説明

エッチング方法およびエッチング装置

【課題】シリコン基板をウエットエッチングするエッチング装置において、エッチング液の酸化還元電位の低下によるエッチングレートの低下や、エッチング液の循環流量の低下によるエッチング量の面内均一性の低下を抑制する。
【解決手段】エッチング液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計121と、エッチング液の循環量を計測する流量計111とを備え、酸化還元電位の測定値に基づいて、バブリング装置131を制御してエッチング液に対する水素ガスのバブリングを行い、また、流量計111の測定値に基づいて、エッチング液の循環量が一定になるようエッチング液の循環ポンプ110を駆動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング方法およびエッチング装置に関し、特に、シリコン基板をエッチング液によりエッチングするウエットエッチング処理を、エッチング液のエッチング能力の低下およびエッチング量のばらつきを抑えつつ行う方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板のウェットエッチング技術としては、カセット内に収容されたシリコン基板を、水酸化アルカリを含む水溶液に浸漬し、エッチング液のバブリングまたは揺動の下でシリコン基板のウエットエッチング処理を行うことが一般的である。
【0003】
シリコン基板のウエットエッチングに使用するエッチャントである水酸化アルカリ水溶液では、被エッチング物であるシリコン基板を処理した枚数が増加するにつれて、徐々にアルカリ水溶液中の水酸基濃度が低下する。
【0004】
この結果、アルカリ水溶液によるシリコン基板のエッチングレートも徐々に低下し、同一条件での処理では、処理ロット間でシリコン基板のエッチング量にばらつきが生じることとなる。
【0005】
この対策として、特許文献1に開示の技術では、新液(新たなエッチング液)をエッチング槽に投入してからの処理回数、つまり処理したロット数に応じて、各ロットに対する処理時間を長くする方法を開示している。
【0006】
以下図面を用いて具体的に説明する。
【0007】
図5は、上記特許文件1に開示のエッチング装置の構成を説明する断面模式図のである。
【0008】
このエッチング装置1は、太陽電池セルの製造方法におけるシリコン基板のエッチング工程で用いられるものである。
【0009】
具体的には、このエッチング装置1は、水酸化アルカリを含む水溶液であるエッチング液2が満たされたエッチング槽3と、エッチング槽3へのエッチング液2の供給、および該エッチング槽3からのエッチング液の廃棄を調整するエッチング液調節器4とを有している。また、このエッチング装置1は、被処理部材であるp型Si基板5を保持するエッチング冶具6と、このエッチング冶具6を昇降させて、収容したp型Si基板5を該エッチング槽3内のエッチング液2に漬けたり引き揚げたりする上下スライダー7と、エッチング冶具6を搬送するとともに、上下スライダー7を駆動する搬送ロボット8と、エッチング液調節器4および搬送ロボット8を制御する時間制御シーケンサ9とを有している。
【0010】
例えば、太陽電池セルの製造方法において、このようなエッチング装置を用いて、p型Si(シリコン)基板5の表層部のうちのスライス加工によって機械的損傷を受けた部分および汚染部分の除去を主な目的とするエッチングの処理を行う場合、エッチングに使用する水溶液の液疲労に対応するために、水溶液が新液に交換されてからのエッチングの処理回数の増加に応じて、エッチングの処理時間を長くする制御を行う。
【0011】
このように、p型Si基板5の表層部のうちの機械的損傷を受けた部分および汚染部分の除去を主な目的とするエッチング工程において、水溶液に新液が投入されてからの処理回数の増加に応じて、処理時間を長くすることによって、エッチング量のばらつきを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−220980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、シリコンのエッチングレートに影響を及ぼす要因は、水酸化アルカリ水溶液中の水酸基濃度以外にも、図2に示す酸化還元電位や、図4に示す液循環流量の影響もあり、前記対策のみでは不十分である。
