説明

エレクトロルミネッセンス素子

【課題】本発明は、量子ドットを含有する発光層を有し、寿命特性が良好なEL素子を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、第1電極層と、上記第1電極層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された第2電極層とを有するEL素子であって、上記発光層に、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いることを特徴とするEL素子を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットを含有する発光層を有するエレクトロルミネッセンス(以下、ELと略す場合がある。)素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EL素子は、対向する2つの電極から注入された正孔および電子が発光層内で結合し、そのエネルギーで発光層中の発光材料を励起し、発光材料に応じた色の発光を行うものであり、自発光の面状発光素子として表示装置や照明等に広く使用されている。
【0003】
近年、半導体からなる量子ドットを用いた発光層を有する発光素子が提案され、開発されている。量子ドットは、半導体の原子が複数集まって数nm〜数十nm程度の結晶を構成するものであり、結晶がこのようなナノサイズまで小さくなると、連続的なバンド構造ではなく、離散的なエネルギー準位を構成するようになる。すなわち、量子サイズ効果が顕著に現れるようになるので、量子ドットよりサイズの大きいバルク結晶に比べ電子の閉じ込め効果が高まり、励起子が再結合する確率を高めることができる。
また、量子ドットを用いた発光素子では、発光素子の構成を変更することなく、発光周波数を整調することができる。量子ドットは、量子閉じ込め効果により、大きさに依存した光学特性を示す。例えば、CdSeからなる量子ドットの発光色を、単に量子ドットの大きさを変えることにより、青色から赤色へと変化させることができる。さらに、量子ドットは、比較的狭い半値幅で発光し、例えば半値幅を30nm未満とすることができる。したがって、量子ドットは、発光層の材料として優れているといえる。
【0004】
なお、量子ドットは、ナノクリスタル、微粒子、コロイドあるいはクラスターなどと呼ばれることもあるが、量子サイズ効果が生ずるものはここでは量子ドットと同じものを示す。
【0005】
このような量子ドットを用いた発光層の形成方法としては、例えば、表面にトリ-n-オクチルホスフィンオキシド(TOPO)等の配位子が付着した量子ドットを含有するコロイド溶液を用いたスピンコート法およびディップコート法などが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。この配位子は、量子ドットの表面に付着し、量子ドットの分散安定性を良好なものとしている。
【0006】
【特許文献1】特表2005−522005号公報
【特許文献2】特表2006−520077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のTOPO等の配位子が表面に付着した量子ドットを用いた発光層では、発光層内での量子ドットの安定性が悪いため、寿命特性に影響を及ぼすおそれがある。特に、量子ドットが燐光材料である場合には、蛍光材料に比べて燐光材料は寿命が長いために、寿命特性が影響を受けやすい。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、量子ドットを含有する発光層を有し、寿命特性が良好なEL素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、第1電極層と、上記第1電極層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された第2電極層とを有するEL素子であって、上記発光層に、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いることを特徴とするEL素子を提供する。
【0010】
本発明によれば、量子ドットの配位子としてシランカップリング剤を用いるので、発光層を硬化されたものとすることができ、発光層内での量子ドットの安定性を良好にすることができ、寿命特性を向上させることが可能である。また、シランカップリング剤は分子設計が比較的容易であるので、種々の機能性を示す官能基を有するシランカップリング剤を用いることにより、寿命特性を改善することが可能である。
【0011】
上記発明においては、上記発光層が、上記シランカップリング剤の加水分解縮合物を含有し、硬化されたものであることが好ましい。これにより、上述したように発光層内での量子ドットの安定性を良好にすることができ、寿命特性を向上させることができるからである。また、発光層中のシランカップリング剤が、発光層の下地層(第1電極層や正孔注入輸送層等)と結合等することにより、発光層と発光層の下地層との密着性を向上させることができる。さらには、発光層の熱安定性(Tg:ガラス転移温度)を向上させることもできる。
【0012】
また本発明においては、上記シランカップリング剤の加水分解縮合物が、YSiX(4−n)(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)で示されるケイ素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物または共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであってもよい。このようなオルガノポリシロキサンは、分子設計が比較的容易であるので、上記X,Yを適宜選択することにより、縮合度等を制御することができる。これにより、発光層内での量子ドットの安定性を所望のものとすることができる。
【0013】
さらに本発明においては、上記シランカップリング剤の加水分解縮合物が、YSiX(4−n)(ここで、Yは直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性を示す官能基、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した電子輸送性を示す官能基あるいは直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)で示されるケイ素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物または共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであってもよい。このようなオルガノポリシロキサンは、分子設計が比較的容易であるので、種々の機能性を示す官能基を有するものとすることができ、寿命特性を改善することができるからである。
【0014】
また本発明においては、上記発光層が、さらに正孔輸送材料および電子輸送材料の少なくともいずれか一方を含有していてもよい。これにより、発光層に、発光機能だけでなく、正孔輸送機能や電子輸送機能をもたせることができるからである。その結果、EL素子の層構成を簡略化できるとともに、発光層への電荷輸送および、正孔と電子の再結合により生成した励起子のエネルギー移動を効率良く行うことができ、寿命特性の向上が図れるからである。
【0015】
さらに本発明においては、上記第1電極層と上記発光層との間に正孔注入輸送層が形成されていてもよい。正孔注入輸送層を設けることにより、発光層への正孔の注入が安定化したり、正孔の輸送が円滑になったりするため、発光効率を高めることができるからである。中でも、第1電極層と発光層との間に正孔注入輸送層として正孔輸送層が形成されている場合には、正孔輸送層および発光層を一括して形成することが可能であり、後述するように正孔輸送層および発光層を相分離したものとすることができる。
【0016】
上記の場合、上記正孔注入輸送層と上記発光層とが相分離していてもよい。これにより、発光効率および寿命特性がより向上するからである。
【0017】
また本発明においては、上記量子ドットが、半導体微粒子からなるコア部と、上記コア部を被覆し、上記半導体微粒子よりもバンドギャップが大きい材料からなるシェル部とを有することが好ましい。このような構成とすることにより、量子ドットが安定化されるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、量子ドットの配位子としてシランカップリング剤を用いるので、良好な寿命特性が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のEL素子について詳細に説明する。
