説明

エリスロポエチン抵抗性を治療する方法

エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトが鉄キレート剤の投与によって治療される。ヒトは末期腎臓疾患、慢性腎臓疾患、癌または貧血を有しうる。鉄キレート剤の投与により、ヒトにおけるエリスロポエチン抵抗性症状が本質的に阻止または軽減されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2004年11月19日出願の米国仮特許出願第60/629,606号明細書の優先権を主張するものであり、その教示内容全体はその全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
赤血球生成(Erythropoiesis)は赤血球形成の過程である。赤血球は酸素を組織に運搬する。ヒトの心臓および肺は、赤血球の連続運動および酸素化をもたらすように機能する。ヒトでは、腎臓は血液中の低レベルの酸素を検出し、ホルモンであるエリスロポエチンの血流への放出によって応答しうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
腎不全はエリスロポエチンの欠乏状態を伴う可能性がある。末期腎疾患または慢性腎不全を有するヒトは、貧血をもたらすエリスロポエチンの低い血漿濃度を有する可能性がある。さらに、癌患者などの赤血球生成の低下に関連した症状に罹患した患者においても、エリスロポエチンが減少している可能性がある。組換えヒトエリスロポエチンを赤血球生成の低下した状態を有するヒトに投与することで、赤血球生成を刺激し、ひいては赤血球の産生を刺激することが可能である。しかし、ある種の患者はエリスロポエチン療法に応答しない。エリスロポエチン療法への不応答性は、例えば、鉄欠乏、感染、尿毒症、失血、二次性副甲状腺機能亢進症および特定の薬剤(例えば、インターフェロン、アンギオテンシンII型I受容体遮断薬)との相互作用に関連しうる(エクノヤン G.(Eknoyan G.)ら、New Engl J Med 349:210−219頁(2002年);アテス K.(Ates K.)ら、Kidney Int 60:767−776頁(2001年);ブラウン E.A.(Brown E.A.)ら、J Am Soc Nephrol 14:2948−2957頁(2003年))。現在、エリスロポエチン治療に抵抗性を示す患者にとって効果的な治療の選択肢は全くない。したがって、エリスロポエチン療法に抵抗性を示す患者を治療する、新規の改善された有効な方法を開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
本発明は、ヒトにおけるエリスロポエチン抵抗性を治療する方法に関する。
【0005】
一実施形態では、本発明は、鉄キレート剤をエリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトに投与するステップを含む、ヒトを治療するための方法である。
【0006】
別の実施形態では、本発明は、鉄キレート剤をエリスロポエチン抵抗性であるヒトに投与するステップを含む、ヒトにおけるエリスロポエチン抵抗性を本質的に阻止するための方法である。
【0007】
本明細書に記載の本発明は、エリスロポエチン抵抗性を治療するための方法を提供する。本発明の方法は、エリスロポエチン抵抗性を治療し、かつ最終的にヒトにおける赤血球生成を刺激するための有効な態様を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
発明の詳細な説明
本発明のステップまたは本発明の部分間の組み合わせとして、本発明の特徴およびその他の詳細について、ここではより詳細に記載されかつ特許請求の範囲において示される。本発明の特定の実施形態が実例として示され、本発明を限定するものとして示されないことは理解されるであろう。本発明の主な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく様々な実施形態において利用されうる。
【0009】
一実施形態では、本発明は、鉄キレート剤をエリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトに投与するステップを含む、ヒトを治療するための方法である。本明細書で用いられる「エリスロポエチン抵抗性症状」は、末期腎臓疾患、慢性腎臓疾患、癌または貧血を有するヒトなど、赤血球生成が低下した状態を有するヒトが、組換えエリスロポエチンのエポエチンα(アムジェン(Amgen,Corp.)、Thousand Oaks、カリフォルニア州)などのエリスロポエチンの投与に対する低下したまたは欠陥のある応答性を有することを意味する。エリスロポエチンに対する低下したまたは欠陥のある応答性は赤血球生成の低下を招き、これはエリスロポエチン抵抗性症状を有しないヒトと比べた場合のヘマトクリットの低下およびヘモグロビンの減少によって評価可能である。
【0010】
エリスロポエチン抵抗性は、エリスロポエチン抵抗性指数(ERI)によっても評価可能である。ERIはヒトに投与されたエリスロポエチン用量の週平均をヒトの平均ヘマトクリット値またはヒトの平均ヘモグロビンレベルで除したものとして算出される。特定の因子がエリスロポエチン抵抗性に関連していて、例えば、鉄欠乏、感染、炎症、失血、ビタミン欠乏および栄養不良を含んでいる。
【0011】
「エリスロポエチン抵抗性症状」は、「エリスロポエチン抵抗性」、「エリスロポエチンへの抵抗性」または「エリスロポエチン抵抗性を示す」としても本明細書で示される。「エリスロポエチン」は、「赤血球生成ホルモン」、「ヘマトポエチン」および「ヘモポエチン」としても示される。
【0012】
一般に、エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトは、エリスロポエチンが赤血球生成を刺激しているという徴候(例えば、ヘマトクリット(Hct)レベルの上昇、ヘモグロビン(Hgb)レベルの上昇)がもたらされるためには、赤血球産生に対する効果が最小の顕著に低いレベルであっても、皮下におよそ1週、1kg体重当たり300単位(300U/kg/週)または静脈内に約450U/kg/週を超える用量のエリスロポエチンを必要とする(NKF−K/DOQI Clinical Practice Guidelines for Anemia of Chronic Kidney Disease:Am J Kidney Dis 37:S182−238頁(2001年);ホール W.H.(Horl W.H.)ら、Nephrol Dial Transplant 15 Suppl 4:43−50頁(2000年))。一般に、エリスロポエチン抵抗性を示さない、エリスロポエチン療法を受診中のヒトは、約80〜120U/kg/週のエリスロポエチンを必要とする(NKF−K/DOQI Clinical Practice Guidelines for Anemia of Chronic Kidney Disease:Am J Kidney Dis 37:S182−238頁(2001年))。エリスロポエチン用量の増加により、医療費が増大し、血圧に対する有害作用および死亡を含む健康リスクの増大をもたらしうる(チャン Y.(Zhang Y.)ら、Am.J.Kidney Diseases 44:866−876頁(2004年);ヴァジリ N.D.(Vaziri N.D.)、Am.J.Kidney Dis.33:821−828頁(1999年))。
【0013】
