説明

エンジンアッシのアンバランス測定方法及びアンバランス測定装置

【課題】エンジンアッシのアンバランス測定に際し、簡易な構成により、エンジンアッシの内部の温度状況や測定中における温度変化にかかわらず、精度良く正確な測定を行うことができ、エンジンアッシの状態や環境に応じたアンバランスの測定を行うことができるエンジンアッシのアンバランス測定方法を提供すること。
【解決手段】振動架台2上に載置したエンジンアッシ1を所定の回転数で回転させることによりエンジンアッシ1に生じる振動を振動ピックアップ3によって検出し、検出した振動を用いて、予め導出され設定されるアンバランスと振動との関係式に基づいてアンバランスを測定する方法において、前記関係式を、エンジンアッシ1のオイル温度毎に導出し、これら関係式を各オイル温度に対応させて設定する一方、前記振動の検出にともない、エンジンアッシ1のオイル温度を検出し、検出したオイル温度に対応する関係式に基づいてアンバランスを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンアッシのアンバランス測定方法及びアンバランス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両における振動の低減や静粛性の向上等を目的として、タイヤやエンジンのクランク軸等の回転体となる部品のアンバランスの測定が行われている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、前記のような回転体が駆動装置等により回転され、これにより発生する振動が検出され、この振動に基づいてアンバランスが測定される。そして、前記回転体について測定されたアンバランスに基づいて、それが打ち消されるように、回転体の所定の位置に対して錘(ウエイト)が取り付けられられたり切削や研削が行われたりすることで、回転体の所定の部位の重量が増加または減少され、アンバランスの修正が行われる。
そして近年、エンジンのバランス精度をより高める等の観点から、エンジンアッシのアンバランスの測定及び修正が行われている。エンジンアッシとは、エンジンの組立ラインにおいて、少なくとも主要な部分が組み立てられた組立完了状態のエンジンであり、エンジンを構成するクランク軸等の個々の部品のアンバランス修正に加え、その組立完了状態でのアンバランスの測定及び修正が行われることにより、エンジン全体としてのアンバランスが低減される。かかるエンジンアッシのアンバランスの低減は、車両1次振動を抑制する上で重要である。
【0003】
エンジンアッシのアンバランスの測定及び修正は、概略的には次のようにして行われる。
アンバランスの測定及び修正が行われる装置構成としては、振動検出手段を有する振動架台上に載置されたエンジンアッシに対し、そのクランク軸にモータ等の回転駆動装置が外部から連結され、この回転駆動装置により、エンジンアッシ(のクランク軸)が回転される。
測定及び修正対象であるアンバランスは、その変化量が、エンジンアッシを回転させたときの振動の変化量との関係から導かれる。つまり、エンジンアッシにおけるアンバランスと振動との間には、所定の関係式が成り立つ。そこで、あるエンジンアッシが用いられ、既知のアンバランスの変化量に対する振動の変化量が測定されることにより、その装置におけるエンジンアッシのアンバランスと振動との関係(関係式における係数の値)が予め求められる。
【0004】
そして、アンバランスの測定及び修正が行われるエンジンアッシの回転にともなう振動が前記振動検出手段により検出され、その振動の値から、予め求められた関係式によってアンバランスが算出されることで、エンジンアッシのアンバランスの測定が行われる。この測定されたアンバランスの値に基づき、エンジンアッシのアンバランスの修正が行われる。
すなわち、測定されたアンバランスが打ち消されるように、クランク軸の所定の部位、例えばシリンダブロックから突出するクランク軸の端部に取り付けられるプーリの所定の部位の重量が増加または減少されることにより、エンジンアッシのアンバランスの修正が行われる。
【特許文献1】特許第3063503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のようなアンバランスの測定対象であるエンジンアッシにおいては、そのクランク軸(回転軸)の周りに、焼付き防止や潤滑を目的としてエンジンオイル(以下単に「オイル」という。)が存在する。この点、アンバランスの測定対象が、例えばクランク軸単品等のように、その回転が直に受けられる回転体の場合と異なる。
すなわち、クランク軸が組み付けられているエンジンアッシにおいては、図10に示すように、クランク軸111における主軸部(ジャーナル部)は、シリンダブロック及び軸受キャップ等により形成される軸受ハウジングに軸受メタル112を介して支承される。軸受メタル112は、一般的にはそれぞれ半月形状のアッパーメタル112aとロアメタル112bとにより上下二分割構成され、軸受メタル112の内側にはオイル溝113が形成される。このオイル溝113内においてオイル膜(潤滑油膜)114が形成されることにより、クランク軸111と軸受メタル112との間にオイルが介在し、クランク軸111の周りにオイルが存在することとなる。
【0006】
このようにクランク軸の周りに介在するオイルは、エンジンアッシの内部温度(オイル温度)によって粘性等の性質が変化する。このため、アンバランスの測定結果が、エンジンアッシの内部温度の影響を受け、その正確性を欠く場合がある。
すなわち、エンジンアッシのアンバランスは、前述のように、予め求められた、振動とアンバランスとの関係式に基づき、エンジンアッシの回転にともなう振動が検出されて測定されるところ、温度変化によるオイルの粘性の変化等により、クランク軸の回転数や軸心位置の変動が生じ、これにともない検出される振動も変動する。この結果、アンバランスの測定結果が変化することとなる。つまり、アンバランス測定中等の温度状況の違いにより、エンジンアッシのアンバランス測定の中心軸となるクランク軸について一定の回転が得られないこととなり、このことは測定誤差の原因となる。
【0007】
ここで、前記のようなエンジンアッシの内部温度の変化にともなう不具合を解消する方法として、エンジンアッシの内部温度を、本来測定したい温度(例えば、エンジンが搭載される車両の暖機状態である約90℃)として一定に保った状態でアンバランスの測定を行うことが考えられる。
しかし、このような方法を用いることは、エンジンの生産ラインが実施されるエンジン工場内におけるエンジンアッシのアンバランスの測定に際し、安全性確保等の観点から好ましくない。また、ライン工程上も困難となる。すなわち、エンジンアッシの内部温度を、例えば本来測定したい温度として車両の暖機状態の温度(約90℃)に合わせようとした場合、エンジンの生産ラインにおいて、エンジンアッシのアンバランスが測定される工程の前に、エンジンアッシの内部を所望の温度まで上昇させる暖機工程や、その暖機に際し用いられる装置に対してエンジンアッシを移動させる搬送工程等が追加されることとなる。このため、ライン運用上の制限が発生し、エンジンの生産性が著しく低下したり、エンジンアッシの温度を調整するための加熱部や冷却部等を備える装置が別途必要となったりすると考えられる。
