説明

エレクトレット性微粒子又は粗粉の製造方法

【課題】帯電性が均一で優れた電気泳動性を示すエレクトレット性微粒子又は粗粉の製造方法を提供する。
【解決手段】下記の製造方法に係る:
(1)ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む含フッ素材料を、当該含フッ素材料が相溶しない液体中で乳化することにより乳化粒子とし、当該乳化粒子に電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することによりエレクトレット性微粒子を製造する方法、並びに
(2)ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む樹脂シートに電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することにより前記シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕するエレクトレット性粗粉の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルカラーの電気泳動表示装置(いわゆる電子ペーパー)に用いる泳動粒子として有用なエレクトレット性微粒子又は粗粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、荷電粒子(エレクトレット性粒子)の電気泳動による電気泳動表示方法が、次世代表示装置の最適技術と考えられている。しかしながら、荷電粒子の形状及び帯電電位(ζ電位)が小さく不安定なこと、泳動粒子の二次凝集や沈殿、前歴表示画像の消去や応答速度が不十分である等の多くの課題があり、研究開発が進められている。
【0003】
特許文献1、2には、上記用途に用いるエレクトレット性粒子が開示されている。
【0004】
特許文献1には、「高分子微粒子材料を重合して製作した、粒径1〜10μmの真球状超微粒子のコア樹脂に、電子トラップとなる樹脂を添加し、これに10〜300kGyの電子線を照射して、エレクトレット性負電荷を帯電した微粒子で、コア樹脂を所望の色彩に着色したことを特徴とする負荷電微粒子。」が記載されている(請求項1)。
【0005】
特許文献2には、「高分子微粒子原料モノマーに、電子トラップとなる材料、顔料等を添加し、懸濁重合法・乳化重合法・分散重合法等により、5〜10μmの真球状微粒子を作り、これに10〜50kGyの電子線を照射し、90〜110℃で十数分間加熱するか、90〜110℃で10〜50kGyの電子線を照射して、エレクトレット性負電荷を帯電した微粒子で、−50〜−100mVのζ電位をもち、所望の色彩に着色したことを特徴とする着色負荷電微粒子。」を用いることが記載されている(請求項10)。
【0006】
しかしながら、従来の各種エレクトレット性粒子は、帯電性が均一でない場合があり、電気泳動性が不十分であるという課題がある。従って、帯電性が均一で優れた電気泳動性を示すエレクトレット性粒子の開発が望まれている。また、大画面ディスプレイの泳動粒子としてはエレクトレット性粗粉が適しているため、上記特性を有するエレクトレット性粗粉の開発も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−154705号公報
【特許文献2】特開2007−102148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、帯電性が均一で優れた電気泳動性を示すエレクトレット性微粒子又は粗粉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の三元共重合体樹脂を用いてエレクトレット性微粒子又は粗粉を製造する場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のエレクトレット性微粒子又は粗粉の製造方法に関する。
1.ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む含フッ素材料を、当該含フッ素材料が相溶しない液体中で乳化することにより乳化粒子とし、当該乳化粒子に電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することによりエレクトレット性微粒子を製造する方法。
2.前記乳化粒子をマイクロカプセル化し、当該マイクロカプセル粒子に電子線照射、放射線照射又はコロナ放電する、上記項1に記載の製造方法。
3.前記マイクロカプセル粒子を電気泳動媒体に分散させて電子線照射、放射線照射又はコロナ放電する、上記項2に記載の製造方法。