本発明のEL素子は、第1電極層と、上記第1電極層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された第2電極層とを有するEL素子であって、上記発光層に、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いることを特徴とするものである。
【0020】
本発明のEL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のEL素子の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、EL素子1は、基板2上に第1電極層3と発光層4と第2電極層5とが順に積層されたものである。
【0021】
また、発光層4には、図2に例示するような周囲にシランカップリング剤11が配置された量子ドット12が用いられている。すなわち、シランカップリング剤11が配位子となって、量子ドット12の表面に付着しており、このようなシランカップリング剤11が表面に付着された量子ドット12が発光層4に用いられている。
量子ドットとシランカップリング剤とは配位結合している。量子ドットが化合物半導体である場合、一般に無機材料の表面は新液性であるので、加水分解されたシランカップリング剤のSi-OH基の-OH基は量子ドットに配位することができる。
【0022】
なお、「発光層に、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いる」とは、発光層において、量子ドットの周囲に配置されたシランカップリング剤が、シランカップリング剤自体である場合、シランカップリング剤の加水分解物となっている場合、および、シランカップリング剤の加水分解縮合物となっている場合、のいずれをも含むものである。すなわち、発光層において、量子ドットの周囲には、シランカップリング剤自体が配置されていてもよく、シランカップリング剤の加水分解物が配置されていてもよく、シランカップリング剤の加水分解縮合物が配置されていてもよい。また、シランカップリング剤自体、シランカップリング剤の加水分解物、およびシランカップリング剤の加水分解縮合物が混在していてもよい。
【0023】
本発明によれば、量子ドットの配位子としてシランカップリング剤を用いるので、発光層を硬化されたものとすることができ、発光層内での量子ドットの安定性を良好にすることができ、寿命特性を向上させることが可能である。また、シランカップリング剤は分子設計が比較的容易であるので、種々の機能性を示す官能基を有するシランカップリング剤を用いることにより、寿命特性を改善することが可能である。
【0024】
また、発光層が、シランカップリング剤の加水分解縮合物を含有し、硬化されたものである場合には、発光層中のシランカップリング剤が、発光層の下地層(第1電極層や正孔注入輸送層等)と結合等することにより、発光層と発光層の下地層との密着性を向上させることができる。さらには、発光層の熱安定性(Tg:ガラス転移温度)を向上させることもできる。
さらに、発光層上に塗工液を用いて正孔注入輸送層または電子注入輸送層等を形成する際、正孔注入輸送層または電子注入輸送層等を形成するための塗工液中の溶剤に発光層が溶解等することなく、安定して発光層上に正孔注入輸送層または電子注入輸送層等を積層することができる。
以下、本発明のEL素子の各構成について説明する。
【0025】
1.発光層
本発明における発光層は、第1電極層および第2電極層の間に形成され、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いたものであり、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。
【0026】
発光層は、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いたものであれば特に限定されるものではなく、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いたものであってもよく、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用い、さらに正孔輸送材料および電子輸送材料の少なくともいずれか一方を含有するものであってもよい。発光層が、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用い、さらに正孔輸送材料および電子輸送材料の少なくともいずれか一方を含有する場合には、発光層に、発光機能だけでなく、正孔輸送機能や電子輸送機能をもたせることができる。それにより、EL素子の層構成を簡略化できるとともに、発光層への電荷輸送および、正孔と電子の再結合により生成した励起子のエネルギー移動を効率良く行うことができ、寿命特性の向上が図れるからである。
以下、発光層の各構成について説明する。
【0027】
(1)量子ドット
本発明における発光層に用いられる量子ドットとしては、蛍光または燐光を発するものであれば特に限定されるものではない。中でも、量子ドットは、いわゆる化合物半導体を含むことが好ましい。化合物半導体としては、例えば、IV族の化合物、I-VII族の化合物、II−VI族の化合物、II−V族の化合物、III−VI族の化合物、III−V族の化合物、IV−VI族の化合物、I−III−VI族の化合物、II−IV−VI族の化合物、II−IV−V族の化合物等が挙げられる。具体的には、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTe、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、GaSe、InN、InP、InAs、InSb、TlN、TlP、TlAs、TlSb、PbS、PbSe、PbTe、またはこれらの混合物が挙げられる。中でも、汎用性および光学特性の観点から、CdSeが好ましい。
【0028】
量子ドットは、半導体微粒子からなるコア部のみからなっていてもよく、半導体微粒子からなるコア部と、コア部を被覆し、半導体微粒子よりもバンドギャップが大きい材料からなるシェル部とを有するものであってもよい。中でも、量子ドットは、上記コア部と上記シェル部とを有するものであることが好ましい。すなわち、量子ドットは、コアシェル構造を有し、コアシェル型量子ドットであることが好ましい。量子ドットの安定性が向上するからである。
【0029】
コア部に用いられる半導体微粒子としては、上記化合物半導体の微粒子が好ましく用いられる。
【0030】
また、シェル部に用いられる材料としては、上記半導体微粒子よりもバンドギャップが大きい材料であれば特に限定されるものではないが、上記半導体微粒子と同様に、上記化合物半導体であることが好ましい。この場合、シェル部に用いられる化合物半導体は、コア部に用いられる化合物半導体と同一であってもよく異なっていてもよい。
【0031】
上記コアシェル型量子ドットとしては、例えば、コア部/シェル部とすると、CdSe/CdS、CdSe/ZnS、CdTe/CdS、InP/ZnS、GaP/ZnS、Si/ZnS、InN/GaN、InP/CdSSe、InP/ZnSeTe、GaInP/ZnSe、GaInP/ZnS、Si/AlP、InP/ZnSTe、GaInP/ZnSTe、GaInP/ZnSSe等が挙げられる。中でも、汎用性および光学特性の観点から、CdSe/ZnSが好ましい。
【0032】
また、量子ドットの形状としては、例えば、球形、棒状、円盤状等を挙げることができる。
なお、量子ドットの形状は、透過型電子顕微鏡(TEM)により確認することができる。
【0033】
量子ドットの粒径は、20nm未満であることが好ましく、中でも1nm〜15nmの範囲内、特に1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。量子ドットの粒径が大きすぎると、量子サイズ効果が得られない可能性があるからである。
量子ドットは、その粒径により異なる発光スペクトルを示すことから、目的とする色に応じて量子ドットの粒径が適宜選択される。例えばCdSe/ZnSからなるコアシェル型量子ドットの場合、粒径が大きくなるにつれて発光スペクトルが長波長側にシフトし、粒径が5.2nmの場合は赤色を示し、粒径が1.9nmの場合は青色を示す。
また、量子ドットの粒径分布は比較的狭いことが好ましい。
なお、量子ドットの粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、粉末X線回折(XRD)パターン、またはUV/Vis吸収スペクトルにより確認することができる。
【0034】
発光層中の周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットの含有量としては、発光が得られれば特に限定されるものではなく、発光層に含まれる材料の種類に応じて適宜選択される。
