説明

エンジン評価装置、エンジン評価方法およびエンジン制御装置

【課題】失火限界にばらつきがある場合であっても、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ること。
【解決手段】運転条件判定部が、エンジンが所定の運転条件を満たすか否かを判定し、運転条件を満たす場合に、開度制御部が、EGR弁の開度を同一の開度方向に徐々に変化させ、燃焼率算出部が、エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、開度制御部によって開度が変化させられるごとに算出し、燃焼率比較部が、算出された燃焼率と基準燃焼率とを比較し、限界値決定部が、燃焼率比較部の比較結果に基づき、通常のエンジン制御で使用可能な開度の上限を示す限界値を決定し、マップ生成部が、決定された限界値と運転条件とを対応付けたマップを生成するようにエンジン評価装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン評価装置、エンジン評価方法およびエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの燃費改善を目的とする排気再循環(EGR;Exhaust Gas Recirculation)を行うに際して、かかるEGR用の制御バルブ(以下、「EGR弁」と記載する)の開度を、エンジンの回転数などに応じて制御するエンジン制御装置が知られている。
【0003】
かかるエンジン制御装置は、エンジンが備える各種機構を制御するための「マップ」と呼ばれる各種パラメータ値を保持しており、前述のEGR弁の開度も、かかる開度に対応するマップに基づいて制御される(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
なお、マップは、エンジン制御装置の生産過程においてエンジン評価装置を用いて行われる「適合」と呼ばれる最適化作業を経て、エンジン制御装置の内部メモリなどにあらかじめ記憶される。
【0005】
ここで、EGR弁の開度に対応するマップは、エンジンの失火限界を目安に適合される。たとえば、EGRによる燃費改善の効果を最大限に得たい場合、マップは、失火限界付近に対応する値で適合されるのが理想的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−70859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、マップを失火限界付近で適合させた場合、実際のエンジンには個体差や経年劣化による失火限界のばらつきが存在するため、エンジンの失火を招きやすいという問題があった。
【0008】
このため、従来技術では、失火限界付近から余裕を持たせた値でマップを適合していた。しかしながら、このように余裕を持たせた分、EGRによる燃費改善の効果を十分に得られなかった。
【0009】
これらのことから、失火限界にばらつきがある場合であっても、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができるエンジン評価装置、エンジン評価方法あるいはエンジン制御装置をいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0010】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであって、失火限界にばらつきがある場合であっても、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができるエンジン評価装置、エンジン評価方法およびエンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、排気再循環用のバルブを備えたエンジンを評価するエンジン評価装置であって、前記エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、前記バルブの開度を同一の開度方向に徐々に変化させる開度制御手段と、前記エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、前記開度制御手段によって前記開度が変化させられるごとに算出する燃焼率算出手段と、前記燃焼率の変化に基づき、通常のエンジン制御で使用可能な前記開度の上限を示す限界値を決定する限界値決定手段と、前記運転条件と前記限界値とを対応付けたマップを生成するマップ生成手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、排気再循環用のバルブを備えたエンジンを制御するエンジン制御装置であって、前記エンジンの所定の運転条件と前記バルブの通常のエンジン制御で使用可能な開度の上限を示す限界値とを対応付けたマップを記憶するマップ記憶手段と、前記運転条件が満たされた場合に、前記開度を所定の基準値から徐々に増加させる開度増加手段と、前記エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、前記開度増加手段によって前記開度が増加されるごとに算出する燃焼率算出手段と、前記燃焼率の変化に基づき、前記マップの前記運転条件に対応する前記限界値を更新する限界値更新手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、EGR弁の開度を同一の開度方向に徐々に変化させ、エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、上記の開度の変化ごとに算出し、算出した燃焼率の変化に基づき、通常のエンジン制御で使用可能な開度の上限を示す限界値を決定し、上記の運転条件とかかる限界値とを対応付けたマップを生成することとしたので、精度の高いマップを生成することができ、失火限界にばらつきがある場合であっても、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明によれば、エンジンの所定の運転条件とEGR弁の通常のエンジン制御で使用可能な開度の上限を示す限界値とを対応付けたマップを記憶し、上記の運転条件が満たされた場合に、上記の開度を所定の基準値から徐々に増加させ、エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を上記の開度の増加ごとに算出し、算出した燃焼率の変化に基づき、上記のマップの運転条件に対応する限界値を更新することとしたので、走行中にマップを動的に適合させることができ、失火限界にばらつきがある場合であっても、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係る失火限界探索手法の概要を示す図である。
