説明

エネルギ吸収部材

【課題】エネルギ吸収の重量効率の高い、エネルギ吸収部材10を提供する。
【解決手段】エネルギ吸収部材10は、周壁を有する筒状の本体11と、周壁に対し周方向に等間隔を空けて設けられかつ、当該周壁を構成する他の部位よりも変形抵抗の高い、複数の筋状高変形抵抗部12と、を備える。各筋状高変形抵抗部12は、本体における一端から他端に亘って筒軸方向に波形に蛇行しながら延びている。本体11に対して筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、筋状高変形抵抗部12の間の部分それぞれが個別に蛇腹状に変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮荷重が入力されたときに塑性変形することで、そのエネルギを吸収するエネルギ吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車両のフレームの一部分を構成し、衝突時の衝撃荷重を吸収するために用いられるエネルギ吸収部材が開示されている。このエネルギ吸収部材は、筒状の本体と、この本体の外周面における筒軸方向の中間位置に形成された凹凸部と、を備えている。このエネルギ吸収部材では、本体に対し筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときには、前記凹凸部が起点となって本体が筒軸方向に比較的大きく折れ曲げ変形し、それによって、エネルギを吸収するようにしている。
【0003】
また、特許文献2には、横断面矩形状の本体を備えたエネルギ吸収部材において、その本体における相対する2面においては、複数の横溝を筒軸方向の同じ位置に形成するのに対し、隣合う2面においては、複数の横溝を筒軸方向に1/2ピッチだけずらして形成したエネルギ吸収部材が開示されている。これによって特許文献2のエネルギ吸収部材では、本体に対し筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときに、各横溝が起点となって蛇腹状に変形すると共に、その蛇腹変形が筒軸方向の広い範囲に亘って均等になるようにしている。
【特許文献1】特開2005−29064号公報
【特許文献2】特開2004−148955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のエネルギ吸収部材は、本体の折れ曲げ変形が比較的大きいため、その変形する部分以外の部分、つまり本体の大部分がエネルギの吸収にほとんど関与しない。このため、部材重量に対するエネルギの吸収量(エネルギ吸収の重量効率)が比較的低いという問題がある。
【0005】
こうした低い重量効率に起因して、エネルギ吸収部材を車両のフレームの一部分を構成するために用いた場合は、車両重量の増大に伴い例えば燃費の悪化を招くことにもなる。
【0006】
これに対し例えば特許文献2に記載のエネルギ吸収部材は、変形する領域が広くなるようにすることで、エネルギ吸収の重量効率を特許文献1に記載のエネルギ吸収部材よりも改善している。しかしながら、エネルギ吸収の重量効率をさらに向上させたいという要求が存在する。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギ吸収の重量効率の高いエネルギ吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、エネルギ吸収部材は、周壁を有する筒状の本体と、前記周壁に対しその周方向に所定の間隔を空けて設けられた、当該周壁を構成する他の部位よりも変形抵抗の高い複数の筋状高変形抵抗部と、を備え、前記各筋状高変形抵抗部は、前記本体における一端から他端に亘って筒軸方向に波形に蛇行しながら延びており、前記本体に対して前記筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、前記筋状高変形抵抗部の間の部分それぞれが個別に、蛇腹状に潰れ変形する。
【0009】
この構成によると、筒軸方向の圧縮荷重が本体に対して入力されたときには、波形に延びる各筋状高変形抵抗部が圧縮されることで、その波形が筒軸方向に潰れるようになる。このときに、隣り合う筋状高変形抵抗部と筋状高変形抵抗部との間の部分において、波形の山同士が向かい合う箇所は、その2つの山が近づくようになるため、その山同士の相対方向に圧縮されるようになる。これによってその箇所には、径方向の外方に向かって凸状の変形しわが、山同士の相対方向に延びて発生する。これに対し、波形の谷同士が向かい合う箇所は、その2つの谷が離れるようになるため、その谷同士の相対方向に引っ張られるようになる。これによってその箇所には、径方向の内方に向かって凸状の変形しわが、谷同士の相対方向に延びて発生する。そうして、外向きに凸の変形しわと内向きに凸の変形しわとが筒軸方向に並ぶようになるから、隣り合う筋状高変形抵抗部と筋状高変形抵抗部との間の部分が蛇腹状に変形することになる。
