説明

エタノール製造装置

【課題】バイオマスの発酵溶液の蒸留を行うときにも蒸留塔システムを円滑に効率よく運転できるエタノール製造装置を提供する。
【解決手段】エタノール製造装置1は、バイオマスの糖化溶液を発酵させる発酵手段4と、発酵手段4で得られた発酵溶液を蒸留する蒸留手段5と、発酵溶液を発酵手段4から蒸留手段5に移送する移送手段43とを備える。移送手段43は、途中に、発酵溶液に含まれる無機化合物を分離する分離手段44と、発酵溶液に含まれるタンパク質と分離手段44により分離された無機化合物とを発酵溶液から濾別する濾過手段45とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオマスを基質として溶媒と混合してなる基質混合物を、微生物が産生する糖化酵素により糖化し、得られた糖化溶液を発酵させることによりバイオエタノールを製造するエタノール製造装置が知られている。前記エタノール製造装置では、前記糖化溶液の発酵により得られた発酵溶液を蒸留により濃縮し、さらに脱水することにより、例えば99.9質量%程度の濃度のエタノールを得ることができる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記基質となるバイオマスの1つとして、稲藁等のリグノセルロース系バイオマスを挙げることができるが、該リグノセルロース系バイオマスは、セルロース又はヘミセルロースにリグニンが強固に結合した構成を備えている。そこで、前記基質混合物を所定温度で所定時間保持することにより、前記基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させ、セルロース又はヘミセルロースを糖化可能にした糖化前処理物を得て、該糖化前処理物を酵素糖化することが行われている。
【0004】
尚、本願において、解離とは、リグノセルロース系バイオマスのセルロース又はヘミセルロースに結合しているリグニンの結合部位のうち、少なくとも一部の結合を切断することをいう。また、膨潤とは、液体の浸入により結晶性セルロースを構成するセルロース又はヘミセルロースに空隙が生じ、又は、セルロース繊維の内部に空隙が生じて膨張することをいう。
【0005】
前記リグノセルロース系バイオマスを基質とするエタノール製造装置では、前記糖化溶液を発酵菌または酵母により発酵させて前記発酵溶液を得るが、該発酵菌または酵母の性能により、該発酵溶液の濃度は5〜10質量%程度の低濃度となる。この結果、得られた発酵溶液を蒸留して濃縮する際に、熱エネルギーが増大するという問題がある。前記エタノール製造工程全体に要するエネルギーに対し、エタノールの濃縮に要するエネルギーは、30〜50%と大きなウエイトを占めている。
【0006】
前記問題を解決するために、前記エタノール製造装置においてエタノールの濃縮工程を高効率化することにより、熱エネルギーを低減することが必要不可欠となる。そこで、前記エタノール製造装置における熱エネルギー低減の一方策として、前記発酵溶液の蒸留を効率よく行うことが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−65001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記バイオマスから得られた発酵溶液のエタノールを濃縮する一つの方法として蒸留塔システムを用いると、蒸留塔システム内に析出物が付着堆積して配管の閉塞等を引き起こし、蒸留塔システムの円滑な運転が妨げられることがあるという不都合がある。
【0009】
