説明

エンジンのオイル戻し通路

【課題】コスト及び搭載スペースの増大を抑制しつつ、オイルが流れる通路を制御する。
【解決手段】エンジン1の摺動部を潤滑するオイルをシリンダヘッド3及びシリンダブロック2を通してオイルパンまで流れ落とすオイル戻し通路65であって、上流側に大径部651aを備え、下流側に小径部651bを備える主通路651と、大径部651aから分岐し、小径部651bの径より大きく、小径部651bよりも高温になる部位を通る分岐通路652と、を備えること特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンのオイル戻し通路に関する。
【背景技術】
【0002】
高油温時にシリンダブロックのウォータジャケットに近接した迂回通路にオイルを流すことによってオイルを冷却させて油温を調節する油温調整装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−63708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来例では、流量制御弁によって迂回通路へのオイル流量を調整していた。そのため、流量制御弁の分だけ部品点数が増えるので、コスト及び搭載スペースが増大するという問題点があった。
【0005】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、コスト及び搭載スペースの増大を抑制しつつ、オイルが流れる通路を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段によって前記課題を解決する。理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0007】
本発明は、エンジン(1)の摺動部を潤滑するオイルをシリンダヘッド(3)及びシリンダブロック(2)を通してオイルパンまで流れ落とすオイル戻し通路(65)であって、上流側に大径部(651a)を備え、下流側に小径部(651b)を備える主通路(651)と、大径部(651a)から分岐し、小径部(651b)の径より大きく、小径部(651b)よりも高温になる部位を通る分岐通路(652)と、を備えること特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、主通路の大径部を流れ落ちてきたオイルを、通路断面積が減少する小径部の上流の大径部に一時的に溜めることができる。
【0009】
このとき、粘度の大きい低油温時には径の小さい小径部に流れ落ちるオイル流量が少ないので、大径部に溜まるオイル量が増えていく。そのため、オイルを大径部から分岐する分岐通路まで溜めることができる。分岐通路まで溜まった後は、主通路の大径部を流れ落ちてきたオイルは分岐通路を通ってオイルパンまで流れ落ちることになる。
【0010】
一方で、粘度の小さい高油温時には、一時的にオイルは溜まるものの、小径部へ流れ落ちるオイル流量が多いので、オイルは分岐通路まで溜まることはない。そのため、主通路の大径部を流れ落ちてきたオイルを、小径部を通してオイルパンまで流れ落とすことができる。
【0011】
したがって、流量制御弁を用いることなく油温に応じてオイルが流れる通路を制御することができ、かつ、コスト及び搭載スペースの増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態によるエンジンの概略構成図である。
【図2】第1実施形態によるオイル戻し通路のシリンダヘッド部の詳細図である。
【図3】第1実施形態によるシリンダヘッドをシリンダブロック側から見た平面図である。
【図4】第2実施形態によるオイル戻し通路のシリンダヘッド部の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態によるエンジン1の概略構成図である。
【0015】
エンジン1は、シリンダブロック2と、シリンダヘッド3と、オイルパン4と、フロントカバー5と、潤滑装置6と、を備える。
【0016】
シリンダブロック2は、複数のシリンダとクランクケースとが一体に鋳造されて構成されて、ピストンやクランクシャフトなどを支える。
【0017】
シリンダヘッド3は、シリンダブロック2の上面に設けられる。シリンダヘッド3には、吸気弁及び排気弁が設けられるとともに、それらを駆動するためのカムシャフトなどを備える動弁装置が設けられる。
【0018】
オイルパン4は、シリンダブロック2の下面に設けられる。オイルパン4は、エンジン各部の摺動部品を潤滑するオイルを貯蔵する。
【0019】
