説明

エチレンのオリゴマー化のための触媒、その調製方法、およびそれを使用したオリゴマー化プロセス

本発明は、エチレンのオリゴマー化のための触媒であって、官能化された固体担体;化学結合により固体担体上に固定化されたリガンドであって、構造(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−Y−担体または(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−P(R6)−Y−担体を有し、ここで、R1、R2、R3、R4、R5およびR6が、独立して、脂肪族基、アリール基、アミノ基およびトリメチルシリル基から選択され、Yが担体の官能基またはその誘導体であるリガンド;およびリガンドと反応したクロム化合物を含む触媒;並びにその調製方法およびその触媒を使用したエチレンのオリゴマー化プロセスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンのオリゴマー化のための触媒、その調製方法およびその触媒を使用したエチレンのオリゴマー化プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
コモノマー等級の1−ブテンおよび1−ヘキセンを含む、線状アルファオレフィン(LAO)の製造のための既存のプロセスは、エチレンのオリゴマー化に依存している。これらのプロセスには、そのプロセスによって4,6,8などの鎖長を持つエチレンオリゴマーの生成物分布が生じるという共通点がある。これは、競合する鎖の成長および置換反応工程により大いに左右され、シュルツ−フローリーまたはポアソン生成物分布を生じる化学機構のためである。
【0003】
市場の観点から、この生成物分布により、全種類揃えたアルファオレフィン製造業者にとって大変な課題が突きつけられる。その理由は、目的に適う各市場区分は、市場サイズと成長、地勢、細分化などに関して非常に異なる反応を示す。したがって、一連の生成物の内の一部には、所定の経済事情において大きい需要があるかもしれないのと同時に、他の生成物留分には、全くまたは取るに足らない隙間産業にしか市場性がないかもしれないので、製造業者が市場の要件に適応することは非常に難しい。
【0004】
それゆえ、最も経済的に発展し得るLAO、すなわちコモノマー等級の1−ヘキセンを計画的に生産することが非常に望ましいようである。
【0005】
1つのαオレフィンの高い選択率、特に、1−ヘキセンの高い選択率に関する要件を満たすために、新たなプロセスが開発されてきた。唯一の公知の選択的C6−工業プロセスは、シェブロン・フィリップス社(Chevron Philips)により操業されている。非特許文献1を参照のこと。
【0006】
さらに、サソール(Sasol)により(特許文献1)、典型的に、CrCl3(ビス−(2−ジフェニルホスフィノ−エチル)アミン)/MAO(メチルアルミノキサン)のタイプの、クロム系の選択的なエチレン三量体化触媒系を開示した特許出願が出願されている。また、リガンド構造の変形(例えば、ビス(2−ジエチルホスフィノ−エチル)−アミン、ペンタメチルジエチレントリアミンなど)も開示された。しかしながら、これらの錯体の全てにより、1−ヘキサン以外のLAOおよびポリエチレンなどの望ましくない副生成物が著しい量で生成されしまう。
【0007】
多数の科学文献および特許文献に、エチレンの三量体化および四量体化のための、基本PNP−構造(非特許文献2および3を参照のこと)を備えたリガンド(例えば、ビス(ジフェニルホスフィノ)アミン−リガンド)、またはSNS−構造(非特許文献4および5を参照のこと)を備えたリガンドを有するクロム系金属の有機錯体の使用が記載されている。過剰の量のMAOが活性剤/助触媒として最も一般的に使用される。
【0008】
公表された研究の大半はCr−PNP錯体に基づいているが、あるものは、例えば、Xが二価の有機結合基である一般式(R1)(R2)P−X−P(R3)(R4)の他のリガンドを取り扱っている(特許文献2を参照のこと)か、またはチタノセンなどの完全に異なる錯体により対処している(非特許文献6を参照のこと)。いずれの場合においても、主な懸念は、常にポリエチレンの形成の最小化と選択性である。
【0009】
α−オレフィンの選択性は、実際に、従来技術の重大な懸念であるが、同じことが同様に触媒の回転率にも当てはまる。その結果、最近の刊行物(非特許文献7)では、チタンに基づくエチレンの三量体化の反応ネットワークおよび反応速度論を取り扱っている。技術的観点から、触媒の特異的活性がいくつかの態様のために重要である。
【0010】
特異的活性が非常に低いと、必然的に、要求される触媒の量があまりにも多量になるか、または設備がひどく大きくなり、両方の場合において費用が過剰になってしまう。反対に、回転率が非常に高いと、熱の除去に関する問題が生じ、プラントの保全性が危うくなったり、安全性に大きな脅威が及ぼされたり、全てマイナスの結果をもたらす反応の暴走の恐れが思い起こされるであろう。
【0011】
それゆえ、科学文献および特許文献にこれまでに開示された選択的なエチレンの二量体化および三量体化のための触媒およびプロセスは、一般に、以下の課題に対処しなければならない:
・ 価値のある生成物、例えば、1−ヘキサンに対する低い選択率のために、副反応経路からの望ましくない副生成物が形成されてしまう。
