説明

エンジン回転停止制御装置

【課題】逆回転防止機能付きの常時噛み合い式スタータを備えたシステムにおいて、アイドルストップ要求発生時に実行するエンジン回転停止制御の精度を向上させる。
【解決手段】アイドルストップ要求に応じてエンジン回転を停止させる際に、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出し、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクを制御するエンジン回転停止制御を実行する。このエンジン回転停止制御の実行中に、エンジン11の筒内圧変化を減少させるように可変バルブリフト機構31を制御する筒内圧変化減少制御を実行することで、エンジン11に作用する合成トルクの変化を減少させて、特定のクランク角領域でエンジン回転が停止し易くなることを抑制する。これにより、エンジン回転停止制御によってエンジン回転停止位置を目標停止クランク角に制御し易くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン回転停止位置(停止クランク角)を制御する機能を備えたエンジン回転停止制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、特許文献1(特開2010−43532号公報)に記載されているように、エンジン自動停止・始動システム(アイドルストップシステム)を搭載した車両では、エンジンの再始動性を向上させるために、エンジン停止時(アイドルストップ時)にエンジン回転停止位置(停止クランク角)を始動に適したクランク角範囲に制御することを目的として、エンジン回転が目標停止クランク角(始動に適したクランク角範囲内のクランク角)で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出し、エンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように発電機(オルタネータ)の負荷トルクを制御するエンジン回転停止制御を行うようにしたものがある。更に、アイドルストップシステムを搭載した車両においては、エンジンの再始動性向上等を目的として、逆回転防止機能付きの常時噛み合い式スタータ(エンジンの逆回転を防止する機能を有する常時噛み合い式のスタータ)を採用するようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−43532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図2に示すように、一般に、エンジンの回転が停止する過程では、エンジンの回転による筒内空気の圧縮・膨張により筒内圧が増減してエンジンに作用する合成トルクが増減する。
【0005】
その際、一般的なスタータ(エンジンの逆回転を許容するスタータ)を備えたシステムでは、エンジンの回転が停止する間際に、合成トルクが逆回転領域(逆回転方向に合成トルクが作用するクランク角領域)に入ると、エンジンが逆回転するため、合成トルクが0付近になるクランク角領域(図2のA参照)でエンジン回転が停止し易い。この場合、始動に適したクランク角範囲内に、エンジン回転が停止し易いクランク角領域(図2のA参照)が含まれるため、エンジン回転停止制御を実行すれば、始動に適したクランク角範囲以外の範囲でエンジン回転が停止する確率が低くなる。
【0006】
これに対して、逆回転防止機能付きの常時噛み合い式スタータを備えたシステムでは、エンジンの回転が停止する間際に、合成トルクが逆回転領域に入っても、エンジンの逆回転が防止されるため、合成トルクが0付近になるクランク角領域から逆回転領域までの範囲(図2のB参照)でエンジン回転が停止し易くなる。この場合、始動に適したクランク角範囲以外の範囲(つまり始動に適していないクランク角範囲)は全てエンジン回転が停止し易いクランク角領域(図2のB参照)に含まれるが、始動に適したクランク角範囲は部分的にしかエンジン回転が停止し易いクランク角領域(図2のB参照)に含まれないため、エンジン回転停止制御を実行しても、始動に適したクランク角範囲以外の範囲でエンジン回転が停止する確率が高くなる可能性がある(図3参照)。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、逆回転防止機能付きの常時噛み合い式スタータを備えたシステムにおいて、エンジン回転停止位置を目標停止クランク角に制御し易くすることができ、エンジン回転停止制御の精度を向上させることができるエンジン回転停止制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、エンジン停止要求に応じてエンジン回転を停止させる際にエンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動を電動機のトルクで制御するエンジン回転停止制御を実行する制御手段と、エンジンの逆回転を防止する機構と、エンジンの吸気バルブと排気バルブの少なくとも一方のバルブ開閉特性を変化させる可変バルブ機構とを備え、制御手段は、エンジン回転停止制御の実行中にエンジンの筒内圧変化を減少させるように可変バルブ機構を制御する筒内圧変化減少制御を実行するようにしたものである。
