説明

エリスロシンに基づく抗菌性光力学治療化合物およびその使用方法

【課題】ヒトまたは動物の病者において有害な微生物特に細菌を電磁気的な照射により有効かつ選択的に殺す方法の提供。グラム陽性の細菌を複雑な媒体例えば唾液の存在下有効に殺菌する。
【解決手段】ゲル中の光増感剤としてエリスロシンBを含む組成物を生物学的表面上の治療域に導入する段階、該治療域の細菌に該エリスロシンBを結合させるために予定された時間経過させる段階、該治療域に予め選択された波長の照射を当てて、該エリスロシンBを活性化しそしてそれにより光力学反応を誘導して該細菌を殺す段階からなり、そして複雑な媒体が該治療域に存在する病者の治療域の殺菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光力学治療の領域、特にヒトおよび動物の選択的殺菌における光力学治療の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
光力学治療(PDT)は周知であり、そしてガンおよび種々の皮膚の病気のような過剰増殖の組織に一般に伴う多数の疾患を治療するのに利用されてきた。PDTは、また抗菌の治療として利用されてきた。しかし、抗菌のPDTに伴う多数の大きな問題が存在する。第一の問題は、グラム陽性およびグラム陰性の細菌の両者に対して有効に使用できる光活性物質を見つけだす困難さから生ずる。グラム陰性の細菌は、それらの二重層の外側の膜物質に主として起因する遙かに困難な障害をもたらす。
【0003】
グラム陽性およびグラム陰性の細菌の間の主な相違は、図1および2に画かれたように細胞壁にある。図1に示されているように、グラム陽性の細胞は、細胞膜105を囲む多くの個々のペプチドグリカン層103(例えば20〜40の層)からなる厚いペプチドグリカン細胞壁101を有する。逆に、図2に示されるように、グラム陰性の細胞は、細胞膜203を囲むペプチドグリカン201の薄い層のみを有し、その層は追加の外側の膜205によりさらに囲まれている。この追加の層は、グラムの方法を使用してグラム陽性およびグラム陰性の細胞を区別することを可能にする。グラム陰性の細菌の外側の膜のために、クリスタルバイオレット−ヨウ素の染料は、細胞壁のペプチドグリカン層に到達できず、そしてグラム陽性の細菌におけるようにグラムの方法後グラム陰性の細菌に保持される。外側の膜は、グラム陰性の細菌中への多くの物質の浸透を阻害するのに主として関係し、そして両方のタイプの細菌に対して有効な光増感剤を見つけることが困難な理由である。
【0004】
他の問題は、複雑な媒体例えば血液の血清、血液または唾液の存在下で少なくともいくらかの活性を保持する好適な光増感化合物を見つけることが困難であることから生ずる。単純な媒体例えばリン酸塩緩衝塩水中の細胞懸濁物に対して良好な活性を示すほとんどの光増感化合物(光増感剤)は、血液の血清、血液または唾液の存在下ではほとんど効果を示さない。これは、これらの複雑な媒体(例えば蛋白、血液の細胞)中の成分がPDT化合物の親和性について細菌と競合するためである。また、他の問題は、天然に生じそして或る身体の機能に利益があるかまたは必要な微生物を殺す危険を含む。抗菌PDTの適用は、排除することが求められている有害な細菌とともに有益な微小植物類(microflora)を殺す危険を生ずる。
【0005】
エリスロシンBは、450〜600nmの青〜緑の範囲で吸収する赤色の染料である。それは、顕微鏡写真法のような方法において生物学的な染料として使用される。例えば、エリスロシンBは、植物および動物の両者の組織において異なる核の染色に対する対比染色剤として、または細菌細胞のコントラスト染色剤として広く使用されている。
【0006】
エリスロシンおよびエリスロシンBは、歯上のプラークの存在および位置を肉眼で見えるように示す歯科の処理に関連して染料として使用されている。エリスロシンは、生物学的表面から細菌を除くのに利用されており、そして抗菌性の治療に使用されている。
【0007】
特許文献1は、また、ブタ、家畜および家禽の胃および腸、歯および創傷の表面のような生物学的表面に付着した微生物を除くためのエリスロシンまたは他の物質の使用を開示している。この方法は、殺菌に働くものではなく、むしろ生物学的表面からの細菌の除去または細菌の付着を防ぐことに関している。
【0008】
