説明

エラスチン成形体およびその製造法

平均繊維径が0.05〜50μmである脂肪族ポリエステルの繊維からなる繊維構造体を支持基材として用いることにより、柔軟で生体吸収性がありかつ実用上縫合可能な引き裂き強度を有するエラスチン成形体。このエラスチン成形体は、生体吸収性を有し、手術時などの縫合に耐えうる引き裂き強度と柔軟性を有する体内移植用のチューブや人工血管用の素材として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、平均繊維径が0.05〜50μmである脂肪族ポリエステルの繊維からなる繊維構造体を支持基材とし、その支持基材により補強されたエラスチン成形体に関する。
【背景技術】
近年、大きく損傷したりまたは失われた生体組織と臓器の治療法の1つとして、細胞の分化、増殖能を利用し元の生体組織および臓器に再構築する技術である再生医療の研究が活発になってきている。神経再生もそのひとつであり、神経組織が切断された患者の神経欠損部に人工材料からなるチューブで断端間を架橋し、神経組織を誘導する研究が行われている。チューブとしては、シリコン、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、その共重合体または複合体からなり、その内面にコラーゲンやラミニンをコーティングしたものが用いられている。
また血管再生においては、人工材料チューブとして、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、その共重合体または複合体からなり、その内面にゼラチン、アルブミン、コラーゲン、ラミニンをコーティングしたものが用いられている。
特開平8−33661号公報には、合成樹脂からなる人工血管基材の内腔面に、ゼラチンもしくはコラーゲンを塗布したのち架橋剤で固定した上に、あるいは直接に、水溶性エラスチンをコアセルベーション(凝集)させ架橋剤により固定した人工血管が記載されている。
また特開平9−173361号公報には、合成樹脂からなる人工血管基材の内腔面に、アルブミンを塗布し、加熱するかまたは加熱後さらに架橋剤で架橋して構築したアルブミン層上に水溶性エラスチンをコアセルベーション(凝集)させ架橋剤により固定した人工血管が記載されている。しかし前述のシリコン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステルは、生体吸収性が無いために長期安全性の問題、さらに再生した神経や血管を圧迫または阻害する問題がある。また、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンの共重合体または複合体は、生体吸収性はあるものの圧縮強度に問題があり、再生した神経や血管を圧迫する問題がある。ちなみに体内に移植するチューブや人工血管に求められるヤング率は1×10〜2×10Paである。
前述の材料に対し、宮本らは国際公開第02/096978号公報の中で生体吸収性、圧縮強度に優れ、さらには細胞増殖因子とハイブリッドさせることで細胞増殖因子の徐放機能を付与させることが可能であるエラスチン架橋体について報告している。しかしこのエラスチン架橋体は、引き裂き強度に問題があったため手術時に縫合が困難で、体内での利用が制限されるという問題があった。
手術時の縫合において望まれる引き裂き強度は0.3MPa以上である。
【発明の開示】
本発明の主な目的は、生体吸収性を有し、手術時などの縫合に耐えうる引き裂き強度と柔軟性を有する体内移植用のチューブや人工血管用の素材となるエラスチン成形体を提供することにある。
本発明の他の目的は、本発明の上記成形体を製造する方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、平均繊維径が0.05〜50μmである脂肪族ポリエステルの繊維からなる繊維構造体の支持基材と、エラスチン架橋体からなるエラスチン成形体によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、平均繊維径が0.05〜50μmである脂肪族ポリエステルの繊維からなる繊維構造体に、水溶性エラスチンと1種以上の架橋剤を含浸させそして架橋反応させてエラスチン架橋体を形成することを特徴とするエラスチン成形体の製造方法によって達成される。
上記のとおり、本発明によれば、平均繊維径が0.05〜50μmである脂肪族ポリエステルの繊維からなる繊維構造体を支持基材として用いることにより、柔軟で生体吸収性がありかつ実用上縫合可能な引き裂き強度を有するエラスチン成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例において、紡糸液を静電場中に吐出する静電紡糸法で用いられた装置の概略説明図である。