【0014】
つまり、図2は、酸化還元電位とシリコンのエッチングレートの相関をグラフLで示している。この図2からは、Siのエッチングレート(μm/min)は酸化還元電位(mV)の増大によりほぼ直線的に低下することが分かる。
【0015】
また、図4は、エッチング液の循環流量とシリコンエッチングの面内均一性の相関を棒グラフで示している。この図4からは、液循環流量(リットル/min)が増大するにつれて、面内均一性(%)、つまりウエハ面内でのエッチング量のばらつきを低減できることが分かる。
【0016】
従って、特許文献1に開示の、水溶液に新液が投入されてからの処理回数の増加に応じて処理時間を調整するエッチング方法では、各ロットに対して、それまでの処理回数に応じた処理時間を設定しても、エッチング液の酸化還元電位や循環量の変動によって、Siエッチングレートの低下や面内均一性の低下を招くといった問題があった。
【0017】
例えば、水酸化アルカリ水溶液の新液をエッチング槽に投入した直後、または各ロットのエッチング処理の間の空き時間の間隔が一定でない場合に酸化還元電位差が上昇したり、エッチング処理の回数増大に伴う液中へのシリコン溶け込みによりエッチング液の循環流量が低下したりすることとなり、Siエッチングレートや面内均一性が低下が低下することとなる。
【0018】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、エッチング液の酸化還元電位の低下によるエッチングレートの低下や、エッチング液の循環流量の低下によるエッチング量の面内均一性の低下を抑制することができるエッチング方法およびエッチング装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るエッチング方法は、シリコン基板をエッチング槽内のエッチング液中に浸して該シリコン基板をエッチングする方法であって、該エッチング液の酸化還元電位を測定するステップと、該測定した酸化還元電位に基づいて、該エッチング液の酸化還元電位をこれが一定に保持されるよう調整するステップとを含むものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0020】
本発明は、上記エッチング方法において、前記酸化還元電位の調整は、前記エッチング液の溶存水素量を調整することにより行うことが好ましい。
【0021】
本発明は、上記エッチング方法において、前記エッチング液の溶存水素量は、前記エッチング液中で水素ガスのバブリングを行うことにより調整することが好ましい。
【0022】
本発明は、上記エッチング方法において、前記酸化還元電位が、前記シリコン基板のエッチングレートが最大値に達する設定電位以下になるように前記水素ガスのバブリングを行うことが好ましい。
【0023】
本発明は、上記エッチング方法において、前記酸化還元電位の設定電位は−900mV以下であることが好ましい。
【0024】
本発明は、上記エッチング方法において、前記エッチング液を、該エッチング液のバブリングを行うバブリング部と該エッチング槽との間で循環させ、該エッチング液の循環量を、前記エッチング液の粘度に拘わらず一定に保持することが好ましい。
【0025】
本発明に係るエッチング装置は、エッチング液を満たしたエッチング槽を有し、該エッチング槽内のエッチング液にシリコン基板を浸して該シリコン基板をウエットエッチングするエッチング装置であって、該エッチング液の酸化還元電位を測定する電位測定部と、該電位測定部で測定した酸化還元電位に基づいて該エッチング液の酸化還元電位をこれが一定電圧に保持されるよう調整する電位調整部とを備えたものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0026】
本発明は、上記エッチング装置において、前記電位調整部は、前記エッチング液に対する水素ガスのバブリングを行うバブリング装置を有し、該電位測定部で測定した酸化還元電位に基づいて、該バブリング装置をオンオフするバブリング制御部とを有することが好ましい。
【0027】
本発明は、上記エッチング装置において、前記エッチング槽に取り付けられ、該エッチング液のバブリングを行うバブリング槽と、該バブリング槽と該エッチング槽との間で該エッチング液を循環させる循環ポンプと、該循環ポンプを駆動制御するインバータ制御部と、該エッチング液の循環量を測定する流量計とを備え、該インバータ制御部は、該流量計で測定したエッチング液の循環量に基づいて、該エッチング液の循環量がエッチング液の粘度に拘わらず一定となるよう該循環ポンプの駆動能力を制御することが好ましい。
