説明

エカベトナトリウムの不快な味をマスキングしてなるゼリー状製剤

【課題】エカベトナトリウムの苦味を低減ないしは隠蔽し、かつ服用し易いゼリー状製剤を提供する。
【解決手段】エカベトナトリウム、ゲル化剤及び水を含み、pHが酸性領域下にされているゼリー状製剤であり、エカベトナトリウム、ゲル化剤及び水を含み、糖アルコールをさらに含むゼリー状製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エカベトナトリウムを含むゼリー状製剤に関する。詳細には、本発明は、エカベトナトリウムの不快な味をマスキングしてなる、服用し易いゼリー状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
「高齢者に投与最適な新規製剤および新規包装容器の作成研究」(杉原正泰、厚生労働省厚生科学研究、1988年、非特許文献1)において、高齢者が将来希望する剤形の一つにゼリー剤という回答が挙げられている。ゼリー状の製剤(以下、ゼリー状製剤という)は、液体に比べて薬物が口中で広がらず、適度な流動性によって嚥下が容易であること、苦味または特異臭をマスキングしやすいこと、服用時に水分摂取量が制限できること、水剤と比べて携帯が便利であり、外出先でも水なしで服用できること、高齢者のみならず老若男女に受け入れられる剤形であること等の理由から、臨床的価値を見出すことができる。
【0003】
近年、ゼリー状製剤の開発が進められ(例えば、特許文献1〜3を参照)、現在までに高カリウム血症改善薬(アーガメイトゼリー;三和化学研究所)、抗ウイルス化学療法剤(アシビル内服ゼリー;テイコクメディックス)、高アンモニア血症用剤・生理的腸管機能改善剤(ラグノスゼリー;大蔵製薬、カロリールゼリー;佐藤製薬)、抗血小板剤(シロスレット内服ゼリー;太田−ゼリアテイコクメディックス)、経口浸透圧利尿剤・メニエール病改善剤(メニレットゼリー;三和化学研究所)の6種が薬価収載されている。ゼリー状製剤はその服用し易さ及び取り扱い易さから、医療の現場からの要望は高いにもかかわらず、市販されているのはこれら6種のみである。これは、例えば、水分存在下での主薬の安定性、基材と主薬との配合変化または相互作用、ゼリー化による消化管吸収への影響、ゼリーの物性コントロール、苦味コントロールができないなどの製剤技術上の課題があること(非特許文献2を参照)、及び剤形として新規であり、厚生労働省による定義付けもされていないことの理由による。
【0004】
エカベトナトリウム(1,4a−ジメチル−1−カルボキシ−6−スルホ−7−イソプロピル−1,2,3,4,4a,9,10,10a−オクタヒドロフェナンスレンモノナトリウム)は、消化性潰瘍用剤として使用されているが、渋く苦い味をもつ。この苦味をマスキングするために、エカベトナトリウムをコーティングした製剤(特許文献4を参照)、塩化アルカリ金属が配合されてなるエカベトナトリウム含有経口投与製剤(特許文献5を参照)が知られている。しかし、これらはいずれも、散剤、顆粒剤、細粒、錠剤、ドライシロップを対象としている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−194346号公報
【特許文献2】特開平9−187233号公報
【特許文献3】特開平10−236983号公報
【特許文献4】特許3505734号公報
【特許文献5】特許2809301号公報
【非特許文献1】杉原正泰、高齢者に投与最適な新規製剤および新規包装容器の作成研究、厚生労働省厚生科学研究、1988年
【非特許文献2】森田俊博、PHARM STAGE、第5巻、4号、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エカベトナトリウムは顆粒剤として市販されているが、その苦味を隠蔽するために、食塩を添加すること、或いは高分子コーティングを行うことが提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、いずれも服用時に口腔内でざらついたり、または歯茎に詰まるなどし、必ずしも服用し易い剤形とは言えない。そこで、本発明者らは、エカベトナトリウムについて服用し易いゼリー状製剤を得るために、エカベトナトリウムを含有するゼリー剤の開発に着手した。