説明

エンコーダ用スケール、及びエンコーダ装置

【課題】簡便な構成により位相格子を保護できるエンコーダ用スケール、及びエンコーダ装置を提供する。
【解決手段】位相格子51が形成された基板50と、位相格子51を保護する保護部60と、位相格子51の周囲のうち少なくとも一部に配置され、基板50と保護部60とを貼り合せる接着部55と、を備えたエンコーダ用スケール100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダ用スケール、及びエンコーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンコーダ装置は、例えば、光源から射出した光をスケールに照射し、そのスケールを介した光を検出器で検出することで基板ステージ等の移動体の位置情報を検出することができる。このようなスケールとしてホログラムによって位相格子を構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−232318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなスケールにおいては、検出不良などを防止すべく、微細な凹凸形状を有する位相格子が形成された面を汚れや破損等から保護する必要がある。そこで、簡便な構成で位相格子面を保護可能な技術の提供が望まれていた。
【0005】
本発明は、簡便な構成により位相格子を保護できるエンコーダ用スケール、及びエンコーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、エンコーダ用スケールであって、位相格子が形成された基板と、前記位相格子を保護する保護部と、前記位相格子の周囲のうち少なくとも一部に配置され、前記基板と前記保護部とを貼り合せる接着部と、を備えるエンコーダ用スケールが提供される。
【0007】
本発明の第2の態様に従えば、上記エンコーダ用スケールと、該エンコーダ用スケールを介した光を検出する検出器と、を備えるエンコーダ装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な構成により位相格子を保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】スケールの一実施形態に係る構成を示す分解斜視図である。
【図2】スケールの図1におけるA−A線矢視による断面構成図である。
【図3】反射型のスケールの概略構成を示す図である。
【図4】エンコーダ装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0011】
(エンコーダ用スケール)
図1は本発明のエンコーダ用スケール(以下、スケールと称す)の一実施形態に係る構成を示す分解斜視図である。スケール100は、図1に示されるようにX軸方向を周期方向とする位相格子としての回折格子51が形成された基板50と、回折格子51を保護する保護基板60と、を主体に構成されている。基板50と保護基板60とは両面テープ(両面接着部材)55により貼り合わされている。なお、本実施形態のスケール100は透過型のスケールである。
【0012】
基板50は、例えば石英等の透光性部材から構成されている。また、保護基板60も同様に透光性部材から構成されている。
両面テープ55は、回折格子51を囲んだ状態で配置されている。このように両面テープ55が回折格子51を囲んだ状態に配置されるため、基板50と保護基板60とは良好に密着された状態とされている。なお、両面テープ55は、回折格子51の周囲全体に配置されることが望ましいが、基板50と保護基板60とを密着することが可能な程度に、回折格子51の周囲の少なくとも一部に配置されればよい。
【0013】
図2は、スケール100の図1におけるA−A線矢視による断面構成を示す図である。図2に示されるように、保護基板60と基板50との間には、両面テープ55により空隙56が設けられている。すなわち、両面テープ55は、保護基板60と基板50とを貼り合せる接着部として機能、及び保護基板60と基板50との空隙56を形成するスペーサとしての機能を兼ねたものとなっている。これにより基板50に形成されている回折格子51と保護基板60とが接触することが防止されたものとなっている。なお、前記接着部によって、前記保護部と前記基板との距離は一定に保持されている。
【0014】
また、保護基板60には微小な開口部70が形成されている。開口部70は、空隙56内に異物が混入することを防止可能な大きさに設定されている。これにより、保護基板60は、回折格子51を非密閉状態にて保護している。
【0015】
この構成によれば、後述するエンコーダ装置10(図4参照)を様々な外部環境(温度条件、など)のもとで利用した場合でも、空隙56が密閉状態となっていないため、膨張或いは圧縮することで保護基板60が変形することが防止される。よって、保護基板60が変形することで回折格子51に入射する光に影響が及ぶことが防止される。
