説明

エンハンサー剤組成物、及びそれを用いたガス発生器

【課題】5−アミノテトラゾールの熱的経時分解を抑制でき、発熱量が高く、耐熱性に優れ、自動発火性機能を付与したエンハンサー剤組成物及びそれを用いたガス発生器を提供する。
【解決手段】次の各成分を含むことを特徴とするエンハンサー剤組成物。(a)5−アミノテトラゾール、(b)金属粉末、(c)硝酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の硝酸塩、(d)熱可塑性エラストマー

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エアバック装置のガス発生器に用いられるエンハンサー剤(伝火剤)として使用可能な、新規火薬組成物に関する。特に、高い発熱量を有し且つ耐熱性を有することを特徴とするエンハンサー剤組成物に関する。更に、それを用いたガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバック装置は、自動車乗員の安全性向上のため、近年広く採用されている乗員保護装置である。その動作原理は、センサが衝突を検知することにより電気信号を発し、この電気信号を受信したガス発生器が迅速に作動してガスを発生させてエアバックを展開し、乗員の衝突による衝撃をやわらげる働きをする。
【0003】
このガス発生器が作動する順序としては、ガス発生器に内在する点火装置が、センサからの信号を受信して起動し、点火装置に内在される第1の火薬組成物である点火薬を発火させる。次に点火装置からの発火炎が、これに近接し配置される第2の火薬組成物であるエンハンサー剤を着火する。エンハンサー剤は火炎を増幅し、ガス発生器に充填されたガス発生剤に伝火させて、ガス発生剤を燃焼させる。ここでエンハンサー剤の役目は、点火装置からの発火炎を継起して燃焼し、ガス発生剤に十分な熱量を与えて、ガス発生剤の燃焼を促すことにある。これより、ガス発生器は所定の設計通り、着火遅れをすることなく、本来の性能を発揮する。したがって、エンハンサー剤に求められる特性は、伝火力を担う金属の粒子を含み、燃焼における発熱量が高く、迅速にその熱エネルギーをガス発生剤に伝達できることが理想的である。すなわち、金属熱粒子の飛散によって、直接ガス発生剤に着火させるため、温度依存性が少なく安定した着火性能が得られるためである。
【0004】
従来、使用されているエンハンサー剤は、ホウ素と硝酸カリウムを主成分とした、所謂ボロン硝石が知られている。これは瞬時に燃焼し、且つ高い発熱量を発生すること、ホウ素の熱粒子が発生し、着火を促進することなどの利点から多用されている。更にボロン硝石の自己発火反応開始温度は470℃以上であり、熱的に極めて安定な組成である。しかしながらこのボロン硝石は、燃焼時の発生ガスモル数が少ないため、着火性の悪いガス発生剤に対して着火が不安定になる問題がある。
【0005】
特許文献1には、ホウ素と硝酸カリウムに、更に5−アミノテトラゾール、及び三酸化モリブデンを含有する自動発火性エンハンサー剤組成物を開示している。このエンハンサー剤組成物は、5−アミノテトラゾールの燃焼に由来する適度な発生ガスにより、発熱エネルギー及び熱ホウ素粒子が、ガス発生剤の表面全体に広く伝播させることができ、ガス発生剤を安定して着火させることができる。しかしながら、該エンハンサー剤組成物は反応開始温度が180℃と、ボロン硝石組成に比べて低くなっているため、高温環境下でガス発生器が放置された際に、熱的経時劣化を受けることが懸念される。特に、熱分解が懸念される5−アミノテトラゾールを含むため、高温環境下でガス発生器が放置された際に、該エンハンサー剤が熱的経時劣化を受けることが懸念される。
【0006】
特許文献2には、5−アミノテトラゾール、硝酸カリウムを主成分とし、自動発火性発現のための触媒として三酸化モリブデン、バインダとして合成ヒドロタルサイトを含有する自動発火性エンハンサー剤組成物を記載している。これは発熱量がボロン硝石に比較して低く、金属の熱粒子をほとんど含まないために、ガス発生器の着火後れや、出力不足となる恐れがある。また、組成物としてガス発生源である5−アミノテトラゾールの分解を抑制する機構はなく、高温環境下における安定性の向上が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−80986号公報
【特許文献2】国際公開第97/20786号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エアバッグ用ガス発生器は、自動車安全部品の一部として車内に設置されるため、実際の様々な使用条件に即した耐環境性能を有することが必要である。特にガス発生器に装填されるガス発生剤、エンハンサー剤等の火薬組成物は熱応答性の反応性物質であり、熱的経時劣化を受け易い物性である。夏季等において、車内温度は極度に高温状態に達し、高温に長時間晒される環境下、ガス発生器内のガス発生剤及びエンハンサー剤が、熱による成分の分解を受け、所定の性能を発揮できなくなる可能性がある。特に、反応開始温度が低く、熱感度の鋭感なエンハンサー剤は、熱的経時劣化を受け易い物性である。従来のエンハンサー剤は、車両内の環境を想定した100℃程度の耐熱試験を課すことにより、成分の分解、燃焼性能の低下といった耐熱劣化を保証していたが、より過酷な環境での使用に耐え得る耐熱安定性に優れたエンハンサー剤が希求されている。