4.前記乳化粒子が顔料を含有する、上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5.前記含フッ素材料が相溶しない液体が電気泳動媒体である、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6.前記エレクトレット性微粒子の平均粒子径が0.02〜20μmである、上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7.ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む樹脂シートに電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することにより前記シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕するエレクトレット性粗粉の製造方法。
8.前記エレクトレット性粗粉の平均粒子径が0.02〜3mmである、上記項7に記載の製造方法。
9.前記エレクトレット性粗粉が顔料を含有する、上記項7又は8に記載の製造方法。
【0011】
以下、本発明のエレクトレット性微粒子又は粗粉の製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明のエレクトレット性微粒子又は粗粉の製造方法は、含フッ素材料を乳化粒子とし、当該乳化粒子をエレクトレット化する態様(第1態様)と含フッ素樹脂シートをエレクトレット化した後、当該シートを粉砕する態様(第2態様)とに大別される。いずれの態様であっても、含フッ素材料又は含フッ素樹脂シートとして、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含有することにより、帯電性が均一で優れた電気泳動性を示すエレクトレット性微粒子又は粗粉が得られる。
(第1態様)
第1態様の製造方法は、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む含フッ素材料を、当該含フッ素材料が相溶しない液体中で乳化することにより乳化粒子とし、当該乳化粒子に電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することによりエレクトレット性微粒子を製造する。
【0013】
本発明では、上記含フッ素材料は、上記三元共重合体のみから構成できるが、更に他の含フッ素化合物を併用することもできる。但し、他の含フッ素化合物の含有量は、含フッ素材料中50重量%以下が好ましく、1〜20重量%がより好ましい。
【0014】
他の含フッ素化合物としては、公知のフッ素系樹脂、フッ素系オイル、フッ素系接着剤、フッ素系エラストマー、フッ素塗料ワニス、重合性フッ素樹脂等が挙げられる。
【0015】
上記フッ素系樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂等が挙げられる。具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やその誘導体(FRC=R=F又はH、R=F又はH又はCl又は任意)の重合物等が挙げられる。
【0016】
上記フッ素系オイルとしては、パーフルオロポリエーテルオイル、三フッ化塩化エチレン低重合体等が挙げられる。具体例としては、パーフルオロポリエーテルオイル(商品名「デムナム」ダイキン工業製)、三フッ化塩化エチレン低重合体(商品名「ダイフロイル」ダイキン工業製)等が挙げられる。
【0017】
上記フッ素系接着剤としては、紫外線硬化型フッ素化エポキシ接着剤等が挙げられる。具体例としては、(商品名「オプトダイン」ダイキン工業製)等が挙げられる。
【0018】
上記フッ素系エラストマーとしては、直鎖状フルオロポリエーテル化合物が挙げられる。具体例としては、(商品名「SIFEL3590−N」、「SIFEL2610」、「SIFEL8470」いずれも信越化学工業製)等が挙げられる。
【0019】
上記フッ素塗料ワニスとしては、四フッ化エチレン/ビニルモノマー共重合体(商品名「ゼッフル」ダイキン工業製)等が挙げられる。
【0020】
上記重合性フッ素樹脂としては、重合性アモルファスフッ素樹脂(商品名「CYTOP」旭硝子製)等が挙げられる。
【0021】
上記含フッ素材料が相溶しない液体としては限定的ではないが、例えば、水、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、グリセリン、シリコーンオイル等が挙げられる。これらの中から、用いる含フッ素材料に応じて適宜選択する。含フッ素材料が相溶しない液体は、いわゆる電気泳動媒体を用いてもよい。電気泳動媒体としては、例えば、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、グリセリン、シリコーンオイル、フッ素系オイル、石油系オイル等が挙げられる。上記シリコーンオイルとしてはジメチルシリコーンオイル等が挙げられる。また、上記フッ素系オイルとしてはパーフルオロポリエーテルオイル等が挙げられる。
