説明

エポキシ化ポリマーの製造方法

【課題】安全に、少量の触媒で短時間に、副反応が十分に低減され高収率で効率的に、工業的に有利に、かつ環境負荷少なくエポキシ化ポリマーを製造する方法を提供する。
【解決手段】過酸化水素を酸化剤とし、(A)VI族金属酸化物の塩、(B)ホスホン酸類化合物及び(C)界面活性剤からなる触媒を用いて、炭素炭素二重結合を含むポリマーを酸化してエポキシ基を導入する工程を有するエポキシ化ポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ化ポリマーの製造方法に関する。さらに詳しくは、炭素炭素2重結合を含むポリマーを酸化してエポキシ基を導入するエポキシ化ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化ポリマーの製造方法として、炭素炭素二重結合を有するポリマーをエポキシ化する方法が有用である。炭素炭素二重結合を有する重合体のエポキシ化方法として、過酸化水素を用いてエポキシ化する方法や過酢酸などの過酸を用いるエポキシ化方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、オレフィン性二重結合を有する重合体と第4級アンモニウム塩を水と非混和性の有機溶媒に溶解してなる溶液(I)に、タングステン酸アンモニウムまたはリンタングステン酸から選ばれるタングステン化合物(A)とリン酸(B)を含む水溶液(II)と、過酸化水素水溶液(III)を添加して、実質的にアルカリ金属イオンの不存在下に反応させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、オレフィン性二重結合を有する重合体とQ2{HPO4[WO(O222}(式中、Qは4級アンモニウム基を表す。)で示されるタングステン二核過酸化錯体を脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素に溶解させてなる溶液に過酸化水素水溶液を添加して反応させる方法が開示されている。
【0005】
更に、非特許文献1には、炭素炭素2重結合を有する重合体の過酸によるエポキシ化反応が記載されている。
【0006】
一方、非特許文献2、3には、タングステン酸ナトリウム(Na2WO4)と硫酸水素メチルトリオクチルアンモニウム([CH3(n−C8173N]HSO4)とアミノメチルホスホン酸(NH2CH2PO32)からなる触媒系と過酸化水素を用い、低分子量のオレフィン化合物をエポキシ化する方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−249516号公報
【特許文献2】特開2002−371113号公報
【非特許文献1】Polymers for Advanced Technologies,Vol.7,p.67−72(1996)
【非特許文献2】佐藤一彦,碓井洋子,「過酸化水素水を用いる環境に優しい酸化反応の開発」,触媒,Vol.46,No.5,2004,p.328−333
【非特許文献3】Ryoji Noyori,Masao Aoki and Kazuhiko Sato,Chem.Commun.,2003,1977−1986
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1,2の方法では、触媒の加える順序や過酸化水素水の滴下速度に制限があり、不活性ガス雰囲気下が望ましい等反応条件が厳密でなければならず、更に、特許文献2の方法では、タングステン二核過酸化錯体の製造が困難であるという問題もあった。
【0009】
さらに、非特許文献1の方法は、反応系中に存在する酢酸、ギ酸などの酸が、生成したエポキシ基の開環反応を発生させやすい。また、工業的に実施する際には、生成ポリマーからこれら有機酸を除去するのが困難なこと、環境に対する負荷が大きいこと、爆発性の高い有機過酸を用いることによる危険性など、困難な問題点があった。
【0010】
また、非特許文献2,3には、低分子量のオレフィン化合物のエポキシ化の開示はあるものの、この反応のポリマーへの適用は開示されていない。低分子量のオレフィン系化合物とポリマー中炭素炭素二重結合では反応性や反応条件等が異なる。非特許文献2,3に示された方法は、有機溶媒を用いることなく低分子量のオレフィン化合物の酸化反応を行うことが基本であり、固体や高粘度液体であるポリマー、ポリマー溶液、エマルジョン等の分散状態のポリマー等への適用は想定されていなかった。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑み、安全に、少量の触媒で短時間に、副反応が十分に低減され高収率で効率的に、工業的に有利に、かつ環境負荷少なくエポキシ化ポリマーを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明のエポキシ化ポリマーの製造方法は、過酸化水素を酸化剤とし、(A)VI族金属酸化物の塩、(B)ホスホン酸類化合物及び(C)界面活性剤からなる触媒を用いて、炭素炭素二重結合を含むポリマーを酸化してエポキシ基を導入する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、少量の触媒で短時間に、高分子鎖のゲル化や分子鎖切断及びジオール化等の副反応も少なく高収率で、効率的に、エポキシ化ポリマーを製造することができる。また、生成物の着色等も抑制され、かつ環境負荷少なく安全にエポキシ化ポリマーを製造することができ、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<炭素炭素二重結合を含むポリマー>
