説明

エンジンの燃料供給装置

【課題】 燃料圧力の調圧精度を確保しつつエンジン側からの受熱による燃料温度の上昇を抑制し、燃料タンク内の蒸発燃料ガスの発生量を低減する。
【解決手段】 プレッシャレギュレータ16の燃料室16aに、インジェクタ11からの燃料通路12aと、燃料ポンプ14からインジェクタ11に至る燃料供給路12から分岐した燃料通路(分岐路)12bとを連通し、燃料通路12aに電磁開閉弁17Aを介装し、燃料通路12bにオリフィス17Bを介装する。そして、エンジン回転数が完爆回転数以下の場合には、電磁開閉弁17Aを開弁させてプレッシャレギュレータ16から燃料タンク13に戻される大量のリターン燃料によって燃料配管中のベーパを迅速に排出し、エンジン回転数が完爆回転数を越えた後は、電磁開閉弁を閉弁させてエンジン1側で受熱した燃料を燃料タンク13に戻すことなく燃料圧力の調圧精度を確保し、燃料温度の上昇を抑制してエバポガスの発生量を低減する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジン側からの受熱による燃料温度の上昇を抑制するエンジンの燃料供給装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、エンジンのスロットルバルブ下流に燃料を噴射する、いわゆる吸気管燃料噴射方式の燃料噴射制御システムにおいては、燃料噴射パルス幅(インジェクタの開弁時間すなわち噴射時間)によって燃料噴射量を一義的に決定するため、燃料ポンプによって圧送した燃料をプレッシャレギュレータでスロットルバルブ下流の吸気管圧力に対して一定の圧力に調圧し、インジェクタの噴射前圧力と吸気管圧力との差圧、すなわち、インジェクタの噴射ノズル前後の差圧を吸気管圧力の変化に拘わらず一定に保つようにしている。
【0003】すなわち、従来の吸気管燃料噴射方式の燃料噴射制御システムにおいては、インジェクタの噴射ノズル前後の差圧を一定に保つことでインジェクタの噴射時間と燃料噴射量とが略比例関係になるようにしており、このため、プレッシャレギュレータには、通常、調圧用バルブを連設したダイヤフラムにより、燃料ポンプから圧送された燃料が導入される燃料室と、調圧用バルブを閉方向に付勢するスプリングを収納するとともに吸気管圧力が導入されるスプリング室とに仕切られた構成のものを採用している。
【0004】このような構成のプレッシャレギュレータにおいては、燃料ポンプから圧送されてきた燃料がダイヤフラムを押し上げる力と、スプリングの付勢力、及び、ダイヤフラムに作用する吸気管圧力による力とが釣り合って調圧用バルブが所定の開度に制御されることでデリバリパイプからの余剰燃料が燃料タンクにリターンされ、燃料圧力がインジェクタの噴射雰囲気であるスロットルバルブ下流の吸気管圧力に対して常に一定の設定圧力に保持される。
【0005】また、近年では、長い配管長を要する燃料リターン配管の廃止や構成の簡素化等により燃料供給系のコスト低減を図ったシステムの提案がなされており、このようなシステムでは、プレッシャレギュレータは、スロットルバルブ下流の吸気管圧力に対して燃料圧力を制御せずにタンク内圧あるいは大気圧を基準圧力として、この基準圧力に対して燃料圧力を一定に制御する形式のものが採用され、例えば、燃料ポンプから圧送された燃料を設定圧力でリリーフして直ちに燃料タンクにリターンする。
【0006】この燃料供給系の簡素化を図ったシステムでは、デリバリパイプでエンジン側から受熱した燃料が燃料タンク内に戻されることがないため、燃料タンク内での蒸発燃料ガス(エバポガス)の発生量を抑制することができるものの、デリバリパイプ内にベーパー等の残留ガスが存在すると、この残留ガスをリターン配管から排出することができないため、燃料噴射量が減少して空燃比リーン化を招き、始動性悪化やドライバビリティの悪化を招くといった問題がある。これに対処するため、本出願人は、先に、特開平10−77880号公報において、エンジン始動時や運転中の条件を考慮してインジェクタによるデリバリパイプ内の残留ガスのパージを実行し、始動性悪化やドライバビリティ悪化を確実に防止する技術を提案している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、タンク内燃料リターンシステムでは、燃料配管内のベーパを排出するため、従来の燃料噴射制御システムを変更して前述したような特別な制御を行わなければならず、更には、インジェクタへの燃料圧力を吸気管圧力との相対圧で制御しないため、インジェクタの燃料噴射精度を確保するためには、圧力補正が必要となる。このため、インジェクタの噴射ノズル前後の差圧を一定に保つ方式のプレッシャレギュレータを用いるシステムに比較して、より広いダイナミックレンジのインジェクタが要求され、特に、運転条件に応じて吸気管圧力が大きく変化する過給機付きエンジンでは、高出力時の要求燃料量を確保できない虞がある。
