説明

エレベータの着床制御装置

【課題】 負荷検出器を用いることなく、安価で、かごの着床誤差の少ないエレベータの着床制御装置を提供する。
【解決手段】 かごを駆動する電動巻上機に取り付けられたロータリーエンコーダからのパルス信号に基づき、かごの速度及びかご内負荷の変化による加速度の変化を検出し、ブレーキ作用時のスリップ量を推定して着床指令の発生位置を補正することで、負荷検出器を用いることなく、安価で、かごの着床誤差の少ないエレベータの着床制御装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの制御装置に係り、特に電磁ブレーキにより制動力を与えてかごを停止させるエレベータに対して、着床制御性能の向上を図るエレベータの着床制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁ブレーキにより制動力を与えてかごを停止させるエレベータでは、かごの着床誤差は、かごの速度とかご内負荷に大きく影響される。よって、従来のエレベータの着床制御装置としては、速度検出器と負荷検出器を設置して、その値に応じてブレーキ作用時のスリップ量を推定し、着床指令を自動修正することにより、かごの着床誤差を少なくしたエレベータの着床制御装置が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭59−177276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
人や貨物を乗せるかごを上下に移動する動力として電動巻上機を使用するエレベータには、摩擦式の電磁ブレーキによりその電動巻上機に制動力を与えて、そのかごを停止させるものがある。より具体的には、電動巻上機に取り付けられたロータリーエンコーダからのパルス信号に基づいてかごの位置を検出し、かごが着床区間に来ると着床指令を発して電磁ブレーキを作用させている。この電磁ブレーキを作用させた場合、かごの速度とかご内負荷によってスリップ量が大きく変化することにより、着床誤差が生じる。
そこで、この課題を解決するために、速度検出器及び負荷検出器を設置してかごの速度及びかご内負荷を検出し、その値に応じて着床指令の発生位置を制御することにより、かごの着床誤差を少なくしたエレベータの着床制御装置が知られている。
【0004】
本発明は、かごを駆動する電動巻上機に取り付けられたロータリーエンコーダからのパルス信号に基づき、かごの速度及びかご内負荷の変化による加速度の変化を検出し、ブレーキ作用時のスリップ量を推定して着床指令の発生位置を補正することにより、従来の着床制御装置の如く高価な負荷検出器を設けることなく、安価で着床誤差の少ないエレベータの着床制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本願の請求項1記載の発明は、かごと、当該かごを駆動する電動巻上機と、当該電動巻上機に装着され着床指令が与えられると当該電動巻上機に制動力を与える電磁ブレーキと、当該電動巻上機に取り付けられパルス信号を発するロータリーエンコーダと、当該ロータリーエンコーダからのパルス信号に基づき前記かごの位置を検出する位置検出手段と、当該ロータリーエンコーダからのパルス信号に基づき前記かごの速度を検出する速度検出手段と、当該速度検出手段により検出された速度の変化を基に加速度を算出する加速度算出手段と、前記位置検出手段の検出値により前記かごが予め設定された着床開始基準点に到達したことを検出する着床開始基準点検出手段と、前記速度検出手段と前記着床開始基準点検出手段との検出値より前記着床開始基準点を前記かごが通過した時の着床開始基準速度を検出する着床開始基準速度検出手段とを備えたエレベータの制御装置において、前記加速度算出手段により算出した加速度と前記着床開始基準速度検出手段により検出した着床開始基準速度を基に前記電磁ブレーキを作用させてから前記かごが停止するまでのスリップ量を推定するスリップ量推定手段と、当該スリップ量推定手段により推定されたスリップ量に応じて前記着床指令の発生位置を補正する着床位置補正手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、かご内負荷の変化による加速度の変化を検出し、ブレーキ作用時のスリップ量を推定して着床指令の発生位置を補正することで、負荷検出器を設置せずに安価で着床誤差の少ないエレベータの着床制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施例であるエレベータの着床制御装置を示す図である。