エリスロシンおよび関連する染料は、歯および歯肉上またはその周辺の微生物および虫歯の穴を検出し治療する歯周病の治療に使用されている。特許文献2は、水、水混和性溶媒またはその組み合わせ、虫歯になった部分を染めることのできる染料および抗菌性剤を含む抗菌性の齲歯検出組成物を開示している。これは、虫歯の穴の検出と滅菌系との両者である。1つ以上の溶媒に可溶でありそして虫歯の穴の存在および位置を肉眼で見えるように示すことのできる好適な染料に含まれるエリスロシンのような染料が、使用できる。この発明では、エリスロシンは、染色剤としてのみ利用され、そして抗菌剤として考慮されていない。
【0009】
エリスロシンBは、医学的および非医学的の両者の処理に利用される周知の光増感剤である。非医学的処理は、殺虫の処理および工業的な表面処理を含み、そして医学的処理は、歯および他の生物学的表面の抗菌PDT治療並びにガン性および他の疾患の組織のPDTを含む。
【0010】
特許文献3は、年齢に関連する黄斑変性の結果としての眼の血管新生のためのPDT治療を記述している。エリスロシンおよびエリスロシンBは、この方法において使用される多くの可能と思われる光増感剤の中にリストされている。
【0011】
特許文献4は、内膜過形成により生ずる血管の再狭窄を阻害するためのPDTの使用を開示している。この治療に有用であることを目指す多くの光増感剤の中に、エリスロシンおよびエリスロシンBがある。
【0012】
特許文献5は、転移性腫瘍細胞を殺すために免疫アジュバントとともに光増感剤を使用する方法を開示している。この方法に使用することを目的とする光増感剤は、キサンテン染料例えばエリスロシンおよびエリスロシンBを含む。
【0013】
特許文献6は、昆虫の成虫および幼虫を退治するためにエリスロシンBのような或るキサンテン染料遊離酸の水溶性の殺虫組成物を開示している。昆虫または幼虫は、化合物を含むこれらの組成物を消化し、それは可視光に曝されると昆虫または幼虫を死に至らしめる。
【0014】
特許文献7は、光毒性の殺虫組成物中の光活性染料例えばエリスロシンBの使用を記述している。組成物は、選択された光活性染料、餌およびアジュバントを含む。化合物は、望ましい昆虫により消化され、それによりアジュバントは光活性染料および昆虫の膜と反応して組成物の毒性を変え、それは或る時間日光に曝された後に昆虫を殺すように作用する。特許文献8は、魚における原生動物の感染を治療する方法を開示している。エリスロシンBを含む光活性染料は、感染された魚を含む水性の環境に導入され、光活性染料の濃度は、細菌のいくらかまたはすべてを殺すに十分なものである。
【0015】
特許文献9は、エリスロシンBを含む或る光増感剤を表面に適用しそして細菌を光力学的に不活性化することにより、バイオフィルム上の細菌を殺す方法を開示している。この方法は、家庭および工業で用いられる固い表面例えばガラス、プラスチックおよびセラミック上で使用するようにされている。それは、生物学的表面への使用を開示していない。
【0016】
口腔の細菌の光熱殺菌の方法は、特許文献10に開示されている。染料好ましくはエリスロシンBを含む処方は、歯に適用されて口腔の細菌を選択的に染める。ヘモグロビンにより良く吸収される波長を排除するようにフィルターされた照射が適用されて、染められた細菌の温度を選択的に上昇させそして凝固により殺菌する。この方法は、天然の微小植物類を傷つけずに有害な細菌のみを選択的に殺す方法を開示していない。
【0017】
ハロゲン化キサンテンまたはそれらの誘導体を利用する光増感剤およびPDTは、特許文献11に記載され、皮膚および循環系を含む種々の身体の組織の症状を治療する。疾患例えばガンおよび微生物の感染は、開示された組成物および方法により治療されるとされる。化合物例えばローズベンガルおよびエリスロシンBは、可能性のある光増感剤として開示される。方法は、身体内投与例えば静脈内注入および皮下伝達を含む。光増感剤は、ゲルで注入する(パラグラフ46)。この発明は、口腔の疾患に適用でき、適用は、歯肉炎を含む歯肉および他の歯周の疾患のような疾患の治療のために、口および歯肉を含む組織に直接または間接、または実質的にそれらの付近になされる(パラグラフ69)。薬剤は、ヒトおよび動物の微生物感染に適用され、そして感染した組織にまたはほぼその付近に伝達される(パラグラフ97)。細菌の例はStreptococciを含む(パラグラフ98)。
【0018】
この発明は、PDT治療におけるエリスロシンBのような光増感剤の使用を一般的に記述し、口腔および抗菌の治療におけるそれらの使用を記述しておらず、歯、歯肉および/または舌への直接的な適用のためのゲルの処方のような、所定の域またはバイオフィルムの付近に光増感剤を制限する方法または組成物を記述していない。その上、この発明は、天然の微小植物類を傷つけないまま、有害な細菌を選択的に殺菌する方法または組成物を開示していない。最後に、この発明は、複雑な媒体例えば血液、血液の血清および唾液の有害な作用を緩和する方法または組成物を開示していない。