新たな赤血球を形成する過程である赤血球生成は、鉄およびエリスロポエチンを必要とする。エリスロポエチンはヒトにおける低い酸素レベルに応答して腎臓によって分泌され、かつ鉄は赤血球を産生するためのエネルギー源である。鉄が欠乏しているヒトは貧血であるが、エリスロポエチンに応答した血液骨髄による使用のために鉄が利用されないからである。
【0014】
溶血性貧血、特発性再生不良性貧血、特発性自己免疫性溶血性貧血または免疫性溶血性貧血など、慢性疾患の貧血を有するヒトは、鉄を赤血球生成における使用のために貯蔵鉄(iron stores)から有効に移動させることができない(ジュラド R.L.(Jurado R.L.)、Clin Infect Dis 25:888−895頁(1997年);ヨンゲン・ラブレンシック M.(Jongen−Lavrencic M.)ら、Clin Exp Immunol 103:328−334頁(1996年);ヴァン・ガメレン M.M.(van Gameren M.M.)ら、Blood 84:1434−1441頁(1994年);スクーレイ J.C.(Schooley J.C.)ら、Br J Haematol 67:11−17頁(1987年))。鉄キレート剤のデフェリプロンの投与により、赤血球生成の臨床マーカーであるヘモグロビンが増加しうる(ブルーデンヒル G.(Vreugdenhil G.)ら、Lancet 2:1398−1399頁(1989年);アル・レファイエ F.N.(al−Refaie F.N.)ら、Recent Adv Hematol 7:185−216頁(1993年))。したがって、鉄キレート剤のエリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトへの投与により、ヒトへのエリスロポエチン投与に応答する赤血球生成での使用のために鉄が貯蔵鉄から(例えば細網内皮系から)移動し、それによりヒトにおけるエリスロポエチン抵抗性症状が治療されかつヒトにおける赤血球が増加するようになると考えられている。
【0015】
エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトは末期腎疾患を有する可能性がある。末期腎疾患(end−stage kidney disease)とも称される末期腎疾患(end−stage renal disease)(ESRD)は、老廃物を排出し、尿を濃縮しかつ電解質を調節するための腎臓の機能における完全またはほぼ完全な障害である。ESRDは腎臓が日常生活に必要なレベルでもはや機能できない場合に発症する。ESRD(または慢性腎疾患、貧血もしくは癌、下記参照)を有するヒトは、腎臓が低レベルの酸素を検出できずかつエリスロポエチンを放出できない点に起因してエリスロポエチンが欠乏しうる。さらに、エリスロポエチン抵抗性を示すESRDを有するヒトは、赤血球生成において鉄が利用されていない状態であることから高レベルの貯蔵鉄を有する可能性がある。鉄の過負荷は、心臓血管疾患および早期死亡を含む重篤な健康危機を招く可能性がある。
【0016】
一般にESRDは、腎機能が正常で無病状態(disease−free)の腎臓の約10%未満に至るほど慢性腎不全が進行する際に発症する。ESRDでは腎機能が著しく低下していることから、透析または腎臓移植を行わないと、合併症が複数かつ重症である結果、体内での体液および老廃物の蓄積から死を招く。
【0017】
ESRDの最も一般的な原因は糖尿病である。一般に、ESRDは慢性腎不全の後に発症し、慢性腎不全はESRDへの進行に先立ち2〜20年またはそれより長期間存続しうる。ESRDの徴候には、例えば、意図しない体重減少、悪心または嘔吐、全身違和感(general ill feeling)、疲労、頭痛、尿量減少、内出血のしやすさまたは易出血性、嘔吐物中または便中の血液、クレアチニンおよび血液尿素窒素(BUN)レベルの上昇ならびにクレアチニンクリアランスの減少が含まれうる。
【0018】
腎臓透析(血液透析)または腎臓移植はESRDのための治療法である。本明細書に記載の方法によって治療されるESRDを有するヒトは、腎臓透析を受けつつあるまたは腎臓移植を受けている可能性がある。ヒトに鉄キレート剤を投与するのは、腎臓透析または腎臓移植の前、それらの間およびそれらの後であってもよい。
【0019】
ESRDの合併症として、例えば、貧血、心膜炎、アテローム硬化症、ならびに心筋梗塞、心タンポナーデ、鬱血性心不全、左心室肥大、高血圧、血小板機能異常症、胃腸出血、十二指腸潰瘍または消化性潰瘍、出血、感染および死亡などの予後が挙げられる(シルバーバーグ D.(Silverberg D.)ら、Curr Opin Nephrol Hypertens 13:163−170頁(2004年);ハンプル H.(Hampl H.)ら、Clin Nephrol 58 Suppl 1:S73−96頁(2002年);レビン A.(Levin A.)ら、Am J Kidney Dis 36:S24−30頁(2000年);フォレイ R.N.(Foley R.N.)ら、Am J Kidney Dis 28:53−61頁(1996年);マ J.Z.(Ma J.Z.)ら、J Am Soc Nephrol 10:610−619頁(1999年))。本明細書に記載の本発明の方法は、エリスロポエチンへの抵抗性を軽減しかつヒトにおける貯蔵鉄を移動させることによって赤血球生成を刺激することにより、ESRDの合併症を予防または軽減しうる。
【0020】
血液透析中のヒトは、十分な貯蔵鉄を有するにもかかわらず、エリスロポエチンへの応答性が悪い可能性がある。推奨される約11グラム/dL〜約12グラム/dLのヘモグロビンおよび/または全血液の約33%〜約36%のヘマトクリットが得られないこと、貧血、および炎症および酸化ストレス、ならびに頚動脈内膜−中膜の厚み(carotid intima−medial thickness)の増大に関連しているより高用量の鉄を必要とする可能性を含むこれらのエリスロポエチン抵抗性を示す患者では、有害な予後が生じる場合がある。
【0021】
エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトは慢性腎疾患(CKD)を有する可能性がある。慢性腎疾患は、腎臓における老廃物の排出、尿の濃縮および電解質の保持を行う能力の緩徐進行性の喪失である。慢性腎疾患は、慢性腎不全(chronic renal insufficiency)および慢性腎不全(chronic kidney failure)とも称される。突発性の可逆的な腎機能不全を有する急性腎不全と異なり、慢性腎不全は緩徐に進行する。慢性腎疾患は、腎機能の緩徐な喪失をもたらす任意の疾患から発症し、腎臓の軽度機能障害から重度の腎不全に及ぶ可能性がある。慢性腎疾患は、ESRDになるまで進行を持続しうる。腎臓の内部構造が緩徐に障害されることから、通常、慢性腎疾患は長年にわたり発症する。慢性腎疾患の徴候である臨床パラメータには、クレアチニンレベルの上昇、血液尿素窒素(BUN)レベルの上昇、クレアチニンクリアランスの減少および糸球体濾過率(GFR)の低下が含まれる。
【0022】
慢性腎不全を誘発する疾患には、例えば、糖尿病、糸球体腎炎、高血圧、尿路閉塞(obstruction to the urinary tract)および多発性嚢胞腎が含まれうる。慢性腎疾患の合併症または予後には、例えば、貧血、高血圧、鬱血性心不全および炎症が含まれる。本明細書に記載の本発明の方法は、慢性腎疾患を有するヒトにおけるエリスロポエチンに対する抵抗性を軽減することによって赤血球生成を刺激することにより、重症度を低下させるまたはかかる合併症または予後を軽減しうる。
【0023】
