説明

エッチング液の前処理方法、シリコン基板のエッチング方法、シリコン基板エッチング装置

【課題】シリコン基板表面へのテクスチャ形成を安定して生産性良く実施可能とするエッチング液の処理方法、シリコン基板のエッチング方法、シリコン基板エッチング装置を得ること。
【解決手段】シリコン基板の表面に供給してウェットエッチングにより前記シリコン基板の表面に凹凸を形成するためのエッチング液に対して、前記シリコン基板の表面に供給される前に実施するエッチング液の前処理方法であって、前記シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する1種類以上の有機添加剤と水とアルカリ試薬とを含む前記エッチング液に対してバブリング処理を施すことにより、前記エッチング液中の疎水性不純物を前記エッチング液の液表面に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液の前処理方法、シリコン基板のエッチング方法、シリコン基板エッチング装置に関し、特に、結晶系シリコン基板の表面にテクスチャを形成するためのエッチング液の前処理方法、シリコン基板のエッチング方法、シリコン基板エッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン太陽電池では、結晶シリコン基板(以下、シリコン基板と呼ぶ)の表面に微細なピラミッド状の凹凸構造(テクスチャ)が形成されている。シリコン基板表面に照射された光は、この凹凸構造により多重反射され、シリコン基板への入射光量が増加するため、効率良く太陽電池内部で光を吸収することができる。このため、太陽光発電装置の製造工程は、エッチングによりシリコン基板の表面に微細凹凸構造を形成するテクスチャ形成工程を含んでいる。
【0003】
シリコン基板の表面への微細なピラミッド状の凹凸構造の形成方法としては、アルカリ性水溶液による結晶シリコンの異方性エッチングを利用する方法が一般的である。アルカリ性水溶液により結晶シリコンをエッチングする場合は、{111}面のエッチング速度が他の面のエッチング速度に比べて極端に小さいという性質を利用して、最適な条件の下、シリコン基板の表面に{111}面を優先的に残し、ピラミッド状の凹凸構造を形成する。
【0004】
ここで、最適な条件とは、アルカリ性水溶液の温度や濃度、添加剤の種類や濃度のことを指し、均一で微細な凹凸構造を安定的に形成可能なエッチング液が開発されている。従来、高温のアルカリ性水溶液に、添加剤としてイソプロピルアルコール(IPA)を添加したエッチング液が使用されてきた。非特許文献1では、このようなエッチング液によるシリコン基板のエッチングにより、シリコン基板の表面における波長400nm〜1200nmの光の平均反射率が約11%まで低減され、より多くの光を吸収できるようになったことで太陽電池の光電変換効率が1.7%向上したと報告されている。
【0005】
しかしながら、イソプロピルアルコール(IPA)の沸点は82℃と低い。このため、高温のアルカリ性水溶液によりウェットエッチングを行うテクスチャ形成工程においては、イソプロピルアルコール(IPA)は揮発し、エッチング液中の濃度が低下する。したがって、期待されるテクスチャ形成効果を安定して供給することは、量産現場においては困難であった。また、イソプロピルアルコール(IPA)は、揮発性を有し、引火性が高い物質である。このため、イソプロピルアルコール(IPA)を大量に使用するためには火災対策や防爆対策が必要であり、設備費用が高価になる、という問題があった。
【0006】
そこで、特許文献1では、テクスチャを形成するための結晶シリコンのエッチングに最適な添加剤として、脂肪族ポリアルコールを使用することが提案されている。また、特許文献2では、テクスチャを形成するための結晶シリコンのエッチングに最適な添加剤として、化学式がX−(OH)(Xは炭素数Cnが4以上7以下の飽和または不飽和炭素水基、nは1以上の整数、n<Cn)で示されるアルコール誘導体を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−123811号公報
【特許文献2】特開2010−74102号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】R. Barrio, et al, 「TEXTURISATION OF CZ AND FZ MONOCRYSTALLINE-SILICON WAFERS FOR a-Si/c-Si HETEROJUCTION SOLAR CELLS」, 25th European Photovoltaic Solar Energy and Exhibition, 5th World Conference on Photovoltaic Energy Conversion, 6-10 September 2010, Valencia, Spain, 1621-1623
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの添加剤を使用してシリコン基板に対してテクスチャ形成処理を行う場合は、試薬を混合してエッチング液を作製した後の1ラン目のテクスチャ形成処理におけるエッチングレートが下がり、テクスチャが形成されたシリコン基板の光反射率が2ラン目よりも増加する、という問題があった。また、テクスチャの面内均一性が悪くなり、目視で確認できる白濁ムラがシリコン基板の表面に発生し、見栄えが劣る、という問題が生じていた。さらに、連続バッチ処理を行なう際には、エッチング液においてシリコンとの反応で消費されたアルカリ成分を補充するためにアルカリ性試薬をエッチング液に適当量追加することが一般的であるが、アルカリ性試薬の追加後にも同様な現象が生じる、という問題があった。
