説明

エンジンの着火遅れ期間算出装置

【課題】 燃料の噴射開始から着火までの着火遅れ期間を算出するエンジンの着火遅れ期間算出装置を提供する。
【解決手段】 エンジンの燃焼室7内に燃料を噴射するインジェクタ5と、上記エンジンの振動を検出する振動検出手段17と、振動検出手段17により検出した振動信号Vaからインジェクタ5の駆動に起因する駆動振動信号Vhを検出する駆動振動検出手段18と、振動検出手段17により検出した振動信号Vaからインジェクタ5の駆動後に発生する燃料の着火に起因する着火振動信号Vlを検出する着火振動検出手段19と、駆動振動信号Vhからインジェクタ5による燃料噴射開始時期Taを検出すると共に、着火振動信号Vlから着火時期Tbを検出する噴射開始・着火時期検出手段20と、燃料噴射開始時期Taと着火時期Tbとの偏差から、燃料噴射開始時期Taから着火時期Tbまでの着火遅れ期間DTを算出する着火遅れ期間算出手段20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の噴射開始から着火までの着火遅れ期間を算出するエンジンの着火遅れ期間算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンでは燃焼室内(シリンダ内)が高温・高圧となるピストンの圧縮上死点近傍で燃料を噴射して燃焼を行うのが一般的であった。噴射された燃料は、吸入空気と混合して混合気となり、その混合気が着火して火炎が形成され、その火炎に後続の噴射燃料が供給されることにより燃焼が継続される。この燃焼方式は、燃料の噴射中に着火するものであり、本明細書中では拡散燃焼という。
【0003】
この拡散燃焼においては、燃料の噴射開始(インジェクタの駆動開始)から略一定の着火遅れ期間を経て混合気が着火するため、実際に着火したか或いは所望の着火時期(着火タイミング)に着火したかということが重要となる。従って、従来より着火時期を検出するための装置が多数提案されている(特許文献1〜4等参照)。
【0004】
これら装置においては、着火により生じる圧力や振動に基づいて着火時期を検出している。例えば着火により生じる圧力や振動は、特許文献1に記載された装置においてはグロープラグ(予熱プラグ)に設けられた燃焼圧センサにより検出され、特許文献2〜4に記載された装置においてはシリンダブロックに設けられた振動センサ(ノックセンサ)により検出される。
【0005】
【特許文献1】特開2000−186609号公報
【特許文献2】特開平9−144583号公報
【特許文献3】特開2004−108218号公報
【特許文献4】特開平10−26047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、燃料噴射時期(燃料噴射タイミング)を圧縮上死点よりも早期にして着火遅れ期間を長くし、燃料と吸入空気との混合を充分に促進させることで、大幅な燃費悪化をもたらさずにNOx及びスモークを大幅に低減できる新たな燃焼方式が提案されている。
【0007】
具体的には、圧縮上死点前の吸気行程から圧縮行程の間に燃料噴射が行われ、燃料の噴射終了から所定の予混合期間を経て着火する。この燃焼方式では、着火遅れ期間が長く、混合気が十分に希薄・均一化されるので、局所的な燃焼温度が下がり、NOx排出量が低減する。また、局所的に空気不足状態での燃焼が回避されるためスモークも抑制される。この燃焼方式は、圧縮上死点よりも早期に燃料を噴射し、燃料の噴射終了後にその燃料が着火するものであり、本明細書中では予混合燃焼という。
【0008】
このように、排気ガスの改善に有効な予混合燃焼であるが、排気ガスを良好に改善するためには着火遅れ期間、つまり燃料の噴射開始から着火までの期間を適切に制御する必要がある。着火遅れ期間を制御するためには、実際の着火遅れ期間を検出或いは算出して、その実際の着火遅れ期間が目標とする着火遅れ期間と一致するように燃料噴射時期、吸入空気量、EGR量或いは噴射圧力等を適切に制御する必要がある。