説明

エステル及びこれを含有する防錆油組成物並びに潤滑油組成物

【課題】防錆添加剤として防錆性、耐オイルステイン性、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性に優れ、さらに潤滑性を付与し、低温でのイソパラフィン溶解性にも優れるエステル、及び該エステルを含有する防錆油組成物並びに潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】ラノリン脂肪酸と、ラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールとのエステルから、溶剤分別法により結晶性成分を除去して得られるエステルを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラノリン脂肪酸のエステルと、これを含有する防錆油組成物並びに潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
防錆油は、一般に炭化水素溶剤、鉱油、合成油、水等の基油に、酸化パラフィン、ワックス、ペトロラタム等の造膜剤と、防錆添加剤を配合することにより作られ、このような防錆油で金属材料の表面を被覆することにより防錆性を発現している。防錆添加剤は防錆性を向上させるのみならず、耐オイルステイン性、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性等の性能に優れることが重要であり、また、防錆油を使用する用途や場面によっては、さらに潤滑性を付与する添加剤が望まれる。このような添加剤として、古くからラノリンやラノリンを加水分解して得られるラノリン脂肪酸の金属塩またはエステルを用いたもの(特許文献1、2、3)が用いられている。これらの添加剤は防錆性や耐オイルステイン性に優れ、さらに潤滑性を付与するものであるが、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性の面で満足いくものではなかった。さらに近年では、ラノリン脂肪酸と多価アルコールの部分エステル(特許文献4)やラノリン脂肪酸と一価アルコールとのエステル(特許文献5)などが用いられているが、いまだ満足のいくものではなかった。
【0003】
また、昨今の環境意識の高まりから高沸点、低芳香分溶剤であるイソパラフィンを基油に使用する場面が多くなり、低温でもイソパラフィンに対する溶解性に優れた添加剤が望まれていた。
【0004】
一方、ラノリンを加水分解して得られるラノリンアルコールは、コレステロールを豊富に含むため、コレステロール製造用の原料として工業的に用いられているが、ラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールについて、用途開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭48−102767号公報
【特許文献2】特公昭52−14215号公報
【特許文献3】特開昭57−199594号公報
【特許文献4】特開平07−118686号公報
【特許文献5】特願2008−240968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、防錆添加剤として防錆性、耐オイルステイン性、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性に優れ、さらに潤滑性を付与し、低温でのイソパラフィン溶解性にも優れるエステル、及び、該エステルを含有する防錆油組成物並びに潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ラノリン脂肪酸とラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールとのエステルから、溶剤分別法により結晶性成分を除去して得られるエステルが、ラノリンや従来のラノリン脂肪酸誘導体と比較して、同等又はそれ以上の優れた防錆性、耐オイルステイン性、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性、潤滑性を有し、さらに従来のラノリン脂肪酸誘導体では不十分であった低温でのイソパラフィン溶解性に優れていることを見いだし、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエステルは、防錆性、耐オイルステイン性、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性、及び潤滑性に優れており、さらに低温でのイソパラフィン溶解性に優れ、好ましく防錆油組成物及び潤滑油組成物に配合できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ラノリン脂肪酸と、ラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールとのエステルから、溶剤分別法により結晶性成分を除去して得られるエステル、及び該エステルを含有する防錆油組成物並びに潤滑油組成物に関するものである。