【0010】
このような問題は、特級やELグレード(電子工業用グレード)のアルカリ性試薬を使用した場合や、キレート剤を用いて金属不純物のテクスチャ形成阻害を緩和した場合においても無くならなかった。なお、本発明におけるテクスチャ形成処理は、エッチング液の交換を持って1回と数え、1回のテクスチャ形成処理中には多数枚のシリコン基板にテクスチャ形成を行う連続バッチ処理が実施される。各バッチ処理を順番に、1ラン(初期ラン)、2ラン、3ラン、・・・と呼ぶ。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、シリコン基板表面へのテクスチャ形成を安定して生産性良く実施可能とするエッチング液の前処理方法、シリコン基板のエッチング方法、シリコン基板エッチング装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるエッチング液の前処理方法は、シリコン基板の表面に供給してウェットエッチングにより前記シリコン基板の表面に凹凸を形成するためのエッチング液に対して、前記シリコン基板の表面に供給される前に実施するエッチング液の前処理方法であって、前記シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する1種類以上の有機添加剤と水とアルカリ試薬とを含む前記エッチング液に対してバブリング処理を施すことにより、前記エッチング液中の疎水性不純物を前記エッチング液の液表面に分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エッチング液中に含有される疎水性不純物がエッチング液の液表面に分離されるため、エッチング液が元来有するテクスチャ形成効果を発揮することができるエッチング液が得られ、疎水性不純物に起因したテクスチャ形成不良を抑制して、安定した、生産性に優れたテクスチャ形成が実施可能になる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、従来の連続バッチテクスチャ形成処理におけるラン数と規格化エッチング量との関係を示す特性図である。
【図2】図2は、従来の連続バッチテクスチャ形成処理におけるラン数と規格化光反射率との関係を示す特性図である。
【図3】図3は、従来の連続バッチテクスチャ形成処理における1ラン目のテクスチャ形成処理後のシリコン基板におけるテクスチャ形成面の写真である。
【図4】図4は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化エッチング量との関係を示す特性図である。
【図5】図5は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化光反射率との関係を示す特性図である。
【図6】図6は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施しない場合における1ラン目のテクスチャ形成処理後のシリコン基板表面におけるSEM画像である。
【図7】図7は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合における1ラン目のテクスチャ形成処理後のシリコン基板表面におけるSEM画像である。
【図8】図8は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合における1ラン目のテクスチャ形成処理後のシリコン基板におけるテクスチャ形成面の写真である。
【図9】図9は、バブリング前処理における平均バブリング気泡径の違いによるバブリング時間と1ラン目の規格化エッチング量との関係を示す特性図である。
【図10】図10は、バブリング前処理における平均バブリング気泡径の違いによるバブリング時間と1ラン目の規格化光反射率との関係を示す特性図である。
【図11】図11は、バブリング前処理における平均バブリング気泡径の違いによるバブリング時間と1ラン目のシリコン基板の面内均一性との関係を示す特性図である。
【図12】図12は、バブリング前処理における平均バブリング気泡径と、1ラン目の規格化光反射率が1以下となるバブリング前処理時間との関係を示す特性図である。
【図13】図13は、各ランの間にバブリング処理を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化光反射率との関係を示す特性図である。
【図14】図14は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した後にエッチング液面の疎水性不純物分離層の除去を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化エッチング量との関係を示す特性図である。
【図15】図15は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した後にエッチング液面の疎水性不純物分離層の除去を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化光反射率との関係を示す特性図である。
【図16】図16は、バブリング前処理を実施可能なバブリング前処理層を備えるシリコン基板エッチング装置の概略構成を示す模式図である。
【図17】図17は、バブリング前処理を実施可能なバブリング前処理層を備える他のシリコン基板エッチング装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかるシリコン用エッチング液の前処理方法、シリコン基板のエッチング装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。
【0016】
実施の形態1.