【0022】
乳化に用いる乳化剤としては、ポリビニルアルコール、エチレン無水マレイン酸等が挙げられる。乳化剤の含有量は、上記含フッ素材料が相溶しない液体中に1〜10重量%程度とすることが好ましい。
【0023】
乳化粒子を調製する際は、1)上記含フッ素材料を、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトン等の溶剤に溶解して得られる油相を撹拌する第1工程、2)上記含フッ素材料が相溶しない液体と乳化剤との混合物(水相)を撹拌する第2工程、3)上記水相を撹拌しながら油相を混合することにより乳化粒子を調製する第3工程によって調製することができる。なお、撹拌にはミキサー、ホモジナイザー等の公知の混合機が使用でき、必要に応じて加熱及び/又は加圧しながら撹拌してもよい。これにより、上記三元共重合体の微粒子が懸濁した懸濁液が得られる。
【0024】
予め含フッ素材料に顔料を配合しておくことにより、着色された乳化粒子を得ることができる。この場合には、最終的に着色されたエレクトレット性微粒子が得られ、フルカラーの電子ペーパー材料として有用である。
【0025】
無機顔料としては限定されないが、例えば、炭素を主成分とする黒色顔料として、カーボンブラック、油煙、ボーンブラック、植物性黒等が挙げられる。また、白色顔料として、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化珪素等が挙げられる。これらの白色顔料は、白色泳動粒子の製造や粒子比重調整のために適宜使用できる。
【0026】
有機顔料としては限定されないが、例えば、β−ナフトール系、ナフトールAS系、アセト酢酸、アリールアミド系、ピラゾロン系、アセト酢酸アリールアミド系、ピラゾロン系、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系(BON酸系)、ナフトールAS系、アセト酢酸アリリド系のアゾ顔料が挙げられる。また、フタロシアニン系、アントラキノン系(スレン系)、ペリレン系・ペリノン系、インジゴ系・チオインジゴ系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、金属錯体顔料、メチン・アゾメチン系、ジケトピロロピロール等の多環状顔料が挙げられる。その他、アジン顔料、昼光蛍光顔料(染料樹脂固溶体)、中空樹脂顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料等が挙げられる。
【0027】
具体的な市販品としては、DIC(株)製のSymuler fast yellow 4GO、Fastogen super magenta RG、Fastogen blue TGRや、富士色素(株)製のFuji fast red 7R3300E、Fuji fast carmine 527等が挙げられる。
【0028】
これらの顔料の平均粒子径としては、0.02〜20μm程度が好ましく、0.02〜3μm程度がより好ましい。この中でも、特に顔料の平均粒子径が0.02〜0.2μmの範囲であれば、得られるエレクトレット性微粒子を透明着色することができる。顔料を微粒化する際は、ボールミル等の公知の機械的粉砕方法が利用できる。なお、本明細書における顔料及び乳化粒子の平均粒子径は、測定対象物の分散体を相溶性の良い適当な分散媒で希釈し、動的光散乱式粒径分布測定装置「LB−550」(堀場製作所製)を用いてメジアン径を測定することにより求めた値である。
【0029】
乳化により得られる乳化粒子の平均粒子径は限定されないが、0.02〜20μm程度が好ましく、0.1〜5μm程度がより好ましい。
【0030】
乳化粒子はそのまま電子線又は放射線によりエレクトレット化しても良いが、マイクロカプセル化した後にエレクトレット化することが好ましい。その場合は、乳化粒子をマイクロカプセルの壁材原料と混合・撹拌することにより容易にマイクロカプセル化できる。
【0031】
マイクロカプセルとしては、内包物が乳化粒子である以外は公知のマイクロカプセルと同様の構造を採用できる。例えば、乳化粒子を壁膜で内包したマイクロカプセルである。
【0032】
壁膜としては、通常は樹脂系壁膜を好適に採用することができる。樹脂としては、例えば各種の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用するこができる。より具体的には、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、尿素−ホルムアルデヒド系樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ブチル化尿素樹脂、尿素−メラミン系樹脂、フッ化ビニリデン樹脂等が挙げられる。これら樹脂成分は1種又は2種以上で使用することができる。マイクロカプセルを製造する際は、これらの原料を用い、これらを高分子化することにより好適にマイクロカプセル化することができる。
