説明

エネルギー吸収体、FRP成形体、プリプレグ及び衝撃吸収体

【課題】曲げ、捻り、圧破等の外力に対し、優れた耐衝撃性を備え、かつ厚みが薄いにも拘わらず、クッション性に優れるエネルギー吸収体を提供すること、特には、軽量、かつ耐衝撃性が向上したFRP成形体及びプリプレグ、並びにさらなる薄肉化を実現し、一層の軽量化とスペースの節約を図ることのできる衝撃吸収体を提供すること。
【解決手段】熱硬化性樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた制振性及び衝撃吸収性を備えるエネルギー吸収体に関し、例えばゴルフクラブ用シャフト、自転車用アーム、自転車用のハンドル、自転車用のフレームやシートポスト、釣り竿、テニスラケットなどの管状FRP成形体や板金部品からの代替品としてのCFRP製の自動車ボデー、その製造に用いるプリプレグ、或いは自動車のシートクッション、ヘルメット内側の緩衝材、バイクや自転車用の手袋、靴底、自転車用レーサーパンツのパッド、バイクや自転車のサドル用クッション材、バット、ラケット、自転車のハンドルなどに巻くクッションテープなどの衝撃吸収体として好適なエネルギー吸収体に関する。詳細には、曲げ、捻り、圧破等の外力に対し、優れた耐衝撃性を備え、かつ厚みが薄いにも拘わらず、クッション性に優れるエネルギー吸収体、FRP成形体、プリプレグ及び衝撃吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばゴルフクラブ用シャフトや釣り竿などの管状FRP成形体は、炭素繊維等の繊維とエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂とからFRP成形体を成形する方法で製造されているが、炭素繊維を強化繊維とする場合にはプリプレグと呼ばれる予め繊維に樹脂を含浸させた中間材料を用いる方法が最も広く行われている。
【0003】
特に繊維強化管状成形体は、曲げ、捻り、圧破等の外力に対する強靭性の向上を目的として、軸方向に配された強化繊維と、樹脂とからなる内層の外側に、ガラス繊維と樹脂とからなる外層が積層されたものや(例えば特許文献1参照)、複数の繊維強化樹脂層を有する繊維強化管状成形体であって、前記繊維強化樹脂層が、エポキシ樹脂組成物を硬化させたマトリックス樹脂と補強繊維とを含み、前記エポキシ樹脂組成物が、下記樹脂混合物を含むものが提案されている。
樹脂混合物:2官能エポキシ樹脂(A)50〜80質量部と、フェノール性水酸基を2個以上有するフェノール化合物(B)20〜50質量部(ただし、(A)と(B)との合計は100質量部である。)と、(A)と(B)との合計100質量部に対して1〜45質量部の、下記式(I)で表されるポリアミド樹脂(C)とを混合した混合物であって、該混合物中に含まれるフェノール化合物(B)が80%以上反応した混合物(例えば特許文献2参照)。
【0004】
一方、自動車のシートクッションやバイクや自転車のサドル用クッション材などの衝撃吸収体としては、例えばポリウレタン発泡体からなり、着座部を構成するクッション本体と、そのクッション本体の底面に一体的に設けられるシート状の低通気性発泡体とからなり、共振倍率が4.0以下であるシートパッドが知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−329247号公報
【特許文献2】特開2008−37953号公報
【特許文献3】特開2005−177171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に示すFRP成形体の場合、衝撃吸収性を有する異種材料を加えているため、軽量化が難しく、またその耐衝撃性も不充分であった。
【0007】
一方、特許文献3に示す衝撃吸収体(シートパッド)の場合、115mm(特許文献3の実験例)という厚肉のものであり、シートパッドが重くなるとともに、シートパッドのためのスペースを必要としていた。
【0008】
本発明は、上記技術的課題に鑑みなされたものであり、曲げ、捻り、圧破等の外力に対し、優れた耐衝撃性を備え、かつ厚みが薄いにも拘わらず、クッション性に優れるエネルギー吸収体を提供すること、特には、従来のFRP成形体に比べ、軽量、かつ耐衝撃性が向上したFRP成形体及びプリプレグを提供すること、並びに自動車のシートクッションやバイクや自転車のサドル用クッション材などの衝撃吸収体の用途にあっては、さらなる薄肉化を実現し、一層の軽量化とスペースの節約を図ることのできる衝撃吸収体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、熱硬化性樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有することを特徴とするエネルギー吸収体をその要旨とした。
【0010】
請求項2に記載の発明は、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂又はウレタン樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー吸収体をその要旨とした。