しかし、エカベトナトリウムを含むゼリー状製剤では、一般的なゼリー化法(例えば、ペクチンまたは寒天を用いてこれに主薬を加えて懸濁する方法)、または苦味の緩和法(例えば、甘味剤であるアスパルテームの添加)だけでは、十分に苦味を低減させることができない。さらに、エカベトナトリウムの苦味隠蔽技術として、エカベトナトリウムをコーティングした製剤(特許文献4)、塩化アルカリ金属が配合されてなるエカベトナトリウム含有経口投与製剤(特許文献5)が知られている。しかし、コーティングはゼリー状製剤に不向きであり、また塩化ナトリウムを添加した場合には塩味が強く服用性が低下することが分かった。また、ゼリー状製剤では、ゲル強度が弱く低粘度のとき服用時口腔内で唾液により希釈され易いため、苦味が生じやすいという問題があった。他方、高粘度のゼリー状製剤では、pHや糖アルコールの量等所定の要件を充たしていれば苦味の問題はないが、ゲル強度が高すぎる故に異物感が残ってしまうという問題があった。
【0007】
そのため、エカベトナトリウムの苦味を低減ないしは隠蔽し、かつ服用性の高いゼリー状製剤の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のゼリー状製剤は、エカベトナトリウム、ゲル化剤及び水を少なくとも含む。本発明のゼリー状製剤は、pHが酸性領域下にされていることで、これら薬物の溶解度を下げ、これら薬物の不快な味をマスキングする。好ましくは、本発明のゼリー状製剤は、緩衝剤を含み、該緩衝剤により酸性領域下にされている。さらに、本発明のエカベトナトリウムを含むゼリー状製剤は糖アルコールを含んでいることで、これら薬物の溶解度を下げてこれら薬物の不快な味をマスキングする。
本発明のゼリー状製剤は、下記特徴を有する。
1.従来の顆粒剤と異なり、ゼリー化することで、口腔内でまろやかさが発揮されるとともに、舌への薬物の接触を減じる。
2.薬物の溶解度を緩衝剤により酸性領域下にすることで、薬物の苦味が減少される。
3.ゼリー状製剤が酸性領域下にあることから口腔内の微量の唾液が酸性領域下になり、ゼリー状製剤中の薬物が口腔内で溶解しにくい。
4.ゼリー状製剤が糖アルコールを含むことによって、薬物の溶解度を減少させる。
これら特徴によって、エカベトナトリウムの苦味が低減ないしは隠蔽される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゼリー状製剤を服用しても、薬物の溶解度が減少されていることから苦味がマスキングされ、さらに舌または口腔内において粘膜に直接薬物が接触しないため、異物による違和感が少なくなる。また、ゼリー化により口腔内でまろやかとなり、服用しやすい。
【0010】
また、本発明のゼリー状製剤は、ゲル強度が固すぎずかつ柔らかすぎず、服用時の口腔内の舌触りが良く、そして、飲み込みやすい。これにより、お年寄りや子供が喉を詰まらせることを回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
不快な味とは、エカベトナトリウム由来の苦味、渋味などをいう。
【0012】
不快な味をマスキングするとは、薬物の不快な味を低減ないしは隠蔽することをいい、詳細にはエカベトナトリウムの苦味または渋み、特に苦味を低減ないしは隠蔽することをいう。服用し易いことには、舌の痺れ感、ざらつきなどの改善も含まる。
【0013】
本発明において「ゼリー状製剤」とは、薬物に、ゲル化剤及び水を添加し、剤型をゼリー状としたものをいう。ゼリー状製剤の剤形は特に限定されないが、喉につまらないような形状に工夫することが好ましい。
【0014】
本発明において「ゲル化剤」として、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、グァーガム、カラヤガム、ガティガム、タラガム、タマリンドガム、ジェランガム、アゾトバクタービネランジーガム、アラビノガラクタン、ペクチン、トラガント、カードラン、ゼラチン、デンプン、デンプン誘導体、マンナン、プルラン、アルギン酸またはその塩(例えばナトリウム塩)、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースナトリウム、ファーセレラン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポビドン、ポリアクリル酸ナトリウム及びコンドロイチン硫酸ナトリウムから選択される1または2種以上を使用できるが、これらに限定されない。
