説明

エッチング方法、エッチング装置および記憶媒体

【課題】シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の高いエッチング選択比を達成する技術を提供する。
【解決手段】エッチング方法は、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に、シリル化剤を供給してシリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜を形成する工程を有している。その後、前記基板に、エッチング液を供給する。このことによりシリコン窒化膜のみを選択的にエッチングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に対してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造のための処理の一つとして、半導体ウエハ等の基板の表面に形成されたシリコン窒化膜をエッチング液によりエッチングするウェットエッチング処理がある。ウェットエッチング処理を行うにあたって、シリコン酸化膜を殆どエッチングすることなくシリコン窒化膜を選択的にエッチングしなければならない場合が多々あり、このような場合に、従来は、エッチング液としてリン酸溶液(HPO)が用いられていた(特許文献1参照)。しかし、リン酸のために専用の供給系を設ける必要がある、リン酸によるクリーンルーム雰囲気の汚染防止に配慮する必要がある、そして、高純度のリン酸は高価である、等の理由により、最近では、リン酸を用いないエッチング液が使用されてきている。
【0003】
特許文献2には、そのようなリン酸を用いないエッチング液の一例として、硫酸、フッ化物および水を含有するエッチング液が記載されており、半導体等の電子デバイスの製造の用途には、前記フッ化物としてフッ化水素酸およびフッ化アンモニウムを用いることが好ましいことも記載されている。
【0004】
しかしながら、リン酸系のエッチング液を用いて基板をエッチングした場合、あるいはフッ酸系のエッチング液を用いて基板をエッチングした場合のいずれの場合においても、シリコン酸化膜のエッチング量に対するシリコン窒化膜のエッチング量の比(以下「SiN/SiO選択比」とも称する)を半導体デバイスの製造のために求められているレベルまで高めることはむずかしいのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−221540号公報
【特許文献2】特開2010−147304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、シリコン酸化膜のエッチング量に対するシリコン窒化膜のエッチング量の比(SiN/SiO選択比)をかなり高いレベルまで上昇させることができるエッチング方法、エッチング装置および記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板を準備する工程と、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した前記基板に、シリル化剤を供給して基板上のシリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜を形成する工程と、前記基板に、エッチング液を供給してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする工程と、を備えたことを特徴とするエッチング方法である。
【0008】
本発明は、前記基板にシリル化剤を供給する工程と、前記基板にエッチング液を供給する工程の間に、前記基板に第1リンス液を供給してシリル化剤を除去する工程を更に備えたことを特徴とするエッチング方法である。
【0009】
本発明は、前記基板にシリル化剤を供給する工程と、前記基板に第1リンス液を供給する工程との間に、前記基板にIPAを供給する工程を更に備えたことを特徴とするエッチング方法である。
【0010】
本発明は、前記基板にエッチング液を供給する工程の後で、基板に第2リンス液を供給する工程を更に備えたことを特徴とするエッチング方法である。
【0011】
本発明は、前記基板にシリル化剤を供給する工程、前記基板にIPAを供給する工程、前記基板に第1リンス液を供給する工程、前記基板にエッチング液を供給する工程、および前記基板に第2リンス液を供給する工程からなるサイクルが複数回繰り返されることを特徴とするエッチング方法である。
【0012】
本発明は、前記基板に第2リンス液を供給した後、前記基板を乾燥させる工程を更に備えたことを特徴とするエッチング方法である。
【0013】
本発明は、前記基板を乾燥させる工程において、前記基板に乾燥用IPAが供給されることを特徴とするエッチング方法である。
【0014】
本発明は、前記基板に第2リンス液を供給した後、シリル化膜からなる保護膜を除去する工程を備えたことを特徴とするエッチング方法である。
【0015】
本発明は、シリル化膜からなる保護膜は、基板にUV線を照射することにより除去されることを特徴とするエッチング方法である。
【0016】