【図2】図2は、エンジン評価システムの概略図である。
【図3】図3は、エンジン評価装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、エンジン評価装置における限界値の決定タイミングを示すタイミングチャートである。
【図5】図5は、エンジン評価装置が実行する失火限界探索処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、初期処理Iの処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、エンジン制御装置の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、エンジン制御装置における限界値の更新タイミングを示すタイミングチャートその1である。
【図9】図9は、エンジン制御装置における限界値の更新タイミングを示すタイミングチャートその2である。
【図10】図10は、エンジン制御装置が実行する失火限界探索処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】図11は、初期処理IIの処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る失火限界探索手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る失火限界探索手法の概要について図1を用いて説明した後に、本発明に係る失火限界探索手法を適用したエンジン評価装置およびエンジン制御装置についての実施例を図2から図11を用いて説明することとする。
【0017】
また、以下では、エンジンが、一般的な4ストロークエンジンである場合について説明する。これにともない、以下では、エンジンの1サイクルに対応するクランク角度は「720°」であるものとする。
【0018】
また、以下では、「失火限界」または「限界値」と記載した場合には、通常のエンジン制御で使用可能な、EGR弁の開度の上限を示すものとする。また、「マップ」と記載した場合には、EGRの開度に対応するマップを指すものとする。
【0019】
まず、本発明に係る失火限界探索手法の概要について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る失火限界探索手法の概要を示す図である。
【0020】
EGRとは、エンジンにおいて燃焼後の排気ガスの一部(以下、「EGRガス」と記載する)を取り出し、吸気側へ導いて再度吸気させる技術である。
【0021】
ここで、EGRガスは、燃焼後につき、酸素が含まれていないか希薄な状態にあるため、かかるEGRガスが混合されると、吸気中の酸素濃度は低下する。そして、かかる酸素濃度が低下した状態での燃焼は、燃焼温度を低下させ、冷却損失を低減するため、燃焼率を増加させる。
【0022】
なお、ここにいう燃焼率とは、エンジンの1サイクルにおける、燃料の供給量から見込まれる理想的な発生熱量である目標発生熱量に対する、燃料の燃焼によって実際に発生した実発生熱量の比率を指す。
【0023】
しかしながら、EGRガスが過剰に混合された場合、燃焼を不安定にするため、燃焼率の低下を招いてしまう。このとき、かかる燃焼率の低下が、前述の冷却損失の低減による燃焼率の増加を上回れば、全体的な燃焼率は低下することとなる。
【0024】
そこで、本発明に係る失火限界探索手法では、かかる点に着目し、EGRガスの混合量を徐々に増加させた場合の燃焼率の変曲点に基づいて失火限界を決定することとした。そして、決定した失火限界を用いてマップを生成することとした。なお、ここにいう燃焼率の「変曲点」とは、燃焼率の変化を示す曲線上で曲率の符号(プラスおよびマイナス)が変化する点、言い換えれば、曲線の凹凸が変化する点のことを指す。
【0025】
具体的には、図1に示すように、本発明に係る失火限界探索手法では、EGRガスの混合量に相当するEGR率(EGR弁の開度)を徐々に増加させる(図1の(1)参照)。
【0026】
そして、かかるEGR率の増加ごとの燃焼率を算出し、燃焼率の変曲点を検出する。すなわち、燃焼率が増加ではなく、減少に転じたタイミングを検出する。図1に示した例では、EGR率「e4」のときの、燃焼率「b4」がこれに相当する(図1の(2)参照)。
【0027】
そして、かかる変曲点の直前の燃焼率を算出したEGR率を、失火限界として特定する。すなわち、図1に示した例では、燃焼率「b3」に対応するEGR率「e3」を失火限界として特定することとなる(図1の(3)参照)。そして、特定した失火限界を用いてマップを生成する。
【0028】
これにより、EGR率を徐々に増加させた場合の、燃焼率が最大となるEGR率を特定することができるので、精度の高い失火限界を決定することができる。すなわち、エンジン評価装置を用いた適合作業において、精度の高いマップを生成することが可能となり、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができる。
【0029】
なお、適合作業においては、より精度の高い適合結果を得るために、上述のようにEGR率を徐々に増加させるだけでなく、逆にEGR率を徐々に減少させるパターンの評価が行われる場合もある。ここで、かかるEGR率を減少させるパターンについても、減少ごとの燃焼率の算出、および、燃焼率の変曲点の検出を行って、適合作業に用いることとしてもよい。
【0030】
これにより、たとえば、EGR率を増加させることによって決定した失火限界を、逆にEGR率を減少させることによって裏付けるといった検証を行うことができるので、より精度の高いマップを生成することが可能となる。なお、本明細書においては、主にEGR率を増加させる場合を例に挙げて説明を行うこととする。
【0031】
また、本発明に係る失火限界探索手法を、実際の自動車に搭載されるエンジン制御装置に適用することとしたうえで、走行中に適宜失火限界を探索し、動的にマップを更新することとしてもよい。