【0033】
マイクロカプセル化の方法としては、例えば、界面重合法(重縮合、付加重合)、インサイチュー重合法、コアセルベーション法、液中乾燥法、噴霧乾燥法等が挙げられる。
【0034】
具体的に、マイクロカプセル化の一例(インサイチュー重合法)としては、例えば、1)上記含フッ素材料(油相)を撹拌する第1工程、2)上記含フッ素材料が相溶しない液体と乳化剤との混合物(水相)を撹拌する第2工程、3)上記水相を撹拌しながら油相を混合することにより乳化粒子を調製する第3工程、4)乳化粒子のエマルションに壁膜原料となる上記樹脂を添加して加熱撹拌する第4工程を含む方法により、好適にマイクロカプセルを製造することができる。
【0035】
乳化粒子又はマイクロカプセル粒子は、これらの粒子の調製に用いた液体成分に懸濁した状態で電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することによりエレクトレット化させることができる。他方、これらの粒子を一旦取り出した粉体の状態で、又は、当該粉体を電気泳動媒体に分散させた状態で電子線照射、放射線照射又はコロナ放電してエレクトレット化させることもできる。電子線照射、放射線照射又はコロナ放電の条件は粒子をエレクトレット化できる限り限定されない。照射条件は、電子線については、電子線加速器を用いて50〜800kV程度の電子線を10〜1000kGy程度照射すればよい。この中でも、100〜500kGy程度が好ましい。また、放射線については、例えば、1〜15kGy程度のガンマ線を照射すればよい。照射温度は限定的ではないが、50〜350℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。
【0036】
上記過程を経て、好適な実施態様においては、0.02〜20μm程度の帯電性の均一なエレクトレット性微粒子が得られる。
(第2態様)
第2態様の製造方法は、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む樹脂シートに電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することにより前記シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕することによりエレクトレット性粗粉を製造する。
【0037】
上記樹脂シートとしては、例えば、第1態様で得た乳化粒子を含む懸濁液(エレクトレット化前)をシート化することにより得られるものが好適である。シート化の方法は限定されず、スピンコーターやバーコーターを用いて所望の厚みに製膜した後、乾燥することによりシート化できる。その他、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む市販の樹脂シートを用意してもよい。
【0038】
上記樹脂シートは顔料を含有してもよい。顔料を含有する場合には、最終的に着色されたエレクトレット性粗粉が得られ、フルカラーの電子ペーパー材料として有用である。顔料としては、公知の無機顔料及び有機顔料が使用できる。
【0039】
無機顔料としては限定されないが、例えば、炭素を主成分とする黒色顔料として、カーボンブラック、油煙、ボーンブラック、植物性黒等が挙げられる。また、白色顔料として、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化珪素等が挙げられる。これらの白色顔料は、白色泳動粗粉の製造や粗粉比重調整のために適宜使用できる。
【0040】
有機顔料としては限定されないが、例えば、β−ナフトール系、ナフトールAS系、アセト酢酸、アリールアミド系、ピラゾロン系、アセト酢酸アリールアミド系、ピラゾロン系、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系(BON酸系)、ナフトールAS系、アセト酢酸アリリド系のアゾ顔料が挙げられる。また、フタロシアニン系、アントラキノン系(スレン系)、ペリレン系・ペリノン系、インジゴ系・チオインジゴ系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、金属錯体顔料、メチン・アゾメチン系、ジケトピロロピロール等の多環状顔料が挙げられる。その他、アジン顔料、昼光蛍光顔料(染料樹脂固溶体)、中空樹脂顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料等が挙げられる。
【0041】