そこで、本発明は、かかる不都合を解消して、前記バイオマスから得られた発酵溶液の蒸留を行うときにも蒸留塔システムを円滑に効率よく運転することができるエタノール製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明のエタノール製造装置は、バイオマスの糖化溶液を発酵させる発酵手段と、該発酵手段で得られた発酵溶液を蒸留する蒸留手段と、該発酵溶液を該発酵手段から該蒸留手段に移送する移送手段とを備えるエタノール製造装置において、前記移送手段は、途中に、該発酵溶液に含まれる無機化合物を分離する分離手段と、該発酵溶液に含まれるタンパク質と該分離手段により分離された該無機化合物とを該発酵溶液から濾別する濾過手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明者らは、前記発酵溶液から析出する物質について検討した結果、該物質は前記糖化に用いられる酵素や、前記発酵に用いられる発酵菌又は酵母の菌体由来のタンパク質と無機化合物との複合物であることを知見した。前記無機化合物としては、前記バイオマス自体の成分としての無機化合物や、前記発酵菌又は酵母の培養に用いられるリン酸塩等が考えられる。
【0012】
前記知見に基づき、本発明のエタノール製造装置では、前記発酵溶液を前記発酵手段から前記蒸留手段に移送する移送手段の途中に設けられた分離手段により、まず、前記無機化合物を分離する。前記無機化合物の分離は、例えば、前記発酵溶液に凝集剤を添加して該無機化合物を凝集させることにより、或いは該発酵溶液のpHを調整して該無機化合物を析出させることにより行うことができる。
【0013】
そこで、本発明のエタノール製造装置において、前記分離手段は、前記発酵溶液に凝集剤を添加する添加手段又は、前記発酵溶液のpH調整を行う調整手段を備えることが好ましい。
【0014】
本発明のエタノール製造装置では、次に、前記移送手段の途中に設けられた濾過手段により、前記発酵溶液に含まれるタンパク質と前記分離手段により分離された前記無機化合物とを該発酵溶液から濾別する。前記タンパク質と前記無機化合物とを効率よく濾別するために、前記濾過手段は、前記無機化合物を前記発酵溶液から濾別する無機化合物濾過手段と、該無機化合物濾過手段の下流側に備えられ前記タンパク質を前記発酵溶液から濾別するタンパク質濾過手段とを備えることが好ましい。
【0015】
前記無機化合物濾過手段としては、例えば、75〜500μmの範囲の目開きのフィルターを用いることができる。前記フィルターは、目開きが500μmより大きいと前記無機化合物を濾別することができず、蒸留手段に混入させてしまうことがある。また、前記フィルターは、目開きが75μmより小さいと閉塞を起こし前記発酵溶液の移送に支障を来すことがある。前記フィルターは、150〜250μmの範囲の目開きであることがさらに好ましい。
【0016】
前記タンパク質濾過手段は、分画分子量が1000〜3500の範囲の限外濾過膜又は、アクリルもしくはスチレンをジビニルベンゼンで架橋した最頻度半径50〜500Åを有するイオン交換樹脂を備えることが好ましい。
【0017】
前記限外濾過膜は、前記分画分子量が3500より大きいと、前記タンパク質を濾別することができないことがある。また、前記分画分子量を1000未満とするためには、さらに精密な濾過膜を必要とし、コストの増加が避けられないことがある。
【0018】
前記イオン交換樹脂は、前記最頻度半径が500Åを超えると、タンパク質を十分に濾別することができないことがある。また、前記最頻度半径が50Å未満であると、前記タンパク質が該イオン交換樹脂の表面を通過してしまう虞がある。
【0019】
本発明のエタノール製造装置によれば、前記濾過手段により前記タンパク質と前記無機化合物とが濾別されるので、前記蒸溜手段内に析出物が付着堆積することを防止して、該蒸溜手段を円滑に効率よく運転することができる。
【0020】
また、本発明のエタノール製造装置において、前記蒸留手段は、前記蒸留手段は、第1の蒸留塔と、第1の蒸留塔の内部に配設されその内部と外部とが隔離された第2の蒸留塔と、第1の蒸留塔に前記発酵溶液を供給する発酵溶液供給手段と、第1の蒸留塔の塔頂に得られた第1の気体を取り出して第2の蒸留塔に供給する気体供給導管と、気体供給導管の途中に設けられ第2の蒸留塔内を第1の蒸留塔内よりも高圧にする圧力差生成手段と、第1の蒸留塔の塔底液を取り出す第1の取出導管と、第1の蒸留塔を加熱する加熱手段と、第2の蒸留塔の塔頂に得られた第2の気体を取り出す第2の取出導管と、第2の取出導管の途中に設けられ第2の気体を冷却して液化させるコンデンサーとを備え、第2の蒸留塔の側壁を伝熱面として第2の蒸留塔の熱を第1の蒸留塔に移動させる内部熱交換型蒸留塔を備えることが好ましい。