【0009】
本発明は、エンジン回転停止制御の実行中に、エンジンの筒内圧変化を減少させるように可変バルブ機構を制御する筒内圧変化減少制御を実行することで、エンジンに作用する合成トルクの変化を減少させることができ、特定のクランク角領域でエンジン回転が停止し易くなる(又は停止し難くなる)ことを抑制することができる。これにより、エンジン回転停止制御によってエンジン回転停止位置を目標停止クランク角に制御し易くすることができ、エンジン回転停止制御の精度を向上させることができる。
【0010】
この場合、請求項2のように、運転者のイグニッションスイッチのオフ操作によってエンジン停止要求が発生した場合にはエンジン回転停止制御及び筒内圧変化減少制御を実行しないようにすると良い。このようにすれば、運転者のイグニッションスイッチのオフ操作によってエンジン停止要求(手動停止要求)が発生した場合には、エンジン回転停止制御及び筒内圧変化減少制御を実行することなく、直ちに燃料カットを実行してエンジンの運転を停止させることができる。
【0011】
ところで、システムの個体差や経時変化(例えばデポジットの堆積による吸気特性や排気特性の変化)等によって筒内圧変化減少制御の適正な制御量(筒内圧変化を十分に減少させるのに必要な制御量)が変化する。
【0012】
そこで、請求項3のように、エンジンの筒内圧を検出又は推定する筒内圧判定手段を備え、筒内圧変化減少制御の実行中に筒内圧判定手段で検出又は推定した筒内圧に基づいて筒内圧変化減少制御の制御量を補正するための補正値を学習し、その後、筒内圧変化減少制御を実行する際に補正値を用いて筒内圧変化減少制御の制御量を補正するようにしても良い。このようにすれば、システムの個体差や経時変化等によって筒内圧変化減少制御の適正な制御量が変化しても、それに対応して筒内圧変化減少制御の制御量を補正して、筒内圧変化減少制御の制御量を適正値に設定することができる。
【0013】
また、車両の走行による高度変化等によって大気圧が変化するが、この大気圧の変化による吸気圧の変化によっても筒内圧変化減少制御の適正な制御量(筒内圧変化を十分に減少させるのに必要な制御量)が変化する。
【0014】
そこで、請求項4のように、エンジンの吸気圧を検出する吸気圧検出手段を備え、吸気圧検出手段で検出した吸気圧に応じて筒内圧変化減少制御の制御量を変更するようにしても良い。このようにすれば、大気圧の変化による吸気圧の変化によって筒内圧変化減少制御の適正な制御量が変化しても、それに対応して筒内圧変化減少制御の制御量を変更して、筒内圧変化減少制御の制御量を適正値に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2はエンジン回転が停止し易いクランク角領域を説明するための図である。
【図3】図3は従来のエンジン回転停止制御を実行した場合のエンジン回転停止位置の分布を示す図である。
【図4】図4は筒内圧変化減少制御を実行した場合の合成トルクの挙動を示す図である。
【図5】図5は実施例1の可変バルブリフト機構を用いた筒内圧変化減少制御を説明する図である。
【図6】図6は実施例1のエンジン停止制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は実施例1のエンジン回転停止制御の実行例を説明するフローチャートである。
【図8】図8は実施例2の電磁駆動バルブ機構を用いた筒内圧変化減少制御を説明する図である。
【図9】図9は実施例2のエンジン停止制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】図10は実施例3の可変バルブ機構の概略構成を示す図である。
【図11】図11は実施例3の可変バルブ機構を用いた筒内圧変化減少制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の実施例1を図1乃至図7に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
【0018】
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、吸気管圧力(吸気圧)を検出する吸気管圧力センサ19(吸気圧検出手段)が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ吸気ポートに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各気筒の点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0019】
一方、エンジン11の排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0020】
