説明

エンドトキシンの除去および精製工程

脂質基を有する水溶性汚染物質、例えばエンドトキシンを含む水性組成物の精製工程において、該組成物をその汚染物質と複合体を形成する親油性成分と接触させ、その複合体よりもサイズの大きな物質を除去する第一工程、および該複合体を除去する第二工程を含む精製工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精製工程、特に植物抽出物からエンドトキシンを除去する工程に関する。
【背景技術】
【0002】
植物抽出物を治療またはその他の用途に用いることは何千年も理解されてきた。薬草その他の植物から有用な物質、特にオイルを抽出するため、ますます高性能の技術が用いられて来た。生成物は一般に経口で摂取される傾向にあり、植物抽出物から汚染物質を除去することが当然に望まれる。
米国特許6024998号は、飲料および野菜調製品中に見出される、望ましくない親油性汚染物質の除去方法について開示する。これら汚染物質の中には、殺虫剤その他の毒性物質が含まれ、これらは、概して植物成長にあたり適用されて土壌に蓄積され植物部分に保有されたものである。米国特許6024998号に開示の方法は、汚染物質が溶解され濃縮される親油層と野菜調製物を混合し、続いてこの親油層を例えばろ過により除去することを含む。こうして、植物全体を保持しながら外来の汚染物質は除去することができる。
【0003】
国際公開公報WO03/101479号は、カモミール抽出物を含む治療用生成物を記載する。該抽出物は抗炎症作用を有することが示唆されており、好ましいのは注射での投与であって、その場合炎症を軽減するのに有用であるとされる。
細胞壁に見出されるタイプのエンドトキシンは注射製剤の成分として好ましくない発熱成分である。典型的な最大規制限度は75 Eunit/mlで、初期標的の100 Eunit/ml未満が望ましい。
【発明の開示】
【0004】
発明を要約すると、以下の通りである。
エンドトキシン類は一般に水溶性物質であり、米国特許6024998号記載の方法によっては、除去されることがあっても選択的に除去されることはない。しかしながら、エンドトキシンは親油性物質と複合体を形成する脂質基を有しており、類似の手段によりこれを除去することは可能である。
本発明によれば、脂質基を有する水溶性汚染物質を含む水性組成物の精製工程において、該組成物をその汚染物質と複合体を形成する親油性成分と接触させる;それからその複合体よりもサイズの大きな物質を除去する第一工程が続き、さらに該複合体を除去する第二工程が続く。新規な工程では、第二除去工程は典型的には限外ろ過であり、親油性成分と複合体を形成したエンドトキシンを除去する。その限外ろ過工程を阻害する大きな成分を除くために、第一ろ過またはその他の工程が必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明で使用される親油性成分は米国特許6024998号に記載の成分と同じものが使用できる。その成分は親油性汚染物質が溶解した親油性層の比較的大きな滴を形成する一方、本発明の特徴はその物質が、エンドトキシンのような全体的に水溶性の分子の脂質基と複合体を形成することもできる点にある;その複合体の大きさは、限外ろ過では除去されるが上記の滴を除くのに十分な精密ろ過ではろ過できないサイズである。従って、本発明で使用される物質は先行技術と同じであるが、手順が必然的に異なる。
基本的には、エンドトキシンおよびまた抗原もタンパク質と脂質がぶら下がった炭水化物である;脂質基の存在は適切な親油性物質と複合体を形成するのに十分であるが、炭水化物分子が有する一般的に水溶性の性質は譲らない。発熱分子は注射により炎症効果を有するので、注射医薬からは極力除去しなければならない。
【0006】
本発明は、国際公開公報WO03/101479号に記載の薬物調製におけるカモミールからの好ましくない成分の除去に特に適している。植物体カモミール(Matricaria recutita)の頭状花(頭状花序)は二つの部分、即ち、黄色の円盤状または管状の花若しくは小筒花(flores tubiformisまたはtubiflorum)と白色の放射状花若しくは小筒花(flores ligutatea)からなる。前者は特に興味深く、本発明の手段によりカモミール頭状花/植物体の他の部分から小筒花を分離し、黄色部を水中に抽出し、抽出物の単離・エンドトキシンの除去により有用な生成物を得ることができる。それでも、本発明は薬草またはその他の植物体に適用することができて、その例は米国特許6024998号に記載されており、その内容を参考までにここに引用する。