【0016】
また、上記開口部70を除く保護基板60の上面(基板50の対向面と反対側の面)には、所定の波長の光(光源12からのコヒーレントな光)に対して波長選択性を有する波長選択膜65が形成されている。波長選択膜65は、例えば誘電体積層膜によって構成される。このような波長選択膜65を設ける事で光源12からのコヒーレントな光のみを回折格子51に到達させることができる。これにより、SN比を向上させることができ、明瞭な回折光を得ることができる。
【0017】
また、保護基板60の表面(波長選択膜65上)には親水膜66が設けられている。親水膜66は、例えば界面活性材含有膜等から構成される。これにより、保護基板60に曇りが生じるのを防止することができる。
【0018】
また、スケール100は、回折格子51を形成した基板50に回折格子51を枠状に囲むように両面テープ55を配置し、その上に保護基板60を貼り付けることで製造することができる。このようにスケール100は、簡便な方法で製造されることから製造コストが抑えられたものとなる。
【0019】
ところで、基板50に形成された回折格子51は、微細な凹凸形状を有するため、汚れや接触などによる破損が生じると良好な計測が行えなくなってしまう。これに対し、本実施形態に構成によれば、回折格子51が保護基板60によって保護されるので回折格子51に異物が付着したり、不要な流体が付着したり、傷がつくといった不具合の発生を確実に防止することができる。
【0020】
なお、上記実施形態では、位相格子として回折型のものについて説明したが、本発明はこれに限定されることは無く、例えばホログラム型、ブレーズ型の位相格子を備えたものにも適用可能である。
【0021】
なお、開口部70の代わりに保護基板60の一部にフィルタを配置することで空隙を非密閉状態とするようにしてもよい。この構成によれば、フィルタによって異物の浸入を防止するとともに空隙内を良好に非密閉状態とすることができる。また、開口部70を基板50に設けるようにしてもよい。また、開口部70は、保護基板60に形成されていなくてもよい。
【0022】
また、上述の実施形態では、透過型の位相格子を備えたものについて説明したが、本発明のエンコーダ用スケールは反射型のスケールについても適応可能である。図3は反射型のスケール100の概略構成を示す図である。図3に示されるように、スケール101は、反射型の位相格子としての回折格子81が形成された基板80と、上記実施形態と同様のガラス等の透光性部材からなる保護基板60が貼り合わされることで構成されている。
【0023】
また、スケール101は、回折格子81が密閉空間内に保持されたものとなっている。具体的にスケール101は、上述したスケール100と異なり、基板80と保護基板60との間に形成される空隙Xが不活性ガス(例えば、窒素ガス)で充填された状態となっている。これにより、回折格子81の格子面が金属酸化することで劣化してしまうのを防止することができる。
なお、本実施形態によれば、簡便な構成により位相格子を保護できるエンコーダ用スケール、又は、位相格子を低コストで保護できるエンコーダ用スケールを提供することができる。
【0024】
(エンコーダ装置)
図4は本発明のエンコーダ装置の一例に係る概略構成を示す斜視図である。図4に示されるように、エンコーダ装置10は、いわゆる回折干渉方式のエンコーダ装置であり、所定方向に移動する移動体(例えば、ステージなど)の移動方向、移動量、或いは変位を検出するリニアエンコーダである。なお、本発明のエンコーダ装置としては、リニアエンコーダに限定されず、ロータリーエンコーダであってもよい。
【0025】
エンコーダ装置10は、図1に示されるように、光源12と、振動ミラー14と、コリメータレンズ18と、第1のインデックススケール20と、第2のインデックススケール22と、ビームスプリッタBSと、移動スケール24と、第1の受光素子(第1の検出器)26と、参照スケール28と、第2の受光素子(第2の検出器)30とを含んでいる。なお、少なくとも移動スケール24は、本発明のエンコーダ用スケール(上記スケール100)から構成されている。
【0026】
光源12は、コヒーレントな光、例えば波長λ(=850nm)のレーザ光を図1及び図4における+X方向に向けて射出するものである。
【0027】
振動ミラー14は、光源12からのレーザ光を第1のインデックススケール20に向けて反射する。この振動ミラー14は、アクチュエータを含む駆動機構16によりY軸回りの回転方向に周期的に振動される。すなわち、振動ミラー14に入射した光の反射方向は、その反射面の無機によって異なることとなり、コリメータレンズ18に入射する照明光の角度が周期的に変調されるようになっている。
コリメータレンズ18は、振動ミラー14で反射されたレーザ光を平行光に変換する。