【0010】
前記構成のエネルギ吸収部材では、その本体が、一端から他端まで延びる筋状高変形抵抗部によって周方向に複数の領域に分割されているから、前記本体の筒軸方向の一端から他端に亘る蛇腹状の変形が、前記複数の領域のそれぞれで個別に生じることになる。その結果、筋状高変形抵抗部が起点となってエネルギ吸収部材の広い範囲に亘って複雑な変形が生じることで、エネルギ吸収の重量効率が向上する。
【0011】
前記筋状高変形抵抗部は、隣り合う筋状高変形抵抗部間で、その波形の位相が半ピッチだけ互いにずれている、としてもよい。
【0012】
こうすることで、前述した筋状高変形抵抗部と筋状高変形抵抗部との間の部分においては、山同士が向かい合う方向が筒軸に直交する方向になると共に、谷同士が向かい合う方向も筒軸に直交する方向になる。このため、圧縮荷重が入力したときに本体に生じる変形しわは、筒軸に対し直交する方向に延びるようになるから、本体がより安定して蛇腹状に潰れ変形することになる。その結果、エネルギ吸収の重量効率がさらに向上する。
【0013】
前記本体は、その周壁が複数の平面部と当該平面部同士が接合する複数の稜線とを含んで構成された横断面多角形状であり、前記各稜線は、前記筒軸方向に波形に蛇行して形成され、それによって、前記筋状高変形抵抗部を構成している、としてもよい。
【0014】
こうすることで、本体に圧縮荷重が入力したときには、隣り合う筋状高変形抵抗部間である平面部のそれぞれにおいて個別に蛇腹状の変形が生じることになる。
【0015】
前記本体の荷重−変位特性が所定の特性になるように、前記各筋状高変形抵抗部の波形のピッチ及びその高さの少なくとも一方が、前記筒軸方向に変更されている、としてもよい。
【0016】
例えば、前記本体において前記圧縮荷重の入力側の変形抵抗は、その逆側の変形抵抗よりも低く設定されている、としてもよい。
【0017】
こうすることによって、圧縮荷重の入力時に、本体における圧縮荷重の入力側の部分が比較的容易に潰れ変形するようになるため、本体の荷重−変位特性において、初期荷重のピーク値(本体が塑性変形を開始するときの荷重の値)を低下させることが可能になる。
【0018】
前記各筋状高変形抵抗部の波形のピッチは、前記圧縮荷重の入力側からその逆側に向かって次第に大きくされている、としてもよい。
【0019】
また、前記各筋状高変形抵抗部の波形の高さは、前記圧縮荷重の入力側からその逆側に向かって次第に小さくされている、としてもよい。
【0020】
こうすることによって、本体において前記圧縮荷重の入力側の変形抵抗を、その逆側の変形抵抗よりも低く設定することが実現する。
【0021】
前記各筋状高変形抵抗部は、前記周壁の表面から凸又は凹となるように当該周壁を周方向に曲げ変形させることによって形成されている、としてもよい。周壁を、筒軸方向に沿ってそれに直交する方向に曲げ変形させることで、その部分の変形抵抗が相対的に高くなる。
【0022】
前記各筋状高変形抵抗部は、前記周壁に対し局所的に焼き入れ処理を施すことによって形成されている、としてもよい。焼き入れ処理によって局所的に耐性を高めることで、その部分の変形抵抗が相対的に高くなる。
【0023】
前記本体は、その筒軸方向が車両前後方向と一致するように配置されてその車両のフロントフレームの一部を構成すると共に、前記車両に入力された衝突荷重を、前記筋状高変形抵抗部の間の部分それぞれが個別に蛇腹状に変形することによって吸収する、としてもよい。
【0024】
前述したように、このエネルギ吸収部材はエネルギ吸収の重量効率が高いため、車両のフレーム部材として用いたときに、車両重量が軽減するという利点が得られる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によると、複数の筋状高変形抵抗部を有する本体に対し筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときに、隣り合う筋状高変形抵抗部間の部分がそれぞれ個別に、筒軸方向の一端から他端に亘って蛇腹状に変形することによって、エネルギ吸収部材の広い範囲に亘って複雑な変形が生じることになり、エネルギ吸収の重量効率を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
(実施形態1)
図2は、本発明の実施形態1に係るエネルギ吸収部材10を示しており、このエネルギ吸収部材10は、図1に示すように、例えば車両前部における車幅方向の両側位置で車両前後方向にそれぞれ延びるフロントサイドフレーム91の前端部分や、フロントサイドフレーム91の前端とバンパーレインフォースメントとの間に介設されるクラッシュカン92として用いられる。