本明細書では、ヒトは患者または被験者としても示される。
【0024】
別の実施形態では、エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトは、上皮癌(例えば、乳癌、皮膚癌)、骨髄癌、結合組織癌、神経系癌などの癌を有する。癌は、例えば化学療法または放射線治療による赤色骨髄の減少の結果として赤血球生成の低下をもたらす可能性がある。癌を有しかつエリスロポエチン抵抗性を示すヒトは、化学療法治療、放射線治療、幹細胞置換治療などの癌治療を受診中でありうる。
【0025】
本発明の方法によって治療される、エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトは貧血でありうる。貧血は、ヒトにおけるESRD、慢性腎疾患、癌、原因不明の貧血または慢性疾患に起因する貧血に関連しうる。貧血は、特に腎臓置換療法として血液透析を受けているヒトでの慢性腎疾患およびESRDに共通の合併症である(チャン Y.(Zhang Y.)ら、Am.J.Kidney Diseases 44:866−876頁(2004年))。
【0026】
エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトにおける重度の貧血は、鉄キレート剤のヒトへの投与後には本質的に阻止、軽減または正常化されうる。貧血に関連して本明細書で用いられる「本質的に阻止される(essentially halted)」とは、ヒトにおいて貧血が長期にわたり(例えば、数日、数週間、数か月、または数年)進行しないことを示す。貧血に関連して本明細書で用いられる「軽減される(diminished)」とは、ヒトにおいて鉄キレート剤の投与後に貧血が軽減することを意味する。ヒトにおける貧血および貧血の阻止を測定するための血液パラメータは、例えば、鉄キレート剤による治療前後におけるヘモグロビンレベルおよびヘマトクリットレベルを含む。エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトへの鉄キレート剤の投与後に得られる、エリスロポエチン抵抗性症状を有しないヒトにおいて観察される大体のヘモグロビンおよび/またはヘマトクリットレベル(各々、約11g/dL〜約12g/dLおよび約33%〜約36%、または治療前のヒトにおいて観察される値より低い値)は、貧血が本質的に阻止、軽減または正常化されることを示す。
【0027】
受信者動作特性(receiver operative characteristic:ROC)を用いて重度の貧血を評価してもよい(ヘモグロビン<10gm/dL)(グリーンウッド R.N.(Greenwood R.N.)ら、Kidney Int Suppl:S78−86頁(2003年))。最近のESRD Clinical Performance Measures Project(DHHS:2003 Annual Report:Am J Kidney Dis 44:S28−S32(2004年))では、約20%のESRD患者におけるヘモグロビンが11gm/dL未満であったことや現在エリスロポエチン抵抗性を示すことから同抵抗性を示していた。
【0028】
慢性疾患の貧血では、赤血球生成において貯蔵鉄から鉄を移動させることができない。鉄キレート剤のデフェリプロンは、貯蔵鉄タンパク質であるフェリチンおよびヘモジデリン(コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.)ら、Biochem J 241:87−92頁(1987年))を含む貯蔵鉄から鉄を移動させることが可能であり(アル・レファイエ F.N.(al−Refaie F.N.)ら、Recent Adv Hematol 7:185−216頁(1993年);ブルーデンヒル G.(Vreugdenhil G.)ら、Ann Rheum Dis 49:956−957頁(1990年))、鉄飽和トランスフェリンおよびラクトフェリン(コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.)、Biochemica et Biophysica Acta 882:267−270頁(1986年))からの、鉄キレート剤デフェロキサミンの場合とは異なる。フェリチンおよびヘモジデリンからの鉄の移動は緩徐であり、数日かかる可能性がある一方(コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.)、Inorg Chim Acta 138(1987年))、トランスフェリンおよびラクトフェリンからの鉄の移動は数時間以内に完了する(コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.)、Biochemica et Biophysica Acta 882:267−270頁(1986年);コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.)、Biochim Biophys Acta 869:141−146頁(1986年))。
【0029】
デフェリプロンは、細網内皮および肝細胞プールの双方から鉄を移動させることが可能である(バーマン・バルフォー J.A.(Barman Balfour J.A.)ら、ADIS Drug Evaluation 58:553−578頁(1999年))。エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトでは、鉄キレート剤の投与後に赤血球生成での使用のために貯蔵鉄が移動する結果、赤血球数が増加する可能性があると考えられる。
【0030】
本発明の方法によって治療される、エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトは、炎症を有する可能性がある。一般に炎症は、有害物質および損傷組織を破壊、希釈または隔離する組織の損傷または破壊によって誘発される限局性の保護応答である。エリスロポエチン抵抗性は炎症症状に関連することが多い。炎症過程では、急性ではエリスロポエチンに一時的な抵抗性がもたらされるまたは慢性ではエリスロポエチンに対して応答性が悪い状態が持続する可能性がある。エリスロポエチン抵抗性を有するヒトへの鉄キレート剤の投与により、炎症が低減しうる。
【0031】
エリスロポエチン抵抗性を有するヒトは、全身性炎症または炎症への急性期応答を有する可能性がある。全身性炎症は体全体の炎症である。
【0032】
エリスロポエチン抵抗性を有するヒトは、炎症に対する急性期応答を有しうる。炎症の急性期応答を、例えば、ヒトの血液試料中での(正の急性期反応物質と称される)C−反応性タンパク質(CRP)、インターロイキン−6、腫瘍壊死因子−α、アミロイドA、フェリチン、フィブリノーゲン、α1−抗トリプシンおよびハプトグロビンの増加によって評価することが可能である。正の急性期反応物質の濃度における上昇は、急性期応答を有しない、性別、健康状態および他の適切な変数に適度に適合したヒトにおける正の急性期反応物質の濃度を基準とする(カランター・ザデー K.(Kalantar−Zadeh K.)ら、Am.J.Kidney Diseases 42:864−881頁(2003年))。炎症への急性期応答では、負の急性期反応物質と称される他のタンパク質(例えば、アルブミン、トランスフェリン、プレアルブミン、コレステロール、レプチン、ヒスチジン)の合成が低下する(カランター・ザデー K.(Kalantar−Zadeh K.)ら、Am.J.Kidney Diseases 42:864−881頁(2003年))。