本発明におけるポリマーは、オリゴマーを包含するものである。炭素炭素二重結合を含むポリマーとしては、炭素炭素二重結合を、該ポリマーを構成する全単量体単位に基づいて0.1〜100モル%含有しているものが挙げられる。
【0015】
炭素炭素二重結合を含むポリマーの炭素炭素二重結合は、ジエン系モノマーの重合反応によって形成されたものであることが好ましい。
【0016】
炭素炭素二重結合を含むポリマーの炭素炭素二重結合は、シスまたはトランスのいずれの構造でもよく、また両者が混在していてもよい。炭素炭素二重結合を含むポリマーにおける炭素炭素二重結合の分布にも特に制限はなく、例えば規則的な分布、ブロック状の分布、ランダム状の分布、テーパー状の分布、これらのいくつかが混在している分布などが挙げられる。
【0017】
炭素炭素二重結合を含むポリマーが側鎖を有する場合、炭素炭素二重結合は、該ポリマーの主鎖または側鎖のいずれに含有されていてもよいが、得られるエポキシ化ポリマーの安定性の観点から、炭素炭素二重結合を含むポリマーの全ての炭素炭素二重結合の50モル%以上が主鎖に含有されていることが好ましい。
【0018】
炭素炭素二重結合を含むポリマーの重合方法としては、特に制限はないが、付加重合、縮合重合等何れの形式でもよく、反応の手法としては、ラジカル重合、イオン重合、配位重合、メタセシス重合など、種々の重合方法によって製造されたものであってもよい。イオン重合の手法としては、アニオン重合、カチオン重合等を例示することができる。
【0019】
炭素炭素二重結合を含むポリマーとしては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレンなどのポリジエン;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどのシクロアルケンを開環メタセシス重合して得られるポリアルケン;イソプレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−(イソプレン/ブタジエン)−スチレンブロック共重合体などのポリジエンブロックを含有するブロック共重合体;スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体などのジエンと他の重合性単量体からなるランダム共重合体;スチレン−ブタジエンテーパー共重合体などのジエンと他の重合性単量体からなるテーパー共重合体;これらの部分水素添加物などが挙げられる。また、アクリル酸エステルとジエンの共重合体、例えばエチルアクリレート、ブチルアクリレートとイソプレン、ブタジエンの共重合体も例示することができ、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、クロロプレン系ゴムなども例示することができる。炭素炭素二重結合を含むポリマーは、その分子鎖内または分子末端に、水酸基、アルコキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ハロゲン原子などの官能基をさらに有していてもよく、芳香族ビニル、アクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸及びそのエステル、カルボン酸ビニル、エチレン誘導体等が共重合されていてもよい。
【0020】
炭素炭素二重結合を含むポリマーの分子量に特に制限はないが、通常、数平均分子量(Mn)として1,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。更に好ましくは、3,000〜500,000であり、最も好ましくは、5000〜300,000である。
【0021】
<触媒>
本発明では、(A)VI族金属酸化物の塩、(B)ホスホン酸類化合物及び(C)界面活性剤からなる触媒を使用する。
【0022】
(A)VI族金属酸化物の塩としては、特に制限はないが、タングステン酸塩、モリブデン酸塩を例示することができる。
【0023】
これらの中でもタングステン酸塩が好ましい。また塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましい。より好ましくはタングステン酸ナトリウムである。
【0024】
(A)VI族金属酸化物の塩の使用量は、目標とするエポキシ基導入量に対して、0.01〜20mol%が好ましく、0.1〜10mol%がさらに好ましい。もっとも好ましくは、2〜5mol%である。
【0025】
(B)ホスホン酸類化合物としては、ホスホン酸((HO)2PH(=O)で示される)及びホスホン酸から誘導される化合物であれば特に制限はない。
【0026】
これらの中でもアミノ基を含むホスホン酸化合物が好ましく、より好ましくはアミノアルキルホスホン酸であり、最も好ましくはアミノメチルホスホン酸である。
【0027】
(B)ホスホン酸類化合物の使用量は、目標とするエポキシ基導入量に対して、0.01〜20mol%が好ましく、0.1〜10mol%がさらに好ましい。もっとも好ましくは、0.5〜3mol%である。
【0028】
界面活性剤(C)としては、アニオン系、カチオン系、両性イオン系、ノニオン系界面活性剤何れであってもよく、特に制限はない。
【0029】
アニオン系界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸、リン酸等の塩を挙げることができる。カチオン系界面活性剤としては、アンモニウム塩等をあげることができる。両性イオン性としてはアミンオキシド、アミノ酸、アンモニウムスルホン酸等を例示することができる。ノニオン系界面活性剤としては、エステル系、ポリエチレングリコール系、アミン系等を挙げることができる。
【0030】
