説明

エッチング液およびシリコン基板の表面加工方法

【課題】イソプロピルアルコール等の従来のエッチング抑制剤を使用することなく、微細なピラミッド状の凹凸(テクスチャー構造)を有するシリコン基板を安定的に形成することが可能なエッチング液を提供する。
【解決手段】シリコン基板を浸漬して、当該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、下記一般式(1)で表わされる化合物(A)と水酸化アルカリ(B)とを含有することを特徴とするエッチング液。


(式(1)中、Xはスルホン酸基またはそのアルカリ塩、R及びRは、それぞれ、同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基(何れも炭素数が1又は2である)の群から選択される1種である。但し、R及びRはの合計炭素数は0〜2個である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板表面にピラミッド状の凹凸構造を形成するためのエッチング液および当該エッチング液を使用したシリコン基板の表面加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン太陽電池に使用されるシリコン基板表面には、テクスチャー構造と呼ばれる微細なピラミッド状の凹凸が形成されている。照射された光はこのテクスチャー構造により表面で多重反射することでシリコン基板への入射の機会が増加し、効率よく太陽電池内部に吸収される。
【0003】
テクスチャー構造を有するシリコン基板は、シリコンインゴットをワイヤーソー等によりスライスして得られるシリコン基板をエッチングすることにより製造される。
シリコン基板のエッチングは、いずれもアルカリ性のエッチング液を用いた湿式エッチングにより行うことができる。このエッチングは以下の反応式(1)の反応によって進行する。
【0004】
[化1]

Si+4OH+4H → Si(OH) + 2H 反応式(1)