【0033】
エリスロポエチン抵抗性を示す、腎臓透析中のヒトは、酸化ストレスおよび炎症を増大させている可能性がある。エリスロポエチン抵抗性を有するヒトへの鉄キレート剤の投与により、炎症および酸化ストレスが低減するか正常化し、かつ赤血球生成において鉄が移動する可能性がある。貧血、炎症または酸化ストレスに関連して本明細書で用いられる「正常化する」は、エリスロポエチン抵抗性を有しないヒトにおいて観察される値に近づく変化を意味する。本明細書に記載の方法によって治療されたヒトから採取された血液試料中での、例えば、CRP、インターロイキン−6、腫瘍壊死因子−α、アミロイドA、フェリチン、フィブリノーゲン、α1−抗トリプシンおよびハプトグロビンの量が、本明細書に記載の本発明の方法による治療に先立つヒトから採取された血液試料の場合と比べて減少することにより、炎症の低減を評価することが可能である。
【0034】
エリスロポエチン抵抗性を有するヒトは、例えば推奨されたヘマトクリットを得ることができず、それ故に貧血でありうる(シルバーバーグ D.(Silverberg D.)ら、Curr Opin Nephrol Hypertens 13:163−170頁(2004年);ハンプル H.(Hampl H.)ら、Clin Nephrol 58 Suppl 1:S73−96頁(2002年);レビン A.(Levin A.)ら、Am J Kidney Dis 3:S24−30頁(2000年);オリオーダン E.(O'Riordan E.)ら、Nephrol Dial Transplant 15 Suppl 3:19−22頁(2000年);NKF−K/DOQI Clinical Practice Guidelines for Anemia of Chronic Kidney Disease:Am J Kidney Dis 37:S182−238頁(2001年);ホール W.H.(Horl W.H.)ら、Nephrol Dial Transplant 15 Suppl 4:43−50頁(2000年))。貧血には高用量の鉄のヒトへの投与が必要であり、それは炎症および酸化ストレスに関連しており(サラフディーン A.K.(Salahudeen A.K.)ら、Kidney Int 60:1525−1531頁(2001年);アガルヴァル R.(Agarwal R.)ら、Semin Nephrol 22:479−487頁(2002年);パルキネン J.(Parkkinen J.)ら、Nephrol Dial Transplant 15:1827−1834頁(2000年);アラム M.G.(Alam M.G.)ら、Kidney Int 66:457−458頁(2004年))、かつ頚動脈内膜−中膜の厚みを増大させている可能性がある(ドルエケ T.(Drueke T.)ら、Circulation 106:2212−2217頁(2002年);ヒメルファーブ J.(Himmelfarb J.)ら、Kidney Int 62:1524−1538頁(2002年))。鉄の投与は、ESRD患者における心臓死の増加に関連している(ベサラブ A.(Besarab A.)ら、N Engl J Med 339:584−590頁(1998年);ベサラブ A.(Besarab A.)ら、J Am Soc Nephrol 10:2029−2043頁(1999年))。
【0035】
CKDを有するヒトでは、炎症および酸化マーカーのレベルも増大している可能性がある(ハンデルマン G.J.(Handelman G.J.)ら、Kidney Int 59:1960−1966頁(2001年);グエン・コア T.(Nguyen−Khoa T.)ら、Nephrol Dial Transplant 16:335−340頁(2001年);オバーグ B.P.(Oberg B.P.)ら、Kidney Int 65:1009−1016頁(2004年))。この炎症状態は、心血管イベント(オーウェン W.F.(Owen W.F.)ら、Kidney Int 54:627−636頁(1998年);キチヤカラ C.(Kitiyakara C.)ら、Curr Opin Nephrol Hypertens 9:477−487頁(2000年);マッシー S.A.(Massy S.A.)ら、Nephrol Dial Transplant 18:153−157頁(2003年);ボロガ R.M.(Bologa R.M.)ら、Am J Kidney Dis 32:107−114頁(1998年);ヨン J.Y.(Yeun J.Y.)ら、Am J Kidney Dis 35:469−476頁(2000年);ステンビンケル P.(Stenvinkel P.)ら、Kidney Int 55:1899−1911頁(1999年))およびエリスロポエチン抵抗性(カランター・ザデー K.(Kalantar−Zadeh K.)ら、Am J Kidney Dis 42:761−773頁(2003年);マクドーガル I.C.(Macdougall I.C.)ら、Nephrol Dial Transplant 17 Suppl 11:39−43頁(2002年);ステンビンケル P.(Stenvinkel P.)ら、Nephrol Dial Transplant 17 Suppl 5:32−37頁(2002年);ガネル J.(Gunnell J.)ら、Am J Kidney Dis 33:63−72頁(1999年);ゴイコエチェア M.(Goicoechea M.)ら、Kidney Int 54:1337−1343頁(1998年);マクドーガル I.C.(Macdougall I.C.)ら、Nephrol Dial Transplant 17 Suppl 1:48−52頁(2002年);カトウ A.(Kato A.)ら、Nephrol Dial Transplant 16:1838−1844頁(2001年);バラニー P.(Barany P.)、Nephrol Dial Transplant 16:224−227頁(2001年);バラニー P.(Barany P.)ら、Am J Kidney Dis 29:565−568頁(1997年);カランター・ザデー K.(Kalantar−Zadeh K.)ら、Adv Ren Replace Ther 10:155−169頁(2003年))を含む、尿毒症の数種の合併症に関与している(メッツァーノ D.(Mezzano D.)ら、Kidney Int 60:1844−1850頁(2001年);サルナク M.J.(Sarnak M.J.)ら、Kidney Int 62:2208−2215頁(2002年))。鉄キレート剤の投与は、エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトにおいて酸化ストレスおよび炎症の低減を招く可能性がある。
【0036】
貧血は炎症から発症しうる。慢性炎症性疾患に罹患したヒトでは、たとえ腎機能が正常であっても貧血が観察されることが多い(ヴォウルガリ P.V.(Voulgari P.V.)ら、Clin Immunol 92:153−160頁(1999年))。炎症は、鉄欠乏、低レベルの血清鉄およびトランスフェリン、ならびに血清フェリチンレベルの上昇に関連する。かかる慢性炎症性疾患に罹患したヒトでは、細網内皮細胞から造血細胞への血清鉄の送達が阻害されるか遮断される。急性期反応物質でもある血清フェリチンは、炎症に応答して2〜4倍に増加する。TNF−αおよびIL−1などのサイトカインもまた、直接的かつ間接的に(肝細胞内での鉄の取り込みを増大させることによって)フェリチン合成を刺激し、これにより貯蔵鉄プールが増加する。
