説明

エポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法

【課題】十分に高度な水準の自発的吸水性能を有する多孔質構造のエポキシ樹脂硬化物を製造することが可能なエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂(成分A)と、アミン系硬化剤(成分B)と、前記成分A及びBに対して不活性な溶媒(成分C)とを含有する混合液を30〜55℃の温度条件で6時間以上加熱して硬化物を得た後、前記硬化物から前記成分Cを除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得ることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から分離精製媒体やカラムクロマトグラフィーなどに利用可能な多孔性の架橋ポリマー樹脂が研究されてきており、エポキシ樹脂の硬化物からなる多孔体もその一つとして注目されてきている。このようなエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法としては、例えば、特開2008−13625号公報(特許文献1)や国際公開第2006/073173号(特許文献2)において、エポキシ樹脂と硬化剤とこれらに対して不活性な溶媒とを含有する混合物を加熱して硬化物を得た後に、前記硬化物から前記溶媒を除去することによりエポキシ樹脂硬化物多孔体を得る方法が開示されている。より具体的には、上記特許文献1においては、前記混合物を加熱する温度に関して、所定の混合物の系では40〜80℃であることが好ましいことが記載されており、実際に、実施例の欄において、前記混合物を60℃で約1時間加熱した後に100℃で1時間加熱し、得られた硬化物から前記溶媒を除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得る方法が記載されている。また、上記特許文献2においては、実施例の欄に、前記混合液を120℃又は160℃の温度で10時間加熱して硬化物を得た後に、前記硬化物から前記溶媒を除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得る方法が記載されている。しかしながら、このような特許文献1〜2に記載のような従来のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法を利用した場合においては、得られるエポキシ樹脂硬化物多孔体の自発的吸水性能は必ずしも十分なものとはならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−13625号公報
【特許文献2】国際公開第2006/073173号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分に高度な水準の自発的吸水性能を有する多孔質構造のエポキシ樹脂硬化物を製造することが可能なエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、エポキシ樹脂(成分A)と、アミン系硬化剤(成分B)と、前記成分A及びBに対して不活性な溶媒(成分C)とを含有する混合液を30〜55℃という低温の温度条件で長時間(6時間以上)加熱し、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤とを反応させて硬化物を得た後、かかる硬化物から前記溶媒(成分C)を除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得ることにより、十分に高度な水準の自発的吸水性能を有するエポキシ樹脂硬化物多孔体を製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法は、エポキシ樹脂(成分A)と、アミン系硬化剤(成分B)と、前記成分A及びBに対して不活性な溶媒(成分C)とを含有する混合液を30〜55℃の温度条件で6時間以上加熱して硬化物を得た後、前記硬化物から前記成分Cを除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得ることを特徴とする方法である。
【0007】
上記本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法においては、前記混合液が、下記条件(i)及び(ii):
(i)前記成分A〜Cの総量に対する前記成分A及びBの合計量の質量比([成分A及びBの合計量]/[成分A〜Cの総量])が27.0〜29.0質量%であること、
(ii)前記成分A〜Cの総量に対する前記成分Bの量の質量比([成分Bの量]/[成分A〜Cの総量])が8.5〜9.5質量%であること、
を満たすことが好ましい。
【0008】
また、上記本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法においては、前記混合液の加熱時間(前述の30〜55℃の温度条件で加熱する時間)は15〜36時間であることが好ましい。
【0009】
さらに、上記本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法においては、前記硬化物から前記成分Cを除去する工程が、前記硬化物を95〜100℃の水中に10〜120分間浸漬する工程を含むことが好ましい。
【0010】
また、上記本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法においては、前記成分Aがエポキシ当量が100〜600g/eqのエポキシ樹脂であり、且つ、前記成分Bがアミン価が400〜700mgKOH/gのポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0011】