本発明は、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板を保持する基板保持部と、前記基板保持部に保持された基板に、シリル化剤を供給するシリル化剤供給機構と、前記基板保持部に保持された基板に、エッチング液を供給するエッチング液供給機構と、前記シリル化剤供給機構および前記エッチング液供給機構を制御して、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した前記基板に、シリル化剤を供給して基板上のシリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜を形成する工程と、前記基板に、エッチング液を供給してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする工程と、が実行されるようにする制御部と、を備えたエッチング装置である。
【0017】
本発明は、前記基板保持部は基板を水平姿勢で保持するように構成されており、前記エッチング装置は、前記基板保持部を鉛直軸線周りに回転させる回転駆動部をさらに備えており、前記制御部は、シリル化剤を供給する工程およびエッチング液を供給する工程において、基板を保持した前記基板保持部が回転するように前記回転駆動部を制御するように構成されているエッチング装置である。
【0018】
本発明は、前記シリル化剤供給機構はシリル化剤を貯留するシリル化剤貯留タンクと、シリル化剤貯留タンクからのシリル化剤を基板に供給するシリル化剤ノズルとを有し、前記エッチング液供給機構はエッチング液を貯留するエッチング液貯留タンクと、エッチング液貯留タンクからのエッチング液を基板に供給するエッチング液ノズルとを有する、ことを特徴とするエッチング装置である。
【0019】
本発明は、エッチング装置の制御部をなすコンピュータにより読み取り可能なプログラムを記録する記憶媒体であって、前記エッチング装置は、基板にシリル化剤を供給するシリル化剤供給機構と、基板にエッチング液を供給するエッチング液供給機構とを有し、前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記エッチング装置を制御して、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した前記基板に、シリル化剤を供給して基板上のシリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜を形成する工程と、前記基板に、エッチング液を供給してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする工程と、を実行させる、記憶媒体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、基板にシリル化剤を供給してシリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜を形成し、その後に基板にエッチング液を供給するので、シリル化膜によりシリコン酸化膜表面を効果的に保護しながらエッチング液によりシリコン窒化膜を選択的にエッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1はエッチング装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図2は図1に示すエッチング装置の概略平面図である。
【図3】図3(a)(b)はエッチング対象基板の構造の一例を示す概略断面図である。
【図4】図4(a)(b)はエッチング対象基板の構造の他の一例を示す概略断面図である。
【図5】図5は本発明によるエッチング方法を示すフローチャートである。
【図6】図6は本発明の実施例によるシリル化膜の有無に対するエッチング量とSiN/SiO選択比の関係を示す図である。
【図7】図7は本発明の実施例によるエッチング時間に対するエッチング量とSiN/SiO選択比の関係を示す図である。
【図8】図8は本発明の実施例によるTMSDMAを供給した場合のウエハ表面の接触角を示す図である。
【図9】図9はシリル化剤を供給した場合のシリコン窒化膜表面とシリコン酸化膜表面の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。
【0023】
まず、ウェットエッチング装置の構成について説明する。ウェットエッチング装置は、基板、本例では半導体ウエハWを概ね水平に保持して回転するスピンチャック10を有している。スピンチャック10は、基板の周縁部を保持する複数の保持部材12によって基板を水平姿勢で保持する基板保持部14と、この基板保持部14を回転駆動する回転駆動部16とを有している。基板保持部14の周囲には、ウエハWから飛散した処理液を受け止めるカップ18が設けられている。なお、図示しない基板搬送アームと基板保持部14との間でウエハWの受け渡しができるように、基板保持部14およびカップ18は相対的に上下方向に移動できるようになっている。
【0024】