【0032】
かかる場合、適合時には吸収しきれないエンジンの個体差や経年劣化による失火限界のばらつきを吸収して、動的にマップを最適化することが可能となる。すなわち、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができる。
【0033】
なお、燃焼率の算出は、エンジンに搭載された筒内圧センサによって検出される筒内圧などに基づいて行われる。かかる燃焼率の具体的な算出手法については、図3を用いた説明で後述する。
【0034】
このように、本発明に係る失火限界探索手法では、EGR率を徐々に増加させた場合の燃焼率の変曲点に基づいて失火限界を決定することとした。そして、決定した失火限界を用いてマップを生成することとした。したがって、本発明に係る失火限界探索手法によれば、失火限界にばらつきがある場合であっても、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができる。
【0035】
以下では、図1を用いて説明した失火限界探索手法を適用したエンジン評価装置、エンジン評価方法についての実施例を実施例1として、エンジン制御装置についての実施例を実施例2として、それぞれ詳細に説明する。また、以下では、上述のEGR率を、主にEGR弁の開度として説明する。
【実施例1】
【0036】
本実施例1では、エンジン評価装置およびエンジン評価方法について説明する。まず、エンジン評価装置を含むエンジン評価システムの概略について図2を用いて説明する。図2は、エンジン評価システムの概略図である。
【0037】
図2に示すように、エンジン評価システムにおけるエンジンは、エアフローセンサ13と、クランク角度センサ14と、筒内圧センサ15と、空燃比センサ(以下、「A/Fセンサ」と記載する)16と、EGR弁17とを備えている。
【0038】
エアフローセンサ13は、吸気管2においてエアクリーナの下流側に配置され、エアクリーナを通過した吸入空気量を検出して、かかる吸入空気量をエンジン評価装置10へ出力するデバイスである。
【0039】
クランク角度センサ14は、クランクの回転角であるクランク角を検出して、かかるクランク角をエンジン評価装置10へ出力するデバイスである。
【0040】
筒内圧センサ15は、シリンダ5内の圧力である筒内圧を検出して、かかる筒内圧をエンジン評価装置10へ出力するデバイスである。
【0041】
A/Fセンサ16は、排気管3において触媒の上流側に配置され、触媒に流入する排気ガスの酸素濃度に基づいてシリンダ5で燃焼された混合気の空燃比を検出して、かかる空燃比をエンジン評価装置10へ出力するデバイスである。
【0042】
EGR弁17は、吸気管2と排気管3とを繋ぐ排気還流管4に配置され、排気還流管4を介して再循環するEGRガスの流量を調整するバルブである。かかるEGR弁17の開度は、エンジン評価装置10からの制御信号に基づいて制御される。
【0043】
そして、エンジン評価装置10は、かかるEGR弁17の開度を徐々に増加させつつ、エアフローセンサ13、クランク角度センサ14、筒内圧センサ15およびA/Fセンサ16などの出力データに基づいてシリンダ5内における燃焼率を算出し、かかる燃焼率の変化に基づいて失火限界、すなわち、EGR弁17の開度の上限を示す限界値を決定する。そして、エンジン評価装置10は、かかる限界値と所定の運転条件とを対応付けたマップを生成する。
【0044】
なお、エンジン評価装置10が生成するマップは、実際の自動車に搭載されるエンジン制御装置10aに組み込まれ、エンジン制御装置10aが、かかるマップに基づいて走行中のEGR弁17の開度を制御することとなる。
【0045】
したがって、図2に示すように、実際の自動車においては、エンジン評価装置10に代わってエンジン制御装置10aが備えられ、エンジン制御システムを構成することとなる。エンジン制御装置10aについては、後述する実施例2において詳細に説明する。
【0046】
次に、実施例1に係るエンジン評価装置10の構成例について、図3を用いて説明する。図3は、エンジン評価装置10の構成を示すブロック図である。なお、図3では、エンジン評価装置10の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0047】
図3に示すように、エンジン評価装置10は、制御部11と、記憶部12とを備えている。また、制御部11は、運転条件判定部11aと、開度制御部11bと、燃焼率算出部11cと、燃焼率比較部11dと、限界値決定部11eと、マップ生成部11fとをさらに備えている。そして、記憶部12は、開度初期値12aと、燃焼率算出定数12bと、基準燃焼率12cと、マップ12dとを記憶する。
【0048】
また、エンジン評価装置10の外部には、図2を用いて既に説明した、エアフローセンサ13、クランク角度センサ14、筒内圧センサ15、A/Fセンサ16およびEGR弁17がそれぞれ配置される。本図3を用いた説明では、これらデバイスの詳細な説明は省略する。
【0049】
制御部11は、エンジン評価装置10の全体制御を行う制御部である。運転条件判定部11aは、エアフローセンサ13から入力した吸入空気量、すなわち、エンジンの負荷や、クランク角度センサ14から入力したクランク角に基づいて演算したエンジンの回転数などから安定した運転状態であるか否かを判定する処理部である。
【0050】
ここで、運転条件判定部11aは、安定した運転状態であると判定した場合、開度制御部11bに対して、かかるエンジンの回転数および負荷の運転条件における失火限界探索の開始を指示する制御信号を出力する。なお、安定した運転状態ではないと判定した場合、運転条件判定部11aは、失火限界探索の開始を留保する。すなわち、運転条件判定部11aは、適合作業にあたって、エンジンを所定の運転条件に制御した状態で保つ処理部であるといえる。
【0051】
開度制御部11bは、運転条件判定部11aから入力した失火限界探索の開始指示に基づき、EGR弁17の開度を徐々に増加させる制御を行う処理部である。なお、本明細書中では、主にEGR率を増加させる場合を例に挙げているが、エンジン評価装置10において、EGR率を減少させるパターンの評価を行う場合には、開度制御部11bは、EGR弁17の開度を徐々に減少させる制御を行う。
【0052】