【0037】
上述したように、腎疾患を有するヒトでは酸化ストレスおよび炎症が亢進している。金属触媒によるハーバーワイス反応と一般に称される反応での反応性の高いヒドロキシルラジカル(またはそれに関連する酸化力の高い種)を含む、追加的なより反応性の高い酸化剤の生成において、鉄は重要な役割を果たす(ハリウェル B.(Halliwell B.)ら、Meth Enzymol 186:1−85頁(1990年))。
【化1】

【0038】
鉄は、初期酸素ラジカルからヒドロキシルラジカルへの変換を触媒するまたはパーフェリル(perferryl)イオンを形成することによる脂質過酸化の開始および伝搬においても重要な役割を果たす。さらに鉄は、多価不飽和脂質の酸化反応である脂質過酸化を、オルガネラ膜の脂質二重層における多価不飽和脂肪酸から水素原子を除去することによって直接触媒しうる。鉄は、赤血球生成の過程における成熟赤血球の形成にとって不可欠である。
【0039】
鉄キレート剤の使用は、酸化ストレスおよび炎症の顕著な低減を招く可能性がある(マシューズ A.J.(Matthews A.J.)ら、J Surg Res 73:35−40頁(1997年);ダフィー S.J.(Duffy S.J.)ら、Circulation 103:2799−2804頁(2001年);ボエスト E.E.(Voest E.E.)ら、Ann Intern Med 120:490−499頁(1994年))。炎症はエリスロポエチン抵抗性に関与している。鉄キレート剤は、炎症を低減することにより、エリスロポエチン抵抗性の治療における利点をもたらすであろう。
【0040】
炎症の低減により、他の有益な効果がもたらされうる。エリスロポエチン抵抗性を有しないヒトを含んでいるが、炎症は高い心血管疾患イベントに関連している(ボエスト E.E.(Voest E.E.)ら、Ann Intern Med 120:490−499頁(1994年);ロス R.(Ross R.)ら、Am J Nephrol 21:176−178頁(2001年))。CRP、TNF−α、IL−IおよびIL−6レベルの上昇によって特徴づけられる、ESRDを有する患者における軽度の炎症は、生存患者の減少(ボロガ R.M.(Bologa R.M.)ら、Am J Kidney Dis 32:107−114頁(1998年);ヨン J.Y.(Yeun J.Y.)ら、Am J Kidney Dis 35:469−476頁(2000年))、頚動脈内膜−中膜の厚みの増大、アテローム硬化症(カトウ A.(Kato A.)ら、Am J Nephrol 21:176−178頁(2001年);カトウ A.(Kato A.)ら、Kidney Int 61:1143−1152頁(2002年);ステンビンケル P.(Stenvinkel P.)ら、Am J Kidney Dis 39:274−282頁(2002年)、および栄養不良(カランター・ザデー K.(Kalantar−Zadeh K.)ら、Am J Kidney Dis 42:761−773頁(2003年);カランター・ザデー K.(Kalantar−Zadeh K.)ら、Adv Ren Replace Ther 10:155−169頁(2003年);イキツラー T.A.(Ikizler T.A.)ら、Kidney Int 55:1945−1951頁(1999年))に関連している。鉄キレート剤の投与後、尿毒症および心血管疾患と同様に、炎症を評価することが可能である。
【0041】
透析患者では鉄キレート剤が使用されている(アブレオ K.(Abreo K.)、Sem Dialysis 1:55−61頁(1988年);アルトマン P.(Altman P.)ら、Lancet 1:1012−1015頁(1988年))。エリスロポエチンの使用前に、輸血に起因する鉄過負荷状態の血液透析患者における鉄をキレートするために、鉄キレート剤デフェロキサミンが使用された(スティヴェルマン J.(Stivelman J.)ら、Kidney Int 36:1125−1132頁(1989年);ハキム R.M.(Hakim R.M.)ら、Am J Kidney Dis 10:293−199頁(1987年))。従来、高リン血症(hyper−phospotemia)において使用されることが多かったアルミニウムをキレートするためにも、エリスロポエチンは使用された(アルトマン P.(Altman P.)ら、Lancet 1:1012−1015頁(1988年);アブレオ K.(Abreo K.)、Sem Dialy 1:55−61頁(1988年))。デフェリプロンを使用してアルミニウム過負荷および鉄過負荷が治療されている。デフェリプロンの経口投与から最初の1時間以内に、約90%の血漿中アルミニウムの平均的増加が観察されており、これはデフェリプロンのアルミニウムに対する移動能を示している(コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.)ら、Drug Safety 26:553−584頁(2003年))。さらに、デフェリプロン鉄錯体は透析可能であり、これはこの錯体またはデフェリプロンが血液透析患者内に蓄積しにくいことを示している(コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.)ら、Drug Safety 26:553−584頁(2003年))。デフェリプロンの副作用は知られている(コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.)ら、Drug Safety 26:553−584頁(2003年))。
【0042】
鉄キレート剤の投与後、エポエチン抵抗性指数(wk/Hgb当たりのエポエチン用量)における平均変化が評価される。エポエチン抵抗性指数についてはガネル J.(Gunnell J.)らによって記載され(ガネル J.(Gunnell J.)ら、Am J Kidney Dis 33:63−72頁(1999年))、それはエポエチン抵抗性の評価として十分に認められたものである。エポエチン抵抗性は、エポエチン用量およびヘモグロビン/ヘマトクリットレベルという2つの要素(変数)を有する。エポエチン抵抗性において修飾につながる介入により、エポエチン用量の変化、Hgb/Htcレベルの変化またはそれら双方が生じる可能性がある。転帰変数として、ただ1つの変数(エポエチン用量またはHtc)を単独で使用しても介入の効果を評価することは可能ではない。ガネル(Gunnell)は、Htcに対するエリスロポエチンの用量比(例えばエポエチン/Htc)(%)を用い、エポ−応答性指数(epo−responsiveness index)またはエリスロポエチン抵抗性指数と称されるエポエチン抵抗性を評価した。
【0043】
EPIにおいて、体重[エポ/(重量×Hgb)]、ヘモグロビン、静脈内鉄所要量、およびエポエチン用量については標準化可能である。鉄キレート剤の投与後、CRP、TNF−α、IL−1、およびIL−6などの炎症マーカーの測定も可能である。酸化ストレス用マーカーとしてイソプラスタンレベルを測定してもよい。イソプラスタンは、主に、反応性のある酸化剤種によるアラキドン酸の非酵素的変化から生成し、インビボにおける酸化ストレスの重要なバイオマーカーであることが明らかになっている(ロバーツ L.J.I.(Roberts L.J.I.)ら、Cell Mol Life Sci 59:808−820頁(2002年);モロー J.D.(Morrow J.D.)、Drug Metab Rev 32:377−385頁(2000年)(レビューとして参考文献(ロバーツ L.J.I.(Roberts L.J.I.)ら、Cell Mol Life Sci 59:808−820頁(2002年))を参照))。最近の研究では、酸化ストレスのマーカーとして8−イソプラスタン(8−エピPGF2a)が広く使用されている(フォルジオーネ M.A.(Forgione M.A.)ら、Circulation 106:1154−1158頁(2002年);レボーネン A.L.(Levonen A.L.)ら、Biochem J 378:373−382頁(2004年);イシズカ T.(Ishizuka T.)ら、J Cardiovasc Phar−macol 141:571−578頁(2003年);ブラウルト S.(Brault S.)ら、Stroke 34:776−782頁(2003年))。