ウェットエッチング装置はさらに、ウエハWにシリル化剤を供給するシリル化剤供給機構30と、ウエハWにエッチング液を供給するエッチング液供給機構40とを有している。この場合、ウエハWに供給されるシリル化剤として、TMSDMA(トリメチルシリルジエチルアミン)が用いられる。またシリル化剤として、その他DMSDMA(ジメチルシリルジメチルアミン)、TMDS(テトラメチルジシラザン)、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、TMSOTf(トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホン酸)、HMDS(ヘキサメチルジシラン)を用いることもできる。さらにこれらのシリル化剤をシクロヘキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMEA)などの希釈溶媒で希釈したものを用いても良い。また、シリル化剤は、常温(例えば24度)のものを用いても良いが、30℃以上のシリル化剤の沸点より低い温度(例えば、TMSDMAの沸点は84℃)、好ましくは40〜60℃に加熱されたものを用いると酸化膜上に形成される保護膜の強度がより高まる。また、シリル化剤を加熱するかわりに、基板保持部14上のウエハWを加熱する機構、例えば基板保持部14に設けられたヒーター(不図示)や、基板保持部14の対向する面に設けられたUVランプや、LEDランプなどを用いて、ウエハWを例えば、30℃以上に加熱するようにしても良い。またエッチング液としては、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つを水ここではDIW(純水)で希釈した水溶液を用いることができる。またエッチング液としては、その他、リン酸溶液(HPO)、またはHFとHSOをDIWで希釈した水溶液を高温、例えば150℃以上に加熱されたものを用いることができる。
【0025】
次にシリル化剤供給機構30について説明する。シリル化剤供給機構30は、TMSDMA等からなるシリル化剤を貯留するシリル化剤貯留タンク31と、シリル化剤をウエハWに供給するシリル化剤ノズル20Aとを有している。すなわちシリル化剤貯留タンク31は、管路35を介してシリル化剤ノズル20Aに接続されており、管路35には、適当な流量調整器例えば流量調整弁36と、開閉弁37とが介設されている。
【0026】
次にエッチング液供給機構40について説明する。エッチング液供給機構40はエッチング液を貯留するエッチング液貯留タンク41と、エッチング液をウエハWに供給するエッチング液ノズル20Bとを有している。この場合、エッチング液貯留タンク41には、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つを水(HO)ここではDIW(純水)で希釈した水溶液が貯留されている。HF系薬液タンク41に貯留されるHF系薬液の具体例として、(a)重量%で30.8%のNHHFおよび8.9%のHFを含む水溶液(ステラケミファ株式会社により提供されるLAL5000に相当)をさらに水(純水)で250〜500倍に希釈した溶液、および(b)重量%で7.1%のNHHFおよび15.4%のNHFを含む水溶液(ステラケミファ株式会社により提供されるLAL500に相当)をさらに水(純水)で50〜200倍に希釈した溶液などを例示することができるが、これらに限定されるものではなく、上述した他のエッチング液を用いることができる。エッチング液貯留タンク41は、管路42を介してエッチング液ノズル20Bに接続されており、管路42には、適当な流量調整器例えば流量調整弁43と、開閉弁44とが介設されている。
【0027】
シリル化剤ノズル20Aおよびエッチング液ノズル20Bは、ノズル移動機構50により駆動される。ノズル移動機構50は、ガイドレール51と、ガイドレール51に沿って移動可能な駆動機構内蔵型の移動体52と、その基端が移動体52に取り付けられるとともにその先端に薬液ノズル20を保持するノズルアーム53とを有している。ノズル移動機構50は、シリル化剤ノズル20Aおよびエッチング液ノズル20Bを、基板保持部14に保持されたウエハWの中心の真上の位置とウエハWの周縁の真上の位置との間で移動させることができ、また、シリル化剤ノズル20Aおよびエッチング液ノズル20Bを平面視でカップ18の外側の待機位置まで移動させることもできる。
【0028】
さらにウェットエッチング装置は、リンス処理のためにウエハWに純水(DIW)を供給するリンスノズル22と、乾燥処理のためにウエハWにイソプロピルアルコール(IPA)を供給するIPAノズル24とを有している。リンスノズル22には、DIW供給源から、適当な流量調整器例えば流量調整弁22aと開閉弁22bとが介設されたDIW管路22cを介してDIWが供給される。IPAノズル24には、IPA供給源から、適当な流量調整器例えば流量調整弁24aと開閉弁24bとが介設されたIPA管路24cを介してIPAが供給される。リンスノズル22およびIPAノズル24もノズルアーム53に取り付けられている。従って、リンスノズル22およびIPAノズル24も、基板保持部14に保持されたウエハWの中心の真上の位置とウエハWの周縁の真上の位置との間で移動させることができ、かつ、カップ18の外側の待機位置まで移動させることもできる。
【0029】