例えば、発光層が、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いたものである場合には、発光層中の周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットの含有量は、50質量%〜100質量%の範囲内であることが好ましく、中でも60質量%〜100質量%の範囲内であることが好ましい。上記含有量が少なすぎると、充分な発光が得られなかったり、発光層を硬化させる場合には充分に発光層を硬化させることができなかったりする可能性があるからである。また、上記含有量が多すぎると、発光層の成膜が困難となる場合があるからである。
【0035】
また例えば、発光層が、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用い、さらに正孔輸送材料および電子輸送材料の少なくともいずれか一方を含有するものである場合には、発光層中の周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットの含有量は、10質量%〜90質量%の範囲内であることが好ましく、中でも30質量%〜70質量%の範囲内であることが好ましい。上記含有量が少なすぎると、充分な発光が得られなかったり、発光層を硬化させる場合には充分に発光層を硬化させることができなかったりする可能性があるからである。また、上記含有量が多すぎると、発光層に正孔輸送機能や電子輸送機能等を付与することが困難となったりする場合があるからである。
【0036】
量子ドットの合成方法としては、特表2005-522005号公報、特表2006-520077号公報、特開2007-21670号公報等を参照することができる。
【0037】
また、量子ドットの表面に付着している配位子を、他の配位子に交換することが可能である。例えば、表面にTOPO等の配位子が付着した量子ドットを多量のシランカップリング剤と混合することで、TOPO等の配位子をシランカップリング剤に置換することができる。配位子を置換する際の温度は、室温程度とするのがよい。
なお、配位子の置換方法については、特開2007-21670号公報等を参照することができる。
【0038】
TOPO等の配位子が付着した量子ドットの市販品としては、例えば、evident TECHNOLOGIES社製の蛍光性半導体ナノクリスタル「エヴィドット」等を用いることができる。
【0039】
(2)シランカップリング剤
本発明における発光層に用いられるシランカップリング剤としては、量子ドットに配位し、量子ドットを安定化させることができ、量子ドットの寿命特性に影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、(1)クロロまたはアルコキシシラン等、(2)反応性シリコーンを挙げることができる。
【0040】
上記(1)のクロロまたはアルコキシシラン等としては、一般式:
SiX(4−n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示されるケイ素化合物が好ましく用いられる。このケイ素化合物は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記式で示されるケイ素化合物において、Xは、末端部および、量子ドットに配位結合する配位結合部となる。なお、末端部は、縮合反応が起こる部位であり、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドット間を結合したり、発光層を不溶化させたり、発光層とその下地層との密着性向上に寄与したりする部位である。
【0042】
Xで示されるアルコキシル基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
【0043】
また、上記式で示されるケイ素化合物において、Yは機能性部となる。
例えば、Yがアルキル基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、溶解性に寄与する部位となる。Yがフルオロアルキル基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、撥液性を示す部位となる。Yがビニル基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、π共役系を示す部位となる。Yがアミノ基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、親液性を示す部位となる。Yがフェニル基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、撥水性を示す部位となる。Yがエポキシ基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、硬化性に寄与する部位となる。
【0044】
Yで示される基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましい。
【0045】
上記式で示されるケイ素化合物としては、具体的には、特開2000−249821号公報に記載されているもの等を用いることができる。
【0046】
また、上記(1)のクロロまたはアルコキシシラン等としては、一般式:
SiX(4−n)
(ここで、Yは直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性を示す官能基、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した電子輸送性を示す官能基あるいは直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示されるケイ素化合物も好ましく用いられる。このケイ素化合物は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0047】
上記式で示されるケイ素化合物において、Xは、末端部および、量子ドットに配位結合する配位結合部となる。なお、末端部は、縮合反応が起こる部位であり、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドット間を結合したり、発光層を不溶化させたり、発光層とその下地層との密着性向上に寄与したりする部位である。
【0048】
Xで示されるアルコキシル基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
【0049】
また、上記式で示されるケイ素化合物において、Yは機能性部となる。
例えば、Yが、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性を示す官能基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、正孔輸送性を示す部位となる。Yが直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した電子輸送性を示す官能基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、電子輸送性を示す部位となる。Yが直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基の場合、量子ドット間のスペーサーとなり、正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る部位となる。
【0050】
Yが、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性を示す官能基の場合、中でも、ビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性を示す官能基であることが好ましい。ビニル基およびフェニル基はπ共役系を示す部位だからである。
正孔輸送性を示す官能基としては、例えば、N原子を1つ以上含む芳香族アミン基、置換もしくは未置換の炭素数6〜16のアリール基が挙げられる。
N原子を1つ以上含む芳香族アミン基としては、N原子を1つ以上含む芳香族第3級アミン基が好ましい。具体的には、N,N´−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N´−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)や、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等のトリフェニルアミンが挙げられる。トリフェニルアミンとしては、下記式で示される構造を有するものを挙げることができる。
【0051】
【化1】

【0052】