一方、前記のようなエンジンアッシの内部温度の変化にともなう不具合を解消する方法としては、クランク軸周りのオイルを除去することも考えられるが、エンジンの構造上、クランク軸周りにオイルが介在することによる機能を確保するためには、オイルを除去することは困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、エンジンアッシのアンバランス測定に際し、簡易な構成により、エンジンアッシの内部の温度状況や測定中における温度変化にかかわらず、精度良く正確な測定を行うことができ、エンジンアッシの状態や環境に応じたアンバランスの測定を行うことができるエンジンアッシのアンバランス測定方法及びアンバランス測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
すなわち、請求項1においては、振動検出手段を有する振動架台上に載置したエンジンアッシを所定の回転数で回転させることにより該エンジンアッシに生じる振動を前記振動検出手段によって検出し、検出した振動を用いて、予め導出され設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式に基づいてエンジンアッシのアンバランスを測定するエンジンアッシのアンバランス測定方法であって、前記関係式を、エンジンアッシのオイル温度毎に導出し、これら関係式を各オイル温度に対応させて設定する一方、前記振動検出手段による振動の検出にともない、エンジンアッシのオイル温度を検出し、検出したオイル温度に対応する前記関係式に基づいてエンジンアッシのアンバランスを測定するものである。
【0011】
請求項2においては、振動検出手段を有する振動架台上に載置したエンジンアッシを所定の回転数で回転させることにより該エンジンアッシに生じる振動を前記振動検出手段によって検出し、検出した振動を用いて、予め導出され設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式からエンジンアッシのアンバランスを測定するエンジンアッシのアンバランス測定方法であって、エンジンアッシにおけるオイル温度の変化量に対応するアンバランス量の変化量であるアンバランス乖離量を、複数の任意の温度変化量毎に予め設定する一方、エンジンアッシのオイル温度を検出し、検出したオイル温度の前記関係式導出時のエンジンアッシのオイル温度に対する温度変化量を算出し、算出した温度変化量に対応する前記アンバランス乖離量を用いて、測定したアンバランスまたは該アンバランスの許容範囲を定める規格を補正するものである。
【0012】
請求項3においては、エンジンアッシを載置する振動架台と、前記振動架台に設けられエンジンアッシに生じる振動を検出する振動検出手段と、エンジンアッシに連結されエンジンアッシを所定の回転数で回転させる回転駆動手段と、エンジンアッシに設けられる温度検出手段からの検出値に基づいてそのエンジンアッシのオイル温度を測定する温度測定手段と、エンジンアッシのオイル温度毎に導出され各オイル温度に対応して予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式を、前記温度測定手段により測定されるオイル温度に対応して選出するとともに、その選出した関係式に基づいて、前記振動検出手段によって検出される振動を用いてエンジンアッシのアンバランスを測定するアンバランス測定手段と、を備えるものである。
【0013】
請求項4においては、エンジンアッシを載置する振動架台と、前記振動架台に設けられエンジンアッシに生じる振動を検出する振動検出手段と、エンジンアッシに連結されエンジンアッシを所定の回転数で回転させる回転駆動手段と、エンジンアッシに設けられる温度検出手段からの検出値に基づいてそのエンジンアッシのオイル温度を測定する温度測定手段と、前記振動検出手段によって検出される振動を用いて、予め導出され設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式からエンジンアッシのアンバランスを測定するアンバランス測定手段と、複数の任意の温度変化量毎に予め設定される、エンジンアッシにおけるオイル温度の変化量に対応するアンバランス量の変化量であるアンバランス乖離量を、前記温度測定手段により測定される温度の前記関係式導出時のエンジンアッシのオイル温度に対する温度変化量に対応して選出するとともに、その選出したアンバランス乖離量を用いて、前記アンバランス測定手段により測定されたアンバランスまたは該アンバランスの許容範囲を定める規格を補正する補正手段と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、エンジンアッシのアンバランス測定に際し、簡易な構成により、エンジンアッシの内部の温度状況や測定中における温度変化にかかわらず、精度良く正確な測定を行うことができ、エンジンアッシの状態や環境に応じたアンバランスの測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、第一実施形態について説明する。
本実施形態に係るエンジンアッシのアンバランス測定装置(以下、単に「アンバランス測定装置」という。)の構成について、図1及び図2を用いて説明する。
本実施形態に係るアンバランス測定装置は、例えばエンジンの組立ラインの最終工程付近において、エンジンアッシ1のアンバランスを測定し、そのアンバランスを修正するために用いられるものであり、エンジンアッシ1を載置する振動架台2と、振動架台2に設けられエンジンアッシ1に生じる振動を検出する振動検出手段としての振動ピックアップ3と、エンジンアッシ1のクランク軸11に連結されエンジンアッシ1を所定の回転数で回転させる回転駆動手段としてのモータ(サーボモータ)4とを備える。
【0016】
アンバランス測定装置におけるアンバランスの測定及び修正の対象となるエンジンアッシ1は、エンジンの組立ラインにおいて、少なくとも主要な部分が組み立てられた組立完了状態のエンジンであり、エンジン本体10を構成するシリンダブロック内を貫通するとともに両端部がシリンダブロックから突出した状態で回転可能に支持されるクランク軸11を有する。
以下の説明においては、クランク軸11の回転軸線となる軸芯線C1の方向(図1における左右方向)をエンジンアッシ1の前後方向とし、図1における右をアンバランス測定装置における「前」、同じく図1における左を「後」とする。
【0017】
クランク軸11の、シリンダブロックから突出する前端部(図1における右端部)には、フロントプーリ12が固設される。フロントプーリ12には、エンジンに組み付けられるラジエータファンや発電機等の補機類に動力を伝達するためのベルトが、他の補機用プーリ等とともに巻回される。