具体的な市販品としては、DIC(株)製のSymuler fast yellow 4GO、Fastogen super magenta RG、Fastogen blue TGRや、富士色素(株)製のFuji fast red 7R3300E、Fuji fast carmine 527等が挙げられる。
【0042】
これらの顔料の平均粒子径としては、0.02〜20μm程度が好ましく、0.02〜3μm程度がより好ましい。この中でも、特に顔料の平均粒子径が0.02〜0.2μmの範囲であれば、得られるエレクトレット性粗粉を透明着色することができる。顔料を微粒化する際は、ボールミル等の公知の機械的粉砕方法が利用できる。
【0043】
上記樹脂シートの厚さは限定的ではないが、エレクトレット化の効率や粉砕後の粗粉の平均粒子径の観点から、100〜3000μm程度が好ましく、100〜1000μm程度がより好ましい。
【0044】
本発明の製造方法では、先ず上記樹脂シートに電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することによりエレクトレット化する。電子線照射、放射線照射又はコロナ放電の条件は樹脂シートをエレクトレット化できる限り限定されないが、垂直方向からシート全体に同時且つ均一に電子線照射、放射線照射又はコロナ放電できる装置を用いることが好ましい。
【0045】
照射量は限定的ではなく、シートの材質及び厚みに応じて適宜設定できる。シートの厚みが大きい場合には、加速電圧を大きく、且つ、照射量を多くすることによりシート全体をエレクトレット化し易くなる。照射量については、例えば、電子線については、電子線加速器を用いて50〜800kV程度の電子線を10〜1000kGy程度照射すればよい。この中でも、100〜500kGy程度が好ましい。また、放射線については、例えば、1〜15kGy程度のガンマ線を照射すればよい。照射時又は放電時の温度は限定的ではないが、50〜350℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。
【0046】
樹脂シートをエレクトレット化した後、粉砕装置によりシートを粉砕する。粉砕装置としては限定されず、公知のプラスチックフィルム粉砕装置(三本ロール等)が利用できる。粉砕により得られる粗粉の平均粒子径は限定されないが、0.02〜3mm程度が好ましく、1〜2mm程度がより好ましい。上記平均粒子径の範囲であれば、大画面ディスプレイの泳動粒子として用いる場合でも応答性が良好である。なお、この平均粒子径は、光学顕微鏡を用いて測定した任意の10個の粗粉の直径の算術平均値である。
【0047】
上記過程を経ることにより、均一に負電荷を有するエレクトレット性粗粉が得られる。
【0048】
上記エレクトレット性微粒子及び粗粉は、電極板間に配置し、電極板間に外部電圧を印加することにより電気泳動を示す。このとき、電気泳動媒体は限定されず、空気中をはじめ液体媒体を用いることもできる。液体媒体としては、例えば、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、グリセリン、シリコーンオイル、フッ素系オイル、石油系オイル等が挙げられる。上記シリコーンオイルとしてはジメチルシリコーンオイル等が挙げられる。特に、上記フッ素系オイルとしてはパーフルオロポリエーテルオイル等が挙げられる。これらの媒体の中でも、特にシリコーンオイルが好ましい。
【0049】
上記エレクトレット性粗粉は、異型粒子であるため、画面に対して点で表示する従来の球状微粒子と比べて面で表示できるため、表示面積が大きく、しかも粗粉どうしの間に隙間が生じにくいという利点がある。
(電気泳動表示装置)
エレクトレット性微粒子及び粗粉が、平均粒子径が0.02〜0.2μmの範囲の顔料を含む場合には、これらの微粒子及び粗粉は透明着色される。かかる透明着色されたエレクトレット性微粒子又は粗粉を荷電粒子として用いてカラー画像を表示する電気泳動表示装置としては、例えば、
荷電粒子を収容する少なくとも3層のセルを有し、マトリクス状に配置されて各画素を表示する複数の表示部と、
前記各セルの上面又は下面に設けられた第1の電極と、
前記各セルの側端部に設けられた第2の電極と、を備え、
前記荷電粒子は、前記各表示部において前記セル毎に異なる色に着色されている、電気泳動表示装置が好適である。
【0050】
上記電気泳動表示装置は、画素毎に表示部が設置されており、各表示部は少なくとも3層のセルから構成されている。この各セルには異なる色に透明着色された荷電粒子が収容されているため、第1及び第2の電極に電圧を印加することによって1つの画素において各種の色を表示することが可能であり、画像範囲内に無駄な画素が存在することがなくカラー画像を表示することができる。なお、「セル毎に異なる色」とは、特に限定されるものではないが、カラーフィルターを用いることなく加法混色によりフルカラー表示を実現するためには、レッド(R)、グリーン(G)及びブルー(B)が好ましい。また、「セルの側端部」とは、セルの上面縁部、下面縁部、及び側面を意味している。
