構造が非対称であり、最外層に配置される2層の色が互いに相違していてもよい。色が異なる最外層により、容易に上流側または下流側に配置すべき面を判別できる。
【0010】
この場合、エアフィルタ濾材は、少なくとも1層の通気性繊維材料として、繊維径が互いに相違する2以上の通気性繊維材料を含み、この2以上の通気性繊維材料に由来して断面方向について構造が非対称となっていてもよい。これにより、例えばプレフィルタとすべき通気性繊維材料が含まれていても、この通気性繊維材料を上流側に配置することが容易となる。
【0011】
図1は、本発明の濾材の一例を示す断面図である。図1に示した形態では、PTFE多孔質膜1を挟持するように、2層の通気性繊維材料2,2が配置されている。通気性繊維材料2,2の少なくとも一方、好ましくは両方には、着色処理が施されている。量産されている通気性繊維材料は、一般には白色であるが、最外層を着色処理しておくと、捕集した塵埃による濾材の変色が目立たなくなる。最外層の着色処理は、掃除機のファイナルフィルタや一般空調用のエアフィルタにおける変色による不衛生感を軽減できる。この濾材(断面方向について構成が対称である濾材)における着色処理は、変色防止を主目的としているため、通気性繊維材料2,2は、同色に着色してもよい。
【0012】
図2は、本発明の濾材の別の一例を示す断面図である。図2に示した形態では、PTFE多孔質膜1の一方の面に2層の通気性繊維材料2a,3が、他方の面に通気性繊維材料2bがそれぞれ配置されている。通気性繊維材料3は、通気性繊維材料2a,2bよりも相対的に繊維径が小さく、捕集効率も高い。この繊維材料3は、プレフィルタとしての役割を果たすために上流側に配置される。この濾材では、最外層に配置される通気性繊維材料2b,3のいずれか一方、または双方が着色処理され、これら繊維材料2b,3の外観が相違している。この濾材における着色処理は、表裏の判別を主目的としているため、通気性繊維材料2b,3のいずれか一方は、着色処理することなく、白色のままとしてもよい。
【0013】
本発明のエアフィルタ濾材は、図1および図2に例示した構成に限らず、多種多様な膜構成をとることができる。エアフィルタ濾材は、例えば、複数のPTFE多孔質膜を含んでいてもよく、また例えば、PTFE多孔質膜が最外層の一方に配置され、最外層の他方に着色処理された通気性繊維材料が配置されていてもよい。エアフィルタ濾材は、後述する方法に基づき、粒径を0.3〜0.4μmとして測定した捕集効率が99.97%以上であることが好ましく、HEPAフィルタとして用いることができる。また、後述する方法に基づき、粒径を0.1〜0.2μmとして測定した捕集効率が99.995%以上であることが好ましく、ULPAフィルタとして用いることができる。
【0014】
通気性繊維材料は、PTFE多孔質膜よりも通気性が高ければよく、不織布、織布、メッシュ(網目状シート)、フェルトなど、その構造や形態に制限はない。ただし、強度、捕集性、柔軟性、作業性などの観点から、不織布が好適である。繊維としては、セルロース、ビスコースなどの半合成繊維、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)など)、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など)、ポリアミド、アクリル、ポリスルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリ弗化ビニリデンなどの合成繊維を用いればよい。
【0015】
通気性繊維材料の繊維径についても特に制限はない。プレフィルタとするための通気性繊維材料3の繊維径は0.2μm〜15μmが好ましい。
【0016】
PTFE多孔質膜は、従来から知られている製法により得たものを用いればよい。PTFE多孔質膜は、PTFEシートを一軸延伸または二軸延伸して製造される。PTFEシートは、一般に、PTFEファインパウダーに液状潤滑剤を加えたペースト状の混和物を予備成形し、予備成形体をペースト押し出し、圧延によりシート状に成形して作製される。なお、液状潤滑剤は、PTFEファインパウダーの表面を濡らすことができて抽出や加熱により除去できるものであれば特に制限されず、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイルなどの炭化水素を用いればよい。液状潤滑剤の添加量は、PTFEファインパウダー100重量部に対して5〜50重量部が適当である。予備成形は、液状潤滑剤が絞り出されない程度の圧力で行えばよい。液状潤滑剤は、延伸するPTFEシートから予め除去しておくとよいが、延伸後に除去しても構わない。