界面活性剤(C)の具体例としては、塩化テトラペンチルアンモニウム、塩化テトラヘキシルアンモニウム、塩化テトラヘプチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化テトラペンチルアンモニウム、臭化テトラヘキシルアンモニウム、臭化テトラヘプチルアンモニウム、臭化トリオクチルメチルアンモニウム、ヨウ化テトラペンチルアンモニウム、ヨウ化テトラヘキシルアンモニウム、ヨウ化テトラヘプチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルメチルアンモニウム、硫酸水素テトラヘプチルアンモニム、硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム、硫酸水素トリエチルベンジルアンモニウムなどの4級アンモニウム塩;塩化テトラブチルホスホニウム、塩化テトラペンチルホスホニウム、塩化トリオクチルメチルホスホニウム、塩化ペンチルトリフェニルホスホニウム、塩化ヘプチルトリフェニルホスホニウム、塩化オクチルトリフェニルホスホニウム、臭化テトラブチルホスホニウム、臭化テトラペンチルホスホニウム、臭化トリオクチルメチルホスホニウム、臭化ペンチルトリフェニルホスホニウム、臭化ヘプチルトリフェニルホスホニウム、臭化オクチルトリフェニルホスホニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウム、ヨウ化テトラペンチルホスホニウム、ヨウ化トリオクチルメチルホスホニウム、ヨウ化ペンチルトリフェニルホスホニウム、ヨウ化ヘプチルトリフェニルホスホニウム、ヨウ化オクチルトリフェニルホスホニウムなどの4級ホスホニウム塩などが挙げられる。
【0031】
このうち、4級アンモニウム塩、または4級ホスホニウム塩が好ましい。さらに好ましくは、4級アンモニウムの硫酸水素塩または4級ホスホニウムの硫酸水素塩である。さらに好ましくは、4級アルキルアンモニウム硫酸水素塩または4級アルキルホスホニウム硫酸水素塩である。最も好ましくは、トリオクチルメチルアンモニウム硫酸水素塩、トリオクチルメチルホスホニウム硫酸水素塩である。
【0032】
(C)界面活性剤の使用量は、特に制限はないが、目標とするエポキシ基導入量に対して、0.01〜20mol%が好ましく、0.1〜10mol%がさらに好ましい。もっとも好ましくは、0.5〜3mol%である。分子量が明確でない界面活性剤の場合、炭素炭素二重結合を含むポリマーに対して、質量基準で0.01%〜10%が好ましく、0.1〜5%がさらに好ましい。
【0033】
<過酸化水素>
本発明では、過酸化水素として、市販されている水溶液の形態のものをそのまま、または水で希釈して使用することができる。例えば10〜60質量%の過酸化水素水溶液を工業的に容易に入手することができる。過酸化水素の濃度は特に制限されないが、反応効率および安全性の観点から、通常0.01〜60質量%の範囲であることが好ましく、5〜60質量%がより好ましい。さらにより好ましい濃度は15〜50質量%であり、最も好ましくは30〜40質量%である。
【0034】
また、過酸化水素の使用量は、特に制限はないが、生成物であるエポキシ化ポリマーにおいて、所望されるエポキシ基の導入量、必要な反応速度等に応じて異なり、また反応条件下における過酸化水素の分解等の副反応のレベルにも依存する。炭素炭素二重結合を含むポリマー中に含まれている、エポキシ基に変換しようとする炭素炭素二重結合1モルに対して1〜1,000モル倍の範囲であることが好ましく、1〜100モル倍の範囲であることがより好ましい。1〜50モル倍であることがさらに好ましく、1〜20モル倍であることがさらにより好ましく、1〜5倍モルであることが最も好ましい。上記の量より少ないと反応速度が遅くなる可能性があり、また多すぎると反応速度が過大となったり反応後に大過剰の過酸化水素が残存する可能性がある。
【0035】
<反応条件等>
本発明では、過酸化水素を酸化剤とし、(A)VI族金属酸化物の塩、(B)ホスホン酸類化合物及び(C)界面活性剤からなる触媒を用いて、エポキシ化反応を行う。過酸化水素と、触媒の添加方法は、特に制約はない。
【0036】
本発明の製造方法は、例えば、上記の触媒を、炭素炭素二重結合を含むポリマーに加えた後、激しく攪拌しながら過酸化水素を添加してエポキシ化反応させることによって実施できる。この際、触媒の全てを添加した後に過酸化水素を添加することが望ましい。
【0037】
また、本発明の製造方法は、炭素炭素二重結合を含むポリマーに、触媒と、過酸化水素をそれぞれ同時に添加してエポキシ化反応させることによって実施することもできる。
【0038】
本発明の製造方法は、炭素炭素二重結合を含むポリマーを30℃において1質量%以上溶解するエポキシ化反応不活性溶剤中で行ってもよいし、炭素炭素二重結合を含むポリマーが平均粒子径10μm以下の分散状態で行ってもよい。
【0039】
エポキシ化反応不活性溶媒にとくに制限はないが、酸化・還元反応に対して比較的不活性な非極性または極性溶媒が好ましい。非極性溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及びこれらの混合物を挙げることができ、極性溶媒としては、エーテル、エステル、等を挙げることができる。
【0040】
具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、2,6−ジメチルシクロオクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0041】
これらのうち、炭素数5〜12の炭化水素溶媒がこのましく、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンがさらに好ましい。もっとも好ましくは、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、トルエンである。