【0011】
請求項3に記載の発明は、複数のFRP層を有するFRP成形体であって、
前記少なくとも1つのFRP層が、エポキシ樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維又は強化繊維シートに含浸してなることを特徴とするFRP成形体をその要旨とした。
【0012】
請求項4に記載の発明は、FRP成形体が管状成形体であることを特徴とする請求項3に記載のFRP成形体をその要旨とした。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の管状成形体が使用されてなるゴルフクラブ用シャフトをその要旨とした。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の管状成形体が使用されてなる釣り竿をその要旨とした。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項4に記載の管状成形体が使用されてなるテニスラケットをその要旨とした。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項4に記載の管状成形体が使用されてなる自転車用アームをその要旨とした。
【0017】
請求項9に記載の発明は、エポキシ樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維又は強化繊維シートに含浸してなることを特徴とするプリプレグをその要旨とした。
【0018】
請求項10に記載の発明は、ウレタン樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有するウレタン樹脂組成物を含む衝撃吸収体をその要旨とした。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエネルギー吸収体にあっては、熱硬化性樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)シフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有することから、曲げ、捻り、圧破等の外力に対し、優れた耐衝撃性を備え、かつ厚みが薄いにも拘わらず、クッション性に優れる。
【0020】
特には、上記構成を有する本発明のFRP成形体及びそれを構成するプリプレグにあっては、従来のFRP成形体に比べ、軽量であり、かつ耐衝撃性が一層向上し、曲げ、捻り、圧破等の外力が加わったときにも、容易に破損することがない。また、自動車のシートクッションやバイクや自転車のサドル用クッション材などの衝撃吸収体の用途にあっては、さらなる薄肉化を実現することができ、一層の軽量化とスペースの節約を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を具体化したFRPサンプル(試験片)について行ったデュポン衝撃強度測定試験装置の概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のエネルギー吸収体、FRP成形体、プリプレグ及び衝撃吸収体をさらに詳しく説明する。本発明は、優れた制振性及び衝撃吸収性を備えるエネルギー吸収体を提案するものであり、例えばゴルフクラブ用シャフト、自転車用アーム、自転車用のハンドル、自転車用のフレームやシートポスト、釣り竿、テニスラケットなどの管状FRP成形体や板金部品からの代替品としてのCFRP製の自動車ボデー、その製造に用いるプリプレグ、或いは自動車のシートクッション、ヘルメット内側の緩衝材、バイクや自転車用の手袋、靴底、自転車用レーサーパンツのパッド、バイクや自転車のサドル用クッション材、バット、ラケット、自転車のハンドルなどに巻くクッションテープなどの衝撃吸収体として好適に使用することができる。
【0023】
本発明のエネルギー吸収体は、熱硬化性樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物(以下、本件化合物と称す)からなる分散相を有するものである。
【0024】
熱硬化性樹脂マトリックスを構成する熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びケイ素樹脂から選ばれる1種若しくは2種以上、若しくはこれらの共重合体を挙げることができる。
【0025】
上記熱硬化性樹脂マトリックスを構成する熱硬化性樹脂の中でも、例えばゴルフクラブ用シャフト、自転車用アーム、自転車用のハンドル、自転車用のフレームやシートポスト、釣り竿、テニスラケットなどの管状FRP成形体や板金部品からの代替品としてのCFRP製の自動車ボデー、或いはその製造に用いるプリプレグの用途にはエポキシ樹脂が好ましく、自動車のシートクッション、ヘルメット内側の緩衝材、バイクや自転車用の手袋、靴底、自転車用レーサーパンツのパッド、バイクや自転車のサドル用クッション材、バット、ラケット、自転車のハンドルなどに巻くクッションテープなどの衝撃吸収体の用途にはウレタン樹脂が好ましい。