図1は、従来の連続バッチテクスチャ形成処理におけるラン数と規格化エッチング量との関係を示す特性図である。エッチング量は、テクスチャ形成処理の前後のシリコン基板の重量から算出している。図1では、2ラン目のエッチング量を基準(=1)として示している。図2は、従来の連続バッチテクスチャ形成処理におけるラン数と規格化光反射率との関係を示す特性図である。光反射率は、テクスチャ形成処理後のシリコン基板にテクスチャ形成面側から光を照射した場合の光反射率である。図2では、2ラン目の光反射率を基準(=1)として示している。図3は、従来の連続バッチテクスチャ形成処理における1ラン目のテクスチャ形成処理後のシリコン基板におけるテクスチャ形成面の写真である。
【0017】
従来、特許文献1や特許文献2に示されるような有機添加剤を使用した場合は、水とアルカリ試薬とを混合してエッチング液となるアルカリ性水溶液を作製した後にテクスチャ形成処理を行なうと、図1および図2に示すように、1ラン目におけるエッチングレート(エッチング量)が下がり、光反射率が増加するという問題があった。また、このとき図3に示すように、テクスチャの面内均一性が悪くなり、シリコン基板表面に目視で確認できる白濁ムラ(エッチングムラ)が発生し、見栄えが劣るという問題も生じた。
【0018】
そこで、本発明者らは、シリコン基板の表面光反射率を低減するために、シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する有機添加剤を1種類以上含有するアルカリ性水溶液をエッチング液として使用して該シリコン基板の表面にテクスチャを形成するウェットエッチング処理において、安定して性能の良いテクスチャ付きシリコン基板を量産する方法について検討した。
【0019】
ここでアルカリ性水溶液とは、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ金属水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム(NaCO)や炭酸カリウム(KCO)などのアルカリ金属炭酸塩の水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)液などを意味する。また、有機添加剤とは、テクスチャ形成促進作用を有する物質のことであり、アルコールや界面活性剤、脂肪族ポリアルコールや化学式がX−(OH)(Xは炭素数Cnが4以上7以下の飽和または不飽和炭素水基、nは1以上の整数、n<Cn)で示されるアルコール誘導体等の有機物が挙げられる。
【0020】
本発明者らは、検討の結果、エッチング液(アルカリ性水溶液)を作製した後であってテクスチャ形成処理を実施する前に該エッチング液(アルカリ性水溶液)に対してバブリング前処理を施すことにより、1ラン目から安定したテクスチャ形成処理が実施できることを突き止めた。
【0021】
図4は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化エッチング量との関係を示す特性図である。エッチング量は、テクスチャ形成処理の前後のシリコン基板の重量から算出している。図4では、2ラン目のエッチング量を基準(=1)として示している。図5は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化光反射率との関係を示す特性図である。光反射率は、テクスチャ形成処理後のシリコン基板にテクスチャ形成面側から光を照射した場合の光反射率である。図5では、2ラン目の光反射率を基準(=1)として示している。
【0022】
図4に示すように、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合の1ラン目におけるエッチングレート(エッチング量)は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施しない場合に比べて大きく増加している。また、図5に示すように、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合の1ラン目における規格化光反射率は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施しない場合に比べて大きく低下している。ここで、図5において1ラン目の規格化光反射率が1以下を示すのは、2ラン目の光反射率を基準としているため、連続バッチ処理において1ラン目の特性が最も良好になるという、正常処理特性によるものである。
【0023】
図6は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施しない場合における1ラン目のテクスチャ形成処理後のシリコン基板表面における走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の画像(倍率1000倍)である。図7は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合における1ラン目のテクスチャ形成処理後のシリコン基板表面における走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の画像(倍率1000倍)である。図8は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した場合の、1ラン目のテクスチャ形成処理後のシリコン基板におけるテクスチャ形成面の写真である。
【0024】
図6に示すように、エッチング液に対してバブリング前処理を実施せずにテクスチャ形成処理した場合は、テクスチャが形成されていないテクスチャ形成不良部が多く観察される。これに対して、エッチング液に対してバブリング前処理を実施後にテクスチャ形成処理した場合は、図7に示すように、全面に隙間なくテクスチャが形成されており、テクスチャ形成が阻害されることなく実施されたことがわかる。また、エッチング液に対してバブリング前処理を実施することにより、図8に示すように、目視による外観ムラ(エッチングムラ)は認められず、均一性の高いテクスチャ形成が1ラン目より作製可能となっていることがわかる。