【0010】
本発明のエステルの合成に用いられるラノリン脂肪酸とは、羊の毛の表面に分泌される羊毛脂を加水分解して得られる脂肪酸である。羊毛脂はそのまま用いても良いが、ろ過、脱色、脱臭、脱水、溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの精製をして得られるラノリンを用いても良い。羊毛脂またはラノリンの加水分解の方法は、特に限定されるわけではなく公知の方法を用いることができるが、例えば、アルカリによる加水分解によって得ることができる。用いられるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが一般的であるが、その他のアルカリを用いてもよい。又、塩酸、硫酸、燐酸などの酸で加水分解してもよい。加水分解したラノリンを溶剤抽出などによりアルコール成分と分離し、脂肪酸の石鹸部分を酸で中和して遊離の脂肪酸にすることにより、目的のラノリン脂肪酸を得る。このようなラノリン脂肪酸としては、ラノリン脂肪酸、精製ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸などがあるが、本発明に使用するエステルの合成に用いられるラノリン脂肪酸としては、基油への溶解性、脱脂性、貯蔵安定性の点からラノリン脂肪酸、精製ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸が好ましい。軟質ラノリン脂肪酸とはラノリン脂肪酸から溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの操作により比較的低分子量の成分を取り出したものであり、融点が約20〜50℃のラノリン脂肪酸である。これらのラノリン脂肪酸の市販品としては、精製ラノリン脂肪酸としてラノリン脂肪酸W(日本精化(株)製)が、軟質ラノリン脂肪酸としてラノリン脂肪酸ソフト(融点36℃、日本精化(株)製)が挙げられる。
【0011】
ラノリンアルコールとは、羊毛脂またはラノリンの加水分解で得られるアルコール成分である。ラノリンアルコールにはコレステロールを豊富に含み、コレステロール製造用の原料として工業的に用いられており、一般に、このラノリンアルコールからアダクト法やクロマトグラフィー法などの方法によりコレステロールを抽出、回収している。本発明のエステルの合成には、ラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールを用いる。このようなアルコールの市販品としては、ラノリンアルコールCSY(日本精化(株)製)が挙げられる。
【0012】
本発明のエステルの製造には、まず、上記のラノリン脂肪酸とラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールとをエステル化する。エステルの製造方法は特に限定されず、一般に用いられる方法、すなわち、原料の脂肪酸とアルコールを無溶媒で150〜260℃で反応させる方法、触媒と溶媒を用いて50〜150℃で反応させる方法などにより製造できる。触媒を使用する場合は、パラトルエンスルホン酸、硫酸、塩酸、メタンスルホン酸、三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体、チタンアルコラート、固体酸触媒等の一般的な酸触媒を用いることができる。溶媒を用いる場合には、トルエン、ヘプタン等の一般的に使用される溶剤を使用することができる。エステル化反応終了後、減圧蒸留、水洗、水蒸気蒸留脱臭、活性炭処理等の通常の精製方法で精製してもよい。ラノリン脂肪酸とラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールとの反応比率としては、本発明の優れた効果を発揮する限り特に制限はないが、具体的には、酸価から算出される脂肪酸中のカルボン酸のモル数と、水酸基価から算出されるアルコール中の水酸基のモル数との比率が、1:0.8〜1.2で反応させるのが好ましく、1:0.9〜1.1がより好ましい。
【0013】
本発明のエステルは、上記エステルを、さらに溶剤分別法により結晶性成分を除去して得られる。具体的には、上記エステルを溶剤に加温溶解後、冷却して析出した固形分をデカンテーション、遠心分離、ろ過等の方法により除去することにより得られる。使用する溶剤としては、ヘキサン、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。これらの中で、トルエン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましく、トルエン、メチルエチルケトンが最も好ましい。
【0014】