【0042】
エポキシ化反応不活性溶媒の使用量は、反応に供する炭素炭素二重結合を含むポリマーの溶媒への溶解度によっても異なるが、通常、炭素炭素二重結合を含むポリマーに対して0.1〜200質量倍の範囲であり、反応性、操作性の観点からは1〜100質量倍の範囲であることが好ましく、1〜20質量倍の範囲であることがより好ましい。
【0043】
反応は、炭素炭素二重結合を含むポリマーが平均粒子径10μ以下の分散状態で行うことができるが、この際の分散媒としては、特に制約はなく、水、有機溶媒を用いることができ、水を用いるのが好ましい。良好な分散状態を得るために、ポリビニルアルコール、アルキルベンゼンスルホン酸塩など、一般的に用いられる乳化剤を添加することができる。
【0044】
本発明の製造方法において、反応中のpHは、2以上7未満の酸性状態であることが好ましく、反応速度、操作性の観点から2〜4の範囲内であることがより好ましい。反応中のpHが低すぎる場合、エポキシ化反応が激しく進行し、コントロールが難しいだけでなく、目的とするエポキシ化重合体の安定性が低下する可能性がある。また、反応中のpHが高すぎる場合、過酸化水素の安定性を損ない、過酸化水素当たりのエポキシ化選択率が著しく低下する可能性がある。
【0045】
本発明の製造方法において、反応圧力は特に制限されないが、溶媒の揮散を防止する観点から、通常80kPa〜1MPaの範囲であることが好ましい。また、本発明の製造方法は、安全性の観点から、窒素、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0046】
また、本発明の製造方法において、反応温度は特に制限されないが、反応速度および安全性の観点から、通常0〜140℃の範囲であり、40〜100℃の範囲であることが好ましく、50〜100℃の範囲であることがより好ましい。反応温度が高いと、過酸化水素の分解反応促進、エポキシ化反応の選択性低下などが発生する可能性がある。反応温度が低いと、反応速度の低下を招き、生産性が低下する可能性がある。
【0047】
反応終了後の反応混合物からのエポキシ化ポリマーの分離は、通常の単離精製操作によって行うことができる。例えば、反応混合物を静置して有機層と水層に分離させ、次いで水層を除去し、得られた有機層を水、亜硫酸水素ナトリウム水溶液、亜硫酸ナトリウム水溶液などを用いて洗浄した後、再沈、加熱下での溶媒除去、減圧下での溶媒除去、水蒸気による溶媒の除去(スチームストリッピング)などの、ポリマーを溶液から単離する際の公知の操作を施すことによって実施できる。
【0048】
触媒の効率的な除去は、水層から分離し、水、亜硫酸水素ナトリウム水溶液、亜硫酸ナトリウム水溶液などを用いて洗浄した後の有機層を、活性炭または塩基性物質と接触させることによって、実施することができる。
【0049】
<エポキシ化ポリマー>
本発明の方法で得られるエポキシ化ポリマーは、エポキシ基の含有量が該ポリマーを構成する全単量体単位に基づいて0.01〜100モル%、好ましくは1〜70モル%、より好ましくは3〜50モル%、最も好ましくは5〜30モル%である。エポキシ基の含有量が少ないと、エポキシ基の反応点としての機能、極性、相溶性等の特性が発揮しにくく、また多すぎると熱安定性、PH安定性等が不足する場合がある。なお、本発明の方法で得られるエポキシ化ポリマーに含有されるエポキシ基の分布に特に制限はなく、例えば、規則的な分布、ブロック状の分布、ランダム状の分布、テーパー状の分布、これらのいくつかが混在している分布などが挙げられる。エポキシ基は、エポキシ化ポリマーの主鎖または側鎖のいずれに含有されていてもよいが、エポキシ化ポリマーの安定性の観点から、エポキシ化ポリマーのすべてのエポキシ基の70モル%以上が主鎖に含有されていることが好ましく、80モル%以上が主鎖に含有されていることがより好ましい。
【0050】
本発明の方法で得られるエポキシ化ポリマーとしては、例えばエポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化ポリイソプレンなどのエポキシ化ポリジエン;シクロヘプテン、シクロオクテンなどのシクロアルケンを開環メタセシス重合して得られるポリアルケンのエポキシ化重合体;イソプレンーブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレンーイソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレンー(イソプレン/ブタジエン)−スチレンブロック上重合体などのポリジエンブロックを含有するブロック共重合体のエポキシ化重合体;スチレンーブタジエンランダム共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体などのジエンと他の重合成単量体からなるランダム共重合体のエポキシ化重合体;スチレン−ブタジエンテーパー共重合体などのジエンと他の重合単量体から得られるテーパー共重合体のエポキシ化重合体;これらの部分水素添加物などのエポキシ化重合体;テレフタル酸などの二塩基酸と2−ブテン−1,4−ジオールなどのジオール類または、テトラヒドロフタル酸などの二塩基酸と1,4−ブタンジオールなどのジオール類から得られる不飽和ポリエステル類のエポキシ化ポリエステル類;テレフタル酸などの二塩基酸と2−ブテン−1,4−ジアミンなどのジアミン類、または、テトラヒドロフタル酸などの二塩基酸と1,4−ブタンジアミンなどのジアミン類から得られる不飽和ポリアミド類のエポキシ化ポリアミド等;アクリル酸エステルとジエンの共重合体、例えばエチルアクリレート、ブチルアクリレートとイソプレン、ブタジエンの共重合体のエポキシ化体、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、クロロプレン系ゴムなどのエポキシ化体も例示することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