図2は、実施例において、静電紡糸法で用いられた別の装置の概略説明図である。
発明の好ましい実施の形態
以下、本発明について詳述する。なお、これらの実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
本発明で使用される繊維構造体としては、単数または複数の繊維が集合して形成された、形態保持性を備えた構造体を挙げることができる。繊維は、例えば表面平滑繊維、多孔質繊維あるいは中空繊維であることができる。構造体の形態としては、繊維が例えば積層や集積により集合せしめられた不織布、メッシュ、チューブなどを挙げることができる。構造体としてはチューブの如き3次元構造体が好ましい。
該繊維構造体を形成する高分子化合物は脂肪族ポリエステルである。
脂肪族ポリエステルとしては、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートおよびこれらの共重合体などが挙げられる。これらのうち、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体およびポリカプロラクトンが好ましく、就中ポリ乳酸およびポリカプロラクトンが特に好ましい。
本発明における繊維構造体は平均繊維径が0.05〜50μmである繊維により形成される。0.05μm未満であると、生体内分解性が大きくなって分解に要する時間が短すぎるため好ましくない。また平均繊維径が50μmより大きいと、チューブ等に成型した際伸縮性が低く、エラスチン特有の弾性の発現を妨げる傾向があるため好ましくない。より好ましい平均繊維径は0.2〜25μmであり、さらに好ましい平均繊維径は0.2〜20μmであり、特に好ましい平均繊維径は0.3〜10μmである。なお繊維径とは外周により規定される繊維断面の円相当直径を表す。
本発明における繊維構造体を製造する方法としては、例えば静電紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法およびフラッシュ紡糸法等が挙げられる。その中でも、静電紡糸法が好ましい。静電紡糸法は、例えば米国特許第1975504号明細書に開示された方法に従って行うことができる。
静電紡糸法は、例えば下記のようにして行われる。脂肪族ポリエステルを揮発性溶媒に溶解した溶液を電極間で形成された静電場中にノズルから吐出し、吐出溶液を電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集することによって得ることができる。繊維状物質とは既に溶液の溶媒が留去され、繊維構造体となっている状態のみならず、いまだ溶液の溶媒を含んでいる状態も示している。本発明で用いられる電極は、金属、無機物、または有機物のいかなるものでも導電性を示しさえすればよい。また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物、または有機物の薄膜を持つものであってもよい。本発明における静電場は一対または複数の電極間で形成されており、いずれの電極に高電圧を印加してもよい。これは例えば電圧値が異なる高電圧の電極が2つ例えば15kVと10kVの電極と、アースにつながった電極の合計3つの電極を用いる場合も含み、または3本を超える数の電極を使う場合も含むものとする。
静電紡糸に用いられる脂肪族ポリエステル溶液中の脂肪族ポリエステルの濃度は、1〜30重量%であることが好ましい。脂肪族ポリエステルの濃度が1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため繊維構造体を形成することが困難となり好ましくない。また、30重量%より大きいと得られる繊維構造体の繊維径が大きくなり好ましくない。より好ましい脂肪族ポリエステルの濃度は2〜20重量%である。
本発明で静電紡糸に用いられる脂肪族ポリエステル溶液を形成する揮発性溶媒は、脂肪族ポリエステルを溶解し、好ましくは、常圧での沸点が200℃以下であり且つ27℃で液体である物質である。
具体的な揮発性溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、水、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどが挙げられる。これらのうち、脂肪族ポリエステルの溶解性等から、塩化メチレン、クロロホルム、アセトンが特に好ましい。
