説明

エレベータの救出運転装置および救出運転方法

【課題】エレベータが非常停止し走行不能となった場合に、走行不能のエレベータへの電力供給の必要がなく、健全な隣接エレベータによって乗客の救出が可能なエレベータの救出運転を実現する。
【解決手段】エレベータが非常停止し走行不能となった場合に、隣接する走行可能なエレベータを救出に向かって走行させ、走行可能な乗りかごに設置されたセンサにより、走行不能となったエレベータ乗りかごに設置された電源の要らない被検出体としての遮蔽板や反射鏡、磁性体や遮蔽板などを検出し、走行可能エレベータを被救出エレベータに並んで停止させることにより、走行不能かごの乗客を救出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータが非常停止した際に、並設エレベータによる救出運転に関する。
【背景技術】
【0002】
隣接して並設されるエレベータにおいて、片側のエレベータが非常停止し起動不能となった場合、健全な隣接エレベータを用いて救出運転を行う方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、隣接するエレベータのそれぞれの乗りかごに投光器と受光器を有する光電装置を取り付け、走行可能なエレベータの投光器からの光を被救出エレベータの受光器が受光した際に、走行可能なエレベータの乗りかごを停止させる救出運転が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−120558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の従来技術では、隣接するエレベータの互いの位置を検出する方法として、投光器と受光器を有する光電装置を用いる方式を採用している。
【0006】
しかし、上記方式では走行可能なエレベータから発する光を受光し、受光したことを走行可能なエレベータに対して送信するのは、非常停止しているエレベータである。非常停止の要因が電力系統の異常である場合を想定すると、受光器の制御回路は隣接する健全エレベータから電力を供給する方式とするか、バッテリにより一定時間の電力供給が可能とする等の方法を採る必要がある。隣接するエレベータから電力を供給する場合、回路の複雑化が考えられ、バッテリを用いる場合は、定期的な保守作業を行う必要があり、両方式共にシステムの複雑化が懸念される。
【0007】
本発明の目的は、エレベータが非常停止し走行不能となった場合に、走行不能エレベータへの電力供給の必要がなく、隣接エレベータによって救出可能なエレベータの救出運転装置あるいは救出運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の望ましい実施態様においては、エレベータが非常停止し走行不能となった場合に、隣接する走行可能なエレベータを救出に向かって走行させ、走行可能な乗りかごに設置されたセンサにより、走行不能となったエレベータ乗りかごに設置された被検出体を検出し、走行可能エレベータを被救出エレベータに接近して停止させることにより、走行不能かごの乗客を救出することを特徴とする。
【0009】
ここで、電源の要らない被検出体としては、光電装置に対する遮蔽板や反射鏡、磁気検出器に対する磁性体や遮蔽板などが有力である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の望ましい実施態様によれば、エレベータが非常停止し起動不可となった場合に、隣接する走行可能なエレベータの乗りかごにて、非常停止しているエレベータの位置を検出することが可能であり、起動不能のエレベータには電力の供給やバッテリが不要で、エレベータの救出運転が可能である。
【0011】
本発明のその他の目的と特徴は、以下に述べる実施形態の中で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例によるエレベータの救出運転装置の全体システム構成図。
【図2】本発明の一実施例における制御装置の概略構成図。
【図3】本発明の一実施例におけるエレベータに取り付けられたセンサと隣接エレベータの被検出体としての遮蔽板の噛み込みを示す平面図。
