説明

エレベータの救出装置及びエレベータの救出方法

【課題】エレベータのかご内に閉じ込められた乗客の救出、並びに、救出後のエレベータの復旧を容易に行うことができるエレベータの救出装置を得る。
【解決手段】エレベータのかご2に設けられ、かご内に閉じ込められた乗客の救出時に、かごの重量を増加させるために液体が注入される注水タンク8と、注水タンクに設けられた給水口11と、一端部が給水口に、他端部が昇降路の外部に設けられた注水口12に接続されたホース13と、注水タンクに設けられた排水口9と、排水口を開閉する排水口開閉装置10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータ昇降路内を昇降するかごに閉じ込められた乗客を救出する際に使用されるエレベータの救出装置及びその救出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータ昇降路内を互いに逆方向に昇降するかごと釣合い重りとは、主ロープやベルト等の懸架手段によって釣瓶式に懸架されている。したがって、動力電源の遮断等によってかご内に乗客が閉じ込められた場合には、通常、上記懸架手段が巻き掛けられた駆動綱車の回動を制動するブレーキ装置を解放することにより、かご及び釣合い重りの重い方を下降させて、かごを最寄り階の乗場に移動させる。しかし、かごの重量と釣合い重りの重量とが均衡している場合、上記ブレーキ装置を解放させても、かごを昇降させることはできない。そこで、かかる状況が発生した場合、従来では、エレベータの作業員が昇降路ピット内に入り込んで、かごの下部と釣合い重りの下部とに渡って連結された釣合い鎖の所定位置に追加重りを懸架することにより、かご側及び釣合い重り側の何れか一方を重くして、かごを最寄の階の乗場まで昇降させていた。
【0003】
しかし、上記救出方法では、乗客を救出するまでに作業員が昇降路ピット内に入り込む必要があり、救出までに時間を要するとともに、作業者の負担が大きいという問題があった。なお、上記問題を解消するものとして、粒状鉄や鉛等をエレベータの釣合い重りとして採用することにより、エレベータのかごが、例えば、動力電源の遮断によって昇降路内に停止してしまった場合に、上記粒状鉄や鉛の一部を昇降路内に落下させて、かご側又は釣合い重り側の何れか一方を重くするようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、エレベータのかごや釣合い重りの重量を増減させて、通常運転時における消費電力を改善させるものとして、昇降路の行程の途中に設けられた昇降路側液体タンクに充填された液体を、乗降客の閑散時にかご側液体タンクに流入させて、かごと釣合い重りとの重量アンバランスを補正するようにしたもの(例えば、特許文献2参照)や、昇降路内における釣合い重りの位置を検出することにより、この検出結果に基づいて、釣合い重りに設けられたタンク内に液体を注入したり、タンクから液体を排出したりするものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平8−2846号公報
【特許文献2】特開平8−143234号公報
【特許文献3】特開2000−335850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載のものは、釣合い重り側の重量を軽減するため、釣合い重りとして採用されている粒状鉄や鉛等の一部を昇降路内に排出するように構成されているが、排出された粒状鉄や鉛等が昇降路ピット内に散乱してしまうため、復旧に時間が掛かるという問題が生じていた。
【0007】
一方、特許文献2や特許文献3に記載されたものは、エレベータの通常運転時における消費電力の改善に関するものであり、本発明とは、その性質を全く異にするものである。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、エレベータのかご内に閉じ込められた乗客の救出、並びに、救出後のエレベータの復旧を容易に行うことができるエレベータの救出装置及びエレベータの救出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るエレベータの救出装置は、エレベータのかごに設けられ、かご内に閉じ込められた乗客の救出時に、かごの重量を増加させるために液体が注入される注水タンクと、注水タンクに設けられた給水口と、一端部が給水口に、他端部が昇降路の外部に設けられた注水口に接続されたホースと、注水タンクに設けられた排水口と、排水口を開閉する排水口開閉装置とを備えたものである。
【0010】