【0026】
FRP成形体の用途に用いるエポキシ樹脂として特に限定されないが、例えばポリオールから得られるグリシジルエーテル、分子内に活性水素を複数有するアミンより得られるグリシジルアミン、ポリカルボン酸より得られるグリシジルエステル、或いは分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるポリエポキシドなどを用いることができる。
【0027】
上記エポキシ樹脂の中でも、FRP成形体の用途に適用したときの樹脂マトリックスの引張伸度を高めるという点から、分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールAから得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFから得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールSから得られるビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAから得られるテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルジグリシジルエーテル、1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルエオレンのジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、フタル酸ジグリシジルエステル及びテレフタル酸ジグリシジルエステルなどを挙げることができる。
【0028】
上記エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えばジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、ジプロプレンアミン、ジエチルアミノプロピルアミンなどの脂肪族アミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルアミノなどの芳香族アミン、ポリアミドアミンなどのポリアミド樹脂、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの第三、第二アミン、2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類及びポリスルフィド樹脂から選ばれる1種若しくは2種以上を挙げることができる。
【0029】
尚、FRP成形体の用途に用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量は200〜400であることが好ましい。かかるエポキシ当量となるように原料樹脂を配合することで、得られる樹脂硬化物の架橋密度を好ましい範囲とすることができる。即ち、エポキシ当量が大きいほど架橋点となるエポキシ基の密度が低下し、硬化物の架橋密度は小さくなるため、塑性変形能力を高めることができるのである。
【0030】
尚、エポキシ樹脂には、樹脂マトリックスの内部応力を低下させ、靭性を向上させるゴムやエラストマーなどの樹脂系への柔軟鎖を持つポリマーを配合することもできる。また、熱可塑性のエンジニアリングプラスチックを配合することで、該エポキシ樹脂が様々なモルホルジー(集合構造)を形成し、キャビテーション効果により靭性を向上させることもできる。
【0031】
一方、衝撃吸収体の用途に用いるウレタン樹脂としては、特に限定されないが例えばポリエーテルポリオールとポリマーポリオールとにより構成されるポリオール類を用い、これとポリイソシアネート類とを反応させたものを用いることができる。ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させて得られる化合物を用いることができる。
【0032】
多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパンなどを用いることができ、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどを用いることができる。
【0033】
ポリエーテルポリオールとして具体例としては、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させたトリオール、トリオールにエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させたジオールなどを挙げることができる。尚、ポリエチレンオキシド単位の含有量を多くすると親水性が高くなり、ポリイソシアネート類との混合性が良くなり、反応性が高くなる。
【0034】
また、ポリエーテルポリオールとして、ポリエーテルエステルポリオールを用いることもできる。このポリエーテルエステルポリオールは、ポリオキシアルキレンポリオールに、ポリカルボン酸無水物と環状エーテル基を有する化合物とを反応させて得られる化合物であり、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、或いはグリセリンのプロピレンオキシド付加物などを挙げることができる。