【図4】本発明の一実施例によるエレベータの救出運転の処理フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施例によるエレベータの救出運転装置の全体システム構成図である。図1の中で、1及び1aはエレベータの乗りかごであり、エレベータを駆動するモータ2と、乗りかごと対抗して設置されている釣り合い錘3があり、それぞれはプーリ4と、ロープ5を介してそれぞれ連結されている。また、モータ2にはエンコーダ6が取付けられており、モータ2の回転に応じて発生するエンコーダ6のパルスにより、エレベータの位置検出を行う。
【0015】
また、エレベータの乗りかご1には、隣接する乗りかご1aの位置を検出するためのセンサ7が取り付けられており、エレベータが走行して隣接するエレベータとすれ違うときに、隣接する乗りかご1aに取り付けられた被検出体としての遮蔽板8aを検出するように構成されている。また、隣接する2台のエレベータにおいて、センサと被検出体は1対をなすように取り付けられているため、乗りかご1にも被検出体8が、乗りかご1aにもセンサ7aがそれぞれ取り付けられている。
【0016】
本実施例では、隣接するエレベータを2台として説明するが、2台以上のエレベータが設置されている場合においても、隣接する2台のエレベータ間では、センサと被検出体がすれ違うときに検出しあうように設置することにより、救出運転が可能である。
【0017】
図2は、図1における制御装置9の概略構成ブロック図である。
【0018】
隣接するエレベータの乗りかご1及び1aがすれ違うと、制御装置9の内部にある入出力バッファ(I/O)10を経由して、マイクロコンピュータMPU11内の位置検出部12に被検出体検出信号を取り込む。エレベータの走行方向は、エンコーダ6から検出可能であり、センサ7が被検出体8aのエッジを検出した際のエレベータの走行方向から、隣接する両エレベータが正常走行可能な時の位置関係を、位置検出部12により予め記憶する。
【0019】
また、どちらかのエレベータが非常停止している場合には、両エレベータが正常走行可能時に記憶しておいたエレベータの位置関係より、救出運転を行うエレベータの走行方向を判定出来るため、速度指令部13によりエレベータを走行させ、救出運転を行う。
【0020】
図3は、本発明の一実施例におけるエレベータに取り付けられたセンサと隣接エレベータの被検出体としての遮蔽板の噛み込みを示す平面図である。乗りかご1に取り付けられたセンサ7により乗りかご1aに取り付けられた遮蔽板8aを検出し、乗りかご1aに取り付けられたセンサ7aにより乗りかご1に取り付けられた遮蔽板8を検出する。
【0021】
この実施例におけるセンサ7,7aは、コ字状の2脚の一方に光電装置の発光部を、他方に受光部を配置している。遮蔽板8,8aは、前記センサのコ字状の2脚の間に図3のように入り込み、光電装置の受光を遮断する構造である。
【0022】
また、前記センサは、同じく投光部と受光部を備えた光電装置であっても、被検出体は、当該エレベータ乗りかごが隣接するエレベータ乗りかごに並んで位置するとき、前記投光部からの光を反射させて前記受光部へ受光させる反射板で形成することもできる。
【0023】
さらに、前記センサは、磁路の形成または遮断に応動する磁気式センサとし、前記被検出体は、当該エレベータ乗りかごが隣接するエレベータ乗りかごに並んで位置するとき、前記磁気式センサに対して磁路の形成または遮断を行うように配置したものであっても良い。
【0024】
また、被検出体8,8aの長さは、救出運転時に被検出体のエッジをセンサが検出し、エレベータを微速にて走行させ、被検出体の上下方向の中央付近にて停止させ、隣接するエレベータ間の乗客の救出が出来る程度の長さに設定する。具体例としては、例えば、250mm程度であり、エンコーダパルス250パルス程度、検出エッジから中央付近までで125パルス程度とすることができる。
【0025】
図4は、本発明の一実施例によるエレベータの救出運転の処理フローチャートである。隣接する両エレベータが正常走行可能であり、それぞれに設置されているセンサにより両エレベータの位置関係を記憶してから、どちらかのエレベータが非常停止し、被救出エレベータの遮蔽板中央にて救出エレベータが停止し、運転を終了するまでの処理フローチャートを示したものである。
【0026】
以下に、エレベータの救出運転の動作を説明する。