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26が取り付けられている。エンジン11のクランク軸27の外周側には、クランク軸27が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ28が取り付けられ、このクランク角センサ28の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0021】
更に、エンジン11には、吸気バルブ29のリフト量及び作用角を変化させる可変バルブリフト機構31(可変バルブ機構)が設けられている。この可変バルブリフト機構31は、吸気バルブ29を駆動するカムのカムプロフィールを複数段階で切り換えることで、吸気バルブ29のリフト量及び作用角を複数段階で切り換えるように構成されている。尚、可変バルブリフト機構31は、吸気バルブ29のリフト量及び作用角を連続的に変化させるように構成しても良い。
【0022】
また、エンジン11には、始動時にクランク軸27を回転駆動(クランキング)するためのスタータ32が取り付けられている。このスタータ32は、エンジン11のクランク軸27に連結されたリングギヤにピニオンを常時噛み合わせると共にエンジン11の逆回転を防止するクラッチを有する逆回転防止機能付きの常時噛み合い式スタータである。
【0023】
また、オルタネータ33(発電機)には、クランク軸27の回転がベルト伝達機構(図示せず)を介して伝達される。これにより、エンジン11の動力でオルタネータ33が回転駆動されて発電するようになっている。このオルタネータ33の発電制御電流(フィールド電流)をデューティ制御することで、オルタネータ33の負荷トルクを制御することができる。本実施例では、オルタネータ33を特許請求の範囲でいう電動機として使用するようにしている。
【0024】
上述した各種センサの出力は、電子制御ユニット(以下「ECU」と表記する)34に入力される。このECU34は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。
【0025】
また、ECU34は、図示しないエンジン自動停止始動制御ルーチンを実行することで、エンジン自動停止始動制御(いわゆるアイドルストップ制御)を実行する。このエンジン自動停止始動制御では、車両走行中に運転者が減速操作(アクセル全閉、ブレーキ操作等)を行って車両停止に至る可能性のある所定減速状態になったとき、又は、車両を停車させてブレーキ操作を継続しているときに、自動停止要求(アイドルストップ要求)が発生したと判断して、エンジン11の燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン11を自動的に停止させる。その後、運転者が車両発進のための準備操作(ブレーキ解除、シフトレバーのドライブレンジへの操作等)や発進操作(アクセル踏み込み等)を行ったときに、再始動要求が発生したと判断して、スタータ32に通電してエンジン11をクランキングして燃料噴射を再開して再始動させる。その他、バッテリ充電制御システムやエアコン等の車載機器の制御システムから再始動要求が発生してエンジン11を再始動させる場合もある。
【0026】
また、ECU34は、後述する図6のエンジン停止制御ルーチンを実行することで、自動停止要求(アイドルストップ要求)に応じてエンジン回転を停止させる際に、エンジン回転が目標停止クランク角(始動に適したクランク角範囲内のクランク角)で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出し、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクを制御するエンジン回転停止制御を実行する。尚、自動停止要求が発生する前に予めエンジン回転挙動の目標軌道を算出しておくようにしても良い。
【0027】
ところで、図2に示すように、一般に、エンジンの回転が停止する過程では、エンジンの回転による筒内空気の圧縮・膨張により筒内圧が増減してエンジンに作用する合成トルクが増減する。
【0028】
その際、一般的なスタータ(エンジンの逆回転を許容するスタータ)を備えたシステムでは、エンジンの回転が停止する間際に、合成トルクが逆回転領域(逆回転方向に合成トルクが作用するクランク角領域)に入ると、エンジンが逆回転するため、合成トルクが0付近になるクランク角領域(図2のA参照)でエンジン回転が停止し易い。この場合、始動に適したクランク角範囲内に、エンジン回転が停止し易いクランク角領域(図2のA参照)が含まれるため、エンジン回転停止制御を実行すれば、始動に適したクランク角範囲以外の範囲でエンジン回転が停止する確率が低くなる。
【0029】
これに対して、逆回転防止機能付きの常時噛み合い式スタータを備えたシステムでは、エンジンの回転が停止する間際に、合成トルクが逆回転領域に入っても、エンジンの逆回転が防止されるため、合成トルクが0付近になるクランク角領域から逆回転領域までの範囲(図2のB参照)でエンジン回転が停止し易くなる。この場合、始動に適したクランク角範囲以外の範囲(つまり始動に適していないクランク角範囲)は全てエンジン回転が停止し易いクランク角領域(図2のB参照)に含まれるが、始動に適したクランク角範囲は部分的にしかエンジン回転が停止し易いクランク角領域(図2のB参照)に含まれないため、エンジン回転停止制御を実行しても、始動に適したクランク角範囲以外の範囲でエンジン回転が停止する確率が高くなる可能性がある(図3参照)。