【0015】
ゲル化剤としてペクチンを使用することが好ましい。ペクチンの使用により、ゲル化が容易に行われる。また、ペクチンの使用により、安定した粘度および安定したpHである均一的なゼリー状製剤が得られる。ペクチンの使用によるゲル化は、好ましくはpH5.5以下、特にはpH2.5〜3.5、より特にはpH2.7〜3.3で行われる。前記pHにおいて、より容易にゲル化される。さらに、カルシウムイオンを加えることも好ましい。カルシウムイオンの添加により均一的なゼリー状製剤を得ることができる。ここで、「均一的」とは固さ又は味において均一であることをいい、特に固さにおいて均一であることをいう。ゼリー状製剤が均一的であることにより、程よい食感が得られる。また、カルシウムイオンの添加により、ゼリー状製剤の粘度が上昇する。すなわち、カルシウムイオンの添加により、増粘効果が得られる。カルシウムイオンの添加の為に、任意のカルシウム塩が用いられてよく、特には塩化カルシウムが好ましい。カルシウムイオンの添加量は、ゼリー状製剤の所望の食感又は粘度等に基づき、当業者の通常の手段により定められる。
【0016】
本発明において「pHが酸性領域下にされている」とは、ゼリー状製剤のpHが酸性領域下に調製されていることをいう。ゼリー状製剤のpHを酸性領域下に調製することによって、エカベトナトリウムの溶解度が低下する。ゼリー状製剤のpHは、エカベトナトリウムの溶解度とpHの関係を求めて、これら薬物の溶解度が低下したpH領域を検討することによって求められる。
【0017】
本発明のゼリー状製剤のpHは、好ましくは5.5以下である。さらに好ましくは、ゼリー状製剤のpHは4.5以下である。なお、ゼリー状製剤の酸性が強い状態、例えばpH1以上2未満では舌ないしは口腔内粘膜に刺激を与えることがあるため、舌に与える感覚の度合いによってpHの下限値を決めることができる。例えば、ゼリー状製剤のpHの下限値を2以上、好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上にする。
【0018】
ゼリー状製剤のpHを酸性領域下に調製するために、好ましくは緩衝剤を用いる。緩衝剤として、リン酸、アスコルビン酸、塩酸、クエン酸、グルタミン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、およびこれらの医薬的に許容される塩から選択される1または2種以上を使用できるが、これらに限定されない。リン酸として、例えばリン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物が挙げられる。炭酸の塩として、例えば炭酸ナトリウムが挙げられる。緩衝剤の組み合わせとして、例えばリン酸二水素ナトリウムとクエン酸、リン酸二水素ナトリウムとリン酸を挙げることができるが、当業者に自明な組み合わせを採用することが可能である。
【0019】
緩衝剤は、ゼリー状製剤に含まれる水分量、薬物の溶解度、不快な味のマスキング効果等を考慮し、添加する量を変えることができる。また、口中の唾液量は少量のため、添加する緩衝剤が少量でも効果を得ることができる。
【0020】
本発明のゼリー状製剤は、緩衝剤ととともにまたは緩衝剤無しで糖アルコールを含む。ゼリー状製剤が緩衝剤を含まず糖アルコールを含む場合であっても、薬物の苦味をマスキングすることができるが、緩衝剤とともに使用することによって、薬物の苦味を殆どマスキングできる点で有利である。糖アルコールとして、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、還元パラチノース、および還元水飴から選択される1または2種以上を使用できる。糖アルコールの最適量は、ゼリー状製剤の全量に対して50重量%以上である。糖アルコールのうち、ソルビトールは消化管内での吸収性が不良であるため緩下性を有するので、一日摂取量に留意する必要がある。例えば、ソルビトールの場合、成人一回量当り30〜60g投与で下痢を起こすことが知られている。糖アルコールの種類によって、薬物の溶解度は変わらない。
なお、糖アルコールの代わりにショ糖を用いた場合、ショ糖は保湿性に欠けるため、水分飛散により薬物が析出しゼリー状製剤の安定性が不良となるために好ましくない。ただし、ショ糖を糖アルコールとともに甘味剤として用いることができる。
【0021】