また、この発明に係るエレベータの救出方法は、エレベータのかご内に乗客が閉じ込められた際に、駆動綱車の回動を制動するブレーキ装置を解放するステップと、ブレーキ装置を解放してもかごが昇降しない場合に、かごに設けられた注水タンクに昇降路の外部から液体を注入して、かごを下降させるステップと、かごを乗場に停止させてかご内の乗客を救出するステップとを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、エレベータのかごに設けられ、かご内に閉じ込められた乗客の救出時に、かごの重量を増加させるために液体が注入される注水タンクと、注水タンクに設けられた給水口と、一端部が給水口に、他端部が昇降路の外部に設けられた注水口に接続されたホースと、注水タンクに設けられた排水口と、排水口を開閉する排水口開閉装置とを備える構成としたことで、エレベータのかご内に閉じ込められた乗客の救出、並びに、救出後のエレベータの復旧を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるエレベータの救出装置の側面図である。図1において、1はエレベータ昇降路、2は昇降路1内を昇降するかご、3は昇降路1内をかご2とは逆方向に昇降する釣合い重り、4はかご2と釣合い重り3とを釣瓶式に懸架する主ロープやベルト等の懸架手段、5はこの懸架手段4の一部が巻き掛けられた巻上機の駆動綱車、6は釣合い重り3の上方に配置されて、懸架手段4の一部が巻き掛けられたそらせ車である。そして、かご2は、駆動綱車5の回動に連動して懸架手段4が移動することにより、昇降路1内を昇降する。
【0014】
ここで、上記釣合い重り3は、駆動綱車5を回動させるのに必要な巻上機の負担を軽減するため、かご2に定員の半分の乗客が乗車した状態で、懸架手段4に作用するかご2側の重量と釣合い重り3側の重量とがほぼ等しくなるようにその重量が調整されている。
【0015】
次に、かご2に閉じ込められた乗客を救出する際に使用されるエレベータの救出装置7の構成について説明する。エレベータの救出装置7は、かご2の下部に設けられ、かご2内に閉じ込められた乗客の救出時に、かご2の重量を増加させるために液体が注入される注水タンク8と、注水タンク8の下部に設けられた排水口9と、この排水口9を開閉する排水口開閉装置10と、注水タンク8の下部に設けられた給水口11と、所定のエレベータ乗場等、昇降路1の外部に設けられた注水口12と、一端部が上記給水口11に、また、他端部が上記注水口12に接続されたホース13とから構成される。なお、上記ホース13は、かご2の昇降動作を阻害しないように、かご2の昇降範囲に合わせてその長さが設定されている。また、注水口12は、所定の高さよりも高い位置に配置されている。
【0016】
次に、動力電源の遮断等の理由によってかご2内に閉じ込められた乗客を救出する際の動作について説明する。
かご2内に乗客が閉じ込められてしまった場合、エレベータの作業員は、先ず、巻上機の設置場所へ行き、駆動綱車5の回動を規制しているブレーキ装置(図示せず)を解放する。ここで、かご2と釣合い重り3との間に重量アンバランスが生じている場合には、上記ブレーキ装置を解放させることにより、かご2及び釣合い重り3の重い方が下降するため、作業員は、かご2を最寄りの乗場まで移動させて、かご2内の乗客を救出する。
【0017】
一方、かご2の重量と釣合い重り3の重量とが均衡している場合、上記ブレーキ装置を解放しても、かご2は昇降しない。かかる場合には、作業員は、先ず、一度解放したブレーキ装置を元の状態に戻し、再度制動状態にする。そして、所定の乗場等に設けられた注水口12から水道水等の液体を流し込み、かご2の下部に設けられた注水タンク8内に上記液体を注入する。かかる操作により、懸架手段4に作用するかご2側の重量を注水タンク8内に注入した液体の重量分だけ増加させる。作業者は、液体を所定量注水タンク8内に注入した後、再度ブレーキ装置を解放し、かご2を最寄りの乗場までゆっくりと下降させる。そして、かご2を最寄りの乗場に停止させて、その乗場からドアを開放し、かご2内の乗客を救出する。
【0018】
また、かご2内の乗客を救出した後、作業員は、エレベータを通常運転に復旧させるため、注水タンク8内の液体の一部を排出して、注水タンク8内の液体の量を通常運転時における所定の状態に戻す。具体的には、乗客がかご2から降りた後、作業員は、かご2を最下階まで下降させるとともに、自ら昇降路1のピット内に入る。そして、かご2の下方から排水口開閉装置10を操作することによって排水口9を開放し、注水タンク8内の液体を必要な量だけ排出して、懸架手段4に作用するかご2側の重量を通常運転時における所定の状態に戻す。
【0019】
この発明の実施の形態1によれば、エレベータの作業員は、注水口12が設置された乗場等からの操作によって、懸架手段4に作用するかご2側の重量を増加させることができるため、かご2と釣合い重り3との重量が均衡した状態の時に乗客がかご2内に閉じ込められた場合でも、乗客を救出するまでに作業員が昇降路1のピット内に立ち入る必要はなく、乗客の救出を迅速且つ容易に実施することが可能となる。また、救出後、注水タンク8内の余分な液体を昇降路1内に排出することによって、懸架手段4に作用するかご2側の重量を通常運転時における適正な重量に容易に戻すことができるため、救出後の復旧作業も短時間のうちに終了させることが可能である。
【0020】
なお、昇降路1のピットに排水溝や排水装置を設置しておくことにより、注水タンク8内の液体をピット内にそのまま排水することも可能となり、作業性を向上させて、復旧までに要する時間を大幅に短縮することが可能となる。また、かご2内の乗客を救出後、かご2を最下階まで下降させてから注水タンク8内の液体を排出することができるため、周囲に液体が飛び散る恐れも無い。
【0021】
実施の形態2.