【0025】
本発明者らは、検討の結果、1ラン目のテクスチャ形成工程において発生するエッチングレートの低下やテクスチャ形成不良に伴う白濁ムラ(エッチングムラ)は、エッチング液中に油脂等の疎水性不純物が含まれていることが原因であることを突き止めた。シリコン基板の表面は疎水性であるため、疎水性である油脂等の不純物(疎水性不純物)がエッチング液に混入すると、該疎水性不純物がテクスチャ形成途中の疎水性シリコン基板の表面に選択的に付着し、適切なテクスチャ形成を阻害する。
【0026】
この結果、図6に示すようなテクスチャ形成不良部が発生し、図1および図2に示すように、1ラン目においてシリコン基板のエッチング量が減少し、シリコン基板表面の光反射率が増加する。該テクスチャ形成不良部が発生することにより、シリコン基板表面での光の多重反射性が低下するため、良好なテクスチャが形成された場合と比べてシリコン基板への入射光量が減少し、太陽光発電装置の特性を低下させる。さらに疎水性不純物のシリコン基板表面への付着分布に依存した、テクスチャ形成不良部密度の違いによって、テクスチャ形成面におけるテクスチャの面内均一性が悪くなるため、図3に示すようにシリコン基板表面に目視で確認できる白濁ムラ(エッチングムラ)が発生すると考えられる。
【0027】
本発明の効果は、有機添加剤としてアルコール系の有機物を使用した場合に大きいことがわかった。疎水性不純物は、有機添加剤に使用されているアルコール有機物等が油脂成分を溶かし込むという性質を有していることに起因して、エッチング液に取り込まれていると考えられる。該疎水性不純物は、有機添加剤を製造する段階で有機添加剤に含有されている。有機添加剤の試薬グレードを上げることは、エッチング液のコストを大きく増加させるため、実用には適さない。また、エッチング液を作製する試薬混合時に該疎水性不純物がエッチング液に取り込まれることも考えられる。しかし、製造ラインのクリーン度を上げるためには高い設備費が発生し、実用に適さない。また、テクスチャ形成処理時にシリコン基板から該疎水性不純物がエッチング液に取り込まれることも考えられる。したがって、試薬を混合して作製された時点でエッチング液中の疎水性不純物量を低減させることは、実用に適さない。
【0028】
本発明におけるエッチング液に対するバブリング前処理は、疎水性の性質を有する気泡に疎水性不純物が選択的に付着し、該疎水性不純物をエッチング液中から分離することが可能となる。すなわち、エッチング液中に存在する気泡には、その特性から油脂等の疎水性物質が選択的に吸着し、気泡自身の表面に吸着する。気泡は浮力を有するので、油脂等の疎水性物質が付着した気泡はエッチング液の液面まで浮上し、エッチング液中から油脂等の疎水性不純物を分離することができる。したがって、本発明におけるエッチング液に対するバブリング前処理は、エッチング液中の疎水性不純物量を低減して、1ラン目から特性の安定したテクスチャ形成工程を実施することのできる、安価で簡易、かつ、十分な効果を有する量産性に優れた方法である。
【0029】
疎水性有機物の溶解性は、アルコール有機物等の、エッチング液の構成成分に対して十分高いものであっても、水と混合した場合、さらにはアルカリを添加した場合においては、非常に小さいものとなる。このため本発明におけるエッチング液に対するバブリング前処理は、不純物を多く含む成分単独に対して行うのではなく、エッチング液を調合し、十分に溶解した後に行うことが必要である。
【0030】
バブリング前処理を実施することによって、エッチング不良を導く油脂等の疎水性不純物がシリコン基板表面に付着することが抑制されるため、規格化エッチング量および規格化光反射率が1に近い、良好なテクスチャ付き基板を1ラン目において作製することが可能となる。また、エッチング液中から疎水性不純物が液面に分離されるため、シリコン基板の全面において均一にテクスチャが形成され、図8に示すようにテクスチャの面内均一性が改善される。
【0031】
ここで、シリコン基板に疎水性不純物があらかじめ付着している場合は、一般的に該疎水性不純物に起因したエッチングムラが生じる。このため、エッチングムラの無い一様なテクスチャ付きシリコン基板を作製するためには、受け入れ洗浄等によってシリコン基板表面を清浄にすることが好ましい。シリコン基板の表面に付着している疎水性不純物を微量にすることにより、疎水性不純物がエッチング液に対して溶解するため、シリコン基板に付着している疎水性不純物の影響が大きく出ないようにすることができる。
【0032】
しかしながら、エッチング液がシリコン基板表面の汚染と同様の疎水性不純物で汚染されている場合においては、シリコン基板表面に付着した疎水性不純物が微量であってもその溶解が起こりにくく、エッチングムラが生じる可能性がある。本発明におけるバブリング前処理では、疎水性不純物の量を、シリコン基板上の不純物の溶解性を確保するのに必要な量に低減できる。このため、シリコン基板の汚染に起因したエッチングムラに対しての抑制効果も得られる。
【0033】
なお、2ラン目以降でテクスチャ形成処理が安定するのは、テクスチャ形成中に発生する水素ガスが、バブリング前処理と同等の効果を有しているためだと考えられる。
【0034】
バブリング前処理に使用するガスとしては、例えば乾燥空気や、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。バブリング条件は、特に限定されるものではなく、エッチング液に含まれる疎水性不純物の状況や、使用する装置等によって適宜決定すればよい。例えば容量が60リットルのテクスチャ処理槽を使用する場合は、1〜10リットル/分の気体の導入条件が例示される。
【0035】
バブリング前処理時のエッチング液の温度は、特に限定されるものではなく、生産ライン上、最も効率の良くなる温度で実施すればよい。ただし、疎水性不純物の溶解性はエッチング液の温度が低いほど小さいことが多いため、バブリング前処理をエッチング液の昇温前、あるいは、昇温の過程で行うことで、その効果を増大することができる。
【0036】