また、炭素数6〜16のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ナフタセニル基、ペンタセニル基等が挙げられる。
【0053】
Yが、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した電子輸送性を示す官能基の場合、ビニル基もしくはフェニル基を介して結合した電子輸送性を示す官能基であることが好ましい。ビニル基およびフェニル基はπ共役系を示す部位だからである。
電子輸送性を示す官能基としては、例えば、フェナントロリン、トリアゾール、オキサジアゾール、アルミキノリノール等を挙げることができる。具体的には、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq)等が挙げられる。オキサジアゾール、トリアゾールとしては、下記式で示される構造を有するものを挙げることができる。
【0054】
【化2】

【0055】
また、電子輸送性を示す官能基としては、置換もしくは未置換の炭素数6〜16のアリール基も例示される。なお、炭素数6〜16のアリール基については、上記と同様である。
【0056】
Yが、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基の場合、ビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基であることが好ましい。ビニル基およびフェニル基はπ共役系を示す部位だからである。
正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基としては、例えば、ジスチリルアレーン、多芳香族、芳香族縮合環、カルバゾール、複素環等を挙げることができる。具体的には、下記式で示される4,4'-bis(2,2-diphenyl-ethen-1-yl)diphenyl(DPVBi)、4,4'-bis(carbazol-9-yl)biphenyl(CBP)、4,4''-di(N-carbazolyl)-2',3',5',6'-tetraphenyl-p-terphenyl(CzTT)、1,3-bis(carbazole-9-yl)-benzene(m-CP)、9,10-di(naphtha-2-yl)anthracene(DNA)等が挙げられる。
【0057】
【化3】

【0058】
【化4】

【0059】
また、下記式で示される構造を有するものを挙げることができる。
【0060】
【化5】

【0061】
さらに、正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基としては、置換もしくは未置換の炭素数6〜16のアリール基も例示される。なお、炭素数6〜16のアリール基については、上記と同様である。
【0062】
また、上記(2)の反応性シリコーンとしては、下記化学式で表される骨格をもつ化合物を挙げることができる。
【0063】
【化6】

【0064】
ただし、nは2以上の整数であり、R,Rはそれぞれ炭素数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはシアノアルキル基であり、モル比で全体の40%以下がビニル、フェニル、ハロゲン化フェニルである。また、R,Rがメチル基のものが好ましく、モル比でメチル基が60%以上であることが好ましい。また、鎖末端もしくは側鎖には、分子鎖中に少なくとも1個以上の水酸基等の反応性基を有する。
【0065】
また、上記シランカップリング剤は、電荷輸送性を有していてもよい。電荷輸送性を有するシランカップリング剤とするためには、上記(1)の場合の上記式におけるYを、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性を示す官能基、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した電子輸送性を示す官能基あるいは直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基とすればよい。
【0066】
発光層において、量子ドットの周囲に配置されたシランカップリング剤は、上述したように、シランカップリング剤自体であってもよく、シランカップリング剤の加水分解物になっていてもよく、シランカップリング剤の加水分解縮合物になっていてもよい。
【0067】
中でも、量子ドットの周囲に配置されたシランカップリング剤は、シランカップリング剤の加水分解縮合物になっていることが好ましい。すなわち、発光層が、シランカップリング剤の加水分解縮合物を含有することが好ましい。このような発光層は硬化されたものとなる。発光層が硬化されたものである場合には、上述したように発光層内での量子ドットの安定性を良好にすることができ、寿命特性を向上させることができるからである。また、発光層中のシランカップリング剤が、発光層の下地層(第1電極層や正孔注入輸送層等)と結合等することにより、発光層と発光層の下地層との密着性を向上させることができる。さらには、発光層の熱安定性(Tg:ガラス転移温度)を向上させることもできる。
また、発光層上に塗工液を用いて正孔注入輸送層または電子注入輸送層等を形成する際、正孔注入輸送層または電子注入輸送層等を形成するための塗工液中の溶剤に発光層が溶解等することなく、安定して発光層上に正孔注入輸送層または電子注入輸送層等を積層することができる。
【0068】
シランカップリング剤の加水分解縮合物としては、例えば、(1)ゾルゲル反応等により上記クロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)上記反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等のオルガノポリシロキサンを挙げることができる。
【0069】
上記(1)の場合、上述のケイ素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物または共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。
【0070】
また、発光層は、上記オルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコーン化合物を含有していてもよい。
【0071】
(3)正孔輸送材料
本発明において、発光層がさらに正孔輸送材料を含有する場合、用いられる正孔輸送材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。具体的には、4,4´−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(α−NPD)、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、4,4´,4´´−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]−トリフェニルアミン(MTDATA)、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0072】
発光層中での周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットと正孔輸送材料との混合比は、(周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドット):(正孔輸送材料)=1:0.1〜2程度であることが好ましい。量子ドットの混合比が少なすぎると、充分な発光が得られない可能性があるからである。また、量子ドットの混合比が多すぎると、発光層の成膜が困難となったり、発光層に正孔輸送機能を付与することが困難となったりする場合があるからである。
【0073】
(4)電子輸送材料
本発明において、発光層がさらに電子輸送材料を含有する場合、用いられる電子輸送材料としては、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)等のアルミキノリノール錯体などを挙げることができる。
【0074】
発光層中での周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットと電子輸送材料との混合比は、(周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドット):(電子輸送送材料)=1:0.1〜2程度であることが好ましい。量子ドットの混合比が少なすぎると、充分な発光が得られない可能性があるからである。また、量子ドットの混合比が多すぎると、発光層の成膜が困難となったり、発光層に電子輸送機能を付与することが困難となったりする場合があるからである。
【0075】