【0007】
本発明で適切に使用される親油性成分がまた米国特許6024998号に記載されている。この成分は動物や野菜、鉱物由来若しくは合成品であり、好ましくは非毒性である。適切な材料の例としては、ココアバターやココナッツ油脂のような脂質;中性油、ヒマワリ油および分留ココナッツ油のような油;ステアリン、ホホバ油、ハチミツロウ、鯨ロウおよびカマウバロウのようなワックス類;ワセリンを含むパラフィン類;脂質類;ステロール類等が含まれる。これらすべて、単品または混合物として使用する場合も、ドイツ薬局方、英国薬局方、欧州薬局方または米国食品用公定化学品集の要件を満たすものが好ましい。特に好ましいものは、ミグリオール(商標)、ジグリセリド、トリグリセリドおよびヒマシ油である。最後の材料は極性基を含む長鎖脂肪酸の例である、リシノール酸を含む。
【0008】
本発明に従って精製工程の対象とされ得る水性抽出物は水溶性成分の多成分混合物を含む。それは、適当な植物部分に水を加え、得られた懸濁液を通常、水の沸点温度、例えば90〜94℃以下の温度に加熱して得られる。
次いでその水性抽出物を二つのろ過工程に供する。説明の目的でのみ以下に述べると、それぞれ精密ろ過および限外ろ過である。その他の技術としては親油性バリアーの使用が適切である。各ろ過工程は、一度、二度または望むならば二度より多い段階に分けて行ってもよい。
上記の通り、精密ろ過は、そうでないと限外ろ過工程の有効性を損なうような物質を除去するために適用される。実際、米国特許6024998号に記載されるとおり、精密ろ過は汚染物質を除去するかも知れない。典型的には少なくとも0.1μmのポアサイズを有するフィルターを用いることを含む。続く限外ろ過のポアサイズは典型的には0.001〜0.01、例えば最大0.1μmである。
【0009】
各ろ過工程は、例えばガラス、金属、セラミックまたは合成プラスチックのような物質の合成膜を使用し、膜分離により行うことが好ましい。
精密ろ過に適した材料には、ポロプロピレンおよびポリテトラフルオルエチンが含まれる。
限外ろ過に適した材料には、ポリエーテルスルフォンおよび再生セルロースが含まれる。
二つの液相が分離されるとき、好ましくは膜技術を用いて行われる。このためには、管状またはいわゆる「クロスフロー」膜が好ましい。
生成物は治療に用いることが意図され得る。そうすると生成物は無菌であるべきで、適切な生成工程は無菌状態であることが望ましい。そのような工程は添付した図1Bの19、21、23および26である。そのような手順は続く実施例1〜5に説明される。また実施例6は改訂プロトコールを用いて、本発明を説明する。実施例7〜11は比較例である。
【0010】
下記の実験はろ過のカスケードと植物油添加の組み合わせが細菌の細胞壁断片の完全若しくはほぼ完全な除去につながることを示している。当業者にとってそのような断片は細菌エンドロキシンまたは発熱物質としてよく知られている。これらリポ多糖類またはマクロ分子は多糖類糖鎖に結合したリピドAより成り、グラム陰性菌の細胞壁を主として構成する物質である。この複雑なマクロ分子は水溶性であるが、驚くべきことに植物油と複雑な高分子を形成して懸濁状となり、分子量排除技術、好ましくは限外ろ過装置により保持することが可能である。分子量ろ過精密ろ過は大きな細胞壁断片や、除いておかないと限外ろ過装置の孔を塞いでしまうような植物材料の粘着性細胞壁分解物の除去に有利である。実施例で得られた試料の細菌エンドトキシンの分析は希釈率1 :10.000でキャンプレクス・パイロジェン(Cambrex PyroGene)試験を行うことにより実施した。
【実施例】
【0011】
実施例1および2
黄色の筒状カモミール花(Chamomilla recutita)45gに水900g(精製水、薬局方ヘルヴェティカ)を加えた。この混合物を20分から30分間90℃から94℃に加熱した。それからこの混合物を温度が30〜35℃となるまで室温(15℃〜25℃)に放置した。
薬物残渣を深層ろ過により除いた。得られた粗ろ液を0.22μm膜でろ過して透明にした。
透明なろ液に、抽出量に対して0.3%(実施例1)または0.1%(実施例2)のヒマシ油(欧州薬局方グレード)を加えた。混合物全体を5分間ホモジネートした。調製した抽出物を0.22μm膜にてろ過し(接線流モード)未透過体を回収した。
得られた透過液を0.1μm膜にてろ過し(接線流モード)未透過体を回収した。最後に、得られた透過液を1000kDa膜にてろ過し(接線流モード)未透過体を回収した。それぞれの最終ろ液の残存細菌エンドトキシンは<100EU/mlであった。
