説明

オキシ水酸化鉄複合体の製造方法及びオキシ水酸化鉄複合体吸着材

【課題】 工場廃水、排ガス中等のリン成分、環境ホルモン等の有害物質に対して優れた吸着能を有するオキシ水酸化鉄複合体を有利に製造する方法、及びその方法により得られた吸着材を提供すること。
【解決手段】 (a)鉄イオン含有溶液に塩基を加え、pH6以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、
(b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、
(c)得られたオキシ水酸化鉄を水溶性樹脂溶液と混合する工程、更に必要に応じて
(d)得られた混合体を発泡させる工程、及び
(e)得られた混合体を100℃以下の温度で乾燥する工程、
を有することを特徴とするオキシ水酸化鉄複合体の製造方法、並びにその方法により得られた吸着材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシ水酸化鉄複合体の製造方法及びオキシ水酸化鉄複合体吸着材に関する。さらに詳しくは、本発明は、工場廃水、排ガス中等のリン成分等の有害物質に対して優れた吸着能を有するオキシ水酸化鉄複合体を有利に製造する方法、及びその方法により得られた吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の発展に伴って、多種多様な化学物質が製造、使用されている。このような化学物質は、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものも数多く存在している。例えば、水処理の場合、有機もしくは無機のリン、フッ素、ヒ素、モリブデン、クロム、アンチモン、セレン、ホウ素、テルル、ベリリウム、シアン等が有害物質として知られている。また、気体処理の場合、排ガス中の硫化水素、メルカプタン、青酸、フッ化水素、塩化水素、SOx、NOx、その他、リン、ヒ素、アンチモン、硫黄、セレン、テルル化合物、シアノ化合物等が有害物質として知られている。
上記有害物質は、飲料水、水道水、ミネラルウォーター、治療用水、農業用水、工業廃水、及び空気中、排ガス中等に溶解、懸濁、乳化もしくは浮遊した状態で含まれている場合があり、これらの有害物質を分離、除去することが試みられている。
【0003】
従来、工業廃水等から有害な化学物質を吸着するための鉄系吸着材について、種々の提案がなされている。例えば、粒度50μm以下の含水酸化鉄を200〜500℃で加熱し、含水酸化鉄中の結晶水を蒸発させ、細孔を0.1〜50nm、比表面積15〜200m2 /gの含水酸化鉄(特許文献1参照)が提案されている。
しかしながら、特許文献1では、200〜500℃で加熱処理しているため、エネルギー消費が大きく、工業的に不利である。しかも、リン成分等の有害物質の吸着に必要な鉄系吸着材の吸着サイト(水素結合サイト)が、高温加熱処理により減少しているため、吸着力が十分でないという問題点があった。
【0004】
また、鉄イオン溶液にアルカリを加えてpHを3に調整し、低温で乾燥することによって得られた、非晶質の水酸化鉄系の沈殿生成物からなる陰イオン吸着材(特許文献2参照)が知られている。
しかしながら、pH3では1×10-3mol/dm-3の3価の鉄イオンが残存し、水酸化鉄が安定に沈殿できない。しかも、特許文献2の方法では、本発明方法における(c)工程の水処理及び乾燥処理を行っていないため、得られる吸着材は、比表面積が小さく吸着力も十分でないという問題点があった。
また、BET比表面積50〜500m2/gの微粒子状オキシ水酸化鉄の凝集物の製造方法(特許文献3参照)も提案されている。
しかしながら、特許文献3のオキシ水酸化鉄は、粒子系がナノサイズで小さいため、反応性は優れているが、粒子の飛散や摩擦による発火等の恐れがあり、取り扱いに不便であり、さらに吸着物質の回収も困難であるという問題点があった。
一方、ポリウレタンフォーム等の立体的網目構造内にリン吸着力をもつ鹿沼土等の物質を天然高分子ゲルによって固定化したリン酸イオン吸着材(特許文献4参照)も提案されている。
しかしながら、特許文献4の吸着材は、吸着材自体が多孔性物質ではないためリン吸着力が長期間持続せず、またゲル状物質を含むため取り扱い性が悪いという欠点があった。