【0051】
以下、図面を例示的に参照しながら具体的に説明する。
【0052】
電気泳動表示装置1は、図1に示すように、複数の表示部2を備え、この表示部2は第1〜第3のセル5a〜5cを有しており、各セル内には第1の電極3及び第2の電極4が設けられている。
【0053】
各表示部2は、画像を構成する画素毎に設けられており、図1に示すように、高さ方向に積層された第1〜第3のセル5a〜5cから構成されている。この第1〜第3のセル5a〜5cは、光を透過できるように、例えば、ガラスやポリエチレンテレフタラート等の透明性材料で形成されており、下面には第1の電極3及び第2の電極4を支持するための基盤7が設けられている。なお、第3のセル5cの下方には、表示部2を透過してきた光を反射させるための反射板や、画像の背景色となる白色板又は黒色板が設けられていてもよい。また、第1のセル5aの上面周縁部には、後述する第1〜第3の荷電粒子6a〜6cが第2の電極4に集積したときにこの第1〜第3の荷電粒子6a〜6cを遮蔽することができるよう、遮蔽手段を設けてもよい。
【0054】
第1〜第3のセル5a〜5cの内部には、図1に示すように、後述する第1〜第3の荷電粒子6a〜6cを収集するための第1の電極3及び第2の電極4が設けられている。第2の電極4は、第1〜第3のセル5a〜5cそれぞれの内側面全周に亘って配置されている。第1の電極3は、第2の電極4の内側において、この第2の電極4と短絡しないように第1〜第3のセル5a〜5cの底面に配置されている。この第1の電極3は、例えば、板状やストライプ状、格子状、ドット状等、種々の形状とすることができる。第1の電極3及び第2の電極4としては、特に限定されるものではないが、例えば、銅や銀といった導電性のよい金属、透明な導電性樹脂、又はITO(酸化インジウムスズ)膜等を使用することができる。
【0055】
また、図1に示すように、第1のセル5a内にはレッド(R)に着色された第1の荷電粒子6a、第2のセル5b内にはグリーン(G)に着色された第2の荷電粒子6b、第3のセル5c内にはブルー(B)に着色された第3の荷電粒子6cが収容されている。また、第1〜第3のセル5a〜5c内には、第1〜第3の荷電粒子6a〜6cを電気泳動させるための電気泳動媒体が充填されている。
【0056】
次に、上記電気泳動表示装置1の作動について、図2及び図3を用いて説明する。なお、図2においては、第1〜第3のセル5a〜5cを総括的にセル5、第1〜第3の荷電粒子を総括的に荷電粒子6として示している。
【0057】
上記電気泳動表示装置1により、ある画素にレッドを表示したい場合、レッド(R)に着色された第1の荷電粒子6aが収容されている第1のセル5a内において、第1の電極3が正極となるとともに第2の電極4が負極となるよう、第1の電極3及び第2の電極4に電圧を印加すると、第1の荷電粒子6aが、第1の電極3に引き寄せられ、第1のセル5aの底面に配置される(図2(a))。一方、第2及び第3のセル5a、5b内においては、第1の電極3が負極となるとともに第2の電極4が正極となるよう、第1の電極3及び第2の電極4に電圧を印加すると、第2及び第3の荷電粒子6b、6cが、第2の電極4に引き寄せられ、第2及び第3のセル5a、5bの内側面に配置される。(図2(b))この状態で表示部2を上方から確認すると、第1の荷電粒子6aの色(レッド)のみが視認され、第2の荷電粒子6bの色(グリーン)及び第3の荷電粒子6cの色(ブルー)は第2及び第3のセル5b、5c、第2の電極4又は遮蔽手段に隠れて視認することができないため、画素にはレッドが表示される(図3(a))。
【0058】
また、ある画素にグリーンを表示したい場合、第2のセル5b内において第1の電極3を正極、第2の電極4を負極として、第2の荷電粒子6bを第2のセル5bの底面に移動させ(図2(a))、第1及び第3のセル5a、5c内においては、第1の電極3を負極、第2の電極4を正極として、第1及び第3の荷電粒子6a、6cを第1及び第3のセル5a、5cの内側面に移動させる(図2(b))。この状態で表示部2を上方から確認すると、第2の荷電粒子6bの色(グリーン)のみが視認され、第1の荷電粒子6aの色(レッド)及び第3の荷電粒子6cの色(ブルー)は第1及び第3のセル5a、5c、第2の電極4又は遮蔽手段に隠れて視認することができないため、画素にはグリーンが表示される(図3(b))。
【0059】
同様に、ある画素にブルーを表示したい場合、第3のセル5c内において第1の電極3を正極、第2の電極4を負極として、第3の荷電粒子6cを第3のセル5cの底面に移動させ(図2(a))、第1及び第2のセル5a、5bにおいては、第1の電極3を負極、第2の電極4を正極として、第1及び第2の荷電粒子6a、6bを第1及び第2のセル5a、5bの内側面に移動させる(図2(b))。この状態で表示部2を上方から確認すると、第3の荷電粒子6cの色(ブルー)のみが視認され、第1の荷電粒子6aの色(レッド)及び第2の荷電粒子6bの色(グリーン)は第1及び第2のセル5a、5b、第2の電極4又は遮蔽手段に隠れて視認することができないため、画素にはブルーが表示される(図3(c))。