【0028】
前記エネルギ吸収部材10は、筒状の本体11を備えており、本体11の周壁には、他の部分よりも相対的に変形抵抗の高い筋状高変形抵抗部12が形成されている。この筋状高変形抵抗部12は、図3に示すように、本体11の周壁を、その表面から径方向の外方に凸となるように、曲げ変形することによって形成されていて、本体11の一端から他端に亘って、筒軸方向に波形に蛇行しながら延びている。このように筋状高変形抵抗部12は、筒軸方向に延びると共に、その筒軸に対して直交する方向に曲げ変形されているため、他の部位よりも高い変形抵抗を示すことになる。
【0029】
筋状高変形抵抗部12は、本体11の周壁に対し、その周方向に等間隔を空けて複数形成されている。ここで、複数の筋状高変形抵抗部12は、図4に示すように、その波形の位相が互いに同位相となるように形成されている。これによって、隣り合う筋状高変形抵抗部12同士の間の部分においては、波形の山と山とが向かい合う方向が、図4の一点鎖線で示すように筒軸に対して傾斜すると共に、波形の谷と谷とが向かい合う方向も同様に、図4の二点鎖線で示すように筒軸に対して傾斜することになる。
【0030】
ここで、本体11における隣り合う筋状高変形抵抗部12の間隔(a)、各筋状高変形抵抗部12における波形のピッチ(b)及び高さ(c)、並びに各筋状高変形抵抗部12の深さ(d)は、それぞれエネルギ吸収部材10に要求される特性(その変形抵抗やエネルギ吸収量等)に応じて適宜設定すればよい。例えば筋状高変形抵抗部12の間隔(a)は、間隔が小さいほど本体11の変形抵抗は低下し、筋状高変形抵抗部12の波形のピッチ(b)は、ピッチが短いほど本体11の変形抵抗は低下し、筋状高変形抵抗部12の波形の高さ(c)は、高さが高いほど本体11の変形抵抗は低下し、筋状高変形抵抗部12の深さ(d)は、深さが深いほど本体11の変形抵抗は低下する。
【0031】
尚、本体11の材質は、例えば鋼やアルミニウム等の、車両のフレームを構成する部材として用いられる各種材料の中から適宜選択することができる。
【0032】
前記構成のエネルギ吸収部材10は、種々の公知の成形方法を適宜採用することによって製造することが可能である。一例としては、図5に示すように、本体11となる円筒状の部材82に対し、マンドレル81を用いた曲げ加工を施して筋状高変形抵抗部12を形成することによりエネルギ吸収部材10を製造することができる。
【0033】
ここで使用するマンドレル81は、その周囲に、本体11に形成される筋状高変形抵抗部12の数に対応する数の突起83が、前記筋状高変形抵抗部12の間隔に対応する間隔を空けて形成されている。そうしてこのマンドレル81を、その中心軸周りに所定の回転角で反転させながら、所定の挿入速度で前記円筒状の部材82に挿入する。こうすることで、マンドレル81の各突起83によって、円筒状の部材82の周壁が径方向の外方に押し出されるようになり、円筒状の部材82(つまり本体11)の一端から他端に亘って、筒軸方向に波形に蛇行しながら延びる筋状高変形抵抗部12が、周方向に所定の間隔を空けて複数形成されることになる。このとき、マンドレル81の反転角度によって各筋状高変形抵抗部12の波形の高さが設定されると共に、マンドレル81の反転周期(周波数)と挿入速度との関係によって各筋状高変形抵抗部12の波形のピッチが設定されるようになる。また、マンドレル81の突起83の高さによって各筋状高変形抵抗部12の深さが設定され、マンドレル81の突起83の数及びその配置によって、筋状高変形抵抗部12の間隔が設定される。
【0034】
また、図示は省略するが、板状の部材に対し例えばプレス加工や圧延加工を施すことによって、その表面から凸となった複数の筋を、板状部材の一端から他端に亘って所定の波形状となるように形成すると共に、その板状の部材を筒状に巻いてその端部同士を溶接等により接合することによっても、エネルギ吸収部材10を製造することが可能である。
【0035】
前記のエネルギ吸収部材10に対し圧縮荷重が入力されたときには、筒軸方向に波形に延びる筋状高変形抵抗部12が筒軸方向に潰れ変形するようになる。このときに、隣り合う筋状高変形抵抗部12の間の部分において、波形の山同士が向かい合う箇所(図4の一点鎖線参照)は、その2つの山が近づくようになるため、その山同士が相対する方向に圧縮されるようになる。これによってその箇所、つまり図4に一点鎖線で示す箇所は、径方向の外方に向かって凸状の変形しわが、山同士の相対方向に延びるように発生する。これに対し、波形の谷同士が向かい合う箇所(図4の二点鎖線参照)は、その2つの谷が離れるようになるため、その谷同士の相対方向に引っ張られるようになる。これによってその箇所、つまり図4に二点鎖線で示す箇所は、径方向の内方に向かって凸状の変形しわが、谷同士の相対方向に延びるように発生する。そうして、外向きに凸状の変形しわと、内向きに凸状の変形しわと、が筒軸方向に交互に並ぶようになるから、隣り合う筋状高変形抵抗部12の間の部分が蛇腹状に変形することになる。