本発明は、熱的経時劣化を受けやすい5−アミノテトラゾールを用いたエンハンサー剤組成物において、十分な発熱量を有する、耐熱性に優れたエンハンサー剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エンハンサー剤組成物において熱可塑性エラストマーを採用することにより、5−アミノテトラゾールの熱的経時分解を抑制でき、発熱量が大きく、耐熱性に優れたエンハンサー剤が得られるという着想を得、それを具現化することにより本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の内容をその要旨とするものである。
(1) 次の各成分を含むことを特徴とするエンハンサー剤組成物。
(a)5−アミノテトラゾール、
(b)金属粉末、
(c)硝酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の硝酸塩、
(d)熱可塑性エラストマー。
(2) 金属粉末(b)が、アルミニウム、マグネシウム、マグナリウム、ホウ素、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記(1)に記載の自動発火性エンハンサー剤組成物。
(3) 熱可塑性エラストマー(d)が、スチレン−ジエン系共重合体エラストマー、またはフッ素ゴムである前記(1)または(2)に記載のエンハンサー剤組成物。
(4) 熱可塑性エラストマー(d)を有機溶剤に溶解して添加される前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物。
(5) 更に、三酸化モリブデン(e)を含有する前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物。
(6) 前記エンハンサー剤組成物が、次の組成比である前記(1)に記載のエンハンサー剤組成物。
(a)5−アミノテトラゾール 3〜25質量%、
(b)ホウ素 5〜30質量%、
(c)硝酸カリウム 50〜85質量%、
(d)スチレン−ジエン系共重合体エラストマー 0.5〜7質量%。
(7) 前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物を成形してなるエンハンサー剤。
(8) 前記(7)に記載のエンハンサー剤を用いたガス発生器。
(9) 前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物の製造方法であって、(i)前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物を、熱可塑性エラストマー(d)が可溶性の有機溶剤により、スラリー状混合物を調製する工程、(ii)前記スラリー状混合物から有機溶剤を揮発させ半湿状混合物とした後に、造粒する工程、(iii)前記有機溶剤を除去して組成混合物の乾燥体を調製する工程、を含むエンハンサー剤組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエンハンサー剤組成物は、高い発熱量と金属熱粒子を生成し、これを5−アミノテトラゾールに由来する発生ガス圧力により、充填されたガス発生剤に効率的に伝播することができることから、ガス発生剤の着火性が良好なエンハンサー剤となる。このエンハンサー剤は、5−アミノテトラゾールの熱分解が抑制され耐熱安定性に優れている。尚且つ、エンハンサー剤の着火熱感度は鈍感化されず、高感度を維持している。したがって、本発明のエンハンサー剤を用いることにより、耐環境性に優れた信頼性の高いガス発生器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るディスク状ガス発生器の模式断面図である。
【図2】本発明に係る長尺円筒状ガス発生器の模式断面図である。
【図3】試験例4を実施する前の実施例1エンハンサー剤の外観図である。
【図4】試験例4を実施した後の実施例1エンハンサー剤の外観図である。
【図5】試験例4を実施した後の実施例2エンハンサー剤の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエンハンサー剤組成物は、5−アミノテトラゾール(a)、金属粉末(b)、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の硝酸塩(c)、熱可塑性エラストマー(d)を含有することを特徴とする。以下、本発明のエンハンサー剤組成物について詳しく説明する。
【0014】
本発明において、5−アミノテトラゾール(a)は燃料物質であり、且つガス発生源として機能する物質である。すなわちガス発生器において、点火装置による点火炎を契機として、5−アミノテトラゾールは共存する他のエンハンサー剤組成物との相互作用により燃焼してガスを生成する。燃焼の際に熱エネルギーを誘起し、高温ガスを生成することを担う物質である。5−アミノテトラゾールを含有させたエンハンサー剤は、生成ガス圧力により、発生熱エネルギーを充填されたガス発生剤全体に迅速に伝播することができるため、応答性に優れたガス発生器を提供できる。