・ 生成物の限られた純度、すなわち、特定のC6留分内の選択率は、異性化、分岐鎖オレフィンの形成などのために、最適状態には及ばない。
・ ワックスの形成、すなわち、重い長鎖の炭素数の大きい生成物の形成。
・ ポリマー、例えば、ポリエチレン、分岐鎖および/または架橋PEの形成;これにより、生成物の収率が著しく損なわれ、設備のファウリングが生じてしまう。
・ 不十分な回転率/触媒活性により、生成物1kg当たりのコストが高くつく。
・ 高い触媒および/またはリガンドの費用。
・ 難しいリガンド合成のために、入手可能性が低くなり、触媒の全体の費用が高くなる。
・ 活性と選択性の両方に関する、微量の不純物に対する触媒の性能の感受性(触媒の損失/触媒被毒)。
・ 技術環境における触媒成分の難しい取扱い:触媒−錯体の合成、予混、不活性化、触媒またはリガンドの回収。これは主に、従来技術の系が均一触媒系であるという事実による。その結果、それらの系は、溶液中に活性成分を含有する反応マスの取扱いに関連する通常の難点にさらされる:反応マスからの物理的に溶解した触媒および/またはリガンドの分離には、複雑で費用のかかる単位操作が必要である。
・ 厳しい反応条件、すなわち、高温・高圧により、投資コスト、維持費およびエネルギー費が高くなる。
・ 助触媒/活性化剤の費用が高いことおよび/または消費量の多いこと。
・ 従来技術の不均一触媒系の不十分な長期安定性。
・ 様々な助触媒の品質に対する感受性;これは、しばしは、多量の比較的あいまいな化合物を活性化剤(例えば、あるMAO−変種)として使用しなければならない場合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第03/053891A1号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/039758A1号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J. T. Dixon, M. J. Green, F. M. Hess, D. H. Morgan, "Advances in selective ethylene trimerisation - a critical overview", Journal of Organometallic Chemistry 689 (2004) 3641-3668
【非特許文献2】S. McGuinness, P. Wasserscheid, W. Keim, C. Hu, U. Englert, J. T. Dixon, C. Grove, "Novel Cr-PNP complexes as catalysts for the trimerization of ethylene", Chem. Commun., 2003, 334-335
【非特許文献3】K. Blann, A. Bollmann, J. T. Dixon, F.M. Hess, E. Killian, H. Maumela, D. H. Morgan, A. Neveling, S. Otto, M. J. Overett, "Highly selective chromium-based ethylene trimerisation catalysts with bulky diphosphinoamine ligands", Chem. Comm., 2005, 620-621
【非特許文献4】D. S. McGuinness, D. B. Brown, R. P. Tooze, F. M. Hess, J. T. Dixon, A. M. Z. Slavin, "Ethylene Trimerization with Cr-PNP and Cr-SNS Complexes: Effect of Ligand Structure, Metal Oxidation State, and Role of Activator on Catalysis", Organometallics 2006, 25, 3605-3610
【非特許文献5】A. Jabri, C. Temple, P. Crewdson, S. Gambarotta, I. Korobkov, R. Duchateau, "Role of the Metal Oxidation State in the SNS-Cr Catalyst for Ethylene Trimerization: Isolation of Di- and Trivalent Cationic Intermediates, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 9238-9247
【非特許文献6】H. Hagen, W. P. Kretschmer, F. R. van Buren, B. Hessen, D. A. van Oeffelen, "Selective ethylene trimerization: A study into the mechanism and the reduction of PE formation", Journal of Molecular Catalysis A: Chemical 248 (2006) 237-247