さらに、上記本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法においては、前記成分Cは水酸基価が50mgKOH/g以上のポリアルキレングリコール及びその誘導体の中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分に高度な水準の自発的吸水性能を有する多孔質構造のエポキシ樹脂硬化物を製造することが可能なエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例4で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例5で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例1で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例2で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】比較例3で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例4で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例5で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例1〜5及び比較例1〜6で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の自発的吸水量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法は、エポキシ樹脂(成分A)と、アミン系硬化剤(成分B)と、前記成分A及びBに対して不活性な溶媒(成分C)とを含有する混合液を30〜55℃の温度条件で6時間以上加熱して硬化物を得た後、前記硬化物から前記成分Cを除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得ることを特徴とする方法である。
【0016】
先ず、本発明に用いる混合液について説明する。本発明にかかる混合液は、エポキシ樹脂(成分A)と、アミン系硬化剤(成分B)と、前記成分A及びBに対して不活性な溶媒(成分C)とを含有するものである。
【0017】
このようなエポキシ樹脂(成分A)としては特に制限されず、エポキシ樹脂硬化物からなる多孔体を製造するために用いることが可能な公知のエポキシ樹脂を適宜用いることができる。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂が挙げられる。このようなエポキシ樹脂は1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
また、このような芳香族エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、トリアジン環含有エポキシ樹脂等が挙げられる。このような芳香族エポキシ樹脂の中でも、より自発的吸水性能の高い多孔体を製造することが可能となるという観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートが好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0019】
また、前記脂肪族エポキシ樹脂、前記脂環式エポキシ樹脂及び前記複素環式エポキシ樹脂としては、例えば、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂が挙げられる。このような脂肪族エポキシ樹脂、前記脂環式エポキシ樹脂及び前記複素環式エポキシ樹脂の中でも、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0020】
また、このようなエポキシ樹脂としては、エポキシ当量が100〜600g/eq(より好ましくは100〜300g/eq)であることが好ましい。このようなエポキシ当量が前記下限未満では、後述するアミン系硬化剤と組み合わせた際に反応を十分に進行させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、後述するアミン系硬化剤と組み合わせた際に反応が早く進行してしまい、得られるエポキシ樹脂硬化物において十分に細孔構造を形成させることが困難となり、得られる多孔体の自発的吸水性能が低下する傾向にある。なお、このようなエポキシ当量は、例えば、JIS K7236(2001年)に記載されているエポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方に準拠して、過塩素酸酢酸標準液を用いた電位差滴定により求めることができる。
【0021】
また、このようなエポキシ樹脂としては、市販のもの(例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名「エピコート828」等)を用いてもよい。
【0022】
前記アミン系硬化剤(成分B)としては特に制限されず、エポキシ樹脂硬化物からなる多孔体を製造するために用いることが可能な公知のアミン系硬化剤を適宜用いることができる。このようなアミン系硬化剤としては、例えば、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン;ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、N−アミノエチルピペラジン等の脂環式アミン;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、m−キシリレンジアミン等の芳香族系アミン;ポリアミン化合物(アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミン等)とジカルボン酸(ダイマー酸等)とを縮合させて得られるポリアミド樹脂;複素環状アミン等が挙げられる。このようなアミン系硬化剤は1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