また、クランク軸11の、シリンダブロックから突出する後端部(図1における左端部)には、ドライブプレート13が固設される。ドライブプレート13は、エンジンの回転動力をトランスミッションに伝達するための板状の部材である。図2に示すように、ドライブプレート13は、クランク軸11の後端部に軸支される取付板14に対して、ボルト等の締結具15が用いられて固定されることによりクランク軸11に対して固設される。
【0018】
振動架台2は、ベース(台座)5上の所定の高さ位置において、後端部がステー16に支持されるとともに、複数の(図1では二箇所図示)弾性支持部材としての振動バネ17・17・・・により振動可能に支持される。振動バネ17は、振動架台2上のエンジンアッシ1が回転することで発生する振動を減衰させる。本実施形態では、振動バネ17は、振動架台2上に載置されるエンジンアッシ1の前端部と後端部に対応する位置に配設されている。
また、振動架台2とベース5との間には、一または複数(本実施形態では二つ)のクランプ機構18が介装される。クランプ機構18は、振動バネ17による振動架台2の弾性支持をオン・オフするためのものである。すなわち、クランプ機構18は、振動架台2に対するエンジンアッシ1の搭載作業時等は、伸長すること等によって振動架台2を安定させるためその荷重を受けて振動架台2をクランプした状態で支持し、振動バネ17による振動架台2の弾性支持をオフとし、エンジンアッシ1のアンバランスが測定される際等は、収縮すること等によって振動架台2からの荷重を受けることなく振動バネ17による振動架台2の弾性支持をオンとする。
【0019】
エンジンアッシ1は、振動架台2上において複数の(図1では二箇所図示)支持部材19を介して載置固定される。支持部材19は、適宜シリンダ機構等により構成され、エンジンアッシ1の振動架台2上における高さ位置を調整可能にエンジンアッシ1を支持する。
また、振動架台2は、エンジンアッシ1の振動を検出するための振動ピックアップ3を有する。振動ピックアップ3は、例えば加速度センサ等により構成され、振動架台2において、その上に載置されるエンジンアッシ1の前後両端部付近に対応する位置にそれぞれ配設(内蔵)され、エンジンアッシ1のアンバランス測定の際におけるエンジンアッシ1の両端部(フロント部及びリア部)の振動を、振動架台2を介して検出(ピックアップ)できるように構成される。
【0020】
モータ4は、ベース5上において、振動架台2上に載置されるエンジンアッシ1の後方に載置支持され、その図示せぬ出力軸(駆動軸)が駆動装置20を介してエンジンアッシ1のクランク軸11に連結される。
駆動装置20は、その略筒状のハウジング22内に貫通支持される駆動軸21を有し、この駆動軸21がモータ4の出力軸と同心配置され連結された状態で設けられる。駆動装置20は、モータ4の回転数を所定の回転数に減速するとともに所定のトルクを得るための減速機(図示略)を備え、この減速機を介してモータ4の出力軸の回転駆動力を駆動軸21に受ける。
【0021】
駆動装置20は、そのハウジング22が、モータ4の振動架台2側の端面に固設されるとともにベース5上に立設される支持柱24や、この支持柱24とモータ4との間に架設される補強ステー24aや、振動架台2上に立設される支持部材25等の適宜配設される支持部材によって支持されることで、所定の姿勢で支持される。
駆動装置20の駆動軸21は、その軸芯線C2方向であってエンジンアッシ1が載置される側(モータ4と反対側)に延設されハウジング22外へと延出される。駆動軸21の延出側端部には、円板状の回り止め部材であるケレー26が固設される。また、駆動軸21は、ハウジング22に対して軸心線C2方向に移動可能に構成される。
【0022】
駆動装置20の駆動軸21のクランク軸11に対する連結は、次のような構成により行われる。
すなわち、図2に示すように、前記のとおりランク軸11の端部に設けられるドライブプレート13は、クランク軸11に軸支される取付板14に対して複数の締結具15により固定される。締結具15は、クランク軸11の軸心方向視で軸芯線C1を中心とする円状に等角度間隔で複数配設される。一方、駆動軸21の端部に取り付けられるケレー26側には、各締結具15に対応してその頭部15aが嵌合可能な孔部26aが形成されている。また、ケレー26における駆動軸21の先端側の面の中央部には突起部26bが形成される一方、クランク軸11の先端面の中央部には、前記突起部26bがインロー嵌合可能な凹部11aが形成されている。
かかる構成により、クランク軸11の軸芯線C1と駆動軸21の軸芯線C2とが一致している状態で、振動架台2上に載置されたエンジンアッシ1のクランク軸11に対して駆動装置20の駆動軸21が近接移動することにより、ケレー26の各孔部26aに各締結具15の頭部15aがそれぞれ嵌合するとともに、ケレー26の突起部26bがクランク軸11の凹部11aに嵌合することにより、駆動軸21とクランク軸11とが相対回転不能に連結される。なお、駆動装置20の駆動軸21とクランク軸11との連結に際しては、振動架台2がベース5上にて駆動装置20に対してキャスター等により水平方向に移動可能に構成されることにより、エンジンアッシ1側が駆動装置20側に移動する構成(クランク軸11が駆動軸21に対して近接移動する構成)であってもよい。
【0023】
このような構成を備えるアンバランス測定装置において、アンバランスの測定及び修正の対象であるエンジンアッシ1が、振動架台2上に載置されるとともに、クランク軸11の軸芯線C1が駆動装置20の駆動軸21の軸芯線C2と一致するようにセットされ、前記のとおり駆動軸21とクランク軸11とが連結され、モータ4の回転駆動によりエンジンアッシ1が所定の回転数(例えば、1600rpm)で回転される。
そして、エンジンアッシ1のアンバランスの測定及び修正が行われる。
【0024】
エンジンアッシ1のアンバランスの測定及び修正は、次のようにして行われる。すなわち、振動架台2上に載置されたエンジンアッシ1が所定の回転数で回転されることによりこのエンジンアッシ1に生じる振動が振動ピックアップ3によって検出され、検出された振動が用いられて、予め算出され設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係(関係式)に基づいてエンジンアッシ1のアンバランスが測定される。
そして、測定されたアンバランスに基づきエンジンアッシ1のクランク軸11における修正狙い位置が算出され、エンジンアッシ1の回転が停止された後、前記修正狙い位置に相当する部位の重量が増加あるいは減少されることにより、エンジンアッシ1のアンバランスが修正される。
【0025】
かかるアンバランスの測定及び修正に際しての演算制御は、図3に示す構成により行われる。図3に示すように、本実施形態に係るアンバランス測定装置は、エンジンアッシ1のアンバランスの測定及び修正を行うための演算制御装置30を備える。