【0035】
一方、ポリマーポリオールは、ポリエーテルポリオールにビニル系モノマーをグラフト重合したポリオールであり、ポリエーテルポリオールは、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させて得られるものである。多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパンなどを用いることができる。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシドやプロピレンオキシドを用いることができる。ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリルやメチルメタクリレートを用いることができる。尚、ポリマーポリオールのグラフト重合部分を構成するビニル系モノマー単位は、ポリエーテルポリオールとビニル系モノマーの総量中に5〜50重量%の割合で含まれていることが望ましい。
【0036】
上記ポリエーテルポリオールはポリオール類の中に40〜60重量%の割合で含まれていることが好ましく、ポリマーポリオールは、60〜40重量%の割合で含まれていることが好ましい。
【0037】
衝撃吸収体の用途に用いるウレタン樹脂は、上記ポリオール類とポリイソシアネート類をウレタン化反応させることで得ることができ、ウレタン化反応を促進するために触媒を用いるのが望ましい。触媒には、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N,N’−,N’−トリメチルアミノエチルピペラジン等の第3級アミン、オクチル酸スズなどの有機金属化合物のほか、アルカリ金属アルコラートや酢酸塩などを用いることができる。触媒の含有量は、ポリオール類100重量部に対して0.1〜2.0重量部の割合が好ましい。
【0038】
尚、上記熱硬化性樹脂マトリックス相を構成する樹脂の選択に際しては、当該エネルギー吸収体の用途や使用状態、分散相を構成する本件化合物との相溶性のほか、取り扱い性、成形性、入手容易性、温度性能(耐熱性や耐寒性)、耐候性、価格なども考慮するのが望ましい。
【0039】
本発明のエネルギー吸収体において、上記エポキシ樹脂やウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂マトリックス相中において分散相を形成する本件化合物は、上記熱硬化性樹脂マトリックス相内で当該エネルギー吸収体に加わった振動や音、衝撃といったエネルギーを効果的に減衰する働きを持つ。さらに詳しくは、分散相を構成する本件化合物は、本件化合物毎にエネルギー減衰効果が異なっている。
【0040】
この分散相は、本件化合物が熱硬化性樹脂マトリックス相中に、ミクロ相分離した分散相として或いは完全相溶した分散相として存在している。またこの分散相は、上記マトリックス相中に平均1ミクロン以下、より好ましくは平均0.1ミクロン以下の大きさで存在していることが、上記エネルギー減衰効果をより効果的に発揮させる上で望ましい。
【0041】
この分散相を構成する本件化合物は、マトリックス相を構成する樹脂100重量部に対し1〜200重量部の割合で含まれていることが望ましい。本件化合物の含有量が1重量部を下回る場合、十分なエネルギー減衰性を得ることができず、また200重量部を上回る場合には、範囲を超える分だけの減衰性が得られず不経済となるからである。
【0042】
また、振動や音、衝撃といったエネルギーには、低周波領域から高周波領域まで様々な種類があり、用途や使用状態によって求められる振動や音、衝撃の種類も異なることから、要求される振動や音、衝撃の種類に応じて熱硬化性樹脂マトリックス相を構成する樹脂や分散相を構成する本件化合物を1種若しくは2種以上を選択し、選択されたマトリックス相を構成する樹脂中に本件化合物を混合することにより、要求される振動や音、衝撃の種類に応じたより効果的なエネルギー減衰効果を有するエネルギー吸収体を得ることができるのである。
【0043】
また、本発明のエネルギー吸収体(特には熱硬化性樹脂マトリックス相)中には、分散相を構成する本件化合物の他に、用途や使用状態、求められる要求性能に応じて、例えばマイカ鱗片、ガラス片、グラスファイバー、カーボンファイバー、炭酸カルシウム、バライト、沈降硫酸バリウムなどの物質や、腐食防止剤、染料、酸化防止剤、制電剤、安定剤、湿潤剤などを必要に応じて適宜加えることができる。
【0044】
次に、本発明のエネルギー吸収体をゴルフクラブ用シャフト、自転車用アーム、自転車用のハンドル、自転車用のフレームやシートポスト、釣り竿、テニスラケットなどの管状FRP成形体の用途に適用した場合について説明する。管状FRP成形体は、上述のエポキシ樹脂に本件化合物を配合したエポキシ樹脂組成物を強化繊維又は強化繊維シートに含浸してなる複数のFRP層(プリプレグ)を有するものであり、エポキシ樹脂組成物に含まれる本件化合物が、管状成形体の強度や靭性を著しく向上させ、軽量であると共に、強く、折れにくいという性能を導き出している。