また、発光層がさらに正孔輸送材料および電子輸送材料を含有する場合、発光層中での周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットと正孔輸送材料と電子輸送材料との混合比は、(周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドット):(正孔輸送送材料):(電子輸送送材料)=1:0.1〜2:0.1〜2程度であることが好ましい。量子ドットの混合比が少なすぎると、充分な発光が得られない可能性があるからである。また、量子ドットの混合比が多すぎると、発光層の成膜が困難となったり、発光層に正孔輸送機能や電子輸送機能を付与することが困難となったりする場合があるからである。
【0076】
なお、発光層がさらに正孔輸送材料および電子輸送材料の少なくともいずれか一方を含有する場合については、特表2005-522005号公報等に詳しく記載されている。
【0077】
(5)発光層の形成方法
本発明における発光層は、上記の周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを溶剤に分散させて発光層形成用塗工液を調製し、この発光層形成用塗工液を第1電極層上に塗布することにより形成することができる。例えば、赤色、緑色および青色の三原色の発光層を形成する場合は、赤色、緑色および青色の各色発光層形成用塗工液が用いられる。上述したように、量子ドットは、その粒径により異なる発光スペクトルを示すことから、各色に応じて量子ドットの粒径が調整される。
【0078】
この際、発光層形成用塗工液に使用することができる溶剤としては、上記の周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドット等と混合するものであり、白濁その他の影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではない。このような溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく混合して用いてもよい。
【0079】
上記発光層形成用塗工液が、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットと、さらに正孔輸送材料および電子輸送材料の少なくともいずれか一方とを含有する場合には、まず、正孔輸送材料および電子輸送材料の少なくともいずれか一方を溶剤に溶解させ、さらにこの溶液に周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを分散させて、調製することができる。
【0080】
また、発光層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、インクジェット法、キャスト法、LB法、ディスペンサー法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0081】
上記発光層形成用塗工液の塗布後、塗膜を乾燥させてもよい。乾燥方法としては、均一な発光層を形成することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、例えばホットプレート、赤外線ヒーター、オーブン等を用いることができる。
このような乾燥を行うことにより、加水分解されたシランカップリング剤の縮合反応が進行し、発光層が硬化される。
【0082】
また、図3に例示するように、後述する正孔輸送層6上に発光層4が形成されている場合には、正孔輸送層6と発光層4とを一括して形成することもできる。例えば、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットと正孔輸送材料とを含有する塗工液を調製し、この塗工液を第1電極層上に塗布し、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットと正孔輸送材料とを相分離(垂直相分離)させることにより、発光層と正孔輸送層とを一括して形成することができる。この場合には、発光層と正孔輸送層とが相分離したものとなり、発光層と正孔輸送層との間に相分離界面を有することになる。
【0083】
発光層と正孔輸送層との間に相分離界面を有する場合、図3に例示するように、巨視的には、その相分離界面21が第1電極層3の表面とほぼ平行となり、図4に例示するように、微視的には、発光層4および正孔輸送層6が互いに凹凸状に入り込んだ(重なり合った)状態となる。このため、発光層と正孔輸送層との接触面積が大きくなり、電子と正孔との再結合サイトが広がる。そして、この再結合サイトは、第1電極層から離れた部分に存在するので、結果として発光するサイトが広がる(発光に寄与する分子の数が増加する)。このため、発光効率の向上や、さらなる長寿命化を図ることができる。
また、発光層および正孔輸送層の界面が均一(平坦)でなく、凹凸状であるため、駆動電圧量を上昇させても、一斉に正孔と電子とが励起、結合するのを防止して、発光の強度が急峻に上昇するのを防止することができる。したがって、駆動電圧量に応じて輝度を穏やかに上昇させることができるので、発光輝度のコントロールや、低輝度の階調コントロールを容易に行うことができる。また、駆動電圧を細かく制御するための複雑な周辺回路が不要になるという利点がある。
【0084】
具体的には、次のようにして発光層および正孔輸送層を一括して形成することができる。
まず、正孔輸送材料を溶剤に溶解させ、さらにこの溶液に周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを分散させて、塗工液を調製する。
この際に用いられる正孔輸送材料としては、上記の正孔輸送材料を用いることができる。
また、この際に用いられる溶剤としては、非極性溶媒が好適であり、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく混合して用いてもよい。
【0085】
次に、上記塗工液を第1電極層上に塗布して、塗膜を形成する。
上記塗工液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0086】
次に、上記塗膜中から溶剤を除去する。溶剤が除去されると、塗膜中では、図4に例示するように、正孔輸送材料(図示なし)が第1電極層3側に、周囲にシランカップリング剤(図示なし)が配置された量子ドット12が塗膜の最表面側に、上下方向に分離し、塗膜が固化される。このようにして正孔輸送層および発光層が一括して形成される。すなわち、相分離により、正孔輸送層および発光層が一括して形成される。
【0087】
このとき、溶剤の種類、正孔輸送材料の重量平均分子量、塗工液中の正孔輸送材料の含有量、塗工液中の量子ドットおよびシランカップリング剤の含有量、溶剤を除去する速度、溶剤を除去する際の雰囲気、塗工液を塗布する下地層の表面性状態等のうち、少なくとも1つの条件を適宜設定することにより、正孔輸送材料と周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットとの相分離の状態を制御することができる。
【0088】
例えば、溶剤を除去する際の雰囲気を、極性溶媒の蒸気を含有する雰囲気とすることができる。これにより、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットをより確実に塗膜中において上側に集めることができる。この極性溶媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、イソプロパノールのようなアルコール類等が挙げられる。
【0089】
また、上記塗工液の塗布後、塗膜を乾燥させてもよい。乾燥を行うことにより、加水分解されたシランカップリング剤の縮合反応が進行し、発光層が硬化される。なお、乾燥方法については、上記と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0090】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば1nm〜500nm程度とすることができる。
【0091】
2.正孔注入輸送層
本発明においては、発光層と陽極との間に正孔注入輸送層が形成されていてもよい。例えば、第1電極層が陽極である場合には、第1電極層と発光層との間に正孔注入輸送層が形成される。正孔注入輸送層を設けることにより、発光層への正孔の注入が安定化したり、正孔の輸送が円滑になったりするため、発光効率を高めることができる。
【0092】
正孔注入輸送層は、陽極から注入された正孔を安定に発光層内へ注入する正孔注入機能を有する正孔注入層であってもよく、陽極から注入された正孔を発光層内へ輸送する正孔輸送機能を有する正孔輸送層であってもよく、正孔注入層および正孔輸送層が積層されたものであってもよく、正孔注入機能および正孔輸送機能の両方を有する単一の層であってもよい。