フロントカバー5は、エンジン1の前面に設けられる。フロントカバー5は、エンジン1の前面に設けられた各ベルトや補機類を保護する。
【0020】
潤滑装置6は、オイルストレーナ61と、オイルポンプ62と、メインオイルギャラリ63と、シリンダヘッドオイルギャラリ64と、オイル戻し通路65と、を備える。
【0021】
オイルストレーナ61は、オイルパン4の内部に設けられる。オイルストレーナ61は、オイル中の異物を取り除く。
【0022】
オイルポンプ62は、ベルトを介してクランクシャフトによって駆動され、オイルパン4の内部のオイルを吸い上げて吐出する。
【0023】
メインオイルギャラリ63は、シリンダ列方向にシリンダブロック2の内部に形成されたオイル通路である。メインオイルギャラリ63には、クランクシャフト軸受部などのブロック内摺動部に向けて開口する複数のオイル供給孔が形成される。オイルポンプ62からメインオイルギャラリ63に圧送されてきたオイルは、オイル供給孔から噴出してブロック内摺動部に供給される。
【0024】
シリンダヘッドオイルギャラリ3は、メインオイルギャラリ63に接続されており、シリンダ列方向にシリンダヘッド3の内部に形成されるオイル通路である。シリンダヘッドオイルギャラリ3には、カムシャフトなどのヘッド内摺動部に向けて開口する複数のオイル供給孔が形成される。メインオイルギャラリ63を通ってシリンダヘッドオイルギャラリ3まで圧送されてきたオイルは、オイル供給孔から噴出してヘッド内摺動部に供給される。
【0025】
オイル戻し通路65は、ヘッド内摺動部を潤滑したオイルをオイルパン4まで戻すための通路であり、シリンダヘッド3からシリンダブロック2にわたって形成される。以下、オイル戻し通路65の詳細について、図2を参照して説明する。
【0026】
図2は、オイル戻し通路65のシリンダヘッド部の詳細図である。図中の矢印は、オイルの落下方向を示す。
【0027】
オイル戻し通路65は、主通路651と、分岐通路652と、を備える。
【0028】
主通路651は、大径部651aと小径部651bとを備える。
【0029】
大径部651aには、ヘッド内摺動部を潤滑したオイルが流れ落ちてくる。
【0030】
小径部651bは、大径部651aよりも下流に形成される。小径部651bは、大径部651aよりも径が小さい通路である。小径部651bは、小径部651bの軸中心が大径部651aの軸中心の近傍に位置するように設けられる。
【0031】
分岐通路652は、主通路651の大径部651aから分岐する。言い換えれば、小径部651bよりも上流(シリンダヘッド側)の主通路651から分岐する。分岐通路652の径は、主通路651の大径部651aよりも小さく、主通路651の小径部651bよりも大きい。分岐通路652は、分岐通路652の軸中心が主通路651の大径部651aの軸中心から所定量だけ径方向に偏心した位置にくるように主通路651の大径部651aから分岐している。
【0032】
このような構成とすることで、大径部651aの断面積よりも小径部651bの断面積が小さいため、大径部651aを流れ落ちてきたオイルをいったん小径部651bの上流の主通路651に溜めることができる。以下では、このオイルが一時的に溜まる主通路651の部分を「オイル溜まり部653」という。
【0033】
図3は、シリンダヘッド3をシリンダブロック2側から見た平面図である。
【0034】
図3に示すように、オイル戻し通路65は、燃焼室31aと燃焼室31b及び燃焼室31bと燃焼室31cとの間のシリンダヘッド3の外縁部に形成される。そして主通路651の小径部651bは、分岐通路652よりも燃焼室中心又は燃焼室周りの高温の冷却水が流れるウォータジャケット32から離れた位置に形成される。このように、主通路651の小径部651bは、エンジン本体の比較的低温な部位を通るように形成され、分岐通路652は、エンジン本体の比較的高温な部位を通るように形成される。
【0035】
次に本実施形態による潤滑装置6の作用効果について、再び図1から図3を参照して説明する。
【0036】
図1に示すように、オイルポンプ62によってオイルストレーナ61を介して吸い上げられたオイルパン4のオイルは、メインオイルギャラリ63及びシリンダヘッドオイルギャラリ3へと圧送されて、ブロック内摺動部及びヘッド内摺動部に供給され、各摺動部を潤滑する。
【0037】
ヘッド内摺動部を潤滑したオイルの一部は、オイル戻し通路65を通ってオイルパン4へと戻される。このとき、図2に示すように、主通路651の大径部651aを流れ落ちてきたオイルは、径が小さくなる小径部651bの上流のオイル溜まり部653に一時的に溜まることになる。
【0038】