演算制御装置30は、振動ピックアップ3によって検出される振動を用いて、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係からエンジンアッシ1のアンバランスを測定するアンバランス測定部31と、このアンバランス測定部31により測定されたアンバランスに基づき、エンジンアッシ1回転停止後にクランク軸11における重量が増加または減少される部位に相当する修正狙い位置を算出する修正狙い位置算出部32とを備える。つまり、本実施形態では、演算制御装置30が、アンバランス測定手段及び修正狙い位置算出手段として機能する。また、演算制御装置30は、モータ4の駆動を制御する駆動制御部33を備える。
【0026】
アンバランス測定部31は、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係を一定の関係式として記憶する。すなわち、アンバランスの測定に際しては、予め前記関係式を導出するためのマスタリング(校正)が行われる。具体的には、ある一つのエンジンアッシが用いられ、このエンジンアッシについて既知のアンバランスの変化量に対する振動の変化量が、振動ピックアップ3が用いられて測定されることにより、その装置におけるエンジンアッシのアンバランスと振動との関係式(関係式における係数の値)が予め求められる。このマスタリングにより導出された関係式が、アンバランス測定部31に予め設定され記憶される。
アンバランス測定部31は、振動ピックアップ3により検出されるエンジンアッシ1の振動に基づき、エンジンアッシ1のアンバランスを予め設定される前記関係式から測定する。振動ピックアップ3により検出されるエンジンアッシ1の振動(検出値)は、アンプ等を介してアンバランス測定部31に入力される。
【0027】
ここで、エンジンアッシ1のアンバランスは、一般的には、エンジンアッシ1のクランク軸11の軸心方向視での軸芯線C1からのベクトル(アンバランスベクトル)により表され、そのアンバランスベクトルによりアンバランスの量と角度(方向)が表される。つまり、アンバランス測定部31により測定されるエンジンアッシ1のアンバランスはアンバランスベクトルとして表される。
【0028】
修正狙い位置算出部32により算出される修正狙い位置は、前記のとおりエンジンアッシ1のクランク軸11における重量が増加または減少される部位に相当し、本実施形態においては、修正狙い位置は、クランク軸11に固設されるフロントプーリ12における所定の位置となる。
そして、本実施形態では、フロントプーリ12の修正狙い位置に錘が取り付けられることによりクランク軸11における所定の部位の重量が増加され、エンジンアッシ1のアンバランスが修正される。修正狙い位置に対しては、図示せぬマーキング装置等により所定のマーキングが施される。
【0029】
また、本実施形態では、フロントプーリ12の修正狙い位置に錘が取り付けられてクランク軸11の所定の部位の重量が増加されることにより、エンジンアッシ1のアンバランスが修正されるが、クランク軸11の所定の部位の重量が減少されることでアンバランスの修正が行われてもよい。この場合、修正狙い位置は、その位置に相当する部位の重量が減少されることにより、アンバランス測定部31により測定されたアンバランスベクトルが打ち消されるように算出される。そして、重量の減少は、フロントプーリ12の修正狙い位置に相当する部位が切削または研削されること等により行われる。
【0030】
ところで、エンジンアッシ1のアンバランスとエンジン1に生じる振動との間には、一般的に次式の関係が成り立つ。
【0031】
【数1】

【0032】
数1に示す式が、エンジンアッシ1のアンバランスとエンジンアッシ1に生じる振動との関係式である。数1の式において、UB、UBはそれぞれアンバランスベクトルであり、UBはエンジンアッシ1のフロント部におけるアンバランス、UBは同じくリア部のアンバランスをそれぞれ表す。
【0033】
、Vは、振動ピックアップ3により検出される振動ベクトルであり、Vはエンジンアッシ1のフロント部における振動、Vは同じくリア部における振動をそれぞれ表す。つまり、エンジンアッシ1のアンバランスの測定に際して用いられる、振動ピックアップ3により検出される振動は、アンバランスベクトルと同様、エンジンアッシ1のクランク軸11の軸心方向視での軸芯線C1からのベクトルにより表され、その振動ベクトルにより振動の量と角度(方向)が表される。
ここで、エンジンアッシ1のフロント部の振動は、エンジンアッシ1のフロント部に対応する振動ピックアップ3fにより検出され、同じくリア部の振動は、エンジンアッシ1のリア部に対応する振動ピックアップ3rにより検出される(図1参照)。
【0034】
また、係数θ、θ、θ、θは、振動がアンバランスに与える影響を表す影響係数である。つまり、θはフロント部の振動(V)がフロント部のアンバランス(UB)に与える影響に係り、θはリア部の振動(V)がフロント部のアンバランス(UB)に与える影響に係り、θはフロント部の振動(V)がリア部のアンバランス(UB)に与える影響に係り、θはリア部の振動(V)がリア部のアンバランス(UB)に与える影響に係る。
このように、エンジンアッシ1におけるフロント部及びリア部のアンバランスは、それぞれフロント部及びリア部の振動の影響を受ける。言い換えると、フロント部及びリア部の振動は、それぞれエンジンアッシ1におけるフロント部及びリア部のアンバランスの影響を受ける。
【0035】
そして、前述したマスタリングにおいて、エンジンアッシ1のアンバランスとエンジンアッシ1に生じる振動との関係式を導出することは、数1の式における影響係数を導出することに対応する。
影響係数は、振動架台2の構成やフロント部とリア部の振動ピックアップ3(3f・3r)の相対位置やエンジンアッシ1におけるクランク軸11の回転や質量分布等により定まる。したがって、共通のアンバランス測定装置が用いられる場合、エンジンアッシ1におけるクランク軸11の回転等が変化することで影響係数が変動することとなる。かかる影響係数の変動の主な原因として、図10を用いて説明したようにクランク軸の周りにおいて軸受メタルとの間に介在するオイルの温度変化による粘性等の変化にともなって、クランク軸の回転数や軸心位置が変動することがある。
【0036】
そこで、本実施形態に係るアンバランス測定装置においては、次のような構成が備えられる。
すなわち、前述した演算制御装置30において、エンジンアッシ1に設けられる温度検出手段としてのオイル温度センサ37からの検出値に基づいてそのエンジンアッシ1のオイル温度を測定する温度測定部38が備えられる。つまり、本実施形態では、演算制御装置30が、温度測定手段として機能する。
そして、前述したアンバランス測定部31は、エンジンアッシ1のオイル温度毎に導出され各オイル温度に対応して予め設定されるエンジンアッシ1のアンバランスとエンジンアッシ1に生じる振動との関係式を、温度測定部38により測定されるオイル温度に対応して選出するとともに、その選出した関係式に基づいて、振動ピックアップ3によって検出される振動を用いてエンジンアッシ1のアンバランスを測定する。
【0037】
このように、本実施形態では、エンジンアッシ1のアンバランスの測定に際し、エンジンアッシ1のオイル温度によって変化することとなる、マスタリングにより予め導出して設定する前記関係式をオイル温度毎に導出する。そして、アンバランス測定時において、エンジンアッシ1のオイル温度を測定し、そのオイル温度に応じた関係式を用いてアンバランスを測定する。
