説明

エポキシ化合物の製造方法

【課題】オレフィン類と過酸化水素との反応による多官能性エポキシモノマーの製造方法の提供。
【解決手段】タングステン化合物並びに式(1):


で表されるリン酸エステル等のリン酸エステルを触媒として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、過酸化水素を酸化剤として用いて二重結合を有する有機化合物(オレフィン)の二重結合を高効率でエポキシ化することができる活性の高い触媒でのエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、安価で腐食性がなく、反応後の副産物は水のみであるために環境負荷が小さく、工業的に利用するには優れた酸化剤である。
【0003】
この過酸化水素をエポキシ化剤(酸化剤)としてオレフィン類からエポキシ化合物を製造する方法としては、従来、(1)塩化第4級アンモニウム、リン酸類、タングステン金属塩の存在下、過酸化水素によりエポキシ化する方法(以下、特許文献1、2を参照のこと)、(2)有機溶媒中、第4級アンモニウム塩のような相間移動触媒とタングステン酸類とα−アミノメチルホスホン酸を触媒に用いてエポキシ化する方法(以下、特許文献3を参照のこと)、(3)トルエン溶媒中、タングステン化合物と過酸化水素とを反応せしめてなるタングステン酸化物、第4級アンモニウム硫酸水素塩及びリン酸類の存在下にエポキシ化する方法(以下、特許文献4を参照のこと)、(4)トルエンのような有機溶媒の存在下に、タングステン化合物、第四級アンモニウム塩、リン酸類及び/ 又はホウ酸類、及び硫酸水素塩を含んでなる多成分系酸化触媒を用いてエポキシ化する方法(以下、特許文献5を参照のこと)、(5)ヘテロポリ酸のセチルピリジニウム塩のような相間移動能とエポキシ化能を両方具備する触媒を用いてクロロホルム溶媒中でエポキシ化する方法(以下、非特許文献1を参照のこと)が知られているが、これらの触媒系は有機溶媒の使用が必須である。また、4級アンモニウム塩を使用することが必須で、有機反応液中に4級アンモニウム塩由来の不純物の混入が避けられず、品質を悪化してしまう上に、4級アンモニウム塩由来の分解物により蒸留精製時にエポキシ基がカチオン重合を引き起こしてしまうという問題点があった。また、有機溶媒を使用せずに反応を実行する反応系も報告されている(以下、特許文献6を参照のこと)が、反応時に有機溶媒は使用しなくて済むものの4級アンモニウム塩については同様な問題を抱えている。
【0004】
タングステン以外の触媒を用いる方法として、(6)無機酸化物担体にメチルトリオキソレニウム(CH3ReO3)と有機強塩基化合物を担持した触媒を用いて、過酸化水素によりエポキシ化する方法(以下、特許文献7を参照のこと)、(7)チタン含有ゼオライト触媒、及び3級アミン、3級アミンオキサイド又はそれらの混合物を含む添加剤の存在下、過酸化水素によりエポキシ化する方法(以下、特許文献8を参照のこと)、(8)フルオロアルキルケトン触媒下、過酸化水素によりエポキシ化する方法 (以下、非特許文献2を参照のこと)などが知られているが、これらの方法は触媒効率が悪く過剰の過酸化水素が必要であること、小さな基質にしか適用できないことなどの制約が多い方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-115455号公報
【特許文献2】特開2003-192679号公報
【特許文献3】特開H8-27136号公報
【特許文献4】特開2004-59573号公報
【特許文献5】特開2005-169363号公報
【特許文献6】特開2006-316034号公報
【特許文献7】特開2001-25665号公報
【特許文献8】特表2002-526483号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Org. Chem.,第53巻15号3587-3593(1988)
【非特許文献2】Chem. Commun., 263-264(1999)
【0007】
従って、温和な条件下、4級アンモニウム塩を使用せずに簡便な操作で安全にオレフィン類から選択的にエポキシ化合物を収率良く、かつ低コストで製造する方法の開発が強く要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、温和な条件下、4級アンモニウム塩を使用せず、二重結合を有する有機化合物(オレフィン)類と過酸化水素水溶液の反応により、触媒活性が高く、過酸化水素効率の良い多官能性エポキシモノマーの新規製造触媒を用いたエポキシ化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究の結果、第4級アンモニウム塩を使用せずに、特定の構造を有するリン酸エステルをタングステン触媒の助触媒に用いることにより、触媒活性が飛躍的に向上し、エポキシ化合物が高効率で選択的に生成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、具体的には、以下の[1]〜[9]である。
[1]過酸化水素を酸化剤として用いて二重結合を有する有機化合物の該二重結合をエポキシ化するエポキシ化合物の製造方法において、タングステン化合物並びに以下の式(1):
【化1】