このようなアミン系硬化剤としては、低温でより十分に反応が進行するという観点から、ポリアミド樹脂(ポリアミドアミン化合物)がより好ましい。
【0024】
また、このようなアミン系硬化剤としては、アミン価が400〜700mgKOH/g(更に好ましくは500〜600mgKOH/g)のポリアミド樹脂がより好ましい。このようなアミン価が前記下限未満では反応が進行し難くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると架橋反応が早すぎて、多孔質構造の硬化物を得ることが困難となる傾向にある。なお、このようなアミン価は、ポリアミド樹脂1gを滴定する際に要する塩酸に当量の水酸化カリウムの数量(mg)を示すものである。
【0025】
また、このようなアミン系硬化剤としては市販のもの(例えば、富士化成工業株式会社製の商品名「トーマイド245−S」等)を用いてもよい。
【0026】
また、前記混合液に含有させる前記溶媒(成分C)は、前記エポキシ樹脂(成分A)及び前記アミン系硬化剤(成分B)に対して不活性な溶媒である。このような溶媒は、前記エポキシ樹脂及び前記アミン系硬化剤に対して不活性であるため、前記混合液を加熱重合する際に反応誘起相分離(スピノーダル相分離)を生ぜしめることが可能で、前記混合液を加熱重合することによりエポキシ系のポリマーとの間に共連続構造体(スポンジ状の構造)を形成することが可能なもの(いわゆる「ポロゲン(細孔形成剤)」として利用できるもの)である。すなわち、このような溶媒は、重合のある段階で多孔性のポリマーを形成させる重合反応中に存在させ、所定の段階でこれを反応混合物中から除去することによって、多孔質構造(より好ましくは三次元網目構造又は粒子凝集転移構造、特に好ましくは三次元網目構造)のエポキシ樹脂硬化物を得ることを可能とするものである。
【0027】
このような溶媒(成分C)としては、前記エポキシ樹脂及び前記アミン系硬化剤を溶解できるものであることがより好ましい。このような溶媒としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。このような溶媒は1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
また、このような溶媒としては、水酸基価が50mgKOH/g以上(より好ましくは100〜1000mgKOH/g)のポリアルキレングリコール及びその誘導体の中から選択される少なくとも1種が好ましい。このような水酸基価が前記下限未満では、溶媒の粘度が高くなり、得られるエポキシ硬化物多孔体の細孔径を自発的吸水機能を十分に発揮させるために好適な大きさとすることが困難となったり、エポキシ樹脂硬化物多孔体の親水性が低下する傾向にある。
【0029】
また、本発明にかかる混合液においては、前記エポキシ樹脂(成分A)とアミン系硬化剤(成分B)と前記不活性な溶媒(成分C)との総量に対する前記エポキシ樹脂(成分A)及びアミン系硬化剤(成分B)の合計量の質量比([成分A及びBの合計量]/[成分A〜Cの総量])が27.0〜29.0質量%(より好ましくは27.5〜28.5質量%)であるという条件(条件(i))を満たすことが好ましい。このような成分A及びBの合計量に関する前記質量比が前記下限未満となると、得られるエポキシ樹脂硬化物多孔体の構造が、直径が1.0〜20.0μm程度の粒子状の硬化物が凝集した構造(粒子凝集構造)となって、得られる硬化物の機械的強度が低下する傾向にある。また、成分A及びBの合計量に関する前記質量比が前記上限を超えると、得られるエポキシ硬化物多孔体の構造が、十分な吸水性能が得られない無細孔構造又は骨格密構造となって、十分に高度な自発的吸水機能を有するエポキシ硬化物多孔体を得ることができなくなる傾向にある。なお、ここにいう「無細孔構造」とは、平均細孔直径が0.1μm未満であって、可視的に細孔が確認できない構造をいい、「骨格密構造」とは平均細孔直径が0.1μm以上0.5μm未満であって微細な三次元網目構造をいう。
【0030】
また、本発明にかかる前記混合液においては、前記エポキシ樹脂(成分A)とアミン系硬化剤(成分B)と不活性な溶媒(成分C)との総量に対する前記アミン系硬化剤(成分B)の量の質量比([成分Bの量]/[成分A〜Cの総量])が8.5〜9.5質量%(より好ましくは8.7〜9.3質量%)であるという条件(条件(ii))を満たすことが好ましい。このような成分Bの量に関する前記質量比が前記下限未満では得られるエポキシ樹脂硬化物の構造が粒子状の硬化物が凝集した構造(粒子凝集構造)或いはゲル状となって、得られる硬化物の機械的強度が低下する傾向にある。このような成分Bの量に関する前記質量比が前記上限を超えると、得られるエポキシ硬化物の構造が、十分な吸水性能が得られない無細孔構造又は骨格密構造となって、十分に高度な自発的吸水機能を有するエポキシ硬化物を得ることができなくなる傾向にある。
【0031】
また、本発明にかかる混合液においては、上記条件(i)及び上記条件(ii)の双方を満たすことがより好ましい。このように、上記条件(i)及び上記条件(ii)の双方を満たす場合には、得られるエポキシ樹脂硬化物多孔体が、十分に高度な自発的吸水機能と優れた機械的強度とをバランスよく発揮できるものとなり、より実用性の高いものとなる傾向にある。なお、ここにいう「三次元網目構造」とは、非粒子凝集型の構造であり且つ柱状のエポキシ樹脂硬化物が三次元に分岐した構造(いわゆる共連続構造)であり、平均細孔直径が0.5〜10.0μmの細孔を有するものをいう。また、「粒子凝集転移構造」とは粒子状固体が連続的につながり、三次元網目構造を形成した構造を指し、三次元網目構造と粒子凝集構造の中間的な構造をいう。
【0032】
さらに、このような成分A〜Cを含有する混合液においては、本発明の効果を損なわない範囲において硬化促進剤を更に添加してもよい。このような硬化促進剤としては、公知のものを適宜使用することができ、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の三級アミン、2−フェノール−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェノール−4、5−ジヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類等を用いてもよい。