【0045】
強化繊維は、FRPの使用目的に応じて様々なものが使用できる。具体的には、炭素繊維、ガラス繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維などを挙げることができる。特に、炭素繊維は、これらの強化繊維の中で最も比強度および比弾性が優れる点でより好ましい。
【0046】
強化繊維の形態としては、繊維状のほかに、強化繊維を一方向に引き揃えたシート状物(UDシート)、織物、或いは不織布などを挙げることができる。特に、強化繊維の形態としてUDシートや織物の形態のものを用いると、プリプレグの取り扱いの点や、そのプリプレグから得られる管状成形体の機械的強度が高まるので好ましい。
【0047】
また強化繊維は、エポキシ樹脂組成物を含浸するのに先だってサイジング処理をすることが望ましく、これにより収束性や耐擦過性が優れたものにすることができる。またこの場合、サイズ剤のサイジング処理後の強化繊維への付着量を0.1〜5重量%の範囲とすることで、熱硬化性樹脂マトリックス相を構成する樹脂に対する濡れ性や樹脂との間の界面接着力を向上させることができる。
【0048】
管状FRP成形体の製造方法としては、例えば離型剤を塗布したマンドレルに対して、強化繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸したプリプレグをマンドレルの長手方向に対して繊維の配向方向が角度をなすように巻きつけたのち、この上から、マンドレルの長手方向に対して、プリプレグを繊維の配向方向が平行となるように巻きつける。その後、加熱硬化し、マンドレルを抜き取ることによって管状FRPが得られる。
【0049】
尚、このときマンドレルの長手方向と繊維の配向方向との配向角度は±30°〜±60°とすると、得られる管状FRPの捩り剛性が高くなることから、より好ましい。
【0050】
尚、管状FRP成形体の製造方法、強化繊維やプリプレグの形態は、任意であり、当該管状FRP成形体の用途に応じて適宜変更して実施することができる。
【0051】
次に、本発明のエネルギー吸収体を自動車のシートクッション、ヘルメット内側の緩衝材、バイクや自転車用の手袋、靴底、自転車用レーサーパンツのパッド、バイクや自転車のサドル用クッション材、バット、ラケット、自転車のハンドルなどに巻くクッションテープなどの衝撃吸収体の用途に適用した場合について説明する。衝撃吸収体は、上述のウレタン樹脂に本件化合物を配合したウレタン樹脂組成物を発泡成形してなるものであり、ウレタン樹脂組成物に含まれる本件化合物が、衝撃吸収体の衝撃吸収性能を飛躍的に向上させることから、薄肉化を実現することができ、一層の軽量化とスペースの節約を図ることができる。
【0052】
ウレタン樹脂組成物を発泡成形する場合、ポリオール類、ポリイソシアネート類及び触媒のほかに、発泡剤、架橋剤及び整泡剤などを加えて成形することができる。発泡剤は、ポリウレタン樹脂を発泡させてポリウレタン発泡体とするためのもので、例えば水のほかに、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどを用いることができる。架橋剤としては、例えばジエタノールアミン、グリセリン、トリメチロールプロパン系ポリオールなどを用いることができる。また、発泡成形する場合、その発泡を円滑に行うため、整泡剤を使用することが好ましい。その整泡剤としては、発泡体の製造に際して一般に使用される、シリコーン化合物、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物を用いることができる。整泡剤の含有量は、ポリオール類100重量部に対して0.1〜0.5重量部の範囲が好ましい。
【0053】
尚、衝撃吸収体の発泡構造、発泡倍率は任意であり、衝撃吸収体の用途や使用状態に応じて適宜決定すると良い。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を具体化したFRP成形体のサンプル(実施例)の作成手順及び当該サンプルについて行ったデュポン衝撃強度測定試験の結果について具体的に説明する。
以下のサンプルは、本発明の制振フィラー(オクチル化ジフェニルアミン)を3%添加したものであって、以下の手順により作成した。
制振フィラー添加サンプルの作成手順
(1)200g/mの平織りカーボンクロスを30cm角に2枚切り出す
(2)不飽和ポリエステル樹脂に120℃で溶解した制振フィラーを3%添加し攪拌
(3)上記(2)の樹脂シラップに硬化剤(商品名「パーメックN」、日油株式会社製)を15%添加し攪拌
(4)上記(3)の樹脂シラップを30cm角のカーボンクロスにローラーにより適量塗布
(5)上記(4)の樹脂を塗布したクロスにカーボンクロスを重ね(4)の作業を繰り返す
(6)縦・横方向から脱泡ローラーで押さえる
(7)硬化するまで常温で放置
制振フィラー添加サンプルの仕様:704g/m(その内、カーボンクロスは400g/mであり、樹脂成分は304g/m
【0055】
制振フィラーを含まない比較のためのサンプル(ブランク)の作成手順は、以下のとおりである。