【0012】
実施例3〜5
ヒマシ油に換え、抽出量に対して0.3%(実施例3)または0.1%(実施例4)のミグリオール(欧州薬局方)を透明なろ液に加える以外は同様にして、実施例1を繰り返した。
それぞれの最終ろ液の残存細菌エンドトキシンは<100EU/mlであった。
【0013】
実施例6
プロトコールを修正し、オートクレーブ中ではなく10リットルの二重容器中(加熱装置最高温度140℃)で撹拌し加熱と冷却を実施した。ヒマシ油に換えてミグリオールを加えた。そのミグリオールはハンスラー(Hanseler)の「非経口投与用ミグリオール812」を用いた。ホモジナイズに換えて室温で10分間混合物を撹拌した。
初期の工程における精密ろ過では、ミリポア・ペリコン2システム(Millipore Pellicon 2 systems)を利用していたが、よりよい実行可能性と時間のかかる清掃工程の回避のため、本実施例の精密ろ過では以下の装置を用いた;
【0014】
【表1】

尚、抽出物の安定化のためにフェノールを加えた。添加したフェノール量は6.0〜8.0 mg/mlであり、1000 kDaろ過の後に添加した。添加の後、フェノールがすべて溶解するまでおよそ10分間懸濁液を撹拌した。エンドトキシンはそれぞれの場合において低レベルであった。
【0015】
実施例7(比較例)
最後の二つのろ過工程を省略すること以外は同様にして実施例1を繰り返した。最終ろ液の残存細菌エンドトキシンは1917EU/mlであった。
実施例8(比較例)
最後のろ過工程を省略すること以外は同様にして実施例1を繰り返した。最終ろ液の残存細菌エンドトキシンは1556EU/mlであった。
実施例9(比較例)
ヒマシ油を用いず、また最後の二つのろ過工程を省略すること以外は同様にして実施例1を繰り返した。最終ろ液の残存細菌エンドトキシンは3095EU/mlであった。
実施例10(比較例)
ヒマシ油を用いず、また最後のろ過工程を省略すること以外は同様にして実施例1を繰り返した。最終ろ液の残存細菌エンドトキシンは4839EU/mlであった。
実施例11(比較例)
ヒマシ油を用いないこと以外は同様にして実施例1を繰り返した。最終ろ液の残存細菌エンドトキシンは2068EU/mlであった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1Aおよび図1Bはそれぞれ発明の態様に含まれる工程を表すフローチャートである。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質基を有する水溶性汚染物質を含む水性組成物の精製において、該組成物をその汚染物質と複合体を形成する親油性成分と接触させ、その複合体よりもサイズの大きな物質を除去する第一除去工程とさらに該複合体を除去する第二除去工程を含む、精製工程。
【請求項2】
該組成物が、植物抽出物である、請求項1の工程。
【請求項3】
該抽出物が、水性抽出物である、請求項2の工程。
【請求項4】
該植物がカモミールである、請求項2または3の工程。
【請求項5】
該抽出物が、小筒花の抽出物である、請求項4の工程。
【請求項6】
該水溶性汚染物質がタンパクを含む炭水化物である、先行する請求項のいずれかに記載の工程。
【請求項7】
該汚染物質がエンドトキシンである、請求項6の工程。
【請求項8】
該親油性成分がオイルである、先行する請求項のいずれかに記載の工程。
【請求項9】
最初の除去工程が精密ろ過を含む、先行する請求項のいずれかに記載の工程。
【請求項10】
該精密ろ過が少なくとも0.1μmの孔径を有するフィルターを使用する、請求項9の工程。
【請求項11】
第二の除去工程が限外ろ過を含む、先行する請求項のいずれかに記載の工程。

【公表番号】特表2009−515938(P2009−515938A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540680(P2008−540680)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004240
【国際公開番号】WO2007/057651
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(503194819)ベリトロン・リミテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】VERITRON LIMITED
【Fターム(参考)】