このため、有害物質の吸着能が十分であり、かつ取り扱いの容易な吸着材の開発が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−154234号公報
【特許文献2】特開2003−334542号公報
【特許文献3】特開2004−509752号公報
【特許文献4】特開平7−39754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み、工場廃水、排ガス中等のリン成分、環境ホルモン等の有害物質に対して優れた吸着能を有するオキシ水酸化鉄複合体を有利に製造する方法、及びその方法により得られた吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、低温乾燥して得られたオキシ水酸化鉄と水溶性樹脂とを組み合わせることにより、又は更にそれを発泡させることにより、上記目的を達成しうることを見出した。発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)(a)鉄イオン含有溶液に塩基を加え、pH6以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、
(b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、
(c)得られたオキシ水酸化鉄を水溶性樹脂溶液と混合する工程、更に必要に応じて、
(d)得られた混合体を発泡させる工程、及び
(e)得られた混合体を100℃以下の温度で乾燥する工程、
を有することを特徴とするオキシ水酸化鉄複合体の製造方法、並びに
(2)前記(1)の方法により得られたオキシ水酸化鉄複合体を主成分とするオキシ水酸化鉄複合体吸着材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、リン成分、環境ホルモン等の有害物質に対して優れた吸着能を有するオキシ水酸化鉄複合体を効率的に製造することができる。
本発明方法により得られたオキシ水酸化鉄は、非表面積が大きく、かつ陰イオンの吸着サイト(水素結合サイト)を多量に含有しているため、リン酸イオン等の陰イオン種に対して優れた吸着力を発揮する。
また、本発明の吸着材は、水溶性樹脂の被覆量を調整することにより、有害物質の捕捉や取り扱いに適した粒子径等に容易に制御することができ、浄水、排水中等で使用する場合は迅速に含水し、優れた吸着力を発揮する。
本発明の吸着材は、再使用が容易であるため実用性が高く、吸着した陰イオン種を溶離させることにより、陰イオン種に含まれる元素を効率的に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のオキシ水酸化鉄の製造方法は、(a)鉄イオン含有溶液に塩基を加え、pH6以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、
(b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、更に必要に応じて、
(d)得られた混合体を発泡させる工程、及び
(e)得られた混合体を100℃以下の温度で乾燥する工程、を順次行うが、中でも(c)〜(e)工程が大きな特徴である。
【0010】
本発明方法の(a)工程において、原料溶液である鉄イオン含有溶液としては、3価又は2価の鉄イオン含有溶液が挙げられる。3価の鉄イオン含有溶液としては、塩化第二鉄〔FeCl3〕、硫酸第二鉄〔Fe2(SO43〕、硝酸第二鉄〔Fe(NO33〕等の第二鉄化合物を含有する溶液が挙げられる。2価の鉄イオン含有溶液としては、塩化第一鉄〔FeCl2〕、硫酸第一鉄〔FeSO4〕、硝酸第一鉄〔Fe(NO32〕等の第一鉄化合物を含有する溶液が挙げられる。これらの中では、反応性等の観点から、3価の鉄イオン含有溶液が好ましく、特に塩化第二鉄〔FeCl3〕の水溶液が好ましい。
【0011】
塩基は、鉄イオン含有溶液を中和し、pHを6以下に調整して、オキシ水酸化鉄を含む沈殿生成物を生成させるために使用する。塩基としては、NaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、MgO、MgCO3等を使用することができる。これらの中では、特に水酸化ナトリウム(NaOH)が好ましい。
【0012】