5−アミノテトラゾールは価格も安価であって、室温において比較的安定で、取り扱いが容易であることから、ガス発生器用の含窒素有機化合物燃料として有用である。しかしながら100℃を超える温度環境において、5−アミノテトラゾールは徐々にガスの生成を伴い分解する物性である。このため5−アミノテトラゾールは、エンハンサー剤組成物において、熱的安定性を低下させる原因物質となる側面を有する。
本発明において、5−アミノテトラゾールの含有量は3〜25質量%が良く、さらに好ましくは5〜15質量%の範囲である。5−アミノテトラゾールの含有量が25質量%以上含有する場合は、エンハンサー剤組成物の発熱量低下、及び相対的に金属粉末成分の減少をもたらし、結果として伝火力不足を招く。また3質量%以下である場合には、生成ガス量が減少するため、やはり伝火力不足をもたらし好ましくない。
当該エンハンサー剤組成物として用いる5−アミノテトラゾールの好ましい粒径は、50%粒径において1〜30μmである。更に好ましくは、50%粒径で10〜20μmである。なお、本願における50%粒径とは、測定粒子数基準の50%粒径を意味し、例えばレーザー回折・散乱法等で測定できる。
【0015】
本発明において、金属粉末(b)はエンハンサー剤の燃焼に伴い、それ自体も燃焼し金属熱粒子となる。これがガス発生剤に付着して、ガス発生剤の燃焼を誘起させる機能を担うものである。したがって用いられる金属粉末は、燃焼に伴い金属熱粒子と成り得るものであれば特に限定はなく、金属単体の粉末のみならず合金の粉末なども採用することができる。金属粉末の具体例としては、アルミニウム、マグネシウム、マグナリウム、ホウ素、チタン、ジルコニウムが挙げられ、取り扱い危険性の低さや燃焼時の発生熱量から、特にホウ素が好ましい
金属粉末の含有量が多くなるほど発熱量は増加し、金属熱粒子も多くなる。その含有量は5〜30質量%が良く、さらに好ましくは16〜25質量%である。金属粉末の含有量が5質量%以下である場合には、発熱量の低下及び金属熱粒子の減少を招く。また30質量%以上である場合には、相対的に他の成分量が減少し燃焼性が低下し、伝火力の低下を招くため好ましくない。当該エンハンサー剤組成物として用いる金属粉末の好ましい粒径は、50%粒径において0.5〜20μmである。更に好ましくは、50%粒径で1〜15μmである。
【0016】
本発明において、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる硝酸塩(c)が用いられる。当該硝酸塩(c)は、5−アミノテトラゾール(a)及び金属粉末(b)を発熱的に酸化する酸化剤として機能する。これらの中において、特に硝酸カリウムは、吸湿性がないことや取り扱いが容易であることより好ましい。
当該硝酸塩(c)の含有量は50〜85質量%がよく、さらに好ましくは60〜80質量%である。当該硝酸塩(c)の含有量が50質量%以下だと、酸素供給量が不足して十分な発熱量が得られない。加えて不完全燃焼のために、一酸化炭素(CO)等の有害ガスの生成をもたらす。85質量%以上では、相対的に被酸化性の燃料成分が不足し発熱量が低下するため、伝火力不足となる。用いる当該硝酸塩(c)の好ましい粒径は、50%粒径で20〜100μmであり、より好ましくは40〜70μmである。
【0017】
本発明のエンハンサー剤組成物は、熱可塑性エラストマー(d)を含有することを特徴とする。当該熱可塑性エラストマー(d)は、本発明のエンハンサー剤の耐熱性向上作用をもたらす熱的安定化剤として機能するものである。特に、熱分解を受けやすい5−アミノテトラゾール(a)の分解抑制作用を示す。また当該熱可塑性エラストマーは、エンハンサー剤組成物に、良好な成形性を付与するバインダとしても機能するものである。
熱可塑性エラストマー(d)は化学的不活性で、エンハンサー剤組成物の反応開始温度以下での耐熱性を有し、有機溶剤可溶性の物性であることが重要である。具体例としては、スチレン−ブチレン共重合体エラストマー、スチレン−イソプレン共重合体エラストマー、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体エラストマー等のスチレン−ジエン系共重合体エラストマー、またはフッ化エチレン系共重合体エラストマー、フッ化プロピレン系共重合体エラストマー、フッ化エチレン−フッ化プロピレン共重合体エラストマー等のフッ素ゴムが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマー(d)は市販品として入手可能であり、例えばスチレン−ジエン系共重合体エラストマーとしてはKraton(商品名)シリーズ(販社、クレイトンポリマージャパン)、フッ素ゴムとしてはViton(商品名)シリーズ(販社、デュポンエラストマー)が好適に使用され得る。薬剤の成形性、熱安定性、溶媒への溶解度、さらには作製したエンハンサー剤組成物の耐振動性の観点から、特にスチレン−ジエン系共重合体エラストマーを使用することが好ましい。これらはKraton(商品名)シリーズとして市販品として入手可能であり、好適に用いられる。具体的には、KratonFG1901(商品名、スチレン−ブチレン−エチレン共重合体エラストマー、販社、クレイトンポリマージャパン)が、前記物性を付与し得る作用を有することから、特に望ましい。