【0017】
PTFE多孔質膜は、特に制限されないが、平均孔径0.01〜5μm、平均繊維径0.02〜0.3μm、圧力損失50〜1000Paの特性を有することが好ましい。圧力損失は、5.3cm/秒の流速で空気を透過させて測定して得た値に基づく。
【0018】
PTFE多孔質膜は多孔質であるため、通常、白色に映る。通気性繊維材料の一般的なグレードも白色である。着色処理は、特に制限されないが、例えば、顔料を練り込むことにより、あるいは染料による染色により、行うことができる。
【0019】
通気性繊維材料に顔料を練り込む場合は、原料である樹脂原料を溶融して混練するとよい。PTFE多孔質膜に顔料を練り込む場合は、PTFEファインパウダーに液状潤滑剤とともに顔料を加えるとよい。導電性など他の機能を発現させるために複数種類の顔料を練り込んでも構わない。染料を用いる場合は、着色処理の対象とする通気性繊維材料またはPTFE多孔質膜を染料に浸漬するとよい。ただし、積層してフィルタ濾材としてから染料に浸漬しても構わない。
【0020】
PTFE多孔質膜と通気性繊維材料とは、単に重ね合わせるだけとしてもよいし、熱ラミネート、接着剤ラミネートなどの方法により複合化してもよい。具体的には、例えば、通気性繊維材料の原料繊維の融点およびPTFEの融点よりも低い融点を有するパウダーやウェブをPTFE多孔質膜と繊維材料との間に介在させて加熱する方法が挙げられる。通気性繊維材料の融点がPTFEの融点よりも低ければ、繊維材料の一部を溶融して複合化してもよい。PTFE多孔質膜と通気性繊維材料とを接着剤を用いて複合化する方法を用いてもよい。この場合、接着剤としては、2液混合型や熱による自己架橋型の接着剤などが適している。2液混合型としてはエポキシ樹脂、熱による自己架橋型としては酢酸ビニル−エチレン共重合体やエチレン−塩化ビニル共重合体などを用いればよい。
【0021】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。圧力損失、捕集効率の測定は、以下に示す方法により行った。
【0022】
(圧力損失)
サンプルを有効面積100cmの円形のホルダーにセットし、上流側と下流側とに圧力差を与え、空気の透過速度を流量計で5.3cm/秒に調整したときの圧力損失を圧力計(マノメーター)で測定した。測定は1サンプルにつき10箇所行い、各測定値の平均をサンプルの圧力損失とした。
【0023】
(捕集効率)
圧力損失の測定と同一の装置を用い、空気の透過速度を5.3cm/秒に調整して、上流側に粒径0.3〜0.4μmの多分散ジオクチルフタレート(DOP)粒子が約10個/リットルになるように供給し、上流側の粒子濃度とサンプルを透過してきた下流側の粒子濃度とをパーティクルカウンターで測定し、以下の式に基づいて捕集効率を求めた。なお、粒径0.1〜0.2μmのDOP粒子については、約10個/リットルになるように供給して捕集効率を求める。
【0024】
捕集効率(%)=(1−下流側粒子濃度/上流側粒子濃度)×100
【0025】
(実施例1)
PTFEファインパウダー(旭硝子フロロポリマーズ社製アフロンCD123)100重量部に対して液状潤滑剤(ドデカン)20重量部を均一に混合し、この混合物を予備成形し、次いでこれをペースト押出により丸棒状に成形した。さらに、この丸棒状成形体を一対の金属製圧延ロール間に通して、厚さ0.2mmのシート状成形体を得た。引き続き、このシート状成形体から、ノルマルデカンを用いた抽出法により液状潤滑剤を除去した。
【0026】
このシート状成形体を2軸に延伸してPTFE多孔質膜(厚さ10μm、平均孔径1.0μm、気孔率93%、圧力損失160Pa、DOP粒径0.3〜0.4μmについての捕集効率99.999%を得た。
【0027】
こうして得たPTFE多孔質膜と、2枚の着色処理したPET/PE芯鞘不織布(灰色、目付量30g/m)とを、不織布が多孔質膜を挟持するように重ね合わせ、不織布の鞘部PEの融点よりも高い180℃に加熱した一対のロールの間を通過させることによって熱ラミネートを行った。こうして、PTFE多孔質膜と通気性繊維材とのエアフィルタ濾材を得た。このエアフィルタ濾材の捕集効率は、DOP粒径0.3〜0.4μmについて99.999%であった。
【0028】
(比較例1)