【0033】
また、このような混合液の調製方法としては特に制限されず、10〜30℃程度の温度条件下(好ましくは室温(25℃程度))において、前記エポキシ樹脂(成分A)、前記アミン系硬化剤(成分B)及び前記溶媒(成分C)を混合する方法を採用してもよく、10〜30℃程度の温度条件下において、前記エポキシ樹脂(成分A)及び前記アミン系硬化剤(成分B)の混合物を前記溶媒中に添加して混合する方法を採用してもよい。このようにして、成分A〜Cを混合する方法は特に制限されず、成分A〜Cを容器に入れて十分に撹拌する方法、成分A〜Cを含有する混合物に対して超音波を印加する方法等、公知の方法を適宜採用することができる。
【0034】
次に、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法において採用する「前記混合液を30〜55℃の温度条件で6時間以上加熱して硬化物を得た後に、前記硬化物から前記成分Cを除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得る工程」について説明する。
【0035】
本発明においては、先ず、前記混合液を30〜55℃の温度条件で6時間以上加熱して硬化物を得る。このように、本発明において、前記混合液を加熱する際の加熱温度(成分Aと成分Bの反応温度)は30〜55℃(より好ましくは35〜55℃、さらに好ましくは45〜50℃)と低温である。このような加熱温度が前記下限未満では、構造がゲル状等になって、十分な物理的強度や高度な自発的吸水性能を有する硬化物を得ることができなくなる。他方、前記加熱温度が前記上限を超えると、得られるエポキシ硬化物の構造が無細孔構造又は骨格密構造となって、自発的吸水性能が十分に高い多孔体を得ることができない。
【0036】
また、前記混合液を30〜55℃の温度条件で加熱する際の加熱時間は6時間以上(より好ましくは15〜36時間、更に好ましくは15〜27時間)である。このような加熱時間が前記下限未満では重合反応が完結しない。他方、前記加熱時間が前記上限を超えると分解反応が進行してしまう傾向にある。
【0037】
なお、本発明によって、十分に高度な水準の自発的吸水性能を有する多孔質構造のエポキシ樹脂硬化物を製造することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明においては、上述のように、エポキシ樹脂(成分A)とアミン系硬化剤(成分B)とを反応させる際に前記混合液を低温で長時間加熱(30〜55℃の温度条件で6時間以上加熱)するため、重合反応と構造凍結をゆっくりと進行させることが可能となり、これにより溶媒(成分C)との親和性が向上して水との親和性が向上し、自発的吸水機能が十分に高い多孔体を得ることができるものと本発明者らは推察する。
【0038】
また、本発明においては、前記硬化物を得た後に、前記硬化物から前記溶媒(成分C)を除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得る。
【0039】
このような硬化物から前記溶媒(成分C)を除去する工程は、前記硬化物から前記溶媒を除去することが可能な工程であればよく、特に制限されず、例えば、前記混合液中から前記硬化物を取り出し、これを水中に浸漬して溶媒(成分C)を除去する方法、前記混合液中から前記硬化物を取り出し、これを前記溶媒を溶解することが可能な有機溶剤中に浸漬して溶媒(成分C)を除去する方法、前記硬化物を前記混合液中から取り出し、これを前記溶媒を溶解することが可能な有機溶剤中に浸漬した後に、水中に浸漬して洗浄して溶媒(成分C)を除去する方法、前記硬化物を前記混合液中から取り出し、これを水中に浸漬した後に、前記溶媒を溶解することが可能な有機溶剤中に浸漬して洗浄して溶媒(成分C)を除去する方法等、前記溶媒を除去することが可能な方法を適宜採用することができる。
【0040】
また、このような硬化物から前記溶媒(成分C)を除去する工程においては、前記硬化物を95〜100℃(より好ましくは100℃)の水中に10〜120分間(より好ましくは30〜60分間)浸漬する工程(以下、場合により「熱湯処理工程」という。)を含むことが好ましい。このような熱湯処理工程を施すことにより、未反応成分を完全に反応させ、構造を凍結することが可能となる。また、このような熱湯処理工程の際の水の温度や浸漬時間が前記下限未満では未反応成分の反応が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると分解反応が進行する傾向にある。
【0041】
また、このような硬化物から前記溶媒(成分C)を除去する工程は、40℃〜90℃(より好ましくは50〜60℃)の水中に1〜24時間(より好ましくは18〜20時間)浸漬する水中洗浄工程を含むことが好ましい。このような水中洗浄工程における水の温度や浸漬時間が前記下限未満では溶媒を十分に除去することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると分解反応が進行する傾向にある。なお、前記硬化物から前記溶媒(成分C)を除去する工程に水中洗浄工程を含む場合、予め前記熱湯処理工程を実施した後に、前記水中洗浄工程を実施することがより好ましい。
【0042】
さらに、このような硬化物から前記溶媒(成分C)を除去する工程は、前記硬化物を前記溶媒(成分C)を溶解することが可能な有機溶剤中に浸漬する有機溶剤洗浄工程を含むことが好ましい。このようにして成分Cを溶解することが可能な有機溶剤中に前記硬化物を浸漬することにより、効率よく溶媒を除去することが可能となる。このような有機溶剤としては、前記成分Cを溶解することが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。また、このような有機溶剤洗浄工程においては、より十分に溶媒を除去するという観点から、前記硬化物を有機溶剤中に浸漬した後に超音波を印加してもよい。このようにして超音波を印加して洗浄することで、より効率よく前記溶媒(成分C)を除去することが可能となる。なお、前記硬化物から前記溶媒(成分C)を除去する工程に有機溶剤洗浄工程を含む場合、予め前記熱湯処理工程を実施した後に、かかる有機溶剤洗浄工程を実施することがより好ましい。