【0093】
なお、発光層がさらに正孔輸送材料を含有する場合や、正孔輸送層と発光層とを一括して形成する場合には、正孔注入輸送層が正孔注入層であることが好ましい。
【0094】
正孔注入層に用いられる正孔注入材料としては、発光層内への正孔の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、フェニルアミン類、スターバースト型アミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンおよびこれらの誘導体等の導電性高分子などを挙げることができる。上記導電性高分子は、酸によりドーピングされていてもよい。具体的には、4,4´−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(α−NPD)、4,4´,4´´−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(TDATA)、4,4´,4´´−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]−トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0095】
正孔注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には5nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm〜100nmの範囲内である。
【0096】
また、正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料としては、注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。具体的には、4,4´−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(α−NPD)、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、4,4´,4´´−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]−トリフェニルアミン(MTDATA)、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0097】
正孔輸送層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には5nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm〜100nmの範囲内である。
【0098】
正孔注入輸送層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法等のドライプロセスであってもよく、スピンコート法等のウェットプロセスであってもよい。
【0099】
3.電子注入輸送層
本発明においては、発光層と陰極との間に電子注入輸送層が形成されていてもよい。例えば、第2電極層が陰極である場合には、第2電極層と発光層との間に電子注入輸送層が形成される。電子注入輸送層を設けることにより、発光層への電子の注入が安定化したり、電子の輸送が円滑になったりするため、発光効率を高めることができる。
【0100】
電子注入輸送層は、陰極から注入された電子を安定に発光層内へ注入する電子注入機能を有する電子注入層であってもよく、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送する電子輸送機能を有する電子輸送層であってもよく、電子注入層および電子輸送層が積層されたものであってもよく、電子注入機能および電子輸送機能の両方を有する単一の層であってもよい。
【0101】
なお、発光層がさらに電子輸送材料を含有する場合には、電子注入輸送層が電子注入層であることが好ましい。
【0102】
電子注入層に用いられる電子注入材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、アルミリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。また、Ca/LiFのように、これらを積層して用いることも可能である。
【0103】
電子注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には0.1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜100nmの範囲内である。
【0104】
また、電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)等のアルミキノリノール錯体などを挙げることができる。
【0105】
電子輸送層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には1nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜50nmの範囲内である。
【0106】
さらに、電子注入機能および電子輸送機能の両方を有する単一の層の形成材料としては、Li、Cs、Ba、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属がドープされた電子輸送材料を挙げることができる。電子輸送材料としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体が挙げられる。また、電子輸送材料とドープされる金属とのモル比率は、1:1〜1:3の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:2の範囲内である。アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属がドープされた電子輸送材料は、電子移動度が比較的大きく、金属単体に比べて透過率が高い。
【0107】
電子注入機能および電子輸送機能の両方を有する単一の層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には0.1nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1nm〜50nmの範囲内である。
【0108】
電子注入輸送層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法等のドライプロセスであってもよく、スピンコート法等のウェットプロセスであってもよい。発光層が硬化されたものである場合には、ウェットプロセスの場合であっても安定して発光層上に電子注入輸送層を形成することができる。
【0109】
4.第1電極層
本発明に用いられる第1電極層は、陽極であってもよく陰極であってもよい。
【0110】
第1電極層を形成する材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではない。例えば、第1電極層側から光を取り出す場合には、第1電極層は透明性を有することが好ましい。導電性および透明性を有する材料としては、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O等を好ましいものとして例示することができる。一方、第2電極層側から光を取り出す場合には、第1電極層に透明性は要求されない。この場合、導電性を有する材料として、金属を用いることができ、具体的には、Au、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、あるいは、Al合金、Ni合金、Cr合金等を挙げることができる。
【0111】
第1電極層の成膜方法としては、一般的な電極の成膜方法を用いることができ、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等を挙げることができる。また、第1電極層のパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法を挙げることができる。
【0112】
5.第2電極層
本発明に用いられる第2電極層は、第1電極層と対向する電極であればよく、陽極であってもよく陰極であってもよい。
【0113】
第2電極層を形成する材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではない。例えば、第2電極層側から光を取り出す場合には、第2電極層は透明性を有することが好ましい。一方、第1電極層側から光を取り出す場合には、第2電極層に透明性は要求されない。なお、導電性を有する材料については、上記第1電極層の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0114】