図2はこの発明の実施の形態2におけるエレベータの救出装置の要部側面図である。図2において、14は注水タンク8の下部に設けられた電磁弁であり、この電磁弁14は、制御装置15によって昇降路1の外部から開閉操作が可能なように制御されている。このように、実施の形態1における排水口開閉装置10として電磁弁14を採用することにより、かご2内の乗客を救出した後の復旧作業時に、作業員が昇降路1内に立ち入る必要が無くなり、作業性を大幅に向上させることができる。なお、上記電磁弁14は非常用電源(図示せず)から電力が供給されるように構成しておけば、停電時等にも容易に対応し得る。その他は、実施の形態1と同様の構成及び効果を有する。
【0022】
実施の形態3.
図3はこの発明の実施の形態3におけるエレベータの救出装置の側面図である。図3において、16は釣合い重り3の下部に設けられ、予め所定量の液体が注入されるとともに、かご2内に閉じ込められた乗客の救出時に、釣合い重り3の重量を減少させるために液体が排出される注水タンク、17は注水タンク16の下部に設けられた排水口、18は排水口17を開閉する排水口開閉装置、19は一端部が排水口開閉装置18に接続された開放ワイヤ、20は開放ワイヤ19の他端部に接続されるとともに、所定のエレベータ乗場等、昇降路1の外部に設けられ、所定の操作をすることによって開放ワイヤ19を介して上記排水口開閉装置18を操作する操作部である。なお、開放ワイヤ19は、釣合い重り3の昇降動作を阻害しないように、釣合い重り3の昇降範囲に合わせてその長さが設定されている。また、特許請求の範囲に記載の、排水口開閉装置を昇降路1の外部から開閉操作する開閉手段は、上記開放ワイヤ19及び操作部20から構成される。
【0023】
次に、動力電源の遮断等の理由によってかご2内に閉じ込められた乗客を救出する際の動作について説明する。
かご2の重量と釣合い重り3の重量が均衡した状態で、かご2内に乗客が閉じ込められてしまった場合、エレベータの作業員は、先ず、巻上機のブレーキ装置が制動状態になっていることを確認する。そして、所定の乗場等に設けられた操作部20を操作することによって排水口17を開放し、注水タンク16内の液体の一部を昇降路1内に排出する。かかる操作により、懸架手段4に作用する釣合い重り3側の重量を昇降路1内に排出した液体の重量分だけ減少させる。作業者は、液体を所定量注水タンク16外に排出した後、ブレーキ装置を解放し、かご2を最寄りの乗場までゆっくりと下降させる。そして、かご2を最寄りの乗場に停止させて、その乗場からドアを開放し、かご2内の乗客を救出する。
【0024】
また、かご2内の乗客を救出した後、作業員は、エレベータを通常運転に復旧させるため、注水タンク16内に水道水等の液体を注入して、注水タンク16内の液体の量を通常運転時における所定の状態に戻す。具体的には、乗客がかご2から降りて、動力電源が復旧した後、作業員は、釣合い重り3を最下階まで移動させるとともに、自ら昇降路1のピット内に立ち入り、注水タンク16内に水道水等の液体を必要な量だけ注入する。
【0025】
この発明の実施の形態3によれば、釣合い重り3の下部に注水タンク16を設けることによっても、かご2内に閉じ込められた乗客の救出、及び、救出後の復旧作業を容易に実施することが可能となる。したがって、昇降路1のピット内に設置されたエレベータ機器類の配置や、排水溝の配置等によってかご2の下部に注水タンク8を設けることができない場合でも、対応可能となる。
【0026】
なお、釣合い重り3の下部に注水タンク16を設置する場合には、実施の形態1のように乗客の救出時に注水タンク8に液体を注入して注水タンク8の重量を増加させるよりも、注水タンク16内の液体を排出して注水タンク16の重量を軽減させる方が望ましい。即ち、釣合い重り3は、通常、鋼板や鋳物を積み上げることによって所定の重量が確保されているため、この鋼板や鋳物の一部を、液体の入った注水タンク16に置き換えて通常運転時における重量を確保すれば、釣合い重り3の実装効率を高めることが可能となる。なお、釣合い重り3には鋼板や鋳物等が積み上げられているため、そのデッドスペースを有効利用するように注水タンク16の形状を構成することにより、積載効率を向上させて省スペース化に寄与させることも可能である。その他は、実施の形態1と同様の構成及び効果を有する。