{式中、R1は、炭素数が4〜22の飽和又は不飽和炭化水素であり、そしてlは、0〜20の整数である。}、及び/又は以下の式(2):
【化2】

{式中、R2、及びR3は、独立に炭素数が4〜22の飽和又は不飽和炭化水素であり、m、及びnは、独立に0〜20の整数を表す。}で表されるリン酸エステル群の少なくとも一種のリン酸エステルを触媒として用いることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【0011】
[2]前記タングステン化合物とリン酸エステルとのモル比が、1:0.1〜1:10である、前記[1]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0012】
[3]助触媒として3級アミンを更に用いる、前記[1]又は[2]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0013】
[4]助触媒として硫酸を更に用いる、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0014】
[5]前記二重結合を有する有機化合物が、シクロヘキセン骨格を有する、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0015】
[6]前記二重結合を有する有機化合物が、以下の式(3):
【化3】

{式中、R4、R5、R6、R7、及びR8は、独立に水素原子又はメチル基であり、R9は、水素原子、メチル基、フェニル基、又は以下の式(4):
【化4】

(式中、R13は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R14は、炭素数が1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基又はシクロアルケニル基であり、そしてxは、0〜5の整数である。)で表されるR12であり、R10は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R11は、炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基又はシクロアルケニル基であり、そしてpは、0〜5の整数である。}及び/又は以下の式(5):
【化5】

{式中、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20は、独立に水素原子又はメチル基であり、R21は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R22は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてyは、0〜5の整数である。}で表される少なくとも一種である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0016】
[7]前記タングステン化合物を、該タングステン化合物に対して0.5〜2モル当量の過酸化水素水溶液に予め溶解して用いる、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0017】
[8]前記タングステン化合物が、タングステン酸ナトリウムである、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0018】
[9]前記二重結合を有する有機化合物が、3-シクロヘキセニルメチル(メタ)アクリレート、及び/又は3-シクロヘキセン-1-カルボン酸アリル、及び/又は3-シクロヘキセン-1-カルボン酸3-シクロヘキセニルメチルである、前記[1]〜[8]のいずれか1に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るエポキシ化合物の製造方法によれば、4級アンモニウム塩を用いる必要が無いので、反応後の触媒成分を含有した水層と反応基質を含んだ有機層との分離が容易であり、レジスト材料(特にソルダ−レジスト材料)の原料として、また農薬・医薬の中間体や可塑剤、接着剤、塗料樹脂といった各種ポリマーの原料として化学工業をはじめ、各種の産業分野で幅広く用いられる有用な物質である多官能性エポキシモノマーを、対応するポリオレフィン類と過酸化水素水の反応から簡便な操作で安全に、収率良く、かつ低コストで製造できる。従って、本発明は工業的に多大な効果をもたらす。また、本製造法は有機溶媒を使用しないため、環境に対する負荷を軽減する効果も有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法において用いられる過酸化水素水溶液の濃度には特に制限はないが、一般的には1〜80%、好ましくは15〜65%の範囲から選ばれる。無論、工業的な生産性の観点からは過酸化水素は高濃度のほうが好ましいが、無用に過剰の過酸化水素を用いない方が良いことは言うまでもない。
【0021】
また、過酸化水素水溶液の使用量についても、特に制限はないが、エポキシ化合物の転化率を上げようとすると、反応系が酸性のためにエポキシ基の加水分解が進行しやすくなる。また、過酸化水素の使用量をあまりに過剰に用いると、反応後の過酸化水素の処理も問題になるので、エポキシ化しようとするオレフィン類に対して、二重結合数を基準として0.2〜5モル当量の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5モル当量の範囲である。
【0022】
触媒として用いるタングステン化合物としては、水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物、例えばタングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム(水和物を含む)、タングステン酸ナトリウム(水和物を含む)等が挙げられるが、タングステン酸、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム二水和物等が好ましい。これらタングステン化合物類は単独で使用しても、2種以上を混合使用してもよい。その使用量は基質のオレフィン類に対して二重結合数を基準として0.0001〜20モル%、好ましくは0.01〜20モル%の範囲である。
【0023】
触媒として用いるリン酸エステルとしては、以下の式(1)及び/又は式(2)で表される化合物を用いることが好ましい。
【化6】