用いる鉄イオン含有溶液及び塩基の濃度に特に制限はない。塩基の反応制御の容易さの観点から、鉄イオン含有溶液の濃度は0.01〜5mol/Lが好ましく、0.05〜3mol/Lが更に好ましい。また、塩基の濃度は0.1〜10モル/Lが好ましく、1〜5モル/Lが更に好ましい。
pH7付近で塩化第一鉄等が沈殿するため、pHは6以下に調整する必要がある。しかし、例えばpH3では、オキシ水酸化鉄の結晶生成の初期段階なので、1×10-3mol/dm-3の3価の鉄イオンが残存し、安定状態で沈殿物を生成することが困難になる場合がある。従って、適切な水素結合サイトを有するオキシ水酸化鉄を高純度で安定に生成させる観点から、pHは好ましくは3.5〜5.5、更に好ましくは3.7〜5.3とする。
【0013】
(a)工程で得られた沈殿物は吸引濾過等により濾別し、(b)工程に供する。
(b)工程においては、その沈殿物を100℃以下の温度で乾燥する。温度が100℃を超えると乾燥は速いが、陰イオンの吸着サイト(水素結合サイト)を適切に残すよう制御することが困難となる。また、温度が低すぎると乾燥に時間がかかりすぎ、実用的でない場合がある。このため、乾燥温度は、好ましくは20〜80℃、更に好ましくは30〜70℃、特に好ましくは40〜60℃である。乾燥は、空気中、真空中、不活性ガス中のいずれでもよいが、不純物となるガス除去の観点から、真空条件下で行うことが好ましい。乾燥時間は特に制限はなく、通常2時間〜2日間、好ましくは5時間〜24時間である。
本発明の(b)工程においては、高温度での乾燥処理がないので、オキシ水酸化鉄の粒子間焼結が起こらない。このため、(b)工程により得られたオキシ水酸化鉄は、30〜300m2/g、特に40〜200m2/gのBET比表面積を有する。
【0014】
また、(b)工程により得られたオキシ水酸化鉄のフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)によるスペクトルは、O−H伸縮を示す3420cm-1に大きなピークがあり、弱い水素結合のOH基を大量に含有していることが特徴である。FTIRスペクトルにおけるこの3420cm-1のピークのOH-が、水素結合サイトとして、リン酸イオン等の陰イオン及び環境ホルモンの吸着において大きな役割を果す。
オキシ水酸化鉄1kg当りの水酸基含有量は、3mol−OH/kg以上、好ましくは5〜20mol−OH/kg、更に好ましくは7〜30mol−OH/kgである。
なお、オキシ水酸化鉄の水酸基含有量は、FTIR(拡散反射法)を用いて、FeOOHの O−Hの伸縮状態を測定し、Russel et al., Nature 1974, 248, 220-221からFeOOHのピークを3420cm-1として、Miura et al., Am. Chem. Soc., Fuel Chem., 1999, 44 (3), 642-646に基づいて算出し、決定することができる。
【0015】
(b)工程により得られたオキシ水酸化鉄は針状結晶であり、幅が10〜500nm、好ましくは50〜200nmであり、長さ/幅の比(L/D)は、通常5/1〜50/1、好ましくは5/1〜20/1である。
オキシ水酸化鉄は針状結晶であるが、凝集して凝集体粒子となっている。オキシ水酸化鉄の凝集体粒子としての平均粒子径は100〜300μm、好ましくは150〜250μmである。
ここで、平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば、株式会社堀場製作所、LA−920)を用いて、レーザー回折/散乱法で測定された体積基準粒度分布から算出されるメジアン径を意味する。
【0016】
本発明方法においては、(a)及び(b)の各工程の条件を適宜調整することにより、オキシ水酸化鉄のBET比表面積、水酸基含有量、微粒子凝集体の平均粒子径等の異なるオキシ水酸化鉄を製造することができる。
【0017】
本発明の(c)工程においては、得られたオキシ水酸化鉄を水溶性樹脂溶液と混合して、オキシ水酸化鉄混合体とする。
水溶性樹脂としては、水溶性で水分乾燥時に固化する樹脂であれば、特に制限はない。用いることのできる水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、生分解性樹脂、セルロース誘導体等を挙げることができる。