すなわち、エンジンアッシ1のアンバランスとエンジンアッシ1に生じる振動との関係式を、エンジンアッシ1のオイル温度毎に導出し、これら関係式を各オイル温度に対応させて設定する一方、振動ピックアップ3による振動の検出にともない、エンジンアッシ1のオイル温度を検出し、検出したオイル温度に対応する前記関係式に基づいてエンジンアッシ1のアンバランスを測定する。
【0038】
オイル温度センサ37は、エンジンアッシ1における所定の位置、例えばエンジン本体10を構成するシリンダブロックやオイルパン等の所定の位置に設けられる。
オイル温度センサ37は、その設けられる位置は特に限定されないが、具体的には、例えば、オイルレベルゲージに併設されることでエンジンアッシ1内を循環するオイルの温度を直接検出するように設けられたり、あるいはオイルパンの金属表面温度等のオイル近傍の温度を検出することで間接的にオイル温度を検出するように設けられたりする。
【0039】
前記のとおりクランク軸11の周りに介在するオイルは、エンジン本体10のオイルパンからオイルポンプ等によってシリンダブロックに形成される潤滑油路等を通じて供給され、エンジン本体10内を循環する。このため、オイル温度センサ37によりエンジン本体10内を循環するオイル温度を検出することで、クランク軸11の周りに介在するオイルの温度変化を検出することができる。
なお、オイル温度センサ37が設けられる位置は、クランク軸11の周りに介在するオイルの温度が反映される部分のオイル温度が直接的あるいは間接的に測定できる位置であれば特に限定されない。
【0040】
温度測定部38は、オイル温度センサ37からの検出値を認識し、エンジンアッシ1のオイル温度として測定する。つまりオイル温度センサ37により検出されるエンジンアッシ1のオイル温度(検出値)は、温度測定部38に入力される。温度測定部38により測定されたオイル温度は、アンバランス測定部31に送られる。
なお、本実施形態では、温度測定部38は、アンバランス測定部31等が備えられる演算制御装置30に具備される構成であるが、これに限定されず、例えば、市販のパソコンやワークステーション等が用いられることで、演算制御装置30とは独立した装置により温度測定手段が構成されてもよい。
【0041】
アンバランス測定部31においては、前記のとおりエンジンアッシ1のアンバランスとエンジンアッシ1に生じる振動との関係式が予め設定され記憶される。この関係式が、エンジンアッシ1のオイル温度毎に算出され、各オイル温度に対応して予め複数の関係式が設定される。すなわち、マスタリングの際に、各オイル温度毎に対応する影響係数が算出され、これらの影響係数が、各オイル温度に対応する複数の影響係数パターンとして記憶される。
この際、「オイル温度毎」とは、特に限定するものではないが、例えば、影響係数を、オイル温度について0.5℃毎や1℃毎等のように比較的小さい温度範囲毎に算出したり、5℃毎や10℃毎等のように比較的大きい温度範囲毎に算出したりすることが考えられる。
【0042】
そして、アンバランス測定部31は、予め設定された各オイル温度に対応する複数の関係式(影響係数パターン)から、その測定されたオイル温度に対応する関係式を選出し、選出した関係式に基づいて、振動ピックアップ3によって検出される振動を用いてエンジンアッシ1のアンバランスを測定する。
【0043】
本実施形態に係るアンバランスの測定方法について、その測定結果に基づくアンバランスの修正も含めて図4に示すフロー図を用いて説明する。
まず、振動架台2上に載置されたエンジンアッシ1がモータ4によって所定の回転数で回転される(ステップ(以下「S」と略す)100)。
エンジンアッシ1が回転する状態で、振動ピックアップ3から検出される振動に基づいて振動が測定されるとともに、オイル温度センサ37から検出される温度に基づいてエンジンアッシ1のオイル温度が測定される(S110)。
【0044】
そして、測定されたエンジンアッシ1のオイル温度に対応する影響係数(パターン)が選出される(S120)。つまりここでは、前述したように、オイル温度毎に導出された複数の影響係数から、アンバランス測定時におけるエンジンアッシ1のオイル温度に応じた影響係数が選出される。
この選出された影響係数に基づき、振動ピックアップ3により検出された振動が用いられてエンジンアッシ1のアンバランスが測定される(S130)。
【0045】
続いて、エンジンアッシ1について測定されたアンバランスが、演算制御装置30において予め設定される出荷規格に基づく許容範囲にあるか否かが判断される(S140)。
ここで、測定されたアンバランスが許容範囲にあると判断された場合、つまり測定されたアンバランス量が出荷規格のアンバランス量よりも小さい場合は、OK判定となり、そのエンジンアッシ1は出荷規格に適合するとしてそのまま出荷される。
一方、測定されたアンバランスが許容範囲にあると判断されなかった場合、つまり測定されたアンバランス量が出荷規格のアンバランス量よりも大きい場合は、NG判定となり、そのエンジンアッシ1についてアンバランスの修正が行われる(S150)。つまり、エンジンアッシ1の回転が停止された後、測定されたアンバランスに基づき算出されるフロントプーリ12の修正狙い位置に錘が取り付けられることにより、クランク軸11における所定の部位の重量が増加され、エンジンアッシ1のアンバランスが修正される。
そして、再度S100に戻り、エンジンアッシ1が回転され、前記と同様にアンバランスの測定が行われる。
【0046】
以上のようなエンジンアッシ1についてのアンバランスの測定方法を用いることにより、エンジンアッシのアンバランス測定に際し、簡易な構成により、エンジンアッシの内部の温度状況や測定中における温度変化にかかわらず、精度良く正確な測定を行うことができ、エンジンアッシの状態や環境に応じたアンバランスの測定を行うことができる。
【0047】
すなわち、マスタリング時において導出する前記関係式(影響係数)は、エンジンアッシのオイル温度が異なることによる影響を受けて変動するものであるため、マスタリング時においてある温度状況の下で導出した影響係数のみに基づいてアンバランスを測定することとすると、エンジンアッシの内部の温度状況(オイル温度)やその測定中における温度変化によって、アンバランス測定時のオイル温度がマスタリング時のオイル温度と異なることにより、その用いられる影響係数がオイル温度に対応しないものとなる。このため、アンバランスに測定誤差が生じる場合がある。
そこで、本実施形態のように、予めエンジンアッシ1のオイル温度毎に影響係数を導出し、アンバランスの測定に際しエンジンアッシ1の温度状況に応じた影響係数を用いることで、アンバランスの測定時におけるエンジンアッシ1の温度状態や環境に応じた正確なアンバランスの測定を行うことができる。
【0048】
次に、第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と共通する部分については、同一の符号を用いるとともにその説明を省略する。