しかしながら、拡散燃焼においては着火遅れ期間は常に略一定であり、その着火遅れ期間を制御する必要がないため、従来着火遅れ期間を算出することができる装置が存在しなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、燃料の噴射開始から着火までの着火遅れ期間を算出するエンジンの着火遅れ期間算出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジンの燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタと、上記エンジンの振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段により検出した振動信号から上記インジェクタの駆動に起因する駆動振動信号を検出する駆動振動検出手段と、上記振動検出手段により検出した振動信号から上記インジェクタの駆動後に発生する燃料の着火に起因する着火振動信号を検出する着火振動検出手段と、上記駆動振動信号から上記インジェクタによる燃料噴射開始時期を検出すると共に、上記着火振動信号から着火時期を検出する噴射開始・着火時期検出手段と、上記燃料噴射開始時期と上記着火時期との偏差から、上記燃料噴射開始時期から上記着火時期までの着火遅れ期間を算出する着火遅れ期間算出手段とを備えたものである。
【0011】
ここで、上記駆動振動検出手段が、上記振動検出手段により検出した振動信号から高周波振動信号のみを検出するハイパスフィルタであり、上記着火振動検出手段が、上記振動検出手段により検出した振動信号から低周波振動信号のみを検出するローパスフィルタであり、上記噴射開始・着火時期検出手段は、上記高周波振動信号に基づいて上記燃料噴射開始時期を検出すると共に、上記低周波振動信号に基づいて上記着火時期を検出しても良い。
【0012】
また、上記振動検出手段が、上記エンジンのシリンダブロック或いはシリンダヘッドに取り付けられた加速度センサであっても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃料の噴射開始から着火までの着火遅れ期間を算出するエンジンの着火遅れ期間算出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る着火遅れ期間算出装置を備えたエンジンの概略図である。
【0016】
本実施形態は車両用等のコモンレールディーゼルエンジン(以下エンジンという)に適用したものである。このエンジンは、エンジン運転状態に応じて予混合燃焼及び拡散燃焼のうちいずれかを実行するものである。例えばこのエンジンは、低負荷運転時には予混合燃焼を実行し、高負荷運転時には拡散燃焼を実行する。なお、図1では多気筒(図示例では四気筒)のエンジンが示されているが、当然単気筒のものであっても良い。
【0017】
まず、本実施形態のエンジンについて説明する。
【0018】
図中1がシリンダブロックとシリンダヘッドとから主に構成されるエンジン本体、2がエンジン本体1に接続され吸入空気が流通する吸気通路、3がエンジン本体1に接続され排気ガスが流通する排気通路である。
【0019】
エンジンに燃料を供給する燃料噴射装置4が設けられる。この燃料噴射装置4は電磁ソレノイド等の電気アクチュエータ(図示せず)により駆動されるインジェクタ5を有している。インジェクタ5はコモンレール6に接続され、そのコモンレール6に貯留された高圧燃料がインジェクタ5に常時供給される。エンジン本体1内には燃焼室7が形成され、燃焼室7内にインジェクタ5から燃料が直接噴射される。
【0020】
排気通路3には、排気ガスにより駆動されるターボチャージャ8のタービン9が接続される。吸気通路2には、タービン9により駆動されるターボチャージャ8のコンプレッサ10が接続される。タービン9よりも上流側の排気通路3には、タービン9に供給する排気ガス量を適宜調節するための排気絞り弁11が設けられる。コンプレッサ10よりも下流側の吸気通路2には、燃焼室7に供給する吸入空気量を適宜調節するための吸気絞り弁12が設けられる。排気ガスはタービン9を駆動した後、後処理装置13を通じて排出される。吸入空気はエアークリーナ14を通じて吸入された後、燃焼室7内へと供給される。
【0021】
排気ガスを燃焼室7内に還流するEGR装置31が設けられる。このEGR装置31は、吸気通路2と排気通路3とを結ぶEGR通路32と、EGR量(EGR率)を調節するためのEGR弁33と、EGR弁33の上流側にてEGRガスを冷却するEGRクーラ34とを備える。
【0022】
エンジンを電子制御するためのエンジン制御ユニット15(以下ECUという)が設けられる。ECU15は各種センサ類から実際のエンジン運転状態を検出し、このエンジン運転状態に基づいてインジェクタ5、排気絞り弁11、吸気絞り弁12及びEGR弁33等を制御する。前記センサ類としては、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転センサ16、エンジンのクランク角を検出するクランク角度センサ(図示せず)等が含まれ、これらセンサからの検出信号がECU15に入力される。