【非特許文献7】H. Hagen, "Determination of Kinetic Constants for Titanium-based Ethylene Trimerization Catalysts", Ind. Eng. Chem. res., 2006, 45, 3544-3551
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の課題は、従来技術の欠点を克服するかまたは少なくとも最小にした、エチレンのオリゴマー化のための触媒を提供することにある。詳しくは、幅広い範囲のLAO生成物を避け、望ましくない副産物のない、経済的に最も望ましい生成物である1−ヘキセンまたは1−ブテンの選択的な製造が可能な触媒を提供する。さらに、その触媒は、活性触媒成分の浸出なく、非常に安定かつロバスト性である。
【0015】
その上、そのような触媒の調製方法並びにその触媒を使用したエチレンのオリゴマー化プロセスも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の課題は、エチレンのオリゴマー化のための触媒であって、官能化された固体担体;化学結合により固体担体上に固定化されたリガンドであって、構造(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−Y−担体または(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−P(R6)−Y−担体を有し、ここで、R1、R2、R3、R4、R5およびR6が、独立して、脂肪族基、アリール基、アミノ基およびトリメチルシリル基から選択され、Yが担体の官能基またはその誘導体であるリガンド;およびリガンドと反応したクロム化合物を含む触媒により達成される。
【0017】
官能化された固体担体が有機または無機担体であることが好ましい。
【0018】
官能化された固体担体が、アミン基、好ましくは第一級アミン基により官能化されていることが最も好ましい。
【0019】
ある実施の形態において、固体担体と官能基との間にスペーサ基が設けられている。
【0020】
1、R2、R3、R4、R5およびR6が、独立して、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基およびキシリル基から選択されることが好ましい。
【0021】
さらに、−Y−が−NH−であることが好ましい。
【0022】
別の実施の形態において、クロム化合物が、少なくとも、担体上に固定化されたリガンドの全てを飽和させるのに必要な量で存在する。
【0023】
本発明によれば、エチレンのオリゴマー化のための触媒を調製する方法であって、
(i) 構造(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−Clまたは(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−P(R6)Xを有するリガンドであって、ここで、Xは離脱基であり、R1、R2、R3、R4、R5およびR6が、独立して、脂肪族基、アリール基、アミノ基およびトリメチルシリル基から選択されるリガンドを、化学結合によって、官能化された固体担体上に固定化し、
(ii) クロム化合物を固定化されたリガンドと反応させる、
各工程を有してなる方法が提供される。
【0024】
クロム化合物が、Cr(II)またはCr(III)の有機または無機塩、配位錯体および有機金属錯体から選択されることが好ましい。
【0025】
好ましい実施の形態において、クロム化合物が、CrCl3(THF)3、Cr(III)アセチルアセトネート、オクタン酸Cr(III)、クロムヘキサカルボニル、2−エチルヘキサン酸Cr(III)および(ベンゼン)トリカルボニルクロムから選択される。
【0026】
官能基がアミン基、好ましくは第一級アミン基であることがさらに好ましい。
【0027】
さらに、XがCl、BrおよびIから選択されることが好ましい。
【0028】
本発明によれば、触媒は本発明の方法により調製される。
【0029】
それに加え、エチレンのオリゴマー化プロセスであって、本発明の触媒の存在下でエチレンをオリゴマー化させる工程を有してなり、この触媒が助触媒により活性化されるプロセスが提供される。
【0030】
助触媒が、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、メチルアルミノキサン(MAO)およびそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0031】
Al/Crの比が約0.1から1000、好ましくは約2から200であることがさらに好ましい。
【0032】
ある好ましい実施の形態において、オリゴマー化は、10℃と200℃の間、好ましくは20℃と100℃の間の温度で行われる。
【0033】
このプロセスは連続プロセスであることが好ましく、平均滞留時間は、10分間と20時間の間、好ましくは1時間から10時間である。
【0034】
このプロセスは、撹拌タンク型反応装置、固定床流通反応装置または気泡塔型反応装置内で行われることがさらに好ましい。
【0035】