【0021】
前記内部熱交換型蒸留塔では、まず、第1の蒸留塔に供給された前記発酵溶液が前記加熱手段により加熱されて蒸留されることにより、第1の蒸留塔の塔頂に、該発酵溶液より高濃度のエタノールを含む第1の気体が得られる。前記第1の気体は、前記気体供給導管を介して第2の蒸留塔に供給されるが、このとき前記圧力差生成手段により、第2の蒸留塔内が第1の蒸留塔内よりも高圧にされることにより第2の蒸留塔内の温度が上昇する。
【0022】
前記内部熱交換型蒸留塔では、前記圧力差生成手段は、第1の蒸留塔内を大気圧とし、前記第1の気体を加圧して、第2の蒸留塔内を大気圧以上の加圧状態としてもよい。また、前記圧力差生成手段は、第1の蒸留塔内を減圧して、第1の蒸留塔内を大気圧以下の減圧状態とし、第2の蒸留塔内を大気圧としてもよい。
【0023】
この結果、前記第1の気体は第2の蒸留塔でさらに蒸留され、第2の蒸留塔の塔頂に、第1の気体より高濃度のエタノールを含む第2の気体が得られる。前記第2の気体は第2の取出導管から取出され、前記コンデンサーで冷却されて液化されることにより、前記発酵溶液より高濃度のエタノールを含むエタノール溶液を得ることができる。
【0024】
ここで、前記内部熱交換型蒸留塔では、前記圧力差生成手段により、第2の蒸留塔内が第1の蒸留塔内よりも高圧にされることにより、第2の蒸留塔内の温度が上昇し、第1の蒸留塔内の温度より高温となる。この結果、第2の蒸留塔の熱が、第2の蒸留塔の側壁を伝熱面として第1の蒸留塔に移動する。従って、第1の蒸留塔はさらに加熱され、第2の蒸留塔の温度は低下するので、加熱及び冷却の仕事量を低減することができ、蒸留に要する熱エネルギーを低減することができる。
【0025】
ところが、前記内部熱交換型蒸留塔では、熱伝達面である第2の蒸留塔の側壁に前記析出物が付着堆積すると、該析出物が断熱材として作用するために熱伝達抵抗が増大し、第2の蒸留塔から第1の蒸留塔への熱移動が阻害されることが懸念される。
【0026】
しかし、本発明のエタノール製造装置によれば、前記濾過手段により前記発酵溶液から前記タンパク質と前記無機化合物とが濾別されるので、前記第2の蒸留塔の側壁に析出物が付着堆積することを防止して、前記内部熱交換型蒸留塔を円滑に運転することができる。従って、前記蒸留手段が前記内部熱交換型蒸留塔を備えることにより、蒸留に要する熱エネルギーをさらに低減することができる。
【0027】
本発明のエタノール製造装置では、前記バイオマスとして、例えばリグノセルロース系バイオマスを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のエタノール製造装置の構成を示すシステム構成図。
【図2】付着堆積物の成分分析例を示すフーリエ変換赤外分光スペクトルのチャート。
【図3】本発明のエタノール製造装置に用いる内部熱交換型蒸留塔の一構成例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態のエタノール製造装置1は、前処理装置2、糖化処理装置3、発酵処理装置4、蒸留塔システム5を備えている。
【0031】
前処理装置2は、原料供給装置21、アンモニア水供給装置22、攪拌槽23、貯留槽24、移送導管25を備えている。原料供給装置21は原料となる基質を攪拌槽23に供給し、アンモニア水供給装置22はアンモニア水を攪拌槽23に供給する。前記基質としては、リグノセルロース系バイオマス、例えば稲藁を用いることができる。
【0032】
攪拌槽23は、前記基質と前記アンモニア水とを攪拌、混合し、得られた基質混合物を貯留槽24に供給する。貯留槽24は、基質混合物を所定時間貯留する間に、加熱することなく前記基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させることにより、糖化前処理物を得る。
【0033】
前記糖化前処理物は、貯留槽24の底部に接続された移送導管25により取出され、移送導管25の途中に設けられた固液分離装置26によりアンモニアが分離されて、アンモニア分離糖化前処理物として、糖化処理装置3に送られる。固液分離装置26は、分離したアンモニアをアンモニア水として回収する回収導管27を備えている。回収導管27は、アンモニア水供給装置22に接続されている。