【0023】
インジェクタ5は、電気アクチュエータがONのとき開となって燃料を噴射し、電気アクチュエータがOFFのとき閉となって燃料噴射を停止する。ECU15は、エンジンの回転速度等のエンジン運転状態を示すパラメータに基づいて燃料噴射時期及び燃料噴射量等を決定し、インジェクタ5の電気アクチュエータをON/OFFする。
【0024】
次に、着火遅れ期間算出装置について図2により説明する。図2は、着火遅れ期間算出装置の概略図である。
【0025】
本実施形態の着火遅れ期間算出装置は、エンジンの振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段により検出した振動信号からインジェクタ5の駆動に起因する駆動振動信号を検出する駆動振動検出手段と、上記振動検出手段により検出した振動信号からインジェクタ5の駆動後に発生する燃料の着火に起因する着火振動信号を検出する着火振動検出手段と、上記駆動振動信号からインジェクタ5による燃料噴射開始時期を検出すると共に、上記着火振動信号から着火時期を検出する噴射開始・着火時期検出手段と、上記燃料噴射開始時期と上記着火時期との偏差から、上記燃料噴射開始時期から上記着火時期までの着火遅れ期間を算出する着火遅れ期間算出手段とを備える。
【0026】
振動検出手段はエンジン本体1のシリンダブロック或いはシリンダヘッドに取り付けられた加速度センサ17(図1参照)からなる。加速度センサ17としては圧電素子を有するノックセンサを用いることができる。このノックセンサはガソリンエンジンの制御に広く使用されているものであり、比較的安価で入手が可能である。インジェクタ5の電気アクチュエータを駆動(ON)するとインジェクタ5の駆動に起因する振動が発生し、その振動がエンジン本体1のシリンダブロック及びシリンダヘッドへと伝播する。また、噴射された燃料が燃焼室7内で着火するとその着火による急激な圧力上昇に起因する振動が発生し、その振動がエンジン本体1のシリンダブロック及びシリンダヘッドへと伝播する。従って、インジェクタ5の駆動に起因する振動と着火に起因する振動とを含むエンジン本体1の振動が加速度センサ17により振動信号Vaとして検出される。
【0027】
ここで、本発明者は、インジェクタ5の駆動に起因する振動と着火に起因する振動とが異なる周波数をそれぞれ有していることを実験により明らかにし、周波数特性の異なるフィルタを適用することによって、インジェクタ5の駆動に起因する振動と着火に起因する振動とをエンジン本体1の振動からそれぞれ抽出できることを見いだした。詳しくは、インジェクタ5の駆動に起因する振動の周波数が、着火に起因する振動の周波数に比べて高いことが分かった。
【0028】
そこで、駆動振動検出手段は加速度センサ17により検出した振動信号Vaから予め設定された所定周波数よりも高い高周波振動信号Vhのみを検出するハイパスフィルタ18(以下HPFという)からなり、着火振動検出手段は加速度センサ17により検出した振動信号Vaから予め設定された所定周波数よりも低い低周波振動信号Vlのみを検出するローパスフィルタ19(以下LPFという)からなる。HPF18及びLPF19は平行して常にフィルタリングを行う。振動信号Vaは、エイリアス及び電気的な高周波ノイズの影響を取り除くためのアンチエイリアシングフィルタ(図示せず)を介してHPF18及びLPF19に入力される。
【0029】
噴射開始・着火時期検出手段は、デジタル信号を処理するためのデジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor)20(以下DSPという)からなる。HPF18及びLPF19から出力された高周波振動信号Vh及び低周波振動信号Vlはアナログ信号である。従って、高周波振動信号Vh及び低周波振動信号VlはA/Dコンバータ21によりデジタル信号に変換された後にDSP20に入力される。DSP20は、高周波振動信号Vhをインジェクタ5の駆動に起因する駆動振動信号とし、その駆動振動信号Vhに基づいて燃料噴射開始時期Taを検出する。また、DSP20は、低周波振動信号Vlを着火に起因する着火振動信号とし、その着火振動信号Vlに基づいて着火時期Tbを検出する。