【0036】
また、図6に示すように、各筋状高変形抵抗部12の波形のピークに相当する位置において、その筋状高変形抵抗部12を挟んだ両側の一方(図6の右側)は、径方向の外方に向かって凸の変形しわが生じ、他方(図6の左側)は、径方向の内方に向かって凸の変形しわが生じる。従って、筋状高変形抵抗部12と筋状高変形抵抗部12との間の部分は複数存在するが、それぞれの部分が個別に、蛇腹状に変形することになる(図7参照)。
【0037】
その結果、このエネルギ吸収部材10は、圧縮荷重の入力時に、広い範囲に亘って複雑な変形が生じることになるため、エネルギ吸収の重量効率を従来に比べて向上させることができる。
【0038】
尚、各筋状高変形抵抗部12は、前述したように、径方向の外方に向かって凸となるように周壁を曲げることによって形成するのではなく、例えば図8に示すように、径方向の内方に向かって凸となるように周壁を曲げることによって形成してもよい。この場合は、例えば図9に示すように、円筒状の部材82の外周面に当接することで、その周壁を径方向の内方に押し出す複数の突起85を備えたマンドレルを用い、このマンドレルをその中心軸周りに所定の回転角で反転させながら、所定の速度で、前記円筒状の部材82に対し相対移動させることによって、筋状高変形抵抗部を有するエネルギ吸収部材を製造することが可能になる。
【0039】
さらに、各筋状高変形抵抗部12としては、例えば図10に示すように、他の部位よりも肉厚にすることで、その外表面から径方向の外方に突出する凸部によって構成してもよい。この構成でも、他の部位よりも肉厚であることで、筋状高変形抵抗部の変形抵抗は相対的に高くなる。また、図示は省略するが、こうした凸部を内表面から径方向の内方に突出するようにして、筋状高変形抵抗部を形成してもよい。
【0040】
加えて、本体に対し局所的に焼き入れ処理を施し、その部分の耐性を他の部位よりも向上させることによって、筋状高変形抵抗部を構成してもよい。すなわち、図示は省略するが、例えば板状の部材に対して、レーザ焼き入れ等によって、その一端から他端に亘って所定の波形に焼き入れを施し、その後、その板状の部材を筒状に巻いて、その端部同士を互いに溶接等によって接合する。こうすることで、筋状高変形抵抗部を有する筒状のエネルギ吸収部材を製造することで可能である。
【0041】
(実施形態2)
図11は、実施形態2に係るエネルギ吸収部材20を示している。このエネルギ吸収部材20は、その筋状高変形抵抗部12の配置が、実施形態1のエネルギ吸収部材10とは異なっている。
【0042】
つまり、図12に拡大して示すように、このエネルギ吸収部材20では、隣合う筋状高変形抵抗部12の波形の位相が、互いに1/2ピッチだけずれている。これによって、隣り合う筋状高変形抵抗部12の間において、波形の山と山とが向かい合う方向が、図12に一点鎖線で示すように筒軸に直交する水平方向になると共に、波形の谷と谷とが向かい合う方向が、図12に二点鎖線で示すように水平方向になる。
【0043】
このエネルギ吸収部材20に対して筒軸方向の圧縮荷重が入力されたときには、前記エネルギ吸収部材10と同様に、隣り合う筋状高変形抵抗部12の間において、山同士が相対する箇所は径方向の外方に向かって凸の変形しわが生じ、谷同士が相対する箇所は径方向の内方に向かって凸の変形しわが生じる。このエネルギ吸収部材20では、外向きの凸の変形しわ及び内向きに凸の変形しわが共に水平方向に延びるようになるため、図13に示すように、本体21は、周方向に凹凸変形しつつ(図13の黒矢印参照)、筒軸方向に蛇腹状に安定して潰れ変形するようになる。その結果、エネルギ吸収の重量効率をより一層向上させることができるようになる。
【0044】
尚、図示は省略するが、この実施形態2においても各筋状高変形抵抗部は、前述したように径方向の内方に向かって凸となるように周壁を曲げることによって形成してもよいし、他の部位よりも厚肉の凸部によって形成してもよい。また、焼き入れ処理を施すことによって各筋状高変形抵抗部を形成してもよい。
【0045】
(実施形態3)
図14は、実施形態3に係るエネルギ吸収部材30を示している。このエネルギ吸収部材30は、本体31の横断面形状が矩形状に形成されており、各筋状高変形抵抗部は、各稜線32によって形成されている。
【0046】
