説明

エポキシド製造法

【課題】オレフィン化合物とペルオキシド化合物の反応によりエポキシドを製造するための簡単な方法を提供する
【解決手段】液状媒体中におけるヒドロペルオキシド化合物によるオレフィン系化合物のエポキシ化によって調製されるエポキシドは、抽出溶媒を用いる液−液抽出により反応媒体から分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシドの製造法、より詳細に述べると希釈剤を含有する液状媒体中におけるオレフィン系化合物及びペルオキシド化合物間の反応時に得られる反応混合物の成分の分離法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に欧州特許出願第A-100,119号において、アルコールを含有する液状媒体中でオレフィン系化合物(すなわち少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する有機化合物)を過酸化水素を用いる反応によって対応するエポキシドへと転換を行うことは公知である。この方法は、例えば下記一般式に従って、各々プロピレン又は塩化アリルから出発する、1,2-エポキシプロパン又は1,2-エポキシ-3-クロロプロパン(エピクロロヒドリン)の合成を可能にしている:
【0003】
【化1】

【0004】
この公知の方法において、エポキシドはアルコール及び水の混合物として系統的に得られる。エポキシ化反応器の出口で得られる反応生成物の混合物は、通常未転換反応体も含み、また、任意に、該反応体に由来するある種の不純物及び様々な反応副生成物も含む。蒸留による反応生成物の混合物のその成分への分離は、この混合物が蒸留される際に、生成されたエポキシドのかなりのフラクションが加水分解及び/又はアルコーリシスにより分解されることが認められるので、重大な欠点がある。更に、他の望ましくない反応も、蒸留時に反応混合物の様々な成分の間で生じ、その結果この方法の生産効率に影響を及ぼし、かつ純度要件を満たすようなエポキシドの製造を困難にする可能性がある。例えばこの公知の方法が、メタノール中における塩化アリルと過酸化水素の反応によるエピクロロヒドリンの合成に適用される場合には、過剰に使用されることが多い塩化アリルとメタノールが、通常の蒸留条件下でかなりの量の3-メトキシ-1-プロペンを生成し、これが過酸化水素と反応して1,2-エポキシ-3-メトキシプロパンを生成することが起こり得る。エピクロロヒドリンと1,2-エポキシ-3-メトキシプロパンはほぼ同じ沸点を有する。結果的に、これらは蒸留により分離することが容易にできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP−A−100119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、オレフィン化合物とペルオキシド化合物の反応によりエポキシドを製造するための簡単な方法であり、これは、反応生成物の混合物の成分の分離工程時にエポキシドのかなりのフラクションを分解することなく、事実上純粋な形状のエポキシドを容易に生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って本発明は、少なくとも部分的に水溶性である有機希釈剤を含有する液状媒体中における、C2又はC3オレフィン系化合物及び無機ペルオキシド化合物間の反応によるエポキシドの製造法であって、該エポキシド、該希釈剤及び水、並びに任意の未転換反応体を含む反応生成物の混合物を収集し、該混合物を、2種の別個の液相、すなわち一方が少なくとも一部の抽出溶媒及び少なくとも10%の量の生成されたエポキシド量を含む抽出物であり、かつ他方が少なくとも一部の希釈剤及び少なくとも一部の水を含むラフィネートであるものを得るために、抽出溶媒と接触するように配置し、かつ、該抽出物及び該ラフィネートを、その後、蒸留により別々に処理することを特徴とする該製造法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前記抽出溶媒は、1種又はそれより多くの化合物を含んでいてもよい。有利には、使用する抽出溶媒は、エポキシドを良好に溶解し、かつその中に希釈剤があまり溶解しないようなものである。その中に水が少ないかもしくは水溶性でないような溶媒が適している。通常水溶性溶媒の非存在下で操作される。塩の非存在下で操作することは利点であり得る。使用される抽出溶媒は、更に出発材料であるオレフィン系化合物を良好に溶解するものであることが好ましい。特に好ましい抽出溶媒は、事実上化学的に安定し、かつ抽出条件下、更にはその後の蒸留工程において反応生成物の混合物の成分とは反応しないものである。反応媒体中に少量、例えば約5重量%で存在することがエポキシ化反応に悪影響を及ぼさないような抽出溶媒で作業することが特に最も好ましい。ある特に有利な例として、出発材料のオレフィン系化合物それ自身を抽出溶媒として利用することが可能である。これは、特にオレフィン系化合物が塩化アリルである場合に効果的であることが証明されている。