また、第2電極層の成膜方法については、上記第1電極層の成膜方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0115】
6.基板
本発明においては、第1電極層が基板上に形成されていてもよい。基板は、第1電極層、発光層および第2電極層等を支持するものである。
【0116】
例えば、基板側から光を取り出す場合には、基板は透明であることが好ましい。透明な基板としては、例えば、石英、ガラス等を挙げることができる。一方、第2電極層側から光を取り出す場合には、基板に透明性は要求されない。この場合、基板には、上記材料の他にも、アルミニウムおよびその合金等の金属、プラスチック、織物、不織布等を用いることができる。
【0117】
7.絶縁層
本発明においては、基板上に第1電極層がパターン状に形成されている場合、基板上の第1電極層のパターンの開口部に、絶縁層が形成されていてもよい。絶縁層は、隣接する第1電極層のパターン間での導通や、第1電極層および第2電極層間での導通を防ぐために設けられるものである。この絶縁層が形成された部分は、非発光領域となる。
【0118】
絶縁層は、基板上であって、第1電極層のパターンの開口部に形成されるものであり、通常は第1電極層のパターンの端部を覆うように形成される。
【0119】
この絶縁層の形成材料としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、無機材料等を用いることができる。
【0120】
また、絶縁層の形成方法としては、フォトリソグラフィー法、印刷法等の一般的な方法を用いることができる。
【0121】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0122】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[参考例1](配位子の置換方法)
TOPOで保護された量子ドット(CdSe/ZnSコアシェル型ナノ粒子、直径:5.2nm)の分散液(evident TECHNOLOGIES社製、蛍光性半導体ナノクリスタル「エヴィドット」)に、シランカップリング剤を添加し、配位子を置換した。
【0123】
具体的には、まず、テトラメトキシシラン(LS-540、信越化学工業製)5gと、フェニルトリメトキシシラン(LS-2750、信越化学工業製)1gと、0.01NのHCl 2gとを室温にて12時間攪拌し、共重合化合物(シランカップリング剤)を得た。この共重合化合物にトルエンを加えて攪拌して溶解させ、シランカップリング剤の10wt%トルエン溶液を得た。
【0124】
次に、アルゴンガス雰囲気で、TOPOで保護された量子ドットの分散液1gを攪拌しながら、室温(26℃)で上記シランカップリング剤の10wt%トルエン溶液2gを滴下した。この反応液を12時間攪拌した後、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更し、蒸発飛散した量のトルエンを添加した後、エタノールを8g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をトルエン4gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール10gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離することにより、シランカップリング剤で保護された量子ドットの精製物を得た。
【0125】
[参考例2](配位子の置換方法)
参考例1において、フェニルトリメトキシシランをデシルトリメトキシシラン(LS-5258、信越化学工業製)に変更した以外は、参考例1と同様にして、シランカップリング剤で保護された量子ドットの精製物を得た。
【0126】
[参考例3](配位子の置換方法)
参考例1において、フェニルトリメトキシシランを用いずに、テトラメトキシシランのみを用いた以外は、参考例1と同様にして、シランカップリング剤で保護された量子ドットの精製物を得た。
【0127】
[実施例1]
まず、上記参考例1のシランカップリング剤で保護された量子ドットをトルエンに分散させた発光層形成用塗工液を調製した。
次に、ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、上記発光層形成用塗工液をスピンコート法によって成膜した。その後、ホットプレートにて150℃で加熱し、量子ドットに付着しているシランカップリング剤を反応させて、シランカップリング剤同士およびシランカップリング剤とITO電極とを結合させ、発光層を得た。
【0128】
次に、上記発光層上に、真空蒸着により、LiFを厚み1nm、Alを厚み100nmで成膜し、EL素子を作製した。
【0129】
ITO電極およびAl電極は端子を備えており、これらを電圧源に接続した。3Vを上回る電圧を印加すると、620nmにピークを有する発光が得られた。これは、TOPOで保護されたCdSe/ZnS量子ドット(粒径5nm)のフォトルミネッセンススペクトラムと同様の発光を示していた。また、得られたEL素子は、良好な安定性、効率および輝度が得られた。
【0130】
[比較例1]
まず、TOPOで保護された量子ドット(CdSe/ZnSコアシェル型ナノ粒子、直径:5.2nm)の懸濁液(evident TECHNOLOGIES社製、蛍光性半導体ナノクリスタル「エヴィドット」)を準備した。
次に、ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、上記のTOPOで保護された量子ドットの懸濁液を、スピンコート法によって成膜し、発光層を得た。
その後、実施例1と同様にして、EL素子を作製した。
【0131】
ITO電極およびAl電極は端子を備えており、これらを電圧源に接続した。7Vを上回る電圧を印加すると、620nmにピークを有する発光が得られた。これは、TOPOで保護されたCdSe/ZnS量子ドット(粒径5nm)のフォトルミネッセンススペクトラムと同様の発光を示していた。また、得られたEL素子は、TOPOの融点が約50℃と低いために、安定性が悪く、効率および輝度が低かった。
【0132】
[実施例2]
まず、上記参考例1のシランカップリング剤で保護された量子ドットをトルエンに分散させた発光層形成用塗工液を調製した。
次に、ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、上記発光層形成用塗工液をスピンコート法によって成膜した。その後、ホットプレートにて150℃で加熱し、量子ドットに付着しているシランカップリング剤を反応させて、シランカップリング剤同士およびシランカップリング剤とITO電極とを結合させ、発光層を得た。
【0133】
次に、上記発光層上に、真空蒸着により、下記式で示されるトリアゾール誘導体を成膜し、電子輸送層を得た。
【0134】
【化7】

【0135】
次に、上記電子輸送層上に、真空蒸着により、LiFを厚み1nm、Alを厚み100nmで成膜した。
【0136】
ITO電極およびAl電極は端子を備えており、これらを電圧源に接続した。3Vを上回る電圧を印加すると、620nmにピークを有する発光が得られた。これは、TOPOで保護されたCdSe/ZnS量子ドット(粒径5nm)のフォトルミネッセンススペクトラムと同様の発光を示していた。また、得られたEL素子は、良好な安定性、効率および輝度が得られた。
【0137】
[実施例3]
ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、スピンコート法によってPEDOT:PSSを成膜し、正孔注入層を形成した。
【0138】
次に、上記参考例1のシランカップリング剤で保護された量子ドットをトルエンに分散させた発光層形成用塗工液を調製した。続いて、上記正孔注入層上に、上記発光層形成用塗工液をスピンコート法によって成膜した。その後、ホットプレートにて150℃で加熱し、量子ドットに付着しているシランカップリング剤を反応させて、シランカップリング剤同士およびシランカップリング剤と正孔注入層中のPEDOT:PSSとを結合させ、発光層を得た。
【0139】
次に、上記発光層上に、真空蒸着により、上記式で示されるトリアゾール誘導体を成膜し、電子輸送層を得た。次いで、上記電子輸送層上に、真空蒸着により、LiFを厚み1nm、Alを厚み100nmで成膜した。
【0140】
ITO電極およびAl電極は端子を備えており、これらを電圧源に接続した。3Vを上回る電圧を印加すると、620nmにピークを有する発光が得られた。これは、TOPOで保護されたCdSe/ZnS量子ドット(粒径5nm)のフォトルミネッセンススペクトラムと同様の発光を示していた。また、得られたEL素子は、良好な安定性、効率および輝度が得られた。