<測定法>
以下に示すデータは、下記方法に従って測定した。
【0053】
(1)エポキシ化率
エポキシ化率を、プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)法によって求めた。
装置:JEOL−LA500(分解能500MHz)
溶媒:重水素化クロロホルム
リファレンンス:TMSまたはクロロホルム
温度:20℃
【0054】
なお、定量に必要なシグナル及び参考となるシグナルのシフト位置は以下のようであるが公知の文献等と比較して容易にアサイン、定量することができる。なお、シフト位置は、溶媒、温度の測定条件、ポリマー構造によって移動する場合があるので、その際にはポリマー中に含まれるモノマーユニット組成全体についてアサインを行い、適切な帰属を行う。
【0055】
[定量に用いたシグナル]
(a)2.6〜3.0ppm
エポキシ基(−CH−)。エポキシ基1ユニット当たり2Hを含む。
【0056】
(b)4.8〜5.0ppm
ブタジエン1,2−結合(=CH2)。1,2−結合による1,2ビニル基1ユニットあたり2Hを含む。
【0057】
(c)5.0〜5.6ppm
ブタジエン1,2−結合による1,2−ビニル基(−CH=)およびブタジエン1,4−結合(主鎖中の2重結合)(−CH=)。1,2−結合による1,2−ビニル基1ユニットあたり1Hと、1,4−結合1ユニットあたり2Hを含む
【0058】
(d)6.3〜7.3ppm
スチレン中のベンゼン環H。スチレン1ユニットあたり5Hを含む。なお標準としてクロロホルムを用いた場合、この範囲(7.2ppm)にクロロホルム中のH1つを含む。
【0059】
[定量法]
(i)エポキシ基のモル比
(a)の範囲の積分値を2で割った値がエポキシ基のモル比を示す。
【0060】
(ii)1,2−結合(1,2−ビニル)のモル比
(b)の範囲の積分値を2で割った値がブタジエン成分の1,2−結合(1,2−ビニル)のモル比を示す。
【0061】
(iii3)1,4−結合のモル比
(c)の範囲の積分値から(2)で算出したブタジエン1,2−結合のモル比を減じたのち2で割った値がブタジエン1,4−結合のモル比を示す。
【0062】
(iv)スチレンのモル比
(d)の範囲の積分値からクロロホルム分を減じたのち5で割った値がスチレンのモル比を示す。
【0063】
(i)〜(iv)のモル比のそれぞれを、(i)〜(iv)の合計値で割った後100を乗じた値が、それぞれの成分のモル%である。
【0064】
それぞれの成分のモル%にそれぞれの分子量を乗じ、その合計で割った後100を乗じた値が、それぞれの成分の重量%である。
【0065】
以下、ブタジエン1,2−結合比率とは、ポリマー中のブタジエンについて、1,4−結合と1,2−結合合計に対する1,2−結合のモル比率を表す。
【0066】
以下のブタジエンを用いた実施例において、示された条件においては、ブタジエン1,2−結合は酸化反応に対して不活性であることが確認されたので、エポキシ化率は、ブタジエン1,4−結合のうち、エポキシ基に変換された比率(モル比率)を示す。
【0067】
なお、エポキシ基量は、以下の滴定法(HCl−ジオキサン法)によって別途求めた値と一致した。
【0068】
[滴定法(HCl−ジオキサン法)]
反応後のポリマーを0.1g精秤し、精製ジオキサン100MLに12N−塩酸1MLを混合した溶液で、50MLにメスアップする。1%フェノールフタレインのエタノール溶液を少量加え、0.1N−NaOHで滴定する。
【0069】
(2)分子量
GPCにより分子量を測定した。
装置:東ソーHLC−8220
カラム:昭和電工Shodex GPC KF−400HQ×4本直列接続
温度:40℃
検出:RI(示差屈折率)
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2wt%
検量線:標準ポリスチレン(東ソー製)
【0070】
(3)ガラス転移点
DSC測定によりガラス転移点を求めた。
装置名:DSC6200型(セイコーインストルメンツ社)
測定温度範囲:−120℃〜200℃
昇温速度:10℃/min
【0071】
なお、測定前に以下の条件で熱プレスを行い、サンプルを採取した。
温度:220℃
圧力:300kg、3分
厚み:0.5mm
【0072】
(4)ゴム粒子形状・粒径観察
ゴム粒子の形状及び粒径を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。
装置名:H−7500型(日立)
加速電圧:80KV
【0073】
サンプルは、オスミウム酸染色後、厚み1000オングストロームに切り出した。
【0074】
<炭素炭素二重結合を含むポリマー>
原料となる炭素炭素二重結合を含むポリマーとしては以下に示すものを用いた。
【0075】
(1)サンプルA
スチレン−ブタジエンブロック共重合体(「クリアレン760M」電気化学工業社)
ポリマー中のスチレン/ブタジエン比率=24/76(質量比)
ブタジエン1,2−結合比率=13%
Mw12.1万、Mn9.52万、Mw/Mn1.27
ガラス転移点:−55℃、97℃
【0076】
(2)サンプルB
スチレン−ブタジエンブロック共重合体(「TR2003」JSR社)
ポリマー中のスチレン/ブタジエン比率=40/60(質量比)
ブタジエン1,2−結合比率16%
Mw10.3万、Mn8.77万、Mw/Mn1.18
ガラス転移点:−78℃、102℃
【0077】
