説明

エレメント管及び地中構造物の構築方法

【課題】 曲線部や施工誤差などに容易に対応でき、かつローリングを抑えることが可能なエレメント管、及びそのエレメント管を使用した地中構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】 地中1に周壁を形成する際に、その周壁位置に沿った掘進機6による掘削孔1a毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して環状体の前記周壁を形成する筒体のエレメント管9であって、その筒体は、掘削孔1aに内接し、第一側面に外側に開放する凹型断面の溝部90が形成され、第二側面に溝部90の幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケット9f,9fが外側に突出して形成されたエレメント管9である。
そして、このエレメント管9,・・・を複数使用して地中構造物を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に複数配置されて地中構造物の周壁を形成するエレメント管、及びトンネル、地下駐車場、トンネル掘削前に地盤の変形を抑えるためにトンネル構築予定地盤が囲繞されるように構築される周壁等の地中構造物の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図9の断面図に示すように、地中1を開削することなく、水平に複数の鋼製エレメント2(2A,2B,2C)を配置して地中構造物4を構築する方法が知られている(特許文献1,2など参照)。
【0003】
この方法では、まず、一管目の鋼製エレメント2Aを、掘進機で円形に掘削した掘削孔1aの後方から推し込んで配置する。この鋼製エレメント2Aの外面と掘削面の隙間には、後から掘進機で掘削できる強度の充填材3を充填し、掘削面の崩壊を防止する。
【0004】
そして、先行して配置された鋼製エレメント2Aの隣に、それをガイドにしながら他の鋼製エレメント2Bを推進させる。このように鋼製エレメント2B,2C,・・・を次々に連結しながら配置していくことで、地中構造物4を構築する。
【0005】
この鋼製エレメント2は、地中1側に配置される板状の外殻2a,2aと、その外殻2a,2a間を連結する遮断部2b,2bによって、断面視四角形(2A)又は断面視コ字型(2B,2C)に形成される。
【0006】
さらに、このエレメント管2Aの外殻2aの両端には、断面視略C型のC型継手2c,2cが形成されており、隣接して配置されるエレメント管2BのC型継手2c,2cと噛み合わせることによって両者が連結される。
【0007】
このC型継手2c,2c同士の連結は、一方のC型継手2cの略C型の空洞部に、他方のC型継手2cの一部を挿入しておこなうものであり、両者の間にはほとんど隙間がないため強固な連結となる。
【0008】
一方、このような鋼製エレメント2を複数連結して配置することで、トンネルや地下空間の周壁を形成する地中構造物も知られている(特許文献2など参照)。
【特許文献1】特開2000−120373号公報(図3、0011段落乃至0019段落)
【特許文献2】特開2001−214699号公報(図3、0001段落及び0002段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記したC型継手2c,2cを噛み合わせて鋼製エレメント2A,2Bを連結する方法では、噛み合わせにほとんど隙間がないため鋼製エレメント2Bを推し込む際の抵抗が大きい。
【0010】
特に、先に配置された鋼製エレメント2Aの施工誤差による位置のずれを吸収して、後から配置する鋼製エレメント2Bを正確な位置に配置することが難しい。また、推進中に鋼製エレメント2Bにローリングが発生したとしても、それを抑制することが困難であった。
【0011】
そして、連結方向の拘束も厳しいため直線的な施工しか行なえず、延伸途中でカーブするような曲線部を有するトンネルなどを構築することは難しかった。
【0012】
さらに、土砂等の異物がC型継手2cの空洞部に詰まった状態で無理にエレメント管2Bを推し込めば、C型継手2cやエレメント管2A,2Bに過大な応力が発生して塑性変形し、推進を続行できなくなる場合がある。
【0013】