【0019】
上記のPDTの方法および/または組成物は、それらが口中のような身体の域に存在する正常の微小植物類を無差別に殺す点で有利ではない。これらの微小植物類は、必須の機能を行い、そのためどんな抗菌の方法/組成物も、これらの天然の微小植物類を殺すことを避けるべきである。当該技術は、この問題を扱っていないしまたは解決もしていない。
【0020】
複雑な媒体例えば唾液の存在下で有効な抗菌のPDTの方法および化合物を必要としている。この方法は、グラム陽性およびグラム陰性の両方の細菌に対して有効に使用されるが、特別な適用領域では、グラム陽性の細菌を有効に殺すことで十分である。また、方法および組成物は、必要な細菌を傷つけないまま、有害な細菌に対して有効でなければならない。本発明は、この要求を満たしている。
【特許文献1】米国特許4581227
【特許文献2】米国特許6337357
【特許文献3】米国特許出願2002/0173832A1
【特許文献4】米国特許6609014
【特許文献5】米国特許出願2002/0022032A1
【特許文献6】米国特許4647578
【特許文献7】米国特許5798112
【特許文献8】米国特許6506791
【特許文献9】ヨーロッパ特許652709B1
【特許文献10】米国特許6290496
【特許文献11】米国特許出願2001/0022970A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ヒトまたは動物の病者において有害な微生物特に細菌を有効かつ選択的に殺す方法を提供するのが本発明の目的である。
【0022】
電磁気的な照射によりコントロール可能でしかも選択的に活性化できる抗菌方法を提供するのが本発明の他の目的である。
【0023】
グラム陽性の細菌を殺すのに有効な方法を提供するのが本発明の他の目的である。
【0024】
複雑な媒体例えば唾液の存在下有効な抗菌の方法および組成物を提供するのが本発明の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
簡単にいえば、本発明は、電磁気的な照射に関連してエリスロシンBを含む組成物を利用して身体における微生物特に細菌を殺すための方法および組成物を提供する。好ましい方法では、エリスロシンBを含む組成物は、治療域に導入される。十分な時間が経過した後、好適な波長の照射がその域に適用されてエリスロシンBを活性化しそして光力学反応によって殺菌する。好ましい照射は、約530nmの波長を有する。エリスロシンBは、ゲル内に配合され、それは光力学作用をバイオフィルムの近くに限定し、そのため望ましくない細菌のみが影響されそして天然の微小植物類は傷つかない。この方法は、少なくともグラム陽性細菌を殺すのに有効であり、そして複雑な媒体例えば唾液も存在している域で特に有効である。
【0026】
本発明の上記そして他の目的、特徴および利点は、図面を参照して以下の記述から明らかになるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
従来の技術の方法および化合物に見いだされる困難さ、特に複雑な媒体例えば血液の血清、血液または唾液の有害な作用を避けそして天然に存在する微小植物類を殺すことを避けるのに見いだされる困難さのために、これらの不利益を克服する化合物を見いだすことが望ましい。エリスロシンBは、唾液中のグラム陽性の細菌に対して有効な光増感物質であることが分かった。この結果は、特別な適用領域例えば齲歯を防ぐ口腔中のStreptococcus spec.細胞を有効に殺すために非常に興味がある。注目される他の利点は、媒体の複雑な成分(例えば唾液)の存在は、他の光増感剤との場合にしばしば生ずる目標細菌におけるエリスロシンBの有効性を損なうものではないことであった。従って、エリスロシンBは、本発明による有効な抗菌治療の一部である。エリスロシンBを含む抗菌PDT組成物は、また本発明の一部である。好ましい態様では、抗菌治療は、3つの一般的な段階を含む。第一の段階は、細菌を含む環境にエリスロシンB組成物を導入することである。第二の段階は、治療域における細菌細胞中にエリスロシンBを浸透させるかまたはそれらの細胞エンベロープの成分に少なくとも結合させるのに十分な時間経過させることである。最後の段階は、好適な波長の照射を適用してエリスロシンBの活性化により光力学メカニズムを開始させ、そして殺菌に導く反応性の酸素種およびフリーラジカルを生成させる。