【0030】
この対策として、ECU34は、エンジン回転停止制御の実行中に、エンジン11の筒内圧変化を減少させるように可変バルブリフト機構31を制御する筒内圧変化減少制御を実行する。これにより、図4に示すように、エンジン11に作用する合成トルクの変化を減少させることができ、特定のクランク角領域でエンジン回転が停止し易くなる(又は停止し難くなる)ことを抑制することができる。
【0031】
本実施例1では、図5に示すように、可変バルブリフト機構31は、吸気バルブ29のリフト量をエンジン運転中よりも小さくすると共に吸気バルブ29の作用角(開弁期間)をエンジン運転中よりも拡大して全クランク角領域で吸気バルブ29と排気バルブ30の少なくとも一方を開弁させる状態となる作用角拡大モードに切り換え可能に構成され、筒内圧変化減少制御の際に、可変バルブリフト機構31を作用角拡大モードに切り換えることで、エンジン11の筒内圧変化を減少させるようにしている。
【0032】
以下、本実施例1でECU34が実行する図6のエンジン停止制御ルーチンの処理内容を説明する。
図6に示すエンジン停止制御ルーチンは、ECU34の電源オン期間中(イグニッションスイッチ35のオン期間中)に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう制御手段としての役割を果たす。
【0033】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、自動又は手動のエンジン停止要求が発生しているか否かを判定し、どちらのエンジン停止要求も発生していなければ、そのまま本ルーチンを終了する。
【0034】
一方、上記ステップ101で、自動又は手動のエンジン停止要求が発生していると判定されれば、ステップ102に進み、発生したエンジン停止要求が自動停止要求(アイドルストップ要求)であるか否かを判定し、自動停止要求ではないと判定された場合には、運転者のイグニッションスイッチ35のオフ操作によって手動停止要求が発生したと判断して、ステップ107に進み、通常停止時処理を実行する。この通常停止時処理では、エンジン回転停止制御及び筒内圧変化減少制御を実行することなく、直ちに燃料カットを実行してエンジン11の運転を停止させる。
【0035】
一方、上記ステップ102で、発生したエンジン停止要求が自動停止要求であると判定された場合には、ステップ103に進み、エンジン回転停止制御の実行条件が成立している否かを、例えば、自動停止要求発生時のエンジン回転速度が所定値以上であるか否か、エアコンがオフであるか否か等によって判定する。
【0036】
このステップ103で、エンジン回転停止制御の実行条件が不成立であると判定された場合には、エンジン回転停止制御の精度を確保することが困難であると判断して、ステップ107に進み、通常停止時処理を実行する。
【0037】
一方、上記ステップ103で、エンジン回転停止制御の実行条件が成立していると判定された場合には、ステップ104に進み、燃料カットを開始した後、ステップ105に進み、エンジン回転停止制御を実行する。このエンジン回転停止制御では、エンジン回転が目標停止クランク角(始動に適したクランク角範囲内のクランク角)で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出し、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクを制御する。尚、自動停止要求が発生する前に予めエンジン回転挙動の目標軌道を算出しておくようにしても良い。
【0038】
この後、ステップ106に進み、筒内圧変化減少制御を実行する。この筒内圧変化減少制御では、可変バルブリフト機構31を作用角拡大モード(吸気バルブ29のリフト量をエンジン運転中よりも小さくすると共に吸気バルブ29の作用角をエンジン運転中よりも拡大して全クランク角領域で吸気バルブ29と排気バルブ30の少なくとも一方を開弁させる状態)に切り換えることで、エンジン11の筒内圧変化を減少させる。
【0039】
以上説明した本実施例1のエンジン停止制御の実行例を図7のタイムチャートを用いて説明する。エンジン運転中に自動停止要求(アイドルストップ要求)が発生して自動停止要求フラグがON(オン)された時点t1 で、エンジン回転停止制御の実行条件が成立しているか否かを判定し、エンジン回転停止制御の実行条件が成立していると判定されて実行条件フラグがONされた時点t2 で、燃料カットフラグをONして、燃料カットを実行することでエンジン11の燃焼を停止させると共に、エンジン回転停止制御フラグをONして、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクを制御するエンジン回転停止制御を実行し、このエンジン回転停止制御の実行中に、筒内圧変化減少制御フラグをONして、エンジン11の筒内圧変化を減少させるように可変バルブリフト機構31を制御する筒内圧変化減少制御を実行する。
