説明

エポキシドを含有するガス流からNOXを分離する方法

エポキシドを含有するガス流から窒素酸化物(NO)を分離する方法を開示する。前記方法は、窒素酸化物(NO)を、気液収着および/または気固収着を用いて分離することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ガス流中のエポキシドと窒素酸化物(NO)とのさらなる反応を防止するための、エポキシドを含有するガス流からNOを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシドは、化学工業の基材であり、大量に生産および加工される。その高い反応性により、エポキシドは多数の製品の製造のための重要な出発物質である。
【0003】
これまで、均一気相反応におけるオレフィンの酸化によりエポキシドを入手することが可能であった。前記方法は、WO 02/20502 A1中において初めて記載されている。ここで、オゾンおよびNO(および/またはNO)のガス流は、触媒を使用しない穏やかな反応条件下での均一気相反応において、オレフィンのエポキシドへの変換を可能にするために、酸化剤として用いられている。均一気相反応におけるオレフィンのエポキシ化のためのこの方法の改善が、DE 10 2007 039 874.5中に記載されている。
前述の方法においては、オゾンおよびNOはエポキシ化工程において用いられ、ここで、生成したエポキシドおよび未変換のオレフィンとともに、排ガス中のNOは変化せずに反応器から出る。
【0004】
NO自体は、比較的強い酸化剤の代表であり、未変換のオレフィンと同様に、生成したエポキシドと反応することができる。DE 10 2007 039 874.5によれば、エポキシ化の反応時間(したがって、最大接触時間)は、好ましくは、1msから250msである。反応温度を考慮すると、反応器自身の中での、NOと生成したエポキシドまたは未変換のオレフィンとの、結果的に生じる反応は無視してよい。
しかしながら、反応器から出た後、破壊的(disruptive)副生成物の生成とともに、NOは未変換のオレフィンと同様に、生成したエポキシドとも反応することが示された。これらの二次的反応はまた、必然的にエポキシドの収率を減少させることにつながる。
【0005】
S. Jaffe, Chem. React. Urban Atmos.; Proc. Symp. 1969, (1971), pg. 103からの動力学的データから、5%未満の損失を保持するためには、NOとエポキシドとの接触時間は、10秒未満である必要がある(エポキシド:エチレンオキシド;圧力:250〜1000mbar;NOのモル画分:2体積%;エポキシドのモル画分:1体積%、室温)。エポキシドが1%未満の損失となるようにするためには、接触時間は、2秒未満にすべきである。我々の研究により、生成したエポキシドについての文献において明らかとなったNOの反応性を確認することができた。
このように、これらの破壊的副生成物を抑制する方法への需要がある。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の根幹をなす目的は、エポキシド含有ガス流から窒素酸化物を、可能な限り最速にほぼ完全に分離する方法を提供することである。
本発明によれば、この目的は、エポキシド含有ガス流からNOを分離する方法により達成され、ここで、NOの分離は、気液収着および/または気固収着により行われる。
本発明の範囲内における用語「収着」は、吸着および吸収の両方として理解すべきである。
【0007】
固形物または液体の表面上での、一般的には二相間の境界面での、物質の蓄積は、吸着と称される。これとは対照的に、固形物または液体内部における物質の蓄積は、吸収と称される。
本発明の範囲内において、「収着」に言及することは、吸着プロセスまたは吸収プロセスまたは一連の両プロセスであると理解すべきである。
【0008】
さらに、本発明の意味において、用語「収着」は、物理的収着プロセスおよび化学的収着プロセスの両方として理解すべきである。化学的収着が化学結合による蓄積によることを特徴とする一方、物理的収着においては、蓄積は物理的相互作用により行われる。
窒素の多酸化段階により、複数種の窒素−酸素化合物が存在する。これらの化合物の総称として、用語NOが作られた。本発明の範囲内において、NOは窒素のあらゆるガス状酸化物であると理解すべきである。
NO/N(NOはNと平衡状態で存在する)を分離するための本発明の方法は、特に好適である。さらに、本発明の範囲内における用語NOに該当すべき窒素酸化物は、特に、化合物N、N、NOおよびNOである。
【0009】
記載の方法は、オゾンおよびNOでオレフィンからエポキシドに酸化するための、冒頭に記載された方法において得られるガス流の調製に、特に好適である。しかしながら、分離プロセスの適用は、決してこの方法において得られるガス流に限定されるものではない。むしろ、本発明の方法は、エポキシド含有ガス流からのNOの分離に一般的に好適である。
【0010】
液相および/または固相上での収着により、エポキシド含有ガス流からのNOのかかる迅速な分離が、所望されない酸化生成物の生成を効率的に抑制することを可能にすることが示された。ここで、分離は、好ましくは、1から100秒の時間内で、好ましくは、数十秒未満の時間内で、特には、10秒未満で行われる。(存在する可能性がある未変換のオレフィンと同様に)エポキシドの反応性に依存して、より長時間またはより短時間を選択できる。
【0011】
存在する可能性がある未変換のオレフィンと同様に、所望されないエポキシドの変換が本発明の方法により起こらないことが、特に有利であると判明した。これは、相応して関連する経済的利点を伴って、得られるエポキシドの純度および収率における著しい増加をもたらす。
好ましくは、分離は、−50から250℃の温度および0.25から10barの圧力において起こる。
【0012】