【0028】
好ましい「暴露時間」すなわち光増感剤をバイオフィルム中または表面に拡散させるのに十分な照射とエリスロシンB組成物の適用との間の時間は、変化することができ、そしてそれぞれ処理される細菌のタイプ、処理される身体の面積、そしてエリスロシンB組成物を導入する方法のようなファクターに応じて変化できるだろう。通常、局所の適用では、この時間は、少なくとも5分間であろう。内部の細菌感染を治療するには、組成物は、全身的な適用のために血流中に注入されるか、またはもし感染が特定の域に限定されるならば、狭い域に注入される。皮膚の上またはそれに近い感染では、組成物は、局所適用のための溶液、クリーム、ゲルまたはローションの形である。
【0029】
好ましい態様では、本発明の組成物は、ゲル内に含まれたエリスロシンBを含む。エリスロシンBゲルの適用は、プラークが存在する表面に組成物が選択的に適用されそして付着し、バイオフィルムまたは齲歯に位置する細菌のみが次の照射によって影響をうける点で有利である。これは、生物学的なプロセスに重要な身体中そして身体の表面に存在する多くの微生物がある点で重要である。抗菌治療がこれらの天然かつ有益な微小植物類を殺すのを避けることが重要である。本発明の組成物では、エリスロシンBは、ゲルの近くの域に制限されそして集中する。ゲルがバイフィルムに適用された後、エリスロシンBはゲルマトリックスからプラークに拡散し、目標細菌を直接染める。プラーク中の細菌のみが、顕著な光力学効果を刺激する照明の適用に十分なように染められる(エリスロシンBの濃度は十分に高い)。従って、エリスロシンBの顕著な量は、バイオフィルム上の適用の域から離れた域に移動できない。活性の域は、そのため、バイオフィルムに近い従って有害な細菌に近い域のみに制限される。
【0030】
本発明による治療の例は、齲歯が発生しないように、有害な細菌を殺菌するために歯および/または舌の背部へのエリスロシンBゲルの予防的適用である。別に、ゲルは、その上の細菌を殺菌するために現存する齲歯または疾患の組織へ適用できる。ゲルは、歯または歯肉のような他の表面に適用され、そして好適な照射により活性化されてバイオフィルム中の付近の細菌を殺す。好ましい態様では、本発明により目標とされるバイオフィルムは、主として、齲歯を導く有害な細菌が存在する歯および/または舌の背部に位置するバイオフィルムである。顕著な濃度のエリスロシンBはゲル組成物から離れて存在しないため、口中の他の微小植物類は影響されない。
【0031】
ゲル処方物を生成するために本発明で使用できる多数の物質が存在する。すべての物質は、非毒性でなければならず、そして内科的または口腔内の使用に承認されていなければならない。ゲルの成分は、エリスロシンBを可溶化すべきである。多数のセルロースに基づくゲルが考えられ、例えばヒドロキシエチルセルロースがある。本発明のゲルの態様の例は、エリスロシンB、ヒドロキシエチルセルロース、プロピレングリコール、水、および所望の香料または芳香性化合物を含む。
【0032】
予め選択された時間後、照射は、治療部位に適用されてエリスロシンBを活性化しそして細菌を殺す。活性化照射の好ましい波長は、500〜580nmであり、そしてさらに好ましくは約530nmである。照射は、非干渉照射例えばランプからのもの、または干渉レーザー照射である。表面または表面下の治療では、ランプは特定の感染された領域を照射するのに有効であり、一方身体内の深い感染された領域では、或る内部の領域を照射するのに必要に応じてディヒューザーまたは他の装置をさらに含む1つ以上の光ファイバーを含む光ファイバー装置が、レーザー照射をこれらの内部の領域に伝達するのに好ましい。好ましいレーザー源は、532nmレーザーを備えたダイオードである。
【0033】
本発明は、以下の実施例によりさらに説明されるが、それにより本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0034】
エリスロシンBによるStreptcoccus mutansの細菌細胞懸濁物の光力学不活性化
この研究に使用される生物は、Streptococcus mutans DSM6178(ATCC35668)であった。グラム陽性Streptococcus spec.は、齲歯の発生にともに関係している。
【0035】