{式中、R1は、炭素数が4〜22の飽和又は不飽和炭化水素であり、そしてlは、0〜20の整数である。}、
【化7】

{式中、R2、及びR3は、独立に炭素数が4〜22の飽和又は不飽和炭化水素であり、そしてm、及びnは、独立に0〜20の整数である。}。
【0024】
触媒として用いるリン酸エステルは、具体的には、モノ(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)ホスフェート、ビス(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)ホスフェートであり、例えば東邦化学工業(株)よりフォスファノールという商品名で製品化されている(以下の表1を参照のこと)。これらは一般には、モノエステルとジエステル及び少量のトリエステルの混合物であるが、無論精製してモノエステルやジエステル単品で使用してもよい。
【0025】
【表1】

【0026】
これらのリン酸エステルの中では特にフェニル基を含んだものが好ましく、このようなものとして、モノフェノキシエチルホスフェート、ビスフェノキシエチルホスフェート、モノ(ジエチレングリコールモノフェニルエーテル)ホスフェート、ビス(ジエチレングリコールモノフェニルエーテルホスフェート)、モノ(トリエチレングリコールフェニルエーテル)ホスフェート、ビス(トリエチレングリコールフェニルエーテル)ホスフェート、モノ(ポリエチレングリコールフェニルエーテル)ホスフェート、ビス(ポリエチレングリコールフェニルエーテル)ホスフェート等が挙げられ、一例として、東邦化学工業(株)よりフォスファノールRP-710の商品名で上市されている。
【0027】
これらのリン酸エステルの使用量としては、もう一方の触媒成分であるタングステン化合物とリン酸エステルとのモル比が、1:0.1〜1:10であることが望ましい。タングステン化合物とリン酸エステルとのモル比が0.1よりも小さいとタングステンと併用する効果が少なくなり、また10よりも大きくなると、酸性度等が高くなりすぎるために生成物のエポキシ化合物が開環してジオールが副生しやすくなり好ましくない。
【0028】
また、この系に3級の有機アミンを更に併用すると活性が高くなりより好ましい。このような3級アミンとしては、トリブチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ-(2-エチルヘキシル)アミン、N,N-ジメチルラウリルアミン、N,N-ジメチルミリスチルアミン、N,N-ジメチルパルミチルアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N.N-ジメチルベヘニルアミン、N,N-ジメチルココアルキルアミン、N,N-ジメチル牛脂アルキルアミン、N,N-ジメチル硬化牛脂アルキルアミン、N,N-ジメチルオレイルアミン、N,N-ジイソプロピル-2-エチルヘキシルアミン、N,N-ジブチル-2-エチルヘキシルアミン、N-メチルジオクチルアミン、N-メチルジデシルアミン、N-メチルジココアルキルアミン、N-メチル硬化牛脂アルキルアミン、N-メチルジオレイルアミンなどが挙げられる。有機アルキル基の炭素数の合計は、基質との溶解性を考えると50以下であることが好ましい。
【0029】
3級有機アミンの使用量は、タングステンに対して0.1〜10モル当量、より好ましくは0.5〜5モル当量の範囲である。
【0030】
また、タングステン化合物は予め溶解しておいたほうが、固体のタングステン化合物を原料として仕込み、過酸化水素の滴下が始まってから溶解させるよりも、活性の再現性を出す上で有利である。特にエポキシ化の活性自体はアルカリ性よりも酸性にしたほうが活性も高く、特に硫酸により酸性にした系が最も活性が高い。ただし、タングステン酸はほとんど水に溶解しないし、タングステン酸ナトリウムも中性までの水への溶解度は良いものの、水に硫酸を加えると溶解し難くなる。
【0031】
そこで、タングステン化合物の溶解不良を避けるために、硫酸の使用量はタングステン化合物に対して0.25〜3モル当量の範囲で用いた上で、予めタングステン化合物に対して0.5〜2モル当量の過酸化水素水溶液を用いて溶解しておくことが望ましい。0.5モル当量よりも少ないと溶解度を向上させる効果が低く、2モル当量よりも多く用いても効果はほぼ同様であり、逆に過酸化水素の異常分解等により酸素発生の危険性が高くなるので好ましくない。
【0032】
また、過酸化水素の濃度は、あまりに低いと反応速度が遅くなり、あまりに高いと使用時の危険性が増大するので、15〜65%の範囲で選ぶことが望ましい。
【0033】
本発明のエポキシ化合物の製造方法においては、反応は、通常、30〜100℃の範囲で、好ましくは40〜80℃の範囲で行われる。
【0034】
エポキシ化を行う基質としては、二重結合を有する化合物の内、特にシクロヘキセン骨格を有するものが望ましく、その中でも以下の式(3):
【化8】