【0030】
具体的には、DSP20は、駆動振動信号Vhを二乗積分した後、その二乗積分後の駆動振動信号Viが所定の駆動開始閾値(図3(d)の符号Sa参照)を越えたときを燃料噴射開始時期Taとすると共に、着火振動信号Vlが所定の着火閾値(図3(e)の符号Sb参照)を越えたときを着火時期Tbとする。従って、DSP20は駆動振動信号Vhを二乗積分する積分機能を有する。また、DSP20には駆動開始閾値Sa及び着火閾値Sbが予め入力されている。
【0031】
着火遅れ期間算出手段は、DSP20からなる。DSP20は、燃料噴射開始時期Taと着火時期Tbとの偏差を求め、この偏差を着火遅れ期間DTとする。具体的には、DSP20は燃料噴射開始時期Taにてカウンタ信号(図3(f)の符号Wc参照)をONし、着火時期Tbにてカウンタ信号WcをOFFしてそのカウンタ信号Wcの値を読み込む。これにより実際の着火遅れ期間DTが求められる。従って、DSP20は着火遅れ期間DTを計測(カウント)するためのカウンタ機能を有している。着火遅れ期間DTはD/Aコンバータ22により電圧にスケーリングされた後、ECU15に入力される。例えば、0〜10msecの着火遅れ期間DTが0.5〜4.5Vの電圧にスケーリングされる。
【0032】
DSP20は、次の燃料噴射までの間に着火遅れ期間DTをECU15に入力する。ECU15は、入力された実際の着火遅れ期間DTが目標とする着火遅れ期間と一致するように、燃料噴射時期、吸入空気量、EGR量或いは噴射圧力等の補正制御を行う。補正制御の適用は、同一気筒の次の燃料噴射サイクルのときに行う。また、気筒毎によらない補正制御、例えば燃料性状違いによる着火時期の補正制御等は、直後に燃料噴射を行う気筒の制御に適用できる。なお、本実施形態では着火振動信号Vlから実際の着火時期Tbが検出されるため、この実際の着火時期Tbが目標とする着火時期と一致するように燃料噴射時期及び燃料噴射量等の補正制御を行うことも可能である。
【0033】
上記のHPF18、LPF19、A/Dコンバータ21、DSP20及びD/Aコンバータ22はユニット化され、このユニット23が加速度センサ17とECU15との間に接続される(図1参照)。
【0034】
ところで、本実施形態の着火遅れ期間算出装置は、エンジン本体1の各燃焼室7から加速度センサ17までの距離に応じて、燃料噴射開始時期Ta及び着火時期Tbを補正する補正手段を備える。燃料噴射開始時期Ta及び着火時期Tbを補正するのは、燃焼室7から加速度センサ17までの距離が燃焼室7毎に異なるためである。インジェクタ5の駆動に起因する振動及び着火に起因する振動の伝播速度はそれぞれ常に略一定であるので、各燃焼室7から加速度センサ17までの距離に応じた補正時間を適用する。補正手段は、ECU15からなる。
【0035】
ここで、一回噴射(メイン噴射)で予混合燃焼を行ったときのメイン噴射開始から着火までの着火遅れ期間を検出する手順を図3により説明する。図3(a)〜(f)は、駆動信号、振動信号、駆動振動信号、二乗積分後の駆動振動信号、着火振動信号及びカウンタ信号の信号波形をそれぞれ示すグラフである。
【0036】
図3(a)に示されるように、ECU15は圧縮上死点前の吸気行程から圧縮行程の間にインジェクタ5の電気アクチュエータに対して駆動信号Aを出力する。すると、図3(b)に示されるように、振動信号Vaが加速度センサ17により検出される。
【0037】
次に、図3(c)に示されるように駆動振動信号VhがHPF18により検出されると共に、図3(d)に示されるように二乗積分後の駆動振動信号ViがDSP20により演算される。一方、図3(e)に示されるように着火振動信号VlがLPF19により検出される。
【0038】
次に、図3(d)に示されるように二乗積分後の駆動振動信号Viが駆動開始閾値Saを越えたときに燃料噴射開始時期Taが検出され、図3(f)に示されるようにその燃料噴射開始時期Taにてカウンタ信号WcがONされる。一方、図3(e)に示されるように着火振動信号Vlが着火閾値Sbを越えたときに着火時期Tbが検出され、図3(f)に示されるようにその着火時期Tbにてカウンタ信号WcがOFFされる。これら燃料噴射開始時期Taと着火時期Tbとの偏差から着火遅れ期間DTが検出される。ここで、着火遅れ期間DTが検出されると、図3(d)に示されるように二乗積分後の駆動振動信号Viがクリアされる。また、駆動開始閾値Saは、二乗積分後の最大駆動振動信号Viよりも小さくなるように設定される。