Streptococcus mutans細胞は、Tryptic Soy Broth(Merck KGaA Darmstadt、ドイツ)中で37℃で一晩好気的に培養された。細胞を遠心分離によって採取し、そして10%の滅菌濾過した天然唾液を補給した滅菌リン酸塩緩衝塩水(PBS)に再懸濁した。すべての場合で1cmの路長で600nmでの最終のOD(光学密度)は0.05であった。ヒドロキシエチルセルロースのエリスロシンBゲル(1mM、2mM、3mMおよび8mMのエリスロシンB)約0.5mLを管の底に置いた。ゲルに0.5mLの細菌懸濁物を重ね、そして室温で穏やかに振盪しつつそれぞれ1、3または5分間曝した。露出後、250μLの懸濁物を新しい管に入れ、管を遠心分離し、上清を取り出し、そして細胞のペレットを250μLのPBS+10%の天然唾液(滅菌濾過)に再懸濁した。細菌懸濁物の一部200μLを、透明な底を有する滅菌ブラック96穴プレート(Costar(商標)3603、Corning Inc.米国)に入れ、そしてプレートの底から光ファイバーを経て30秒の照射時間で、0.0Wに設定された電力で、レーザーCeralas G2(Biolitec AG、ドイツ)532nmからの光に曝した。これらの設定に関するフルエンス率は、約0.1W/cm(Optometer P・9710、Gigaherz・Optik GmbH、Puchheim、ドイツで測定した)であった。使用した照明時間では、得られる全エネルギーフルエンスは、約3J/cmであった。
【0036】
暗(dark)毒性に関するコントロール試料は、レーザー光に曝されなかった。
【0037】
照明後、試料をプレートの穴から取り出し、Tryptic Soy Brothにより希釈し、そしてらせんプレーターEddy Jet(iul Instruments、Barcelonas、スペイン)を使用してTryptic Soyアガープレート上に置いた。コロニー形成単位の数(CFU/mL)を、コロニー計数計Counter Flash(iul Instruments、Barcelonas、スペイン)を使用して適切なインキュベーション後、数えた。
【0038】
実験の結果を図3に示す。
【0039】
エリスロシンBを含むゲルによるPDT治療による非常に良好な殺菌が観察された。抗菌効果は、暴露時間およびエリスロシンBの濃度に依存した。暗毒性は観察されなかった。
【実施例2】
【0040】
ボランティアの口腔におけるStreptococcus spec.の光力学による低下
25人のボランティアを5つのグループに分けた。すべてのボランティアに、穏やかなマッサージにより歯上に約2mLのエリスロシンB含有ゲルを適用した。2分間の暴露時間後、口腔を水で濯ぎ、そして歯を、光ファイバーを経る光アプリケーターによって、532nmレーザーCeralas G2(biolitec AG、ドイツ)からの光により照明した。照射時間は約3分間であった。4つの処理されたボランティアグループに関する照明のフルエンス率は、それぞれ約0.05、0.1、0.3および0.5W/cmであった。ボランティアのコントロールグループは照明されなかった。すべての処理は、口腔からの細菌の除去を避けるために、朝の通常の歯磨き前になされた。第一の処理前そしてすべての処理後、唾液の試料をSalivette(商標)管(Sarstedt Ag and Co.Nuembrecht、ドイツ)により採取し、唾液をSalivette管から取り出し、そしてTYCSBアガー(Streptococcus spec.に関する選択的培地)プレート上にらせんプレーターEddy Jet(iul Instruments、Barcelona、スペイン)を使用して接種した。コロニー形成単位の数(CFU/mL)を、コロニー計数計Countermat Flash(iul Instruments、Barcelona、スペイン)を使用することにより、好気的ワークステーション(Don Whithley Scientific Lim.Shipley、英国)で適切なインキュベーション後数えた。Streptococcus spec.について、唾液中の細菌の数は、歯のプラーク中の細菌の数と一致した。
【0041】
実験の結果を図4に示す。
【0042】
処理中の最良の殺菌効果は、0.3および0.5W/cmのフルエンス率による照明によって得られた。コントロールグループに比較したときの低下は、0.1および0.05W/cmによる照明のグループで見られた。
【0043】