生分解性樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステルを挙げることができる。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート(1,4−ブタンジオールとコハク酸の共重合体、昭和高分子社製、商品名「ビオノーレ#1001」等)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(1,4−ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸の共重合体、BASF社製、商品名「エコフレックス」等)、ポリブチレンサクシネートアジペート(1,4−ブタンジオールとコハク酸とアジピン酸の共重合体、昭和高分子社製、商品名「ビオノーレ#3001」)、ポリカプロラクトン(ε−カプロラクトンの開環重合体、ダイセル化学工業社製、商品名「セルグリーンPH7」)、ジオールとジカルボン酸の縮合物等が挙げられる。
ポリ乳酸は、乳酸又はラクチドの重縮合物である。ポリ乳酸にはD体、L体、DL体の光学異性体があるが、それらの単独物又は混合物を含む。
セルロース誘導体としてはアセチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)等が挙げられる。
上記の水溶性樹脂は、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。
【0018】
これらの中では、重合度が50〜5,000、好ましくは100〜2,000、更に好ましくは200〜1,000のポリビニルアルコール、重量平均分子量(Mw)が500〜250,000、好ましくは1,000〜100,000、更に好ましくは2,000〜20,000のポリ乳酸が好ましい。
【0019】
水溶性樹脂は、水及び/又は有機溶媒に溶解して溶液として使用することが好ましい。有機溶媒としては特に制限はないが、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒等の極性有機溶媒が好ましい。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、環状エーテル等が挙げられる。これらの中では、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒が特に好ましい。また、場合により、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン等)やポリオールも使用することができる。
水及び/又は有機溶媒は、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0020】
オキシ水酸化鉄と水溶性樹脂の混合においては、有害物質の捕捉や取り扱いに適した平均粒子径になるように、混合量(水溶性樹脂の被覆量)を調整することができる。オキシ水酸化鉄複合体中のオキシ水酸化鉄含有量は、通常1〜20重量%、好ましくは5〜10重量%である。また、オキシ水酸化鉄複合体の平均粒子径は0.2〜100mm、好ましくは0.5〜80mm、更に好ましくは1〜50mmである。
【0021】
次に、必要に応じて、(d)工程において、得られた混合体を発泡させる。
発泡法としては特に制限はなく、化学発泡法や物理的発泡法を採用することができる。化学発泡法は、低分子量の化学発泡剤を混合し、発泡剤の分解温度以上に加熱することにより発泡成形する方法であり、物理的発泡法は、ブタン等の低沸点有機化合物を供給して混練した後、低圧域に押出すことにより発泡成形する方法である。
本発明において、好ましい発泡法は、混合体の存在する系内に二酸化炭素を導入して、含浸させ、発砲させる方法である。含浸条件は、水溶性樹脂の種類によるが、二酸化炭素が含浸できる条件であればよく、特に制限はない。また、混合体に二酸化炭素を含浸させる方法についても特に制限はなく、例えば、耐圧容器内に混合体を導入又は設置し、二酸化炭素を導入してバッチ式に処理する方法や、混合体を二酸化炭素の処理帯域に導入して連続的に処理する方法などを採用できる。
【0022】
混合体に二酸化炭素を含浸し、二酸化炭素を混合体内で飽和状態に至らしめた後、発泡させることが好ましい。発泡法としては特に制限はなく、減圧発泡法、昇温発泡法のいずれも採用することができる。