本発明のエステルの防錆油組成物への配合量は、1〜30重量%で可能であるが、脱脂性の観点から、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは、1〜10重量%である。
【0015】
本発明の防錆油組成物を構成する基油としては、防錆油や金属加工油に基油として一般に使用される鉱油や合成油を用いることができる。また、基油は1種類を単独で、または、複数種類を併用して使用することができる。鉱油としては、例えば、原油を蒸留して得られる留分を精製したパラフィン系、ナフテン系の精製鉱油を挙げることができる。また、合成油としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、オレフィン系等の炭化水素系合成油、および、エステル系合成油を挙げることができる。なお、本発明のエステルは低温でのイソパラフィン溶解性に優れるものであり、イソパラフィン系炭化水素を好ましく使用できる。
【0016】
本発明の防錆油組成物には、防錆性の観点から、さらにスルホン酸塩を添加することが好ましい。本発明に使用するスルホン酸塩とは、石油留出成分の芳香族成分をスルホン化して得られる石油系スルホン酸またはアルキルベンゼンもしくはジノニルナフタレンをスルホン化することによって得られる合成スルホン酸の、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルシウム塩に水酸化カルシウム又は炭酸カルシウムの微粒子を均一に分散保持した塩基性カルシウム塩、アミン塩等を挙げることができる。市販のスルホン酸塩としては、スルホール500(石油系ナトリウム塩 松村石油研究所(株)製)、モレスコアンバーSC−60(合成系ナトリウム塩 松村石油研究所(株)製)、スルホールCa−45N(石油系中性カルシウム塩 松村石油研究所(株)製)、スルホールCa−45(石油系塩基性カルシウム塩 松村石油研究所(株)製)、モレスコアンバーSC−45N(合成系中性カルシウム塩 松村石油研究所(株)製)、モレスコアンバーSC−45(合成系塩基性カルシウム塩 松村石油研究所(株)製)、NCP(NEUTRAL CALCIUM PETRONATE 石油系中性カルシウム塩 Chemtura Corporation製)、300BCP(300BASE CALCIUM PETRONATE 石油系過塩基性カルシウム塩 Chemtura Corporation製)、スルホールBa−30N(石油系バリウム塩 松村石油研究所(株)製)、モレスコアンバーSB−50N(合成系バリウム塩 松村石油研究所(株)製)、LOCKGUARD 3650(石油系バリウム塩 Lockhart Chemical Company製)、Bryton Ba−50N(合成系バリウム塩 Chemtura Corporation製)等を例示することができる。これらのスルホン酸塩は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。本発明の潤滑防錆油組成物へのスルホン酸塩の配合比率は特に制限されないが、防錆性の点から、本発明のエステル/スルホン酸塩の比(重量比)が、99/1〜1/99、より好ましくは60/40〜1/99、最も好ましくは50/50〜5/95である。
【0017】
本発明の防錆油組成物には、本発明の好ましい効果を損なわない範囲で一般的に防錆剤に配合される添加成分、日本国及び諸外国特許公報及び特許公開公報(公表公報・再公表を含む)に記載されている成分、例えば、原油から得られる鉱油、ナフテン系・パラフィン系・芳香族系・オレフィン系合成炭化水素油、ポリマー、脂肪族・芳香族カルボン酸又はその塩脂肪族・芳香族アミン又はその塩、脂肪族・芳香族エステル、脂肪族・芳香族アルコール、脂肪族・芳香族エーテル、脂肪族・芳香族アミド、リン酸エステル、フェノール系化合物、シリコーン化合物、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、イオウ化合物、無機塩、無機・有機顔料、無機・有機染料、溶剤等を配合することができる。
【0018】
本発明の防錆油組成物は、防錆性、耐オイルステイン性、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性及び潤滑性において優れており、様々な金属製部材の防錆油として好適に用いることができる。被処理体である金属製部材は特に制限されず、具体的には、自動車ボディや電気製品ボディとなる冷延鋼板、熱延鋼板、高張力後半、亜鉛めっき鋼板などの表面処理鋼板、ブリキ用原板、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板などの金属製板材、更には転がり軸受、テーパー転がり軸受、ニードル軸受等の軸受部品、建築用鋼材、精密部品等が挙げられる。
【0019】