{式中、R4、R5、R6、R7、及びR8は、独立に水素原子又はメチル基であり、R9は、水素原子、メチル基、フェニル基又は以下の式(4):
【化9】

(式中、R13は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R14は、炭素数が1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基又はシクロアルケニル基であり、そしてxは、0〜5の整数である。)で表されるR12であり、R10は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R11は、炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基又はシクロアルケニル基であり、そしてpは、0〜5の整数である。}、又は以下の式(5):
【化10】

{式中、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20は、独立に水素原子又はメチル基であり、R21は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R22は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてyは、0〜5の整数である。}で表される化合物を用いて、無溶媒で反応を行うことが好ましい。
【0035】
前記式(3)で表される化合物としては、より具体的には、例えば、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸メチル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸エチル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸フェニル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸ベンジル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸シクロヘキシル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸アリル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-2’-アリロキシエチル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-2’-メチル-2’-プロペニル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-1’-メチル-2’-プロペニル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-1’-エチル-2’-プロペニル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-1’-フェニル-2’-プロペニル、1-メチル-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸メチル、1-メチル-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸エチル、1-メチル-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸フェニル、1-メチル-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸ベンジル、1-メチル-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸シクロヘキシル、1-メチル-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸アリル、1-メチル-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-2’-アリロシキエチル、3-シクロヘキセン-6-フェニル-1-カルボン酸メチル、3-シクロヘキセン-6-フェニル-1-カルボン酸エチル、3-シクロヘキセン-6-フェニル-1-カルボン酸フェニル、3-シクロヘキセン-6-フェニル-1-カルボン酸ベンジル、3-シクロヘキセン-6-フェニル-1-カルボン酸アリル、3-シクロヘキセン-3-メチル-1-カルボン酸メチル、3-シクロヘキセン-3-メチル-1-カルボン酸エチル、3-シクロヘキセン-3-メチル-1-カルボン酸フェニル、3-シクロヘキセン-3-メチル-1-カルボン酸ベンジル、3-シクロヘキセン-3-メチル-1-カルボン酸アリル、3-シクロヘキセン-4-メチル-1-カルボン酸メチル、3-シクロヘキセン-4-メチル-1-カルボン酸エチル、3-シクロヘキセン-4-メチル-1-カルボン酸フェニル、3-シクロヘキセン-4-メチル-1-カルボン酸ベンジル、3-シクロヘキセン-4-メチル-1-カルボン酸アリル、3-シクロヘキセン-1,6-ジカルボン酸ジメチル、3-シクロヘキセン-1,6-ジカルボン酸ジエチル、3-シクロヘキセン-1,6-ジカルボン酸ジフェニル、3-シクロヘキセン-1,6-ジカルボン酸ジベンジル、3-シクロヘキセン-1,6-ジカルボン酸ジアリル、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸3-シクロヘキセニルメチルなどが挙げられる。
【0036】
また、前記式(5)で表される化合物としては、例えば3-シクロヘキセニルメチル(メタ)アクリレート、2-(3-シクロヘキセニルメトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
これらの中でも、3-シクロヘキセニルメチル(メタ)アクリレート、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸アリル、及び/又は3-シクロヘキセン-1-カルボン酸3-シクロヘキセニルメチルが特に好ましい。
【0038】
これらの化合物は、通常溶媒を用いずに、過酸化水素水溶液と触媒を混合するだけでエポキシ化反応を行うことができるが、溶媒を用いることもできる。
【0039】
また、エポキシ化を行う方法としては工業的に安定に生産を行うことを考えると、触媒と基質を最初に反応器に仕込み、反応温度を極力一定に保ちつつ、過酸化水素については反応で消費されているのを確認しながら、徐々に加えていったほうがよい。このような方法をとれば、反応器内で過酸化水素が異常分解して酸素ガスが発生したとしても、過酸化水素の蓄積量が少なく圧力上昇を最小限にとどめることができる。
【0040】
エポキシ化反応後には、必要により酢酸エチル、トルエン、シクロヘキサンやヘキサンのような有機溶媒を用いて抽出し、有機層をチオ硫酸ナトリウムのような還元剤により処理して、過酸化水素を分解した後、更に溶媒を留去、濃縮後、再結晶や蒸留、昇華等の通常の方法によって目的物を取り出すことができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は該実施例にのみ制限されるものではない。
タングステン触媒溶液の調製例-1
100mlのコニカルビーカー中で、タングステン酸ナトリウム2水和物20.0g(60.6mmol)、50%硫酸水溶液5.95g(30.3mmol)、純水34g、35%過酸化水素水溶液5.90g(60.7mmol)を、マグネチックスターラーにより、室温で攪拌し、溶解した。
【0042】
実施例1
滴下ロート、ジムロート冷却管を備えた300mLの三ツ口フラスコに、調製例-1のタングステン触媒溶液2.61g(Wとして、2.41mmol、硫酸として1.20mmol)、フォスファノールRP-710(東邦化学工業(株)製)1.41g(2.41mmol)、3-シクロヘキセンカルボン酸アリル40g(0.241mol)を入れ、反応液を90℃に調節し、撹拌しながら35%過酸化水素水溶液21.0g(0.217mol)を反応温度が95℃を越えないように気をつけならが、0.5時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間、攪拌を継続し、反応液を室温まで冷却した。反応液に酢酸エチル40gを添加すると、上層として有機層に、下層として水層に分かれた。上層の有機層を分析すると3-シクロヘキセンカルボン酸アリルの転化率は38%、3,4-エポキシシクロヘキサンカルボン酸アリルへの選択率は89%であった。なお、転化率、選択率はガスフロにより分析した結果を元に、以下の計算式により計算した。
転化率(%)=(1−残存した原料のモル数/使用した原料のモル数)×100
選択率(%)={(目的化合物のモル数/使用した原料のモル数)×10,000}/転化率(%)
【0043】
実施例2−12、比較例1、2
表2、3に基質及び/又は触媒組成、反応温度を変えて実施例1と同様に反応を行った実施例2−12、比較例1、2の結果を実施例1の結果と共に示した。反応温度が70℃の場合は、反応液を70℃に調節し、撹拌しながら35%過酸化水素水溶液を反応温度が75℃を超えない滴下した。タングステン化合物は実施例1と同様タングステン酸ナトリウム2水和物を同量使用した。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
脂環内の二重結合と通常の脂肪族の二重結合を有する基質(3-シクロヘキセンカルボン酸アリル、3-シクロヘキセニルメチルメタクリレート)を用いるとシクロヘキセン骨格(脂環)内の二重結合が優先的にエポキシ化される。シクロヘキセン骨格を2つ有する基質(3-シクロヘキセン-1-カルボン酸3-シクロヘキセニルメチル)を用いた実施例12における収率は、2つの二重結合の少なくとも一方がエポキシ化された(いずれか一方がエポキシ化されたものと両方がエポキシ化されたものの総和)割合を意味している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を酸化剤として用いて二重結合を有する有機化合物の該二重結合をエポキシ化するエポキシ化合物の製造方法において、タングステン化合物並びに以下の式(1):
【化1】