すなわち、開度制御部11bは、エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、EGR弁17の開度を、増加方向であれば増加方向に、減少方向であれば減少方向にという、いわゆる同一の開度方向に徐々に変化させる制御を行う処理部である。
【0053】
以下、引き続き、EGR率を増加させる場合を例に挙げて説明する。具体的には、開度制御部11bは、EGR弁17を調整するステッピングモータに対して開度を指示する制御信号を出力し、燃焼率算出部11cに対してかかる指示開度における燃焼率の算出指示を通知する。
【0054】
そして、後述する燃焼率比較部11dから開度の増加指示を受けた場合には、現在の指示開度を所定量増加させた開度をあらたな指示開度として、EGR弁17のステッピングモータを制御する制御信号を出力する。
【0055】
なお、エンジン評価装置10においては、運転条件と限界値とを対応付けたマップ12dは生成段階であるので、開度制御部11bは、あらかじめ記憶部12に記憶した開度初期値12aを指示開度の初期値として用いることができる。このとき、開度初期値12aは、明らかに小さな所定値であることが好ましい。
【0056】
燃焼率算出部11cは、開度制御部11bから入力した燃焼率の算出指示に基づいて燃焼率を算出し、算出した燃焼率を燃焼率比較部11dに対して出力する処理を行う処理部である。
【0057】
なお、燃焼率算出部11cは、開度制御部11bの指示開度によって実際にEGR弁17が制御され、かかる指示開度におけるEGRがなじむまで所定時間のウェイトを行ってから燃焼率を算出する。
【0058】
ここで、燃焼率算出部11cが行う燃焼率の算出について、具体的に説明する。まず、燃焼率算出部11cは、クランク角度センサ14から入力したクランク角、筒内圧センサ15から入力した筒内圧などに基づいてクランク角ごとの熱発生率を算出する。
【0059】
ここで、比熱比をκと、筒内圧をPと、筒内体積をVと、クランク角をθと、それぞれあらわしたときのクランク角ごとの熱発生率dQ/dθは、熱力学上のエネルギー保存則に基づき、
【数1】

式(1)によって算出することができる。
【0060】
なお、κなどの燃焼率の算出に関する既知の値は、記憶部12の燃焼率算出定数12bにあらかじめ格納されている。
【0061】
つづいて、燃焼率算出部11cは、式(1)によって算出した点火時期以降の熱発生率を、
【数2】

式(2)によって積算し、燃料燃焼による発生熱量Qを算出する。
【0062】
そして、燃焼率算出部11cは、
【数3】

式(3)によって点火後の積算発生熱量の最大値を今回のサイクルで発生した発生熱量Qとして算出する。
【0063】
また、燃焼率算出部11cは、燃料の低位発熱量をLHVと、シリンダ5内へ供給された燃料の供給量をMfuelと、それぞれあらわしたときの目標発生熱量Qfuel
【数4】

式(4)によって算出する。なお、Mfuelは、インジェクタ(図2参照)の燃料噴射量を用いてもよいし、エアフローセンサ13から入力した吸入空気量、および、A/Fセンサ16から入力した空燃比から演算してもよい。
【0064】
そして、燃焼率算出部11cは、式(3)によって算出したQと、式(4)によって算出したQfuelとを用いて、
【数5】

式(5)によって燃焼率Comb.Rを算出する。
【0065】
次に、燃焼率比較部11dについて説明する。燃焼率比較部11dは、燃焼率算出部11cから入力した燃焼率が、前回算出された燃焼率を示す基準燃焼率12cを上回るか否かを判定する処理を行う処理部である。
【0066】
ここで、燃焼率比較部11dは、燃焼率が基準燃焼率12cを上回ると判定した場合、かかる燃焼率で基準燃焼率12cを更新し、開度制御部11bに対して開度の増加指示を出力する。なお、基準燃焼率12cは、更新される際、現在の指示開度と対応付けて更新されることが好ましい。
【0067】
また、燃焼率比較部11dは、燃焼率が基準燃焼率12cを上回らないと判定した場合、現在の指示開度における燃焼率が変曲点である旨の通知を限界値決定部11eに対して出力する。
【0068】
限界値決定部11eは、燃焼率比較部11dから入力した通知に基づき、基準燃焼率12cに対応する開度を限界値として決定し、決定した限界値をマップ生成部11fに対して出力する処理を行う処理部である。
【0069】
マップ生成部11fは、限界値決定部11eから入力した限界値と運転条件とを対応付けたマップを生成し、マップ12dとして記憶部12へ記憶させる処理を行う処理部である。
【0070】
記憶部12は、ハードディスク、不揮発性メモリあるいはレジスタといった記憶デバイスで構成される記憶部である。記憶部12へ記憶される開度初期値12a、燃焼率算出定数12b、基準燃焼率12cおよびマップ12dのそれぞれについては既に述べたため、ここでの記載を省略する。
【0071】
次に、エンジン評価装置10における限界値の決定タイミングについて、図4を用いて説明する。図4は、エンジン評価装置10における限界値の決定タイミングを示すタイミングチャートである。
【0072】
図4に示すように、時間t0において、エンジンの吸入空気量(すなわち、負荷)および回転数が安定した状態に遷移したものとする。かかる時間t0において、エンジン評価装置10は、かかる運転条件における失火限界探索を開始する。
【0073】
このとき、EGR弁17の開度は、開度初期値12aを初期値として「設定」される(時間t0参照)。なお、図4には、かかる初期値として開度「A0」が設定された場合を示している。
【0074】
そして、エンジン評価装置10は、所定時間Tのウェイトを行った時間「t0+T」のタイミングで、かかる開度「A0」に対応する燃焼率「a0」を「算出」する。このとき、算出された燃焼率「a0」は失火限界探索開始後の初回の基準燃焼率として、基準燃焼率12cへ記憶される。
【0075】
なお、所定時間Tは、算出される燃焼率のばらつきを抑えるために、エンジンの数サイクル程度分とすることが好ましい。
【0076】
つづいて、エンジン評価装置10は、時間t1において、EGR弁17の開度を開度「A1」に「増加」する。そして、時間「t1+T」のタイミングで、かかる開度「A1」に対応する燃焼率「a1」を「算出」する。
【0077】