(3)サンプルC
ゴム強化スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレート共重合体(平均粒径0.5μmのグラフトゴム粒子(スチレン−ブタジエンゴムにスチレン/メチルメタクリレート共重合体がグラフトした粒子)がスチレン/メチルメタクリレート共重合体に均一に分散したもの)
ポリマー中のスチレン/ブタジエン/メチルメタクリレート比率=59/3/38(質量比)
ブタジエン1,2−結合比率=17%
Mw12.9万、Mn6.25万、Mw/Mn2.06
ガラス転移点:−56℃、86℃
【0078】
(4)サンプルD
ポリスチレン−ポリブタジエンジブロック共重合体
Mw/Mn1.04
ポリスチレンブロック鎖のピークトップ分子量6,200
ポリブタジエンブロック鎖のピークトップ分子量16,300
ブタジエン1,2−結合比率11%
【0079】
尚、サンプルDは以下のようにして合成した。
【0080】
内容積3Lのジャケット、攪拌機付きステンレス製重合槽を、シクロヘキサンで洗浄し、窒素ガス置換後、窒素ガス雰囲気下においてシクロヘキサン1,260g(水分10ppm以下に脱水され、テトラヒドロフラン150ppmを含む)を仕込み、次に水分量5ppm以下に脱水したスチレン62.9gを加えた。内温50℃に昇温後、n−ブチルリチウムの10%シクロヘキサン溶液を13.9ml添加し、最高温度が120℃を超えない範囲で、20分間重合させた(ポリスチレンブロック鎖合成)。
【0081】
さらに内温80℃に昇温後、モレキュラーシーブを通過させて脱水したブタジエンを251.6g添加し、最高温度が120℃を超えない範囲で30分間重合させた(ポリブタジエンブロック鎖の合成)。
【0082】
最後に、活性末端をメタノールにより失活させてから、この溶液をヒンダードフェノール系安定剤を含む大量のメタノール中に少量づつ添加し析出させ、真空乾燥を行った。
【0083】
(5)サンプルE
ポリスチレン−ポリブタジエンジブロック共重合体
Mw/Mn1.04
ポリスチレンブロック鎖のピークトップ分子量4,500
ポリブタジエンブロック鎖のピークトップ分子量16,700
ブタジエン1,2−結合比率27%
【0084】
尚、サンプルEは以下のようにして合成した。
【0085】
内容積3Lのジャケット、攪拌機付きステンレス製重合槽を、シクロヘキサンで洗浄し、窒素ガス置換後、窒素ガス雰囲気下においてシクロヘキサン1,260g(水分10ppm以下に脱水され、テトラヒドロフラン2,000ppmを含む)を仕込み、次に水分量5ppm以下に脱水したスチレン62.9gを加えた。内温50℃に昇温後、n−ブチルリチウムの10%シクロヘキサン溶液を13.9ml添加し、最高温度が120℃を超えない範囲で、20分間重合させた(ポリスチレンブロック鎖合成)。
【0086】
さらに内温80℃に昇温後、モレキュラーシーブを通過させて脱水したブタジエンを251.6g添加し、最高温度が120℃を超えない範囲で30分間重合させた(ポリブタジエンブロック鎖の合成)。
【0087】
最後に、活性末端をメタノールにより失活させてから、この溶液をヒンダードフェノール系安定剤を含む大量のメタノール中に少量づつ添加し析出させ、真空乾燥を行った。
【0088】
(6)サンプルF
エチルアクリレート−ノルマルブチルアクリレート−イソプレン共重合体のエマルジョン
ポリマー中のエチルアクリレート/ノルマルブチルアクリレート/イソプレン比率=70/29/1(質量比)
エマルジョン中の固形分37%
エマルジョン平均粒子径は100nm(光回折法)
pH=2.3
【0089】
尚、サンプルFの合成は以下のようにして、窒素雰囲気下で行った。
【0090】
内容積5Lの攪拌機付きステンレス製反応器に、蒸留水2,400gとアルキルベンゼンスルホン酸96g、酢酸ナトリウム3gを加え、乳化剤液を調整し、イソプレン2.6gを加えた。反応器内にレドックス系ラジカル反応開始剤を添加後、55℃に昇温し、6時間かけてノルマルブチルアクリレート480g、エチルアクリレート1,120g、イソプレン27g、t−ドデシルメルカプタン0.4gの各成分を連続的に添加した。一方、55℃に昇温後、同様に6.5時間かけて、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド42gと乳化剤からなる水溶液を連続的に添加した。
【0091】
反応終了後は、温度を下げ、生成したエマルジョンを取り出した。
【0092】
<(C)界面活性剤>
触媒の一成分である(C)界面活性剤として、硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウムは以下のようにして合成した。
【0093】
磁気撹拌子を備えた1Lなす型フラスコに、塩化メチルトリオクチルアンモニウム4.2g、50%硫酸150mlおよびトルエン200mlを加え、室温で12時間撹拌した後トルエン層を水層から分離し、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、トルエンを留去して白色固体として析出させ、真空乾燥を行った。
【0094】
<実施例1(サンプルA)>
マグネチックスターラー、還流管、および滴下ロートを装着した容量3000mlの三口セパラブルフラスコに、ポリマー(サンプルA)150gおよびトルエン1000mlを加えて溶解させた。
【0095】
一方、200mlナス型フラスコに、(A)タングステン酸ナトリウム1.17g、(B)アミノメチルホスホン酸0.39g、(C)硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム1.65g、および過酸化水素水溶液(30%、96g)を秤量し、内温を60℃まで徐々に昇温させ30分間激しく撹拌して触媒の調製を行った。