これらの溶媒は単独で用いてもよく、複数の溶媒を組み合わせても用いてもよい。また、本発明においては、本目的を損なわない範囲で、他の溶媒を併用してもよい。
該溶液を静電場中に吐出するには、任意の方法を用いることができる。例えば、一例として図1を用いて以下説明する。脂肪族ポリエステルの揮発性溶媒中の溶液2をノズル1に供給することによって、溶液を静電場中の適切な位置に置き、そのノズルから溶液を電界によって曳糸して繊維化させる。このためには適宜な装置を用いることができ、例えば注射器の筒状である溶液保持槽3の先端部に適宜の手段、例えば高電圧発生器6にて電圧をかけた注射針状の溶液噴出ノズル1を設置して、溶液をその先端まで導く。接地した繊維状物質捕集電極5から適切な距離に該噴出ノズル1の先端を配置し、溶液2が該噴出ノズル1の先端を出たときに、この先端と繊維状物質捕集電極5の間にて揮発性溶媒を揮発させて繊維状物質を形成させる。
また当業者には自明の方法で該溶液の微細滴を静電場中に導入することもできる。一例として図2を用いて以下に説明する。その際の唯一の要件は溶液を静電場中に置いて、繊維化が起こりうるような距離に繊維状物質捕集電極5から離して保持することである。溶液を静電場中に置くために、例えば、ノズル1を有する溶液保持槽3中の溶液2に直接、繊維状物質捕集電極に対抗する電極4を挿入してもよい。
該溶液をノズルから静電場中に供給する場合、数個のノズルを用いて繊維状物質の生産速度を上げることもできる。電極間の距離は、帯電量、ノズル寸法、紡糸液流量、紡糸液濃度等に依存するが、10kV程度のときには5〜20cmの距離が適当であった。また、印加される静電気電位は、例えば3〜100kV、好ましくは5〜50kV、一層好ましくは5〜30kVである。所望の電位は任意の適切な方法で作ればよい。
上記説明は、電極がコレクタを兼ねる場合であるが、電極間にコレクタとなりうる物を設置することで、電極と別にコレクタを設けることができる。またコレクタの形状を選択することで、シート、チューブが得られる。さらに、例えばベルト状物質を電極間に設置してコレクタとすることで、連続的な生産も可能となる。
本発明においては、該溶液をコレクタに向けて曳糸する間に、条件に応じて溶媒が蒸発して繊維状物質が形成される。通常の室温であればコレクタ上に捕集されるまでの間に溶媒は完全に蒸発するが、場合により、溶媒蒸発を十分にするために減圧条件下で曳糸してもよい。また、曳糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存する。例えば0〜50℃である。そして繊維状物質がコレクタ上に集積されて繊維構造体が製造される。
本発明において得られる繊維構造体は、単独で用いてもよいが、取扱性やその他の要求事項に合わせて、他の部材と組み合わせて使用してもよい。例えば、コレクタとして支持基材となりうる不織布、織布、フィルム等を用い、その上に繊維構造体を形成することで、支持基材と該繊維構造体を組み合わせた部材を作成することもできる。
本発明で使用される水溶性エラスチンとは特に限定されるものではないが、エラスチンを加水分解して得られるものである。具体的には動物の頚靭帯などを熱シュウ酸処理して得られるα−エラスチンもしくはβ−エラスチン、エラスチンをアルカリエタノール処理して得られるκ−エラスチン、エラスターゼにより酵素処理した水溶性エラスチンおよびエラスチン生合成経路における前駆体であるトロポエラスチンなどの少なくとも1種以上のエラスチンを使用することができる。トロポエラスチンは特に限定されるものではなく動物細胞からの抽出物でも、遺伝子組み換え法により得られるトロポエラスチン遺伝子産物の少なくとも1種類以上を使用することができる。
本発明におけるエラスチン架橋体は、水溶性エラスチンの少なくとも1種を水溶性架橋剤で架橋して得ることができる。
水溶性エラスチンは、全重量の約94%が疎水性アミノ酸、約1%が側差にアミノ基を含むアミノ酸例えばリジン、アルギニン、ヒスチジンで形成された疎水性タンパク質である。
本発明で使用される水溶性架橋剤は、水溶性エラスチンの側鎖のアミノ基と反応し、架橋反応するものであれば何れの水溶性架橋剤であってもよい。該水溶性架橋剤としては例えば、グルタルアルデヒド、エチレングリシジルエーテルおよび下記式で表される分子中心領域に疎水性部を有し、両末端に活性エステル基を有する化合物などを挙げることができる。中でも下記式(1)で表される化合物を架橋剤として用いると、生体に適した弾性を有する成型性良好な成形体を得ることができ好ましい。

ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、下記式(1)−1

ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、H、CHまたはCである、
で表される構造または下記式(1)−2

で表される構造であり、そしてRは下記式(1)−3

ここで、nは1〜20である、
で表される構造または下記式(1)−4

ここで、mとlは互いに独立に0〜15の整数であり、XとYは、互いに独立に、CHまたはOのいずれかであり、ZはCまたはNのいずれかであり、R、R、RとRは互いに独立に、H、CH、Cのいずれかである、
で表される構造である。
分子中心領域に疎水性部を有する化合物は、疎水性アミノ酸を多く含むエラスチンと、疎水性相互作用により強固で安定した構造体を形成する。
しかし、疎水性部を多く含む化合物は、有機溶媒には可溶ではあるが、水に難溶または不溶となり水系で取り扱いにくい。水溶性架橋剤は、例えば相当するジカルボン酸化合物の両末端を4−hydroxyphenyldimethyl−sulfoniummethylsulfate(4−ヒドロキシフェニルジメチル−スルホニウムメチルメチルサルフェイト:以下DSP)で活性エステル化させることにより製造できる。この水溶性架橋剤は、疎水性アミノ酸を多く含むエラスチンと強固な安定した構造体を取る疎水性部を有しながら、かつ水系で取り扱える特徴を有するものである。
また本発明において、水溶性架橋剤は、その化学式の両末端の活性エステル基が、水溶性エラスチンのアミノ酸とペプチド結合して架橋する。架橋反応の条件は特に限定されるものではないが、反応温度は常圧またはオートクレーブなどの加圧下で4〜150℃の範囲であることが好ましい。特に架橋の操作性の点から10〜120℃の範囲が好ましい。
本発明において、エラスチン架橋体は、水溶性エラスチンおよび架橋剤の他に、他の第3成分を含有していてもよい。
第3成分としては、例えばコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンなどのタンパク質および/またはポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジンなどのポリアミノ酸および/またはポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナン等の糖質および/またはFGF(繊維芽細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、IGF(インスリン様増殖因子)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、TGF−β(β型形質転換増殖因子)、NGF(神経増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、BMP(骨形成因子)等の細胞増殖因子などが挙げられる。
これらのうち、ゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸などの細胞外マトリックス成分やFGF(繊維芽細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、NGF(神経増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)などの細胞増殖因子は細胞の接着および増殖を高めるために好ましい。
本発明において、水溶性エラスチンの割合は、エラスチン架橋体に対して0.5〜99.5重量%の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは1〜95重量%であり、この範囲であれば生体に適した弾性を有する成型性良好な成形体を得ることができる。
本発明において、繊維構造体により補強されたエラスチン成形体を作製する方法としては、特に限定されるものではないが、一般的な合成樹脂の成型に用いられる成型用型を用いる方法を挙げることができる。例えば、成型用型中に予め繊維構造体を置き、その後水溶性エラスチンと水溶性架橋剤を混ぜ合わせて水溶性エラスチン水溶液を得た後、成型器に流し込み、オートクレーブなどで加熱架橋させると、その鋳型を反映した膜状、棒状、ペレット状またはチューブ状などのエラスチン成形体を得ることができる。
本発明において、水溶性架橋剤で架橋して得られたエラスチン架橋体は、生体内で生分解を受けやすい特徴を有する。その生分解速度は、エラスチン架橋体の架橋度と関係するため、架橋条件を変え架橋度を変えることにより制御することができる。
本発明におけるエラスチン架橋体は、弾性に優れる架橋体であるが、生体に適合しやすくするためにそのヤング率は1×10〜1×10Paの範囲にあるのが好ましく、特に1×10〜2×10Paの範囲にあるのが好ましい。
本発明によれば、以上のとおり、脂肪族ポリエステルよりなり、平均繊維径が0.05〜50μmである、中空繊維または多孔質繊維の如き種々の繊維からなる繊維構造体を支持基材として用いることにより、エラスチンが有する弾性・柔軟性を保持しかつエラスチン架橋体に縫合可能な引き裂き強度を付与することが可能となる。このようなエラスチン成形体は、血管および神経再生における人工材料として有用である。
【実施例】
以下の実施例により、本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例に使用したポリ乳酸(LACTY9031)は(株)島津製作所、エラスチンはELASTIN PRODUCTS社製、塩化メチレン(特級)、シュウ酸(特級)、セルロース性透析チューブ(分画分子量6,000〜10,000)、ドデカンジカルボン酸、4−ヒドロキシフェニルジメチル−スルフォニウムメチルサルフェイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、アセトニトリル(特級)、トリエチルアミンは和光純薬工業(株)のものを使用した。
ポリ乳酸チューブ作製法
ポリ乳酸1g、塩化メチレン8gを室温(25℃)で混合しドープを作製した。図2に示す装置を用いて、該ドープを毎分60回転する繊維状物質捕集電極5(直径2mm、長さ200mm)に5分間吐出した。噴出ノズル1の内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズル1から繊維状物質捕集電極5までの距離は10cmであった。得られたポリ乳酸チューブは、内径2mm、長さ20mmであった。また、目付けについては吐出時間を変えることでコントロールし、目付け量が20g/mおよび40g/mの2種類のサンプルを作製した。
水溶性エラスチンの調整法
エラスチン(ELASTIN PRODUCTS社製)20gに対し0.25Mシュウ酸150mlを加え、100℃にて1時間処理した。冷却後、遠心分離(3,000rpm、30min)し、上澄みを集めセルロース性透析チューブに入れ、脱イオン水に対して48時間透析しシュウ酸を除去した。その後凍結乾燥して水溶性エラスチンを得た。
水溶性架橋剤の調整法
ドデカンジカルボン酸0.64g(2.5mmol)と4−ヒドロキシフェニルジメチル−スルフォニウムメチルサルフェイト1.33g(5mmol)をアセトニトリル35mlに60℃で溶解し、放冷後ジシクロヘキシルカルボジイミド1.03g(5mmol)を加え、25℃で5時間攪拌を行った。その後反応中に生じたジシクロヘキシル尿素をガラスフィルターでろ過し除去した。さらにろ液をエーテル70mlに滴下して固化させた。該固形物を減圧乾燥して、水溶性架橋剤1.4gを得た。得られた架橋剤の純度はH−NMRより98%であった。
【実施例1】
脱イオン水1mlに、水溶性エラスチン200mgを加えて攪拌し、20%水溶性エラスチン水溶液を得た。該水溶液の温度を25℃とし、これに水溶性架橋剤72μmol(該水溶液中のエラスチンのアミノ基量(24μmol)の3倍量)を加え5分間攪拌した。次にトリエチルアミンを24μmol加えさらに5分間攪拌した後、ポリ乳酸チューブ(目付け量:20g/m)を設置した直径2.2mm、長さ30mm円筒状のテンプレートに流し込み2日間静置しゲル化させ、脱イオン水で充分洗浄し乳白色で弾性に富む円筒状のエラスチン成形体を得た。また、得られたエラスチン成形体を110℃で10分間オートクレーブ処理を行い、形状に変化が見られない滅菌されたエラスチン成形体を得た。得られたエラスチン成形体のヤング率は1×10Paであった。
得られた成形体については、DIN53507、53504を参考に、テンシロン装置(INSTRON)を用いて引き裂き強度の測定を行った。結果は表1に示す。
【実施例2】
ポリ乳酸チューブの目付け量が40g/mである以外は、実施例1と同様の処理を行なった。得られたエラスチン成形体のヤング率は1×10Paであった。
比較例1
実施例1を参考にして作製したエラスチンの引き裂き強度測定を行った。