これらの熱可塑性エラストマー(d)は、エンハンサー剤組成物中において、そのまま混合して使用しても良く、また、有機溶剤に溶解して添加し、エンハンサー剤組成物として適用しても良い。特に熱可塑性エラストマーを溶液として当該組成物に使用する方法は、熱安定化剤として機能する熱可塑性エラストマーを、当該組成物全体に均一に分布させることができるため、組成物としてバラツキのない耐熱性向上効果がもたらされる点で有利な方法である。
熱可塑性エラストマー(d)の含有量としては0.5〜7.0質量%が良く、さらに好ましくは1〜5質量%である。熱可塑性エラストマー含有量が0.5質量%以下の場合にはエンハンサー剤の耐熱性が十分ではなく、また、エンハンサー剤成形体の薬剤成形形状を保持する事ができないおそれがある。一方、7.0質量%以上の場合には、エンハンサー剤組成中の不活性物質の含量が多くなるため、相対的に他の成分含有量が低下し、発熱量が低下し、エンハンサー剤としての性能を十分に発揮できないおそれがある。
【0018】
本発明のエンハンサー剤組成物においては、更に、三酸化モリブデン(e)を添加する事で、エンハンサー剤に自己発火性機能を付与することができる。すなわちガス発生器の外部環境が火災等の高温に晒され、ガス発生器内が180〜200℃に到達した場合、当該エンハンサー剤が自己発火し、ガス発生器を自動的に作動させる機能を付与させることができるものである。
この自己発火性機能は、自動車部品の軽量化要望に応えるため、軽量素材の採用や容器薄肉化等によりガス発生器の容器重量の軽量化が進められていることに関連する技術である。ガス発生器は、車両火災やガス発生器の焼却処理時などの高温環境に晒された場合、ガス発生器容器の強度低下が懸念される。ガス発生器が火炎に晒されて、ガス発生器容器が高温により強度低下した状態で内部のガス発生剤が燃焼すると、容器がその燃焼圧力に耐え切れず、破裂する懸念がある。このためガス発生器の容器は、常温での作動だけでなく、高温で容器強度が低下した際に燃焼圧力に耐え得る構造としなければならない。しかし、単純に容器の肉厚化により強度を高めた場合には、容器重量が重くなってしまう。そこで、ガス発生器容器の強度低下が生じる温度よりも低い温度で自動発火する火薬を、ガス発生器に配置する方式が採用されている。
【0019】
一般に使用されている自動発火薬としては、約180℃で自己発火性を示すニトロセルロースを主成分として構成される無煙火薬が知られている。しかしながらニトロセルロースは、長期安定性に欠け、特に100℃以上の高温条件下で分解が進行しやすい物性である。更に、その劣化により自然発火する可能性があると共に、分解により生じる酸性ガスが、ガス発生剤及びガス発生器の劣化を誘起する懸念がある。一方、前述した特許文献1及び2において、自己発火性を付与させるために三酸化モリブデンの添加が記載されている。しかしながら、自己発火性機能を付与したエンハンサー剤は、低い反応開始温度に設定された組成となるため、自動車安全部品として必要となる耐環境試験に際して、安定性が低下してしまう傾向がある。しかしながら、本発明のエンハンサー剤組成物は、自己発火性機能の有無に関わらず、耐熱性向上効果を発揮し得るものであるとともに、自己発火作動温度及び作動感度に関し影響を与えない効果を有する。したがって当該エンハンサー剤組成物に三酸化モリブデンを添加した場合において、自己発火性機能が付与されると共に、その自己発火作動感度は低下するものではない。したがって、当該組成物において、更に三酸化モリブデンを添加することは、より好ましい実施形態である。
本発明において、自己発火性機能を付与したエンハンサー剤組成物を得るためには、三酸化モリブデンの含有量は0.2〜10質量%が良い。さらに好ましくは1〜7質量%である。三酸化モリブデンの含有量は自動発火性が発現する最低量以上で良い。0.2質量%以下である場合には自動発火性が発現せず、10質量%以上添加した場合は著しい発熱量の低下を招く。使用に適する三酸化モリブデンの粒径は、50%粒径において1〜40μmであり、更に好ましくは、50%粒径で5〜25μmである。
【0020】
本発明のエンハンサー剤組成物においては、必要に応じて各種添加剤を添加することができる。使用し得る添加剤としては固結防止剤、成形用助剤等が挙げられる。
固結防止剤としては窒化珪素、炭化珪素等が例示でき、成形用助剤としてはステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等が例示できる。また、ヒドロタルサイト、ピロウライト等のヒドロタルサイト型化合物や、酸性白土、タルク、シリカ、ゼオライト、等の無機バインダ、若しくはポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の合成高分子系有機バインダが挙げられる。これら添加剤の本発明のエンハンサー剤組成物に対する含有量は、5質量%以下で使用することが好ましい。
【0021】