【0049】
本実施形態に係るアンバランスの測定及び修正に際しての演算制御は、図5に示す構成により行われる。図5に示すように、本実施形態に係るアンバランス測定装置は、エンジンアッシ1のアンバランスの測定及び修正を行うための演算制御装置40を備える。
演算制御装置40は、振動ピックアップ3によって検出される振動を用いて、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式からエンジンアッシ1のアンバランスを測定するアンバランス測定部41と、修正狙い位置算出部32と、温度測定部38と、駆動制御部33とを備える。つまり、本実施形態では、演算制御装置40が、アンバランス測定手段、修正狙い位置算出手段及び温度測定手段として機能する。
【0050】
そして、演算制御装置40においては、複数の任意の温度変化量毎に予め設定されるアンバランス乖離量を、温度測定部38により測定される温度の前記関係式導出時のエンジンアッシ1のオイル温度に対する温度変化量に対応して選出するとともに、その選出したアンバランス乖離量を用いて、アンバランス測定部41により測定されたアンバランスまたは該アンバランスの許容範囲を定める規格を補正する補正部44が備えられる。つまり、本実施形態では、演算制御装置40が、補正手段として機能する。
【0051】
ここで、アンバランス乖離量について説明する。
図10を用いて説明したようにクランク軸の周りには軸受メタルとの間にオイルが介在するため、オイルの温度変化による粘性等の変化にともなって、エンジンアッシのアンバランス測定の中心軸となるクランク軸の回転数や軸心位置が変動する。このため、エンジンアッシ1におけるアンバランスは、そのオイル温度の変化により変動する。
【0052】
図6に、実験等により求めたエンジンアッシ1のオイル温度の変化にともなうアンバランスの挙動例を示す。図6における各点P1〜P7は、クランク軸11の軸心線C1に対応する中心点O1からのアンバランスベクトルの先端位置を示す。つまり、中心点O1から各点P1〜P7に向かう有向線分がアンバランスベクトルとなる。また、各点P1〜P7は、エンジンアッシ1のオイル温度が30〜90℃(10℃毎)の場合のアンバランスベクトルにそれぞれ対応する。
すなわち、図6に示されるアンバランスの挙動からわかるように、エンジンアッシ1のオイル温度が変化することにより、アンバランスベクトルつまりエンジンアッシ1におけるアンバランスは変動する。
【0053】
そして、エンジンアッシ1のオイル温度の変化にともない変動するアンバランスについて、その量の変化について着目すると、アンバランスの量はオイル温度に略比例すること、即ちあるオイル温度の変化量についてのアンバランス量の変化量が略一定となることが実験等によりわかっている。
つまり、「アンバランス乖離量」とは、エンジンアッシ1におけるオイル温度の変化量に対応するアンバランス量の変化量である。したがって、あるオイル温度の変化量に対してアンバランス乖離量が定まることとなる。言い換えると、オイル温度の変化量が異なることにより、アンバランス乖離量も変化することとなる。
【0054】
図7に、実験等により求めたエンジンアッシ1のオイル温度のズレ量とアンバランス乖離量との関係の一例を示す。
図7に示すグラフからわかるように、エンジンアッシ1のオイル温度の変化量が大きい程、アンバランス乖離量も大きくなる。具体的には、オイル温度の変化量が10℃の場合、アンバランス乖離量は約3gcm、オイル温度の変化量が20℃の場合、アンバランス乖離量は約6gcm、オイル温度の変化量が30℃の場合、アンバランス乖離量は約9gcmとなっている。
【0055】
このように、エンジンアッシ1においては、そのオイル温度の変化にともないアンバランス量が変化するため、マスタリング時におけるエンジンアッシ1のオイル温度(以下、「マスタリング時温度」という。)と、アンバランスの測定時におけるエンジンアッシ1のオイル温度(以下、「測定時温度」という。)とが異なる場合、その温度差となる温度変化量(ズレ量)に応じた量のアンバランスの乖離が生じる。
かかるアンバランス乖離量は、マスタリング時温度と測定時温度との相対的なズレ量に対応するものであるため、マスタリング時温度に対して測定時温度が低い場合及び高い場合いずれも同様のアンバランス乖離量となる。つまり、マスタリング時温度と測定時温度とのズレ量の絶対量(絶対値)にアンバランス乖離量が対応する。
【0056】
こうしたマスタリング時温度と測定時温度とがずれることによるアンバランスの乖離は、エンジンアッシ1についてのアンバランスの測定誤差の原因となる。アンバランスの測定誤差が生じると、次のような問題がある。
【0057】
エンジンアッシ1についてのアンバランスの測定及び修正においては、アンバランスの許容範囲を定める規格(出荷規格)が予め設定される場合がある。つまりこの場合、アンバランスの測定結果について、そのアンバランス量が出荷規格に適合するか否かが判定され、適合すればそのまま出荷され、適合しなければ(測定されたアンバランスが許容範囲を超えていれば)アンバランスの修正が行われる。
このような場合、測定時温度にかかわらず共通の出荷規格の下で前記のような判定が行われると、マスタリング時温度と測定時温度とのズレにともなうアンバランスの乖離による測定誤差が生じることにより、アンバランスの測定結果について出荷規格に基づく適正な判定が行われないことがある。
【0058】
すなわち、アンバランスの測定値には、マスタリング時温度と測定時温度とのズレに起因するアンバランス乖離量が含まれるため、アンバランスの測定値の上では出荷規格に適合していても、実際のアンバランスは出荷規格外である場合や、その逆の場合のような誤判定が生じる。逆に言うと、予め設定される出荷規格には、マスタリング時温度と測定時温度とのズレに起因するアンバランス乖離量が加味されていないため、前記のような誤判定が生じる。
特に前記のような誤判定のうち前者の場合については、実際にはアンバランスの出荷規格に適合しないエンジンアッシが出荷されることとなり問題となる。
【0059】
そこで、本実施形態では、エンジンアッシ1におけるアンバランス乖離量を、複数の任意の温度変化量毎に予め設定する一方、エンジンアッシ1のオイル温度を検出し、検出したオイル温度(測定時温度)の前記関係式導出時のエンジンアッシのオイル温度(マスタリング時温度)に対する温度変化量を算出し、算出した温度変化量に対応するアンバランス乖離量を用いて、測定したアンバランスまたは該アンバランスの許容範囲を定める規格(出荷規格)を補正する。
【0060】
具体的には、複数の任意の温度変化量毎のアンバランス乖離量を予め導出しておく。本実施形態では、温度変化量毎に導出される複数のアンバランス乖離量は、演算制御装置40における補正部44に予め記憶され設定される。
ここで、「温度変化量毎」とは、特に限定するものではないが、例えば、アンバランス乖離量を、温度変化量について0.5℃毎や1℃毎等のように比較的小さい温度範囲毎に設定したり、5℃毎や10℃毎等のように比較的大きい温度範囲毎に設定したりすることが考えられる。
【0061】