【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が0.05〜50μmである脂肪族ポリエステルの繊維からなる繊維構造体の支持基材と、エラスチン架橋体からなるエラスチン成形体。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンまたは、それらの共重合体である請求項1に記載のエラスチン成形体。
【請求項3】
繊維が表面平滑繊維、多孔質繊維または中空繊維である請求項1に記載のエラスチン成形体。
【請求項4】
前記エラスチン架橋体が、水溶性エラスチンと1種以上の架橋剤の反応生成物からなる請求項1に記載のエラスチン成形体。
【請求項5】
前記架橋剤が、下記式(1)

ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、下記式(1)−1

ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、H、CHまたはCである、
で表される構造または下記式(1)−2

で表される構造であり、そしてRは下記式(1)−3

ここで、nは1〜20である、
で表される構造または下記式(1)−4

ここで、mとlは互いに独立に0〜15の整数であり、XとYは、互いに独立に、CHまたはOのいずれかであり、ZはCまたはNのいずれかであり、R、R、RとRは互いに独立に、H、CH、Cのいずれかである、
で表される構造である、
で表される水溶性化合物である請求項4に記載のエラスチン成形体。
【請求項6】
前記エラスチン架橋体が、タンパク質、ポリアミノ酸、糖質および細胞増殖因子よりなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する請求項1に記載のエラスチン成形体。
【請求項7】
前記タンパク質が、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、トロンビンまたはラミニンのいずれかである請求項6に記載のエラスチン成形体。
【請求項8】
前記ポリアミノ酸がポリリジンまたはポリグルタミン酸のいずれかである請求項6に記載のエラスチン成形体。
【請求項9】
前記糖質が、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、アルギン酸、キチン、キトサン、セルロースまたはデンプンのいずれかである請求項6に記載のエラスチン成形体。
【請求項10】
前記細胞増殖因子が、FGF(繊維芽細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、IGF(インスリン様増殖因子)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、TGF−β(β型形質転換増殖因子)、NGF(神経増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)またはBMP(骨形成因子)のいずれかである請求項6に記載のエラスチン成形体。
【請求項11】
平均繊維径が0.05〜50μmである脂肪族ポリエステルの繊維からなる繊維構造体に、水溶性エラスチンと1種以上の架橋剤を含浸させそして架橋反応させてエラスチン架橋体を形成することを特徴とするエラスチン成形体の製造方法。
【請求項12】
繊維が表面平滑繊維、多孔質繊維または中空繊維である請求項11に記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/087232
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504235(P2005−504235)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004494
【国際出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】