つまり、このエネルギ吸収部材30の本体31は、4つの平面部33と、隣り合う平面部同士が接合する4つの稜線32と、を含む横断面矩形状の筒状であり、その各稜線32が、図15に拡大して示すように、筒軸方向に波形に蛇行して形成されている。こうしたエネルギ吸収部材30は、例えば矩形筒状の部材に対し、各稜線32を挟んだ左右両側のそれぞれの部分を、所定の治具を用いて、一方側から他方側に向かって水平方向に押圧すると共に、その押圧方向を筒軸方向に交互となるように変更することによって、稜線32が波形に曲げ変形させることができるため、製造可能である。
【0047】
このエネルギ吸収部材30に対して、筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、図示は省略するが、前記円筒状のエネルギ吸収部材10と同様に、隣り合う筋状高変形抵抗部同士の間、つまり稜線32と稜線32との間である平面部33のそれぞれにおいて個別に、蛇腹状の潰れ変形が生じる。その結果、エネルギ吸収部材30の重量効率を向上させることができる。
【0048】
尚、この構成においても、隣り合う稜線32の間で、波形の位相を同位相にしてもよいし、1/2ピッチだけずらしてもよい。
【0049】
(実施形態4)
図16は、エネルギ吸収部材の荷重−変位特性の一例を示している。エネルギ吸収部材を、前述したように車両のフロントサイドフレーム91等に適用した場合に要求される特性としては、図16に実線で示すように、(1)初期荷重のピーク値(塑性変形を開始するときの荷重の値)が小さいこと、(2)荷重変動(本体が圧縮変形している最中の荷重の変動)が小さいこと、(3)ねらいの平均荷重になること、(4)潰れストロークが長いこと、の概ね4つの特性が挙げられる。この内、(1)(2)は主に、車両の乗員に大きな荷重変動が作用することを抑制するためであり、(3)(4)は主に、車両の緒元等に応じて設定されるエネルギ吸収部材の設計値に関係する。
【0050】
図17は、実施形態4に係るエネルギ吸収部材40を示している。この実施形態4に係るエネルギ吸収部材40は、図16に示す荷重−変位特性において初期荷重のピーク値を小さくすることを主目的としている。
【0051】
つまり、このエネルギ吸収部材40の本体41において、圧縮荷重の入力側の部分(図17では上側の部分)は、各筋状高変形抵抗部(稜線42)の波形のピッチが比較的小さくされると共に、そのピッチが、本体41の上側から下側に向かって次第に大きくなるように設定されている。前述したように、筋状高変形抵抗部の波形のピッチは短いほど、本体41の変形抵抗は低下することから、この本体41は、圧縮荷重の入力側の部分が、その逆側の部分に比べて変形抵抗が低下することになる。従って、エネルギ吸収部材40に対して圧縮荷重が入力したときには、初期荷重のピーク値が低下するようになる。
【0052】
(変形例)
図18は、実施形態4のエネルギ吸収部材についての変形例を示している。このエネルギ吸収部材50は、各筋状高変形抵抗部(稜線52)の波形の高さが筒軸方向に変更されている。つまり、本体51において圧縮荷重の入力側の部分(図18では上側の部分)においては、波形の高さが比較的高く設定されると共に、その波形の高さが、本体51の上側から下側に向かって次第に低くなるように設定されている。筋状高変形抵抗部の波形の高さは高いほど、本体51の変形抵抗は低下することから、この本体51は、圧縮荷重の入力側の部分が、その逆側の部分に比べて変形抵抗が低下することになる。従って、エネルギ吸収部材50に対して圧縮荷重が入力したときには、初期荷重のピーク値が低下するようになる。
【0053】
尚、実施形態4及びその変形例において、エネルギ吸収部材の本体は、図2等に示すような円筒状にしても同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明は、エネルギ吸収部材の重量効率が向上するから、例えば車両のフレーム、特にフロントやリヤのフレームの一部を構成するためのエネルギ吸収部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】エネルギ吸収部材が適用される車両のフロントフレームを示す一部破断の側面図である。
【図2】実施形態1に係るエネルギ吸収部材を示す斜視図である。
【図3】前記エネルギ吸収部材における筋状高変形抵抗部の横断面図である。
【図4】前記エネルギ吸収部材の周壁の拡大説明図である。
【図5】前記エネルギ吸収部材の製造方法の一例を示す説明図である。
【図6】前記エネルギ吸収部材の変形時における筋状高変形抵抗部の近傍の拡大斜視図である。
【図7】前記エネルギ吸収部材が変形した状態を示す斜視図である。
【図8】実施形態1に変形例に係るエネルギ吸収部材における筋状高変形抵抗部の横断面図である。
【図9】前記エネルギ吸収部材の製造方法の一例を示す説明図である。