そこで、本発明は、曲線部や施工誤差などに容易に対応でき、かつ推進時のローリングを抑えることが可能なエレメント管、及びそのエレメント管を使用した地中構造物の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、地中に周壁を形成する際に、該周壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して環状体の前記周壁を形成する筒体のエレメント管であって、前記筒体は、前記掘削孔に内接し、第一側面に外側に開放する凹型断面の溝部が形成され、第二側面に前記溝部の幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケットが外側に突出して形成されたエレメント管であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載のものは、前記筒体を形成する外殻と前記溝部に挟まれた内空間又は前記係合ブラケットにより形成される内空間の少なくとも一方に、止水部形成材を注入するための中空部が形成された請求項1に記載のエレメント管であることを特徴とする。
【0016】
そして、請求項3に記載のものは、前記中空部に連通する前記外殻又は前記係合ブラケットには、内部に注入された前記止水部形成材としての地盤改良材を通過させる貫通部が形成された請求項2に記載のエレメント管であることを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエレメント管を複数使用して前記周壁を形成する地中構造物の構築方法であって、前記周壁位置に該当する任意の位置の地中を掘進機によって掘削し、前記エレメント管をその掘削孔に推し込むことによって配置し、先行して配置した前記エレメント管の溝部に沿って掘進機を再び掘進させて、該先行エレメント管に隣接する掘削孔を形成し、前記溝部に他の前記エレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら、該掘削孔に推し込むことによって配置し、さらに他の前記エレメント管を配置済みの前記エレメント管の隣に、前記溝部と前記係合ブラケットを係合させながら配置する工程を繰り返すことによって、連続して前記エレメント管を配置する地中構造物の構築方法であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項5に記載の方法は、請求項2又は請求項3に記載のエレメント管を複数使用して前記周壁を形成する地中構造物の構築方法であって、前記周壁位置に該当する任意の位置の地中を掘進機によって掘削し、前記エレメント管をその掘削孔に推し込むことによって配置し、先行して配置した前記エレメント管の溝部に沿って掘進機を再び掘進させて、該先行エレメント管に隣接する掘削孔を形成し、前記溝部に他の前記エレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら、該掘削孔に推し込むことによって配置するエレメント管配置工程と、前記中空部に注入管を挿入し、該注入管に注入した止水部形成材によって前記溝部に近接する地中を変質させて止水部を形成する止水部形成工程と、を有し、前記エレメント管配置工程と前記止水部形成工程とを順次又は並行して繰り返しおこなうことによって、連続して前記エレメント管を配置する地中構造物の構築方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
このように構成された請求項1のものは、一方のエレメント管に形成された前記溝部に、隣接して配置される他方のエレメント管の一対の前記係合ブラケットを係合させて連結することができる。
【0020】
このため、前記エレメント管同士を、相対的に回転(ローリング)させることなく連結させることができる。また、面同士を係合させるだけで連結できるので、連結方向の拘束は緩やかであり、曲線部の施工や施工誤差に容易に対応することができる。
【0021】
そして、前記筒体を前記掘削孔に内接させる面積を増加させることで、前記エレメント管が配置される地中の緩みを最小限に抑えることができる。ここで、内接とは、前記筒体の少なくとも一部が前記掘削孔の掘削面に接していることをいう。
【0022】
また、請求項2に記載のものは、前記止水部形成材を注入するための中空部が予め形成されている。
【0023】
このため、容易に前記止水部形成材を注入することができ、迅速にエレメント管の外側に止水部を形成させることができる。
【0024】
そして、請求項3に記載のものは、前記中空部の内部に注入された前記地盤改良材を、地中側に排出させるための貫通部が予め形成されている。
【0025】
このため、前記止水部を形成させる地中に、容易に地盤改良材を注入することができる。
【0026】
さらに、請求項4に記載の発明は、先行して配置したエレメント管の前記溝部に、隣接して配置するエレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら推進させ、この係合によるエレメント管の推進工程を繰り返すことによって地中構造物を構築する。
【0027】