【0043】
また、このような硬化物から前記溶媒(成分C)を除去する工程においては、より十分に成分Cを除去するという観点から、前記熱湯処理工程、前記水中洗浄工程及び有機溶剤洗浄工程を全て実施することが好ましく、これらの工程を、前記熱湯処理工程、前記水中洗浄工程、有機溶剤洗浄工程の順に実施することが更に好ましい。
【0044】
本発明においては、上述のようにして、前記混合液を30〜55℃の温度条件で6時間以上加熱して硬化物を得た後に、前記硬化物から前記溶媒(成分C)を除去することで、エポキシ樹脂硬化物多孔体を得ることができる。なお、ここにいう「多孔体」とは、構造中に空隙(細孔)をもつものであればよく、平均細孔直径が0.1〜50μmの細孔を有するものが好ましい。また、このような「多孔体」は、上述のように、構造中に空隙(細孔)をもつものであればよく、例えば、粒子が凝集して形成される凝集体であってもよい。
【0045】
そして、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法によれば、得られるエポキシ樹脂硬化物多孔体は自発的吸水機能が十分に高いものとなり、例えば、エポキシ樹脂硬化物多孔体1gあたりの自発的吸水量が0.6g/g以上(より好ましくは1.2〜1.6g/g)となるエポキシ樹脂硬化物多孔体を得ることができる。なお、このような自発的吸水量が前記下限未満では、多孔体の自発的に吸水する性能(自発的吸水性能)が十分なものではなく、水質保持材等に使用した場合に、必ずしも十分な水質保持性能を得ることができなくなる傾向にある。なお、このような自発的吸水量の測定方法としては、以下のような方法を採用する。すなわち、このような自発的吸水量の測定には、先ず、直径1.7cm、長さ10cmの棒状のエポキシ樹脂硬化物多孔体を製造し、これを試料として使用する。そして、100mLのビーカーに蒸留水を40mL加えた後、前記試料をビーカーに挿し込み、前記試料により吸水された水の量を測定する。なお、このような試料が吸水した水の量の測定は、吸水が飽和した後に行う。そして、前記試料の重さ1gあたりの吸水量を計算することにより自発的吸水量(単位g/g)を求める。
【0046】
また、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法においては、得られるエポキシ樹脂硬化物多孔体の平均細孔直径を0.5〜5.0μm(更に好ましくは0.5〜3.0μm、特に好ましくは1.0〜2.5μm)とすることがより好ましい。このような平均細孔直径が前記下限未満では、目詰まり等によって細孔が閉塞し易くなり、実用性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、自発的吸水性能が低下してしまう傾向にある。なお、このような平均細孔直径は、用いるエポキシ成分A〜成分Cの種類等を変更することにより適宜調整することができる。
【0047】
さらに、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法においては、得られるエポキシ樹脂硬化物多孔体の空孔率を50〜95%(より好ましくは70〜85%)とすることが好ましい。このような空孔率が前記下限未満では、前記エポキシ樹脂硬化物多孔体を例えば分離媒体として使用した場合に空孔率が低すぎて実用性が十分なものとならない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、多孔体の強度が低下することに起因して実用性が低下する傾向にある。なお、多孔体の空孔率としては、下記式:
[空孔率(%)]=(1−W/ρV)×100
(式中、Wは多孔体の乾燥重量(g)を示し、Vは多孔体の見掛けの体積(cm)を示し、ρは樹脂の真密度(g/cm)を示す。)
を計算して求められる値を採用する。なお、前記式中の「樹脂の真密度」としては、多孔体をエタノールに入れて脱泡した後、JIS−K7112(B法I)に従って測定した値を採用する。このような空孔率は、用いるエポキシ成分A〜成分Cの種類等を変更することにより適宜調整することができる。
【0048】
また、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法においては、前記エポキシ樹脂硬化物多孔体の形状を、その用途に応じて、シート状、棒状、筒状等の任意の形状とすることができる。このように、前記エポキシ樹脂硬化物多孔体の形状を任意の形状とする方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、硬化物を得る工程において前記混合液を所定の型の中に流し込んだ後に加熱する方法等を採用してもよい。更に、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法により得られるエポキシ樹脂硬化物多孔体は、水質保持材、抗菌材、分離媒体(例えば、液体クロマトグラフィー用のカラム用充填媒体)等に好適に使用することができ、例えば、フィルター状、チューブ状、棒状等に成型して水中に配置し、切花等の鮮度保持材や水槽中の水の鮮度保持材等として利用してもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