【図10】実施形態1にさらに別の変形例に係るエネルギ吸収部材における筋状高変形抵抗部の横断面図である。
【図11】実施形態2に係るエネルギ吸収部材を示す斜視図である。
【図12】前記エネルギ吸収部材の周壁の拡大説明図である。
【図13】前記エネルギ吸収部材が変形した状態を示す斜視図である。
【図14】実施形態3に係るエネルギ吸収部材を示す斜視図である。
【図15】前記エネルギ吸収部材の稜線の部分の拡大斜視図である。
【図16】エネルギ吸収部材の荷重−変位特性の一例である。
【図17】実施形態4に係るエネルギ吸収部材を示す斜視図である。
【図18】実施形態4の変形例に係るエネルギ吸収部材を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
10,20,30,40,50 エネルギ吸収部材
11,21,31,41,51 本体
12 筋状高変形抵抗部
32,42,52 稜線
33 平面部
91 フロントサイドフレーム(フロントフレーム)
92 クラッシュカン(フロントフレーム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁を有する筒状の本体と、
前記周壁に対しその周方向に所定の間隔を空けて設けられた、当該周壁を構成する他の部位よりも変形抵抗の高い複数の筋状高変形抵抗部と、を備え、
前記各筋状高変形抵抗部は、前記本体における一端から他端に亘って筒軸方向に波形に蛇行しながら延びており、
前記本体に対して前記筒軸方向の圧縮荷重が入力したときには、前記筋状高変形抵抗部の間の部分それぞれが個別に、蛇腹状に潰れ変形するエネルギ吸収部材。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記筋状高変形抵抗部は、隣り合う筋状高変形抵抗部間で、その波形の位相が半ピッチだけ互いにずれているエネルギ吸収部材。
【請求項3】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体は、その周壁が複数の平面部と当該平面部同士が接合する複数の稜線とを含んで構成された横断面多角形状であり、
前記各稜線は、前記筒軸方向に波形に蛇行して形成され、それによって、前記筋状高変形抵抗部を構成しているエネルギ吸収部材。
【請求項4】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体の荷重−変位特性が所定の特性になるように、前記各筋状高変形抵抗部の波形のピッチ及びその高さの少なくとも一方が、前記筒軸方向に変更されているエネルギ吸収部材。
【請求項5】
請求項4に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体において前記圧縮荷重の入力側の変形抵抗は、その逆側の変形抵抗よりも低く設定されているエネルギ吸収部材。
【請求項6】
請求項5に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各筋状高変形抵抗部の波形のピッチは、前記圧縮荷重の入力側からその逆側に向かって次第に大きくされているエネルギ吸収部材。
【請求項7】
請求項5に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各筋状高変形抵抗部の波形の高さは、前記圧縮荷重の入力側からその逆側に向かって次第に小さくされているエネルギ吸収部材。
【請求項8】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各筋状高変形抵抗部は、前記周壁の表面から凸又は凹となるように当該周壁を周方向に曲げ変形させることによって形成されているエネルギ吸収部材。
【請求項9】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記各筋状高変形抵抗部は、前記周壁に対し局所的に焼き入れ処理を施すことによって形成されているエネルギ吸収部材。
【請求項10】
請求項1に記載のエネルギ吸収部材において、
前記本体は、その筒軸方向が車両前後方向と一致するように配置されてその車両のフロントフレームの一部を構成すると共に、前記車両に入力された衝突荷重を、前記筋状高変形抵抗部の間の部分それぞれが個別に蛇腹状に変形することによって吸収するエネルギ吸収部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−63013(P2009−63013A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229077(P2007−229077)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】