このため、後から地中に推し込む後行エレメント管を、正確な位置に容易に配置することができる。また、面同士を係合させるだけなので、前記後行エレメント管の推進時に、前記溝部が閉塞して無理な推し込みとなって連結部に過大な応力を発生させて塑性変形させることもない。
【0028】
また、請求項5に記載の方法は、前記中空部を介して注入した止水部形成材によって、前記溝部に近接する地中を変質させて止水部を形成する。
【0029】
このため、前記エレメント管同士の連結部に、容易に前記止水部を形成して確実に止水することができる。
【0030】
また、止水性を向上させることができるので、大深度地下などの土圧及び水圧の大きな場所にも、安全に地中構造物を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0032】
なお、前記従来例と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0033】
図1は本実施の形態によるエレメント管7,9同士の連結部を示した図であり、図2はエレメント管7,9,11,12,13,・・・を複数連結して構築された地中構造物5の断面図を示したものである。
【0034】
まず、本実施の形態のエレメント管9の構成について説明する。
【0035】
本実施の形態のエレメント管9は、筒体を形成する外殻9aによって側面の大部分が形成される。そして、この側面には、凹型断面の溝部90が長手方向に連続して延設され、外殻9aは略C字型断面に形成される。
【0036】
この溝部90は、外側に開放する略矩形断面の溝であって、底面部9cとその両側縁に立設される側面部9d,9dによって形成される。この底面部9cは、例えばエレメント管9が連結される方向に略直交する平面として形成され、側面部9d,9dはこの底面部9cと略直交するように立設される。
【0037】
また、底面部9cの両端を、前記外殻9aの内側面間が接続されるように延伸させることで、溝部90を設けた第一側面の剛性を高めることができる。すなわち、底面部9cの端部よりも内側に側面部9d,9dを立設させて、交差部の断面が略T字型になるように形成される。
【0038】
また、この外殻9a及び底面部9cの内側面には、リブなどの補強材9eが取り付けられて、エレメント管9が土圧や水圧に耐え得る構造に補強される。
【0039】
そして、筒体の他の側面には、一対の係合ブラケット9f,9fが形成される。この係合ブラケット9f,9fと前記溝部90の位置関係は、いずれの方向のエレメント管に連結されて、いずれの方向にエレメント管を連結していくのかによって変わる。
【0040】
ここでは、溝部70,70を両側に備えた先導エレメント管7にエレメント管9が連結されるものとして説明する。この先導エレメント管7は、特殊形態のエレメント管であり、先導エレメント管7を先行管として、図2に示すように両側にエレメント管9,11が連結される。
【0041】
前記一対の係合ブラケット9f,9fは、先導エレメント管7の溝部70に係合させる部材である。この係合ブラケット9f,9fは、断面略L字型の鋼板を外殻9a外側面に取り付けることによって形成することができる。
【0042】
ここで、一対の係合ブラケット9f,9fは、このL字型の一側面を側面部7d,7dに略平行するように対峙させ、溝部70の幅に略等しい間隔となるように取り付けられる。
【0043】
このように外殻9aの外側に突出して形成された係合ブラケット9f,9fが、窪んだ溝部70に嵌まり込むことで、先導エレメント管7にエレメント管9が係合される。
【0044】
さらに、本実施の形態のガイド部材8は、外殻9aと側面部9dとその側面部9dよりも外側に延伸された底面部9cとに囲まれたエレメント管9の内空間に、長手方向に沿って延設される。
【0045】
このガイド部材8は、後述する注入管8bを挿入する中空部が形成された略円形断面の管体であり、外殻9aに沿って延設される。
【0046】
図6に、先導エレメント管7とエレメント管9の連結部におけるガイド部材8周辺の拡大断面図を示す。この図に示したように、ガイド部材8に注入管8bを介して注入された止水部形成材としての地盤改良材10aが、地中1側に排出されるように、外殻7aには貫通部8aが形成される。
【0047】
そして、この貫通部8aとガイド部材8の側面を連通させて、ガイド部材8の内部に注入された地盤改良材10aが地中1に排出されるようにする。この貫通部8aは、円形又はスリット形状に形成される。また、隣接して配置されるエレメント管9側に傾く方向に形成されることで、排出された地盤改良材10aをエレメント管9側に広げることができる。
【0048】
この地盤改良材10aには、セメント系固化材や水ガラス系注入材などが使用でき、地盤改良材10aが地中1に注入されることによって地中1が透水係数の低い止水部10に変質する。
【0049】