ここで、エンジン評価装置10は、基準燃焼率12cの燃焼率「a0」と、算出した燃焼率「a1」とを比較する。図4においては、「a0<a1」であるので、エンジン評価装置10は、基準燃焼率12cを燃焼率「a1」で「更新」する(時間t1’参照)。
【0078】
そして、エンジン評価装置10は同様に、時間t2においてはEGR弁17の開度を開度「A2」に「増加」し、かかる開度「A2」に対応する燃焼率「a2」と、基準燃焼率12cの燃焼率「a1」とを比較のうえ、基準燃焼率12cを燃焼率「a2」で「更新」する(時間t2’参照)。
【0079】
そして、図4に示すように、時間t3において「増加」した開度「A3」に対応する燃焼率「a3」が、基準燃焼率12cの燃焼率「a2」を下回ったものとする。かかる場合、エンジン評価装置10は、燃焼率「a3」を変曲点とみなし、前回算出された燃焼率である基準燃焼率12cの燃焼率「a2」に対応する開度「A2」を、EGR弁17の開度の限界値として「決定」する(時間t3’参照)。そして、かかる限界値と運転条件とを対応付けたマップ12dを生成する。
【0080】
そして、時間t4において所定の運転条件を満たさなくなった場合、エンジン評価装置10は、生成したマップ12dの限界値「A2」に基づいてEGR弁17の開度を開度「A2」へ「減少」する。
【0081】
なお、図4に示したタイミングチャートは、1つの所定の運転条件におけるEGR弁17の開度の限界値を探索する場合を示している。したがって、エンジン評価装置10は、種々の運転条件における限界値の探索を時間t0〜t4に示したのと同様に繰り返して、最終的に種々の運転条件における限界値を含んだマップ12dを生成することとなる。
【0082】
次に、エンジン評価装置10が実行する失火限界探索処理の処理手順について図5を用いて説明する。図5は、エンジン評価装置10が実行する失火限界探索処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0083】
図5に示すように、まず、運転条件判定部11aが、エンジンの回転数および負荷に基づき、所定の運転条件を満たすか否かを判定する(ステップS101)。ここで、ステップS101の判定条件を満たす場合(ステップS101,Yes)、エンジン評価装置10は、「初期処理I」を実行した後(ステップS102)、開度制御部11bにEGR弁17の開度を所定量増加させる(ステップS103)。
【0084】
なお、「初期処理I」は、マップ12dの生成過程である適合時にエンジン評価装置10において行われる初期処理である。かかる「初期処理I」については、図6を用いて後述する。
【0085】
一方、ステップS101の判定条件を満たさない場合(ステップS101,No)、ステップS101の処理を繰り返す。
【0086】
つづいて、燃焼率算出部11cが、所定時間のウェイトを行った後(ステップS104)、燃焼率を算出する(ステップS105)。そして、燃焼率比較部11dは、算出された燃焼率が基準燃焼率12cを上回るか否かを判定する(ステップS106)。
【0087】
ここで、ステップS106の判定条件を満たす場合(ステップS106,Yes)、燃焼率比較部11dは、算出された燃焼率で基準燃焼率12cを更新して(ステップS107)、ステップS103以降の処理を繰り返す。
【0088】
一方、ステップS106の判定条件を満たさない場合(ステップS106,No)、限界値決定部11eが、基準燃焼率12cに対応する開度を限界値として決定する(ステップS108)。
【0089】
そして、マップ生成部11fが、決定された限界値と運転条件とを対応付けたマップ12dを生成して(ステップS109)、処理を終了する。
【0090】
なお、本失火限界探索処理は、1つの所定の運転条件ごとに実行されるものであり、最終的には、種々の運転条件で本処理が繰り返され、それらの処理結果をすべて含んだマップ12dが生成されることとなる。
【0091】
次に、図5において示した「初期処理I」の処理手順について図6を用いて説明する。図6は、初期処理Iの処理手順を示すフローチャートである。
【0092】
図6に示すように、初期処理Iにおいて、エンジン評価装置10は、開度制御部11bに、EGR弁17の開度を開度初期値12aで設定させる(ステップS201)。具体的には、開度制御部11bが、開度初期値12aを指示開度とする制御信号をEGR弁17に対して出力する。
【0093】
そして、燃焼率算出部11cが、所定時間のウェイトを行った後(ステップS202)、初回の燃焼率の意味での基準燃焼率を算出する(ステップS203)。算出された基準燃焼率は、基準燃焼率12cの初期値としてセットされる。これらの処理を実行した後、エンジン評価装置10は、初期処理Iを終了する。
【0094】
上述してきたように、実施例1では、エンジンが所定の運転条件を満たした場合に、開度制御部が、EGR弁の開度を同一の開度方向に徐々に変化させ、燃焼率算出部が、エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、開度制御部によって開度が変化させられるごとに算出し、限界値決定部が、算出された燃焼率の変化に基づいて開度の上限を示す限界値を決定し、マップ生成部が、決定された限界値と運転条件とを対応付けたマップを生成するようにエンジン評価装置を構成した。
【0095】
したがって、失火限界にばらつきがある場合であっても、精度の高いマップを生成することができるので、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができる。
【0096】
なお、既に述べたが、実施例1のエンジン評価装置10で生成されたマップ12dは、実際の自動車に搭載されるエンジン制御装置10aに組み込まれ、エンジン制御装置10aはかかるマップ12dに基づいてEGR弁17の開度を制御することとなる。
【0097】
ここで、実際の自動車においては、搭載されるエンジンには個体差があり、また、経年劣化が生じてゆくのが通常である。このため、適合において生成された静的なマップ12dが精度の高いものであっても、失火限界にばらつきは生じうる。
【0098】
そこで、本発明に係る失火限界探索手法をエンジン制御装置10aに適用して、実際に運転中のエンジンの燃焼率から動的にマップ12dを更新すれば、失火限界のばらつきを補って、個別の自動車ごとに精度の高いEGR弁17の制御を行うことが可能となる。以下に示す実施例2では、かかる場合について説明することとする。