【0060】
また、ある画素にホワイトを表示する場合、第1〜第3のセル5a〜5c内において、第1の電極3及び第2の電極4に印加する電圧の大きさを調整し、第1〜第3の荷電粒子6a〜6cを分散させる(図3(d))。この状態で表示部2を上方から確認すると、第1〜第3の荷電粒子6a〜6cの色が加法混合した状態で見えるため、画素の色はホワイトとなる。
【0061】
以上のように、電気泳動表示装置1は、画素毎に対応した各表示部2が第1〜第3のセル5a〜5cを積層した構成となっており、この第1〜第3のセル5a〜5c内における第1〜第3の荷電粒子6a〜6cを移動させることにより、1つの画素で各種の色を表示することができる。このため、画像範囲内において、画像表示に寄与しない無駄な画素が存在することがなく、結果としてカラーフィルターを用いることなく、フルカラー画像を表示することができる。
【発明の効果】
【0062】
本発明の製造方法によれば、含フッ素材料又は願フッ素樹脂シートとしてとしてビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を用いることにより、帯電性が均一なエレクトレット性微粒子又は粗粉が得られる。このようなエレクトレット性微粒子又は粗粉は、電子写真用トナー、電子ペーパー用エレクトレット粒子として有用であり、その他、エレクトレット繊維、不織布、濾材(フィルタ)、集塵袋、エレクトレットコンデンサマイクロフォン等の材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】電気泳動表示装置(一例)の正面断面概略図である。
【図2】電気泳動表示装置(一例)における荷電粒子の動作を示す斜視図である。
【図3】電気泳動表示装置(一例)の動作を示す正面断面概略図である。
【図4】実施例及び比較例で用いた電気泳動試験装置の上面図及び側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0065】
実施例1〜4及び比較例1〜5
下記表1に示される各成分を乳化液に入れてホモミキサにより撹拌した(6000rpm、6分)。その後、乳化液をディゾルバーで加熱撹拌した(300rpm、80℃、8時間)。乳化液は、イオン交換水とPVA224(ポリビニルアルコール:増粘剤)とを重量比で9:1の割合で混合して得た。これにより微粒子が分散した懸濁液を得た。
【0066】
ゼッフルGK−510(四フッ化エチレン/ビニルモノマー共重合体)は、樹脂中での顔料(染料)の分散性を高めるために添加した。
【0067】
【表1】

【0068】
次に、電子線加速器を用いて各懸濁液に電子線照射することにより微粒子をエレクトレット化し、次いで固液分離することによりエレクトレット性微粒子を得た。なお、電子線照射条件は次の通りとした。
【0069】
【表2】

【0070】
(電気泳動試験)
実施例1〜4及び比較例1〜5で得られたエレクトレット性微粒子について図4に示す電気泳動試験装置を用いて電気泳動試験を行った。具体的には、次の通りである。
【0071】
株式会社倉元製作所製ITO成膜ガラス(縦300mm×横400mm×厚み0.7mm、7Ω/sq以下)を30mm×50mmにカットした。また、住友スリーエム株式会社製粘着両面テープ(Scotch超強力両面テープ、幅19mm×長さ4m×厚み1mm)を長さ20mmカットし、中心部をφ8mmくり貫いた。
【0072】
カットした粘着両面テープを、ITO成膜ガラス面のやや左寄りに貼り付けた。
【0073】
粘着両面テープの穴の部分にエレクトレット性微粒子を溢れない程度に充填した。
【0074】
粘着両面テープの未接着面の剥離紙を剥がし、カットしたITO成膜ガラス面を未接着面に蓋をするように貼り付けた。このとき、ワニ口クリップで挟む所を残すために、図4の側面図に示すように上下のガラスの位置をずらして配置した。ITO成膜面どうしの間は粘着両面テープの厚み(1mm)がある。
【0075】
シリコーンオイル(信越シリコーン社製)の入ったシリンジ(ニプロ株式会社製)を2枚のガラスの隙間の粘着両面テープに刺し、くり貫いた両面テープ内にシリコーンオイルを充填した。
【0076】
ITO成膜ガラス上下の端をそれぞれワニ口クリップでつなぎ、外部電源(松定プレシジョン株式会社製高圧電源、HJPM-5R0.6)により電圧印加することにより、エレクトレット性微粒子の電気泳動性を調べた。電気泳動性の評価結果を併せて表1に示す。
【0077】
実施例1’〜4’及び比較例1’〜5’