さらに、貫通部8aは、図3に示すように、所定の間隔で先導エレメント管7の全長に亘って形成される。こうすることによって、止水部10を先導エレメント管7の長手方向に連続して形成させることができる。
【0050】
次に、図2に示すような地中構造物5の構築方法を説明するとともに、この実施の形態の作用について説明する。
【0051】
まず、図3に示すように円筒形状の掘進機6によって円筒形に地中1を掘削する。掘進機6の前面の面板6bにはビット6aが設けられ、面板6bを回転させることによって地中1を掘削することができる。
【0052】
掘進機6としては、シールド掘削機又は推進機のいずれも適用できるが、本実施の形態では推進機を使用した場合について、以下に説明する。
【0053】
掘進機6による掘削は、地中構造物5の周壁位置の任意の位置からおこなうことができる。図2では、地中構造物5の天井部の中央付近に先導エレメント7が配置されており、この位置から掘削を開始している。
【0054】
また、掘進機6の後端には、先導エレメント管7の先端を当接させ、この先導エレメント管7の後端を坑口から推進ジャッキで押すことによって、先導エレメント管7を地中1に推し込む。
【0055】
この先導エレメント管7は、推進ジャッキで押した分だけ坑口で継ぎ足し、さらに地中1に推し込む。
【0056】
そして、先導エレメント管7の配置が完了した後に、図4に示すように先導エレメント管7の溝部70に沿って掘進機6を再び推進させる。
【0057】
前記溝部70は、空洞部となっているため、掘進機6を先導エレメント管7側に近接させて掘削孔1aを掘削することが容易にできる。ただし、掘進機6との接触によって先導エレメント管7が損傷しない程度の相対的位置関係は、確保しておく。
【0058】
さらに、図5に示すように、後から掘削した掘削孔1a(図右)にエレメント管9を推進させる。エレメント管9は、一対の係合ブラケット9f,9fが、先導エレメント管7の溝部70に係合されるようにして推進させる。
【0059】
このエレメント管9の推進は、先導エレメント管7と同様に、掘進機6の後端にエレメント管9の先端を当接させて、坑口から推進ジャッキによって押すことによっておこなう。
【0060】
このように空洞の溝部70に係合ブラケット9f,9fを挿入するため、係合ブラケット9f,9fが推進の抵抗又は障害になることがほとんどない。また、推進中にエレメント管9が先導エレメント管7に対して相対的に回転しようとすれば、係合ブラケット9f,9fが側面部7d,7dに接触して回転が阻止されるので、エレメント管9は先導エレメント管7から離れていくことなく正確な位置に配置される。
【0061】
ここまでがエレメント管配置工程であり、以下に止水部形成工程について説明する。
【0062】
まず、ガイド部材8の中空部に詰まった土砂を取り除くために、ガイド部材8内に高圧洗浄管を挿入して、ガイド部材8の内部を洗浄する。この洗浄は、ガイド部材8に沿っておこなえばよいため、連続したガイド孔を容易に形成することができる。
【0063】
そして、図6に示すように、ガイド部材8の内部に注入管8bを挿入する。注入管8bの側面には側面孔が所定の間隔で設けられており、注入管8bとガイド部材8の隙間を地盤改良材10aで満たすことができる。
【0064】
ガイド部材8の内部に満たされた地盤改良材10aは、貫通部8aを通って地中1に排出され、外殻7aと側面部7dとの境界部7bに接する地中1が変質して止水部10が形成される。
【0065】
このように止水部10を形成することで、外殻9aと境界部7bの隙間を通って内部に浸入する水の経路を遮断することができる。
【0066】
また、注入後に注入管8bを引き抜くことで、地中1に注入されない地盤改良材10aが回収されるので、注入ロスを削減することができる。
【0067】
図1は、溝部70の両側に近接する地中1を変質させて、止水部10,10を形成した状態の断面図である。
【0068】
このようにエレメント管7,9,・・・同士の連結を繰り返して地中構造物5を構築する。図2では、先導エレメント管7から配置を開始して、その右側に溝部90が右側面に形成されたエレメント管9を順次連結していき、左側には溝部110が左側面に形成されたエレメント管11を順次連結していって天井部を形成している。
【0069】
そして、天井部の角部には、溝部120が下側面に、係合ブラケット12fが連結方向の側面に形成されたエレメント管12,12がそれぞれ配置される。
【0070】
さらに、地中構造物5の側壁部の下端には、再びエレメント管11,9を配置して、両側から床版部の中央に向けてエレメント管11,9,・・・を配置する。
【0071】
最後に、エレメント管11,9に挟まれた位置に、両側面に二組の係合ブラケット13f,・・・を設けた閉合エレメント管13を配置して、地中1をエレメント管7,9,11,12,13,・・・によって囲繞させる。