糖アルコールは一般にその甘味が弱いため、甘味付与を目的に、高甘味度甘味料、ショ糖、グルコース、フルクトースをゼリー状製剤に含有させることができる。高甘味度甘味料として、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア、ソーマチン、グリセリン、グリチルリチン酸二カリウムを挙げることができる。
【0022】
ゼリー状製剤は、上記成分以外に本発明の効果を損なわない範囲で医薬的に許容される添加剤、例えば賦形剤、安定剤、防腐剤、抗酸化剤、香料、色素を含むことができる。例えば、賦形剤として、乳糖、トウモロコシデンプン、バレイショデンプンなど、安定剤として、アスコルビン酸、エデト酸ナトリウムなど、防腐剤として、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸メチルなど、香料として、メントール類、各種フレーバー、精油など、色素として、タール系色素などを使用することができる。これら添加剤の量は、ゼリー状製剤において通常使用される配合ないし基準に従って適宜決定すれば良く、量的な限定はされない。
【0023】
本発明のゼリー状製剤は、ゼリー状製剤の全量に対して、エカベトナトリウムを0.1〜70重量%、好ましくは0.1〜50%、さらに好ましくは0.1〜20重量%含む。
【0024】
本発明のゼリー状製剤の製造方法は、特に限定されないが、一般に用いられる方法によることができる。
【0025】
下記試験例1に示すように、エカベトナトリウムの苦味の閾値は約1.25 mg/mlであると考えられる。従って、製剤での及び服用時の唾液中でのエカベトナトリウムの溶解度を1.25 mg/ml以下とすることで、エカベトナトリウムの苦味が低減されると考えられる。
【0026】
下記試験例2に示すように、pHの低下によりエカベトナトリウムの溶解度が低下した。特に、pH6〜5にかけて溶解度が6.04から3.47に急に下がった。従って、エカベトナトリウムを含むゼリー状製剤の場合、該ゼリー状製剤のpHを5.5以下、好ましくはpHを5以下、さらに好ましくは4.5以下、さらに好ましくはpHを2以上、好ましくは3以上〜4以下に調製する。
【0027】
下記試験例3に示すように、pH3及び4のいずれにおいても緩衝剤濃度が高くなるにつれて濃度依存的にエカベトナトリウムの溶解度の低下が観察された。0.5M以上の緩衝剤濃度にした場合、エカベトナトリウムの溶解度は1 mg/ml以下となった。この溶解度は、エカベトナトリウムの苦味閾値1.25 mg/ml以下である。従って、ゼリー状製剤における緩衝剤の濃度を0.3M以上、好ましくは0.4M以上、さらに好ましくは0.5M以上にすることが好ましい。
【0028】
下記試験例4に示すように、標準液(ソルビトール無し)と比較して、ソルビトールを添加することにより、エカベトナトリウムの溶解度が低下した。従って、ソルビトール濃度が、ゼリー状製剤の全量に対して50重量%以上、好ましくは60重量%以上であることが好ましい。
【0029】
本発明のゼリー状製剤は緩衝剤を含むことによって製剤中に含まれる水分へのエカベトナトリウムの溶解を低下させることから、薬物の苦味が低減されると考えられる。また、服用時に緩衝剤によって唾液のpHが酸性側に調製されることから、薬物の唾液中への溶解を低下させることができ、従って苦味が低減されると考えられる。
【0030】
本発明のゼリー状製剤は糖アルコールを含むことによって製剤中に含まれる水分への薬物の溶解を低下させることから、薬物の苦味が低減されると考えられる。また、服用時に糖アルコールの持つ甘味、清涼感によって、苦味そのものをマスキングすることが可能である。糖アルコールによる服用時の清涼感は、糖アルコールの物性によるものである。糖アルコールの溶解熱は、例えばソルビトールの場合、−111 kJ/kg、キシリトールの場合、−153 kJ/kg、マンニトールの場合、−121 kJ/kgである。このように糖アルコールの溶解は吸熱反応であり、服用時に糖アルコールが舌上で唾液に溶解する際に、舌及び口腔内の熱を奪うため清涼感が得られる。
【0031】
下記試験例1〜4の試験より、pH調製、緩衝剤の添加、糖アルコールの添加により、エカベトナトリウムの溶解度が低下する。これらを利用し、服用時に口腔内での唾液へのエカベトナトリウムの溶解度が低減される。
【0032】