次に、本発明のエンハンサー剤組成物における、各成分の好ましい組み合せについて説明する。金属粉末(b)としてはホウ素が最も好ましく、硝酸塩(c)としては硝酸カリウムが最も好ましい。熱可塑性エラストマー(d)としてはスチレン−ジエン系共重合体エラストマーが最適である。そして、各成分の好ましい組成比は、5−アミノテトラゾール;3〜25質量%、ホウ素;5〜30質量%、硝酸カリウム;50〜85質量%、スチレン−ジエン系共重合体エラストマー;0.5〜7.0質量%である。更に好ましくは、5−アミノテトラゾール;5〜15質量%、ホウ素;10〜25質量%、硝酸カリウム;60〜80質量%、スチレン−ジエン系共重合体エラストマー;1〜5質量%である。自己発火性機能を付与したエンハンサー剤組成物にする場合、ここに、三酸化モリブデン(e)を0.2〜10質量%を加えることが好ましい。特に好ましくは5−アミノテトラゾール;5〜15質量%、ホウ素;10〜25質量%、硝酸カリウム;60〜80質量%、スチレン−ジエン系共重合体エラストマー;1〜5質量%、三酸化モリブデン;1〜7質量%の組成を挙げることができる。
【0022】
次に、本発明のエンハンサー剤組成物において、耐熱性に優れた物性を発揮するために好適なエンハンサー剤組成物態様の製造方法について説明する。本発明のエンハンサー剤組成物は、上述したエンハンサー剤組成物の各成分を混合することで調製され、所望の形状に成形することでエンハンサー剤として調製される。本発明に係る耐熱性に優れる物性を得るためには、熱可塑性エラストマー(d)を、その他のエンハンサー剤組成物成分に均一に分布させることが重要である。特に、熱分解性を有する5−アミノテトラゾール(a)に対し、熱可塑性エラストマー(d)が均一に分布すること、より好ましくは5−アミノテトラゾール(a)表面に熱可塑性エラストマー(d)のコーティング層を形成することにより、耐熱性に優れたエンハンサー剤組成物が得られる。また、自己発火性機能が付与されたエンハンサー剤組成物とする場合は、追加で添加される三酸化モリブデン(e)にも熱可塑性エラストマー(d)を均一に分布させること、すなわち三酸化モリブデン(e)表面にも熱可塑性エラストマー(d)のコーティング層を形成させることにより、優れた耐熱性向上効果が発揮される自己発火性エンハンサー剤組成物を調製することができる。
前記熱可塑性エラストマー(d)を均一に分布させる具体的な製造方法としては、熱可塑性エラストマー(d)を有機溶剤に溶解し、その熱可塑性エラストマー溶液で、5−アミノテトラゾール(a)、金属粉末(b)、硝酸塩(c)、及び三酸化モリブデン(e)などの任意の成分を含むエンハンサー剤組成物のスラリー状混合物を調製する。または別法として、5−アミノテトラゾール(a)、金属粉末(b)、硝酸塩(c)、熱可塑性エラストマー(d)、及び三酸化モリブデン(e)などの任意の成分を含むエンハンサー剤組成物に、熱可塑性エラストマーが可溶性の有機溶剤を添加し、混合系内で熱可塑性エラストマー(d)が溶解し、均一様のスラリー混合物が調製されるよう攪拌混合する。このエンハンサー剤組成物のスラリー状混合物を調製することにより、熱可塑性エラストマー(d)を、その他のエンハンサー剤組成物成分(a)〜(c)に均一に分布させることができる。調製されたスラリー状混合物は、乾燥工程を経て有機溶剤を除去することにより、熱可塑性エラストマー(d)がその他のエンハンサー剤組成物成分(a)〜(c)に均一に分布した、エンハンサー剤組成物を調製することができる。乾燥工程は、前記スラリー状混合物をパレットに広げ、風晒し乾燥する方法、加熱乾燥する方法、減圧乾燥する方法、減圧下加熱し乾燥する方法、等が挙げられる。上述した工程を経たエンハンサー剤組成物を、所望の形状に成形することにより、本発明のエンハンサー剤が調製される。
【0023】
熱可塑性エラストマー(d)溶液として使用できる有機溶剤は、熱可塑性エラストマーの可溶性溶媒であり、且つ揮発性溶媒であれば特に限定されるものではなく、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル等のエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0024】
本発明のエンハンサー剤組成物を成形してエンハンサー剤とした場合、その形状は、粉状、顆粒状等、特に限定されるものではなく何れの形状でも良い。また混練した薬剤を注型品、若しくは押出成形品としてもよい。注型または押出成形にて得られる形状としては、例えば円筒状、単孔円筒状、多孔円筒状等が挙げられる。本発明のエンハンサー剤としては顆粒状成形体とすることが好ましい。この場合、粒径は0.01〜10mmの範囲であることが好ましい。より好ましくは粒径で0.02〜5mmの範囲の顆粒成形体とすることが望まれる。
【0025】
本発明のエンハンサー剤組成物を用いたエンハンサー剤の製造法について説明する。本発明のエンハンサー剤組成物は、造粒成形、プレス成形、押出成形の何れの成形方法を用いても、エンハンサー剤として実施可能である。なお、成形後に熱処理を任意に行うことで、エンハンサー剤を充分に乾燥させ、水分に起因する着火遅れの防止や耐環境性の向上の果たすことができる。
【0026】