図1において、1はエレベータのかご、2はかご1とのつり合いを図るつり合いおもり、3はかご1及びつり合いおもり2を結合するワイヤーロープである。また、4はワイヤーロープ3が巻き掛けられかご1を上下に移動するための電動巻上機、5は電動巻上機4に制動力を与えてかご1を停止させる電磁ブレーキ、6は電動巻上機4に同期してパルス信号を発するロータリーエンコーダ、7は着床指令を発する着床制御装置でありパルス検出器、マイクロコンピュータ等から構成される。
【0008】
図2は、本発明の一実施例である着床制御装置7の内部構成を示すブロック図である。
図2において、8はロータリーエンコーダ6からのパルスを検出するパルス検出器、9はパルス検出器からの信号によりかごの位置を検出する位置検出回路、10はパルス検出器からの信号によりかごの速度を検出する速度検出回路、11は速度検出回路10の検出値より加速度を算出する加速度検出回路である。
【0009】
また、図2において、12は位置検出回路9の検出値によりかごが着床開始基準点に到達したことを検出する着床開始基準点検出回路、13は速度検出回路10と着床開始基準点検出回路12との検出値より着床開始基準点を通過した際のかごの着床開始基準速度を検出する着床開始基準速度検出回路である。更に、14は加速度検出回路11の検出値と着床開始基準速度検出回路13の検出値より電磁ブレーキ作用時のスリップ量を推定するスリップ量推定回路、15は位置検出回路9とスリップ量推定回路14の検出値により着床位置を補正する着床位置補正回路、16は着床位置補正回路15により作成される着床指令を示す。
【0010】
図3は、本発明の一実施例におけるかごの速度と位置関係を波形で示した図である。
図3において、Vjはかごの速度、Tjは時間、V1は予め設定された加速度検出開始時の速度、V2は予め設定された加速度検出終了時の速度、T1は加速度検出開始時の時間、T2は加速度検出終了時の時間、Ljはかごの位置、L0は着床開始基準点、Vhjは着床開始基準点L0を通過した際の着床開始基準速度、Leは目的とする停止階位置、Lsjは推定されるスリップ量、Laは着床開始点を示す。
【0011】
図4は、加速度と速度の変化に対するスリップ量の変化を示す図である。
図4において、αjは図2の加速度検出回路11にて算出される加速度、Vhjは図2の着床開始基準速度検出回路13にて検出される着床開始基準速度、Lsjは図2のスリップ量推定回路14により推定されるスリップ量を示す。この図4に示すとおり、加速度αjとスリップ量Lsjは比例関係にある。また、ブレーキを作用させた時の速度の違いによってもスリップ量Lsjは変化するため、図の如く着床開始基準速度Vhjによって加速度αjとスリップ量Lsjの比例関係は傾きが異なる。
【0012】
即ち、加速度αjが大きくなる程スリップ量Lsjも大きくなり、更に着床開始基準速度Vhjが大きくなる程スリップ量Lsjは一段と大きくなる。また、加速度αjが小さくなる程スリップ量Lsjも小さくなり、更に着床開始基準速度Vhjが小さくなる程スリップ量Lsjも一段と小さくなる。
この関係から、予め加速度αj及び着床開始基準速度Vhjとスリップ量Lsjの値を設定しておけば、かごを着床させる場合のブレーキ作用時のスリップ量Lsjは、加速時の加速度αjとブレーキを作用させる時の着床開始基準速度Vhjを検出すれば推定できる。
図5は、本発明の一実施例を示すフローチャートである。
【0013】
以下、図1から図5を用いて、本発明の具体的な処理について述べる。
まず、エレベータのかご1が走行を開始したことを確認し(図5ステップS1)、速度検出回路10にて加速完了を確認したら(図5ステップS2)、加速度検出回路11にて加速時の加速度αjを算出する(図5ステップS3)。