本発明のゼリー状製剤は、pH調製、緩衝剤の添加、糖アルコールの添加のいずれか一つを利用してもよいし、これら二つ以上を利用した製剤としてもよい。上記一つを利用した場合においても、溶解度の減少による苦味の低減効果は得られるが、二つ以上を利用した場合、緩衝剤による薬物の溶解度減少による苦味マスキング効果、糖アルコールによる溶解度減少と清涼感とによる苦味マスキング効果が相乗的に作用して、服用し易いゼリー状製剤を得ることができる。
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0034】
[試験例1] エカベトナトリウムの苦味閾値の測定
5、2.5、1.25、0.625 mg/mlのエカベトナトリウム水溶液を夫々調製した。pHは夫々、3.5、3.7、3.9、4.2であった。3名の健常な被験者1〜3(夫々男60歳、男28歳、女28歳)が、各水溶液を2、3滴舌上に滴下して、その苦味を評価した。苦味の評価は、次の3段階で評価した。その結果を、下記表1に示す。
評価基準
0;苦味を感じない
1;よく味わうと苦味を感じる
2;苦味を強く感じる
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、3名の被験者とも1.25 mg/mlの濃度で苦味が軽減し、0.625 mg/mlの濃度で苦味を感じなかった。このことから、エカベトナトリウムの苦味の閾値は約1.25 mg/mlであると考えられる。
【0037】
[試験例2] pHによるエカベトナトリウム溶解度の測定
0.1Mリン二水素ナトリウムとリン酸とを用いて、pH3及び4のリン酸水素ナトリウム緩衝液を夫々調製した。また、0.1Mリン酸二水素ナトリウム液と0.1Mリン酸水素二ナトリウム液とを用いて、pH5、6、7及び8のリン酸水素ナトリウム緩衝液を夫々調製した。
pH3〜8の上記緩衝液を用いて、0.3 mg/ml エカベトナトリウム標準液及びエカベトナトリウム飽和液を夫々調製した。
該標準液および該飽和液の紫外可視吸光(極大吸収271 nm)を夫々測定し、標準液の吸光度より、飽和液の濃度を算出した。その結果を図1に示す。
【0038】
図1に示されるように、pHが低くなるにつれてエカベトナトリウムの溶解度が低下した。特に、pH6〜5にかけて溶解度(mg/ml)が、6.04から3.47に急に下がった。pHが4及び3の時の溶解度(mg/ml)は、夫々3.32、2.82であった。従って、エカベトナトリウムの溶解度は、pHが3〜5において低く、特にpHが3〜4において低い。
【0039】
[試験例3] エカベトナトリウムの緩衝剤濃度による溶解度の測定
0.1M、0.5M、1Mリン酸二水素ナトリウム液を夫々調製し、リン酸によりpH3及び4に調整した。各pHについて、上記3種類の緩衝液を用いて、0.3 mg/ml エカベトナトリウム標準液及びエカベトナトリウム飽和液を夫々調製した。
該標準液および該飽和液の紫外可視吸光(極大吸収271 nm)を夫々測定し、標準液の吸光度より、飽和液の濃度を算出した。その結果を図2に示す。
【0040】
図2に示されるように、pH3及び4のいずれにおいても緩衝剤濃度が高くなるにつれて濃度依存的にエカベトナトリウムの溶解度の低下が観察された。0.5M以上の緩衝剤濃度にした場合、エカベトナトリウムの溶解度は1 mg/ml以下となった。この溶解度は、エカベトナトリウムの苦味閾値1.25 mg/ml以下である。従って、ゼリー状製剤における緩衝剤の濃度を0.5M以上にすると、エカベトナトリウムの苦味閾値以下になる。
【0041】
[試験例4] エカベトナトリウムの糖アルコール添加による溶解度測定
50%、60%、70%ソルビトール水溶液を夫々調製した。pHは各液とも7.4であった。各濃度のソルビトール液でエカベトナトリウム飽和液を夫々調製した。対照として0.3 mg/ml エカベトナトリウム標準液(ソルビトール無し)を調製した。
標準液(対照)および該飽和液の紫外可視吸光(極大吸収271 nm)を夫々測定し、標準液(対照)の吸光度より、各ソルビトール水溶液のエカベトナトリウム飽和液の濃度を算出した。その結果を図3に示す。
【0042】
図3に示されるように、標準液(対照)と比較して、ソルビトールを添加することにより、エカベトナトリウムの溶解度が低下した。ソルビトール濃度が50%、60%、70%の場合、それらの溶解度は、夫々5.31、5.29、5.58であった。
【実施例1】
【0043】