【0008】一方、インジェクタの噴射ノズル前後の差圧を一定に保つ方式のプレッシャレギュレータを用いるシステムでは、エンジン周辺の燃料配管でエンジン側からの受熱によって燃料温度が上昇し、燃料タンク内の蒸発燃料ガスの発生量が相対的に増加するという問題がある。
【0009】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、燃料圧力の調圧精度を確保しつつエンジン側からの受熱による燃料温度の上昇を抑制し、燃料タンク内の蒸発燃料ガスの発生量を低減することのできるエンジンの燃料供給装置を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、燃料タンクから燃料ポンプにより圧送された燃料をインジェクタに供給し、該インジェクタから燃料調圧手段を介して余剰燃料を上記燃料タンクに戻すエンジンの燃料供給装置において、上記燃料ポンプから上記インジェクタに至る燃料通路から分岐して上記燃料調圧手段に至る分岐路を設けると共に、上記インジェクタから上記燃料調圧手段に至る通路に開閉弁を介装し、エンジンを始動してから燃料経路中のベーパが未だ排出されていないと見做し得る期間のみ上記開閉弁を開弁させ、該期間の経過後、上記開閉弁を閉弁させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0011】請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記分岐路にオリフィスを介装したことを特徴とする。
【0012】請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、上記制御手段は、エンジンを始動してからの燃料経路中のベーパ排出を判断するパラメータとしてエンジン回転数を用い、エンジン回転数が完爆回転数以下のとき、上記開閉弁を開弁させ、エンジン回転数が完爆回転数を越えたとき、上記開閉弁を閉弁させることを特徴とする。
【0013】請求項4記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、上記制御手段は、エンジンを始動してからの燃料経路中のベーパ排出を判断するパラメータとしてエンジン始動後の経過時間を用い、エンジン始動後の経過時間がベーパが排出されたと見做し得る設定時間に達するまで上記開閉弁を開弁させ、上記設定時間を経過した後、上記開閉弁を閉弁させることを特徴とする。
【0014】すなわち、請求項1記載の発明は、燃料ポンプからインジェクタに至る燃料通路から分岐して燃料調圧手段に至る分岐路を設けると共に、インジェクタから燃料調圧手段に至る通路に開閉弁を介装し、エンジンを始動してから燃料経路中のベーパが未だ排出されていないと見做し得る期間のみ開閉弁を開弁させることにより、燃料タンクから燃料ポンプにより圧送された燃料をインジェクタに供給すると共にインジェクタから燃料調圧手段を介して余剰燃料を燃料タンクに戻し、燃料経路中のベーパを迅速に排出する。そして、エンジンを始動してから燃料経路中のベーパが未だ排出されていないと見做し得る期間が経過した後は、開閉弁を閉弁させることにより、燃料タンクから燃料ポンプによって圧送された燃料をインジェクタに供給すると共に、エンジン周辺で受熱した燃料を燃料タンクに戻すことなくインジェクタをバイパスして分岐路から燃料調圧手段を介して燃料タンクに戻し、燃料温度の上昇を抑制して燃料タンクでの蒸発燃料ガスの発生量を低減する。
【0015】その際、請求項2記載の発明のように、分岐路にはオリフィスを介装することが望ましく、開閉弁を開弁させた状態で、分岐路を流れる燃料量をオリフィスにより制限してインジェクタから燃料調圧手段を介して燃料タンクに戻る燃料量を確保する。
【0016】また、エンジンを始動してからの燃料経路中のベーパ排出を判断するパラメータとしては、請求項3記載の発明のエンジン回転数や、請求項4記載の発明のエンジン始動後の経過時間を用いることができる。エンジン回転数を用いる場合には、エンジン回転数が完爆回転数以下のとき、燃料経路中のベーパが未だ排出されていないとして開閉弁を開弁させ、エンジン回転数が完爆回転数を越えたとき、燃料経路中のベーパが排出されたと見做して開閉弁を閉弁させる。エンジン始動後の経過時間を用いる場合には、エンジン始動後の経過時間がベーパが排出されたと見做し得る設定時間に達するまで開閉弁を開弁させ、設定時間を経過した後は、燃料経路中のベーパが排出されたと見做して開閉弁を閉弁させる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図3は本発明の実施の第1形態に係わり、図1はエンジン系の全体図、図2は電子制御系の回路構成図、図3は燃料系統切換ルーチンのフローチャートである。