【実施例2】
【0099】
本実施例2では、エンジン制御装置10aについて説明する。図7は、エンジン制御装置10aの構成を示すブロック図である。なお、図7では、図3に示した実施例1に係るエンジン評価装置10と同一の構成要素には同一の符号を付しており、実施例1と重複する構成要素についての説明は省略するか簡単な説明にとどめることとする。
【0100】
図7に示すように、エンジン制御装置10aは、開度増加部11b’を開度制御部11bに代えて、限界値更新部11gを限界値決定部11eおよびマップ生成部11fに代えて、それぞれ備える点で、上述した実施例1に係るエンジン評価装置10とは異なる。
【0101】
また、記憶部12に開度初期値12aを記憶しない点で、上述した実施例1に係るエンジン評価装置10とは異なる。
【0102】
開度増加部11b’は、所定の運転条件において、あらかじめ記憶されたマップ12dの運転条件に対応する限界値に基づき、EGR弁17の開度を徐々に増加させる制御を行う処理部である。
【0103】
具体的には、マップ12dの限界値を所定量減少させた開度を基準値として設定し、開度の増加を開始する。これは、走行中の失火限界探索において、過剰にEGRが行われ、エンジンが失火するのを防止する役割を果たす。
【0104】
限界値更新部11gは、燃焼率比較部11dから入力した、現在の指示開度における燃焼率が変曲点である旨の通知に基づき、基準燃焼率12cに対応する開度を限界値として推定し、推定した限界値とマップ12dの限界値とが異なる場合に、推定した限界値でマップ12dの限界値を更新する処理を行う処理部である。
【0105】
なお、ここにいう推定した限界値とマップ12dの限界値とが異なる場合とは、推定した限界値がマップ12dの限界値を上回る場合、および、下回る場合の双方を含む。この点は、つづく図8および図9を用いた説明で示すこととする。
【0106】
次に、エンジン制御装置10aにおける限界値の決定タイミングについて、図8および図9を用いて説明する。図8は、エンジン制御装置10aにおける限界値の決定タイミングを示すタイミングチャートその1であり、図9は、エンジン制御装置10aにおける限界値の決定タイミングを示すタイミングチャートその2である。
【0107】
図8に示すように、時間t0において、エンジンの吸入空気量および回転数が安定した状態に遷移したものとする。かかる時間t0において、エンジン制御装置10aは、かかる運転条件における失火限界探索を開始する。なお、探索開始前のマップ12dの限界値は開度「A2」であるものとする。
【0108】
このとき、エンジン制御装置10aは、EGR弁17の開度を、開度「A2」から所定量「減少」させる。なお、図8には、開度「A2」から開度「A0」へ減少された場合を示している。
【0109】
そして、エンジン制御装置10aは、時間「t0+T」のタイミングで、かかる開度「A0」に対応する燃焼率「a0」を「算出」する。このとき、算出された燃焼率「a0」は、基準燃焼率12cへ記憶される。
【0110】
つづいて、エンジン制御装置10aは、時間t1において、EGR弁17の開度を開度「A1」に「増加」する。そして、時間「t1+T」のタイミングで、かかる開度「A1」に対応する燃焼率「a1」を「算出」する。
【0111】
ここで、エンジン制御装置10aは、基準燃焼率12cの燃焼率「a0」と、算出した燃焼率「a1」とを比較する。図8においては、「a0<a1」であるので、エンジン制御装置10aは、基準燃焼率12cを燃焼率「a1」で「更新」する(図中の時間t1’参照)。
【0112】
以下、同様に、エンジン制御装置10aは、EGR弁17の開度を、順に開度「A3」に至るまで「増加」させ、基準燃焼率12cを燃焼率「a3」で更新したものとする(図中の時間t2〜t3’参照)。
【0113】
すなわち、エンジン制御装置10aは、マップ12dの限界値「A2」を上回る開度「A3」であっても、かかる開度「A3」に対応する燃焼率「a3」が、マップ12dの限界値「A2」に対応する燃焼率「a2」を上回るならば、失火限界探索を継続する。
【0114】
そして、図8に示すように、時間t4において「増加」した開度「A4」に対応する燃焼率「a4」が、基準燃焼率12cの燃焼率「a3」を下回ったものとする。かかる場合、エンジン制御装置10aは、燃焼率「a4」を変曲点とみなし、基準燃焼率12cの燃焼率「a3」に対応する開度「A3」をあらたな限界値として推定する。
【0115】
そして、かかる推定した限界値とマップ12dの限界値とが異なる場合に、推定した限界値でマップ12dの限界値を「更新」する。なお、図8では、マップ12dの限界値は、「A2」から「A3」へ「更新」される(図中の時間t4’参照)。
【0116】
そして、時間t5において所定の運転条件を満たさなくなった場合、エンジン制御装置10aは、更新したマップ12dの限界値「A3」に基づいてEGR弁17の開度を、開度「A4」から「A3」へ「減少」することとなる。
【0117】
つづいて、図9を用いた説明に移る。なお、図9を用いた説明では、図8と重複する内容についてはその記載を省略する。
【0118】
図9に示すように、エンジン制御装置10aは、EGR弁17の開度を、図8の場合と同様に、順に開度「A1」に至るまで「増加」させ、基準燃焼率12cを燃焼率「a1」で更新したものとする(図中の時間t0〜t1’参照)。
【0119】
そして、図9に示すように、時間t2において「増加」した開度「A2」に対応する燃焼率「a2」が、基準燃焼率12cの燃焼率「a1」を下回ったものとする。かかる場合、エンジン制御装置10aは、燃焼率「a2」を変曲点とみなし、基準燃焼率12cの燃焼率「a1」に対応する開度「A1」をあらたな限界値として推定する。
【0120】
そして、かかる推定した限界値とマップ12dの限界値とが異なる場合に、推定した限界値でマップ12dの限界値を「更新」する。なお、図9では、マップ12dの限界値は、「A2」から「A1」へ「更新」される(図中の時間t2’参照)。
【0121】
すなわち、エンジン制御装置10aは、失火限界探索前のマップ12dの限界値「A2」を下回る開度「A1」であっても、かかる開度「A1」に対応する燃焼率「a1」が、限界値「A2」に対応する燃焼率「a2」を上回るならば、かかる開度「A1」でマップ12dの限界値を更新する。
【0122】