【0034】
糖化処理装置3は、糖化処理槽31を備え、糖化処理槽31の上部には移送導管25が接続されると共に、糖化酵素供給装置32が設けられている。糖化処理槽31の底部には、糖化処理槽31で得られた糖化溶液を発酵処理装置4に移送する移送導管33が接続されている。移送導管33の途中には、固液分離装置34が設けられており、前記糖化溶液に含まれる前記稲藁の残渣等が分離、除去される。
【0035】
発酵処理装置4は、発酵処理槽41を備え、発酵処理槽41の上部には移送導管33が接続されると共に、菌体供給装置42が設けられている。発酵処理槽41の底部には、発酵処理槽41で得られた発酵溶液を蒸留塔システム5に移送する移送導管43が接続されている。
【0036】
移送導管43の途中には、前記発酵溶液に含まれる無機化合物を分離する分離装置44と、該発酵溶液に含まれるタンパク質と分離装置44により分離された該無機化合物とを該発酵溶液から濾別する濾過装置45が設けられている。また、分離装置44は、前記発酵溶液に含まれる無機化合物を分離するために、該発酵溶液のpHを調整するpH調整液を添加するpH調整液添加装置46と、該無機化合物を凝集させる凝集剤を添加する凝集剤添加装置47とを備えている。前記凝集剤としては、例えば、鉄塩、アルミニウム塩、カルシウム塩等を用いることができる。
【0037】
濾過装置45は、前記発酵溶液に含まれるタンパク質と分離装置44により分離された前記無機化合物とを各別に前記発酵溶液から濾別することが好ましい。このため、濾過装置45は、前記無機化合物を前記発酵溶液から濾別する無機化合物濾過装置(図示せず)と、該無機化合物濾過装置の下流側に備えられ前記タンパク質を前記発酵溶液から濾別するタンパク質濾過装置(図示せず)とを備えている。
【0038】
前記無機化合物濾過装置としては、75〜500μm、好ましくは150〜250μmの範囲の目開きのフィルターを用いることができる。また、前記タンパク質濾過装置としては、分画分子量が1000〜3500の範囲の限外濾過膜又は、アクリルもしくはスチレンをジビニルベンゼンで架橋した最頻度半径50〜500Åを有するイオン交換樹脂を備えるものを用いることができる。
【0039】
また、pH調整液添加装置46と、凝集剤添加装置47とは、いずれか一方のみを備えるようにしてもよい。
【0040】
蒸留塔システム5は、もろみ塔51、精留塔52、脱水装置53を備え、もろみ塔51の上部に移送導管43が接続されている。もろみ塔51は塔頂液を精留塔52に移送する移送導管54を備えており、精留塔52は塔頂液を脱水装置53に移送する移送導管55と、塔底液をもろみ塔51の上部に還流する還流導管56とを備えている。また、もろみ塔51と精留塔52とは、それぞれ図示しない加熱装置とコンデンサーとを備えている。前記加熱装置としては、例えば、もろみ塔51と精留塔52とのそれぞれの塔底に蒸気を吹き込む装置を用いることができる。
【0041】
次に、エタノール製造装置1の作動について説明する。
【0042】
エタノール製造装置1では、まず、原料供給装置21から供給される基質としての稲藁と、アンモニア水供給装置22から供給されるアンモニア水とを攪拌槽23で攪拌し、基質混合物を得る。得られた基質混合物は、攪拌槽23の直下に接続されている貯留槽24に供給され、貯留槽24内で所定時間貯留されることにより、加熱することなく前記稲藁からリグニンを解離し、又は該稲藁を膨潤させることにより、糖化前処理物を得る。
【0043】
前記糖化前処理物はアンモニア水を含有しているので、移送導管25により糖化処理槽31に移送される間に、移送導管25の途中に設けられた固液分離装置26でアンモニアが分離される。この結果、糖化処理槽31には、アンモニア分離糖化前処理物が移送される。一方、固液分離装置26で分離されたアンモニアは、回収導管27によりアンモニア水として回収され、アンモニア水供給装置22に還流される。
【0044】