サンプル(ブランク)の作成手順
(1)200g/mの平織りカーボンクロスを30cm角に2枚切り出す
(2)不飽和ポリエステル樹脂に硬化剤(商品名「パーメックN」、日油株式会社製)を2%添加し攪拌
(3)上記(2)の樹脂シラップを30cm角のカーボンクロスにローラーにより適量塗布
(4)上記(3)の樹脂を塗布したクロスにカーボンクロスを重ね(3)の作業を繰り返す
(5)縦・横方向から脱泡ローラーで押さえる
(6)硬化するまで常温で放置
制振フィラーを含まないサンプル(ブランク)の仕様:755g/m(その内、カーボンクロスは400g/mであり、樹脂成分は355g/m
【0056】
上記の制振フィラー添加サンプル及び制振フィラーを含まないサンプル(ブランク)について、図1に示すデュポン衝撃強度測定試験装置10を用いて行った試験結果を以下の表1に示す。
サンプル数は各3個である。
この試験装置10における使用錘11は500g、撃ち型12の直径は1/2インチ、受け台13の凹部の内径は0.64インチである。
尚、表中において、記号×△○の内容は、それぞれ以下のとおりである。
×:破壊(貫通した穴が発生)=NG
△:片面に指でなぞって判別可能なクラック発生=NG
○:破壊なし又は指でなぞって判別出来無いクラック発生=OK
【0057】
【表1】

【0058】
よって、本発明を具体化したFRPの実施例においては、従来技術によるサンプルよりも使用樹脂重量を10%以上軽減した場合においても、衝撃に対する強度が極めて著しく向上している(約12倍)ことが確認でき、これは、本発明による制振フィラーが優れた衝撃吸収性を有していることによるものと考えられる。
かかる試験結果から、従来製品と同程度の強度のFRP製品を作成する場合に、本発明によれば著しい軽量化を図ることが可能であることが明らかであり、従来不可能であった用途にも対応できる革新的な性能を有する製品の開発も可能となることが予測される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ゴルフクラブ用シャフト、自転車用アーム、自転車用のハンドル、自転車用のフレームやシートポスト、釣り竿、テニスラケットなどの管状FRP成形体や板金部品からの代替品としてのCFRP製の自動車ボデー、その製造に用いるプリプレグ、或いは自動車のシートクッション、ヘルメット内側の緩衝材、バイクや自転車用の手袋、靴底、自転車用レーサーパンツのパッド、バイクや自転車のサドル用クッション材、バット、ラケット、自転車のハンドルなどに巻くクッションテープなどとして産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 デュポン衝撃強度測定試験装置
11 錘
12 撃ち型
13 受け台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有することを特徴とするエネルギー吸収体。
【請求項2】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂又はウレタン樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー吸収体。
【請求項3】
複数のFRP層を有するFRP成形体であって、
前記少なくとも1つのFRP層が、エポキシ樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維又は強化繊維シートに含浸してなることを特徴とするFRP成形体。
【請求項4】
FRP成形体が管状成形体であることを特徴とする請求項3に記載のFRP成形体。
【請求項5】
請求項4に記載の管状成形体が使用されてなるゴルフクラブ用シャフト。
【請求項6】
請求項4に記載の管状成形体が使用されてなる釣り竿。
【請求項7】
請求項4に記載の管状成形体が使用されてなるテニスラケット。
【請求項8】
請求項4に記載の管状成形体が使用されてなる自転車用アーム。
【請求項9】
エポキシ樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維又は強化繊維シートに含浸してなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項10】
ウレタン樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有するウレタン樹脂組成物を含む衝撃吸収体。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49845(P2013−49845A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168685(P2012−168685)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【出願人】(506229970)AS R&D合同会社 (16)
【出願人】(391033388)三井屋工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】