先ず、成分AとしてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名「エピコート828」、エポキシ当量:190g/eq)18.0gと、成分Bとしてのポリアミドアミン化合物(富士化成工業株式会社製の商品名「トーマイド245−S」、アミン価:520〜550mgKOH/g)9.0gとを、成分Cとしてのポリエチレングリコール(ナカライテスク株式会社製、水酸基価:550mgKOH/g;以下、場合により、単に「PEG 200」という。)73.0g中に添加し、十分に撹拌して、成分C中に成分A及び成分Bを溶解し、真空脱泡して混合液を得た。なお、このような混合液中の成分A〜Cの総量に対する成分Aと成分Bとの合計量の質量比は27.0質量%であり且つ成分A〜Cの総量に対する成分Bの量の質量比は9.0質量%であった。
【0051】
次に、前記混合液を内径17mm、長さ100mmの円筒形のフッ素樹脂製管の長さ150mmの位置まで注入して栓をし、そのフッ素樹脂製管を50℃のオイルバスに投入して18時間加熱した。このようにして前記混合液を50℃で18時間加熱して前記フッ素樹脂製管の管中に硬化物を形成させた後、前記フッ素樹脂製管をオイルバスから取り出し、室温まで冷却した。その後、前記フッ素樹脂製管から硬化物を取り出し、100℃の水中に30分間浸漬した。次いで、前記硬化物を水中から取り出した後、アセトン中に浸漬し、超音波を印加して前記硬化物中からポリエチレングリコールを除去して、棒状(直径1.7cm、長さ10cm)のエポキシ樹脂硬化物多孔体(E1)を得た。
【0052】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。図1に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においてはその構造が三次元網目構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が75%であり且つ平均細孔直径が3.5μmであった。
【0053】
(実施例2)
前記成分Aの使用量を19.0gに変更し、更に、前記成分Cの使用量を72.0gに変更して混合液を得た以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物多孔体(E2)を得た。なお、このような混合液中の成分A〜Cの総量に対する成分Aと成分Bとの合計量の質量比は28.0質量%とし、成分A〜Cの総量に対する成分Bの量の質量比は9.0質量%であった。
【0054】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。図2に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においてはその構造が三次元網目構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が75%であり且つ平均細孔直径が1.5μmであった。
【0055】
(実施例3)
前記成分Aの使用量を20.0gに変更し、更に、前記成分Cの使用量を71.0gに変更して混合液を得た以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物多孔体(E3)を得た。なお、このような混合液中の成分A〜Cの総量に対する成分Aと成分Bとの合計量の質量比は29.0質量%とし、成分A〜Cの総量に対する成分Bの量の質量比は9.0質量%であった。
【0056】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。図3に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においてはその構造が三次元網目構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が73%であり且つ平均細孔直径が1.0μmであった。
【0057】
(実施例4)
前記成分Aの使用量を19.0gに変更し、更に、前記成分Bの使用量を8.0gに変更して混合液を得た以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物多孔体(E4)を得た。なお、このような混合液中の成分A〜Cの総量に対する成分Aと成分Bとの合計量の質量比は27.0質量%とし、成分A〜Cの総量に対する成分Bの量の質量比は8.0質量%であった。
【0058】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。図1に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においてはその構造が粒子凝集構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が75%であり且つ平均細孔直径が2.5μmであった。
【0059】
(実施例5)
前記成分Aの使用量を21.0gに変更し、前記成分Bの使用量を8.0gに変更し、更に、前記成分Cの使用量を71.0gに変更して混合液を得た以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物多孔体(E5)を得た。なお、このような混合液中の成分A〜Cの総量に対する成分Aと成分Bとの合計量の質量比は29.0質量%とし、成分A〜Cの総量に対する成分Bの量の質量比は8.0質量%であった。
【0060】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。図5に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においてはその構造が粒子凝集構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が73%であり且つ平均細孔直径が5.0μmであった。
【0061】
(比較例1)
前記オイルバスの温度を50℃から60℃に変更した以外(前記混合液の加熱温度(反応温度)を60℃に変更した以外)は、実施例1と同様にして、比較のためのエポキシ樹脂硬化物多孔体(C1)を得た。