【0028】
本発明は、上記エッチング装置において、前記電位測定部は、前記エッチング槽内に設けられた測定電極と、該測定電極に接続された酸化還元電位計とを有していることが好ましい。
【0029】
本発明は、上記エッチング装置において、前記測定電極は、極性の異なるAg電極とAgCl電極とを有することが好ましい。
【0030】
本発明は、上記エッチング装置において、前記バブリング制御部は、前記酸化還元電位計の測定値を、予め設定している設定値と照合し、設定値以上の場合には溶存水素量を増加させて、該酸化還元電位が設定値以下の状態になるよう、前記バブリング装置を自動制御するコンピューター部を有することが好ましい。
【0031】
次に作用について説明する。
【0032】
本発明においては、エッチング液の酸化還元電位を常に一定になるよう制御することにより、新液投入時等に生じる酸化還元電位の変動に起因するエッチングレートの変動を抑制することができる。
【0033】
また、本発明においては、液循環ポンプのインバーター制御機能による液循環流量の制御により、被処理物であるシリコン基板面内のエッチング量の均一性を向上することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明に係るエッチング装置によれば、酸化還元電位の制御により、液投入や処理間隔時間による酸化還元電位の変動を受けることがないという効果がある。
【0035】
更に、液循環流量の制御により、処理枚数の増加に伴う水酸化アルカリ溶液中へのシリコン溶け込みによる液粘度変動による循環流量の変動の発生も抑制される。
【0036】
このようなエッチング処理における制御を行うことで、高精度なエッチングレートの均一化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の実施形態1によるエッチング装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、酸化還元電位とシリコンのエッチングレートの相関をグラフLで示す図である。
【図3】図3は、酸化還元電位の経時変化を、従来のエッチング方法におけるもの(実線グラフLa)と、本発明のエッチング方法におけるもの(点線グラフLb)とで示している。
【図4】図4は、エッチング液の循環流量とシリコンエッチングの面内均一性の相関を棒グラフで示す図である。
【図5】図5は、特許文件1に開示の従来のエッチング装置の構成を説明する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0039】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1によるエッチング装置の概略構成を模式的に示す図である。
【0040】
本発明の実施形態1によるエッチング装置100は、エッチング液Eを満たしたエッチング処理槽101を有し、該エッチング処理槽101内のエッチング液にシリコン基板(図示せず)を浸して該シリコン基板をウエットエッチングするエッチング装置である。
【0041】
このエッチング装置100は、エッチング処理槽101内のエッチング液の酸化還元電位を測定する電位測定部120と、該電位測定部120で測定した酸化還元電位に基づいて該エッチング液の酸化還元電位をこれが一定電圧に保持されるよう調整する電位調整部130とを有している。
【0042】
ここで、上記電位測定部120は、エッチング処理槽101内に設けられた測定電極121aと、該測定電極121aに接続され、酸化還元電位の測定値を示す計測信号を出力する酸化還元電位計121とを有している。この測定電極は、極性の異なるAg電極とAgCl電極とを有している。
【0043】
また、上記電位調整部130は、エッチング液に対する水素ガスのバブリングを行うバブリング装置131と、上記電位測定部120で測定した酸化還元電位に基づいて、該バブリング装置131による水素ガスの供給を制御するバブリング制御部132とを有している。
【0044】