そして、時間t3において、エンジン制御装置10aは、更新したマップ12dの限界値「A1」に基づいてEGR弁17の開度を、開度「A2」から「A1」へ「減少」することとなる。
【0123】
ところで、図8および図9を用いた説明では、失火限界探索処理の終了時にマップ12dの限界値を更新する例を示したが、基準燃焼率12cの更新タイミングにあわせて、マップ12dの限界値を基準燃焼率12cで随時更新することとしてもよい。
【0124】
かかる場合、失火限界探索処理が、たとえば、各デバイスの通信異常などによって途中で終了した場合であっても、エンジン制御装置10aは、マップ12dに基づくことで、少なくともエンジンの失火を生じさせることなくEGR制御を行うことができる。
【0125】
また、かかる場合のマップ12dの限界値を初期値として失火限界探索処理を再開させることで、処理時間の短縮化を図ることができる。
【0126】
次に、エンジン制御装置10aが実行する失火限界探索処理の処理手順について図10を用いて説明する。図10は、エンジン制御装置10aが実行する失火限界探索処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0127】
なお、図10では、図5に示した実施例1に係るエンジン評価装置10が実行する失火限界探索処理と重複する処理手順については、図5と同一のステップ番号を付し、その説明も省略するか簡単な説明にとどめることとする。
【0128】
図10に示すように、まず、運転条件判定部11aが、所定の運転条件を満たすか否かを判定する(ステップS101)。ここで、ステップS101の判定条件を満たす場合(ステップS101,Yes)、エンジン制御装置10aは、「初期処理II」を実行した後(ステップS102’)、開度増加部11b’にEGR弁17の開度を所定量増加させる(ステップS103)。
【0129】
なお、「初期処理II」は、実際の自動車の走行中にエンジン制御装置10aにおいて行われる初期処理である。かかる「初期処理II」については、図11を用いて後述する。
【0130】
一方、ステップS101の判定条件を満たさない場合(ステップS101,No)、ステップS101の処理を繰り返す。
【0131】
つづくステップS104からステップS107へかけての処理手順は、実施例1に係るエンジン評価装置10の場合と同様であるため、ここでの記載を省略する。
【0132】
そして、ステップS106において、燃焼率比較部11dが、算出された燃焼率が基準燃焼率12cを上回らないと判定した場合(ステップS106,No)、限界値更新部11gは、基準燃焼率12cに対応する開度を限界値として推定し、推定した限界値とマップ12dの限界値とが異なるか否かを判定する(ステップS110)。
【0133】
ここで、ステップS110の判定条件を満たす場合(ステップS110,Yes)、限界値更新部11gは、推定した限界値、すなわち、基準燃焼率12cに対応した開度で、マップ12dの限界値を更新し(ステップS111)、処理を終了する。
【0134】
一方、ステップS110の判定条件を満たさない場合(ステップS110,No)、限界値更新部11gは、マップ12dの限界値を保持したまま(ステップS112)、処理を終了する。
【0135】
次に、図10において示した「初期処理II」の処理手順について図11を用いて説明する。図11は、初期処理IIの処理手順を示すフローチャートである。
【0136】
なお、図11では、図6に示した初期処理Iと重複する処理手順については、図6と同一のステップ番号を付し、その説明も省略するか簡単な説明にとどめることとする。
【0137】
図11に示すように、初期処理IIにおいて、エンジン制御装置10aは、開度増加部11b’に、EGR弁17の開度をマップ12dの限界値より小さい値で設定させる(ステップS201’)。具体的には、マップ12dの限界値を所定量減少させた開度を初期値として設定し、開度の増加を開始する。
【0138】
そして、所定時間のウェイトを行った後(ステップS202)、基準燃焼率を算出する(ステップS203)。これらの処理を実行した後、エンジン制御装置10aは、初期処理IIを終了する。
【0139】
上述してきたように、実施例2では、記憶部が、エンジンの所定の運転条件とEGR弁の開度の上限を示す限界値とを対応付けたマップを記憶し、開度増加部が、エンジンが運転条件を満たした場合に、EGR弁の開度を徐々に増加させ、燃焼率算出部が、開度が増加されるごとに、エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を算出し、限界値更新部が、算出された燃焼率の変化に基づき、マップの運転条件に対応する限界値を更新するようにエンジン制御装置を構成した。
【0140】
したがって、エンジンの個体差や経年劣化による失火限界にばらつきがある場合であっても、走行中に個別の自動車ごとに動的にマップを更新することができるので、EGRによる燃費改善の効果を十分に得ることができる。
【0141】
なお、実施例2では、実施例1のエンジン評価装置10における適合によって最適化された精度の高いマップ12dが、あらかじめエンジン制御装置10aに組み込まれている場合について説明したが、実施例2のエンジン制御装置10aにおいて初めてマップ12dを最適化することとしてもよい。
【0142】
かかる場合、エンジン制御装置10aには、雛形となるマップ12dを組み込んでおくこととしたうえで、実際の自動車の走行中に、エンジン制御装置10aにおいて動的にかかるマップ12dを適合させればよい。
【0143】
このように、走行中に適宜マップ12dを適合させることによって、エンジン評価装置10による適合を簡略化あるいは不要とすることができ、エンジン制御装置10aの生産過程におけるコスト低減を図ることができる。
【0144】
また、上述した各実施例では、燃焼率の変曲点に基づく例を示したが、燃焼率の平均値の変曲点に基づいてもよい。さらに、平均値が高く、かつ、分散の少ない燃焼率の変曲点に基づいてもよい。これらの場合、データのノイズ成分やばらつきを抑えることができるので、誤検出を防ぐことができ、より精度の高いマップの生成および更新を可能にすることができる。
【0145】
また、上述した各実施例では、ステッピングモータによってEGR弁の開度を調整する場合について説明したが、いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)によってデューティ比制御が可能なモータを用いてもよい。かかる場合、EGR弁の開度を細かく制御できるので、データのプロット点を増やすことができ、より精度の高いマップの生成および更新を可能にすることができる。