ウェットエッチング装置は、その全体の動作を統括制御する制御部100を有している。制御部100は、ウェットエッチング装置の全ての機能部品(例えば回転駆動部16、シリル化剤供給機構30の弁36、エッチング液供給機構40の弁44、DIW用の弁22b、IPA用の弁24b、ノズル移動機構50など)の動作を制御する。制御部100は、ハードウエアとして例えば汎用コンピュータと、ソフトウエアとして当該コンピュータを動作させるためのプログラム(装置制御プログラムおよび処理レシピ等)とにより実現することができる。ソフトウエアは、コンピュータに固定的に設けられたハードディスクドライブ等の記憶媒体に格納されるか、或いはCDROM、DVD、フラッシュメモリ等の着脱可能にコンピュータにセットされる記憶媒体に格納される。このような記憶媒体が参照符号101で示されている。プロセッサ102は必要に応じて図示しないユーザーインターフェースからの指示等に基づいて所定の処理レシピを記憶媒体101から呼び出して実行させ、これによって制御部100の制御の下でウェットエッチング装置の各機能部品が動作して所定の処理が行われる。
【0030】
なお、図示されたスピンチャック10の基板保持部14は、可動の保持部材12によってウエハWの周縁部を把持するいわゆるメカニカルチャックタイプのものであったが、これに限定されるものではなく、ウエハの裏面中央部を真空吸着するいわゆるバキュームチャックタイプのものであってもよい。また、図示されたノズル移動機構50は、ノズルを並進運動させるいわゆるリニアモーションタイプのものであったが、鉛直軸線周りに回動するアームの先端にノズルが保持されているいわゆるスイングアームタイプのものであってもよい。また、図示例では、4つのノズル20A,20B、22、24が共通のアームにより保持されていたが、それぞれ別々のアームに保持されて独立して移動できるようになっていてもよい。
【0031】
次に、上記のウェットエッチング装置を用いて行われる、エッチング処理を含む液処理方法の一連の工程について図5により説明する。なお、以下に説明する一連の工程は、記憶媒体102に記憶されたプロセスレシピにおいて定義される各種のプロセスパラメータが実現されるように、制御部100がウェットエッチング装置の各機能部品を制御することにより実行される。
【0032】
処理対象となるウエハWは、その表面(「表面」とはウエハに形成された穴ないし凹部の内表面を含む)にSiN膜(シリコン窒化膜)とSiO膜(シリコン酸化膜)とが露出しているものであり、SiN膜を選択的に除去する必要があるものである。処理対象となるウエハWの断面構造としては、図3(a)に概略的に示すように、シリコン基板(Si)上に、熱酸化膜であるSiO膜とSiN膜とが積層されて、トレンチが形成されているものが例示され、この場合、図3(a)に示す状態からSiN膜が選択的にエッチングされて図3(b)に示す状態にされる。処理対象となるウエハWの他の断面構造としては、図4(a)(b)に概略的に示すように、シリコン基板(Si)上に、SiO膜およびSiN膜の両方が露出しているものであってもよい。
【0033】
まず、上記のような断面構造を有するウエハWが、図示しない搬送アームによりウェットエッチング装置に搬入されて、スピンチャック10の基板保持部14に保持される。
【0034】
[シリル化剤供給]
次に、ノズル移動機構50によりシリル化剤ノズル20AがウエハWの中心の真上に移動する。また、回転駆動部16が、ウエハWを所定回転数例えば100rpmで回転させる。この状態で、シリル化剤供給機構30の流量調整弁36が所定開度に調整されるとともに開閉弁37が開かれ、これによりシリル化剤ノズル20Aからシリル化剤として、例えばTMSDMAが、所定流量、例えば0.5〜2.0l/minでウエハWの中心部に供給され、供給されたTMSDMAは遠心力によりウエハ周縁部に拡散する。
【0035】
このようにしてウエハWに対してシリル化剤が供給される(図5)。この場合、シリル化剤によりウエハW表面に露出するシリコン窒化膜およびシリコン酸化膜のうち、シリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜が形成される(図3(a)および図4(a)参照)。
【0036】
ウエハWに対してシリル化剤を供給した場合のシリコン窒化膜表面およびシリコン酸化膜表面の挙動を図9に示す。
【0037】
図9に示すように、シリコン窒化膜表面においてH基が終端しており、このH基にシリル基は結合しない。他方シリコン酸化膜表面においてOH基が終端しており、このOH基にシリル基が結合し、このことによりシリコン酸化膜表面にシリル化膜が形成される。
【0038】
このように形成されたシリコン酸化膜表面のシリル化膜は、後述のようにエッチング液に対して保護膜として機能し、シリコン酸化膜のエッチング量を抑えることができる。
【0039】
[IPA供給]
次にシリル化剤ノズル20Aからのシリル化剤の供給を停止するとともに、ウエハWを回転させたままIPAノズル24からIPAをウエハWの中心に供給する。これによりウエハWに残存するシリル化剤をIPAに置換する。
【0040】
[第1リンス液供給]