【0005】
シリコン基板の表面にテクスチャー構造を形成するために、通常はエッチング速度を制御したエッチング液を使用することにより異方性エッチングを行う。エッチングの目的は、原料であるスライス後のシリコン基板の表面に存在するスライス加工に起因する歪みや欠損が生じたダメージ層の除去と、テクスチャー構造の形成にある。ダメージ層の除去とテクスチャー構造の形成を同じエッチング液で実施しても良いし、生産性の観点からはダメージ層の除去とテクスチャーの形成に異なるエッチング液を使用した2段階のエッチング処理を行っても良い。
【0006】
2段階のエッチング処理は、先ず、比較的エッチング速度の速いアルカリ性のエッチング液によってダメージ層除去エッチングを行い、次いで、テクスチャーエッチングとしてエッチング速度を制御したエッチング液を使用することにより異方性エッチングを行う処理方法である。
【0007】
いずれの方法においてもシリコン基板の表面へのテクスチャー構造の形成は、以下のメカニズムに基づく。
【0008】
シリコン基板のアルカリ水溶液によるエッチング速度は、シリコンの(100)面が最も早く、(111)面が最も遅い。そのため、アルカリ水溶液にエッチング速度を低下させることができる特定の添加剤(以下、「エッチング抑制剤」ということもある。)を添加することによってテクスチャーエッチングの速度を抑制すると、シリコンの(100)面等のエッチングされやすい結晶面が優先的にエッチングされ、エッチング速度の遅い(111)面が表面に残存する。この(111)面は、(100)面に対して約54度の傾斜を持つためにプロセスの最終段階では(111)面とその等価な面で構成されるピラミッド状の凹凸が形成される。
【0009】
ダメージ層除去エッチングには、一般的な強アルカリ薬液からなるエッチング液を用いることができるのに対し、テクスチャーエッチングにおいては、上記のエッチング抑制剤を添加し、溶液温度などの諸条件を制御することにより、エッチング速度をコントロールする必要がある。
【0010】
通常、テクスチャーエッチング用エッチング液として、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に、エッチング抑制剤としてイソプロピルアルコール(以下、「IPA」と称する場合がある。)を添加したエッチング液が使用されている。このエッチング液を60〜80℃程度に加温し、(100)面のシリコン基板を10〜30分間浸漬させる方法がとられてきた(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0011】
さらに、45重量%水酸化カリウム(KOH)を水で1:1に希釈した液を85℃に加温し、シリコン基板を30分浸漬することでダメージ層を除去した後に、水酸化カリウム(KOH)水溶液に、エッチング抑制剤としてIPAを添加したエッチング液を使用してテクスチャーエッチングを行う方法も開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0012】
一方で、IPAは揮発性が高いため、揮発量に相当するIPAをテクスチャーエッチング液中に随時添加する必要があり、IPAの消費量が増加することによるエッチング費用の増大が問題になっている。さらに、揮発性の高いIPAを多量使用することは安全性、環境面でも好ましくなく、揮発したIPAを回収する装置を付設したとしても、エッチング処理設備の製作費用が増大すると共に、設備運転費用も増加するという問題があった。
【0013】
そのため、IPAの代替となるエッチング抑制剤を含むテクスチャーエッチング液の開発が行われている。例えば、エッチング抑制剤として、脂肪族カルボン酸あるいはその塩(特許文献2及び3)、無機塩(特許文献4)、ベンゼン環を含む化合物(特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭61−96772号公報
【特許文献2】特開2002−57139号公報
【特許文献3】国際公開第06/046601号パンフレット
【特許文献4】特開2000−183378号公報
【特許文献5】特開2007−258656号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「Uniform Pyramid Formation on Alkaline-etched Polished Monocrystalline (100) Silicon Wafers 」 Progress in Photovoltaics , Vol.4 , 435-438 (1996)
【非特許文献2】「EXPERIMENTAL OPTIMIZATION OF AN ANISOTROPIC ETCHING PROCESS FOR RANDOM TEXTURIZATION OF SILICON SOLAR CELLS」CONFERENCE RECORD OF THE IEEE PHOTOVOLTAIC SPECIALISTS CONFERENCE , P303-308 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
脂肪族カルボン酸を使用する方法では、原料コストが高く、廃液処理の際に中和すると脂肪族カルボン酸が遊離し、別途油水分離工程が必要となると共に特有の悪臭が生じるという問題がある。また、廃液処理にコストがかかり、製造コストの上昇にもつながるといった問題がある。
【0017】
また、無機塩を使用する方法では、重金属や塩類の不純物濃度を必要なレベルに抑制するに高価なNa2CO3を使用する必要がある。また、系内の塩濃度が高くなり、シリコンのエッチングの際に副生する珪酸塩の溶解量が減少するため、テクスチャーエッチング液を頻繁に交換しなければならない。
【0018】
また、ベンゼン環を含む鎖状構造の化合物は、単純な鎖状構造の化合物に対して、エッチングの抑制効果が強いため、添加剤濃度を少なくする必要がある。しかしながら、添加剤濃度が少なすぎると、エッチング液中の濃度管理が難しく、再現性良く微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を製造することが困難となる。
【0019】
以上のように、従来のエッチング液では、シリコン基板状に微細なテクスチャー構造を再現性良く形成することができ、かつ、廃液処理や作業環境の面を含めて工業的に満足できる性能を有するエッチング液は未だ見出されていないのが実情である。
【0020】
かかる状況下、本発明の目的は、IPA等の従来のエッチング抑制剤を使用することなく、微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を安定的に形成することが可能なエッチング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、エッチング抑制剤として特定の化合物を使用することにより上記の目的を容易に達成し得るとの知見を得、本発明に至った。
【0022】
すなわち、本発明の第1の要旨は、シリコン基板を浸漬して、当該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、下記一般式(1)で表わされる化合物(A)と水酸化アルカリ(B)とを含有することを特徴とするエッチング液に存する。
【0023】
【化2】

(式(1)中、Xはスルホン酸基またはそのアルカリ塩、R及びRは、それぞれ、同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基(何れも炭素数が1又は2である)の群から選択される1種である。但し、R及びRはの合計炭素数は0〜2個である。)
【0024】
そして、本発明の第2の要旨は、上記のエッチング液にシリコン基板を浸漬して、当該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させる工程を含むことを特徴とするシリコン基板の表面加工方法に存する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエッチング液を使用すると、シリコン基板の表面に、太陽電池用の光閉じ込め及び効率的なセル形成に適した平均サイズが2.0〜4.0μmの微細なテクスチャー構造を再現性よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例4のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例5のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例6のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例7のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例8のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例9のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例10のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例11のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例12のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例13のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図15】参考例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0028】
先ず、本発明のエッチング液について説明する。
本発明のエッチング液にシリコン基板を浸漬して、当該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、下記一般式(1)で表わされる化合物(A)と水酸化アルカリ(B)とを含有する。
【0029】
【化3】