【0044】
「鉄キレート剤」とは、Fe3+またはFe2+の鉄と相互作用することで、Fe3+由来の触媒鉄の形成に対する防止能、あるいは、ヒドロキシルラジカルを生成しうるハーバーワイス反応(上記)もしくは任意の他の反応における鉄(Fe3+もしくはFe2+)の相互作用、効果または関与に対する防止能、阻害能または干渉能を有する任意の分子を示す。鉄キレート剤とFe3+、Fe2+もしくはそれら双方の鉄との間の相互作用は、例えば、結合相互作用、立体障害の結果としての相互作用または鉄と鉄キレート剤の間の任意の相互作用でありうる。鉄キレート剤は、例えば、Fe3+からFe2+への変換を防止することにより、ハーバーワイス反応における過酸化水素の減少およびヒドロキシルラジカルの形成を間接的に防止しうる。あるいは、または加えて、鉄キレート剤は、Fe2+と直接的に相互作用することで、例えばハーバーワイス反応におけるヒドロキシルラジカルの形成を防止しうる。
【0045】
鉄キレート剤は、天然もしくは非天然(例えば、天然で発見されていない)アミノ酸を含むペプチド、ポリエチレングリコールカルバメート、親油性もしくは非親油性ポリアミノカルボン酸、ポリアニオンアミンまたは置換されたポリアザ化合物でありうる。鉄キレート剤は、デフェリプロン(1,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−ピリド−4−1)L1、デスフェリチオシン、ヒドロキシベンジル−エチレンジアミン−二酢酸およびピリドキサルイソニコチノイルヒドラゾンからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーでありうる。鉄キレート剤は、
【化2】


【化3】


からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーでありうる。鉄キレート剤は市販されているもしくは合成されうる、または通常の手順を用いて生物源から精製されうる。
【0046】
いくつかの参考文献では、鉄キレート剤に関する典型的な説明および考察が認められる。例えば、米国特許第5,047,421号明細書(1991年);米国特許第5,424,057号明細書(1995年);米国特許第5,721,209号明細書(1998年);米国特許第5,811,127号明細書(1998年);オリビエリ N.F.(Olivieri N.F.)ら、New Eng.J.Med.332:918−922頁(1995年);ボイス N.W.(Boyce N.W.)ら、Kidney International.30:813−817頁(1986年);コントギオルゲス G.J.(Kontoghiorghes G.J.) Indian J.Peditr.60:485−507頁(1993年);ヘルシュコ C.(Hershko C.)ら、Brit.J.Haematology 101:399−406頁(1998年);ロウザー N.(Lowther N.)ら、Pharmac.Res.16:434頁(1999年);コーヘン A.R.(Cohen A.R.)ら、Am.Soc.Hematology 14−34頁(2004年));米国特許第6,993,104号明細書(2005年);米国特許第6,908,733号明細書(2005年);米国特許第6,906,052号明細書(2005年)が挙げられ、これらすべての教示内容は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0047】
「有効量(amount effective)」は、鉄キレート剤の量を示す場合には、エリスロポエチン抵抗性を有するヒトに投与される場合、治療有効性にとって十分である鉄キレート剤の量(本明細書では用量とも称される)(例えば、エリスロポエチン抵抗性を軽減するもしくは取り除く、または赤血球生成を刺激するのに十分な量)として定義される。
【0048】
一実施形態では、鉄キレート剤は単回投与される。別の実施形態では、鉄キレート剤は複数回投与される。鉄キレート剤をヒトでの約10mg/kg〜約150mg/kg体重、ヒトでの約20mg/kg体重およびヒトでの約150mg/kg体重の用量で経口的に投与してもよい。特定の実施形態では、鉄キレート剤は、ヒトでの約20mg/kg体重〜ヒトでの約150mg/kg体重の範囲内の用量で1日3回投与される。
【0049】
赤血球生成が低下しているヒトにおいてエリスロポエチンの投与に対して応答がないと、赤血球の減少、ヘマトクリットの低下およびヘモグロビンの減少がもたらされる。エリスロポエチン抵抗性を有するヒトには、グルコン酸鉄および鉄スクロースなどの鉄源が投与されることが多い。別の実施形態では、本発明の方法は、鉄(例えば、グルコン酸鉄、鉄スクロース)をエリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトに投与するステップをさらに含む。ヒトが鉄で治療を受けている日に、鉄キレート剤がヒトに投与されることはないであろう。ヒトの血液試料中の鉄の量を測定し、かつ鉄キレート剤および外来の鉄源の用量を必要に応じて調節してもよい。当業者であれば、ヒトの赤血球生成における使用にとって利用可能な十分な量の鉄を達成するためにヒトに投与されるべき鉄および鉄キレート剤の用量を調節することができるであろう。
【0050】
エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトを鉄キレート剤で治療する方法は、赤血球生成制御因子をヒトに投与するステップをさらに含みうる。本明細書で用いられる「赤血球生成制御因子」とは、ヒトにおける赤血球生成を改変する化合物(例えばタンパク質、ペプチド)を示す。赤血球生成制御因子はヒトにおける赤血球生成を刺激しうる。赤血球生成制御因子は、ヒトにおける赤血球生成を低下または阻害しうる。赤血球生成制御因子のヒトへの投与は、鉄キレート剤の投与前、投与の間(同時ともいえる)および投与後であってもよい。当業者であれば、ヒトに投与される場合の赤血球生成制御因子の用量を調節することができるであろう。
【0051】
特定の実施形態では、組換えヒトエリスロポエチン(エポエチンα;EPOGEN(登録商標);アムジェン(Amgen,Inc.)、Thousand Oaks、カリフォルニア州)が、本発明の方法によって治療中のエリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトに投与される。
【0052】