【0141】
[実施例4]
まず、上記参考例1のシランカップリング剤で保護された量子ドットとTPDとを、1:1の重量比にて、トルエンに分散させた発光層形成用塗工液を調製した。
次に、ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、上記発光層形成用塗工液をスピンコート法によって成膜した。その後、ホットプレートにて150℃で加熱し、量子ドットに付着しているシランカップリング剤を反応させて、シランカップリング剤同士およびシランカップリング剤とITO電極とを結合させ、発光層を得た。
この発光層は、AFM表面観察により、量子ドットが層表面へ並び、層を形成していることが確認された。
【0142】
次に、上記発光層上に、真空蒸着により上記式で示されるトリアゾール誘導体を成膜し、さらに真空蒸着によりAlq3を成膜して、電子輸送層を得た。次いで、上記電子輸送層上に、真空蒸着により、LiFを厚み1nm、Alを厚み100nmで成膜した。
【0143】
ITO電極およびAl電極は端子を備えており、これらを電圧源に接続した。3Vを上回る電圧を印加すると、620nmにピークを有する発光が得られた。これは、TOPOで保護されたCdSe/ZnS量子ドット(粒径5nm)のフォトルミネッセンススペクトラムと同様の発光を示していた。また、得られたEL素子は、良好な安定性、効率および輝度が得られた。
【0144】
[実施例5]
まず、上記参考例2のシランカップリング剤で保護された量子ドットと、TPDと、トリアゾールとをトルエンに分散させた発光層形成用塗工液を調製した。この際、各材料の混合比を、シランカップリング剤で保護された量子ドット40質量部、TPD 30質量部、トリアゾール30質量部とした。
次に、ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、上記発光層形成用塗工液をスピンコート法によって成膜した。その後、ホットプレートにて150℃で加熱し、量子ドットに付着しているシランカップリング剤を反応させて、シランカップリング剤同士およびシランカップリング剤とITO電極とを結合させ、発光層を得た。
この発光層は、AFM表面観察により、層表面に、シランカップリング剤で保護された量子ドットとTPDとトリアゾールとがランダムに存在する状態であることが確認された。
【0145】
次に、上記発光層上に、真空蒸着により、LiFを厚み1nm、Alを厚み100nmで成膜した。
【0146】
ITO電極およびAl電極は端子を備えており、これらを電圧源に接続した。3Vを上回る電圧を印加すると、620nmにピークを有する発光が得られた。これは、TOPOで保護されたCdSe/ZnS量子ドット(粒径5nm)のフォトルミネッセンススペクトラムと同様の発光を示していた。また、得られたEL素子は、良好な安定性、効率および輝度が得られた。
【0147】
[実施例6]
ITO電極がパターン状に形成されたガラス基板を洗浄した。
次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の水分散体(Baytron P CH8000;スタルク社製)に、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルメトキシシラン(TSL8350;東芝シリコーン社製)を、全固形分に対するシランカップリング剤の濃度が5%になるように添加し、正孔注入層形成用塗工液を調製した。次いで、上記正孔注入層形成用塗工液を、上記基板の中心部に滴下して、スピンコートを行った。続いて、得られた膜をホットプレートで150℃、15分間加熱し、正孔注入層を得た。
【0148】
次に、上記参考例3のシランカップリング剤で保護された量子ドットをトルエンに分散させた発光層形成用塗工液を調製した。次いで、上記正孔注入層上に、上記発光層形成用塗工液をスピンコート法によって成膜した。その後、ホットプレートにて150℃で加熱し、量子ドットに付着しているシランカップリング剤を反応させて、シランカップリング剤同士およびシランカップリング剤と正孔注入層中のPEDOT/PSSとを結合させ、発光層を得た。
【0149】
次に、上記発光層上に、真空蒸着により、上記式で示されるトリアゾール誘導体を厚み20nm、Alq3を厚み20nmで成膜して、電子輸送層を得た。次いで、上記電子輸送層上に、真空蒸着により、LiFを厚み1nm、Alを厚み100nmで成膜した。
【0150】
ITO電極およびAl電極は端子を備えており、これらを電圧源に接続した。3Vを上回る電圧を印加すると、620nmにピークを有する発光が得られた。これは、TOPOで保護されたCdSe/ZnS量子ドット(粒径5nm)のフォトルミネッセンススペクトラムと同様の発光を示していた。また、得られたEL素子は、良好な安定性、効率および輝度が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明のEL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを示す模式図である。
【図3】本発明のEL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明のEL素子における正孔輸送層および発光層の相分離を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0152】
1 … EL素子
2 … 基板
3 … 第1電極層
4 … 発光層
5 … 第2電極層
6 … 正孔輸送層
11 … シランカップリング剤
12 … 量子ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層と、前記第1電極層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された第2電極層とを有するエレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層に、周囲にシランカップリング剤が配置された量子ドットを用いることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層が、前記シランカップリング剤の加水分解縮合物を含有し、硬化されたものであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記シランカップリング剤の加水分解縮合物が、YSiX(4−n)(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)で示されるケイ素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物または共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記シランカップリング剤の加水分解縮合物が、YSiX(4−n)(ここで、Yは直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性を示す官能基、直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した電子輸送性を示す官能基あるいは直接またはビニル基もしくはフェニル基を介して結合した正孔輸送性および電子輸送性の両方を示し得る官能基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)で示されるケイ素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物または共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層が、さらに正孔輸送材料および電子輸送材料の少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記第1電極層と前記発光層との間に正孔注入輸送層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記正孔注入輸送層と前記発光層とが相分離していることを特徴とする請求項6に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記量子ドットが、半導体微粒子からなるコア部と、前記コア部を被覆し、前記半導体微粒子よりもバンドギャップが大きい材料からなるシェル部とを有することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−87783(P2009−87783A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256871(P2007−256871)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】