【0040】
以上説明した本実施例1では、エンジン回転停止制御の実行中に、エンジン11の筒内圧変化を減少させるように可変バルブリフト機構31を制御する筒内圧変化減少制御を実行するようにしたので、エンジン11に作用する合成トルクの変化を減少させることができ、特定のクランク角領域でエンジン回転が停止し易くなる(又は停止し難くなる)ことを抑制することができる。これにより、エンジン回転停止制御によってエンジン回転停止位置を目標停止クランク角に制御し易くすることができて、エンジン回転停止制御の精度を向上させることができ、始動に適したクランク角範囲以外の範囲でエンジンの回転が停止する確率を低くすることができる。
【実施例2】
【0041】
次に、図8及び図9を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0042】
本実施例2では、吸気バルブ29を電磁アクチュエータで開閉駆動する電磁駆動バルブ機構(図示せず)が可変バルブ機構として設けられ、この電磁駆動バルブ機構により吸気バルブ29のバルブ開閉特性(開閉時期、リフト量、作用角等)を自在に変化させることができるようになっている。
【0043】
図8に示すように、電磁駆動バルブ機構は、所定クランク角領域(少なくとも排気バルブ30が閉弁しているクランク角領域)で吸気バルブ29のリフト量をエンジン運転中よりも小さい要求リフト量に保持して全クランク角領域で吸気バルブ29と排気バルブ30の少なくとも一方を開弁させる状態となるリフト量保持モードに制御することができる。そこで、本実施例2では、筒内圧変化減少制御の際に、電磁駆動バルブ機構をリフト量保持モードに制御することで、エンジン11の筒内圧変化を減少させるようにしている。
【0044】
また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎(又は特定の気筒のみ)に筒内圧を検出する筒内圧センサ36(図1参照)が筒内圧判定手段として設けられている。この筒内圧センサ36は、点火プラグ22と一体化したタイプのものを用いても良いし、点火プラグ22とは別体のセンサ部を燃焼室内に臨ませるように取り付けるタイプのものを用いても良い。
【0045】
ところで、システムの個体差や経時変化(例えばデポジットの堆積による吸気特性や排気特性の変化)等によって筒内圧変化減少制御の適正な制御量(筒内圧変化を十分に減少させるのに必要な制御量)が変化する。また、車両の走行による高度変化等によって大気圧が変化するが、この大気圧の変化による吸気圧の変化によっても筒内圧変化減少制御の適正な制御量が変化する。
【0046】
これらの事情を考慮して、本実施例2では、後述する図9のエンジン停止制御ルーチンを実行することで、吸気管圧力センサ19で検出した吸気圧(吸気管圧力)に応じて筒内圧変化減少制御の要求リフト量を変更すると共に、筒内圧変化減少制御の実行中に筒内圧センサ36で検出した筒内圧に基づいて筒内圧変化減少制御の要求リフト量を補正するためのリフト量補正値を学習し、その後、筒内圧変化減少制御を実行する際にリフト量補正値を用いて筒内圧変化減少制御の要求リフト量を補正する。
【0047】
図9に示すエンジン停止制御ルーチンでは、まず、ステップ201で、自動又は手動のエンジン停止要求が発生しているか否かを判定し、自動又は手動のエンジン停止要求が発生していると判定されれば、ステップ202に進み、発生したエンジン停止要求が自動停止要求(アイドルストップ要求)であるか否かを判定し、自動停止要求ではないと判定された場合には、運転者のイグニッションスイッチ35のオフ操作によって手動停止要求が発生したと判断して、ステップ211に進み、通常停止時処理を実行する。
【0048】
一方、上記ステップ202で、発生したエンジン停止要求が自動停止要求であると判定された場合には、ステップ203に進み、エンジン回転停止制御の実行条件が成立している否かを判定し、エンジン回転停止制御の実行条件が不成立であると判定された場合には、エンジン回転停止制御の精度を確保することが困難であると判断して、ステップ211に進み、通常停止時処理を実行する。
【0049】
一方、上記ステップ203で、エンジン回転停止制御の実行条件が成立していると判定された場合には、ステップ204に進み、燃料カットを開始した後、ステップ205に進み、エンジン回転停止制御を実行する。
【0050】
この後、ステップ206に進み、吸気管圧力センサ19で検出した吸気圧を読み込んだ後、基本リフト量のマップ(図示せず)を参照して、吸気圧に応じた基本リフト量を算出する。ここで、基本リフト量のマップは、例えば、吸気圧が低くなるほど基本リフト量が小さくなるように設定されている。この基本リフト量のマップは、予め試験データや設計データに基づいて作成され、ECU34のROMに記憶されている。
【0051】