以下の組成にて、エカベトナトリウム(一回投与量1g)を含むゼリー状製剤を調製した。緩衝剤濃度は、0.5Mである。本品のpHは、3.5であった。
本剤60g(10包中)
エカベトナトリウム 10.00 g
ソルビトール 32.2 g
ペクチン 0.25 g
キシリトール 3.05 g
カラギーナン 0.45 g
シリコーン樹脂 0.225g
精製水 12.955g
リン酸二水素ナトリウム(無水) 0.825g
クエン酸 0.045g
【0044】
上記ゼリー状製剤を、下記方法に従い製造した。
工程1.70%ソルビトール液を加熱し、85℃以上になったらペクチンを添加して溶解した(液1)。
工程2.液1の温度を保持し、リン酸二水素ナトリウムとクエン酸とを添加し溶解した(液2)。
工程3.別途、水にシリコーン樹脂を添加して均一に分散した(シリコーン液)。シリコーン樹脂は、消泡剤として使用した。
工程4.液2に工程3で溶かしたシリコーン液を添加した(液3)。
工程5.キシリトールとカラギーナンを乳鉢中で均一に混合し、これを液3に添加し強力攪拌して溶解した(液4)。
工程6.液4を室温まで放冷した。
工程7.室温まで低下させた液4にエカベトナトリウムを添加して攪拌し均一混合した。
工程8.工程7で得られたエカベトナトリウムゼリー状混合物を、6gずつ容器に入れ、エカベトナトリウムゼリー状製剤とした。
【実施例2】
【0045】
実施例1の組成において、リン酸二水素ナトリウム(無水)及びクエン酸を除いた以外は同じ組成でゼリー状製剤を調製した。本品のpHは、6.8であった。
【実施例3】
【0046】
実施例1の組成において、ソルビトール及びキシリトールの代わりに精製白糖35.25gを添加した以外は同じ組成でゼリー状製剤を調製した。本品のpHは、3.4であった。
【実施例4】
【0047】
実施例1の組成において、緩衝剤濃度を1/5の0.1Mとした(リン酸二水素ナトリウム0.165g、クエン酸0.009g)以外は同じ組成でゼリー状製剤を調製した。本品のpHは、3.6であった。
【実施例5】
【0048】
実施例1の組成において、ソルビトール及びキシリトールの代わりにエリスリトール35.25gを添加した以外は同じ組成でゼリー状製剤を調製した。本品のpHは、5.0であった。
【実施例6】
【0049】
実施例1の組成において、キシリトールの代わりにマルチトール3.05gを添加した以外は同じ組成でゼリー状製剤を調製した。本品のpHは、3.4であった。
【0050】
[比較例1]
実施例1の組成において、緩衝剤を除き、さらにソルビトール及びキシリトールの代わりに精製白糖35.25gを添加した以外は同じ組成でゼリー状製剤を調製した。本品のpHは、6.5であった。
【0051】
[比較例2]
実施例1の組成において、緩衝剤濃度を1/5の0.1Mとし(リン酸二水素ナトリウム0.165g、クエン酸0.009g)、ソルビトール及びキシリトールの代わりに精製白糖35.25gを添加した以外は同じ組成でゼリー状製剤を調製した。本品のpHは、3.6であった。
【実施例7】
【0052】
以下の組成にて、エカベトナトリウムを含むゼリー状製剤を調製した。本品のpHは、3.6であった。
本剤60g(10包)中
エカベトナトリウム 10.00 g
マンニトール 32.2 g
ペクチン 0.25 g
キシリトール 3.05 g
カラギーナン 0.45 g
シリコーン樹脂 0.225g
精製水 12.985g
リン酸二水素ナトリウム 0.825g
リン酸 0.015g
【実施例8】
【0053】
実施例1〜4及び7並びに比較例1及び2のゼリー状製剤夫々を、3名の健常な被験者1〜3(夫々男60歳、男28歳、女28歳)が服用し、夫々の苦味を次の評価基準で評価した。その結果を、下記表2に示す。
評価基準
0;苦味や渋みを感じない
1;よく味わうと苦味や渋みを感じる
2;苦味や渋みを強く感じる
【0054】
【表2】

【0055】
実施例1と比較例1の結果を比較すると、実施例1の緩衝剤及び糖アルコールを含むゼリー状製剤では全ての被験者がエカベトナトリウムの苦味を感じなかったのに対して、比較例1の緩衝剤及び糖アルコールを含まないゼリー状製剤では全ての被験者がエカベトナトリウムの苦味を感じた。
実施例2の緩衝剤を含まず糖アルコールを含むゼリー状製剤では、被験者3名のうち1人は強く苦味を感じているが、他の2人はその苦味の改善を感じた。