【0009】
良好な結果をもたらす抽出溶媒は、比重量が反応生成物の混合物のそれとは少なくとも0.02g/cm異なり、特には少なくとも0.04g/cm異なるようなものである。これらの比重量が少なくとも0.05g/cm異なる場合に、最良の結果が得られる。
【0010】
沸点がエポキシドのものと少なくとも5℃、特には少なくとも10℃異なるような抽出溶媒が通常使用される。これらの沸点が少なくとも15℃異なる場合に、最良の結果が得られる。
【0011】
本発明の方法において抽出溶媒として使用することができる化合物は、炭素原子3〜20個、例えば3〜6個又は10〜20個の炭素原子を含む、脂肪族又は環式の、直鎖状又は分岐状の、任意にハロゲン化された飽和炭化水素である。例として、特にn-デカン、n-トリデカン、1,2,3-トリクロロプロパン及びデカリン(デカヒドロナフタレン)を挙げることができる。N-デカンが適している。
【0012】
この抽出溶媒は、任意にハロゲン化された不飽和炭化水素から選択することもできる。これらは通常3〜20個の炭素原子を含む。例えば塩化アリルを挙げることができる。
【0013】
特に効果的な抽出溶媒は、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、デカリン、o-クロロトルエン、1,2,3-トリクロロプロパン、塩化アリル、ニトロベンゼン及びn-デカン、並びにそれらの混合物から選択された少なくとも1種の化合物を含む。
【0014】
抽出溶媒として使用することができる他の化合物は、任意にアルキル、ハロゲン及び/又は窒素置換基を有し、炭素原子6〜12個を含む芳香族炭化水素である。例えば、o-、m-及びp-キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、o-、m-及びp-ジクロロベンゼン、o-、m-及びp-クロロトルエン並びにニトロベンゼンを挙げることができる。
【0015】
少なくとも2種の異なる溶媒の混合物を使用することは利点であり得る。これらは、例えば、前述の芳香族炭化水素の、前述の脂肪族炭化水素との混合物であってもよい。他の適している混合物は、脂肪族炭化水素の混合物である。例えば、Isopar(登録商標)Hの名称で販売されている、沸点が175〜185℃の範囲であることを特徴とするアルカン混合物を挙げることができる。これらは、芳香族炭化水素の混合物であってもよい。例えばSolvesso(登録商標)150の名称で販売されている、沸点が190〜196℃の範囲であることを特徴とするアルキルベンゼン混合物を挙げることができる。
【0016】
本発明の方法で製造されたエポキシド及び反応生成物の混合物中に存在するエポキシドは、一般に炭素原子2〜20個を有し、かつ少なくとも1個のエポキシド基を有する有機化合物である。
【0017】
【化2】

【0018】
好ましくは、これは炭素原子3〜10個を含む。ハロゲン原子、特に塩素を含むこともできる。本発明の方法で使用することができるオレフィン系化合物は、一般に炭素原子を2〜20個含む。これらは好ましくは2、3個又は5〜20個の炭素原子を含み、より好ましくは2、3個又は5〜10個の炭素原子を含み、例えば2又は3個の炭素原子を含む。本発明の方法で使用することができるオレフィン系化合物の例は、プロピレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロピレン、3-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン及び塩化アリルである。好ましいオレフィン系化合物は、プロピレン及び塩化アリルである。本発明の方法によって分離することができるエポキシドの例は、1,2-エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシ-2-メチルプロパン、3,4-エポキシヘキサン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン及びエピクロロヒドリンである。本発明の方法は特に、エピクロロヒドリンの製造に適している。これは1,2-エポキシプロパンの製造において良好な結果ももたらす。
【0019】
本発明の方法で使用される希釈剤は、少なくとも一部が水溶性であるようないずれかの有機溶媒から選択することができる。アルコールが適当な溶媒である。好ましいアルコールは、炭素原子1〜5個を含み及びわずかに1個のOH基を有する。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール及びペンタノールを挙げることができる。アルコールは通常メタノール又はt-ブタノールである。
【0020】