【0039】
同様に、図4及び図5に示すように、二回噴射(パイロット噴射、メイン噴射)で拡散燃焼を行ったときの、パイロット噴射開始から着火までの着火遅れ期間DT(図4(f)参照)、或いは、メイン噴射開始から着火までの着火遅れ期間DT(図5(f)参照)も検出することができる。
【0040】
図4(a)及び図5(a)に示される拡散燃焼においては、ECU15は圧縮上死点近傍にて二回の駆動信号Ap、Amを出力する。このため、図4(c)及び図5(c)に示すように、HPF18により検出される駆動振動信号Vhは二回のインジェクタ5の駆動に起因する振動の成分を有することになる。この場合、図4(d)及び図5(d)に示すように、駆動開始閾値Saを燃料噴射の形態に応じて設定することで、パイロット噴射及びメイン噴射のうちのいずれかの噴射開始から着火までの着火遅れ期間DTを検出するかを決定することが可能である。
【0041】
具体的には、パイロット噴射(一回目の噴射)開始から着火までの着火遅れ期間DTを検出する際には、駆動開始閾値Saは、メイン噴射開始前における二乗積分後の最大駆動振動信号Viよりも小さくなるように設定される。また、メイン噴射開始から着火までの着火遅れ期間DTを検出する際には、駆動開始閾値Saは、メイン噴射開始前における二乗積分後の最大駆動振動信号Viよりも大きく、且つ、メイン噴射開始後における二乗積分後の最大駆動振動信号Viよりも小さくなるように設定される。このようにすることで、燃料噴射を複数回行った際に、複数回の燃料噴射のうちいずれかの燃料噴射から着火までの着火遅れ期間DTを検出するかを選択することが可能となる。
【0042】
ところで、燃料噴射開始時期Taを検出するに際して、本実施形態のようにしなくともインジェクタ5の駆動信号A(コマンドパルス)をONとしたときを燃料噴射開始時期Taとすることが考えられる。しかしながら、インジェクタ5の駆動信号Aの出力はエンジンのクランク角に基づいてECU15で演算決定されている。つまり、駆動信号AはDSP20により検出される着火時期Tbとは異なる制御系統で気筒別に計算されている。従って、コマンドパルスを用いて燃料噴射開始時期Taを演算する場合は面倒な演算となるため、本実施形態のようにした方が燃料噴射開始時期Taを容易に検出することができるので有利である。つまり、本実施形態によれば、一つの加速度センサ17の振動信号Vaに基づいて燃料噴射開始時期Taと着火時期Tbとの二つのパラメータを求めることができ、構成がシンプル且つ低コストとなる。
【0043】
以上、本実施形態の着火遅れ期間算出装置によれば、燃料の噴射開始から着火までの着火遅れ期間を高精度で検出することができる。
【0044】
本発明は以上説明した実施形態には限定はされない。
【0045】
例えば、上記の実施形態では、燃料噴射開始時期Taを二乗積分後の駆動振動信号Viが駆動振動閾値Saを越えたときとすると共に、着火時期Tbを着火振動信号Vlが着火閾値Sbを越えたときとするとしたがこれには限定はされない。例えば、駆動振動信号Vhを微分して傾きを求め、その傾きが所定値を越えたときの接線を求め、その接線が0クロスしたときを燃料噴射開始時期Taとすると共に、着火振動信号Vlを微分して傾きを求め、その傾きが所定値を越えたときの接線を求め、その接線が0クロスしたときを着火時期Tbとしても良い。この場合、上記の傾きが所定値を越えたときからデータ(駆動振動信号Vh及び着火振動信号Vl)をさかのぼって演算する必要があるので、データを所定時間だけバッファリングしておく必要がある。
【0046】
また、常に一回目の燃料噴射開始から着火までの着火遅れ期間DTのみを検出すれば良い場合、燃料噴射開始時期Taの検出は駆動振動信号Vhが駆動開始閾値Saを越えたときとしても良い。
【0047】
また、上記の実施形態では噴射開始・着火時期検出手段及び着火遅れ期間算出手段がDSP20からなるとしたが、噴射開始・着火時期検出手段及び着火遅れ期間算出手段をFPGA(Field Programmable Gate Array)等の電気回路の組合せから構成しても良い。この場合、DSP20の積分機能を積分器により行い、DSP20のカウンタ機能をフリーランニングカウンタにより行うことが考えられる。
【0048】