【0096】
これを先ほどのポリマー溶液に添加し、70℃で2時間激しく撹拌した。反応液を室温まで冷却して水層と有機層を分液した。有機層を水100gで3度洗浄して水層を取り除いた。一部はメタノール中に滴下し、乾燥させて1H−NMRで解析した。エポキシ化率は9.3%であった。
【0097】
エポキシ化率は、ポリマー主鎖中の炭素炭素二重結合を基準に算出した(1,4−ビニル構造)。なお、以下の全ての実施例とも1,2−ビニル構造は未反応であった。
【0098】
GPC測定の結果、Mw16.9万、Mn8.84万、Mw/Mn1.91であり、ゲル化、分子鎖切断、着色は抑制されていた。また、ガラス転移点は、−47℃、94℃であった。
【0099】
<実施例2(サンプルB)>
マグネチックスターラー、還流管、および滴下ロートを装着した容量3000mlの三口セパラブルフラスコに、ポリマー(サンプルB)100gおよびトルエン2000mlを加えて溶解させた。
【0100】
一方、200mlナス型フラスコに、(A)タングステン酸ナトリウム1.74g、(B)アミノメチルホスホン酸0.585g、(C)硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム2.45g、および過酸化水素水溶液(30%、118g)を秤量し、内温を60℃まで徐々に昇温させ、30分間激しく撹拌して、触媒を調製した。
【0101】
これを先ほどのポリマー溶液に添加し、70℃で2時間激しく撹拌した。反応液を室温まで冷却して水層と有機層を分液した。有機層を水100gで3度洗浄して水層を取り除いた。一部をメタノール中に滴下して固体化させた後、乾燥させて1H−NMRで解析した。エポキシ化率は29%であった。
【0102】
GPC測定の結果、Mw14.2万、Mn6.63万、Mw/Mn2.15であり、ゲル化、分子鎖切断、着色は抑制されていた。また、ガラス転移点は−53℃、100℃であった。
【0103】
<実施例3(サンプルC)>
マグネチックスターラー、還流管、および滴下ロートを装着した容量3000mlの三口セパラブルフラスコに、ポリマー(サンプルC)のペレット100gおよびトルエン2000mlを加えた。ポリマーペレットは完全には溶解せず膨潤した成分が共存したがそのまま酸化反応を行った。
【0104】
一方、200mlナス型フラスコに、(A)タングステン酸ナトリウム3.30g、(B)アミノメチルホスホン酸1.11g、(C)硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム4.66g、および過酸化水素水溶液(30%、123g)を秤量し、内温を60℃まで徐々に昇温させ30分間激しく撹拌して触媒を調製した。
【0105】
これを先ほどのポリマー溶液に添加し、70℃で2時間激しく撹拌した。反応液を室温まで冷却して水層と有機層を分液した。有機層を水100gで3度洗浄して水層を取り除いた。一部はメタノール中に滴下し、乾燥させて1H−NMRで解析した。エポキシ化率は37%であった。
【0106】
GPC測定の結果、Mw12.4万、Mn5.25万、Mw/Mn2.36であり、ゲル化、分子鎖切断、着色は抑制されていた。
【0107】
TEM観察の結果、反応前後でのゴム粒子形状(単胞及びサラミ状が共存)、粒径に大きな変化はなかった。
【0108】
<実施例4(サンプルD)>
ビーカーに、ポリマー(サンプルD)678.9mgおよびトルエン5mlを加えて溶解させた。
【0109】
一方、マグネチックスターラー、還流管を装着した容量30mlナス型フラスコに、(A)タングステン酸ナトリウム16.5mg、(B)アミノメチルホスホン酸5.55mg、(C)硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム23.3mg、および過酸化水素水溶液(30%、1.2g)を秤量し、内温を60℃まで徐々に昇温させ、30分間激しく撹拌して、触媒を調製した。
【0110】
これに先ほどのポリマー溶液を添加し、70℃で2.5時間激しく撹拌した。過酸化物試験紙で過酸化水素の消費を確認し、反応液を室温まで冷却して水層と有機層を分液した。有機層に二酸化マンガンを加えて過酸化水素が完全に消費されたら、無水硫酸ナトリウムで乾燥させて、酢酸エチルを用いてシリカゲルカラムで単離し、1H−NMRで解析した。エポキシ化率は26%であった。
【0111】
<実施例5(サンプルD)>
ビーカーに、ポリマー(サンプルD)678.9mgおよびシクロヘキサン4mlを加えて溶解させた。
【0112】
一方、マグネチックスターラー、還流管を装着した容量50mlナス型フラスコに、(A)タングステン酸ナトリウム16.5mg、(B)アミノメチルホスホン酸5.55mg、(C)硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム23.3mg、および過酸化水素水溶液(30%、1.2g)を秤量し、内温を60℃まで徐々に昇温させ、30分間激しく撹拌して、触媒を調製した。
【0113】
これに先ほどのポリマー溶液を添加し、70℃で1.5時間激しく撹拌した。過酸化物試験紙で過酸化水素の消費を確認し、反応液を室温まで冷却して水層と有機層を分液した。有機層に二酸化マンガンを加えて過酸化水素が完全に消費されたら、無水硫酸ナトリウムで乾燥させて、酢酸エチルを用いてシリカゲルカラムで単離し、1H−NMRで解析した。エポキシ化率は2%であった。
【0114】
<実施例6(サンプルE)>
ビーカーに、ポリマー(サンプルE)3.44gおよびトルエン25mlを加えて溶解させた。
【0115】