顆粒成形体を調製する造粒成形方法としては、転動造粒法、破砕造粒法、攪拌造粒法、流動層造粒法、噴霧乾燥造粒法、溶融凝固造粒法、等が挙げられ、特にこれら成形方法に限定されるものではない。簡易的には、上記したエンハンサー剤組成物のスラリー状混合物から、有機溶剤を蒸散させて得られる半湿状の薬剤組成物を、メッシュに通すことで造粒し、乾燥させることで一定の粒径範囲を有する造粒体を調製することができる。
【0027】
プレス成形を行う場合、上記したエンハンサー剤組成物のスラリー状混合物から、有機溶剤を蒸散させて得られる半湿状の薬剤組成物を、メッシュに通すことで造粒し、乾燥させることで、一旦、顆粒成形体を得る。これを所定量計り取り、プレス成形機に投入し、プレス成形する。その後、必要により熱処理を行うことにより、プレス成形体を調製することができる。
【0028】
押出成形を行う場合、同様に上記したエンハンサー剤組成物のスラリー状混合物から、有機溶剤を蒸散させて得られるエンハンサー剤組成混合物を破砕し、これをスパイラルミキサに計り取り、外割りで8〜25質量%の水と水溶性バインダ2〜8重量%を加え、十分に混練し、粘性を有する湿薬にする。その後、真空混練押出成形機を用いて、所望の形状に押し出し成形し、適宜切断した後、熱処理を行う。このようにして押出し成形体を調製することができる。
【0029】
本発明のエンハンサー剤は、ガス発生器に装填して使用されるものであり、前記エンハンサー剤を用いたガス発生器も本発明の要旨とする。当該ガス発生器は、本発明のエンハンサー剤が装填されていれば特に制限はないが、自動車の安全装置として装備される、エアバッグ装置起動用のガス発生器が好ましい。エアバッグ用ガス発生器としては、例えば図1に示されるディスク状のエアバッグ用ガス発生器、若しくは図2に示される長尺円筒状のエアバッグ用ガス発生器を例示することができる。
【0030】
図1に示したディスク状のガス発生器1は、ガス放出孔6が複数個設置された金属製容器によるハウジング2により外殻が形成され、その内部に点火装置3、冷却フィルタ部材5が装備されている。その内部空間には、燃焼によりガスを発生するガス発生剤4が充填されている。前記点火装置3は、内筒体7にてその外周を覆われている。内筒体7の内部には、本発明に係るエンハンサー剤8が充填されている。このようにエアバッグ用ガス発生器1において、本発明のエンハンサー剤は点火装置3に近接して配置され、点火装置3の点火炎にて燃焼し、熱エネルギーを増幅してガス発生剤4の燃焼を促進するために使用される。図1に係る当該ガス発生器は、特に前方衝突保護用エアバッグ装置の一部として、運転席及び助手席前部に装備される。
【0031】
図2に示した長尺筒状のガス発生器11は、ガス放出孔16が複数個設置された金属製容器による長尺筒状ハウジング12により外殻が形成され、その内部に点火装置13、冷却フィルタ部材15が装備されている。その内部空間には燃焼によりガスを発生するガス発生剤14が充填されている。前記点火装置13は、内筒体17にてその外周を覆われている。内筒体17の内部には、点火装置13から発生される点火炎をガス発生剤14に伝達するために、本発明のエンハンサー剤18が充填されている。このようにエアバッグ用ガス発生器11において、本発明のエンハンサー剤は点火装置13に近接して配置され、点火装置13の点火炎にて燃焼し、熱エネルギーを増幅してガス発生剤14の燃焼を促進するために使用される。図2に係る形状のガス発生器は、通常、車両側突保護用、若しくは前席下肢部保護用のエアバッグ装置のガス発生器として用いられる。
【0032】
当該ガス発生器(1、11)は以下のように作動するものである。すなわち、衝突感知センサー(図示しない)から発信される電気信号を受け点火装置(3、13)が起動し、点火装置内の点火薬(図示しない)を着火し、点火装置の外殻を破断して火炎を発生させる。発生した火炎がエンハンサー剤(8、18)を着火させ、増幅された火炎が内筒体(7、17)を破断、若しくは内筒体に配された伝火孔より外部に流出し、ガス発生剤(4、14)を着火させる。ガス発生剤(4、14)は燃焼によりガスを生成し、冷却フィルタ部材(5、15)を経由しガス放出孔(6、16)より生成ガスが放出される。エアバッグは、放出される生成ガス圧力により迅速に展開し、搭乗者を衝突の衝撃から保護する。
【実施例】
【0033】
実施例1
5−アミノテトラゾール(50%粒径、15μm):11.2質量部、ホウ素微粉末(50%粒径、9μm):16.2質量部、三酸化モリブデン(50%粒径、17μm):3.0質量部をV型混合機により乾式混合した。ついで、KratonFG1901(商品名、スチレン−ブチレン−エチレン共重合体エラストマー、Kraton社製(クレイトンポリマージャパン社販売))の酢酸イソアミル溶液(濃度:10質量%)30質量部(スチレン−ブチレン共重合体エラストマー換算で3質量部含有)を加え、乳鉢でさらにスラリー状になるまで混合した。これに、硝酸カリウム(50%粒径、60μm):69.6質量部を加え、さらに均一になるまで混合した。その後、酢酸イソアミルを蒸発させ半湿状とした後、1mm目のメッシュを通し、顆粒状とした。これを110℃で5時間乾燥させ、実施例1のエンハンサー剤を得た。
【0034】
実施例2