糖化処理槽31では、移送導管25を介して供給される前記アンモニア分離糖化前処理物に、糖化酵素供給装置32から供給される糖化酵素を混合し、所定時間保持する。この結果、前記基質としての稲藁に含まれるセルロース、ヘミセルロース等が糖化された糖化溶液が得られる。
【0045】
前記糖化溶液は、糖化処理槽31の底部に接続された移送導管33により取出され、移送導管33の途中に設けられた固液分離装置34により前記稲藁の残渣等が分離、除去された後、発酵処理槽41に移送される。
【0046】
発酵処理槽41では、移送導管33を介して供給される前記糖化溶液に、菌体菌体供給装置42から供給される発酵菌又は酵母を混合し、所定時間保持する。この結果、前記糖化溶液に含まれる糖分が前記発酵菌又は酵母によりエタノール発酵し、エタノールを含む発酵溶液が得られる。
【0047】
前記発酵溶液は、発酵処理槽41の底部に接続された移送導管43により取出され、もろみ塔51に移送されるが、何ら処理を施さずに移送すると、もろみ塔51、精留塔52、移送導管54,55、還流導管56等に析出物が付着堆積することが懸念される。
【0048】
図2に、付着堆積する析出物(付着堆積物)のフーリエ変換赤外分光スペクトルを示す。図2から、前記発酵溶液は、リン酸塩、ケイ酸塩(1200〜900cm−1、700〜500cm−1)、タンパク質(1625、1537cm−1、アミド結合)を含むことが認められる。従って、前記析出物は、リン酸塩、ケイ酸塩とタンパク質との複合物であると考えられる。
【0049】
前記タンパク質は、前記糖化に用いられる酵素や、前記発酵に用いられる発酵菌又は酵素の菌体由来の成分であり、前記ケイ酸塩は稲藁自体の成分、リン酸塩は前記発酵菌又は酵素の培養に用いられる成分と考えられる。
【0050】
そこで、前記発酵溶液は、まず、移送導管43の途中に設けられた分離装置44に供給されることにより、前記リン酸塩、ケイ酸塩等の無機物が除去される。分離装置44における前記無機物の除去は、pH調整液添加装置46から前記発酵溶液にpH調整液を添加して該発酵溶液のpHを調整することにより前記リン酸塩、ケイ酸塩等の無機化合物を沈殿させることにより行うことができる。また、分離装置44における前記無機物の除去は、凝集剤添加装置47から前記発酵溶液に前記鉄塩、アルミニウム塩、カルシウム塩等の凝集剤を添加して前記無機化合物を凝集させることにより行ってもよい。
【0051】
分離装置44により分離された前記無機化合物は、この段階ではまだ沈殿又は凝集物を形成しているに過ぎず、前記発酵溶液から除去されてはいない。そこで、前記発酵溶液は、次に濾過装置45に供給されることにより、前記無機化合物の沈殿又は凝集物と前記タンパク質とが濾別される。濾過装置45は、例えば、150〜250μmの範囲の目開きのフィルターからなる無機化合物濾過装置と、その下流に備えられ、分画分子量が1000〜3500の範囲の限外濾過膜又は、アクリルもしくはスチレンをジビニルベンゼンで架橋した最頻度半径50〜500Åを有するイオン交換樹脂を備えるタンパク質濾過装置とを備えることにより、前記無機化合物の沈殿又は凝集物と前記タンパク質とを効率よく濾別することができる。
【0052】
前記発酵溶液は、濾過装置45により前記無機化合物の沈殿又は凝集物と前記タンパク質とが濾別されて除去された後、もろみ塔51に供給される。もろみ塔51では、前記発酵溶液が蒸留されることにより、塔頂液として該発酵溶液より高濃度のエタノールを含む第1のエタノール溶液が得られる。前記第1のエタノール溶液は、もろみ塔51の塔頂部から取出され、移送導管54により精留塔52に移送される。
【0053】
精留塔52では、前記第1のエタノール溶液が精留されることにより、塔頂液として第1のエタノール溶液よりさらに高濃度のエタノールを含む第2のエタノール溶液が得られる。第2のエタノール溶液は、精留塔52の塔頂部から取出され、移送導管55により脱水装置53に移送され、脱水される。この結果、製品として99.9重量%程度の濃度のエタノールが得られる。
【0054】
即ち、蒸留塔システム5では、もろみ塔51が回収部として作用し、精留塔52が濃縮部として作用する。尚、精留塔52の塔底液は、還流導管56によりもろみ塔51に還流され、再び蒸留に供される。