本発明の方法で使用されるペルオキシド化合物は、過酸化水素及び活性酸素を含みかつエポキシ化を実行することが可能であるようないずれかのペルオキシド化合物から選択することができる。例えば、エチルベンゼン、イソブタン及びイソプロパノールのような有機化合物の酸化によって得られるペルオキシド化合物を挙げることができる。無機のペルオキシド化合物も適している。過酸化水素が好ましい。
【0021】
反応生成物の混合物は、一般にエポキシドを少なくとも1重量%、通常少なくとも5重量%含んでいる。典型的には、これは50重量%を超えない、好ましくは20%を超えないエポキシドを含む。
【0022】
反応生成物の混合物は、一般に希釈剤を少なくとも30重量%、通常少なくとも50重量%含む。典型的には、これは90重量%を超えない、好ましくは75%を超えない希釈剤を含む。
【0023】
典型的には、反応生成物の混合物は、5〜25%の水を含む。
【0024】
反応生成物の混合物中の未転換のオレフィン系化合物の含量は、一般に、5〜20重量%である。
【0025】
使用されるオレフィン系化合物量の使用されるペルオキシド化合物量に対するモル比は、一般に少なくとも0.5であり、特には少なくとも1である。このモル比は、通常10未満又はこれと等しく、特には4である。
【0026】
抽出溶媒及び反応生成物の混合物は、液−液抽出の常法に従って接触するように配置される。有利には、反応生成物の混合物が抽出溶媒と向流接触するように配置される抽出カラムが使用される。
【0027】
抽出溶媒及び反応生成物の混合物が接触するように配置される際の温度は重要ではない。これは0〜80℃の範囲であってもよい。40℃より高い温度が適している。実際には、オレフィン系化合物とペルオキシド化合物の間の反応が進行するような温度で作業されることが有利である。
【0028】
抽出溶媒及び反応生成物の混合物は、一般に、大気圧から圧力30バールの範囲内であってもよい圧力で接触するように配置される。1バールより大きいか又はこれと等しく、20バール未満又はこれと等しい圧力が有利である。
【0029】
抽出溶媒と反応生成物の混合物の重量比は、使用される溶媒、並びに使用される抽出装置によって決まる。実際には、抽出溶媒と反応生成物の混合物の間の重量比は、一般に少なくとも0.1に等しい。好ましくは、1よりも大きいか又はこれと等しい。この比は典型的には5を超えることはない。通常は、これは20を超えない。1〜5の比において良好な結果が得られている。
【0030】
抽出物及びラフィネートの蒸留のための引き続きの工程が、従来通り実施され、かつこの工程により実質的に純粋な形状でエポキシドを容易に収集し、水を除去し、かつ希釈剤及び未転換反応体をエポキシド製造工程へリサイクルし、かつ抽出溶媒を反応生成物の混合物を抽出する工程へリサイクルすることが可能になる。
【0031】
本発明の方法は、アルコール、特にメタノールを含有する液状媒体中における触媒の存在下での塩化アリルと過酸化水素との反応によって得られる混合物から、1,2-エポキシ-3-クロロプロパンを分離する点で非常に利点があることが証明されている。また、触媒の存在下でのプロピレンと過酸化水素の反応によって得られた混合物から1,2-エポキシプロパンを分離するのに適している。これらの反応に適している触媒は、一般に、ゼオライト、すなわち結晶微孔性構造で存在するシリカを含有する固形物を含む。ゼオライトは、有利には、アルミニウムを含まない。これは好ましくはチタンを含む。ゼオライトは、ZSM-5、ZSM-11又はMCM-41型の結晶構造を有し得る。βゼオライトとは異なる結晶構造が好ましい。ZSM-5型ゼオライトが特に適している。およそ950〜960cm-1に赤外線吸収バンドを示すものが好ましい。特に適しているゼオライトは、チタニウムシリカライト(titanium silicalites)である。式xTiO2(1-x)SiO2(式中xは0.0001〜0.5、好ましくは0.001〜0.05である)に相当するものが実施できる。TS-1として公知であり、ZSM-5型結晶構造を示しているこの種の物質は、特に好ましい結果をもたらす。
【実施例】
【0032】
実施例1及び2(本発明による)
メタノール67.3重量%、塩化アリル10.0重量%、エピクロロヒドリン12.0重量%、及び水10.7重量%を含有する反応生成物の混合物を使用した。この混合物の比重量は0.85kg/lであった。
【0033】
この混合物及び抽出溶媒を等しい容量で接触するように配置した。抽出後(室温及び大気圧で行った)、抽出物(抽出溶媒1kg当たりのエピクロロヒドリンg数として示す)及びラフィネート(メタノール1kg当たりのエピクロロヒドリンg数として示す)中のエピクロロヒドリンの濃度を測定した。これらの濃度の比は、分配係数に相当した。
【0034】
実施例1においては、飽和脂肪族炭化水素Isopar(登録商標)H(蒸留範囲175〜185℃及び比重0.76kg/lを有する)の混合物を抽出溶媒として使用した。その分配係数は0.20であった。
【0035】
実施例2においては、デカリンを抽出溶媒として使用した。その分配係数は0.21であった。