【0072】
この囲繞された地中1は、エレメント管7,9,11,12,13,・・・によって構成される周壁によって外部の地中1とは遮断されているので、安全かつ容易に掘削することができる。また、この周壁の内部にトンネルを構築することもできる。
【0073】
そして、掘削された地下空間に、さらに内側周壁を設けることもできる。
【0074】
以上に述べたようなエレメント管9、及びこれを使用した地中構造物5の構築方法によれば、一方のエレメント管9に形成された前記溝部90に、隣接して配置される他方のエレメント管9の一対の前記係合ブラケット9f,9fを係合させる。
【0075】
このため、前記エレメント管9を、ローリングさせることなく近接して正確な位置に配置させることができる。また、面同士を係合させるだけで連結できるので、連結方向の拘束は緩やかであり、曲線部の施工や施工誤差にも容易に対応することができる。
【0076】
また、無理にエレメント管9を推し込むことがないので、設置の際に側面部9dや係合ブラケット9f等のエレメント管9の構成部材に過大な応力を発生させて塑性変形させ、推進を不能にすることがない。
【0077】
そして、掘削孔1aの内周面に密接する外殻9a形状を有するエレメント管9を推し込むことで、地中の緩みを最小限に抑えることができる。
【0078】
さらに、地盤改良材10aを注入するためのガイド部材8が、予め外殻9aに延設されているため、容易に地盤改良材10aを注入することができ、迅速にエレメント管9の外側に止水部10を形成させることができる。
【0079】
また、地盤改良材10aは貫通部8aを通過させて排出させればよいので、止水部10を形成させる地中1に容易に注入することができる。
【0080】
このため、エレメント管9,9同士の連結部に、止水部10を形成して確実に止水することができる。また、連結部の止水性を向上させることによって、大深度地下などの土圧及び水圧の大きな地中1にも、安全に地中構造物5を構築することができる。
【実施例1】
【0081】
以下、前記した実施の形態の実施例1について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0082】
前記実施の形態では、止水部形成材として地盤改良材10aを使用したが、実施例1では凍結工法で使用する不凍液等の冷媒を止水部形成材として使用する。
【0083】
この冷媒には、地中1に直接、注入するものと、注入管内を循環させて間接的に地中1を冷却するものがあるが、直接注入する場合は前記実施の形態と同じ構成によって実施することができるので、注入管内を循環させるものを使用する構成について説明する。
【0084】
この実施例1では、外殻9aに貫通部8aを設ける必要は無いが、ガイド部材8と外殻9a内側面の接触面積を大きくする方が冷却効率を向上させることができる。
【0085】
ガイド部材8の内部には、例えば先端をU字型に折り返した注入管を挿入し、坑口に設置した冷凍機で冷却した冷媒を注入管内部で循環させる。こうすることによって、低温部がガイド部材8、外殻9a、地中1の順に広がり、溝部90に近接する地中1が凍結して止水部10が形成される。
【0086】
凍結工法によって形成される止水部10の止水性能は非常に高いので、エレメント管9,9同士の連結部の止水を確実におこなうことができる。
【0087】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0088】
以下、前記した実施の形態の実施例2について説明する。なお、前記実施の形態及び実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0089】
実施例2では、図7に示したような断面視略矩形の矩形エレメント14,15を使用した場合について説明する。
【0090】
この矩形エレメント14,15は、外殻14a,15aが平面板で形成される点で、前記実施の形態及び実施例1と相違するが、その他の構成は略同様である。なお、矩形エレメント14,15を使用する場合は、掘進機6にも同じ形状の矩形掘進機を使用するのが好ましい。
【0091】
実施例2の溝部140,150は、矩形エレメント14,15の上面又は底面を形成する外殻14a,15aから垂下又は立設された側面の境界部14b,15bに、側面部14d,15dを連設させることによって形成される。
【0092】
このため、矩形エレメント管14,15を連結した場合に、境界部14bが隣接する外殻15aに接して直接地中1に接することがない。そこで、矩形エレメント管14,15に延設されるガイド部材8は、溝部140,150と外殻14a,15aと底面部14c,15cに囲まれる内空間の中でも、地中1に接する外殻14a,15aの内側面に取り付けるようにする。