このような金属製部材に対する防錆油としては、金属製部材の加工工程等の過程で用いられる中間防錆油、出荷時の防錆のために用いられる出荷防錆油、プレス加工に供する前の異物除去又は金属板製造業者において出荷に先立つ異物除去のための洗浄工程で用いられる洗浄防錆油などがあるが、本発明の防錆油組成物は上記のいずれの用途にも使用することができる。
【0020】
本発明の防錆油組成物を被処理体に塗布する方法は特に制限されず、例えば、スプレー、滴下、フェルト材等による転写、静電塗油、ディッピング等の方法により金属製部材に塗布することができる。
【0021】
本発明のエステルは潤滑性にも優れるため、防錆性のみならず潤滑性が要求される用途で好ましく使用することができ、潤滑油組成物の添加剤としても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明につき実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1(本発明のエステルの製造)
ラノリン脂肪酸W(酸価150、融点58℃、日本精化(株)製)360g、ラノリンアルコールCSY(水酸基価145、融点57℃、日本精化(株)製)350gを攪拌機およびジムロート冷却器を付けた四つ口フラスコに取り、常圧にて200℃、10時間攪拌後冷却し、ラノリン脂肪酸とラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールとのエステル(酸価10、融点50℃)670gを得た。得られたエステル200gにMEKを800ml加え、攪拌しながら50℃に加温し完溶させた。次いで緩やかに攪拌しながら10℃まで冷却後、1時間静置し結晶を沈殿させた。デカンテーションで結晶成分を除去した後、上澄みを脱溶剤し目的のエステル(酸価11、融点30℃)110gを得た。
【0024】
実施例2(本発明のエステルの製造)
実施例1と同様にして得られた溶剤分別前のエステル200gにMEKを800ml加え、攪拌しながら50℃に加温し完溶させた。次いで緩やかに攪拌しながら20℃まで冷却後、1時間静置し結晶を沈殿させた。デカンテーションで結晶成分を除去した後、上澄みを脱溶剤し目的のエステル(酸価11、融点35℃)130gを得た。
【0025】
製造例1(実施例1の溶剤分別前のエステルの製造)
ラノリン脂肪酸W(日本精化(株)製)360g、ラノリンアルコールCSY(日本精化(株)製)350gを攪拌機およびジムロート冷却器を付けた四つ口フラスコに取り、常圧にて200℃、10時間攪拌後冷却し、ラノリン脂肪酸とラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールとのエステル(酸価10、融点50℃)670gを得た。
【0026】
製造例2(軟質ラノリン脂肪酸ペンタエリスリトール部分エステルの製造)
軟質ラノリン脂肪酸(ラノリン脂肪酸ソフト、酸価135、融点36℃、日本精化(株)製)1000gにペンタエリスリトール(三菱ガス化学(株)製)176g(1.29モル)を加え、減圧下に200℃で3時間加熱撹拌してエステル化を行なった後、水洗、減圧脱水し、軟質ラノリン脂肪酸ペンタエリスリトール部分エステル(酸価6、融点35℃)1110gを得た。
【0027】
製造例3(軟質ラノリン脂肪酸イソプロピルエステルの製造)
軟質ラノリン脂肪酸(ラノリン脂肪酸ソフト、酸価135、融点36℃、日本精化(株)製)1000gにイソプロピルアルコール500ml、パラトルエンスルホン酸一水和物1gを加え、常圧、還流にて3時間加熱撹拌してエステル化を行なった後、減圧にて含水イソプロピルアルコールを回収した。含水イソプロピルアルコールを回収後イソプロピルアルコール200ml投入し、同様に常圧、還流にて3時間加熱撹拌してエステル化を行なった後、減圧にて含水イソプロピルアルコールを回収した。次いで15%NaOHにて中和後、水洗、減圧脱水し、軟質ラノリン脂肪酸イソプロピルエステル(酸価15)980gを液状油として得た。
【0028】
イソパラフィン溶解性試験
実施例1、2のエステル、製造例1〜3のエステルについて、イソパラフィン溶解性を確認した。
(評価方法)
200mlビーカーに各エステル10g及びイソパラフィン(アイソパーH、エクソンモービル化学(有)製)90gを採取し、攪拌しながら60℃まで加温し完溶させた。この液100mLを比色管に採取し、低温インキュベーターに所定の温度で24時間保管した後に外観を観察することで溶解性を評価した。
(結果)
結果を表1に示した。実施例1、2の本発明のエステルは低温まで冷却しても析出物は確認されず、比較としたラノリン脂肪酸のエステルよりもイソパラフィン溶解性が優れていることが分かった。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例3、比較例1〜4(防錆油組成物の調製)