(式(1)中、Xはスルホン酸基またはそのアルカリ塩、R及びRは、それぞれ、同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基(何れも炭素数が1又は2である)の群から選択される1種である。但し、R及びRはの合計炭素数は0〜2個である。)
【0030】
本発明において、「シリコン基板」とは、単結晶シリコン基板および多結晶シリコン基板を含むが、本発明のエッチング液は、単結晶シリコン基板、特に(100)面を表面に有する単結晶シリコン基板のエッチングに適する。
【0031】
前記一般式(1)で表わされる化合物(A)は、従来のエッチング抑制剤であるIPAと同等以上のエッチング抑制効果を示し、かつ、後述するように適用可能な濃度範囲が広いという利点がある。そのため、本発明のエッチング液を使用することによって、シリコン基板の表面にピラミッド状の凹凸の大きさ、形状を好適な範囲に制御することができる。また、太陽電池の高効率化の手段として、テクスチャー工程に関連する項目は「光閉じ込め量の向上(低反射率)」及び「セル化におけるSi基板と電極間抵抗の低減」などであるが、本発明のエッチング液を使用することによって、平均サイズで2.0〜4.0μmの微細なピラミッド状の凹凸形成が可能となり、これらの項目が改善されて太陽電池の高効率化に寄与できることも特徴である。
【0032】
一般式(1)におけるR及びRとしては水素原子またはアルキル基が好ましく、また、少なくとも4位に置換を有する化合物が好ましい。化合物(A)の具体例としては、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、4−エチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2,4−ジメチルベンゼン酸スルホン酸ナトリウム、4-スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0033】
なお、化合物(A)のアルカリ塩におけるアルカリ成分としては、第1族元素、第2族元素が使用でき、この中でも、特に水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、入手が容易でコスト面でも優れるため好適である。
【0034】
化合物(A)の濃度は、シリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができ、工業的に有効なエッチング速度の範囲で選択され、通常0.01〜30重量%であり、好ましくは0.1〜20重量%であり、更に好ましくは1〜15重量%である。
【0035】
上記範囲であると、当該基板の表面を異方エッチングし、当該基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。化合物(A)の濃度が、0.01重量%未満の場合には、エッチングの抑制効果が不十分になるおそれがあり、また、濃度が低すぎ、エッチング液中の濃度管理が難しく再現性良く微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を製造することが困難となる。一方、30重量%より大きい場合には、薬剤コストが増加するとともに水洗回数、廃液処理コストが増すため好ましくない。
【0036】
水酸化アルカリ(B)としては、第1族元素の水酸化物、第2族元素の水酸化物が使用できる。例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウ、水酸化バリウム、水酸化アンモニウム等が挙げられ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。この中でも、特に、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、入手が容易でコスト面でも優れるため好適である。また、これらの水酸化アルカリは任意の割合で混合して使用してもよい。
【0037】
本発明のエッチング液において、エッチング液中の水酸化アルカリ(B)の濃度は、通常0.1〜50重量%、好ましくは0.5重量〜10重量%である。この範囲であれば、エッチングが好適に進行し、シリコン基板の表面に微細な凹凸構造を形成することができる。アルカリ濃度が0.1重量%未満では、エッチング速度が十分でない場合があり、50重量%より大きいと、水酸化アルカリが析出する場合がある。
【0038】
本発明のエッチング液には、化合物(A)及び水酸化アルカリ(B)以外に珪酸塩化合物(C)を含有させることもできる。
【0039】
珪酸塩化合物(C)として具体的には、オルト珪酸リチウム(Li4SiO4・nH2O)、メタ珪酸リチウム(Li2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸リチウム(Li6Si27・nH2O)、メタ二珪酸リチウム(Li2Si25・nH2O)、メタ三珪酸リチウム(Li4Si38・nH2O)、オルト珪酸ナトリウム(Na4SiO4・nH2O)、メタ珪酸ナトリウム(Na2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸ナトリウム(Na6Si27・nH2O)、メタ二珪酸ナトリウム(Na2Si25・nH2O)、メタ三珪酸ナトリウム(Na4Si38・nH2O)、オルト珪酸カリウム(K4SiO4・nH2O)、メタ珪酸カリウム(K2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸カリウム(K6Si27・nH2O)、メタ二珪酸カリウム(K2Si25・nH2O)、メタ三珪酸カリウム(K4Si38・nH2O)が挙げられる。
【0040】
珪酸塩化合物(C)にはシリコンの溶解を抑制する作用があるため、本発明のエッチング液に珪酸塩化合物(C)を含有させることにより、化合物(A)のエッチング抑制作用を補助することができ、テクスチャー構造の形成に適したエッチング速度の制御がより適切に行うことが可能となる。
【0041】
珪酸塩化合物(C)としては、上記の化合物の他、シリコン基板を水酸化アルカリ(B)水溶液によりエッチングして得られた生成物、水酸化アルカリ(B)とシリコンもしくは二酸化珪素との反応生成物などであってもよい。
【0042】
珪酸塩化合物(C)の濃度が高すぎると、エッチング速度が著しく低下すること及び液粘度の上昇、更には珪酸塩化合物(C)の析出が起こりやすく、当該基板を正常にエッチングすることができなくなり、太陽電池用基板としての使用が困難となる。このため、エッチング液中の珪酸塩濃度は、Si換算濃度で10重量%以下の範囲が好適である。ここで、「Si換算濃度」とは、珪酸塩に含まれるシリコン(Si)原子換算での濃度を意味する。
【0043】
なお、珪酸塩化合物(C)はシリコン基板のエッチングの副生成物としても生成するため、繰り返しのエッチング操作によりエッチング液中の珪酸塩化合物(C)の濃度が、Si換算濃度で10重量%を超える場合には、他の成分を補充して希釈するか、溶液を交換することが好ましい。
【0044】
なお、本発明のエッチング液には、他の成分として、本発明の目的、効果を損なわない範囲で、化合物(A)、水酸化アルカリ(B)及び珪酸塩化合物(C)以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、緩衝剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤などが挙げられる。
【0045】
本発明のエッチング液は、常法によって、上記化合物(A)及び水酸化アルカリ(B)、並びに必要に応じて珪酸塩化合物(C)を溶媒である水に溶解することで得ることができる。なお、エッチング液を製造する温度は、通常0℃〜100℃、好ましくは20℃〜40℃であり、一般的には室温である。
【0046】
なお、本発明のエッチング液の溶媒としての水は、不純物を除去した水が好ましく、通常はイオン交換水または蒸留水が好適に用いられる。具体的には、25℃で測定した電気伝導度が1mS/cm以下(特に100μS/cm以下)のイオン交換水または蒸留水が好適である。
【0047】
次に、本発明に係るシリコン基板の表面加工方法について説明する。
シリコン基板は、いかなる製法で形成された単結晶および多結晶シリコン基板を使用しても良いが、単結晶シリコン基板が好ましく、特に表面の面方位が(100)である単結晶シリコン基板が好ましい。これは上述のようにアルカリ水溶液によるシリコン基板のエッチングは異方性エッチングであるため、表面の面方位が(100)のシリコン基板は、微細なテクスチャー構造を形成し低反射率のものが得られ、セル化した時のエネルギー変換効率が高くなるためである。
【0048】
エッチング方法は、特に限定されないものであり、所定の温度に加熱保持した本発明のエッチング液を用いて、シリコン基板を所定の時間、浸漬等することにより、シリコン基板の表面に微細な凹凸構造を形成することができる。
【0049】
エッチング液の使用温度は、特に限定されないが、通常0〜100℃であり、エッチング効率の観点から、好ましくは80〜100℃である。エッチング時間も特に限定されないが、通常1〜120分、好ましくは10〜40分である。
【0050】
本発明に係るシリコン基板の表面加工方法により、シリコン基板表面にピラミッド状の凹凸構造を有するシリコン基板を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1〜13、比較例1及び参考例1:
<テクスチャーエッチング液の作製>
各諸例で使用したエッチング液は、室温で水に溶解した水酸化アルカリ(B)に表1に示す化合物(A)を添加して、完全に溶解するまで攪拌し、同表に示すそれぞれのエッチング温度まで加熱することで作製した。珪酸塩化合物(C)は、シリコン基板を水酸化アルカリ(B)に浸漬して副生する珪酸塩化合物(C)がSi換算濃度で所定濃度になるまでエッチングを繰り返し実施することにより作製した。
【0053】
<シリコン基板のエッチング>
単結晶シリコンインゴットを切断加工して作製した50×50mm、厚さ約180μmの実用サイズの単結晶シリコン基板(表面結晶面:(100)面)を使用し、表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表1に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。但し、実施例3については、テクスチャーエッチングに先立ちマクロエッチングを行った。すなわち、シリコン基板を80℃に加温された25重量%の水酸化ナトリウム溶液に約15分間浸漬し、シリコン基板表面の付着物及び加工変性層を除去した。その後に水洗を行ってテクスチャーエッチングに供した。また、実施例13では単結晶シリコンインゴットを切断加工して作成した156×156mm、厚さ180μmの単結晶シリコン基板(表面結晶面:(100)面)を使用した。
【0054】
表中のエッチング条件に示したエッチング量は(μm)は、テクスチャーエッチング前後のシリコン基板の重量を測定し、その重量差から求めた基板片面あたりのエッチング厚みであり、エッチングレート(μm/min)とは、前記エッチング量をエッチング時間で除したエッチング速度を表す。
【0055】
【表1】