この後、ステップ207に進み、リフト量補正値の学習値を読み込む。このリフト量補正値の学習値は、ECU34のバックアップRAM(図示せず)等の書き換え可能な不揮発性メモリ(ECU34の電源オフ中でも記憶データを保持する書き換え可能なメモリ)に記憶されている。
【0052】
この後、ステップ208に進み、基本リフト量とリフト量補正値(学習値)とを用いて、次式により要求リフト量を求める。
要求リフト量=基本リフト量+リフト量補正値
【0053】
このように、吸気圧に応じた基本リフト量を用いて要求リフト量を算出することで吸気圧に応じて要求リフト量を変更すると共に、リフト量補正値を用いて要求リフト量を算出することで要求リフト量を補正する。
【0054】
この後、ステップ209に進み、筒内圧変化減少制御を実行する。この筒内圧変化減少制御では、電磁駆動バルブ機構をリフト量保持モード(所定クランク角領域で吸気バルブ29のリフト量をエンジン運転中よりも小さい要求リフト量に保持して全クランク角領域で吸気バルブ29と排気バルブ30の少なくとも一方を開弁させる状態)に制御することで、エンジン11の筒内圧変化を減少させる。
【0055】
この後、ステップ210に進み、筒内圧変化減少制御の実行中に筒内圧センサ36で検出した筒内圧(例えば圧縮行程中の筒内圧の最大値)を読み込んだ後、リフト量補正値のマップ(図示せず)を参照して、筒内圧に応じたリフト量補正値を算出する。ここで、リフト量補正値のマップは、例えば、筒内圧が高くなるほどリフト量補正値が大きくなるように設定されている。このリフト量補正値のマップは、予め試験データや設計データに基づいて作成され、ECU34のROMに記憶されている。そして、ECU34のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶されているリフト量補正値の学習値の記憶データを、今回算出したリフト量補正値で更新することで、リフト量補正値を学習する。
【0056】
以上説明した本実施例2では、吸気管圧力センサ19で検出した吸気圧に応じて基本リフト量を算出し、この基本リフト量を用いて要求リフト量を算出することで、吸気圧に応じて要求リフト量を変更するようにしたので、大気圧の変化による吸気圧の変化によって筒内圧変化減少制御の適正な要求リフト量が変化しても、それに対応して筒内圧変化減少制御の要求リフト量を変更して、筒内圧変化減少制御の要求リフト量を適正値に設定することができる。
【0057】
更に、本実施例2では、筒内圧変化減少制御の実行中に筒内圧センサ36で検出した筒内圧に基づいてリフト量補正値を学習し、その後、筒内圧変化減少制御を実行する際にリフト量補正値を用いて筒内圧変化減少制御の要求リフト量を補正するようにしたので、システムの個体差や経時変化等によって筒内圧変化減少制御の適正な要求リフト量が変化しても、それに対応して筒内圧変化減少制御の要求リフト量を補正して、筒内圧変化減少制御の要求リフト量を適正値に設定することができる。
【0058】
尚、上記実施例2では、筒内圧センサ36で筒内圧を検出するようにしたが、これに限定されず、例えば、エンジン回転挙動や吸気圧等に基づいて筒内圧を推定するようにしても良い。
【0059】
また、上記実施例2では、筒内圧に応じてリフト量補正値を算出するようにしたが、これに限定されず、例えば、筒内圧の変化量(例えばピーク値とボトム値との差)に応じてリフト量補正値を算出するようにしても良い。或は、筒内圧又は筒内圧の変化量が所定値以上のときにリフト量補正値を増量するようにしても良い。
【実施例3】
【0060】
次に、図10及び図11を用いて本発明の実施例3を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0061】
本実施例3では、図10に示すように、吸気バルブ29のリフト量を油圧を介して制御する可変バルブ機構37が設けられている。この可変バルブ機構37は、エンジン11のカム軸38に設けられたカム39によってカム側ピストン40が駆動されて往復運動し、このカム側ピストン40の往復運動によってカム側油圧室41とバルブ側油圧室42との間で作動油が移動し、このバルブ側油圧室42の油圧によってバルブ側ピストン43が駆動されて往復運動し、このバルブ側ピストン43の往復運動によって吸気バルブ29が駆動されて開閉動作する。また、オイルポンプ(図示せず)から吐出される作動油をカム側油圧室41に導く油通路44の途中に、チェック弁45とアキュームレータ46が設けられ、このアキュームレータ46とカム側油圧室41との間に、油圧開放弁47とチェック弁48が並列に配置されている。
【0062】
吸気バルブ29の開弁動作中に油圧開放弁47を開弁すると、カム側油圧室41の油圧がアキュームレータ46に逃がされて吸気バルブ29が閉弁するため、油圧開放弁47の開弁時期を変化させることで、吸気バルブ29の閉弁時期を変化させて吸気バルブ29のリフト量を調整することができる。
【0063】