【0093】
このような位置にガイド部材8を配置することで、確実に矩形エレメント管14,15の連結部に止水部10,10を形成することができる。
【0094】
また、実施例2で矩形の例を示したように、エレメント管の断面形状は円形に限定されるものではなく、馬蹄形や正方形等の様々な形状に形成することができる。
【0095】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0096】
以下、前記した実施の形態の実施例3について説明する。なお、前記実施の形態、実施例1及び実施例2で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0097】
実施例3では、係合ブラケット9fの内空間に、止水部形成材を注入するための中空部を形成させる場合について説明する。
【0098】
図8に示したように、係合ブラケット9fの略三角柱状の内空間に、平板状のガイド部材8Bを溶接などで固定することで、略三角柱状の中空部が形成される。側面部7dと対面する係合ブラケット9fには、側面部7d側と前記中空部を連通させる貫通部8cが形成される。
【0099】
また、外殻7aと側面部7dとその側面部7dよりも外側に延伸された底面部7cとに囲まれたエレメント管7の内空間には、前記実施の形態と同様に略円形断面のガイド部材8Aが長手方向に沿って延設される。
【0100】
この実施例3では、ガイド部材8Aに注入管8bを挿入して、貫通部8aを通して地中1側に地盤改良材10aを注入することによって、エレメント管9,7の外側面側に止水部10Aを形成する。
【0101】
そして、ガイド部材8Bによって形成された中空部には、注入管8dを挿入して、貫通部8cを通して側面部7dと係合ブラケット9fとの間に、止水部形成材としての固化材10bを注入することによって、係合ブラッケ9fの周囲に止水部10Bを形成する。
【0102】
このように止水部10A,10Bを二重構造にすることで、エレメント管7,9同士の連結部の止水性を高めることができる。
【0103】
また、止水部10Bの性能によっては、係合ブラケット9f側にのみガイド部材8B及び注入管8dを配設して、止水部10Bのみを形成させることもできる。
【0104】
さらに、係合ブラケット9fの内空間の大きさが、止水部形成材を注入するための中空部に適した大きさである場合は、ガイド部材を省略することもできる。
【0105】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態、実施例1及び実施例2と略同様であるので説明を省略する。
【0106】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0107】
例えば、前記実施の形態では、図2に示したように断面が略長方形の地中構造物5について説明したが、この形状に限定されるものではなく、例えば断面が円形、楕円形、又は馬蹄形などの地中構造物5であってもよい。
【0108】
また、ガイド部材8の断面形状は円形に限定されるものではなく、断面略L字型、断面略コ字型の部材の開放側をエレメント管9の内側面に取り付けることで中空部を形成させることもできる。
【0109】
そして、前記実施例3で示した平板状のガイド部材8Bのように、平板の両側端を外殻9a(7a)の内側面と側面部9d(7d)の内側面にそれぞれ溶接で固定して、中空部を形成させることもできる。
【0110】
さらに、前記実施例2においては、円筒形のガイド部材8を延設させたが、これに代えて前記同様に平板のガイド部材を使用して、略三角柱状の中空部を形成することもできる。
【0111】
また、止水部を形成する工程は、エレメント管9を配置した直後に連続しておこなわなくとも、任意の数のエレメント管9,・・・を配置した後にまとめておこなうこともできる。
【0112】
そして、先行して配置されたエレメント管7,9,・・・の溝部70,90,・・・と掘削孔1aとの間の櫛形の隙間には、掘削面の崩壊や地山の緩みを防止するために、係合ブラケット9f,9fの推進が可能な強度の充填材3を充填しておくこともできる。
【0113】
さらに、先行して配置するエレメント管9の一対の係合ブラケット9f,9fに、後から配置するエレメント管9の溝部90を係合させることによって連結させることもできる。
【0114】
また、溝部90の断面形状は、矩形でなくとも、台形又は逆向きの台形であってもよい。この場合は、対峙する係合ブラケット9f,9fも、側面部9d,9dの傾きに合わせて形成される。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の最良の実施の形態のエレメント管の連結部の構成を説明する断面図である。