ヒトに鉄キレート剤の投与後に投与される赤血球生成制御因子の用量は、ヒトに鉄キレート剤の投与に先立って投与される赤血球生成制御因子の用量よりも少なくてよい。上述したように、鉄キレート剤のエリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトへの投与により、例えば赤血球生成における使用のための細網内皮系からの貯蔵鉄がキレートされることになると考えられている。さらに上述したように、エリスロポエチンの用量における約300U/kg/週を超える増加が負の副作用を有しうることからそれは望ましくない可能性がある。したがって、エリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトの治療によってエリスロポエチンの用量を増加させる必要がなくなる結果、エリスロポエチンの用量が一般にエリスロポエチンに抵抗性を示さないヒトに投与される範囲内に収まりうる(例えば、約80U/kg/週〜約120U/kg/週)。
【0053】
上述したように、エリスロポエチン抵抗性を、ERIを算出することによって測定してもよい。ERIの算出は、鉄キレート剤のエリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトへの投与前、投与の間および投与後であってもよい。したがって、本明細書に記載の本発明の方法は、ヒトにおけるヘモグロビンレベルおよびヘマトクリットレベルからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーにおける変化に関連して赤血球生成制御因子の用量を測定するステップをさらに含みうむ。
【0054】
本発明の方法は、ヒトから採取された血液試料中の鉄含量を測定するステップと、ヒトから採取された血液試料中のフェリチンの網状赤血球数を測定するステップと、ヒトから採取された血液試料中の総鉄結合能(TIBC)を測定するステップと、をさらに含みうる。
【0055】
さらに、または別に、本発明の方法は、ヒトから採取された血液試料中の全血球数を測定するステップをさらに含みうる。特に、ヘモグロビン含量およびヘマトクリットは、全血球数において判定されうる。鉄、フェリチンの網状赤血球数、総鉄結合能、ヘモグロビン含量およびヘマトクリットの増加は赤血球生成における鉄の利用可能性を示しうる。それ故、赤血球生成における刺激を増大させることによって赤血球は増加する。
【0056】
さらなる実施形態では、本発明は、鉄キレート剤をエリスロポエチン抵抗性を示すヒトに投与するステップを含む、ヒトにおけるエリスロポエチン抵抗性を本質的に阻止または軽減するための方法である。本明細書においてヒトにおけるエリスロポエチン抵抗性を示す場合に用いられる「本質的に阻止する(essentially halt)」は、ヒトにおけるエリスロポエチンに対する抵抗性を一時的または恒久的に阻止することを示す。本明細書においてヒトにおけるエリスロポエチン抵抗性に関して用いられる「軽減する(diminish)」は、ヒトがエリスロポエチンの投与に応答性を示し、これが赤血球生成の刺激によって現れうることを意味する。エリスロポエチン抵抗性が軽減する場合、ヒトに投与されるエリスロポエチンはより低い用量でもよい。
【0057】
エリスロポエチン抵抗性の本質的な阻止または軽減については、例えば赤血球生成において利用可能な貯蔵鉄の増加によって評価可能であり、次いでそれは、ヘマトクリットの上昇、ヘモグロビンの増加、ヒトに投与されるエリスロポエチンの用量の減少(例えば、約300U/kgから約200U/kgへの減少)、ERIの減少または血清鉄レベルの低下によって評価可能である。
【0058】
本発明の方法を、経腸または非経口手段による鉄キレート剤の投与によって実施してもよい。具体的には、投与経路は経口摂取(例えば、タブレット、カプセル形態、ピル)による。筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下経路、鼻投与、坐剤および経皮パッチを含む他の投与経路についても、本発明によって包含される。
【0059】
鉄キレート剤は、ヒトに投与される場合には単独使用または併用であってもよい。例えば、デフェリプロンをデフェロキサミンなどの別の鉄キレート剤と共投与することで、(例えば、慢性腎疾患、末期腎疾患もしくは癌を有するヒトにおいて)エリスロポエチン抵抗性を治療してもよい。例えば、1種もしくは複数種の鉄キレート剤を他の治療薬(例えばエリスロポエチン)と共投与することで、ヒトが治療(例えば赤血球生成が刺激)されうるとも考えられる。共投与は2種またはそれより多種の鉄キレート剤の同時または連続投与を含むという意味である。複数の投与経路(例えば、筋肉内、経口、経皮)を用いることで1種もしくは複数種の鉄キレート剤の投与が可能であるとも考えられる。
【0060】
鉄キレート剤を、単独投与するか、あるいは、鉄キレート剤と有毒であるように反応しない経腸または非経口適用に適する従来の賦形剤、例えば医薬的もしくは生理的に許容できる有機または無機担体物質と混合投与してもよい。適切な医薬的に許容できる担体には、水、食塩水(リンガー液など)、アルコール、オイル、ゼラチンおよび乳糖、アミロースまたはデンプンなどの炭水化物、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ならびにポリビニルピロリジンが含まれる。かかる製剤を消毒し、必要があれば、鉄キレート剤と有毒であるように反応しない、滑剤、防腐剤、安定化剤、浸潤剤、乳化剤、浸透圧に作用するための塩、緩衝剤、着色剤および/または芳香剤などの助剤と混合してもよい。
【0061】
鉄キレート剤に特に適する混合剤は、非経口適用が必要であるか望ましい場合、注射可能な無菌溶液、好ましくは油性溶液もしくは水溶液、ならびに懸濁液、エマルジョン、またはインプラントであり、坐剤を含む。特に非経口投与用担体には、デキストロース水溶液、生理食塩水、純水、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ピーナッツ油、ゴマ油、ポリオキシエチレン−ブロックポリマーなどが含まれる。アンプルは好都合な単位用量である。さらに鉄キレート剤を経皮ポンプまたはパッチによって投与してもよい。本発明における使用に適する医薬混合剤は、当業者に周知であり、例えば、Pharmaceutical Sciences(第17版、マック・パブリッシング(Mack Pub.Co.)、Easton、ペンシルバニア州)および国際公開第96/05309号パンフレットにおいて記載されており、いずれの教示内容も参照により本明細書に援用される。
【0062】
ヒトに投与される鉄キレート剤の用量および頻度(単回または複数回)は、ヒトのサイズ、年齢、性別、健康状態、体重、ボディ・マス・インデックス、および食生活;ヒトのエリスロポエチン抵抗性または他の症状(例えば、慢性腎疾患、末期腎疾患、癌)における徴候の性質および範囲、併用治療の種類(例えば、エリスロポエチン、透析、化学療法、放射線療法)、ヒトが有する症状から生じる合併症(例えば、慢性腎疾患、末期腎疾患、癌)あるいは他の健康に関わる問題を含む種々の因子に依存して変化しうる。好ましい実施形態では、腎疾患を有するヒトは、約2〜6か月間にわたり1日当たり約30mg/kg〜約75mg/kg体重の用量の鉄キレート剤(例えば、500mgのカプセル中のデフェリプロン)で1日3回の治療を受ける。他の治療計画または治療薬を本発明の鉄キレート剤による治療法と併用してもよい。例えば、鉄キレート剤の投与にエリスロポエチン投与、化学療法または放射線療法を併用してもよい。設定された用量の調節および操作(例えば、頻度および持続時間)については当業者の能力の範囲内で十分に行われる。
【0063】
均等物