有利には、本発明の方法を、ガス流を収着ユニット中にある収着材(sorbent material)と接触させるように実施する。エポキシドがガス流中に滞留する一方、一態様において、収着材料は、ガス流からのNOが収着材で充填された収着ユニット中に保持されるように選択される。これにより、ガス流中で、直ちにエポキシドのさらなる処理を可能にする。代替的態様においては、NOおよびエポキシドの両方が、収着により吸着ユニット中に保持される。これは、特に、一方でNO、他方でエポキシドが、収着材の異なる相で、および/または、異なる収着箇所において収着される、選択な化学的収着により実施することができる。次いで、これにより、NOおよびエポキシドの選択的脱着が必要となる。
【0013】
本発明の方法を実施するため、気液収着および気固収着の両方が好適であることが示された。
気液収着を用いる場合において、洗浄液として、1種または2種以上の塩基性化合物、特にアミンを含む液体が用いられる場合に、特に有利であることが判明した。洗浄液中でのアミンの使用により、エポキシド含有ガス流からのNOのほぼ完全な収着が可能であることが示された。
【0014】
第三級アミン、例えばトリアミルアミンなどが、特に好適なアミンであると判明した。
1個または2個以上のアルコール基を有するアミンもまた、用いることができる。ここで、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、および/またはトリエタノールアミンが、特に好適であることが判明した。
洗浄液を、純粋な形態(pure form)で、溶媒で希釈された形態で、または混合形態で用いることができる。エタノール、クロロホルム、およびアセトンが、これらを用いることができる範囲において、特に好適な溶媒であることが判明した。
【0015】
好ましくは、気液収着の場合には、収着ユニットは、洗浄液が充填剤で充填されたカラム中に存在するように構成される。
代替的一態様において、分離は、気固収着経路により起こる。特に、修飾された酸化アルミニウムおよびゼオライト型材料上で高収着率を達成できることが判明した。
【0016】
KF修飾されたAlが、修飾された酸化アルミニウムとして、特に好適であることが判明した。例えば、Fluka No. 60244として入手可能であり、約5.5mmol/gのF負荷(F-loading)を有する、フッ化カリウム修飾された酸化アルミニウムで良好な結果が得られた。
好ましい一態様において、収着材は、例えば、典型元素第2族(MgO、BaOなど)の酸化物またはKOHなどの他の塩基およびそれらの混合物を用いることにより、塩基性中心(basic center)を経由して入手可能となる。
【0017】
塩基性化合物はまた、担体を使用することなく、用いることができる。
さらなる態様において、典型元素第4族または遷移元素第6〜8族の金属でできた金属酸化物が用いられる。特に好ましい金属酸化物は、MnまたはPb酸化物である。金属酸化物を収着材として用いるために、これらは好ましくは、担体で支持された(carrier-supported)収着材として用いられる。
前述のあらゆる収着材は、任意の混合物中で用いることができる。
【0018】
要約すると、本発明の方法により、エポキシド含有ガス流からの、迅速でほぼ完全なNOの分離を可能とすることが確立できる。本発明の方法により、ガス流中で所望されない変換がなされるエポキシドは発見されることなく、NOの分離を達成することが示された。
【0019】
根本的な分離課題を考慮すると、本発明によるこの方法の成功は極めて驚くべきことである。この点において、エポキシドが、複数の反応が起り得る、極めて反応性の高い化合物であることが特に強調されることである。この反応性のみが、多数の合成の可能性への根拠であり、このクラスの化合物の主要な経済的重要性を実証する。種々の反応は、特にH活性化合物(水など)との開環反応、異性化、および累積反応(build-up reaction)を含む。これらは、酸性および塩基性触媒の両方で行われ、ここで、ゼオライトおよびAlは触媒としての役割を果たす(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 6th edition, 1999 Electronic Release参照)。
【0020】
問題の分離課題は、NO(特にNO)と洗浄液(または固体)との相互作用が極めて強固であるため、これはほぼ完全に吸着される。しかしながら、同時に、NOとの均一混合物中に発見されるエポキシドが、その高い反応性にもかかわらず、収着材と(または収着材上で)反応してはならない。相応するNOとの強固な相互作用を確実にするために、洗浄液(または固体)に、大抵適切な極性基または反応中心が提供される。エポキシドの併発反応が起こらずに、これらの極性基または反応中心を介した相互作用がNOの分離に十分であることは極めて驚くべきことである。
【0021】
さらに、NOそのもの(特にNOの形態において)はまた、極めて反応性の高い種の典型である。(エポキシドの迅速な分離を必要とする)気相反応性に加え、この高い反応性はまた、この点において、収着材上でNOとエポキシドとの表面反応の危険が存在するという問題の典型である。前述の副反応が起こることなく、エポキシドからNOをほぼ完全に分離することを確実にすることが本発明の方法により可能となったことは、当業者には極めて驚くべきことである。
【0022】
記載した方法は、特に、前の気相反応から得られるガス流を処理するのに好適である。ここで、吸着ユニットは、反応器の後に直接接続することができ、任意に排ガス冷却用の冷却ステージ中間接続部と接続することができ、反応圧力にて操作できる。しかしながら、本発明の方法はまた、前の反応器の操作圧力と比較して、より高圧またはより低圧にて操作することができる。
【0023】
本発明の方法は、WO 02/20502 A1およびDE 10 2007 039 874.5に記載されるエポキシ化の方法において生じるように、NOおよびエポキシド含有ガス流を処理するために、特に有利な方法で使用できる。かかる反応混合物を処理するための、本発明の方法の使用において、NOの完全な分離が可能であり、未変換のオレフィン同様に、所望されないエポキシドの反応が起こらないことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、液気収着による、酸化プロピレン含有ガス流からのNOの分離における、測定した破過曲線を示す。