本実施形態では、温度変化量毎に導出されるアンバランス乖離量を、図6及び図7に示すように実験等により求めた測定値等に基づき、温度変化量10℃に対するアンバランス乖離量を、便宜上、3gcmとする。
したがって、測定時温度のマスタリング時温度に対する温度変化量が10℃の場合、アンバランス乖離量は3gcm、同じく温度変化量が20℃の場合、アンバランス乖離量は6gcm、同じく温度変化量が30℃の場合、アンバランス乖離量は9gcmとなる。
【0062】
ここで、アンバランス乖離量の設定方法としては、段階的つまり各温度変化量の範囲毎に一定量とする設定や、無段階的に分布量とする設定が考えられる。
具体的には、アンバランス乖離量を段階的に一定量として設定する場合は、例えば、マスタリング時温度との温度変化量が5〜15℃の場合にアンバランス乖離量を3gcm、同じく15〜25℃の場合にアンバランス乖離量を6gcm等として設定する。また、アンバランス乖離量を無段階的に分布量として設定する場合は、マスタリング時温度との温度変化量に応じてアンバランス乖離量を連続的に変化させる。
【0063】
補正部44においては、アンバランス測定部41で測定されたアンバランスに対する補正と、予め設定される出荷規格に対する補正とのいずれかが行われる。以下、前者の補正を「アンバランス補正」、後者の補正を「規格補正」と称する。
本実施形態では、出荷規格はアンバランス測定部41において予め記憶され設定される。そして、マスタリング時温度が60℃である場合に対して、測定時温度が同じ温度60℃となる場合の基準となる出荷規格として、アンバランスの許容範囲を30gcm以内とする規格が用いられる。つまり、この基準となる出荷規格については、測定されたアンバランスが、30gcmより小さい場合は、出荷規格に適合するとしてそのまま出荷され、30gcmを超えている場合は、出荷規格に適合しないとしてアンバランスの修正が行われることとなる。以下、この基準となる出荷規格を「基準出荷規格」とする。
【0064】
まず、補正部44において、規格補正が行われる場合について説明する。
この場合、アンバランスが測定される際、エンジンアッシ1のオイル温度(測定時温度)が検出され、検出された測定時温度のマスタリング時温度に対する温度変化量(温度差)が算出される。そして、予め設定された温度変化量毎の複数のアンバランス乖離量から、算出された温度変化量に対応するアンバランス乖離量が選出される。この選出されたアンバランス乖離量が用いられて、予め設定される出荷規格が補正される。
【0065】
具体的には、前述した基準出荷規格に対して、選出されたアンバランス乖離量分、出荷規格が小さく(アンバランス量の許容範囲が狭く)なるように補正される。
すなわち、マスタリング時温度と測定時温度との温度差が大きい程、アンバランス乖離量も大きくなるため、そのアンバランス乖離量分、出荷規格が小さく補正されることで、測定されるアンバランスが実際のアンバランスに反して出荷規格に適合すると判定されることが防止される。
【0066】
図8に、マスタリング時温度と測定時温度との相違によるアンバランス規格(出荷規格)の一例を示す。
図8の表に示すように、基準出荷規格(マスタリング時温度と同一の測定時温度における規格30gcm)に対し、測定時温度が50℃または70℃の場合、マスタリング時温度と測定時温度との温度差が10℃となり、アンバランス乖離量が3gcmとなるので、出荷規格は27gcmと補正される。同様に、測定時温度が40℃または80℃の場合、温度差が20℃となりアンバランス乖離量が6gcmとなるので出荷規格は24gcmと補正され、測定時温度が30℃または90℃の場合、温度差が30℃となりアンバランス乖離量が9gcmとなるので出荷規格は21gcmと補正される。これに対し、出荷規格が補正されない場合は、測定時温度にかかわらず出荷規格は本来の規格つまり基準出荷規格の30gcmとなる。
なお、図8の表における各測定時温度の中間の温度(例えば60〜50℃の間の温度等)における出荷規格は、前述したようなアンバランス乖離量の設定方法により、一定量または分布量となる。
【0067】
このように、出荷規格が補正される場合のアンバランス測定方法について、アンバランスの測定結果に基づくアンバランスの修正も含めて図9に示すフロー図を用いて説明する。
まず、振動架台2上に載置されたエンジンアッシ1がモータ4によって所定の回転数で回転される(S200)。
エンジンアッシ1が回転する状態で、振動ピックアップ3から検出される振動が用いられ前記関係式に基づいてアンバランスが測定されるとともに、オイル温度センサ37から検出される温度に基づいてエンジンアッシ1のオイル温度が測定される(S210)。
【0068】
次に、前記S210にて測定されたオイル温度(測定時温度)のマスタリング時温度に対する温度変化量つまり温度差が算出される(S220)。ここで、マスタリング時温度は、マスタリング時においてオイル温度センサ37から検出される温度に基づいて予め測定され記憶される。
【0069】
そして、算出された測定時温度のマスタリング時温度に対する温度変化量に対応するアンバランス乖離量が選出される(S230)。つまりここでは、前述したように温度変化量毎に予め設定された複数のアンバランス乖離量から、実際に測定された測定時温度のマスタリング時温度に対する温度変化量に応じたアンバランス乖離量が選出される。
この選出されたアンバランス乖離量に基づき、出荷規格が補正される(S240)。つまり、選出されたアンバランス乖離量分、基準出荷規格が小さくされる規格補正が行われる。
【0070】
続いて、前記S220にて測定されたアンバランスが、補正後の出荷規格に適合するか否かが判断される。(S250)。つまり、エンジンアッシ1について測定されたアンバランスが、前記S240にて補正された出荷規格基づく許容範囲にあるか否かの判定が行われる。
ここで、測定されたアンバランスが補正後の出荷規格に適合すると判断された場合、つまり測定されたアンバランス量が補正後の出荷規格のアンバランス量よりも小さい場合は、OK判定となり、そのエンジンアッシ1はそのまま出荷される。
一方、測定されたアンバランスが補正後の出荷規格に適合すると判断されなかった場合、つまり測定されたアンバランス量が補正後の出荷規格のアンバランス量よりも大きい場合は、NG判定となり、そのエンジンアッシ1についてアンバランスの修正が行われる(S260)。
そして、再度S200に戻り、エンジンアッシ1が回転され、前記と同様にアンバランスの測定が行われる。
【0071】
次に、補正部44において、アンバランス補正が行われる場合について説明する。
この場合、アンバランスが測定される際、エンジンアッシ1のオイル温度(測定時温度)が検出され、検出された測定時温度のマスタリング時温度に対する温度変化量が算出される。そして、予め設定された温度変化量毎の複数のアンバランス乖離量から、算出された温度変化量に対応するアンバランス乖離量が選出される。この選出されたアンバランス乖離量が用いられて、測定されたアンバランスが補正される。
【0072】