【0018】図1において、符号1はエンジンであり、本形態においては水平対向型4気筒ガソリンエンジンを示す。このエンジン1のシリンダブロック1aの左右両バンクには、シリンダヘッド2がそれぞれ設けられ、各シリンダヘッド2に吸気ポート2aと排気ポート2bとが形成されている。シリンダヘッド2の各吸気ポート2aにはインテークマニホルド3が連通され、このインテークマニホルド3に、各気筒の吸気通路が集合するエアチャンバ4を介して、アクセルペダルに連動するスロットル弁5aが介装されたスロットルチャンバ5が連通されている。
【0019】また、スロットルチャンバ5の上流側に吸気管6を介してエアクリーナ7が取り付けられ、エアクリーナ7がエアインテークチャンバ8に連通されている。更に、吸気管6には、スロットル弁5aをバイパスするバイパス通路9が接続され、このバイパス通路9に、アイドル時にその弁開度によって該バイパス通路9を流れるバイパス空気量を調整することでアイドル回転数を制御するアイドル回転数制御弁(ISC弁)10が介装されている。
【0020】また、インテークマニホルド3の各気筒の吸気ポート2aの直上流側に、インジェクタ11が配設され、燃料供給路12を介して燃料タンク13に連通されている。燃料タンク13には、インタンク式の燃料ポンプ14が設けられており、燃料ポンプ14からの燃料が、燃料供給路12に介装された燃料フィルタ15を経てインジェクタ11から燃料調圧手段としてのプレッシャレギュレータ16に圧送される。そして、プレッシャレギュレータ16からリターン通路12cを経て余剰燃料が燃料タンク13へリターンされ、インジェクタ11の噴射雰囲気であるスロットル弁5a下流の吸気管圧力に対して燃料圧力が一定の設定圧力に調圧される。
【0021】ここで、プレッシャレギュレータ16は、燃料ポンプ14から圧送された燃料が導入される燃料室16aと、調圧用バルブを閉方向に付勢するスプリングを収納するスプリング室16bとが調圧用バルブを連設したダイヤフラムによって仕切られ、スプリング室16bにエアチャンバ4から吸気管圧力が導入される周知のダイヤフラム式レギュレータであるが、燃料室16aへの燃料の導入経路が2系統設けられている。
【0022】すなわち、プレッシャレギュレータ16の燃料室16aには、インジェクタ11からプレッシャレギュレータ16に至る通常の燃料通路12aに加え、燃料ポンプ14からインジェクタ11に至る燃料供給路12から分岐した燃料通路(分岐路)12bが連通されている。一方の系統の燃料通路12aには開閉弁の一例として電磁開閉弁17Aが介装され、他方の系統の燃料通路12bにはオリフィス17Bが介装されている。電磁開閉弁17Aは、後述する電子制御装置40(図2参照)によって開閉制御され、燃料室16aへの燃料導入経路が切換えられる。
【0023】また、シリンダヘッド2の各気筒毎に、先端の放電電極を燃焼室に露呈する点火プラグ18が取り付けられ、この点火プラグ18に、イグナイタ19aを内蔵するイグニッションコイル19が接続されている。更に、シリンダヘッド2の各排気ポート2bに連通するエキゾーストマニホルド20の集合部に排気管21が連通され、この排気管21に触媒コンバータ22が介装されてマフラ23に連通されている。
【0024】次に、エンジン運転状態を検出するためのセンサ類について説明する。吸気管6のエアクリーナ7の直下流には、ホットワイヤ或いはホットフィルム等を用いた熱式の吸入空気量センサ24が介装され、スロットルチャンバ5に設けられたスロットル弁5aに、スロットル弁5aの開度を検出するスロットル開度センサ25aとスロットル弁5aの全閉でONするアイドルスイッチ25bとを内蔵したスロットルセンサ25が連設されている。
【0025】また、エンジン1のシリンダブロック1aにノックセンサ26が取り付けられると共に、シリンダブロック1aの左右バンクを連通する冷却水通路27に冷却水温センサ28が臨まされている。更に、触媒コンバータ22の上流にO2センサ29が配設されている。更に、エンジン1のクランクシャフト30に軸着するクランクロータ31の外周に、クランク角を検出するためのクランク角センサ32が対設され、更に、クランクシャフト30に対して1/2回転するカムシャフト33に連設するカムロータ34に、現在の燃焼行程気筒、燃料噴射対象気筒や点火対象気筒を判別するための気筒判別センサ35が対設されている。