その後、IPAノズル24からのIPAの供給を停止するとともに、ウエハWを回転させたままDIWノズル22からDIW(第1リンス液)をウエハWの中心に供給する。このことにより、IPAとともに、ウエハW上に残存するシリル化剤をDIWにより完全に除去することができる。なおDIWは常温でもよいが、例えば80℃のホットDIWを用いることにより、リンス時間を短縮することができる。
【0041】
[エッチング工程]
次に、DIWノズル22からのDIWの供給を停止する。そして引き続きウエハWを回転させ、エッチング液供給機構40の流量調整弁43が所定開度に調整されるとともに開閉弁44が開かれる。これにより、例えばエッチング液貯留タンク41内に貯留されたHF系薬液がエッチング液としてエッチング液ノズル20BからウエハWに供給される(エッチング工程)。一例として、HF系薬液は、重量%で30.8%のNHHFおよび8.9%のHFを含む水溶液をさらに純水で500倍に希釈した水溶液である。
このエッチング工程は、所定時間、例えば継続される。
【0042】
エッチング工程の間、ノズル移動機構50によりエッチング液ノズル20Bをウエハ半径方向に移動させて、ウエハ中心部の上方とウエハ周縁部の上方との間で1回または複数回往復(スキャン)させてもよい。エッチング工程においては、ウエハWの温度が供給されるエッチング液の温度より低いため、エッチング液がウエハWの中心部から周縁部に拡散する過程においてウエハにより冷却され、ウエハ中心部(高温の液でエッチングされる)と周縁部(低温の液でエッチングされる)とでエッチング条件が異なってしまう可能性がある。また、ウエハ中心部が未反応の新鮮な液でエッチングされる一方で、周縁部では反応生成物を含む液でエッチングされ、エッチング条件が異なってしまう可能性がある。エッチング液ノズル20Bを上記のように移動させることにより、上記の問題を解決して、より面内均一性の高い処理を行うことができる。
【0043】
なお、エッチング液ノズル20Bのスキャンを行う際には、例えば、エッチング工程の開始時においてウエハの中心にエッチング液が落ちる(衝突する)、すなわちエッチング液の供給位置がウエハ中心となる、第1のノズル位置(エッチング液ノズル20BがウエハWの中心の真上にある)から、まず、ウエハ周縁から所定距離(例えば10mm)だけ半径方向内側の位置にエッチング液が落ちる第2のノズル位置にエッチング液ノズル20Bを移動させ、次に、ウエハ中心から所定距離(例えば15mm)だけ半径方向外側の位置にエッチング液が落ちる第3のノズル位置にエッチング液ノズル20Bを移動させ、その後、第2のノズル位置と第3のノズル位置との間でエッチング液ノズル20Bを往復させることができる。
【0044】
エッチング液ノズル20Bを第1のノズル位置ではなく第3のノズル位置まで戻すという操作は、エッチング液ノズル20Bを第1のノズル位置までに戻した場合にウエハの中心部のエッチング量が過大になってしまう場合に有益であるが、そのような問題がない場合には、第1のノズル位置までエッチング液ノズル20Bを戻しても構わない。
【0045】
また、エッチング液ノズル20Bをウエハの周縁(エッジ)まで移動させずに上記第2の位置まで移動させることによりエッチング液の無駄をなくすことができるが、エッチング液ノズル20Bをウエハの周縁(エッジ)まで移動させても構わない。また、スキャンを行う際には、エッチング液ノズル20Bは一定速度、例えば5〜30m/secで移動させることができる。
【0046】
このように基板にエッチング液を供給して行われるエッチング工程において、表面がシリル化膜によって保護されたシリコン酸化膜は、エッチングされることなく、シリコン窒化膜のみが選択的にエッチングされる(図3(b)および図4(b)参照)。
【0047】
[第2リンス液供給]
次に、エッチング液ノズル20Bからのエッチング液の供給を停止するとともに、ウエハの回転を継続したままDIWノズル22からDIW(第2リンス液)をウエハの中心に供給する。これによりウエハ表面に残存するエッチング液およびエッチング残渣を除去する。なお、DIWは、常温でもよいが、例えば80℃のホットDIWを用いることにより、リンス時間を短縮することができる。
【0048】
ところで、後述のように、シリル化膜は生成されてから少なくとも3分間は保護層として機能し、エッチング液に対して十分な耐性をもつ。しかしながら、シリコン窒化膜を多量にエッチングする場合は、シリル化膜のエッチング液に対する耐性を考慮したエッチング工程を行うこともできる。
【0049】
すなわち、シリコン窒化膜を多量にエッチングする場合、上述したシリル化剤供給工程、IPA供給工程、第1リンス液供給工程、エッチング液供給工程および第2リンス液供給工程からなるサイクルを複数回繰り返す。この場合、1回のエッチング工程の時間を例えば3分間以内に抑えて、シリル化膜が十分機能する時間内にエッチング工程を行うことができる。このことにより、シリル化膜によって保護されたシリコン酸化膜を効果的に保護しながら、シリコン窒化膜のみを選択的にエッチングすることができ、かつシリコン窒化膜のエッチング量を増やすことができる。
【0050】
[乾燥工程]