【図2】本発明の最良の実施の形態によって構築された地中構造物の断面図である。
【図3】掘進機の後方にエレメント管を連ねて推進させる状態を示した一部切断斜視図である。
【図4】先行して配置したエレメント管に隣接する掘削孔を掘削する状態を説明した断面図である。
【図5】先行して配置したエレメント管に隣接して後行エレメント管を配置した状態を説明した断面図である。
【図6】地盤改良材が注入される状態を説明した一部拡大断面図である。
【図7】実施例2の矩形エレメント管同士の連結部の構成を説明する断面図である。
【図8】実施例3の係合ブラケット側にも止水部形成材を注入するための中空部が形成された場合を説明した一部拡大断面図である。
【図9】従来例の鋼製エレメントを連結して構築された地中構造物の断面図である。
【符号の説明】
【0116】
1 地中
1a 掘削孔
5 地中構造物
6 掘進機
8 ガイド部材
8a 貫通部
8b 注入管
9 エレメント管
90 溝部
9a 外殻
9f 係合ブラケット
10 止水部
10a 地盤改良材(止水部形成材)
11,12 エレメント管
15 矩形エレメント管(エレメント管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に周壁を形成する際に、該周壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して環状体の前記周壁を形成する筒体のエレメント管であって、
前記筒体は、前記掘削孔に内接し、第一側面に外側に開放する凹型断面の溝部が形成され、第二側面に前記溝部の幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケットが外側に突出して形成されたことを特徴とするエレメント管。
【請求項2】
前記筒体を形成する外殻と前記溝部に挟まれた内空間又は前記係合ブラケットにより形成される内空間の少なくとも一方に、止水部形成材を注入するための中空部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のエレメント管。
【請求項3】
前記中空部に連通する前記外殻又は前記係合ブラケットには、内部に注入された前記止水部形成材としての地盤改良材を通過させる貫通部が形成されたことを特徴とする請求項2に記載のエレメント管。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエレメント管を複数使用して前記周壁を形成する地中構造物の構築方法であって、
前記周壁位置に該当する任意の位置の地中を掘進機によって掘削し、前記エレメント管をその掘削孔に推し込むことによって配置し、先行して配置した前記エレメント管の溝部に沿って掘進機を再び掘進させて、該先行エレメント管に隣接する掘削孔を形成し、前記溝部に他の前記エレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら、該掘削孔に推し込むことによって配置し、さらに他の前記エレメント管を配置済みの前記エレメント管の隣に、前記溝部と前記係合ブラケットを係合させながら配置する工程を繰り返すことによって、連続して前記エレメント管を配置することを特徴とする地中構造物の構築方法。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載のエレメント管を複数使用して前記周壁を形成する地中構造物の構築方法であって、
前記周壁位置に該当する任意の位置の地中を掘進機によって掘削し、前記エレメント管をその掘削孔に推し込むことによって配置し、先行して配置した前記エレメント管の溝部に沿って掘進機を再び掘進させて、該先行エレメント管に隣接する掘削孔を形成し、前記溝部に他の前記エレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら、該掘削孔に推し込むことによって配置するエレメント管配置工程と、前記中空部に注入管を挿入し、該注入管に注入した止水部形成材によって前記溝部に近接する地中を変質させて止水部を形成する止水部形成工程と、を有し、
前記エレメント管配置工程と前記止水部形成工程とを順次又は並行して繰り返しおこなうことによって、連続して前記エレメント管を配置することを特徴とする地中構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−70443(P2006−70443A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251523(P2004−251523)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】