【0026】以上のアクチュエータ類・センサ類は、エンジン1を制御する図2の電子制御装置(ECU)40に接続される。ECU40は、CPU41、ROM42、RAM43、バックアップRAM44、カウンタ・タイマ群45、及びI/Oインターフェイス46がバスラインを介して互いに接続されるマイクロコンピュータを中心として構成され、各部に安定化電源を供給する定電圧回路47、I/Oインターフェイス46に接続される駆動回路48及びA/D変換器49等の周辺回路が内蔵されている。尚、カウンタ・タイマ群45は、フリーランカウンタ、気筒判別センサ信号(気筒判別パルス)の入力計数用カウンタ等の各種カウンタ、燃料噴射用タイマ、点火用タイマ、定期割り込みを発生させるための定期割り込み用タイマ、クランク角センサ信号の入力間隔計時用タイマ、及びシステム異常監視用のウオッチドッグタイマ等の各種タイマを便宜上総称するものであり、その他、各種のソフトウエアカウンタ・タイマが用いられる。
【0027】定電圧回路47は、2回路のリレー接点を有する電源リレー50の第1のリレー接点を介してバッテリ51に接続されると共に、直接、バッテリ51に接続されており、イグニッションスイッチ52がONされて電源リレー50の接点が閉になるとECU40内の各部へ電源を供給する一方、イグニッションスイッチ52のON,OFFに拘らず、常時、バックアップRAM44にバックアップ用の電源を供給する。更に、バッテリ51には、燃料ポンプリレー53のリレー接点を介して燃料ポンプ14が接続されている。尚、電源リレー50の第2のリレー接点には、バッテリ51から各アクチュエータに電源を供給するための電源線が接続されている。
【0028】I/Oインターフェイス46の入力ポートには、イグニッションスイッチ52、スタータスイッチ54、アイドルスイッチ25b、ノックセンサ26、クランク角センサ32、気筒判別センサ35、及び、車速を検出するための車速センサ36等が接続されており、更に、A/D変換器49を介して、吸入空気量センサ24、スロットル開度センサ25a、冷却水温センサ28、及びO2センサ29等が接続されると共に、バッテリ電圧VBが入力されてモニタされる。一方、I/Oインターフェイス46の出力ポートには、電源リレー50,燃料ポンプリレー53の各リレーコイル、ISC弁10、インジェクタ11、及び、電磁開閉弁17A等が駆動回路48を介して接続されると共に、イグナイタ19aが接続されている。
【0029】CPU41では、ROM42に記憶されている制御プログラムに従って、I/0インターフェイス46を介して入力されるセンサ・スイッチ類からの検出信号、及びバッテリ電圧等を処理し、RAM43に格納される各種データ、及びバックアップRAM44に格納されている各種学習値データ,ROM42に記憶されている固定データ等に基づき、燃料噴射量、点火時期、ISC弁10に対する駆動信号のデューティ比等を演算し、燃料噴射制御、点火時期制御、アイドル回転数制御等のエンジン制御を行う。
【0030】この場合、ECU40は、エンジン始動時に燃料配管中のベーパを効果的に排出すると共に、エンジン1の運転時にエンジン1周辺の燃料配管の受熱による燃料温度の上昇を抑制して蒸発燃料ガス(エバポガス)の発生量を低減するため、電磁開閉弁17Aの開閉を制御し、プレッシャレギュレータ16の燃料室16aへの燃料導入経路を切換えている。
【0031】すなわち、エンジン1を始動してから燃料経路中のベーパが未だ排出されていないと見做し得る期間のみ、インジェクタ11からプレッシャレギュレータ16の燃料室16aに至る燃料通路12aに介装した電磁開閉弁17AをONして開弁させ、インジェクタ11からプレッシャレギュレータ16を経て燃料タンク13に戻される大量のリターン燃料によって燃料配管中のベーパを迅速に排出する。そして、前述の期間が経過した後は、電磁開閉弁17AをOFFして閉弁させ、インジェクタ11からプレッシャレギュレータ16の燃料室16aに至る燃料通路12aを遮断してエンジン1側で受熱した燃料を燃料タンク13に戻すことなく、インジェクタ11の上流側からインジェクタ11をバイパスしてプレッシャレギュレータ16の燃料室16aに燃料を送出し、スロットル弁5a下流の吸気管圧力に対して一定の設定圧力に調圧して余剰燃料を燃料タンク13内にリターンすることで、燃料圧力の調圧精度を確保しつつエバポガスの発生量を低減する。