減圧発泡法による場合は、二酸化炭素の含浸、発泡を効率的に行う観点から、二酸化炭素の含浸時は、温度15〜250℃、好ましくは25〜200℃、圧力1〜50MPa、好ましくは2〜30MPa、接触時間5分間〜30時間、好ましくは10分間〜20時間で行う。二酸化炭素の含浸を特に効率的に行う観点からは、二酸化炭素を亜臨界状態又は超臨界状態とすることが好ましい。亜臨界状態とは、二酸化炭素の臨界温度(31℃)未満(例えば、27〜31℃)でかつ臨界圧力(7.38MPa)以上の状態、又は二酸化炭素の臨界温度(31℃)以上でかつ臨界圧力(7.38MPa)以下の状態をいい、超臨界状態とは、二酸化炭素の臨界温度(31℃)以上でかつ臨界圧力以上の状態をいう。
減圧発泡においては、減圧速度は好ましくは0.1〜10MPa/時間、さらに好ましくは2〜10MPa/時間である。超臨界二酸化炭素を用いる場合、圧力を下げると水溶性樹脂に対する二酸化炭素の溶解度が急激に低下するので、減圧操作のみで、混合体から二酸化炭素を除去することができる。
【0023】
昇温発泡法による場合の温度、圧力及び接触時間は、対象となる水溶性樹脂の物性、オキシ水酸化鉄の特性等によるが、二酸化炭素の含浸、発泡を効率的に行う観点から、二酸化炭素の含浸時は、温度−10〜60℃、好ましくは15〜50℃、圧力1〜40MPa、好ましくは2〜30MPa、接触時間5分間〜30時間、好ましくは10分間〜30時間であり、特に二酸化炭素を亜臨界状態又は超臨界状態とすることが好ましい。
また、昇温発泡法における発泡時の温度は、混合体が発泡する温度であればよく、特に制限はない。通常は、二酸化炭素含浸時の温度よりも20〜150℃、好ましくは30〜100℃高くする。
【0024】
本発明方法の(e)工程においては、(c)工程又は(d)工程で得られたオキシ水酸化鉄複合体を100℃以下の温度で乾燥する。
温度が100℃を超えると乾燥は速いが、水素結合サイト(陰イオン吸着サイト)を適切に残すよう制御することが困難となる。また、温度が低すぎると乾燥に時間がかかりすぎ、実用的でない場合がある。このため、乾燥温度は、好ましくは20〜80℃、更に好ましくは30〜70℃、特に好ましくは40〜60℃である。乾燥は、空気中、真空中、不活性ガス中のいずれでもよいが、真空条件下で行うことが好ましい。乾燥時間は特に制限はなく、通常2時間〜2日間、好ましくは5時間〜24時間である。
100℃以下の温度で、好ましくは減圧条件下又は真空条件下で加熱処理を行うことにより、得られた多孔質のオキシ水酸化鉄複合体の表面の細孔を更に拡大することができる。
【0025】
本発明のオキシ水酸化鉄複合体を用いて、水中のリン成分、環境ホルモン等の有害物質を除去する場合、これを充填塔(槽)に充填し、通水する方法で行うことができる。この場合、オキシ水酸化鉄複合体粒子の平均粒子径、BET比表面積等は、吸着除去しようとする有害物質の捕捉に適した値のものを使用する。一般的には、取り扱い性、吸着性、吸着物質の回収性の観点から、平均粒子径が0.2〜100mm、好ましくは0.5〜50mm、更に好ましくは1〜30mmで多孔質のオキシ水酸化鉄複合体が適当である。
オキシ水酸化鉄複合体の平均粒子径を上記の範囲とするために、公知の方法で適宜粉砕処理を行うことができる。
【0026】
本発明方法で得られたオキシ水酸化鉄複合体は、非表面積が大きく、かつ陰イオンの吸着サイト(水素結合サイト)を多量に含有しているため、リン酸イオン等の陰イオン種に対して優れた吸着力を発揮する。
また、本発明の吸着材は、水溶性樹脂の被覆量を調整することにより、有害物質の捕捉や取り扱いに適した粒子径等に容易に制御することができ、浄水、排水中等で使用する場合に迅速に含水し、優れた吸着能を発揮する。
本発明の吸着材は、再使用が容易であるため実用性が高く、吸着した陰イオン種を溶離させることにより、陰イオン種に含まれる元素を効率的に回収することができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
(オキシ水酸化鉄複合体の製造)
実施例1
塩化第二鉄(FeCl3・6H2O)を0.1mol/Lとなるように水に溶解し、室温で撹拌しながら、濃度2モル/LのNaOH溶液を添加して溶液全体のpHを4に調整した。溶液中に生じた沈殿生成物を24時間静置し、吸引濾過して、沈殿物を得た。この沈殿物を50℃で48時間、定温乾燥器中で乾燥してFeOOHを得た。
得られたFeOOHのBET比表面積は50.6m2/g、水酸基含有量は12.78mol−OH/kg−FeOOH、凝集体粒子としての平均粒子径は、200μmであった。