このバブリング装置131は、水素ガスを発生する水素ガス発生源131aと、エッチング処理槽101の周囲に取り付けられ、該エッチング処理槽101へのエッチング液の供給によりエッチング処理槽101から溢れ出したエッチング液を一時的に溜めるバブリング槽102と、該バブリング槽102内に溜まったエッチング液に、上記水素ガス発生源131aから水素ガスを供給するガス供給管Gpと、該ガス供給管Gpの一部に取り付けられ、該ガス供給管Gpを開通あるいは遮断する開閉弁131bとを有している。この開閉弁131bは、上記バブリング制御部132からの開閉制御信号により開閉されるようになっている。ここでは、このバブリング制御部132は、酸化還元電位計の測定値を、予め設定している設定値と照合し、設定値以上の場合には溶存水素量を増加させ、酸化還元電位が設定値以下の状態になるよう自動制御するマイクロコンピュータにより構成されている。
【0045】
このバブリング制御部132では、上記酸化還元電位計121からの測定信号Dvが示す測定値と、予め設定されている設定値とを比較し、測定値が設定値より大きいときは、水素ガスのバブリングが行われるよう開閉弁131bを開けてバブリングを行い、測定値が設定値以下であるときは、開閉弁131bを閉じて水素ガスのバブリングを停止させる。
【0046】
また、このエッチング装置100では、上記エッチング処理槽101とバブリング処理槽102との間で、エッチング液Eを循環するよう構成されている。つまり、このエッチング装置100は、エッチング処理槽101とバブリング処理槽102との間でエッチング液の循環経路を形成する第1および第2の配管Lp1およびLp2と、該循環経路の途中に設けられ、エッチング液を循環させる循環ポンプ110と、該循環ポンプ110を駆動制御するインバータ制御部110aとを有している。ここで、上記バブリング処理槽102と循環ポンプ110とは第1の配管Lp1により接続され、該循環ポンプ110とエッチング処理槽101とは第2の配管Lp2により接続されている。また、第2の配管Lp2の途中にはエッチング液の流量計111が取り付けられており、この流量計111からは、エッチング液の循環量Feを示す計測値Dfが出力され、上記インバータ制御部110aは、この計測値Dfに基づいて、エッチング液の循環量Feが一定の設定値に保持されるよう、循環ポンプ110の駆動能力を駆動信号Vdにより制御するようになっている。
【0047】
つまり、エッチング液の粘度は、エッチング処理の回数が増えるに伴って高まり、循環ポンプの駆動能力が一定である場合はエッチング液の循環量が低下することとなる。そこで、インバータ制御部110aは、該流量計で測定したエッチング液の循環量に基づいて、該エッチング液の循環量がエッチング液の粘度に拘わらず一定となるよう該循環ポンプの駆動能力を制御するよう構成されている。
【0048】
また、このエッチング装置100は、酸化還元電位計121の測定信号Dvに基づいて酸化還元電位が水素ガスのバブリングにも拘わらず、設定値以下にならない状態を検出したとき、あるいは、流量計111から出力される計測値Dfおよびインバータ制御部110aの駆動信号Vdに基づいて、循環ポンプの駆動能力を高めてもエッチング液の循環量Feを一定の設定値に保持できない状態を検出したときには、警報を発するよう構成した処理管理部100aを有している。
【0049】
次に動作について説明する。
【0050】
まず、酸化還元電位とエッチングレートとの関係について図2を用いて説明する。
【0051】
酸化還元電位は、図2に示す通り、シリコンのエッチングレートと相関を有しており、酸化還元電位がマイナス方向にシフトすると、エッチングレートは上昇する。
【0052】
次に、新たなエッチング液をエッチング処理槽に投入した後に行うエッチング処理と酸化還元電位との関係を図3を用いて説明する。
【0053】
図3のグラフLaで示す通り、エッチング処理を開始すると(図中の経過時間P1の部分)、酸化還元電位は新液投入時にはプラス方向に高い数値を示しており、シリコンエッチング処理を実施すれば、低い数値にて安定する(図中の経過時間P2〜P3の部分)。
【0054】
また、このエッチング液を、エッチング処理を行わず放置すれば、酸化還元電位が上昇することが分かる(図中の経過時間P4の部分)。
【0055】
この後、再度エッチング処理を開始すると、エッチング液の酸化還元電位は低下する(図中の経過時間P5で示す部分)。
【0056】