5−アミノテトラゾール(50%粒径、15μm):11.2質量部、ホウ素微粉末(50%粒径、9μm):16.2質量部、三酸化モリブデン(50%粒径、17μm):3.0質量部をV型混合機により乾式混合した。ついで、VitonB(商品名、フッ素ゴム、デュポンエラストマー社製(デュポンエラストマー社販売))の酢酸イソアミル溶液(濃度:6質量%)50質量部(フッ素ゴム換算で3質量部含有)を加え、乳鉢でさらにスラリー状になるまで混合した。これに、硝酸カリウム(50%粒径、60μm):69.6質量部を加え、さらに均一になるまで混合した。その後、酢酸イソアミルを蒸発させ半湿状とした後、1mm目のメッシュを通し、顆粒状とした。これを110℃で5時間乾燥させ、実施例2のエンハンサー剤を得た。
【0035】
比較例1
特許文献1(特開2001−80986)の実施例2として開示されたエンハンサー剤組成物を比較例1として以下の手順で調製した。
5−アミノテトラゾール(50%粒径、15μm):11.2質量部、ホウ素微粉末(50%粒径、9μm):16.2質量部、三酸化モリブデン(50%粒径、17μm):3.0質量部をV型混合機により乾式混合した。ついで、ニトロセルロースの酢酸イソアミル溶液(濃度:2質量%)50質量部(ニトロセルロース換算で1質量部)を加え、乳鉢でさらにスラリー状になるまで混合した。これに、硝酸カリウム(50%粒径、60μm):69.6質量部を加え、さらに均一になるまで混合した。その後、酢酸イソアミルを蒸発させ半湿状とした後、1mm目のメッシュを通し、顆粒状とした。これを110℃で5時間乾燥させ、比較例1のエンハンサー剤組成物を得た。
【0036】
比較例2
5−アミノテトラゾール(50%粒径、15μm):11.2質量部、ホウ素微粉末(50%粒径、9μm):16.2質量部、三酸化モリブデン(50%粒径、17μm):3.0質量部をV型混合機により乾式混合した。ついで、酢酸イソアミル50質量部を加え、乳鉢でさらにスラリー状になるまで混合した。これに、硝酸カリウム(50%粒径、60μm):69.6質量部を加え、さらに均一になるまで混合した。その後、酢酸イソアミルを蒸発させ半湿状とした後、1mm目のメッシュを通し、顆粒状とした。これを110℃で5時間乾燥させ、比較例2のエンハンサー剤を得た。
【0037】
試験例1;発熱量試験
実施例1、2、及び比較例1、2のエンハンサー剤の発熱量の測定を、ボンブカロリーメーターにより行った。SUS製の密閉容器中に供試試料のエンハンサー剤を1.0g計量し、ニクロム線を接触させた状態で蓋を閉じた。これを断熱容器中に水が満たされている中に投入し、ニクロム線を通電させて中のエンハンサー剤を完全燃焼させた。上昇した水の温度と比熱から発熱量を計算した。結果を表1に示した。
【0038】
試験例2;耐熱性試験
実施例1、2、及び比較例1、2のエンハンサー剤の耐熱性評価を以下の方法により確認した。アルミ製の容器内に、供試試料のエンハンサー剤を3gを密封し、120℃に保った恒温層中にて100時間放置した。試験前後の質量変化から、供試試料のエンハンサー剤の分解の有無を評価し、耐熱性を確認した。結果を表1に示した。
【0039】
試験例3;自動発火性試験
実施例1、2、及び比較例1、2のエンハンサー剤の自動発火性を調べるため、以下の発火待ち試験を行った。クルップ発火点試験機のるつぼ内温度を200℃に保った。るつぼ内に供試試料のエンハンサー剤0.2gを投入した。投入後、発火もしくは発音するまでの時間を計測した。結果を表1に示した。
【0040】
表1
試験例1 試験例2 試験例3
供試試料 発熱量 120℃×100時間に 200℃における
(J/g) おける質量減少(%) 発火時間(秒)
実施例1 6300 1.13 3.2
実施例2 6600 0.91 3.9
比較例1 6800 3.30 3.2
比較例2 6500 7.02 4.1
【0041】
試験例1〜3の結果より、本願に係るエンハンサー剤はエンハンサー剤として十分な発熱量を有しつつ、耐熱性に優れることが明らかとなった。すなわち、試験例2における120℃×100時間の過酷条件での耐熱性試験において、質量減少が僅かであり熱分解が抑制されていた。すなわち本発明のエンハンサー剤組成物は、5−アミノテトラゾールの熱分解を抑制する作用を有すると考えられる。この作用は、熱可塑性エラストマー(d)をエンハンサー剤に均一に分布させることにより達せられる効果であり、おそらくは5−アミノテトラゾールを含むエンハンサー剤各成分表面に、熱可塑性エラストマー層が形成され、熱分解を抑制する機能を示しているものと考えられる。
一方、試験例3において、三酸化モリブデンを添加することによる自動発火性機能について検討したところ、本発明のエンハンサー剤は自動発火性機能を維持していると共に、自動発火感度を低下させない結果を示した。一般的に耐熱性が向上するということは、対熱感度の低下を意味し、結果として発火温度の感度低下をもたらすものと予想される。しかしながら、本発明に係るエンハンサー剤は、耐熱性向上効果と、発火温度の感度の維持を両立する効果を有しており、自動発火性エンハンサー剤組成物として顕著に優れた効果を有するといえる。
【0042】
試験例4:耐振動性試験