最後に、オリゴマー化がエチレンの二量体化および/または三量体化であることが最も好ましい。
【0036】
意外なことに、本発明の触媒は従来技術の欠点を著しく克服することが分かった。特に、望ましくない広い生成物分布またはポリエチレンの形成を伴わずに、高い収率、高い選択率および高い生成物純度で、エチレンから1−ヘキサンおよび/または1−ブテンを選択的に製造できる。この触媒は、非常に安定であり、ロバスト性であり、生産性が高い触媒として実証された。おそらく、触媒の固体担体への強力な化学結合のために、活性触媒成分の浸出は検出されなかった。さらに、生産速度、選択性の制御および反応装置の概念に関するプロセスの高い融通性が達成できる。さらに、固定化系のために、オリゴマー化のための簡潔かつ単純なプロセスの設計を提供できる。詳しくは、(均一)触媒分離および再利用の工程が必要ない。提案される触媒は、触媒の安定性が高いために、低い触媒/プロセスコストを提供する。この触媒は、無制限に、再利用できるであろう。
【0037】
言い換えれば、本発明は、固体担体上に、非常に安定で高選択性の均一触媒を固定化することによつて、反応の停止、触媒の分離、回収および再利用などの、均一触媒反応の一般的な難点を回避する。この固定化は、単なる物理的吸着ではなく化学結合により行われ、それゆえ、元々均一な触媒および安定な有機または無機担体を含む、安定な不均一系がもたらされる。したがって、本発明によれば、高い活性および所望の生成物に対する優れた選択性などの、均一触媒系の有利な特性が、触媒分離が不要、単純な固定床またはスラリー反応設計および容易な操作性などの、化学工学の観点から不均一系の好ましい性質と組み合わされる。
【0038】
ここで、本発明の主題のさらなる利点および特徴が、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明において詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】三量体化時間に依存する固定化されたエチレン三量体化触媒系(連続バッチ式操作)のエチレンの消費を示すグラフ
【図2】時間(分)に対する反応速度;エチレン消費(グラム)への異なる触媒活性化手法と活性化剤組成物の変種の影響を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0040】
触媒調製
本発明の典型的な実施の形態において、触媒製造の最初の工程は、リガンドの提供を含む。
【0041】
そのようなリガンドの好ましい一例は、化合物Ph2PN(iPr)P(Ph)Clであり、ここで、Phはフェニルを表し、iPrはイソプロピルを表す。この部類の化合物の合成は、公知であり、例えば、R.J. Cross, T.H. Green, R. Keat, "Conformational Effects on P-N-P Coupling Constants in Diphosphinoamines and Related Compounds", J. Chem. Soc. Dalton Trans., 1976, 1424-1428に記載されている。
【0042】
一例として、好ましい化合物の合成は、以下の反応式:
【化1】

【0043】
により記載することができる。次いで、このリガンドは、典型的に、アミン官能化された担体との反応によって、固定化リガンド系に転化される。この担体は、ポリマー(有機または無機)、スペーサ基および第一級アミン基からなっていてもよい。適切な担体の典型的な例には:
【化2】

【0044】
があり、ここで、(P)は高分子担体主鎖を表し、(SiO)は無機担体の例である。後者は、優先的に、ケイ素またはアルミニウム系であり得る。フェニル基がスペーサとして使用される。
【0045】
さらに、適切な担体は、
【化3】

【0046】
であってもよい。Tentagel(登録商標)は、グラフト重合されたポリエチレングリコール側鎖を有する架橋ポリスチレンである。「Tantagel」は、ラップ・ポリマー社(Rapp Polymere GmbH)の商標であり、ChemMatrix(登録商標)は、マトリクス・イノベーション社(Matrix Innovation, Inc.)の登録商標である。
【0047】
それらの樹脂の多くは市販されている。
【0048】
本発明の好ましい実施の形態において、トリス−2−(アミノエチル)−ポリスチレン樹脂(100〜200メッシュ、ジビニルベンゼン(DVB)と1%架橋、0.6〜1.0アミン/g)を以下のスキームにしたがって反応させる:
【化4】

【0049】
その後、修飾された樹脂は、クロム化合物との反応を経て、リガンドの結合によって高分子主鎖に固定化された触媒錯体を生成する。以下の例において、CrCl3・(THF)3がクロム源として使用される(THF=テトラヒドロフラン):
【化5】

【0050】
クロム化合物は、少なくとも、高分子主鎖に取り付けられた種−固定化リガンドの全てを飽和させるのに必要な濃度の量で加えられる。このことは、この特定の例において、CrCl3・(THF)3が樹脂1g当たり1ミリモルより多く加えられることを意味する。任意の他のCr(II)またはCr(III)−有機または無機塩もしくは配位または有機金属錯体をクロム源として同様に使用しても差し支えない。
【0051】