【0028】
第1のインデックススケール20は、X軸方向を周期方向とする回折格子が形成された基板を主体として構成されるものであり、コリメータレンズ18を透過した平行光が入射する。なお、上記第1のインデックススケール20は上述のスケール100から構成されている。
【0029】
第1のインデックススケール20では、入射した平行光に基づいて、複数の回折光を発生させる。図4では、それらの回折光のうち、第1のインデックススケール20で発生した±1次回折光(図1において、+X側に射出している回折光が+1次回折光、−X側に出射している回折光が−1次回折光である)が示されている。なお、第1のインデックススケール20が本発明のスケール100から構成されていてもよい。
【0030】
第2のインデックススケール22は、第1のインデックススケール20と同様、X軸方向を周期方向とする回折格子が形成された基板を主体として構成されるものであり、第1のインデックススケール20と、移動スケール24との間に配置されている。この第2のインデックススケール22は、第1のインデックススケール20で発生した−1次回折光を回折して+1次回折光を生成し、この+1次回折光は移動スケール24に向かう。また、第2のインデックススケール22は、第1のインデックススケール20で発生した+1次回折光を回折して−1次回折光を生成し、この−1次回折光は移動スケール24に向かう。なお、第2のインデックススケール22が本発明のスケール100から構成されていてもよい。
【0031】
ここで、第2のインデックススケール22で生成された±1次回折光は、ビームスプリッタBSを透過して、移動スケール24上のほぼ同一位置で互いに重なり合う。すなわち、+1次回折光が移動スケール24上で干渉する。
【0032】
移動スケール24は、上記スケール100から構成されている。この移動スケール24では、第2のインデックススケール22で生成された+1次回折光を回折して−1次回折光を回折して+1次回折光を生成する。そして、これら+1次回折光は、互いに干渉した状態で、第1の受光素子26に入射する。この結果、第1の受光素子26は、干渉光の干渉強度を示す電気信号を出力するようになる。
【0033】
なお、本実施形態では、第1のインデックススケール20と移動スケール24の格子ピッチが同一であり、第2のインデックススケール22の格子ピッチが、第1のインデックススケール20及び移動スケール24の格子ピッチの1/2であるものとする。
【0034】
ところで、第2のインデックススケール22で回折された±1次回折光のうち、ビームスプリッタBSで反射された光は、第2のインデックススケール22と移動スケール24との間に設けられた光は、第2のインデックススケール22と移動スケール24との間に設けられた参照スケール28に入射する。この参照スケール28は、Y軸方向を周辺方向とする回折格子が形成されたプレートからなる透過型の位相格子であり、第1のインデックススケール20との位置関係及び第2のインデックススケール22との位置関係が固定とされている。本実施形態では、参照スケール28が有する回折格子の格子ピッチは、上述した移動スケール24が有する回折格子の格子ピッチと同一ピッチに設定されている。なお、参照スケール28が本発明のスケール100から構成されていてもよい。
【0035】
この参照スケール28においても、移動スケール24の場合と同様に、第2のインデックススケール22から発せられた−1次回折光を回折する(図1では、参照スケール28で回折した+1次回折光が−X方向に進行する)。また、参照スケール28では、第2のインデックススケール22から発せられた+1次回折光を回折する(図1では、参照スケール28で回折した−1次回折光が−X方向に進行する)。
【0036】
そして、これら−X方向に進行するそれぞれの+1次回折光及び−1次回折光は、互いに干渉した状態で第2の受光素子30に入射する。この結果、第2の受光素子30は、干渉光の干渉強度を示す電気信号を出力するようになる。
【0037】
本実施形態では、参照スケール28と第1のインデックススケール20との間の位置関係及び参照スケール28と第2のインデックススケール22との位置関係が固定されていることから、第2の受光素子30における出力は、ビームの振動に関する情報のみを示すものであり、該出力からビームの振動中心に関する情報が取得される可能性がある。
【0038】
ところで、本実施形態では、エンコーダ装置10が設置される雰囲気の温度や湿度の変化に応じて、ビームの振動中心がドリフトする可能性がある。このため、第1の受光素子26では、移動スケール24の移動情報にビームの振動中心のドリフトが含まれる情報が取得される可能性がある。
【0039】
したがって、本実施形態では、制御装置(不図示)が第1の受光素子26による出力(以下、出力1と称す)と、第2の受光素子30による出力(以下、出力2と称す)とを用いて、移動スケール24の位置情報を次式(1)のようにして算出する。