次に、DIWノズル22からのDIW(第2リンス液)の供給を停止するとともに、ウエハの回転を継続したままIPAノズル24からIPA(乾燥用IPA)をウエハの中心に供給する。これによりウエハ表面に残存するDIWをIPAに置換する。次いで、ウエハの回転速度を増すとともにIPAの供給を停止し、ウエハ表面のIPAを除去する。なお、この乾燥工程時に、ドライエアの供給、あるいはNガスの供給を行い、ウエハの乾燥を促進させてもよい。また、IPAによるDIWの置換を行わずに、リンス工程の後直ちにスピン乾燥(振り切り乾燥)を行ってもよい。
【0051】
[UV照射によりシリル化膜除去]
その後、UV照射装置(図示せず)からのUV照射によって、ウエハW表面に残るシリル化膜を除去する。
【0052】
ウエハ表面に対してUV照射を行うUV照射装置は、スピンチャック10に内蔵されていてもよいが、スピンチャック10から搬出されたウエハWに対してスピンチャック10の外方に設けられたUV照射装置によりウエハ表面に対してUV照射を行ってもよい。
【0053】
以上により、一連の液処理が終了する。処理済みのウエハWは、図示しない搬送アームによりウェットエッチング装置から搬出される。
【実施例】
【0054】
次に本発明の具体的実施例について、図6乃至図8により説明する。
【0055】
シリコン窒化膜のみが選択的にエッチングされる様子を図6に示す。図6において、シリル化剤としてTMSDMAが用いられ、ウエハに対してシリル化剤は3分間供給された。またエッチング液としてDHF(希フッ化水素)が用いられ、ウエハに対してエッチング液は3分間供給された。
【0056】
この場合、エッチング液によりエッチングされたシリコン窒化膜(SiN)のエッチング量は8であるのに対し、シリル化膜により保護されたシリコン酸化膜(SiO)のエッチング量は略0となり、シリコン窒化膜のみを選択的にエッチングすることができた。この場合、SiN/SiO選択比は、100:1以上となった。
【0057】
他方、シリル化膜がない場合、シリコン窒化膜のエッチング量は10となり、シリコン酸化膜のエッチング量は約100となり、SiN/SiO選択比は1:10であり、シリコン窒化膜のみを選択的にエッチングすることはできなかった。
【0058】
同様にして、シリル化剤としてTMSDMAが用いられ、ウエハに対してシリル化剤が3分間供給され、エッチング液としてDHF(希フッ化水素)が用いられた場合において、エッチング液の供給時間に対するシリコン窒化膜とシリコン酸化膜のエッチング量、SiN/SiO選択比を求めた。
【0059】
図7に示すように、エッチング液の供給時間が3分間の場合、シリル化膜が保護膜として十分に機能するため、シリコン窒化膜のエッチング量は8であるのに対し、シリコン酸化膜のエッチング量は略0であった。この結果、SiN/SiO選択比は100:1以上となった。
【0060】
他方、エッチング供給時間が5分間の場合、シリル化膜の保護膜としての機能が落ちるため、シリコン窒化膜のエッチング量は15であり、シリコン酸化膜のエッチング量は6であった。この結果、SiN/SiO選択比は2.5:1となった。
【0061】
このことからエッチング液の供給時間は、3分間程度以内とすることが好ましいことが判った。
【0062】
次に図8により、ウエハに対してTMSDMAを3分間供給した場合のウエハ表面の疎水化度について説明する。
【0063】
図8に示すように、ウエハに対してTMSDMAを3分間供給することにより、シリコン酸化膜表面の接触角は90°となっており、疎水化度が高くシリコン酸化膜表面に十分なシリル化膜が生成されていることがわかる。
【0064】
他方シリコン窒化膜表面の接触角は、シリコン酸化膜のものより小さくなっており、シリコン窒化膜表面にはシリル化膜が十分に生成されていない。
【0065】
上記実施形態においては、処理対象基板は半導体ウエハであったが、これに限定されるものではなく、SiN膜およびSiO膜を有する他の種類の基板、例えばFPD(フラットパネルディスプレイ)用の基板やMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)用の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 スピンチャック
14 基板保持部
16 回転駆動部
20A シリル化剤ノズル
20B エッチング液ノズル
22 DIWノズル
24 IPAノズル
30 シリル化剤供給機構
31 シリル化剤貯留タンク
40 エッチング液供給機構
41 エッチング液貯留タンク
100 制御部
101 記憶媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板を準備する工程と、
シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した前記基板に、シリル化剤を供給して基板上のシリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜を形成する工程と、
前記基板に、エッチング液を供給してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする工程と、を備えたことを特徴とするエッチング方法。
【請求項2】