図11に示すように、可変バルブ機構37は、エンジン運転中は吸気バルブ29が最小リフト位置に戻ったときに吸気バルブ29が完全に閉じてバルブクリアランス量=0となるように設定されているが、可変バルブ機構37に供給する油圧を上昇させて吸気バルブ29の最小リフト位置を開弁方向にオフセットすることで、吸気バルブ29のバルブクリアランス量を0よりも大きくして全クランク角領域で吸気バルブ29を開弁させる状態となるバルブクリアランス拡大モードに制御することができる。そこで、本実施例3では、筒内圧変化減少制御の際に、可変バルブ機構37をバルブクリアランス拡大モードに制御することで、エンジン11の筒内圧変化を減少させるようにしている。
【0064】
尚、本実施例3においても、吸気圧に応じて筒内圧変化減少制御の要求バルブクリアランス量を変更するようにしても良い。更に、筒内圧変化減少制御の実行中の筒内圧に基づいて筒内圧変化減少制御の要求バルブクリアランス量を補正するための補正値を学習し、その後、筒内圧変化減少制御を実行する際に補正値を用いて筒内圧変化減少制御の要求バルブクリアランス量を補正するようにしても良い。
【0065】
また、上記各実施例1〜3では、吸気バルブの可変バルブ機構を制御して筒内圧変化減少制御を実行するようにしたが、これに限定されず、例えば、排気バルブの可変バルブ機構を制御して筒内圧変化減少制御を実行するようにしたり、或は、吸気バルブの可変バルブ機構と排気バルブの可変バルブ機構の両方を制御して筒内圧変化減少制御を実行するようにしても良い。
【0066】
また、上記各実施例1〜3では、筒内圧変化減少制御の際に、全クランク角領域で吸気バルブと排気バルブの少なくとも一方を開弁させる状態に制御するようにしたが、必ずしも全クランク角領域で吸気バルブと排気バルブの少なくとも一方を開弁させる状態に制御する必要はなく、筒内圧変化を十分に減少させることができれば、吸気バルブと排気バルブの両方が閉弁状態となる期間があっても良い。
【0067】
また、上記各実施例1〜3では、エンジン回転停止制御の際に、オルタネータのトルクを制御するようにしたが、これに限定されず、オルタネータ以外の電動機(例えばハイブリッド車の発電電動機等)のトルクを制御するするようにしても良い。
【符号の説明】
【0068】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、16…スロットルバルブ、19…吸気管圧力センサ(吸気圧検出手段)、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、23…排気管、29…吸気バルブ、30…排気バルブ、31…可変バルブリフト機構(可変バルブ機構)、32…スタータ、33…オルタネータ(電動機)、34…ECU(制御手段)、36…筒内圧センサ(筒内圧判定手段)、37…可変バルブ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン停止要求に応じてエンジン回転を停止させる際にエンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動を電動機のトルクで制御するエンジン回転停止制御を実行する制御手段と、
前記エンジンの逆回転を防止する機構と、
前記エンジンの吸気バルブと排気バルブの少なくとも一方のバルブ開閉特性を変化させる可変バルブ機構とを備え、
前記制御手段は、前記エンジン回転停止制御の実行中に前記エンジンの筒内圧変化を減少させるように前記可変バルブ機構を制御する筒内圧変化減少制御を実行することを特徴とするエンジン回転停止制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、運転者のイグニッションスイッチのオフ操作によって前記エンジン停止要求が発生した場合には前記エンジン回転停止制御及び前記筒内圧変化減少制御を実行しないことを特徴とする請求項1に記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの筒内圧を検出又は推定する筒内圧判定手段を備え、
前記制御手段は、前記筒内圧変化減少制御の実行中に前記筒内圧判定手段で検出又は推定した筒内圧に基づいて前記筒内圧変化減少制御の制御量を補正するための補正値を学習し、その後、前記筒内圧変化減少制御を実行する際に前記補正値を用いて前記筒内圧変化減少制御の制御量を補正することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの吸気圧を検出する吸気圧検出手段を備え、
前記制御手段は、前記吸気圧検出手段で検出した吸気圧に応じて前記筒内圧変化減少制御の制御量を変更することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエンジン回転停止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−136980(P2012−136980A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288760(P2010−288760)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】