説明

エレベータ調速機

【課題】ロープ径を小径化しつつ、必要なロープ強度を有する調速機ロープを構成して、調速機シーブの直径を小さく抑えた省スペースの実現が可能なエレベータ調速機を提供することにある。
【解決手段】調速機シーブと、この調速機シーブに巻き掛けられる調速機ロープとを備え、エレベータの昇降路内に設置されるエレベータ調速機において、調速機ロープ20は、複数本の素線22aを撚ってなるワイヤロープとし、その素線22aとして0.014〜0.26mmの断面積をもち、かつ2000N/mm以上の強度を有する鋼線を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの緊急停止装置として機能するエレベータ調速機に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータを駆動する巻上機をかごが昇降する昇降路内に設置することによって昇降路上方の機械室をなくしたマシンルームレス方式のエレベータは、建屋スペースを有効に利用することができることから、エレベータの主要な方式になりつつある。最近では、マシンルームレスエレベータのスペース効率をさらに高めたいという要求があり、昇降路内に配置される調速機についても、できる限り小型に構成することが求められている。
【0003】
図3には、マシンルームレスエレベータにおける調速機の構成の一例を示してある。昇降路1の上部に設置された調速機2は、調速機シーブ3を有し、また昇降路1の下部にロープ緊張用張り車4が設けられ、これら調速機シーブ3とロープ緊張用張り車4との間に調速機ロープ5が掛け渡され、所定の張力が与えられている。
【0004】
昇降路1内を走行するかご6の外周に設けられたかご枠7には、連結器8を介して調速機ロープ5が連結され、通常時には調速機ロープ5がかご6と同期して走行し、これに応じて調速機シーブ3が回転する。
【0005】
かご6の走行速度が異常増加し、調速機シーブ3の回転速度が所定値を超えると、調速機2のフック9が解除されてロープつまみ10が作動し、このロープつまみ10により所定の把持力で調速機ロープ5が把持される。調速機ロープ5が把持されて走行が停止すると、かご6に設置された引張り棒11が相対的に引き上げられ、かご6に設置された非常止め装置の非常止めシュー12が上昇してガイドレール(図示せず)に圧着し、この圧着による摩擦力でかご6が緊急停止する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4には、昇降路1内を平面視的に見た状態を示してある。かご6の周辺の隙間には調速機2の調速機シーブ3および調速機ロープ5、カウンターウエイト14と共に図示しない巻上機ロープやテールコード、さらには位置検出スイッチやリミットスイッチなどの数多くの機器類やロープ類が互に干渉しないように配置されている。昇降路1内のスペースをより効率的に利用するためには、これらの機器類をより小型にすることが求められる。
【0007】
これらの機器類の中でも、特に調速機シーブ3の直径を小さくすることは、エレベータの走行性能を損ねることなく昇降路1内のスペースを効率的に利用する点で有効である。
【0008】
なお、図4に示す16はかご6を駆動する巻上機、17はかご6の下部に設けられ、巻上機ロープが巻き掛けられる一対のかご下シーブ、18はかご6の走行をガイドするガイドレール、19はカウンターウエイト14の走行をガイドするガイドレールである。
【0009】
ところで、調速機シーブ3の直径を小さくすると、これに巻き掛けられる調速機ロープ5の曲げ疲労寿命に影響が生じる。すなわち、調速機ロープ5の曲げ疲労寿命は、調速機ロープ5の直径をd、調速機シーブ3の直径をDとしたときに、その直径の比D/dにより決まるため、調速機ロープ5の直径dが一定のまま調速機シーブ3の直径Dのみを小さくすると、調速機ロープ5の曲げ疲労寿命が低下してしまう。したがって、調速機シーブ3の直径Dを小さくするためには、調速機ロープ5の直径dも併せて小さくする必要がある。
【0010】
ところが、調速機ロープ5には曲げ疲労の点と併せてロープつかみ10の把持力に十分に耐え得る高い強度も要求されるため、調速機ロープ5の直径dを単に小さくするわけにはいかないという問題がある。
【0011】
さらに、調速機ロープ5の強度の問題のほかに、調速機ロープ5の直径dを小さくすると、ロープ張力による絞りに起因した素線同士の接触圧が厳しくなるため、ロープの内部損傷を生じ易くなってしまうという問題もある。
【0012】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ロープ径を小径化しつつ、必要なロープ強度を有する調速機ロープを構成して、調速機シーブの直径を小さく抑えた省スペースの実現が可能なエレベータ調速機を提供することにある。
【0013】
また、調速機ロープの小径化によって生じる内部素線同士の接触圧の増加に起因する内部損傷を防止して、さらなるロープの小径化を可能にし、限界までの小型化を達成することが可能なエレベータ調速機を提供することも目的とする。
【0014】
さらには、ロープ径を増加させることなく、より高い強度を有する調速機ロープを構成して、より高行程のエレベータへの適用可能なエレベータ調速機を提供することも目的とする。
【0015】
また、小径の調速機ロープを使用することにより、調速機シーブの溝表面と調速機ロープとの接触圧の増加に起因する早期の溝表面劣化を防止することも併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の発明は、調速機シーブと、この調速機シーブに巻き掛けられる調速機ロープとを備え、エレベータの昇降路内に設置されるエレベータ調速機において、前記調速機ロープが、複数本の素線を撚ってなるワイヤロープであり、その素線として0.014〜0.26mmの断面積をもち、かつ2000N/mm以上の強度を有する鋼線が用いられていることを特徴としている。