着色処理していないPET/PE芯鞘不織布(白色、目付量30g/m)を用いた以外は実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜と通気性繊維材とのエアフィルタ濾材を得た。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同様にしてPTFE多孔質膜を得た。一方で、第1通気性繊維材料としてPP不織布(白色、目付量30g/m、繊維径約0.5〜3μm)を、第2通気性繊維材料としてPET/PE芯鞘不織布(白色、目付量30g/m、繊維径約20μm)を、着色処理した第3通気性繊維材料としてPET/PE芯鞘不織布(灰色、目付量30g/m、繊維径約20μm)を、それぞれ準備した。
【0030】
第1通気性繊維材料と第2通気性繊維材料とを重ね合わせ、140℃に加熱した一対のロールに通過させることにより熱ラミネートを行い、通気性繊維材料の積層体を得た。他方、PTFE多孔質膜と第3通気性繊維材料とを重ね合わせ、180℃に加熱した一対のロールに通過させることにより熱ラミネートを行い、PTFE多孔質膜と通気性繊維材料との積層体を得た。次いで、この2つの積層体を、PTFE多孔質膜と第2通気性繊維材料とが接するように重ね合わせ、130℃に加熱した一対のロールに通過させることにより熱ラミネートを行った。こうして、エアフィルタ濾材を得た。
【0031】
(比較例2)
第3通気性繊維材料として着色処理していないPET/PE芯鞘不織布(白色、目付量30g/m、繊維径約20μm)を用いた以外は実施例2と同様にして、エアフィルタ濾材を得た。
【0032】
実施例1および比較例1からそれぞれ得たエアフィルタ濾材を、有効面積100cmの円形ホルダーにセットし、透過流速が5.3cm/秒となるように吸引しながら大気塵を10時間供給した。比較例1のエアフィルタ濾材は、10m離れたところからでも大気塵による汚れが確認できたが、実施例1のエアフィルタ濾材では汚れが確認できなかった。また、比較例2から得たエアフィルタ濾材では目視により表裏を判別できなかったが、実施例2から得たエアフィルタ濾材では目視により容易に表裏を区別できた。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したとおり、本発明によれば、上(下)流側に配置すべき面の見分けが容易なエアフィルタ濾材、捕集された粉塵による見た目の不衛生感を排除できるエアフィルタ濾材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフィルタ濾材の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明のフィルタ濾材の別の一形態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 PTFE多孔質膜
2,2a,2b,3 通気性繊維材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜と、少なくとも1層の通気性繊維材料とを含み、最外層に配置される2層の少なくとも一方が着色処理されたエアフィルタ濾材。
【請求項2】
前記少なくとも1層の通気性繊維材料として、着色処理された2層の通気性繊維材料を含み、この2層の通気性繊維材料がそれぞれ最外層に配置された請求項1に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項3】
断面方向について構造が非対称であり、前記2層の色が互いに相違する請求項1に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項4】
前記少なくとも1層の通気性繊維材料として、繊維径が互いに相違する2以上の通気性繊維材料を含み、この2以上の通気性繊維材料に由来して前記構造が非対称となっている請求項3に記載のエアフィルタ濾材。

【図1】
image rotate



【図2】
image rotate


【公開番号】特開2004−261737(P2004−261737A)
【公開日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−55864(P2003−55864)
【出願日】平成15年3月3日(2003.3.3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】