【0036】
実施例3から8(本発明による)
使用した容量以外は、実施例1の操作を繰り返した。抽出溶媒の3容量を、反応生成物の混合物1容量と接触するように配置した。様々な抽出溶媒を使用した(表1参照、これは溶媒の比重量及び沸点も示している。)。得られた分配係数を表1に示した。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に水溶性である希釈剤としてアルコールを含有する液状媒体中における、塩化アリル及び無機ペルオキシド化合物間の反応による1,2−エポキシ−3−クロロプロパンの製造方法であって、
1,2−エポキシ−3−クロロプロパン、前記アルコール及び水、並びに、任意の未転換反応体を含む反応生成物の混合物を収集し、
前記混合物を、2種の別個の液相、すなわち、一方が少なくとも一部の抽出溶媒及び少なくとも10%の量の生成された1,2−エポキシ−3−クロロプロパンを含む抽出物であり、かつ、他方が少なくとも一部のアルコール及び少なくとも一部の水を含むラフィネートであるものを得るために、3〜20個、好ましくは3〜6個又は10〜20個の炭素原子を含む、任意にハロゲン化された飽和炭化水素;3〜20個の炭素原子を含む、任意にハロゲン化された不飽和炭化水素;6〜12個の炭素原子を含み、任意にアルキル、ハロゲン及び/又は窒素置換基を有する芳香族炭化水素;並びに、これらの混合物から選択される、エピクロロヒドリンを溶解するのに好適であり、前記アルコールは難溶性である抽出溶媒と接触するように配置し、かつ、前記抽出物及び前記ラフィネートを別々に収集し、そこから1,2−エポキシ−3−クロロプロパンを除去するために該抽出物を蒸留し、また、そこから水を除去するために該ラフィネートを蒸留することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒の比重量が、反応生成物の混合物のそれと少なくとも0.04g/cm異なる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記抽出溶媒の沸点が、エポキシドのそれと少なくとも5℃異なる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記抽出溶媒が、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、デカリン、o-クロロトルエン、m-クロロトルエン、p-クロロトルエン、1,2,3-トリクロロプロパン、塩化アリル、ニトロベンゼン及びn-デカン、並びにそれらの混合物から選択される請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
前記抽出溶媒が、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、デカリン、o-クロロトルエン、1,2,3-トリクロロプロパン、塩化アリル、ニトロベンゼン及びn-デカン、並びにそれらの混合物から選択される請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール及びtert-ブタノールから選択される、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
アルコールがメタノールである、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
反応生成物の混合物が、温度0〜80℃で、液−液抽出カラム中の前記抽出溶媒と向流接触するように配置され、且つ、前記抽出溶媒と反応生成物の混合物の間の重量比が少なくとも0.1と等しく、かつ20を超えない請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
蒸留時に収集された、前記アルコール及び未転換反応体物が1,2−エポキシ−3−クロロプロパン製造工程に戻される請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
ペルオキシド化合物が過酸化水素であり、1,2−エポキシ−3−クロロプロパンがβゼオライト以外のゼオライトを含む触媒の存在下で得られる請求項1〜9のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−159281(P2010−159281A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63944(P2010−63944)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【分割の表示】特願2000−511759(P2000−511759)の分割
【原出願日】平成10年9月10日(1998.9.10)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】