この固定化された触媒系は、均一系の対応物と完全に同等であり、正確に同じ高い1−ヘキセン選択率を示す。
【0052】
触媒の活性化
活性触媒は、先の工程からの触媒を、助触媒、好ましくは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、メチルアルミノキサン(MAO)またはそれらの混合物と組み合わせることによって調製される。その調製は、乾燥不活性ガス(窒素またはアルゴン)もしくは乾燥エチレンの下で行われる。活性化剤とも呼ばれる助触媒は、明確な量の水、好ましくは0.1〜2000質量ppmの水を用いて、上述した純粋な化合物のいずれかの部分加水分解によって調製しても差し支えない。一般に、助触媒は、0.1および1000モル/モルの間のAl/Cr比となるように、トルエン中の溶液として加えられる。好ましいAl/Cr比は2から200モル/モルである。
【0053】
溶媒のトルエンは、トルエン以外の芳香族炭化水素(ベンゼン、エチルベンゼン、クメネン、キシレン、メシチレンなど)、脂肪族炭化水素(長鎖と環式両方、例えば、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン)、ヘキセン、ヘプテン、オクテンなどの直鎖オレフィン、またはジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランなどのエーテルのような他の溶媒により置き換えても差し支えない。
【0054】
一般に、助触媒の機能は、固定化されたリガンドに取り付けられたCr錯体を活性化させることにある。たぶん、触媒中の第二級アミン官能基は、助触媒との接触の際に脱プロトン化され、クロム中心がアルキル化され、それによって、触媒反応が開始される。
【0055】
α−オレフィンのオリゴマー化プロセス
触媒は、溶媒中の撹拌スラリー/懸濁液または固相固定床のいずれかとして、適切な圧力反応装置内で、1バールと200バールの間、好ましくは10バールと50バールの間の圧力で乾燥エチレンの気相に曝露される。後者の場合、固定された触媒床は、明確な量の助触媒を含むエチレン飽和溶媒の流れに曝露される。あるいは、触媒ビーズ、明白な助触媒濃度を有する溶媒、およびエチレン流を含有する三相潅液充填塔式反応装置を使用しても差し支えない。スラリー反応装置が好ましい場合、例えば、適切な撹拌機などの撹拌のための手段を設けるべきである。あるいは、スラリー床は、例えば、気泡塔システム内で、エチレンガス流によって撹拌しても差し支えない。熱除去は、内部または外部冷却器/熱交換器により、溶媒の蒸発(溶媒の沸騰)の潜熱により、または反応体の流入温度による温度の制御により、行っても差し支えない。
【0056】
要約すると、反応装置は、気泡塔反応装置、スラリー撹拌タンク型反応装置、エチレン注入部が固定されたまたは分布した固定床流通反応装置などの、気相、液相および固相の間に十分な接触を提供するのに適したどのような種類のものであっても差し支えない。
【0057】
好ましい反応温度は10℃と200℃の間であり、最も好ましい温度領域は20℃から110℃である。平均滞留時間および滞留時間分布(連続プロセスの場合)は、高い選択率で十分な転化を行えるように選択される。典型的な平均滞留時間は、10分間と20時間の間(温度と圧力による)である。好ましい範囲は1時間から10時間である。
【0058】
上述した固定された触媒系を使用して、前記プロセスにより、高い生産性、高い選択率および非常に高い生成物(例えば、1−ヘキセン)純度で、1−ヘキセンが生成される。さらに、ポリマーの形成が実質的に全く観察されなかった。助触媒の正確な組成、温度、圧力および滞留時間に応じて、1−ヘキサンの収率を最大化できるか、または1−ブテンと共にC6を共に生成できる。一般に、85〜90質量%を超えるC6の収率が、99質量%を超える1−ヘキセンの選択率(全C6分画内の)で、容易に達成できる。
【0059】
最も意外なことには、固定化された触媒系が、実質的に無限の安定性を示すことが分かった。すなわち、非常に長い運転時間に亘り、全く失活は観察されなかった(図1)。このことは、エチレンのオリゴマー化を含むプロセスにとっては異常である。何故ならば、従来技術の系においては、長鎖のまたさらには高分子の副生成物の形成によって、不均一触媒表面上の活性触媒中心が必然的に遮断されるであろうからである。これにより、通常は、触媒はほとんど瞬時に完全に失活されてしまう。反対に、本発明による触媒は、合成条件下での使用時間にかかわらず、また連続プロセスまたは連続バッチ式プロセスが何回中断されるかにかかわらず、その活性および選択性のいずれも損なわれない。この反応装置は開くことさえでき、その反応は、触媒の性能を損なわずに、再始動できる。明らかに、このロバスト性は、触媒の非常に高い選択率によって生じ、それによって、そうしなければ性能に関して悪影響を及ぼすであろうどのような副生成物も避けられる。
【0060】
触媒の活性は、活性化剤溶液中の部分的に加水分解された助触媒の量を注意深く制御することによって調節できる。例えば、活性は、0.1質量ppmと2000質量ppmの間、好ましくは1から1000質量ppmの総水濃度となるように、少量の水を含有するトルエンを、トリエチルアルミニウム(TEA)/トルエン溶液に加えることよって、著しく向上させることができる。また、不活性ガス(Ar、N2)の代わりにエチレン雰囲気下で触媒を活性化させることによって、活性が増加する。