【0056】
<テクスチャーエッチングの評価>
以下の方法により、エッチング時のエッチング液の発泡性およびエッチング後のシリコン基板の評価を行った。
【0057】
(1)テクスチャーエッチング時のエッチング液の発泡性の有無:
目視観察により、シリコン基板の表面から発生した水素ガスによる気泡がエッチング液の界面で消失せずに泡となりエッチング槽から溢れ出た場合を発泡性「有り」、シリコン基板の表面から発生した水素ガスによる気泡がエッチング液の界面で消失して泡とならなかった場合を発泡性「無し」として評価した。
【0058】
(2)シリコン基板の外観評価:
目視により、以下の基準に沿って評価した。
○:基板全面が一様にエッチングされている。
△:わずかな斑点又はムラが存在するが、基板全面としてエッチング均一性は高い。
×:斑点又は、ムラが確認される。
【0059】
(3)テクスチャー平均サイズ:
テクスチャー平均サイズとは、単位面積あたりのピラミッド個数から算術的に得たピラミッドの平均辺長を意味する。具体的には次の方法で算出する。すなわち、先ず、テクスチャー処理済み基板の任意の90×120μmの領域を拡大観察し、当該領域に存在するピラミッドの頂点個数を計数する。次に、前述の計数領域の面積をピラミッド頂点個数で除し、その平方から得られるピラミッドの平均辺長をテクスチャー平均サイズとする。計算式以下に示す。
【0060】
[数1]
テクスチャー平均サイズ=√A/N
A(μm):測定領域(90×120μm)の面積
N(個) :測定領域(90×120μm)内のピラミッドの頂点個数
【0061】
(4)光反射率:
紫外・可視・近赤外分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3150)を使用し、測定波長600nmにおける表面反射率測定した。
【0062】
(5)電子顕微鏡観察:
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6510)を使用して行った。
【0063】
テクスチャーエッチングの評価結果を表2及び図1〜15に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例1〜13のエッチング液を使用してエッチングを行ったシリコン基板の外観の均一性は、従来のIPAを使用したエッチング液(参考例1)と同等以上であった。さらに、電子顕微鏡観察によって、これらのシリコン基板の表面に平均サイズ2.0〜4.0μmの微細なテクスチャー構造が形成されているのが確認された。また、反射率もそれぞれ太陽電池として使用でき得る十分な値であった。一方、化合物(A)として、4−オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用した比較例1のエッチング液は、エッチング時に発泡性があり、しかも、エッチング速度は非常に遅く、エッチング後の基板外観は白色のムラが強く発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、シリコン基板表面にテクスチャー平均サイズ2.0〜4.0μmの微細凹凸を形成することができ、当該シリコン基板を使用した太陽電池の高効率化を実現することができるとともに、排ガス、廃水処理面での環境負荷低減及び低コスト化が可能であるため、工業的に有望である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を浸漬して、当該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、下記一般式(1)で表わされる化合物(A)と水酸化アルカリ(B)とを含有することを特徴とするエッチング液。
【化1】