ここで、油温が比較的低く、オイルの粘度が大きいときは、径の小さい小径部651bに流れるオイルの量が少量となるので、オイル溜まり部653にオイルが溜まっていき、分岐通路652の高さまで溜まったら径の大きい分岐通路652へと流れ込んでオイルパン4へ戻る。
【0039】
一方で、油温が比較的高く、オイルの粘度が小さいときは、一時的にオイル溜まり部653にオイルが溜まるものの、径の小さい小径部651bに流れる量は相対的に多くなるので、分岐通路652の高さまでオイルが溜まることはない。そのため、大径部651aを流れ落ちてきたオイルの多くを、小径部651bを通してオイルパン4に戻すことができる。
【0040】
このように、本実施形態によれば、制御弁を用いることなく油温に応じ、オイルを分岐通路652を通してオイルパン4に戻すか、主通路651の小径部651bを通してオイルパン4に戻すかを制御することができる。したがって、制御弁を設ける場合と比べてコストが低減させることができるとともに、搭載スペースが不要なのでエンジン1の小型化を図ることができる。
【0041】
また、図3に示すように、本実施形態では分岐通路652を主通路651の小径部651bよりも燃焼室中心又は燃焼室周りの高温の冷却水が流れるウォータジャケット32に近い位置に設けた。
【0042】
そのため、分岐通路652を流れる間にオイルの温度を上昇させることができ、オイルの粘度を早期に適正な粘度まで低下させることができる。これにより、エンジン摺動部におけるフリクションロスを早期に低減させることができる。また、小径部651bを流れるオイルの温度を過剰に上昇させることなく適正な粘度に維持することができる。これにより、エンジン摺動部の油膜切れを抑制することができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態は、分岐通路652の分岐箇所を変更した点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。なお、以下に示す各実施形態では前述した実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
【0044】
図4は、本実施形態によるオイル戻し通路65のシリンダヘッド部の詳細図である。図中の矢印は、オイルの落下方向を示す。
【0045】
図4に示すように、本実施形態では、主通路651の大径部651aの側面から分岐通路652を分岐させた。これにより、第1実施形態と同様の効果が得られるとともに、オイルの落下方向に対して分岐通路652の開口が垂直となるので、高油温時にオイルが分岐通路652に流れ込むのを抑制できる。
【0046】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0047】
例えば、分岐通路652の本数を増やしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 オイルパン
31a 燃焼室
31b 燃焼室
31c 燃焼室
65 オイル戻し通路
651 主通路
651a 大径部
651b 小径部
652 分岐通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの摺動部を潤滑するオイルをシリンダヘッド及びシリンダブロックを通してオイルパンまで流れ落とすオイル戻し通路であって、
上流側に大径部を備え、下流側に小径部を備える主通路と、
前記大径部から分岐し、前記小径部の径より大きく、前記小径部よりも高温になる部位を通る分岐通路と、
を備えること特徴とするエンジンのオイル戻し通路。
【請求項2】
前記分岐通路は、前記主通路の小径部よりも燃焼室に近い位置を通る
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンのオイル戻し通路。
【請求項3】
前記分岐通路は、前記主通路の大径部を流れ落ちるオイルの落下方向に対して略直角となるように前記主通路の大径部に開口する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンのオイル戻し通路。
【請求項4】
前記主通路は、前記シリンダヘッド内で大径部から小径部へと移行する
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1つに記載のエンジンのオイル戻し通路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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