【0017】
請求項2の発明は、前記ワイヤロープが中心部に芯線を有し、この芯線が麻芯であることを特徴としている。
【0018】
請求項3の発明は、前記ワイヤロープが中心部に芯線を有し、この芯線が鋼芯であることを特徴としている。
【0019】
請求項4の発明は、前記ワイヤロープを構成する素線の強度が2000N/mm以上、3000N/mm未満であることを特徴としている。
【0020】
請求項5の発明は、前記調速機シーブの直径が200mm以下であることを特徴としている。
【0021】
請求項6の発明は、前記ワイヤロープが、複数本のストランドを撚り合わせた構造であり、その各ストランドで囲まれた空間と、各ストランドを構成する素線同士間の空間の少なくともいずれか一方の空間内にポリエチレン樹脂、ゴム、ウレタン等の実質的に非流動性の充填材が充填されていることを特徴としている。
【0022】
請求項7の発明は、前記調速機シーブの溝表面の硬度がHB250以上としてあることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ロープ直径を小径化しつつ、必要な強度をもつ調速機ロープとすることができ、これにより調速機シーブの直径も小さく抑えて小型で省スペースに有効なエレベータ調速機を提供することができる。
【0024】
また、調速機ロープの小径化によって生じる内部素線同士の接触圧の増加に起因する内部損傷を防止して、さらなるロープの小型化を可能にし、限界までの小型化を図ることができるエレベータ調速機を提供することができる。
【0025】
さらには、ロープ径を増加させることなく、より高い強度を有する調速機ロープを提供し、より高行程のエレベータへの適用が可能なエレベータ調速機を提供することができる。
【0026】
また、ロープの小径化に伴う調速機シーブの溝表面の接触圧増加による早期の溝表面の劣化も防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図1および図2を参照して説明する。
【0028】
図1には、本発明の第1の実施形態に係るエレベータ調速機に用いられる小口径高強度の調速機ロープ20の断面構造を示してある。
【0029】
この調速機ロープ20は、芯線21と、この芯線21の外周に撚り合わされた複数本、例えば8本のストランド22とで構成されている。芯線21は、麻製の3本のロープ21aを撚り合わせてなり、また各ストランド22は金属製の複数本の素線22aを撚り合わせてなる。
【0030】
各ストランド22の素線22aとしては、断面積が0.014〜0.26mmで、強度が2000N/mm以上の高強度の鋼線が用いられている。従来の調速機ロープに用いられていた素線の強度は1700N/mm程度である。
【0031】
このような調速機ロープ20によれば、ストランド22に強度が2000N/mm以上の高強度の素線22aを用いているため、ロープ径を4〜6mm程度にまで小径化しても、図3に示す調速機のロープつかみ10の把持力に十分に耐え得るロープ強度を維持することができる。
【0032】
そして、ロープ径を4〜6mm程度に小径化することができることから、調速機シーブ3の直径をそれに合わせて200mm以下にまで縮小しても調速機ロープ20の曲げ疲労寿命の低下を抑えて十分な曲げ疲労寿命を確保することができる。
【0033】
なお、ストランド22の素線22aの強度は3000N/mm未満とする。その理由は、素線22aの強度を高くし過ぎると、調速機シーブの溝表面が早期に摩耗してしまうからである。
【0034】
調速機シーブの直径は調速機ロープの直径の30倍以上とすることが法規上定められているが、本実施形態の調速機ロープ20によれば、ロープ直径を4〜6mmとすることができることから、調速機シーブの直径も200mm以下にまで縮小することが可能である。
【0035】
したがって、この調速機ロープ20を用いることにより、調速機シーブ3の直径を従来より大幅に縮小した小型の調速機2を構成することができるため、調速機2が占める昇降路1内のスペースを狭めて昇降路1内のスペースをより有効に活用することができる。また、この実施形態の調速機ロープ20においては、芯線21として麻製のロープ21aを用いるため、従来の調速機ロープとそれほど構成が変わらず、このため比較的安価に製造することができる。
【0036】
図2には、本発明の第2の実施形態に係るエレベータ調速機に用いられる小口径高強度の調速機ロープ30の断面構造を示してある。
【0037】
この実施形態の調速機ロープ30においては、芯線31が複数の素線31aを撚ってなる例えばIWRC(Independent Wire Rope Core)構造の鋼芯となっている。そしてこの鋼芯を構成する素線31aとして、断面積が0.014〜0.050mmで、強度が2000N/mm以上の鋼線が用いられている。
【0038】
この芯線31の外周には複数本、例えば6本のストランド32が撚り合わされている。各ストランド32は複数本の素線32aを撚り合わせてなり、その素線32aとしては、断面積が0.014〜0.26mmで、強度が2000N/mm以上の高強度の鋼線が用いられている。
【0039】
さらに本実施形態の調速機ロープ30においては、各ストランド32と芯線31との間の空間内に例えばポリエチレン樹脂からなる充填材33が充填されている。
【0040】
また、本実施形態においては、調速機ロープ30が巻き掛けられる図3に示す調速機シーブ3の溝表面の硬度がHB250以上となっている。つまり、調速機シーブ3の全体が熱処理等によりHB250以上の硬度をもつように処理されている。