前記基板にシリル化剤を供給する工程と、前記基板にエッチング液を供給する工程の間に、前記基板に第1リンス液を供給してシリル化剤を除去する工程を更に備えたことを特徴とする請求項1記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記基板にシリル化剤を供給する工程と、前記基板に第1リンス液を供給する工程との間に、前記基板にIPAを供給する工程を更に備えたことを特徴とする請求項2記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記基板にエッチング液を供給する工程の後で、基板に第2リンス液を供給する工程を更に備えたことを特徴とする請求項2または3記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記基板にシリル化剤を供給する工程、前記基板にIPAを供給する工程、前記基板に第1リンス液を供給する工程、前記基板にエッチング液を供給する工程、および前記基板に第2リンス液を供給する工程からなるサイクルが複数回繰り返されることを特徴とする請求項4記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記基板に第2リンス液を供給した後、前記基板を乾燥させる工程を更に備えたことを特徴とする請求項4または5記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記基板を乾燥させる工程において、前記基板に乾燥用IPAが供給されることを特徴とする請求項6記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記基板に第2リンス液を供給した後、シリル化膜からなる保護膜を除去する工程を備えたことを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一つに記載のエッチング方法。
【請求項9】
シリル化膜からなる保護膜は、基板にUV線を照射することにより除去されることを特徴とする請求項8記載のエッチング方法。
【請求項10】
シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板を保持する基板保持部と、
前記基板保持部に保持された基板に、シリル化剤を供給するシリル化剤供給機構と、
前記基板保持部に保持された基板に、エッチング液を供給するエッチング液供給機構と、
前記シリル化剤供給機構および前記エッチング液供給機構を制御して、
シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した前記基板に、シリル化剤を供給して基板上のシリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜を形成する工程と、
前記基板に、エッチング液を供給してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする工程と、
が実行されるようにする制御部と、
を備えたエッチング装置。
【請求項11】
前記基板保持部は基板を水平姿勢で保持するように構成されており、
前記エッチング装置は、前記基板保持部を鉛直軸線周りに回転させる回転駆動部をさらに備えており、
前記制御部は、シリル化剤を供給する工程およびエッチング液を供給する工程において、基板を保持した前記基板保持部が回転するように前記回転駆動部を制御するように構成されている請求項10記載のエッチング装置。
【請求項12】
前記シリル化剤供給機構はシリル化剤を貯留するシリル化剤貯留タンクと、シリル化剤貯留タンクからのシリル化剤を基板に供給するシリル化剤ノズルとを有し、
前記エッチング液供給機構はエッチング液を貯留するエッチング液貯留タンクと、エッチング液貯留タンクからのエッチング液を基板に供給するエッチング液ノズルとを有する、ことを特徴とする請求項10または11記載のエッチング装置。
【請求項13】
エッチング装置の制御部をなすコンピュータにより読み取り可能なプログラムを記録する記憶媒体であって、前記エッチング装置は、基板にシリル化剤を供給するシリル化剤供給機構と、基板にエッチング液を供給するエッチング液供給機構とを有し、
前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記エッチング装置を制御して、
シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した前記基板に、シリル化剤を供給して基板上のシリコン酸化膜表面にシリル化膜からなる保護膜を形成する工程と、
前記基板に、エッチング液を供給してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする工程と、を実行させる、記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−222330(P2012−222330A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90256(P2011−90256)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】