一方、マグネチックスターラー、還流管を装着した容量100mlナス型フラスコに、(A)タングステン酸ナトリウム82.4mg、(B)アミノメチルホスホン酸27.8mg、(C)硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム116.4mg、および過酸化水素水溶液(30%、6.0g)を秤量し、内温を60℃まで徐々に昇温させ、30分間激しく撹拌して、触媒を調製した。
【0116】
これに先ほどのポリマー溶液を添加し、70℃で1.5時間激しく撹拌した。過酸化物試験紙で過酸化水素の消費を確認し、反応液を室温まで冷却して水層と有機層を分液した。有機層に二酸化マンガンを加えて過酸化水素が完全に消費されたら、無水硫酸ナトリウムで乾燥させて、酢酸エチルを用いてシリカゲルカラムで単離し、1H−NMRで解析した。エポキシ化率は54%であった。
【0117】
<実施例7(サンプルF)>
ビーカーに、サンプルFを1.65g(うちポリマー0.614g)採取した。
【0118】
一方、マグネチックスターラー、還流管を装着した容量30mlナス型フラスコに、(A)タングステン酸ナトリウム16.5mg、(B)アミノメチルホスホン酸5.55mg、(C)硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム23.3mg、および過酸化水素水溶液(30%、3.3g)を秤量し、内温を60℃まで徐々に昇温させ、30分間激しく撹拌して、触媒を調製した。
【0119】
これに先ほどのエマルジョンを添加し、70℃で2時間激しく撹拌した。過酸化物試験紙で過酸化水素の消費を確認し、反応液を室温まで冷却し、1H−NMRで解析した。エポキシ基に帰属される3.04及び3.21ppmにシグナルが観測され、エポキシ基の生成を確認した。
【0120】
<比較例1>
実施例1において、(A)タングステン酸ナトリウムを添加せずに反応をおこなったところ、2時間ではエポキシ基の生成は殆ど認められなかった。
【0121】
<比較例2>
実施例1において、(B)アミノメチルホスホン酸を添加せずに反応をおこなったところ、2時間ではエポキシ基の生成は殆ど認められなかった。
【0122】
<比較例3>
実施例1において、(C)硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウムを添加せずに反応をおこなったところ、2時間ではエポキシ基の生成は殆ど認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を酸化剤とし、(A)VI族金属酸化物の塩、(B)ホスホン酸類化合物及び(C)界面活性剤からなる触媒を用いて、炭素炭素二重結合を含むポリマーを酸化してエポキシ基を導入する工程を有することを特徴とするエポキシ化ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記(A)VI族金属酸化物の塩が、タングステン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ化ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記(C)界面活性剤が、4級アンモニウム塩または4級ホスホニウム塩であることを特徴とする請求項1または2に記載のエポキシ化ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記4級アンモニウム塩または4級ホスホニウム塩が、4級アンモニウム硫酸水素塩または4級ホスホニウム硫酸水素塩であることを特徴とする請求項3に記載のエポキシ化ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記(B)ホスホン酸類化合物が、アミノ基を含むホスホン酸化合物であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエポキシ化ポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記炭素炭素二重結合を含むポリマーの炭素炭素二重結合が、ジエン系モノマーの重合反応によって形成されたものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のエポキシ化ポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記工程を、炭素炭素二重結合を含むポリマーを30℃において1質量%以上溶解するエポキシ化反応不活性溶剤中で行うことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のエポキシ化ポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記工程を、炭素炭素二重結合を含むポリマーが平均粒子径10μm以下の分散状態で行うことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のエポキシ化ポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記工程を、pHが2以上7未満の酸性状態で行うことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のエポキシ化ポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2008−24731(P2008−24731A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195179(P2006−195179)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】