【0040】
(移動スケールの位置情報)=(出力1)−k×(出力2) …(1)
【0041】
ここで、係数kとしては、実際にエンコーダ装置10を用いた計測を行う以前に移動スケール24を固定した状態で、ビームを振動させた差異の、第1の受光素子26の出力と第2の受光素子30の出力の差異から算出される換算係数である。
【0042】
なお、実際には、第1の受光素子26による出力1、及び第2の受光素子30による出力2は、振動ミラー14により変調された信号であるため、出力1、2をそれぞれ、時間に関するベッセル級数展開を用いて位置情報に変換した後、上式(1)で移動スケールの位置情報にする。
【0043】
これにより、エンコーダ装置10が設置される雰囲気の温度や湿度の変化等によるビームの振動中心のドリフトの影響を受けることなく、移動スケール24の位置情報を高精度に計測することができる。
【0044】
以上のように、本実施形態に係るエンコーダ装置10によれば、第1、第2のインデックススケール20,22を経由した光をビームスプリッタBSにより分岐し、その一方の光を移動スケール24を介して第1の受光素子26で受光するとともに、他方の光を参照スケール28を介して第2の受光素子30で受光するが、参照スケール28は、ビームスプリッタBSに対して位置関係が固定されているので、第2の受光素子30では、レーザ光の振動に関する情報のみを検出することができる。したがって、第1の受光素子26の出力1と、第2の受光素子30の出力2とを用いて、移動スケール24の位置情報を算出することにより、レーザ光の変調中心(振動中心)のドリフトの影響を受けることなく、移動スケール24の移動情報を精度良く計測することが可能となる。また、移動スケール24が上記スケール100から構成されているので、より精度の高い計測を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
10…エンコーダ装置、12…光源、51…回折格子、56,X…空隙、60…保護基板、100…スケール、101…スケール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンコーダ用スケールであって、
位相格子が形成された基板と、
前記位相格子を保護する保護部と、
前記位相格子の周囲のうち少なくとも一部に配置され、前記基板と前記保護部とを貼り合せる接着部と、
を備えることを特徴とするエンコーダ用スケール。
【請求項2】
前記接着部は、前記位相格子を囲むように配置されることを特徴とする請求項1に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項3】
前記保護部によって空隙が設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項4】
前記空隙に不活性ガスが充填されていることを特徴とする請求項3に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項5】
前記保護部は、前記位相格子を非密閉状態に保護することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項6】
前記保護部は、前記基板上の前記位相格子が形成された面に配置されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項7】
前記接着部は両面接着部材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項8】
前記保護部には、波長選択性を有する波長選択膜が設けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項9】
前記保護部には、親水性膜が設けられることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項10】
前記接着部が前記保護部と前記基板との距離を一定に保持することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のエンコーダ用スケール。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のエンコーダ用スケールと、該エンコーダ用スケールを介した光を検出する検出器と、を備えることを特徴とするエンコーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−21909(P2011−21909A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164928(P2009−164928)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】