上記で得られたこの沈殿物100g、ポリビリビニルアルコール(和光純薬工業株式会社、重合度:約500)10gに純水を加え、固形分濃度で7重量%になるように調製し、混合、撹拌して混合物を得た。この混合物を60℃で24時間、真空乾燥器中で乾燥してオキシ水酸化鉄複合体を得た。
得られたオキシ水酸化鉄複合体中のオキシ水酸化鉄含有量は93重量%、平均粒子径は28mmであった。
なお、測定条件は次のとおりである。
(1)BET比表面積
日本ベル株式会社製、BET比表面積測定装置、型式BELSORP-miniを用いて測定した。
(2)水酸基含有量
日本電子株式会社製、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、型式SPX60(拡散反射法)を用いて、FeOOHの水素結合サイトとして、 O−Hの伸縮状態を測定した。Russel et al., Nature 1974, 248, 220-221からFeOOHのピークを3420cm-1として、水酸基含有量をMiura et al., Am. Chem. Soc., Fuel Chem., 1999, 44 (3), 642-646に基づいて算出し、決定した。
(3)平均粒子径
株式会社堀場製作所製、レーザー回折/散乱式粒度分布計、型式LA-920を用いて測定された体積基準粒度分布からメジアン径を算出した。
【0028】
実施例2
実施例1で得た沈殿物を100g、ポリ乳酸(三井化学株式会社)10gにアセトンを加え、固形分濃度で5重量%になるように調製し、混合、撹拌して混合物を得た。この混合物を50℃で48時間、真空乾燥器中で乾燥してオキシ水酸化鉄複合体を得た。
得られたオキシ水酸化鉄複合体130gを内容積0.5Lのオートクレーブに入れ、80℃、5MPa(亜臨界状態)下で、5時間、二酸化炭素を含浸させた。その後、約1時間かけてゆっくり減圧(減圧速度:2MPa/時間)し、多孔質のオキシ水酸化鉄複合体を得た。さらにゲージ圧0.1MPaの真空状態、60℃で24時間乾燥処理し、多孔質オキシ水酸化鉄複合体の表面の細孔を拡大した。得られたオキシ水酸化鉄複合体は、吸水性に優れ、リン酸イオン等の吸着能が非常に高いものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)鉄イオン含有溶液に塩基を加え、pH6以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、
(b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、
(c)得られたオキシ水酸化鉄を水溶性樹脂溶液と混合する工程、及び
(e)得られた混合体を100℃以下の温度で乾燥する工程、
を有することを特徴とするオキシ水酸化鉄複合体の製造方法。
【請求項2】
(c)工程の後に、更に(d)得られた混合体を発泡させる工程を有する請求項1に記載のオキシ水酸化鉄複合体の製造方法。
【請求項3】
亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素の存在下で、水溶性樹脂を発泡させる請求項1又は2に記載のオキシ水酸化鉄複合体の製造方法。
【請求項4】
乾燥を40〜60℃の温度で行う請求項1〜3のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄複合体の製造方法。
【請求項5】
水溶性樹脂がポリビニルアルコール及び/又は生分解性樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄複合体の製造方法。
【請求項6】
生分解性樹脂がポリ乳酸である請求項5に記載のオキシ水酸化鉄複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により得られたオキシ水酸化鉄複合体を主成分とするオキシ水酸化鉄複合体吸着材。


【公開番号】特開2006−122831(P2006−122831A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315712(P2004−315712)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(599100198)財団法人 滋賀県産業支援プラザ (12)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】