(式(1)中、Xはスルホン酸基またはそのアルカリ塩、R及びRは、それぞれ、同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基(何れも炭素数が1又は2である)の群から選択される1種である。但し、R及びRはの合計炭素数は0〜2個である。)
【請求項2】
化合物(A)が少なくとも4位に置換基を有する化合物である請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
化合物(A)の濃度が0.01〜30重量%である請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項4】
水酸化アルカリ(B)が水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムである請求項1〜3の何れかに記載のエッチング液。
【請求項5】
水酸化アルカリ(B)の濃度が0.1〜50重量%である請求項1〜4の何れかに記載のエッチング液。
【請求項6】
さらに珪酸塩化合物(C)を含有する請求項1〜5の何れかに記載のエッチング液。
【請求項7】
珪酸塩化合物(C)がナトリウム又はカリウムの珪酸塩である請求項6に記載のエッチング液。
【請求項8】
珪酸塩化合物(C)の濃度がSi換算濃度として10重量%以下である請求項6又は7に記載のエッチング液。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載のエッチング液にシリコン基板を浸漬して、当該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させる工程を含むことを特徴とするシリコン基板の表面加工方法。
【請求項10】
ピラミッド状の凹凸の平均サイズが2.0〜4.0μmである請求項9に記載の表面加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−89629(P2013−89629A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225864(P2011−225864)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(594146179)株式会社新菱 (19)
【Fターム(参考)】