【図2】図2は、気固収着による、酸化プロピレン含有ガス流からのNOの分離における、測定した破過曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下において、例を参照してさらに詳細に本発明を説明する。
例1
液気収着による、酸化プロピレン含有ガス流からのNOの分離
【0026】
物質分離は、22℃において、気液収着材(ガラス充填剤(glass packing)で充填された、長さ45cm、内径1.8cmのカラム)中で、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)を用いて行う。ガス流は、1.0標準リットル/分の体積流量である酸素中で、1.27体積%のNOおよび0.85体積%の酸化プロピレンから構成される。ガスの組成を、カラム通気前後においてFT−IR分光法により決定する。図1は、測定した破過曲線を示す;破過/%=カラム通気後/カラム通気前×100%。MDEA中における酸化プロピレンの物理的初期ガス溶解度によると、ほぼ100%の破過が測定され、51分後には98.5%である。GC−MSにより、MDEA中における酸化プロピレンが変化せずに存在することが示され得る。NOについては、破過<0.5%が、全時間帯において測定される。
【0027】
例2
気固収着による、酸化プロピレン含有ガス流からのNOの分離
物質分離は、150℃において、気固収着ユニット(長さ10cm、内径0.7cmの加熱されたチューブ)中で、大量の容積4mlのKF修飾されたAl(Fluka 60244)を用いて行う。ガス流は、0.1標準リットル/分の体積流量である窒素中で、1.6体積%のNOおよび0.8体積%の酸化プロピレンから構成される。ガスの組成を、吸着チューブ通気前後において残留ガスMSにより決定する。排ガスの有機画分の定性分析には、オンラインGC−MSを用いた。図2は、測定した破過曲線を示す;破過/%=カラム通気後/カラム通気前×100%(残留ガスMS分析)。酸化プロピレンについて、97±5%の平均破過が測定される。GC−MSにより、酸化プロピレンの他に、異性化生成物または累積(build-up)生成物は検出されなかった。NOについては、0.8±0.7%の平均破過が測定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液収着および/または気固収着によりNOの分離が行われることを特徴とする、エポキシド含有ガス流からNOを分離する方法。
【請求項2】
分離が、−50から250℃の温度およびの0.25から10barの圧力において行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガス流からのNOが収着ユニット中に保持され、エポキシドがガス流中に滞留することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
NOおよびエポキシドの両方が、収着ユニット中に保持されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
一方でNO、他方でエポキシドが、収着材の異なる相で、および/または、異なる収着箇所において選択的な化学的収着により収着されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
分離が、気液収着により行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1種または2種以上の塩基性化合物、特に1種または2種以上のアミンを含む液体を、気液収着のための洗浄液として用いることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1種または2種以上の第三級アミンを含む液体を、気液収着のための洗浄液として用いることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
洗浄液が、1個または2個以上のアルコール基を有するアミンを含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
洗浄液が、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、および/またはトリエタノールアミンを含むことを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
洗浄液が、N−メチルジエタノールアミンを含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分離が、気固収着により行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
気固収着に用いられる収着材が、修飾された酸化アルミニウムおよび/またはゼオライト型材料を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
気固収着に用いられる収着材が、金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
収着材が、典型元素第2族金属の金属酸化物、特にMgOおよび/またはBaO、遷移元素第6、7、8族金属の金属酸化物、特に酸化マンガン、および/または酸化鉛を含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−524405(P2011−524405A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514019(P2011−514019)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057464
【国際公開番号】WO2009/156305
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(508335624)ツィルム・ベタイリグングスゲゼルシャフト・エムベーハー・ウント・コ・パテンテ・ツヴァイ・カーゲー (4)
【Fターム(参考)】