バブリング前処理時間(バブリング時間)は、エッチング液中の疎水性不純物量やバブリング前処理で使用する気泡径に依存するため限定されないが、例えば10秒〜60分実施すればよい。
【0037】
図9は、バブリング前処理における平均バブリング気泡径(以下、単に気泡径と呼ぶ場合がある)の違いによるバブリング時間(分)と1ラン目の規格化エッチング量との関係を示す特性図である。図9では、30リットルのテクスチャ処理槽に1リットル/分の流量でエッチング液を導入する条件の下、窒素ガスを用いて気泡径を約3mmとした窒素バブリング前処理を実施したエッチング液を用いてテクスチャ形成処理を実施した場合と、窒素ガスを用いて気泡径を約10mmとした窒素バブリング前処理を実施したエッチング液を用いてテクスチャ形成処理を実施した場合との、バブリング時間と1ラン目の規格化エッチング量を2ラン目のエッチング量を基準(=1)として示している。
【0038】
図10は、バブリング前処理における平均バブリング気泡径の違いによるバブリング時間(分)と1ラン目の規格化光反射率との関係を示す特性図である。光反射率は、テクスチャ形成処理後のシリコン基板にテクスチャ形成面側から光を照射した場合の光反射率である。図10では、図9の場合と同条件で、30リットルのテクスチャ処理槽に1リットル/分の流量でエッチング液を導入する条件の下、窒素ガスを用いて気泡径を約3mmとした窒素バブリング前処理を実施したエッチング液を用いてテクスチャ形成処理を実施した場合と、窒素ガスを用いて気泡径を約10mmとした窒素バブリング前処理を実施したエッチング液を用いてテクスチャ形成処理を実施した場合との、バブリング時間と1ラン目の規格化光反射率を2ラン目の光反射率を基準(=1)として示している。
【0039】
図11は、バブリング前処理における平均バブリング気泡径の違いによるバブリング時間(分)と1ラン目のシリコン基板の面内均一性との関係を示す特性図である。図11においては、図9の場合と同条件で、30リットルのテクスチャ処理槽に1リットル/分の流量でエッチング液を導入する条件の下、窒素ガスを用いて気泡径を約3mmとした窒素バブリング前処理を実施したエッチング液を用いてテクスチャ形成処理を実施した場合と、窒素ガスを用いて気泡径を約10mmとした窒素バブリング前処理を実施したエッチング液を用いてテクスチャ形成処理を実施した場合との、1ラン目にテクスチャ形成後のシリコン基板の面内均一性を示している。面内均一性は、156mm角のシリコン基板の面内9点における光反射率の標準偏差を示した。
【0040】
図9および図10より、バブリング前処理における平均バブリング気泡径を小さくすることにより、短いバブリング前処理時間で1ラン目のシリコン基板の規格化エッチング量および規格化光反射率が1に近づき、短いバブリング前処理時間で本発明の効果が得られることがわかる。また、図11より、バブリング前処理における平均バブリング気泡径を小さくすることにより、短いバブリング前処理時間で1ラン目のシリコン基板の面内均一性が向上し、これに伴って標準偏差が下がることがわかる。すなわち、バブリング前処理における気泡径を小さくすることにより、本発明の効果を短時間で得られる生産性に優れたバブリング前処理工程が実現可能となる。
【0041】
気泡によってエッチング液を洗浄する(疎水性不純物をエッチング液中から分離する)洗浄方法において、気泡の直径をdとすると、気泡の体積Vはπd/6、気泡の表面積Sはπdで表される。気泡の単位体積あたりの表面積はS/Vで表されるので、これを計算するとS/V=6/dとなる。このことから、気泡の単位体積あたりの表面積は、気泡の直径dに反比例することが分かる。
【0042】
すなわち、エッチング液中に小さな気泡が大量に存在するときに、単位体積当たりの気泡の総表面積が大きくなり、油脂等の疎水性不純物を吸着させる面積も増大するため、洗浄度は大きく向上する。ここで、有機添加剤に使用されるアルコール系化合物は、気泡を微細化する効果を有している。このため、バブリングによる簡易な前処理でも、油脂等の疎水性不純物をエッチング液中から除去(分離)する効果が十分に得られたと考えられる。
【0043】
図12は、バブリング前処理における平均バブリング気泡径(mm)と、1ラン目の規格化光反射率が1以下となるバブリング前処理時間(分)との関係を示す特性図である。図12では、30リットルのテクスチャ処理槽に1リットル/分の流量でエッチング液を導入する場合について示している。図12より、バブリング前処理における平均バブリング気泡径が小さくなるに伴い、バブリング前処理時間を短縮することが可能となることがわかる。これは、気泡の総表面積が大きくなる効果に加えて、気泡1つ1つが小さくなることでテクスチャ液中における気泡の滞留時間が長くなり、疎水性不純物の吸着効果が大きくなるためと考えられる。
【0044】
実際の生産ラインを考えた場合は、エッチング液の昇温過程を利用してエッチング液のバブリング前処理を実施すると、ロスタイムを小さくすることができる。量産における平均バブリング気泡径の閾値を考慮すると、5mm以下の気泡径を形成するバブラーでバブリング前処理を実施することにより、効率の良い生産ラインを設計することが可能となる。さらに、気泡径が3mm以下の場合に、バブリング前処理に要する時間低減の効果が顕著となる。なお、ここでの気泡径は、気泡の側面からの撮影画像において、気泡形状を円近似したものの直径を用いている。
【0045】
上述したように、本実施の形態においては、エッチング液中に含有される油脂等の疎水性不純物を気泡に付着させることによって分離、除去し、エッチング液が元来有するテクスチャ形成効果を1ラン目より発揮することができる、という効果を有する。これにより、エッチング液中の疎水性不純物に起因して初期ラン(1ラン)において発生するエッチンレートの低下、テクスチャ形成不良による光反射率の増加や白濁ムラ(エッチングムラ)の発生を抑制することができる。すなわち、良好な光反射率を有するテクスチャーを均一に効率良く形成できる。したがって、本実施の形態によれば、連続バッチ処理においても安定して、生産性に優れたテクスチャ形成が実現可能となる。
【0046】
実施の形態2.