【0062】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。図6に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、その構造が三次元網目構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が74%であり且つ水銀圧入法により測定した平均細孔直径が1.2μmであった。
【0063】
(比較例2)
前記オイルバスの温度を50℃から60℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、比較のためのエポキシ樹脂硬化物多孔体(C2)を得た。
【0064】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図7に示す。図7に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、その構造が三次元網目構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が74%であり且つ平均細孔直径が1.0μmであった。
【0065】
(比較例3)
前記オイルバスの温度を50℃から60℃に変更した以外は、実施例3と同様にして、比較のためのエポキシ樹脂硬化物多孔体(C3)を得た。
【0066】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図8に示す。図8に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、その構造が三次元網目構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が70%であり且つ平均細孔直径が0.7μmであった。
【0067】
(比較例4)
前記オイルバスの温度を50℃から60℃に変更した以外は、実施例4と同様にして、比較のためのエポキシ樹脂硬化物多孔体(C4)を得た。
【0068】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図9に示す。図9に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、その構造が粒子凝集構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が75%であり且つ平均細孔直径が4.0μmであった。
【0069】
(比較例5)
前記オイルバスの温度を50℃から60℃に変更した以外は、実施例5と同様にして比較のためのエポキシ樹脂硬化物多孔体(C5)を得た。
【0070】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図10に示す。図10に示す結果からも明らかなように、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、その構造が粒子凝集構造となっていることが確認された。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が72%であり且つ平均細孔直径が1.5μmであった。
【0071】
(比較例6)
成分AとしてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名「エピコート828」)20.2gを、成分Cとしてのポリエチレングリコール(PEG 200)71.4gに溶解した溶解液を得た後、前記溶解液中に成分Bとしてのポリアミドアミン化合物(富士化成工業株式会社製の商品名「トーマイド245−S」)8.4gを添加して溶解し、真空脱泡して混合液を得た。このような混合液中の成分A〜Cの総量に対する成分Aと成分Bとの合計量の質量比は28.6質量%とし、成分A〜Cの総量に対する成分Bの量の質量比は8.4質量%であった。
【0072】
次いで、前記混合液を直径17mm、長さ150mmの円筒形のフッ素樹脂製管に注入して栓をした後、そのフッ素樹脂製管を60℃のオイルバスに投入し、60℃で1時間加熱した後、オイルバスの温度を100℃に上昇させて、100℃で更に1時間加熱して、前記フッ素樹脂製管の管中に硬化物を形成させた。その後、前記フッ素樹脂製管をオイルバスから取り出し、室温まで冷却した後、前記フッ素樹脂製管から硬化物を取り出し、50℃の水中に20時間浸漬してポリエチレングリコールを除去して、棒状(直径1.7cm、長さ10cm)のエポキシ樹脂硬化物多孔体(C6)を得た。
【0073】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体を走査型電子顕微鏡により確認したところ、得られたエポキシ樹脂硬化物においては、その構造が三次元網目構造となっていることが分かった。また、このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体においては、前述の測定方法により測定した空孔率が74%であり且つ平均細孔直径が1.5μmであった。
【0074】
[実施例1〜5及び比較例1〜6で得られたエポキシ樹脂硬化物の特性の評価]
〈吸水量の測定〉
実施例1〜5で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体(E1〜5)及び比較例1〜6で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体(C1〜6)をそれぞれ用い、各エポキシ樹脂硬化物多孔体の自発的吸水量を測定した。すなわち、先ず、各実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体を、それぞれ、蒸留水が40mL入っている100mLのビーカーに挿し込み、各エポキシ樹脂硬化物によって吸水された水の量をそれぞれ測定した。なお、このような水の量の測定は各多孔体において吸水が飽和した後に行った。そして、各エポキシ樹脂硬化物の重さ1gあたりの吸水量をそれぞれ計算することにより自発的吸水量(単位g/g)を求めた。結果を図11に示す。
【0075】