そこで、本実施形態では、エッチング処理の第1の制御として、酸化還元電位計の測定値を、電位調整部130のバグリング制御部132にてこの測定値と予め設定している設定値との大小関係を比較判別し、測定値が示す酸化還元電位が設定値以上の場合には、水素バブリングを行うことで、酸化還元電位を下げる制御を行っている。
【0057】
そして、酸化還元電位が設定値以下となった時点で、被処理物であるシリコン基板をエッチング処理槽投入することにより、酸化還元電位起因のエッチングばらつきを抑制するようにする。
【0058】
なお、酸化還元電位の制御値、すなわち、電位調整部のバブリング制御部132に予め設定する設定値の最適値は、実処理基板の確認にて取得した図2に示すデータより、測定電極として、Ag電極およびAgCl電極からなる電極を用いた場合、−900mV以下であることが導出されている。
【0059】
また、本実施形態では、エッチング処理の第2の制御として、エッチング液の循環量を、エッチング液を循環させる循環ポンプの駆動能力をインバータ部により制御することで循環流量の制御を行っている。
【0060】
つまり、エッチング液としての水酸化アルカリ溶液は、シリコン基板のエッチング処理を重ねると、エッチング液中にシリコンが溶出し、これにより、エッチング液の粘度が上昇する。この結果、循環ポンプの駆動能力が一定に保持された状態では、エッチング液の粘度の上昇に伴ってエッチング液の循環流量が徐々に低下する。このような液循環流量の低下は、図4に示すとおり、シリコン基板面内のエッチング量均一性低下を招くこととなる。
【0061】
そこで、本実施形態では、エッチング液の循環流量が一定に保持されるように、循環ポンプの駆動能力をインバータ駆動部110aにより制御している。
【0062】
なお、本実施形態では、エッチング液の循環量は、実設定値の一例として、実験装置での結果より、図4の通り、12L/minを選定している。
【0063】
次に、具体的に、本実施形態のエッチング装置によりシリコン基板をエッチングする動作について説明する。
【0064】
まず、新しいエッチング液がエッチング処理槽101に投入され、インバータ駆動部110aにより循環ポンプ110が駆動すると、エッチング処理槽101とバブリング処理槽102との間でエッチング液の循環が開始される。この状態では、インバータ駆動部110aは、エッチング液の循環量Feが設定量となるよう流量計111からの測定信号Dfに基づいて、循環ポンプ110をフィードバック制御する。
【0065】
また、このようにエッチング処理の開始前には、エッチング液の溶存水素量が水素ガスのエッチング液からの抜けにより低下し、酸化還元電位が図3のグラフLa(P1部分)に示すように上昇する傾向にある。このため、この実施形態1のエッチング装置100では、電位調整部130により、酸化還元電位が設定値以下となるように調整される。
【0066】
具体的には、水素ガス発生源131aからは水素ガスFhがガス供給管Gpを介してバブリング処理槽102に供給され、エッチング液に対する水素ガスのバブリングにより酸化還元電位がグラフLb(経過時間P1の部分)のように最低電位まで低下する。この最低電位は、エッチングレートが最大に達する電位よりも低い電位である。このとき、バブリング制御部132は、酸化還元電位計121からの計測信号Dvが示す酸化還元電位の値が、設定値より大きいか否かを判定し、設定値より小さくなれば、開閉弁131bを遮断し、設定値より大きくなれば、開閉弁131bを開放する。
【0067】
このような電位調整部130による酸化還元電位の調整により、酸化還元電位が設定値以下となった後に、シリコン基板のエッチング処理を開始する。
【0068】
シリコン基板(図示せず)を浸して該シリコン基板のウエットエッチングを開始すると、エッチング処理中にはエッチング液とシリコンとの反応で水素ガスがエッチング液中で発生するため、上記水素ガスのバブリングは不要となるか、あるいはバブリング処理の頻度を減らすことができる。
【0069】
その後、シリコン基板のエッチング処理を重ねると、エッチング液中にシリコンが溶出してエッチング液の粘度が増大するが、このエッチング液の粘度の増大は、インバータ制御部110aが、流量計111からの測定値Dfに基づいて循環ポンプ110の駆動能力を、エッチング液の循環量が一定になるようフィードバック制御することで実質的に回避される。
【0070】