具体的には、前記と同様にして、温度変化量毎に導出された複数のアンバランス乖離量から、実際に測定された測定時温度のマスタリング時温度に対する温度変化量に応じたアンバランス乖離量が選出される。そして、その選出されたアンバランス乖離量が、エンジンアッシ1について測定されたアンバランスに対して加算されることで、測定されたアンバランスが補正される。
すなわち、マスタリング時温度と測定時温度との温度差が大きい程、アンバランス乖離量も大きくなるため、そのアンバランス乖離量分、測定されたアンバランスが大きく補正されることで、測定されるアンバランスが実際のアンバランスに反して出荷規格(基準出荷規格)に適合すると判定されることが防止される。
【0073】
本実施形態のようなエンジンアッシ1についてのアンバランスの測定方法を用いることによっても、エンジンアッシのアンバランス測定に際し、簡易な構成により、エンジンアッシの内部の温度状況や測定中における温度変化にかかわらず、精度良く正確な測定を行うことができ、エンジンアッシの状態や環境に応じたアンバランスの測定を行うことができる。
【0074】
つまり、アンバランスの測定値には、マスタリング時温度と測定時温度とのズレに起因するアンバランス乖離量が含まれるため、このアンバランス乖離量を用いて、測定されるアンバランスの許容範囲を定める出荷規格側、または測定されるアンバランス側を補正することにより、アンバランスの測定時におけるエンジンアッシ1の温度状態や環境に応じた正確なアンバランスの測定を行うことができる。これにより、測定されるアンバランスについての出荷規格に対する誤判定等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係るアンバランス測定装置の全体構成を示す図。
【図2】駆動軸とクランク軸との連結部の構成を示す図。
【図3】第一実施形態に係る制御構成の一例を示すブロック図。
【図4】第一実施形態に係るアンバランス測定方法についてのフロー図。
【図5】第二実施形態に係る制御構成の一例を示すブロック図。
【図6】オイル温度の変化にともなうアンバランスの挙動例を示す図。
【図7】オイル温度の変化量とアンバランス乖離量との関係例を表すグラフを示す図。
【図8】マスタリング時温度と測定時温度との相違による出荷規格例の表を示す図。
【図9】第二実施形態に係るアンバランス測定方法についてのフロー図。
【図10】クランク軸周りの断面図。
【符号の説明】
【0076】
1 エンジンアッシ
2 振動架台
3 振動ピックアップ(振動検出手段)
4 モータ(回転駆動手段)
11 クランク軸
30 演算制御装置
31 アンバランス測定部
37 オイル温度センサ
38 温度測定部
40 演算制御装置
41 アンバランス測定部
44 補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動検出手段を有する振動架台上に載置したエンジンアッシを所定の回転数で回転させることにより該エンジンアッシに生じる振動を前記振動検出手段によって検出し、検出した振動を用いて、予め導出され設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式に基づいてエンジンアッシのアンバランスを測定するエンジンアッシのアンバランス測定方法であって、
前記関係式を、エンジンアッシのオイル温度毎に導出し、これら関係式を各オイル温度に対応させて設定する一方、
前記振動検出手段による振動の検出にともない、エンジンアッシのオイル温度を検出し、検出したオイル温度に対応する前記関係式に基づいてエンジンアッシのアンバランスを測定することを特徴とするエンジンアッシのアンバランス測定方法。
【請求項2】
振動検出手段を有する振動架台上に載置したエンジンアッシを所定の回転数で回転させることにより該エンジンアッシに生じる振動を前記振動検出手段によって検出し、検出した振動を用いて、予め導出され設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式からエンジンアッシのアンバランスを測定するエンジンアッシのアンバランス測定方法であって、
エンジンアッシにおけるオイル温度の変化量に対応するアンバランス量の変化量であるアンバランス乖離量を、複数の任意の温度変化量毎に予め設定する一方、
エンジンアッシのオイル温度を検出し、検出したオイル温度の前記関係式導出時のエンジンアッシのオイル温度に対する温度変化量を算出し、算出した温度変化量に対応する前記アンバランス乖離量を用いて、測定したアンバランスまたは該アンバランスの許容範囲を定める規格を補正することを特徴とするエンジンアッシのアンバランス測定方法。
【請求項3】
エンジンアッシを載置する振動架台と、
前記振動架台に設けられエンジンアッシに生じる振動を検出する振動検出手段と、
エンジンアッシに連結されエンジンアッシを所定の回転数で回転させる回転駆動手段と、
エンジンアッシに設けられる温度検出手段からの検出値に基づいてそのエンジンアッシのオイル温度を測定する温度測定手段と、
エンジンアッシのオイル温度毎に導出され各オイル温度に対応して予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式を、前記温度測定手段により測定されるオイル温度に対応して選出するとともに、その選出した関係式に基づいて、前記振動検出手段によって検出される振動を用いてエンジンアッシのアンバランスを測定するアンバランス測定手段と、を備えるエンジンアッシのアンバランス測定装置。
【請求項4】
エンジンアッシを載置する振動架台と、
前記振動架台に設けられエンジンアッシに生じる振動を検出する振動検出手段と、
エンジンアッシに連結されエンジンアッシを所定の回転数で回転させる回転駆動手段と、
エンジンアッシに設けられる温度検出手段からの検出値に基づいてそのエンジンアッシのオイル温度を測定する温度測定手段と、
前記振動検出手段によって検出される振動を用いて、予め導出され設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係式からエンジンアッシのアンバランスを測定するアンバランス測定手段と、
複数の任意の温度変化量毎に予め設定される、エンジンアッシにおけるオイル温度の変化量に対応するアンバランス量の変化量であるアンバランス乖離量を、前記温度測定手段により測定される温度の前記関係式導出時のエンジンアッシのオイル温度に対する温度変化量に対応して選出するとともに、その選出したアンバランス乖離量を用いて、前記アンバランス測定手段により測定されたアンバランスまたは該アンバランスの許容範囲を定める規格を補正する補正手段と、を備えるエンジンアッシのアンバランス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−32572(P2008−32572A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207209(P2006−207209)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】