200mlビーカーに実施例1のエステル4g、過塩基性アルキルベンゼンスルホネートCa塩(塩基価24、モレスコアンバーSC−45、松村石油研究所(株)製)6gに基油として石油系炭化水素(スーパーオイルM32、新日本石油(株)製)14g及び石油系炭化水素(サートレックス60、エクソンモービル化学(有)製)76gを加え、攪拌しながら60℃まで加温し完溶させた後、室温まで放冷し実施例3の防錆油組成物を得た。比較として、製造例1〜3のエステル及び液状ラノリンについて、同様にして表2に示す組成にて比較例1〜4の防錆油組成物を得た。
【0031】
防錆油組成物の性能評価
実施例3及び比較例1〜4の防錆油組成物について、防錆性、耐オイルステイン性、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性、及び潤滑性を評価した。評価方法は以下に示す方法で行った。結果は表2の下部に示した。
【0032】
(塩水噴霧試験(防錆性試験))
市販のSPCC−SD相当冷延鋼板(0.8mm×60mm×80mm)を防錆油組成物中に1分間浸した後引き上げ、室温で24時間放置すると1.5〜2.0μmの塗膜が得られた。このようにして得られた試験片について、JIS K 2246「塩水噴霧試験方法」に準拠して塩水噴霧試験を行い、24時間経過後のさびの発生面積率を以下の評価基準に基づいて評価した。
A:0%
B:1〜10%
C:11〜25%
D:26〜50%
E:51〜100%
【0033】
(耐オイルステイン性試験)
市販のSPCC−SD相当冷延鋼板(0.8mm×60mm×80mm)に、防錆油組成物に精製水5%添加し乳化状態にしたものを試験片で挟み、100g荷重をかけた状態にて82℃で24時間放置後の腐食面積を以下の基準に基づいて評価した。
A:腐食なし
B:腐食10%未満
C:腐食10%以上
【0034】
(脱脂性試験)
市販のSPCC−SD相当冷延鋼板(0.8mm×60mm×80mm)を防錆油組成物中に1分間浸した後引き上げ、室温で24時間放置すると2〜3μmの塗膜が得られた。このようにして得られた試験片を、FC-L4328(ノニオン系アルカリ脱脂剤、日本パーカーライジング(株)製)2重量%水溶液の42℃脱脂液に攪拌しつつ2分間浸漬した。浸漬終了後、流水中で30秒間洗浄し、水洗後の試験片の水濡れ面積率で脱脂性を以下の基準に基づいて評価した。
A:90〜100%
B:60〜89%
C:0〜59%
【0035】
(水分離試験)
容量50mlの比色管に防錆油組成物25mlと精製水25mlを採取した。この試料を40℃恒温水槽にて30分保持後、1分間激しく振とうした。振とう後40℃恒温水槽に放置し、生じた乳化液が水と油に分離する時間(分)を以下の基準に基づいて評価した。
A:10分未満
B:10〜20分
C:21分以上
【0036】
(貯蔵安定性試験)
200mlのビーカーに防錆油組成物100gを採取した。この試料を40℃、相対湿度80%の恒温高湿器にて保管し外観を観察した。試料に曇り又は沈殿が発生するまでに要した日数から、以下の基準に基づいて潤滑防錆油組成物の貯蔵安定性を評価した。
A:21日以上
B:15〜20日
C:8〜14日
D:2〜7日
E:1日以内
【0037】
(耐磨耗試験(潤滑性試験))
日本石油学会の定めるJPI規格 JPI−5S−32−90 潤滑油の耐摩耗性試験方法に基づいてシェル四球試験を実施した。試料容器に3個の鋼球を固定し、試料を入れる。固定球の中心に1個の回転球を押し付け、3点で接触させる。荷重
392ニュートン、潤滑油の油温75℃において、毎分1200回転の速度で1時間回転させ、試験後、接触点に生じた摩耗痕の面積を測定し耐磨耗性を評価した。摩耗面積の少ないものが耐摩耗性に優れている。
A: 0.4mm未満
B: 0.4〜0.5mm
C: 0.5mmを超える
【0038】
【表2】

【0039】
表2の結果から本発明のエステルを配合した実施例3の防錆油組成物は、比較例1〜4の防錆油組成物に比較して、防錆性、耐オイルステイン性、脱脂性、水分離性、貯蔵安定性、及び潤滑性のすべてを満足する優れたものであることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラノリン脂肪酸と、ラノリンアルコールからコレステロールを回収した後に得られるアルコールとのエステルから、溶剤分別法により結晶性成分を除去して得られるエステル
【請求項2】
融点が35℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のエステル
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエステルを含有する防錆油組成物
【請求項4】
請求項1又は2に記載のエステルを含有する潤滑油組成物

【公開番号】特開2011−6345(P2011−6345A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150469(P2009−150469)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000231497)日本精化株式会社 (60)
【Fターム(参考)】