【0032】本形態においては、エンジン1を始動してから燃料経路中のベーパが未だ排出されていないと見做し得る期間を、エンジン回転数NEをパラメータとして判断している。そして、エンジン回転数NEが完爆回転数NST以下の場合には、燃料経路中のベーパが未だ排出されていないと判断して電磁開閉弁17AをONして開弁させ、エンジン回転数NEが完爆回転数NSTを越えた後は、燃料経路中のベーパが排出されたと判断して電磁開閉弁17AをOFFして閉弁させる。
【0033】すなわち、上記ECU40は、本発明に係る制御手段の機能を有しておリ、具体的は、図3に示す燃料系統切換ルーチンにより制御手段の機能を実現する。図3は、ECU40に電源が投入されてシステムイニシャライズ後、所定周期(所定時間)毎に実行されるルーチンである。
【0034】燃料系統切換ルーチンでは、先ず、ステップS1でエンジン回転数NEが完爆回転数NST(例えば、450〜500rpm)を越えたか否かを調べる。そして、ステップS1において、NE≦NSTであり、エンジン回転数が完爆回転数を越えていない場合には、エンジンを始動してから燃料経路中のベーパ排出が完了していないと判断してステップS2へ進み、電磁開閉弁17AをONして開弁させ、ルーチンを抜ける。
【0035】この電磁開閉弁17Aの開弁により、インジェクタ11からプレッシャレギュレータ16の燃料室16aに至る一方の燃料通路12aが開通し、燃料ポンプ14によって圧送される燃料タンク13内の燃料が燃料供給路12から両バンクのインジェクタ11を経てプレッシャレギュレータ16の燃料室16aに至り、プレッシャレギュレータ16の調圧バルブから大量の余剰燃料がリターン通路12cを介して燃料タンク13へ戻される。これにより、燃料配管中に残留するベーパ、特にエンジン1上のインジェクタ11周辺の燃料配管中に残留するベーパをプレッシャレギュレータ16からの大量のリターン燃料によって排出することができ、始動性を向上することができる。
【0036】この場合、インジェクタ11の上流側で分岐してプレッシャレギュレータ16の燃料室16aに連通する他方の燃料通路12bにはオリフィス17Bが介装されているため、インジェクタ11をバイパスして燃料通路12bを通る燃料はオリフィス17Bで絞られて相対的に少量となり、大部分の燃料は、エンジン1上のインジェクタ11に連通する燃料配管から燃料通路12aを通ってプレッシャレギュレータ16の燃料室16aに送出される。
【0037】その後、エンジン回転数が完爆回転数を越えると、ステップS1でNE>NSTによりステップS3へ進み、電磁開閉弁17AをOFFして閉弁させ、ルーチンを抜ける。以後、インジェクタ11からプレッシャレギュレータ16の燃料室16aに至る一方の燃料通路12aが遮断され、燃料タンク13から燃料ポンプ14によって圧送される燃料は、燃料供給路12からインジェクタ11へ供給されると共に、インジェクタ11の上流側で分岐する他方の燃料通路12bを取ってプレッシャレギュレータ16の燃料室16aへ圧送され、プレッシャレギュレータ16で調圧されてリターン通路12cから燃料タンク13へ戻される。
【0038】すなわち、タンク内燃料リターンシステムのようにエンジン1周辺の燃料配管内の燃料が燃料タンク13内に戻されることなく、インジェクタ11上流側でインジェクタ11をバイパスして燃料タンク13内に戻されるため、エンジン1からの受熱による燃料温度の上昇を抑制することができ、燃料タンク13でのエバポガスの発生量を低減することができる。
【0039】しかも、タンク内燃料リターンシステムとは異なり、燃料配管内のベーパを排出するための特別な対策を講じなくとも燃料配管内のベーパの抜けが良く、且つ、インジェクタ11への燃料圧力を吸気管圧力との相対圧で制御できるため、特別な圧力補正等を行うことなく、運転条件に応じて吸気管圧力が大きく変化する過給機付きエンジンにおいてもインジェクタ11の流量精度を確保することができる。
【0040】図4は本発明の実施の第2形態に係わり、燃料系統切換ルーチンのフローチャートである。第2形態は、エンジン1を始動してからの燃料経路中のベーパ排出を判断するパラメータとして、エンジン始動後の経過時間を採用するものである。このため、第2形態では、第1形態の燃料系統切換ルーチン(図3参照)のベーパ排出完了を判断するステップS1を変更し、図4に示す燃料系統切換ルーチンを実行する。
【0041】すなわち、図4の燃料系統切換ルーチンでは、先ず、ステップS1’で、エンジン始動後、設定時間TIMEが経過したか否かを調べる。設定時間TIMEは、エンジン1を始動してから燃料経路中のベーパ排出が完了したと見做し得る時間であり、予めシミュレーション或いは実験等により適正値を求め、固定データとしてROM42に記憶させておくそして、エンジン始動後の経過時間が設定時間TIMEに達していない場合には、ステップS2で電磁開閉弁17AをON(開弁)してルーチンを抜け、エンジン始動後、設定時間TIMEが経過した場合、ステップS3で電磁開閉弁17AをOFF(閉弁)してルーチンを抜ける。