【0146】
また、上述した各実施例では、エンジンが4ストロークエンジンであり、かかるエンジンの1サイクルのクランク角が「720°」である場合について説明したが、エンジン形式などを限定するものではない。
【0147】
また、上述した各実施例では、自動車のエンジンを評価するエンジン評価装置、および、かかるエンジンを制御するエンジン制御装置に適用する場合について主に説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、種々の異なる内燃機関を制御する内燃機関評価装置および内燃機関制御装置にて実施されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0148】
以上のように、本発明に係るエンジン評価装置、エンジン評価方法およびエンジン制御装置は、失火限界にばらつきがある場合であっても、精度よくEGR弁の開度を制御したい場合に有用であり、特に、燃費改善性能の向上を企図して開発されるエンジン制御装置およびエンジン制御システムへの適用に適している。
【符号の説明】
【0149】
2 吸気管
3 排気管
4 排気還流管
5 シリンダ
10 エンジン評価装置
10a エンジン制御装置
11 制御部
11a 運転条件判定部
11b 開度制御部
11b’ 開度増加部
11c 燃焼率算出部
11d 燃焼率比較部
11e 限界値決定部
11f マップ生成部
11g 限界値更新部
12 記憶部
12a 開度初期値
12b 燃焼率算出定数
12c 基準燃焼率
12d マップ
13 エアフローセンサ
14 クランク角度センサ
15 筒内圧センサ
16 A/Fセンサ
17 EGR弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気再循環用のバルブを備えたエンジンを評価するエンジン評価装置であって、
前記エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、前記バルブの開度を同一の開度方向に徐々に変化させる開度制御手段と、
前記エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、前記開度制御手段によって前記開度が変化させられるごとに算出する燃焼率算出手段と、
前記燃焼率の変化に基づき、通常のエンジン制御で使用可能な前記開度の上限を示す限界値を決定する限界値決定手段と、
前記運転条件と前記限界値とを対応付けたマップを生成するマップ生成手段と
を備えたことを特徴とするエンジン評価装置。
【請求項2】
排気再循環用のバルブを備えたエンジンを評価するエンジン評価装置であって、
前記エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、前記バルブの開度を徐々に増加させる開度制御手段と、
前記エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、前記開度制御手段によって前記開度が増加されるごとに算出する燃焼率算出手段と、
前記燃焼率の変化に基づき、通常のエンジン制御で使用可能な前記開度の上限を示す限界値を決定する限界値決定手段と、
前記運転条件と前記限界値とを対応付けたマップを生成するマップ生成手段と
を備えたことを特徴とするエンジン評価装置。
【請求項3】
前記燃焼率は、
前記燃料の供給量から見込まれる発生熱量である目標発生熱量に対する、前記燃料の燃焼によって実際に発生した実発生熱量の比率であって、
前記限界値決定手段は、
算出された前記燃焼率が前回算出された前記燃焼率よりも低下した場合に、前回算出された前記燃焼率に対応する前記開度を前記限界値として決定することを特徴とする請求項2に記載のエンジン評価装置。
【請求項4】
前記運転条件は、
前記エンジンの回転数および負荷の組み合わせを含むことを特徴とする請求項2または3に記載のエンジン評価装置。
【請求項5】
排気再循環用のバルブを備えたエンジンを評価するエンジン評価方法であって、
前記エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、前記バルブの開度を同一の開度方向に徐々に変化させる開度制御工程と、
前記エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、前記開度制御工程によって前記開度が変化させられるごとに算出する燃焼率算出工程と、
前記燃焼率の変化に基づき、通常のエンジン制御で使用可能な前記開度の上限を示す限界値を決定する限界値決定工程と、
前記運転条件と前記限界値とを対応付けたマップを生成するマップ生成工程と
を含んだことを特徴とするエンジン評価方法。
【請求項6】
排気再循環用のバルブを備えたエンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記エンジンの所定の運転条件と前記バルブの通常のエンジン制御で使用可能な開度の上限を示す限界値とを対応付けたマップを記憶するマップ記憶手段と、
前記運転条件が満たされた場合に、前記開度を所定の基準値から徐々に増加させる開度増加手段と、
前記エンジンのシリンダ内へ供給された燃料の燃焼率を、前記開度増加手段によって前記開度が増加されるごとに算出する燃焼率算出手段と、
前記燃焼率の変化に基づき、前記マップの前記運転条件に対応する前記限界値を更新する限界値更新手段と
を備えたことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項7】
前記開度増加手段は、
前記限界値よりも小さい値を前記基準値として前記開度の増加を開始することを特徴とする請求項6に記載のエンジン制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−36333(P2013−36333A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170211(P2011−170211)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】