実施例3の糖アルコールを含まず緩衝剤を含むゼリー状製剤では、被験者3名のうち1人は強く苦味を感じているが、他の2人はその苦味の改善を感じた。
以上の結果から、実施例2の緩衝剤を含まず糖アルコールを含むゼリー状製剤及び実施例3の糖アルコールを含まず緩衝剤を含むゼリー状製剤のいずれにおいても、エカベトナトリウムの苦味の改善は認められた。さらに、実施例1の緩衝剤及び糖アルコールを含むゼリー状製剤の場合、エカベトナトリウムの苦味を殆どマスキングすることができた。
【0056】
次に、実施例3と比較例2の結果を比較すると、実施例3の0.5Mの緩衝剤を含むゼリー状製剤では2人の被験者がエカベトナトリウムの苦味を感じなかったのに対して、比較例2の0.1Mの緩衝剤を含むゼリー状製剤では2人の被験者がエカベトナトリウムの苦味を感じた。従って、ゼリー状製剤は、少なくとも0.1Mよりも多い緩衝剤を含むとよい。
【実施例9】
【0057】
以下の組成にて、エカベトナトリウム(一回投与量1g)を含むゼリー状製剤を調製した。本製剤は、ゲル化剤としてペクチンのみを含む。本品のpHは、3.5であった。
本剤60g(10包中)
エカベトナトリウム 10.00 g
ソルビトール(粉末) 31.075g
ペクチン 0.500g
シリコーン樹脂製剤 0.025g
精製水 適量
塩化カルシウム 0.025g
リン酸二水素ナトリウム(無水) 0.871g
クエン酸(無水) 0.03 g
【0058】
上記のゼリー状製剤を、下記方法に従い製造した。
工程1.水15gにシリコーン樹脂製剤を添加して均一に混合した(シリコーン液)。シリコーン樹脂製剤は、消泡剤として使用した。
工程2.別途、水にクエン酸とリン酸二水素ナトリウムをスターラーにて溶かし、pHを3.29に調製した(クエン酸液)。
工程3.別途、水に塩化カルシウムをスターラーにて溶かし、8.66%の水溶液を調製した(カルシウム溶液)。
工程4.ペクチンとソルビトール4.15gを乳鉢中で均一に混合し、これを工程1のシリコーン液に添加し、ウォーターバスにて85℃以上に過熱し溶解した(液1)。
工程5.液1の温度を保持し、残りのソルビトールを添加し溶解した(液2)。
工程6.液2に工程2にて調製したクエン酸液3.39gを添加し、ホモジナイザーにて攪拌し均一混合した(液3)。
工程7.液3に工程3にて調製したカルシウム溶液0.8mlを添加し、ホモジナイザーにて攪拌し均一混合した(液4)。
工程8.液4を室温まで放冷した。
工程9.室温まで低下させた液4にエカベトナトリウムを添加し、ホモジナイザーにて攪拌し均一混合した。
工程10.工程9で得られたエカベトナトリウムゼリー状混合物を、6gずつ容器に入 れ、エカベトナトリウムゼリー状製剤とした。
【0059】
[粘度の測定]
製造したゼリー状製剤を一夜放置した後で、B形粘度計(東機産業株式会社製)を用いて粘度測定した。測定された粘度は45250mPa・sであった。
【実施例10】
【0060】
実施例9の工程3において、塩化カルシウム量を1.72%とした以外は同じにして、ゼリー状製剤を試作した。本品のpHは、3.5であった。
【0061】
[粘度の測定]
製造したゼリー状製剤を一夜放置した後で、B形粘度計(東機産業株式会社製)を用いて粘度測定した。測定された粘度は41625mPa・sであった。
【0062】
また、クエン酸量及びリン酸二水素ナトリウム量の調整により、ゼリー状製剤のpHが夫々3.4、3.7、3.8及び4.0となるように、同様にゼリー状製剤を試作した。クエン酸量は、夫々、0.05g、0.03g、0.01g及び0.005gであった。他方、リン酸二水素ナトリウム量は、夫々、0.866g、0.871g、0.876g及び0.878gであった。前記同様に、製造したゼリー状製剤の粘度測定を行った。これらのゼリー状製剤の粘度は、表3の上段(Ca量が5mgの行)のとおりである。
【0063】
【表3】

【実施例11】
【0064】
実施例9の工程2において、クエン酸量を0.05gにし、クエン酸液のpHを3.18とした以外は同じにして、ゼリー状製剤を試作した。本品のpHは、3.4であった。
【0065】
[粘度の測定]
製造したゼリー状製剤を一夜放置した後で、B形粘度計(東機産業株式会社製)を用いて粘度測定した。測定された粘度は36750mPa・sであった。
【0066】