図11に示す結果からも明らかなように、アミン比及びモノマー比が同じ系の実施例と比較例とを直接対比(例えば、実施例1(E1)と比較例1(C1)とを対比)して、混合液の加熱温度と吸水性能との関係を検討したところ、加熱温度が50℃の場合(実施例1〜5:本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法を利用した場合)においては、加熱温度が60℃の場合(比較例1〜5)よりも、優れた吸水性能を有する多孔体が得られていることが確認された。また、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法を利用した場合(実施例1〜5:加熱温度が50℃の場合)においては、得られる多孔体がいずれも吸水量が所定の水準(0.6g/g:かかる数値は水質保持材として非常に高度な性能が期待できる数値である。)以上となることが確認された。一方、比較例6に記載の方法を利用した場合には吸水量が所定の水準(0.6g/g)未満となっていた。
【0076】
このように、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法を利用した場合(実施例1〜5)においては、得られるエポキシ樹脂硬化物多孔体が十分に高度な自発的吸水性能を有することから、特に水質を保持するための水質保持材に有用であることが分かる。また、上記実施例1〜5の中でもアミン比を9.0質量%とした場合(実施例1〜3)には、多孔体の構造が三次元網目構造となっていることから十分な機械的強度が得られ、自発的吸水性能と機械的強度とを十分に高い水準でバランスよく発揮できる多孔体が得られることが分かった。
【0077】
(比較例7)
前記混合液を加熱する温度(反応温度)を50℃から25℃に変更した以外は、実施例1と同様にして比較のためのエポキシ樹脂硬化物多孔体(C7)を得た。
【0078】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体(C7)を走査型電子顕微鏡により確認したところ、得られたエポキシ樹脂硬化物の構造は、粒子凝集構造であった。また、得られたエポキシ樹脂硬化物(C7)は、物理的強度が極めて弱く、上述のような吸水量の測定を行うことが出来なかった。
【0079】
(比較例8)
前記混合液を加熱する時間(反応時間)を18時間から5時間に変更した以外は、実施例1と同様にして比較のためのエポキシ樹脂硬化物多孔体(C8)を得た。
【0080】
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物多孔体を走査型電子顕微鏡により確認したところ、その構造は、平均細孔径が0.5μm未満の骨格密構造であった。さらに、このエポキシ樹脂硬化物多孔体(C8)に関して、上記吸水量の測定に記載の方法で自発的吸水量を測定した結果、0.1g/g程度の吸水しか見られず、所定の水準を上回ることはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明によれば、十分に高度な水準の自発的吸水性能を有する多孔質構造のエポキシ樹脂硬化物を製造することが可能なエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法を提供することが可能となる。このように、本発明のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法は、吸水性能に優れた多孔体を得る方法として利用可能であるため、水質保持材(水質浄化材)等に用いる多孔質のエポキシ樹脂硬化物を製造するための方法として特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(成分A)と、アミン系硬化剤(成分B)と、前記成分A及びBに対して不活性な溶媒(成分C)とを含有する混合液を30〜55℃の温度条件で6時間以上加熱して硬化物を得た後、前記硬化物から前記成分Cを除去してエポキシ樹脂硬化物多孔体を得ることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記混合液が、下記条件(i)及び(ii):
(i)前記成分A〜Cの総量に対する前記成分A及びBの合計量の質量比([成分A及びBの合計量]/[成分A〜Cの総量])が27.0〜29.0質量%であること、
(ii)前記成分A〜Cの総量に対する前記成分Bの量の質量比([成分Bの量]/[成分A〜Cの総量])が8.5〜9.5質量%であること、
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記混合液の加熱時間が15〜36時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記硬化物から前記成分Cを除去する工程が、前記硬化物を95〜100℃の水中に10〜120分間浸漬する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記成分Aがエポキシ当量が100〜600g/eqのエポキシ樹脂であり、且つ、前記成分Bがアミン価が400〜700mgKOH/gのポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記成分Cは水酸基価が50mgKOH/g以上のポリアルキレングリコール及びその誘導体の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のエポキシ樹脂硬化物多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−46856(P2011−46856A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197740(P2009−197740)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(505232368)ニポロジャパン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】