【0042】第2形態においても、第1形態と同様、燃料配管中に残留するベーパを迅速に排出して始動性を向上することができると共に、エンジン1からの受熱による燃料温度の上昇を抑制することができ、燃料タンク13でのエバポガスの発生量を低減することができる。
【0043】尚、本実施の形態においては、エンジン1を始動してから燃料経路中のベーパ排出を判断するパラメータとして、エンジン回転数NEを用いた例と、エンジン始動後の経過時間を用いた例とについて説明したが、双方のパラメータを用いて燃料経路中のベーパ排出を判断し、電磁開閉弁17AをON,OFFするようにしても良い。
【0044】本発明は、上述の実施の各形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、開閉弁として電磁開閉弁を用いた例につき説明したが、適宜種々の開閉弁を用いてもよいことは勿論である。
【0045】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、燃料圧力の調圧精度を確保しつつエンジン側からの受熱による燃料温度の上昇を抑制し、燃料タンク内の蒸発燃料ガスの発生量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の第1形態に係わり、エンジン系の全体図
【図2】同上、電子制御系の回路構成図
【図3】同上、燃料系統切換ルーチンのフローチャート
【図4】本発明の実施の第2形態に係わり、燃料系統切換ルーチンのフローチャート
【符号の説明】
1 エンジン
11 インジェクタ
12a 燃料通路(インジェクタから燃料調圧手段に至る通路)
12b 燃料通路(分岐路)
13 燃料タンク
14 燃料ポンプ
16 プレッシャレギュレータ(燃料調圧手段)
17A 電磁開閉弁(開閉弁)
17B オリフィス
40 電子制御装置(制御手段)
NE エンジン回転数
NST 完爆回転数
TIME 設定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃料タンクから燃料ポンプにより圧送された燃料をインジェクタに供給し、該インジェクタから燃料調圧手段を介して余剰燃料を上記燃料タンクに戻すエンジンの燃料供給装置において、上記燃料ポンプから上記インジェクタに至る燃料通路から分岐して上記燃料調圧手段に至る分岐路を設けると共に、上記インジェクタから上記燃料調圧手段に至る通路に開閉弁を介装し、エンジンを始動してから燃料経路中のベーパが未だ排出されていないと見做し得る期間のみ上記開閉弁を開弁させ、該期間の経過後、上記開閉弁を閉弁させる制御手段を備えたことを特徴とするエンジンの燃料供給装置。
【請求項2】 上記分岐路にオリフィスを介装したことを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料供給装置。
【請求項3】 上記制御手段は、エンジンを始動してからの燃料経路中のベーパ排出を判断するパラメータとしてエンジン回転数を用い、エンジン回転数が完爆回転数以下のとき、上記開閉弁を開弁させ、エンジン回転数が完爆回転数を越えたとき、上記開閉弁を閉弁させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエンジンの燃料供給装置。
【請求項4】 上記制御手段は、エンジンを始動してからの燃料経路中のベーパ排出を判断するパラメータとしてエンジン始動後の経過時間を用い、エンジン始動後の経過時間がベーパが排出されたと見做し得る設定時間に達するまで上記開閉弁を開弁させ、上記設定時間を経過した後、上記開閉弁を閉弁させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエンジンの燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2002−188539(P2002−188539A)
【公開日】平成14年7月5日(2002.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−389358(P2000−389358)
【出願日】平成12年12月21日(2000.12.21)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】