【0027】
なお、実施の形態3における開閉手段を実施の形態1に対応させても良い。即ち、実施の形態1において、注水タンク8の下部に設けられた排水口9を開閉する排水口開閉装置10に開放ワイヤ19の一端部を接続し、この開放ワイヤ19の他端部に、昇降路1の外部から操作可能な操作部20を設けても良い。かかる構成を有することにより、実施の形態1の乗客の救出後における復旧作業において、作業員が昇降路1のピット内に立ち入る必要が無くなり、復旧作業をより迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベータの救出装置の側面図である。
【図2】この発明の実施の形態2におけるエレベータの救出装置の要部側面図である。
【図3】この発明の実施の形態3におけるエレベータの救出装置の側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 昇降路
2 かご
3 釣合い重り
4 懸架手段
5 駆動綱車
6 そらせ車
7 救出装置
8、16 注水タンク
9、17 排水口
10、18 排水口開閉装置
11 給水口
12 注水口
13 ホース
14 電磁弁
15 制御装置
19 開放ワイヤ
20 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのかごに設けられ、前記かご内に閉じ込められた乗客の救出時に、前記かごの重量を増加させるために液体が注入される注水タンクと、
前記注水タンクに設けられた給水口と、
一端部が前記給水口に、他端部が昇降路の外部に設けられた注水口に接続されたホースと、
前記注水タンクに設けられた排水口と、
前記排水口を開閉する排水口開閉装置と、
を備えたことを特徴とするエレベータの救出装置。
【請求項2】
排水口開閉装置は、昇降路の外部から開閉操作が可能な電磁弁であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの救出装置。
【請求項3】
エレベータの釣合い重りに設けられ、予め所定量の液体が注入されるとともに、エレベータのかご内に閉じ込められた乗客の救出時に、前記釣合い重りの重量を軽減させるために前記液体が排出される注水タンクと、
前記注水タンクに設けられた排水口と、
前記排水口を開閉する排水口開閉装置と、
前記排水口開閉装置を昇降路の外部から開閉操作する開閉手段と、
を備えたことを特徴とするエレベータの救出装置。
【請求項4】
一端部が排水口開閉装置に接続された開放ワイヤと、
昇降路の外部に設けられ、前記開放ワイヤの他端部が接続されるとともに、前記開放ワイヤを介して前記排水口開閉装置を操作する操作部と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載のエレベータの救出装置。
【請求項5】
エレベータのかご内に乗客が閉じ込められた際に、駆動綱車の回動を制動するブレーキ装置を解放するステップと、
前記ブレーキ装置を解放しても前記かごが昇降しない場合に、前記かごに設けられた注水タンクに昇降路の外部から液体を注入して、前記かごを下降させるステップと、
前記かごを乗場に停止させて前記かご内の乗客を救出するステップと、
を備えたことを特徴とするエレベータの救出方法。
【請求項6】
かご内の乗客を救出した後、前記かごを最下階まで下降させるステップと、
注水タンクから所定量の液体を排出して、前記かごの重量を通常運転時における所定の状態に戻すステップと、
を備えたことを特徴とする請求項5に記載のエレベータの救出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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