また、エッチング処理が中断された場合(経過時間P4の部分)は、エッチング液に溶存している水素ガスは抜けていくため、図3のグラフLaに示すように酸化還元電位が増加する傾向にあるが、本実施形態では、電位調整部130により、酸化還元電位が設定値以下となるように調整される。つまり、バブリング制御部132は、酸化還元電位計121からの計測信号Dvが示す酸化還元電位の値が、設定値より大きいか否かを判定し、設定値より小さくなれば、開閉弁131bを遮断し、設定値より大きくなれば、開閉弁131bを開放する。これにより、エッチング液中の溶存水素量が増大して、図3のグラフLbに示すように酸化還元電位が低く保持され、エッチングレートの低下が回避される。
【0071】
なお、上述したエッチング処理は、一般的には新液を継ぎ足しながら行われるが、新液を継ぎ足しても、上記バブリング処理を行っても酸化還元電位が設定値以下に低下しない状態、あるいは循環ポンプの駆動能力を最大にしても循環量が設定値に満たない状態は、処理管理部100aにて、酸化還元電位計121の出力Dv、流量計111の出力Df、およびインバータ制御部110aの駆動信号Vdに基づいて検出し、警告を発する。
【0072】
この警告が発せられた場合は、エッチング液を新たな液に交換するなどの対応が必要である。
【0073】
このようにエッチングレートを一定値に保持した状態で、さらに次のロットのシリコン基板をエッチング処理槽に浸漬してウエットエッチングを続行する。
【0074】
このようにして、エッチング液の酸化還元電位とエッチング液の循環量とを常に一定に保持しながら、エッチング処理を行うことで、高精度なエッチングレートの均一化を実現できる。
【0075】
このように本実施形態では、酸化還元電位計121の測定値を、電位調整部130のバグリング制御部132にてこの測定値と予め設定している設定値との大小関係を比較判別し、測定値が示す酸化還元電位が設定値以上の場合には、水素バブリングを行うことで、酸化還元電位を下げる制御を行っているので、常に酸化還元電位を設定値に保持することができ、エッチングレートが、新液投入後のエッチング処理開始時や、エッチング処理中断後のエッチング処理の開始時に低下した状態となるのを回避することができる。
【0076】
また、本実施形態では、流量計の計測値に基づいてインバータ制御部により循環ポンプの駆動能力をフィードバック制御することにより、エッチング液の循環流量を液粘度に依存せず、常に、一定の循環流量とすることができ、これによりシリコン基板面内均一性において、処理回数に依存しないシリコンエッチング処理を実現することができる。
【0077】
このように、エッチング処理の際に、上述した2つの制御を行うことにより、シリコン基板のウェットエッチングにおいて、投入間隔や処理回数に依存しない、高品質な処理を実現し、この結果、安定した高精度なシリコン基板のウェットエッチング技術が確立できる。
【0078】
なお、上記実施形態では、実設定値の一例として、実験装置での結果より、エッチング液の目標循環量を、図4の通り、12L/minを選定したが、本結果は、槽サイズ、循環方法等の装置仕様により変わるため、これに限定されるものではなく、本発明のエッチング装置は、一定の液循環流量を保つものであればどのようなものでもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、エッチング装置として、酸化還元電位の制御とエッチング液の循環流量の制御の両方を行うものを示しているが、場合によっては、エッチング装置は、酸化還元電位の制御とエッチング液の循環流量の制御のいずれか一方のみを行うものでもよい。
【0080】
また、本発明に係るエッチング装置を使用した具体的なアプリケーション事例としては、高精度なエッチング均一性が要求される太陽電池基板のテクスチャー処理、つまり表面での反射を防止するための凹凸を形成する処理などへの対応も可能である。
【0081】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、エッチング方法およびエッチング装置の分野において、シリコン基板をエッチング液によりエッチングするウエットエッチング処理を、エッチング液のエッチング能力の低下およびエッチング量のばらつきを抑えつつ行うことができる。
【符号の説明】
【0083】
100 エッチング装置
100a 処理管理部
101 エッチング処理槽
102 バブリング処理槽
110 循環ポンプ
110a インバータ制御部
111 流量計
120 電位計測部
121 酸化還元電位計