テクスチャ形成の連続バッチ処理においてランを重ねるにしたがって、シリコン基板や周辺環境からエッチング液に疎水性不純物が混入する場合がある。シリコン基板に付着して持ち込まれる疎水性不純物には、指紋に含まれる各種の脂肪酸やエステル類などのほか、潤滑油、防錆剤、フタル酸エステルやアジピン酸エステルのようなプラスチックの可塑剤などがある。これらの疎水性不純物は、容器や搬送部品を経由してシリコン基板に付着するほか、空気中に微量に存在する蒸気が吸着して付着する場合もある。空気中からエッチング液に混入する疎水性不純物については、熱源やスプレー粒子などから発生するオイルミストがテクスチャ形成不良の発生において問題になる場合がある。このようにしてエッチング液中に持ち込まれた疎水性不純物は、当然、テクスチャ形成処理のエッチングに影響を与える虞がある。
【0047】
さらには、以下に示すように、エッチング液に最初から含まれている疎水性不純物が問題となる場合もある。シリコン基板のケイ素(Si)は、エッチング液中で水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)等のアルカリと反応して、エッチング液中に溶出し、これによりシリコン基板表面にピラミッド状の凹凸構造が形成される。このエッチング反応は以下の式(1)で示され、その際、水素ガスが発生し、ケイ酸塩が析出する。
【0048】
Si + 2OH + 4HO → Si(OH)2− + 2H↑ ・・・(1)
【0049】
そこで、テクスチャ形成の連続バッチ処理を行なう際には、反応に要したアルカリを補充するため、各ランの間に水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ性試薬を必要量追加することが一般的である。この場合は、アルカリ性試薬によるエッチング液中のイオン成分の増加や、処理ラン数の増加に伴うケイ酸塩の増加によって、疎水性不純物のエッチング液に対する溶解性が低下することになる。このため、エッチング液中の疎水性不純物の量が一定であっても、エッチング液における溶質の飽和濃度に対する溶解量が増大することになり、さらには過飽和溶解した状態ともなりうる。したがって、アルカリ性試薬を追加した場合やラン数が増加した場合には、1ラン目と同様のテクスチャ形成不良や白濁ムラ(エッチングムラ)が発生し易くなり、不良品の発生率が上がる。ラン間に有機添加剤を追加した場合も同様である。
【0050】
そこで、各ランの間にアルカリ性試薬を追加した場合やラン数が増加した場合に、各ランの間においてエッチング液のバブリング前処理を行なうと、実施の形態1において説明したようにエッチング液中の疎水性不純物の分離効果が得られ、良好なテクスチャ形成処理が可能となる。すなわち、ランの間にアルカリ性試薬を追加した場合やラン数が増加した場合に、ランの間においてエッチング液のバブリング前処理を行なうことにより、2ラン目以降においてもエッチング液が元来有するテクスチャ形成効果を発揮させることができる。
【0051】
図13は、各ランの間にバブリング処理を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化光反射率との関係を示す特性図である。光反射率は、テクスチャ形成処理後のシリコン基板にテクスチャ形成面側から光を照射した場合の光反射率である。図13では、2ラン目の光反射率を基準(=1)として示している。
【0052】
図13に示すように、各ランの間にバブリング前処理を実施したことにより、ラン数の増加に伴う光反射率の増加を抑制できることがわかる。このときのバブリング前処理時間は、エッチング液に含まれる不純物量や使用する装置等によって異なるが、例えば5分程度実施すればよい。
【0053】
上述したように、ラン数が増加した場合において各ランの間にバブリング前処理を実施することにより、エッチング液への疎水性不純物の混入や、エッチング液へのアルカリ性試薬や有機添加剤の追加などによるエッチング液中の疎水性不純物に起因したエッチンレートの低下およびテクスチャ形成不良の発生を抑制することができる。したがって、本実施の形態によれば、連続バッチ処理においても安定して、生産性に優れたテクスチャ形成が実現可能となる。
【0054】
実施の形態3.