【0061】
さらに、触媒の活性は、電子が豊富な芳香族化合物、例えば、アルキル置換ベンゼンなどの電子供与体化合物を加えることによって向上させても差し支えない。
【実施例】
【0062】
実施例1:触媒の調製
リガンドの固定化
2.2gのPh2PN(iPr)P(Ph)Clを、3gのトリス−2−(アミノエチル)−ポリスチレン樹脂(100〜200メッシュ、DVBと1%架橋、0.6〜1.0アミン/g)、20mlのジエチルエーテルおよび5mlのトリエチルアミンの混合物に加えた。この懸濁液を室温で3日間に亘り撹拌し、その際に、余分な沈殿物が形成された。濾過後、残留物を、メタノールで3回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、真空下で乾燥させて、2.95gの固定化されたリガンドを得た。
【0063】
クロム錯体の形成
5mlのテトラヒドロフラン(THF)中の100mgのCrCl3・(THF)3の溶液を、10mlのTHF中の500mgの固定化されたリガンドの懸濁液に加えた。その際に、ビーズの色が、薄黄色から緑色にゆっくりと変わった。室温で24時間に亘りさらに撹拌した後、これらのビーズを濾過し、THFで3回、トルエンで2回洗浄し、真空下で乾燥させて、590mgの不溶性錯体を得た。
【0064】
実施例2:エチレンの三量体化
浸漬管、内部濾過システム、保護管、ガス噴流撹拌機、冷却コイル、温度、圧力、および撹拌速度に関する制御ユニット(全てがデータ収集システムに接続されている)を備えた、300mlの圧力反応装置を乾燥アルゴンで不活性化させ、100mlの無水トルエンを充填した。0.5gの触媒ビーズおよびトルエン中の4mlの1.9モル/lのトリエチルアルミニウム(TEA)溶液を加えた。
【0065】
この反応装置を封止し、30バールの乾燥エチレンで加圧し、65℃に加熱した。200rpmで撹拌しながら、電子秤でエチレン圧力シリンダを常に秤量し、エチレンの消費をデータ収集システムでモニタした。5時間の滞留時間後、液相中の反応を、内部濾過システムを通じて液体を、約100mlのHCl酸性化水(TEAを抑制するために)が充填されたガラス容器に移すことによって、停止した。
【0066】
触媒ビーズは、さらに処理せずに、その後に使用するために反応装置内に残した。
【0067】
反応装置のヘッドスペースからの全気相を、校正されたガス計量器により定量し、次いで、パージされ真空にされたガス袋内に適量で収集した。液体の有機生成物相の分離後、秤量によって、総質量を決定した。その後、有機相の組成をGC/FIDによって分析した。先に収集した気相は、GC/FIDによって別々に分析した。測定したデータに基づいて、物質収支を閉じ、全体の収率および選択率を決定した。1−ヘキセンの収率は、総C6分画において99質量%より大きい1−ヘキサンの選択率85質量%を常に超えていた。
【0068】
まさに、新たな無水トルエン、TEA/トルエン溶液および30バールのエチレンを加えることによって、同じ触媒を用いて、このプロセスを頻繁に再始動し、長期間の連続バッチ操作を効果的に行った。
【0069】
図1は、運転時間の関数としてのエチレンの消費を示している。垂直のチェックマークは、反応の停止とその後の再始動の時を示している。反応は、t=0時間で比較的ゆっくりと始まるが、数日後に一定の1−ヘキセンの増加率まで加速する。
【0070】
図1により視覚化した実験において、全体の反応速度は、かなり低いレベルに故意に調節した。これは、単に、全実験運転に亘り、十分に制御され、厳密に等温のプロセス条件を確保し、それゆえ、良好な科学的実施要件を満たし、すなわち、同時にいくつかのパラメータを変更しないことを確実にするためであった。
【0071】
しかしながら、図2は、活性化条件および活性化剤の組成を注意深く制御することによって、広い範囲に亘り、1−ヘキセンの生産速度を調節できることを示している。実際に、反応速度は、一定の選択率で、例えば、所定の反応装置システム内で単位時間当たりで除去できる最大の反応熱などの、より化学工学的な検討事項によってしか制限されない数量まで増加させることができる。
【0072】
先の説明、特許請求の範囲および図面に開示された特徴は、別々とその任意の組合せの両方において、本発明を様々な形態で実現するために素材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンのオリゴマー化のための触媒であって、官能化された固体担体;化学結合により前記固体担体上に固定化されたリガンドであって、構造(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−Y−担体または(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−P(R6)−Y−担体を有し、ここで、R1、R2、R3、R4、R5およびR6が、独立して、脂肪族基、アリール基、アミノ基およびトリメチルシリル基から選択され、Yが前記担体の官能基またはその誘導体であるリガンド;および前記リガンドと反応したクロム化合物を含む触媒。
【請求項2】