本発明を特にその好ましい実施形態に関連して示されかつ記載してきたが、形態および細部の様々な変化が、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく本発明においてなされうることが当業者によって理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄キレート剤をエリスロポエチン抵抗性症状を有するヒトに投与するステップを含む、ヒトを治療するための方法。
【請求項2】
前記ヒトが末期腎疾患を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒトが慢性腎疾患を有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒトが腎臓透析を受けている請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記鉄キレート剤が腎臓透析前および腎臓透析後に投与される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒトが癌を有する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒトが癌治療を受けている請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記癌治療が化学療法治療である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記癌治療が放射線治療である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒトが貧血である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒトが炎症を有する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記鉄キレート剤が、前記鉄キレート剤の前記ヒトへの投与後の前記ヒトにおける炎症を低減するのに十分な量で投与される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記炎症が全身性炎症である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記炎症が炎症に対する急性期応答である請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒトから採取された血液試料中でC−反応性タンパク質、インターロイキン−6、腫瘍壊死因子−α、アミロイドA、フェリチン、フィブリノーゲン、α1−抗トリプシンおよびハプトグロビンからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを測定するステップをさらに含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記鉄キレート剤が約10mg/kg〜約150mg/kgの用量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記鉄キレート剤が単回投与される請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記鉄キレート剤が複数回投与される請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記鉄キレート剤が経口投与される請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記鉄キレート剤が、デフェリプロン、デフェロキサミン、ポリアニオンアミン、置換されたポリアザ化合物、デスフェリチオシン、ヒドロキシベンジル−エチレンジアミン−二酢酸およびピリドキサルイソニコチノイルヒドラゾンからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記鉄キレート剤が、
【化1】


【化2】


からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記ヒトにおける重症の貧血が、前記鉄キレート剤の前記ヒトへの投与後に本質的に阻止される請求項10に記載の方法。
【請求項23】
鉄を前記ヒトに投与するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒトに投与される前記鉄が、グルコン酸鉄および鉄スクロースからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーの形態で前記人に投与される請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒトから採取された血液試料中の鉄を測定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項26】
赤血球生成制御因子を前記ヒトに投与するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記赤血球生成制御因子が前記ヒトにおける赤血球生成を刺激する請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記赤血球生成制御因子がエリスロポエチンである請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記鉄キレート剤の投与後に前記ヒトに投与される前記赤血球生成制御因子の用量が前記鉄キレート剤の投与に先立って前記ヒトに投与される前記赤血球生成制御因子の用量よりも少ない請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記ヒトにおけるヘモグロビンレベルおよびヘマトクリットレベルからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーにおける変化に関連して赤血球生成制御因子の用量を測定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記ヒトから採取される血液試料中の鉄含量を測定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒトから採取される血液試料中のフェリチンの網状赤血球数を測定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記ヒトから採取される血液試料中の全血球数を測定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記ヒトから採取される血液試料中の総鉄結合能を測定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項35】
エリスロポエチン抵抗性を示すヒトに鉄キレート剤を投与するステップを含む、ヒトにおけるエリスロポエチン抵抗性を本質的に阻止するための方法。

【公表番号】特表2008−520669(P2008−520669A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543135(P2007−543135)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/040898
【国際公開番号】WO2006/055412
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(507036810)シバ バイオメディカル,エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】