実施例1〜4及び比較例1〜5で調製した懸濁液をシート化し、当該シートに電子線照射することによりエレクトレット化した後、樹脂シートをはさみで細かくカットした後、三本ロールで粉砕(0.02〜1mm)することによりエレクトレット性粗粉を調製した。
(電気泳動試験)
得られたエレクトレット性粗粉について図4に示す電気泳動試験装置を用いて電気泳動試験を行った。具体的には、エレクトレット性微粒子をエレクトレット性粗粉に変えた以外は実施例1〜4及び比較例1〜5と同様に電気泳動試験を行った。電気泳動性の評価結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
実施例5〜8及び参考例1〜2
下記表4に示される各成分を乳化液に入れてホモミキサにより撹拌した(6000rpm、6分)。その後、乳化液をディゾルバーで加熱撹拌した(300rpm、80℃、8時間)。乳化液は、イオン交換水とPVA224(ポリビニルアルコール:増粘剤)とを重量比で9:1の割合で混合して得た。これにより微粒子が分散した懸濁液を得た。
【0080】
ゼッフルGK−510(四フッ化エチレン/ビニルモノマー共重合体)は、樹脂中での顔料(染料)の分散性を高めるために添加した。
【0081】
【表4】

【0082】
実施例5〜8及び参考例1〜2で得られた懸濁液に含まれる顔料の平均粒子径を測定し、測定結果を表4に示す。また、各懸濁液をスライドガラス上に1滴落とし、上からカバーガラスを被せて軽く押さえ、懸濁液の透明性を目視により観察した。スライドガラスの反対側が透けて見える(透明性)場合を○と評価し、透けて見えない(不透明性)場合を×と評価した。透明性の評価結果を表4に示す。
【0083】
表4の結果からは、顔料の平均粒子径が0.02〜0.2μmの範囲である場合には、懸濁液を透明着色することができることが分かる。よって、平均粒子径が0.02〜0.2μmの範囲の顔料を含有するエレクトレット性微粒子又は粗粉を荷電粒子として用いる場合には、カラー画像を表示する電気泳動表示装置として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1.電気泳動表示装置
2.表示部
3.第1の電極
4.第2の電極
5a〜5c.第1〜第3のセル
6a〜6c.第1〜第3の荷電粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む含フッ素材料を、当該含フッ素材料が相溶しない液体中で乳化することにより乳化粒子とし、当該乳化粒子に電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することによりエレクトレット性微粒子を製造する方法。
【請求項2】
前記乳化粒子をマイクロカプセル化し、当該マイクロカプセル粒子に電子線照射、放射線照射又はコロナ放電する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記マイクロカプセル粒子を電気泳動媒体に分散させて電子線照射、放射線照射又はコロナ放電する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳化粒子が顔料を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記含フッ素材料が相溶しない液体が電気泳動媒体である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記エレクトレット性微粒子の平均粒子径が0.02〜20μmである、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体を含む樹脂シートに電子線照射、放射線照射又はコロナ放電することにより前記シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕するエレクトレット性粗粉の製造方法。
【請求項8】
前記エレクトレット性粗粉の平均粒子径が0.02〜3mmである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記エレクトレット性粗粉が顔料を含有する、請求項7又は8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−133306(P2012−133306A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108725(P2011−108725)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【特許番号】特許第4774130号(P4774130)
【特許公報発行日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】