前記官能化された固体担体が有機または無機担体であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記官能化された固体担体がアミン基により官能化されていることを特徴とする請求項1または2記載の触媒。
【請求項4】
前記固体担体と前記官能基との間にスペーサ基が設けられていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の触媒。
【請求項5】
1、R2、R3、R4、R5およびR6が、独立して、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基およびキシリル基から選択されることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の触媒。
【請求項6】
−Y−が−NH−であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の触媒。
【請求項7】
前記クロム化合物が、少なくとも、前記担体上に固定化されたリガンドの全てを飽和するのに必要な量だけ存在することを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の触媒。
【請求項8】
エチレンのオリゴマー化のための触媒を調製する方法であって、
(i) 構造(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−Clまたは(R1)(R2)P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−P(R6)Xを有するリガンドであって、ここで、Xは離脱基であり、R1、R2、R3、R4、R5およびR6が、独立して、脂肪族基、アリール基、アミノ基およびトリメチルシリル基から選択されるリガンドを、化学結合によって、官能化された固体担体上に固定化し、
(ii) クロム化合物を固定化された前記リガンドと反応させる、
各工程を有してなる方法。
【請求項9】
前記クロム化合物が、Cr(II)またはCr(III)の有機または無機塩、配位錯体および有機金属錯体から選択されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記クロム化合物が、CrCl3(THF)3、Cr(III)アセチルアセトネート、オクタン酸Cr(III)、クロムヘキサカルボニル、2−エチルヘキサン酸Cr(III)および(ベンゼン)トリカルボニルクロムから選択されることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記官能化された固体担体の官能基がアミン基であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項12】
Xが、Cl、BrおよびIから選択されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項13】
請求項8記載の方法により調製された触媒。
【請求項14】
エチレンのオリゴマー化プロセスであって、請求項1から7および13いずれか1項記載の触媒の存在下でエチレンをオリゴマー化させる工程を有してなり、前記触媒が助触媒により活性化されることを特徴とするプロセス。
【請求項15】
前記助触媒が、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、メチルアルミノキサン(MAO)およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項14記載のプロセス。
【請求項16】
Al/Crの比が約0.1から1000であることを特徴とする請求項15記載のプロセス。
【請求項17】
前記オリゴマー化が10℃と200℃の間の温度で行われることを特徴とする請求項14から16いずれか1項記載のプロセス。
【請求項18】
前記プロセスが連続プロセスであり、平均滞留時間が10分間と20時間の間であることを特徴とする請求項14から17いずれか1項記載のプロセス。
【請求項19】
撹拌タンク型反応装置、固定床流通反応装置または気泡塔反応装置内で行われることを特徴とする請求項14から18いずれか1項記載のプロセス。
【請求項20】
前記オリゴマー化がエチレンの二量体化および/または三量体化であることを特徴とする請求項14から19いずれか1項記載のプロセス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−518034(P2011−518034A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502248(P2011−502248)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001518
【国際公開番号】WO2009/121456
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(507055615)リンデ アーゲー (29)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AG
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】