また、クエン酸量及びリン酸二水素ナトリウム量の調整により、ゼリー状製剤のpHが夫々3.5、3.7、3.8及び4.0となるように、同様にゼリー状製剤を試作した。クエン酸量は、夫々、0.05g、0.03g、0.01g及び0.005gであった。他方、リン酸二水素ナトリウム量は、夫々、0.866g、0.871g、0.876g及び0.878gであった。前記同様に、製造したゼリー状製剤の粘度測定を行った。これらのゼリー状製剤の粘度は、表3の下段(Ca量が25mgの行)のとおりである。
【0067】
実施例9〜11において、いずれのpHにおいても安定な固さを持つゼリー状製剤が得られた。pH4.0の場合、Ca量5mgではやや柔らかなゼリーが得られた。一方、Ca量を25mgにした場合、ゼリー状製剤がやや固くなった。また、表3から、粘度が低い場合、Ca量の増加によって粘度が上昇した。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】pH3〜8におけるエカベトナトリウムの溶解度を示すグラフである。
【図2】緩衝剤濃度によるエカベトナトリウムの溶解度を示すグラフである。
【図3】ソルビトール濃度によるエカベトナトリウムの溶解度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エカベトナトリウム、ゲル化剤及び水を含み、pHが酸性領域下にされているゼリー状製剤。
【請求項2】
pHが5.5以下である、請求項1に記載のゼリー状製剤。
【請求項3】
pHが4.5以下である、請求項1に記載のゼリー状製剤。
【請求項4】
緩衝剤を含み、該緩衝剤が、リン酸、アスコルビン酸、塩酸、クエン酸、グルタミン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、およびこれらの医薬的に許容される塩から選択される1または2種以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゼリー状製剤。
【請求項5】
糖アルコールをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゼリー状製剤。
【請求項6】
エカベトナトリウム、ゲル化剤及び水を含み、糖アルコールをさらに含むゼリー状製剤。
【請求項7】
ゼリー状製剤の全量に対して、糖アルコールを50重量%以上含む、請求項5又は6に記載のゼリー状製剤。
【請求項8】
糖アルコールが、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、還元パラチノース、および還元水飴から選択される1または2種以上である、請求項5〜7のいずれか一項に記載のゼリー状製剤。
【請求項9】
ゼリー状製剤の全量に対して、エカベトナトリウムを0.1〜70重量%含む、請求項1〜8のいずれか一項記載のゼリー状製剤。
【請求項10】
ゲル化剤が、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、グァーガム、カラヤガム、ガティガム、タラガム、タマリンドガム、ジェランガム、アゾトバクタービネランジーガム、アラビノガラクタン、ペクチン、トラガント、カードラン、ゼラチン、デンプン、デンプン誘導体、マンナン、プルラン、アルギン酸またはその塩、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースナトリウム、ファーセレラン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポビドン、ポリアクリル酸ナトリウム、およびコンドロイチン硫酸ナトリウムから選択される1または2種以上である、請求項1〜9のいずれか一項記載のゼリー状製剤。
【請求項11】
ゲル化剤がペクチンであり、かつ、カルシウムイオンを含む、請求項1〜9のいずれか1項記載のゼリー状製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−67790(P2009−67790A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212827(P2008−212827)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(306020438)日本ジェネリック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】