上述したエッチング液に対するバブリング前処理は、エッチング液中の油脂等の疎水性不純物を液中から液表面へと分離する方法である。エッチング液中の疎水性不純物を液中から分離するだけでも安定したテクスチャ形成効果は十分に得られる。しかしながら、分離した疎水性不純物がエッチング液に再溶解する可能性も考えられる。また、分離した疎水性不純物が、エッチング液の液面に広がる、油滴として液面に浮遊するなどの挙動により、シリコン基板を汚染する虞もある。
【0055】
図14は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した後にエッチング液面の疎水性不純物分離層の除去を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化エッチング量との関係を示す特性図である。エッチング量は、テクスチャ形成処理の前後のシリコン基板の重量から算出している。図14では、2ラン目のエッチング量を基準(=1)として示している。図15は、エッチング液に対してバブリング前処理を実施した後にエッチング液面の疎水性不純物分離層の除去を実施した場合および実施しない場合におけるラン数と規格化光反射率との関係を示す特性図である。光反射率は、テクスチャ形成処理後のシリコン基板にテクスチャ形成面側から光を照射した場合の光反射率である。図15では、2ラン目の光反射率を基準(=1)として示している。なお、疎水性不純物分離層は、バブリング前処理によりエッチング液面に分離された疎水性不純物の集合体であるが、エッチング液面において連続している必要ない。
【0056】
図14に示すように、エッチング液面の疎水性不純物分離層の除去を実施した場合は、エッチング液面の疎水性不純物分離層の除去を実施せずに疎水性不純物の分離のみを実施した場合と比べて、ラン数の増加に伴うエッチング量の減少が防止されていることが分かる。また、図15に示すように、エッチング液面の疎水性不純物分離層の除去を実施した場合は、エッチング液面の疎水性不純物分離層の除去を実施せずに疎水性不純物の分離のみを実施した場合と比べて、ラン数の増加に伴う光反射率の増加が防止されていることが分かる。すなわち、バブリング前処理後にエッチング液の疎水性不純物分離層(表面層)を除去したエッチング液を使用した場合の方が、疎水性不純物のエッチング液への再溶解を防げるため、エッチング液の液寿命が長くなることがわかる。
【0057】
バブリング前処理時またはバブリング前処理後に、エッチング液の表面に分離された疎水性不純物を除去することは、バブリング前処理の効果をより確実にするものである。そして、連続バッチ処理におけるラン数を増加させる、すなわち交換せずに使用するエッチング液の寿命を長くするためには、バブリング前処理時またはバブリング前処理後に液表面の疎水性不純物分離層を除去することが好ましい。
【0058】
図16は、バブリング前処理を実施可能なバブリング前処理層を備えるシリコン基板エッチング装置の概略構成を示す模式図である。図16に示すシリコン基板エッチング装置は、バブリング前処理後にエッチング液の表面部分から疎水性不純物分離層を除去可能とされている。
【0059】
このシリコン基板エッチング装置でシリコン基板にテクスチャ形成を行う場合には、まずポンプ5を用いて適当な流量でエッチング液供給管7よりバブリング前処理槽1へエッチング液を所定の深さまで充填されるまで供給する。バブリング前処理槽1は、エッチング液を貯留してバブリング前処理を実施するための前処理槽である。そして、バブリング前処理槽1内のエッチング液に対して、バブラー4を用いてバブリング前処理を実施するとともにヒーター3を用いてエッチング液を昇温し、疎水性不純物の少ないエッチング液を作製する。
【0060】
バブリング前処理を適当な時間だけ実施した後、バブリング前処理を停止する。そして、例えばバブリング前処理槽1内のエッチング液の液面1cm程が廃液槽9へ流れ出るように、エッチング液のバブリングを実施しない状態でエッチング液供給管7よりエッチング液をバブリング前処理槽1へ追加供給する。これにより、疎水性不純物分離層を含むエッチング液上澄み層が廃液槽9へ流れ出て、エッチング液から疎水性不純物分離層が除去される。廃液槽9へ流れ出たエッチング液上澄み層は、ドレイン6から外部に排出される。また、エッチング液上澄み層を除去するために、エッチング液の代わりに疎水性不純物の含まれない純水のみを供給してもよい。
【0061】
エッチング液上澄み層を除去した後、バブリング前処理が施されたバブリング前処理槽1内のエッチング液は、ポンプ10を用いて、バブリング前処理槽1に隣接して設けられたテクスチャ形成処理槽(エッチング槽)2とバブリング前処理槽1とを連通する連通配管8からバブリング前処理槽1に供給される。このとき、連通配管8の高さを、エッチング液上澄み層を除去するために追加供給したエッチング液がテクスチャ形成処理槽(エッチング槽)2に混入しないように十分高い位置としておくことが好ましい。これにより、バブリング前処理が実施されていないエッチング液が連通配管8を介してテクスチャ形成処理槽(エッチング槽)2に供給されることが防止される。
【0062】
その後、テクスチャ形成処理槽(エッチング槽)2に供給されたエッチング液を用いてシリコン基板に対してテクスチャ形成処理(エッチング)の連続バッチ処理を行う。このとき、各ラン間にバブラー4を用いてテクスチャ形成処理槽(エッチング槽)2内のエッチング液に対してバブリング処理を行うことができる。
【0063】
図17は、バブリング前処理を実施可能なバブリング前処理層を備える他のシリコン基板エッチング装置の概略構成を示す模式図である。図17に示す他のシリコン基板エッチング装置は、バブリング前処理後にエッチング液の表面部分から疎水性不純物分離層を除去可能とされている。
【0064】
他のシリコン基板エッチング装置では、エッチング液供給管7がバブリング前処理槽1内の上部に配置され、連通配管8がバブリング前処理槽1内の側面の下部領域に配置されている。他のシリコン基板エッチング装置でも、図16に示すシリコン基板エッチング装置と同様の動作・原理により、エッチング液の表面に分離されたから疎水性不純物分離層を除去することができる。
【0065】