【0027】
乗りかご1のセンサ7が乗りかご1aの遮蔽板8aを検出した際の乗りかご1の走行方向から、乗りかご1と乗りかご1aの位置関係を、乗りかご1の制御装置9内の位置検出部12にて記憶する。一方、乗りかご1aのセンサ7aが乗りかご1の遮蔽板8を検出した際の乗りかご1aの走行方向から、乗りかご1aと乗りかご1の位置関係を、乗りかご1aの制御装置9a内の位置検出部12a(図示せず)にて記憶する。上述の記憶処理はそれぞれのエレベータにて独立に実施する(ステップS1)。
【0028】
エレベータ1aに異常が発生し、非常停止したとする(ステップS2)。
【0029】
健全である救出エレベータ1は、両エレベータの正常時の位置関係を位置検出部12にて記憶しているため、救出エレベータの走行方向を決定し、被救出エレベータに向けて、高速走行を開始する(ステップS3)。
【0030】
このとき、救出エレベータ1の速度指令は、速度指令部13により、被救出エレベータ1aの停止位置を目標停止位置として、この目標停止位置からの距離の関数として作成する。したがって、救出エレベータ1が、被救出エレベータ1aの近くに居た場合には、高速走行とは限らない。
【0031】
救出に向かって走行中に、救出エレベータ1のセンサ7が、被救出エレベータ1aの遮蔽板8aを検出する(ステップS4)。
【0032】
遮蔽板8aを検出すると、被救出エレベータ1aの位置データを保存すると共に、救出エレベータ1を減速処理させる(ステップS5)。
【0033】
ステップS5の減速処理指令により、救出エレベータ1を任意の位置にて停止させる(ステップS6)。
【0034】
ステップS5にて記憶した被救出エレベータ1aの位置を目的位置として、救出エレベータ1をステップS3での走行方向と逆方向に走行させる。このとき、救出エレベータ1の速度指令は、速度指令部13により、被救出エレベータ1aの位置を目標停止位置として、目標停止位置からの距離の関数として作成する。すなわち、一旦、通り過ぎた目標停止位置まで、逆方向に走行すべき距離は、エンコーダのパルスカウントにより把握している。この走行すべき距離から、逆方向の走行によるエンコーダの発生パルスを減算することによって、残りの走行距離が得られるので、理想的に目標停止位置までの速度指令を発生させることができる(ステップS7)。
【0035】
救出エレベータ1が走行し、目標停止位置までの速度指令に沿って減速し、微速度となって、被救出エレベータ1aの遮蔽板8aを検出する(ステップS8)。
【0036】
救出運転では、両エレベータのレベルを所定の精度で一致させる必要がある。このため、被救出エレベータ1aの遮蔽板8aを検出後の走行距離が、被救出エレベータ1aの遮蔽板8aの中央となるように、遮蔽板8aの検出エッジからの走行距離をエンコーダ6のパルスカウントにて計測する。前述した例においては、遮蔽板のエッジ検出後、125パルスを計測した時点で停止させる。これにより、被救出エレベータ1aの遮蔽板8aの中央付近に、救出エレベータ1を停止させることができ、運転を終了する(ステップS9)。
【符号の説明】
【0037】
1,1a…エレベータ乗りかご、2…モータ、3…釣り合い錘、4…プーリ、5…ロープ、6…エンコーダ、7,7a…センサ、8,8a…被検出体(遮蔽板)、9…制御装置、10…入出力バッファ(I/O)、11…MPU、12…位置検出部、13…速度指令部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ乗りかごと釣り合い錘を対抗させて吊下げたロープと、前記ロープを介して前記乗りかごを昇降運転させる駆動モータと、前記モータ軸に取付けられたエンコーダと、前記起動モータを制御する制御装置とを有するエレベータを複数台並設したエレベータの救出運転装置において、
前記各乗りかごに取り付けられ、この乗りかごに隣接して並設された乗りかごの位置を検出するためのセンサと、
隣接する乗りかごの前記センサによって検出されるように、各乗りかごに取り付けられた被検出体と、
並設された複数のエレベータのうち任意のエレベータが非常停止し、前記非常停止エレベータ乗りかごに向かった救出運転エレベータ乗りかごの前記センサが、前記被救出エレベータ乗りかごの前記被検出体を検出した状態で、前記救出運転エレベータ乗りかごを停止させる手段
を備えたことを特徴とするエレベータの救出運転装置。