【0055】
本実施形態のエタノール製造装置1では、蒸留塔システム5の上流側で前記発酵溶液に含有される前記無機化合物及び前記タンパク質が除去されるので、蒸留塔システム5内に析出物が付着堆積することを防止することができる。従って、本実施形態のエタノール製造装置1によれば、蒸留塔システム5を円滑に効率よく運転することができる。
【0056】
本実施形態のエタノール製造装置1は、もろみ塔51、精留塔52、脱水装置53を備える蒸留塔システム5を備えているが、蒸留塔システム5はもろみ塔51及び精留塔52に代えて、図3に示す内部熱交換型蒸留塔6を備えていてもよい。
【0057】
内部熱交換型蒸留塔6は、第1の蒸留塔61の内部に第2の蒸留塔62が配設され、第2の蒸留塔62の内部と外部とが互いに隔離された構造の単一の蒸留塔63を備える。第1の蒸留塔61は、第2の蒸留塔62の外側となっている部分の上部に、発酵溶液供給手段として、発酵処理槽41から前記発酵溶液を移送する移送導管43が接続されていると共に、塔頂に得られた第1の気体を取り出し、第2の蒸留塔62に供給する気体供給導管64を備えている。
【0058】
気体供給導管64は、途中に第1の蒸留塔61内を減圧するドライ真空ポンプ65が設けられており、ドライ真空ポンプ65の下流側で第2の蒸留塔62の底部に接続されている。また、第1の蒸留塔61は、第2の蒸留塔62の外側となっている部分の底部から塔底液を取り出す第1の取出導管66を備えている。第1の取出導管66の途中には、移送導管43から供給される前記発酵溶液と前記塔底液との間で熱交換し、該発酵溶液を予熱する熱交換器67が備えられている。
【0059】
また、第1の蒸留塔61の底部には、第1の蒸留塔61内に直接蒸気を供給して第1の蒸留塔61を加熱する蒸気管68が備えられている。内部熱交換型蒸留塔6では、熱交換器67及び蒸気管68により、第1の蒸留塔61を加熱する加熱手段が構成されている。
【0060】
一方、第2の蒸留塔62の塔頂部には、第2の蒸留塔62内部の塔頂液を取り出す第2の取出導管69が備えられており、コンデンサー70を介して製品としてのエタノールが取出される。また、コンデンサー70は、残液を第2の蒸留塔62内部に還流する還流導管71を備えている。
【0061】
内部熱交換型蒸留塔6によれば、まず、移送導管43から第1の蒸留塔61に供給された前記発酵溶液が熱交換器67で、第1の蒸留塔61の塔底液と熱交換することより予熱され、さらに蒸気管68から第1の蒸留塔61に供給される蒸気により加熱される。この結果、前記発酵溶液が蒸留され、第1の蒸留塔61の塔頂に、該発酵溶液より高濃度のエタノールを含む第1の気体が得られる。前記第1の気体は、気体供給導管64を介して第2の蒸留塔62に供給されるが、このときドライ真空ポンプ65により第1の蒸留塔61内が減圧される。従って、第1の蒸留塔61内が大気圧以下の減圧状態となる一方、第2の蒸留塔62内は大気圧となり、第1の蒸留塔61内よりも第2の蒸留塔62内の温度の方が高温になる。
【0062】
この結果、前記第1の気体は、第2の蒸留塔62でさらに蒸留され、第2の蒸留塔62の塔頂に、さらに高濃度のエタノールを含む第2の気体が得られる。前記第2の気体は第2の取出導管69により取出され、コンデンサー70で冷却されて液化されることにより、前記発酵溶液より高濃度のエタノールを含むエタノール溶液を得ることができる。コンデンサー70の残液は、還流導管71により第2の蒸留塔62内部に還流される。
【0063】
ここで、内部熱交換型蒸留塔6では、第2の蒸留塔62内の温度の方が第1の蒸留塔61内の温度より高温となるので、第2の蒸留塔62の側壁を伝熱面として第2の蒸留塔62の熱が第1の蒸留塔61に移動する。前記熱移動の結果、第1の蒸留塔61はさらに加熱され、第2の蒸留塔62の温度は低下するので、加熱及び冷却の仕事量を低減することができ、蒸留に要する熱エネルギーを低減することができる。
【0064】
ところが、伝熱面となる第2の蒸留塔62の側壁に前記析出物が付着堆積すると、該析出物が断熱材として作用するために熱伝達抵抗が増大し、第2の蒸留塔62から第1の蒸留塔61への前記熱移動が阻害されることが懸念される。