また、上述したようにバブリング前処理後に疎水性不純物分離層を流し去る方法の他に、バブリング前処理時にエッチング液の液面に浮き出た泡を除去してもよい。すなわち、上記のようなシリコン基板エッチング装置に、泡を気流で吸い取る方法、泡を吹き飛ばす方法等により、バブリング前処理時にエッチング液の液面から泡を除去する手段を設けてもよい。疎水性不純物はエッチング液の表面に浮き出た泡表面に偏在することになるため、泡の除去でエッチング液から効率良く疎水性不純物を除去することができる。
【0066】
なお、エッチング液上澄み層には添加剤としてよく使用される界面活性剤等の有機物成分が偏在している場合がある。このため、エッチング液上澄み層の廃液後のエッチング液の組成比を考慮してバブリング前処理を実施するエッチング液における有機物成分の混合比を調整しておく、エッチング液上澄み層の廃液後に添加剤を補充する、などの処理が必要となる場合もある。バブリング前処理後に、液表面に偏在するエッチング液添加剤成分と、液表面に偏在する分離された疎水性不純物との割合は、バブリング前処理前の各存在量と比較して、疎水性不純物の方が多くなる場合が多い。これは、テクスチャ形成を阻害する疎水性不純物の方が、界面活性剤等の有機添加剤成分よりも疎水性が強いためである。
【0067】
上述したように、本実施の形態においては、エッチング液中に含有される油脂等の疎水性不純物を気泡に付着させることによって分離し、さらに分離した疎水性不純物を除去したエッチング液を用いてシリコン基板に対してテクスチャ形成を行う。これにより、エッチング液中に含有される疎水性不純物の分離効果をより確実にすることができる。したがって、本実施の形態によれば、連続バッチ処理においてもより安定して、生産性に優れたテクスチャ形成が実現可能となる。
【0068】
なお、上記の実施の形態においては連続バッチ処理を例に説明したが、本発明は1バッチのみのテクスチャ形成処理に適用しても同様の効果が得られることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明にかかるエッチング液の前処理方法は、シリコン基板表面へのテクスチャ形成を安定して生産性良く実現するために有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 バブリング前処理槽
2 テクスチャ形成処理槽(エッチング槽)
3 ヒーター
4 バブラー
5 ポンプ
6 ドレイン
7 エッチング液供給管
8 連通配管
9 廃液槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の表面に供給してウェットエッチングにより前記シリコン基板の表面に凹凸を形成するためのエッチング液に対して、前記シリコン基板の表面に供給される前に実施するエッチング液の前処理方法であって、
前記シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する1種類以上の有機添加剤と水とアルカリ試薬とを含む前記エッチング液に対してバブリング処理を施すことにより、前記エッチング液中の疎水性不純物を前記エッチング液の液表面に分離すること、
を特徴とするエッチング液の前処理方法。
【請求項2】
前記エッチング液の液表面に分離された前記疎水性不純物を前記バブリング処理の処理中または処理後に除去すること、
を特徴とする請求項1に記載のエッチング液の前処理方法。
【請求項3】
シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する有機添加剤と水とアルカリ試薬とを含むエッチング液をシリコン基板の表面に供給してウェットエッチングにより前記シリコン基板の表面に凹凸を形成するエッチング処理を実施するシリコン基板のエッチング方法であって、
前記エッチング液に対してバブリング処理を施すことにより前記エッチング液中の疎水性不純物を前記エッチング液の液表面に分離する前処理工程と、
前記バブリング処理が施された前記エッチング液を用いて前記シリコン基板表面のウェットエッチングを行うエッチング工程と、
を含むことを特徴とするシリコン基板のエッチング方法。
【請求項4】
前記前処理工程では、前記エッチング液の液表面に分離された前記疎水性不純物を前記バブリング処理の処理中または処理後に除去すること、
を特徴とする請求項3に記載のシリコン基板のエッチング方法。
【請求項5】
前記エッチング工程では、前記バブリング処理が施された前記エッチング液を用いて複数バッチにわたってシリコン基板表面のウェットエッチングを繰り返し実施し、バッチ間に前記前処理工程を実施すること、
を特徴とする請求項3または4に記載のシリコン基板のエッチング方法。
【請求項6】
前記バッチ間において、前記有機添加剤および前記アルカリ試薬のうち少なくとも一方を前記エッチング液に添加した後に前記前処理工程を実施すること、
を特徴とする請求項5に記載のシリコン基板のエッチング方法。
【請求項7】
シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する有機添加剤と水とアルカリ試薬とを含むエッチング液を貯留するエッチング液貯留槽と、
前記エッチング液貯留槽に貯留された前記エッチング液に対してバブリング処理を施すことにより前記エッチング液中の疎水性不純物を前記エッチング液の液表面に分離するバブリング処理手段と、
前記バブリング処理が施された前記エッチング液を貯留してシリコン基板表面のウェットエッチングが実施されるエッチング槽と、
を備えることを特徴とするシリコン基板のエッチング装置。
【請求項8】
前記バブリング処理により前記エッチング液の液表面に分離された前記エッチング液中の疎水性不純物を除去する除去手段を備えること、
を特徴とする請求項7に記載のシリコン基板のエッチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−98256(P2013−98256A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237861(P2011−237861)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】