図面を参照して本発明の好ましい態様を記述したが、本発明がそれらの態様に限定されずそして種々の変化および改変が請求の範囲の範囲または趣旨から離れることなく、当業者により実施できることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】グラム陽性の細菌細胞の細胞エンベロープの断面図である。
【図2】グラム陰性の細菌細胞の細胞エンベロープの断面図である。
【図3】エリスロシンB含有ゲルによるStreptococcus mutans DSM6178の光力学不活性化を示すグラフである。
【図4】エリスロシンB含有ゲルによる光力学不活性化後のStreptococcus spec.の生存を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
101 ペプチドグリカン細胞壁
103 ペプチドグリカン層
105 細胞膜
201 ペプチドグリカンの層
203 細胞膜
205 外側の膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.ゲル中の光増感剤としてエリスロシンBを含む組成物を生物学的表面上の治療域に導入する段階、
b.該治療域の細菌に該エリスロシンBを結合させるために予定された時間経過させる段階、
c.該治療域に予め選択された波長の照射を当てて、該エリスロシンBを活性化しそしてそれにより光力学反応を誘導して該細菌を殺す段階
からなり、そして複雑な媒体が該治療域に存在することを特徴とする病者の治療域の殺菌方法。
【請求項2】
該複雑な媒体が唾液である請求項1の殺菌方法。
【請求項3】
該治療域が、歯および舌背からなる群から選ばれた域上の細菌プラークである請求項1の殺菌方法。
【請求項4】
該治療域が齲歯である請求項1の殺菌方法。
【請求項5】
該予め選択された波長が約500nmと約580nmとの間である請求項1の殺菌方法。
【請求項6】
該予め選択された波長が約530nmである請求項1の殺菌方法。
【請求項7】
該組成物中の該エリスロシンBの濃度が、該組成物0.5mLあたり1mMより多い請求項1の殺菌方法。
【請求項8】
該組成物中の該エリスロシンBの濃度が、該組成物0.5mLあたり8mMである請求項1の殺菌方法。
【請求項9】
該予定された時間が少なくとも1分である請求項1の殺菌方法。
【請求項10】
該予定された時間が3分と5分との間である請求項9の殺菌方法。
【請求項11】
該予定された時間が少なくとも5分である請求項9の殺菌方法。
【請求項12】
該照射を適用する段階が非干渉ランプにより達成される請求項1の殺菌方法。
【請求項13】
該照射を適用する段階が、照射源に結合される光学伝達系により達成される請求項1の殺菌方法。
【請求項14】
該光学伝達系が少なくとも1つの光ファイバーである請求項13の殺菌方法。
【請求項15】
該照射が、非干渉照射および干渉レーザー照射からなる群から選ばれる請求項1の殺菌方法。
【請求項16】
該照射が、少なくとも約0.05W/cmのフルエンス率で適用される請求項1の殺菌方法。
【請求項17】
該フルエンス率が、約0.3W/cmと約0.5W/cmとの間である請求項16の殺菌方法。
【請求項18】
該照射の該適用時間が約3分である請求項16の殺菌方法。
【請求項19】
該治療域が歯および歯肉からなる群から選ばれる請求項1の殺菌方法。
【請求項20】
該組成物が、ヒドロキシエチルセルロースおよびプロピレングリコールからなる群から選ばれる物質をさらに含む請求項1の殺菌方法。
【請求項21】
エリスロシンBおよび該エリスロシンBを可溶化する成分を含むゲルを含むことを特徴とする生物学的表面の治療のための抗菌性光力学治療組成物。
【請求項22】
ヒドロキシエチルセルロースおよびプロピレングリコールからなる群から選ばれる物質をさらに含む請求項21の抗菌性光力学治療組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−509034(P2007−509034A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526191(P2006−526191)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/028726
【国際公開番号】WO2005/032459
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(502359666)セラムオプテック インダストリーズ インコーポレーテッド (20)
【Fターム(参考)】