なお、この加速度αjは図3に示すとおり、かごの速度が予め設定された加速度検出開始時の速度V1に到達した時の時間をT1として記憶、次に予め設定された加速度検出終了時の速度V2に到達した時の時間をT2として記憶し、αj=(V2−V1)/(T2−T1)として算出できる。続いて、着床開始基準点検出回路12にて位置検出回路9により検出されたかご位置Ljが、予め設定してある着床開始基準点L0に到達したかを確認し(図5ステップS4)、着床開始基準速度検出回路13にて着床開始基準点L0を通過した際のかご速度を、着床開始時の速度に相当させて着床開始基準速度Vhjとして検出する(図5ステップS5)。
【0014】
そして、スリップ量推定回路14にて、図4に示すとおり加速度αj及び着床開始基準速度Vhjより電磁ブレーキ5作用時のスリップ量Lsjを推定する(図5ステップS6)。
このように求めたスリップ量Lsjにより、着床位置補正回路15にて、図3に示すとおり目的とする停止階位置Leに対して推定されたスリップ量Lsj分だけ手前の位置を着床開始点Laと設定し(図5ステップS7)、かご位置Ljが着床開始点Laに到達したことを確認すれば(図5ステップS8)、着床指令16を発して(図5ステップS9)、電磁ブレーキ5を作用させ(図5ステップS10)、かご1を停止させる(図5ステップS11)。この時、電磁ブレーキ5は推定されたスリップ量Lsjと同等のスリップを伴うため、かご1は目的とする停止階位置Le近傍に正確に着床できる。
【0015】
以上説明したとおり、本発明は、かごを駆動する電動巻上機に取り付けられたロータリーエンコーダからのパルス信号に基づき、かごの速度及びかご内負荷の変化による加速度の変化を検出し、ブレーキ作用時のスリップ量を推定して着床指令の発生位置を補正することで、負荷検出器を用いることなく、安価で、かごの着床誤差の少ないエレベータの着床制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図
【図2】図1の着床制御装置の内部構成を示すブロック図
【図3】かごの速度と位置関係を波形で示した図
【図4】加速度と速度の変化に対するスリップ量の変化を示す図
【図5】本発明の一実施例を示すフローチャート
【符号の説明】
【0017】
1…かご
4…電動巻上機
5…電磁ブレーキ
6…ロータリーエンコーダ
7…着床制御装置
9…位置検出回路
10…速度検出回路
11…加速度検出回路
14…スリップ距離推定回路
15…着床位置補正回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごと、当該かごを駆動する電動巻上機と、当該電動巻上機に装着され着床指令が与えられると当該電動巻上機に制動力を与える電磁ブレーキと、当該電動巻上機に取り付けられパルス信号を発するロータリーエンコーダと、当該ロータリーエンコーダからのパルス信号に基づき前記かごの位置を検出する位置検出手段と、当該ロータリーエンコーダからのパルス信号に基づき前記かごの速度を検出する速度検出手段と、当該速度検出手段により検出された速度の変化を基に加速度を算出する加速度算出手段と、前記位置検出手段の検出値により前記かごが予め設定された着床開始基準点に到達したことを検出する着床開始基準点検出手段と、前記速度検出手段と前記着床開始基準点検出手段との検出値より前記着床開始基準点を前記かごが通過した時の着床開始基準速度を検出する着床開始基準速度検出手段とを備えたエレベータの制御装置において、
前記加速度算出手段により算出した加速度と前記着床開始基準速度検出手段により検出した着床開始基準速度を基に前記電磁ブレーキを作用させてから前記かごが停止するまでのスリップ量を推定するスリップ量推定手段と、当該スリップ量推定手段により推定されたスリップ量に応じて前記着床指令の発生位置を補正する着床位置補正手段とを備えたことを特徴とするエレベータの着床制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−131405(P2006−131405A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325666(P2004−325666)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】