【0065】
しかし、本実施形態のエタノール製造装置1によれば、濾過装置45により前記タンパク質と前記無機化合物とが濾別されるので、第2の蒸留塔62の側壁に析出物が付着堆積することを防止して、内部熱交換型蒸留塔6を円滑に運転することができる。従って、もろみ塔51と精留塔52とを用いる場合よりも、蒸留に要する熱エネルギーをさらに低減することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…エタノール製造装置、 2…前処理装置、 3…糖化処理装置、 4…発酵処理装置、 5…蒸留塔システム、 44…除去装置、 45…濾過装置、 46…pH調整液添加装置、 47…凝集剤添加装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスの糖化溶液を発酵させる発酵手段と、該発酵手段で得られた発酵溶液を蒸留する蒸留手段と、該発酵溶液を該発酵手段から該蒸留手段に移送する移送手段とを備えるエタノール製造装置において、
前記移送手段は、途中に、該発酵溶液に含まれる無機化合物を分離する分離手段と、該発酵溶液に含まれるタンパク質及び該分離手段により分離された該無機化合物を該発酵溶液から濾別する濾過手段とを備えることを特徴とするエタノール製造装置。
【請求項2】
請求項1記載のエタノール製造装置において、前記分離手段は前記発酵溶液に凝集剤を添加する添加手段又は、前記発酵溶液のpH調整を行う調整手段を備えることを特徴とするエタノール製造装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のエタノール製造装置において、前記濾過手段は前記無機化合物を前記発酵溶液から濾別する無機化合物濾過手段と、該無機化合物濾過手段の下流側に備えられ前記タンパク質を前記発酵溶液から濾別するタンパク質濾過手段とを備えることを特徴とするエタノール製造装置。
【請求項4】
請求項3記載のエタノール製造装置において、前記無機化合物濾過手段は、75〜500μmの範囲の目開きのフィルターであることを特徴とするエタノール製造装置。
【請求項5】
請求項3記載のエタノール製造装置において、前記タンパク質濾過手段は、分画分子量が1000〜3500の範囲の限外濾過膜又は、アクリルもしくはスチレンをジビニルベンゼンで架橋した最頻度半径50〜500Åを有するイオン交換樹脂を備えることを特徴とするエタノール製造装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のエタノール製造装置において、前記蒸留手段は、第1の蒸留塔と、第1の蒸留塔の内部に配設されその内部と外部とが隔離された第2の蒸留塔と、第1の蒸留塔に前記発酵溶液を供給する発酵溶液供給手段と、第1の蒸留塔の塔頂に得られた第1の気体を取り出して第2の蒸留塔に供給する気体供給導管と、気体供給導管の途中に設けられ第2の蒸留塔内を第1の蒸留塔内よりも高圧にする圧力差生成手段と、第1の蒸留塔の塔底液を取り出す第1の取出導管と、第1の蒸留塔を加熱する加熱手段と、第2の蒸留塔の塔頂に得られた第2の気体を取り出す第2の取出導管と、第2の取出導管の途中に設けられ第2の気体を冷却して液化させるコンデンサーとを備え、第2の蒸留塔の側壁を伝熱面として第2の蒸留塔の熱を第1の蒸留塔に移動させる内部熱交換型蒸留塔を備えることを特徴とするエタノール製造装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のエタノール製造装置において、前記バイオマスはリグノセルロース系バイオマスであることを特徴とするエタノール製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−111725(P2012−111725A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263394(P2010−263394)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】