【請求項2】
請求項1において、前記非常停止エレベータ乗りかごに向かった救出運転エレベータ乗りかごの前記センサが、前記被救出エレベータ乗りかごの前記被検出体を検出したとき、当該救出運転エレベータを減速・停止させ、一旦停止した後にこれまで走行していた方向と逆方向に当該救出運転エレベータを走行させ、前記被救出エレベータに向かわせる救出運転手段を備えたことを特徴とするエレベータの救出運転装置。
【請求項3】
請求項2において、前記救出運転エレベータ乗りかごの前記センサが、前記非常停止エレベータ乗りかごの前記被検出体を検出した位置から、前記エンコーダの出力信号に基づいて、前記被検出体の中央付近まで前記救出運転エレベータ乗りかごを移動させる停止位置制御手段を備えたことを特徴とするエレベータの救出運転装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、非常停止エレベータが発生する前の段階で、各エレベータ乗りかごの前記センサが、隣接するエレベータ乗りかごの前記被検出体を検出したとき、自エレベータの走行方向と前記エンコーダの出力信号に基づいて、隣接するエレベータ乗りかごとの現在位置関係を更新しながら記憶する位置関係記憶手段と、隣接するエレベータが非常停止したとき、記憶した前記隣接エレベータ乗りかごとの現在位置関係に基づいて、救出運転に向かう方向を決定する救出運転方向決定手段を備えたことを特徴とするエレベータの救出運転装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記センサは、投光器と受光器を備えた光電装置であり、前記被検出体は、当該エレベータ乗りかごが隣接するエレベータ乗りかごに並んで位置するとき、前記投光器と受光器の間を遮蔽する遮蔽板であることを特徴とするエレベータの救出運転装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記センサは、投光器と受光器を備えた光電装置であり、前記被検出体は、当該エレベータ乗りかごが隣接するエレベータ乗りかごに並んで位置するとき、前記投光器からの光を反射させて前記受光器へ受光させる反射板であることを特徴とするエレベータの救出運転装置。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記センサは、磁路の形成または遮断に応動する磁気式センサであり、前記被検出体は、当該エレベータ乗りかごが隣接するエレベータ乗りかごに並んで位置するとき、前記磁気式センサに対して磁路の形成又は遮断を行うように配置されていることを特徴とするエレベータの救出運転装置。
【請求項8】
エレベータ乗りかごと釣り合い錘を対抗させて吊下げたロープと、前記ロープを介して前記乗りかごを昇降運転させる駆動モータと、前記モータ軸に取付けられたエンコーダと、前記起動モータを制御する制御装置とを有するエレベータを複数台並設したエレベータの救出運転方法において、
並設された複数のエレベータのうち任意のエレベータが非常停止したとき、非常停止したエレベータに隣接して並設されたエレベータ乗りかごを、前記非常停止エレベータ乗りかごに向かって走行させるステップと、
前記非常停止エレベータ乗りかごに向かって走行中の救出エレベータ乗りかごに取り付けられたセンサにより、前記非常停止エレベータ乗りかごの被検出体を検出するステップと、
前記非常停止エレベータ乗りかごに向かった救出運転エレベータ乗りかごの前記センサが、前記被救出エレベータ乗りかごの前記被検出体を検出したとき、当該救出運転エレベータを減速・停止させるステップと、
前記救出運転エレベータ乗りかごが一旦停止した後に、これまで走行していた方向と逆方向に当該救出運転エレベータを走行させるステップと、
前記逆方向に走行した救出運転エレベータ乗りかごの前記センサが、再び、前記被救出エレベータ乗りかごの前記被検出体を検出したとき、前記センサが前記被検出体を検出した状態である所定範囲内に当該救出運転エレベータを停止させるステップを備えたことを特徴とするエレベータの救出運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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