また、上記の実施形態では着火遅れ期間DTをD/Aコンバータ22により電圧にスケーリングした後にECU15に入力するとしたが、着火遅れ期間DTをデジタル信号のままECU15に入力しても良い。また、DSP20とECU15とをCAN(Controller Area Network)等のネットワークで接続しても良い。
【0049】
また、上記の実施形態では着火遅れ期間DTの検出はDSP20のカウンタ機能によるとしたが、DSP20が燃料噴射開始時期Taを検出したときにデジタル信号をONすると共に、着火時期Tbを検出したときにデジタル信号をOFFし、ECU15がデジタル信号のパルス幅を計測して、このパルス幅を着火遅れ期間DTとしても良い。
【0050】
また、本発明の着火遅れ期間算出装置が適用されるエンジンは予混合燃焼及び拡散燃焼の両方を行うエンジンに限らず、予混合燃焼のみ或いは拡散燃焼のみを行うエンジンであっても良い。
【0051】
さらに、本発明の着火遅れ期間算出装置が適用されるエンジンはコモンレールディーゼルエンジンに限らず、噴射ポンプ式ディーゼルエンジン等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る着火遅れ期間算出装置を備えたエンジンの概略図である。
【図2】着火遅れ期間算出装置の概略図である。
【図3】(a)〜(f)は、一回噴射で予混合燃焼を行ったときの駆動信号、振動信号、駆動振動信号、二乗積分後の駆動振動信号、着火振動信号及びカウンタ信号の信号波形をそれぞれ示すグラフである。
【図4】(a)〜(f)は、二回噴射で拡散燃焼を行ったときの駆動信号、振動信号、駆動振動信号、二乗積分後の駆動振動信号、着火振動信号及びカウンタ信号の信号波形をそれぞれ示すグラフである。
【図5】(a)〜(f)は、二回噴射で拡散燃焼を行ったときの駆動信号、振動信号、駆動振動信号、二乗積分後の駆動振動信号、着火振動信号及びカウンタ信号の信号波形をそれぞれ示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
5 インジェクタ
7 燃焼室
17 加速度センサ(振動検出手段)
18 ハイパスフィルタ(駆動振動検出手段)
19 ローパスフィルタ(着火振動検出手段)
20 デジタルシグナルプロセッサ(噴射開始・着火時期検出手段、着火遅れ期間算出手段)
DT 着火遅れ期間
Va 振動信号
Vh 駆動振動信号(高周波振動信号)
Vl 着火振動信号(低周波振動信号)
Ta 燃料噴射開始時期
Tb 着火時期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタと、上記エンジンの振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段により検出した振動信号から上記インジェクタの駆動に起因する駆動振動信号を検出する駆動振動検出手段と、上記振動検出手段により検出した振動信号から上記インジェクタの駆動後に発生する燃料の着火に起因する着火振動信号を検出する着火振動検出手段と、上記駆動振動信号から上記インジェクタによる燃料噴射開始時期を検出すると共に、上記着火振動信号から着火時期を検出する噴射開始・着火時期検出手段と、上記燃料噴射開始時期と上記着火時期との偏差から、上記燃料噴射開始時期から上記着火時期までの着火遅れ期間を算出する着火遅れ期間算出手段とを備えたことを特徴とするエンジンの着火遅れ期間算出装置。
【請求項2】
上記駆動振動検出手段が、上記振動検出手段により検出した振動信号から高周波振動信号のみを検出するハイパスフィルタであり、上記着火振動検出手段が、上記振動検出手段により検出した振動信号から低周波振動信号のみを検出するローパスフィルタであり、上記噴射開始・着火時期検出手段は、上記高周波振動信号に基づいて上記燃料噴射開始時期を検出すると共に、上記低周波振動信号に基づいて上記着火時期を検出する請求項1記載のエンジンの着火遅れ期間算出装置。
【請求項3】
上記振動検出手段が、上記エンジンのシリンダブロック或いはシリンダヘッドに取り付けられた加速度センサである請求項1又は2記載のエンジンの着火遅れ期間算出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−152944(P2006−152944A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345581(P2004−345581)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】