121a 測定電極
130 電位調整部
131 バブリング装置
131a 水素ガス発生源
131b 開閉弁
132 バブリング制御部
Df 計測値
Dv 測定電位
E エッチング液
Fe 循環量
Fh 水素ガス
Gp ガス配管
Lp1、Lp2 第1、第2の配管
Vd 駆動信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板をエッチング槽内のエッチング液中に浸して該シリコン基板をエッチングする方法であって、
該エッチング液の酸化還元電位を測定するステップと、
該測定した酸化還元電位に基づいて、該エッチング液の酸化還元電位をこれが一定に保持されるよう調整するステップとを含む、エッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエッチング方法において、
前記酸化還元電位の調整は、前記エッチング液の溶存水素量を調整することにより行う、エッチング方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエッチング方法において、
前記エッチング液の溶存水素量は、前記エッチング液中で水素ガスのバブリングを行うことにより調整するエッチング方法。
【請求項4】
請求項2に記載のエッチング方法において、
前記酸化還元電位が、前記シリコン基板のエッチングレートが最大値に達する設定電位以下になるように前記水素ガスのバブリングを行う、エッチング方法。
【請求項5】
請求項4に記載のエッチング方法において、
前記酸化還元電位の設定電位は−900mV以下である、エッチング方法。
【請求項6】
請求項1に記載のエッチング方法において、
前記エッチング液を、該エッチング液のバブリングを行うバブリング部と該エッチング槽との間で循環させ、
該エッチング液の循環量を、前記エッチング液の粘度に拘わらず一定に保持する、エッチング方法。
【請求項7】
エッチング液を満たしたエッチング槽を有し、該エッチング槽内のエッチング液にシリコン基板を浸して該シリコン基板をウエットエッチングするエッチング装置であって、
該エッチング液の酸化還元電位を測定する電位測定部と、
該電位測定部で測定した酸化還元電位に基づいて該エッチング液の酸化還元電位をこれが一定電圧に保持されるよう調整する電位調整部とを備えたエッチング装置。
【請求項8】
請求項7に記載のエッチング装置において、
前記電位調整部は、
前記エッチング液に対する水素ガスのバブリングを行うバブリング装置を有し、
該電位測定部で測定した酸化還元電位に基づいて、該バブリング装置をオンオフするバブリング制御部とを有する、エッチング装置。
【請求項9】
請求項7に記載のエッチング装置において、
前記エッチング槽に取り付けられ、該エッチング液のバブリングを行うバブリング槽と、
該バブリング槽と該エッチング槽との間で該エッチング液を循環させる循環ポンプと、
該循環ポンプを駆動制御するインバータ制御部と、
該エッチング液の循環量を測定する流量計とを備え、
該インバータ制御部は、該流量計で測定したエッチング液の循環量に基づいて、該エッチング液の循環量がエッチング液の粘度に拘わらず一定となるよう該循環ポンプの駆動能力を制御する、エッチング装置。
【請求項10】
請求項9に記載のエッチング装置において、
前記電位測定部は、
前記エッチング槽内に設けられた測定電極と、
該測定電極に接続された酸化還元電位計とを有している、エッチング装置。
【請求項11】
請求項10に記載のエッチング装置において、
前記測定電極は、極性の異なるAg電極とAgCl電極とを有する、エッチング装置。
【請求項12】
請求項8に記載のエッチング装置において、
前記バブリング制御部は、
前記酸化還元電位計の測定値を、予め設定している設定値と照合し、設定値以上の場合には溶存水素量を増加させて、該酸化還元電位が設定値以下の状態になるよう、前記バブリング装置を自動制御するコンピューター部を有する、エッチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−74525(P2012−74525A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217932(P2010−217932)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】