本発明のエンハンサー剤の耐振動性評価を、図1に示すディスク形状のエアバッグ展開用ガス発生器を用いて確認した。実施例1、2のエンハンサー剤を、図1に示すガス発生器内にある内筒体(7)に2.0g充填し、ガス発生器を作製した。作製したガス発生器に対し、初めにスイープ振動試験を実施した。スイープ振動試験は、ガス発生器の三次元方向それぞれについて、振動数が520秒で5〜100Hzまで変調(スイープ)する正弦波振動を振動加速度が29.4m2/sで、−30℃、23℃、80℃の各温度域で合計40時間振動を与えた。次いで衝撃振動試験を実施した。スイープ振動試験後のガス発生器に対し、供試ガス発生器の三次元方向の各方向について、振動数が20Hz、振動加速度が78.4m2/sで、−30℃、23℃、80℃の各温度域で合計27分間加振した。スイープ振動試験及び衝撃振動試験を経たガス発生器の内部から、供試エンハンサー剤を取り出し、エンハンサー剤の外観を確認した。耐振動性試験の結果を表2に示した。更に、実施例1のエンハンサー剤の耐振動性試験の供試前の外観形状を図3に、実施例1の耐振動性試験後の外観形状を図4に、実施例2の耐振動性試験後の外観形状を図5に示した。
【0043】
表2 耐振動性試験結果
供試試料 試験前形状外観 試験後形状外観
実施例1 顆粒状(粒径45〜710μm) 顆粒状(粒径45〜710μm、図4)
実施例2 顆粒状(粒径45〜710μm) 粉体状(図5)
【0044】
試験例4の結果より、実施例1のエンハンサー剤は、耐振動性試験を経過しても顆粒成形体形状を保持する物性であった。一方、実施例2のエンハンサー剤は、耐振動性試験により顆粒成形体が粉砕され、粉体化する結果となった。すなわち本発明に係るエンハンサー剤組成物における熱可塑性エラストマーについて、特にスチレン−ジエン系共重合体エラストマーが耐振動性について顕著に優れた効果を示した。当該スチレン−ジエン系共重合体エラストマーは、本発明のエンハンサー剤組成物において耐熱性向上作用をもたらすのみならず、成形体形状維持のためのバインダ機能に優れるものであり、特に好ましい構成成分であることが示された。したがって振動環境下での設置を考慮する必要がある、自動車に搭載するエアバック用ガス発生器に使用するエンハンサー剤として、特に好ましい態様であることがわかる。
【符号の説明】
【0045】
1、11 ガス発生器、
2、12 ハウジング、
3、13 点火装置
4、14 ガス発生剤
5、15 冷却フィルタ部材
6、16 ガス放出孔
7、17 内筒体
8、18 エンハンサー剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の各成分を含むことを特徴とするエンハンサー剤組成物。
(a)5−アミノテトラゾール
(b)金属粉末
(c)硝酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の硝酸塩
(d)熱可塑性エラストマー
【請求項2】
前記金属粉末(b)が、アルミニウム、マグネシウム、マグナリウム、ホウ素、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のエンハンサー剤組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー(d)が、スチレン−ジエン系共重合体エラストマー、またはフッ素ゴムである請求項1または2に記載のエンハンサー剤組成物。
【請求項4】
熱可塑性エラストマー(d)を有機溶剤に溶解して添加される請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物。
【請求項5】
更に、三酸化モリブデン(e)を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物。
【請求項6】
前記エンハンサー剤組成物が、次の組成比である請求項1に記載のエンハンサー剤組成物。
(a)5−アミノテトラゾール 3〜25質量%
(b)ホウ素 5〜30質量%
(c)硝酸カリウム 50〜85質量%
(d)スチレン−ジエン系共重合体エラストマー 0.5〜7質量%
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物を成形してなるエンハンサー剤。
【請求項8】
請求項7に記載のエンハンサー剤を用いたガス発生器。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物の製造方法であって、(i)前記請求項1〜6のいずれか一項に記載のエンハンサー剤組成物を、熱可塑性エラストマー(d)が可溶性の有機溶剤により、スラリー状混合物を調製する工程、(ii)前記スラリー状混合物から有機溶剤を揮発させ半湿状混合物とした後に、造粒する工程、(iii)前記有機溶剤を除去して組成物の乾燥体を調製する工程、を含むエンハンサー剤組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−106882(P2012−106882A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256432(P2010−256432)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】