{式中、R1は、炭素数が4〜22の飽和又は不飽和炭化水素であり、そしてlは、0〜20の整数である。}、及び/又は以下の式(2):
【化2】

{式中、R2、及びR3は、独立に炭素数が4〜22の飽和又は不飽和炭化水素であり、m、及びnは、独立に0〜20の整数である。}で表されるリン酸エステル群の少なくとも一種のリン酸エステルを触媒として用いることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
前記タングステン化合物とリン酸エステルとのモル比が、1:0.1〜1:10である、請求項1に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
助触媒として3級アミンを更に用いる、請求項1又は2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
助触媒として硫酸を更に用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記二重結合を有する有機化合物が、シクロヘキセン骨格を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項6】
前記二重結合を有する有機化合物が、以下の式(3):
【化3】

{式中、R4、R5、R6、R7、及びR8は、独立に水素原子又はメチル基であり、R9は、水素原子、メチル基、フェニル基、又は以下の式(4):
【化4】

(式中、R13は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R14は、炭素数が1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基又はシクロアルケニル基であり、そしてxは、0〜5の整数である。)で表されるR12であり、R10は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R11は、炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基又はシクロアルケニル基であり、そしてpは、0〜5の整数である。}及び/又は以下の式(5):
【化5】

{式中、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20は、独立に水素原子又はメチル基であり、R21は、炭素数2〜8のアルキレン又はシクロアルキレン基であり、R22は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてyは、0〜5の整数である。}で表される少なくとも一種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項7】
前記タングステン化合物を、該タングステン化合物に対して0.5〜2モル当量の過酸化水素水溶液に予め溶解して用いる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項8】
前記タングステン化合物が、タングステン酸ナトリウムである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項9】
前記二重結合を有する有機化合物が、3-シクロヘキセニルメチル(メタ)アクリレート、及び/又は3-シクロヘキセン-1-カルボン酸アリル、及び/又は3-シクロヘキセン-1-カルボン酸3-シクロヘキセニルメチルである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−168330(P2010−168330A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14350(P2009−14350)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度戦略的技術開発委託費(グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発<革新的酸化プロセス基盤技術開発>に係るもの)に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】