【0041】
このような調速機ロープ30によれば、第1の実施形態の場合と同様に、ストランド32に高強度の素線32aを用いているため、ロープ径を4〜6mm程度にまで小径化しても、図3に示す調速機2のロープつかみ10の把持力に十分に耐え得るロープ強度を維持することができる。そして、ロープ径を4〜6mm程度に小径化することができることから、調速機シーブ3の直径をそれに合わせて200mm以下にまで縮小しても調速機ロープ30の曲げ疲労寿命の低下を抑えて十分な曲げ疲労寿命を確保することができる。
【0042】
さらに本実施形態では、ストランド32だけでなく、芯線31にも高い強度をもつ鋼芯(IWRC)となっているため、ロープ全体の強度がさらに増し、第1の実施形態の場合よりもさらに高い張力に対応することができる。このため、より高行程のエレベータの調速機に適用することが可能となる。
【0043】
また、各ストランド32と芯線31との間の空間内にポリエチレン樹脂からなる充填材33が充填されているため、互に隣り合うストランド32の素線32a同士や、芯線31とストランド32との素線31a,32a同士の接触圧の増加を緩和することができ、これにより内部疲労による調速機ロープ30の寿命低下も大幅に抑制することができる。
【0044】
さらに、調速機シーブの溝表面の硬度がHB250以上となっているため、調速機ロープ30の断面積縮小による面圧の増加があってもその溝表面の早期の摩耗を防止することができる。
【0045】
なお、各ストランド32の素線32aの強度は3000N/mm未満とする。その理由は、素線32aの強度を高くし過ぎると、調速機シーブの溝表面が早期に摩耗してしまうからである。
【0046】
各ストランド32と芯線31との間の空間内に充填する充填材33としては、ポリエチレン樹脂に限らず、ゴム、ウレタン等の実質的に非流動性の材料を用いることも可能である。充填材33は、各ストランド32で囲まれた空間内のみに充填する場合に限らず、各ストランド32を構成する素線同士間の空間内にも充填したり、あるいはその素線同士間の空間内のみに充填する場合であってもよい。
【0047】
また、充填材33は、図1に示す第1の実施形態に係る調速機ロープ20においても、各ストランド22で囲まれた空間内に充填したり、各ストランド22を構成する素線同士間の空間内に充填することも可能である。
【0048】
第2の実施形態においては、芯線31としてIWRCの構造の鋼芯を用いたが、これに限らず、例えばIWSC(Independent Wire Strand Core)構造の鋼芯を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す断面図。
【図2】本発明の第2の実施形態を示す断面図。
【図3】エレベータ調速機の構成を概略的に示す構成図。
【図4】エレベータの昇降路内を平面視的に見た平面図。
【符号の説明】
【0050】
1…昇降路
2…調速機
3…調速機シーブ
4…ロープ緊張用張り車
5…調速機ロープ
7…かご枠
8…連結器
9…フック
11…引張り棒
12…シュー
14…カウンターウエイト
20…調速機ロープ
21…芯線
21a…ロープ
22…ストランド
22a…素線
30…調速機ロープ
31…芯線
31a…素線
32…ストランド
32a…素線
33…充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調速機シーブと、この調速機シーブに巻き掛けられる調速機ロープとを備え、エレベータの昇降路内に設置されるエレベータ調速機において、
前記調速機ロープは、複数本の素線を撚ってなるワイヤロープであり、その素線として0.014〜0.26mmの断面積をもち、かつ2000N/mm以上の強度を有する鋼線が用いられていることを特徴とするエレベータ調速機。
【請求項2】
前記ワイヤロープは中心部に芯線を有し、この芯線が麻芯であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ調速機。
【請求項3】
前記ワイヤロープは中心部に芯線を有し、この芯線が鋼芯であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ調速機。
【請求項4】
前記ワイヤロープを構成する素線の強度が2000N/mm以上、3000N/mm未満であることを特徴とする請求項1,2または3に記載のエレベータ調速機。
【請求項5】
前記調速機シーブの直径が200mm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のエレベータ調速機。
【請求項6】
前記ワイヤロープが、複数本のストランドを撚り合わせた構造であり、その各ストランドで囲まれた空間と、各ストランドを構成する素線同士間の空間の少なくともいずれか一方の空間内にポリエチレン樹脂、ゴム、ウレタン等の実質的に非流動性の充填材が充填されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のエレベータ調速機。
【請求項7】
前記調速機シーブの溝表面の硬度がHB250以上としてあることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のエレベータ調速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−36488(P2006−36488A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220577(P2004−220577)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】